斜角横波入射可能なアレイ探触子の入射波特性について
武蔵工業大学 正会員 白旗弘実
1. はじめに
鋼道路橋溶接部の品質管理に,超音波探傷試験が適 用されてきている.超音波探傷試験の中でも特に最近 は,アレイ探触子の適用性に関する検討が多くなって
いる1),2),3).アレイ探触子は,十分小さな圧電素子を
密に配列したもので,各圧電素子要素に時間差をつけ て励振することで入射波に角度をつけたり,集束させ たりすることが可能である.
これまでのアレイ探触子においては,縦波(P波)入 射の検討が多いように思われる1),2),3).アレイ探触子 に限らず,縦波斜角入射においては,スネルの法則よ り,縦波だけでなく,横波(SV波)も入射される.入射 波が溶接きずやビードなどで,モード変換したり,同 時に入射された横波の影響で,反射波形の解釈が難し くなってしまうことがある.そこで,横波斜角入射可 能なアレイ探触子を作成した.本報告は,入射波の特 性を調べたものである.
2. 試作アレイ探触子
作成したアレイ探触子の詳細を図-1に示す.アレイ 探触子は16素子であり,直線状に並んでいる.中心 周波数は5MHzである.アレイ探触子においては,ア レイ素子のサイズおよび間隔が重要である.5MHzの 超音波は鋼中において,横波では波長が0.65mmであ るので,素子の寸法はその半分の0.3mm,素子間隔は 0.4mmとした.素子の幅は7mmとした.
ここで検討したアレイ寸法で横波入射条件を適用し た場合,どのような波が入射されるか,シミュレーショ ンによる検証を行った.結果を図-2に示す.入射屈折 角は40度としているが,入射SV波はなめらかな波面 で進行していくことが確認された.
3. 探傷システム
アレイ探傷システム2)を図-3に示す.探傷システム は,パーソナルコンピュータ,探傷器,アレイ探触子 およびオシロスコープからなる.パソコンで,励振パ ターンや感度を設定する.探傷器はいくつかある励振 パターンの波を収録する.探傷器はいくつかのパター ンのうち,一つの波形を選別することも可能で,オシ Key Words: 超音波探傷,アレイ探触子,SV波,周波数特性
〒158-8557東京都世田谷区玉堤1-28-1
図–1 アレイ探触子
図–2 40度横波入射の数値シミュレーション
図–3 探傷システム
図–4 各素子の波形特性のための実験
ロスコープにデータを送り,そこで表示することがで きる.
4. アレイ各素子の特性
探触子のアレイ素子の送受信特性を調べるために,各 素子からの波形を取得した.図-4に示すように,STB A1試験片底面で反射された波を取得した.垂直入射で あるので,この場合の入射波は縦波である.送受信は
25mm STB A1 標準試験片
各素子の底面反射エコーを受信 パーソナル
コンピュータ
探触子 探傷器
オシロスコープ 29 43
振動子 16 チャンネル
振動子 0.3x7mm 振動子間隔 0.4mm
13 単位 mm
40 度
グレーティング
ローブ 入射横波
素子 0.3mm x 16 チャンネル
1-474 土木学会第63回年次学術講演会(平成20年9月)
-947-
図–5 各素子の波形
図–6 入射波のステアリング
図–7 STB A1試験片による斜角入射波形の実験
各16素子に対して行われた.得られた波形を図-5(a) に,パワースペクトルを図-5(b)に示す.各素子からの 波形はおおむね一致していることが確認できた.
周波数は5MHzにピークがあるが,3MHz付近にも 小さなピークが見られる.これは4.5µ秒以降の波形成 分が大きく寄与している.
5. アレイ探触子のステアリング性能
アレイ探触子の各素子に時間差∆tを与えることで,
入射屈折角度を変化させた.図-6を参照し,次の式を 満たすように,時間差をつけることで入射屈折角θを 変化させることができる.
sinθ= c∆t
d (1)
ここに,cは波速,dは素子間隔である.
入射屈折角度を45,65および70度に設定して,波 形を取得した.波形は図-7に示すように,STB A1試
験片のR=100mmからの反射波を取得した.
図–8 入射屈折角度を変化させたときの波形
得られた波形およびパワースペクトルを図-8に示す.
図-8において,(a),(b)は45度の場合のそれぞれ波形 とパワースペクトルを,(c)および(d)は65度,(e)お よび(f)は70度の場合を示している.図-8(b)(d)およ び(f)より,中心周波数は4MHzに下がることがわか る.また,入射屈折角度が大きくなるにつれて,4MHz 成分は減少していくことがわかる.
6. まとめ
本研究で得られた結果をここにまとめる.
・数値シミュレーション結果をもとに,斜角横波(SV 波)を入射できるアレイ探触子を作成した.
・縦波送信で得られた波形に対し,横波送信で得られ た波形は周波数が低くなる傾向を示した.また,入射 屈折角度が大きくなるにつれて,感度は低くなった.
ここでは,横穴などの欠陥の画像を示すことはできな かったが,発表日に,示すようにしたいと考えている.
参考文献1) 中畑 和之,河野 尚幸,廣瀬 壮一: フェーズドアレイ探 触子によるパルス波の音場解析,土木学会第61回年次 学術講演会,1-323, 2006.
2) 平林 雅也,三木 千壽,田辺 篤史,白旗 弘実: マルチ フェイズドアレイ探触子を用いた高精度超音波探傷試 験,土木学会論文集A,Vol.64 No.1, pp.71-81, 2008.
3) 唐沢 博一,磯部 英夫,浜島 隆之: 3次元開口合成(3D- SAFT)アレイと適用事例,非破壊検査,Vol.56, No.10, pp.520-524, 2007.
62 64 66 68 70
-2 -1 0 1 2
波動伝播時間 (μ秒)
振幅 (V)
45度
0 2 4 6 8 10
0 1 2 [x103 -9]
周波数 (MHz) パワースペクトル (V
2秒)
45度
(a) (b)
62 64 66 68 70
-2 -1 0 1 2
波動伝播時間 (μ秒)
振幅 (V)
65度
0 2 4 6 8 10
0 1 2 3[x10-9]
周波数 (MHz)
パワースペクトル (V2秒)
65度
62 64 66 68 70
-2 -1 0 1 2
波動伝播時間 (μ秒)
振幅 (V)
70度
0 2 4 6 8 10
0 1 2 3[x10-9]
周波数 (MHz)
パワースペクトル (V2秒)
70度
(c) (d)
(e) (f)
R=100mm
STB A1 試験片 探触子
入射波
(n-1)∆t c n∆t c c∆t
θ
θ
i-1 d i
波の入射方向 素子の励振時刻
∆t
4 5 6
[x10-6] -0.4
-0.2 0 0.2
0.4 1ch4ch
7ch 10ch13ch
波動伝播時間 (秒)
振幅 (V)
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 [x107] 0
0.2 0.4 0.6 0.8
[x101 -9]
周波数 (Hz) パワースペクトル(V2秒)
1ch4ch 7ch
10ch13ch
1-474 土木学会第63回年次学術講演会(平成20年9月)
-948-