The Japanese Association of Management Accounting
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The Japanese Assooiation of Management Aooounting 日本 管 理 会 計 学 会 誌
管 理 会 計 学 1995年 第3巻 第 2号
論 文
情 報非 対 称 と情 報 伝 達の 価 値
佐 藤 紘 光 * 齋 藤 正章 †
〈 論 文 要旨〉
本 稿で は,経 営 者 と管理者の 間の情 報 伝 達に焦 点を当て,エ イジェ ン シー ・モデル
に基づい てその 経 済的 価値を分 析 する.管理者が実 行し た行 動の結 果は,管理会 計が 測定 する業 績 情 報に集 約さ れ,.こ
れ を 報 告 する とい う形 式で経 営者 に伝達 さ れ る.そ れが リス ク ・シェ ア リング と動 機づけに果たす 役 割につ い て は,これまで のエ イジ ェ
ン シー研 究が明ら かに し た とこ ろ であ り,業 績 情 報の伝 達が経 済 的 価 値を もつ こ とに
つ い て は異 論が ない 、
経営者と管理 者の 間で伝 達さ れる情 報に は, 会計 報 告の ような事 後 情 報だけで な く,
有 用であれ ば,事 前 情 報 も含 まれ る で あろ う.た と え ば,契 約 を締 結 する前 段 階にお
い て、 環 境 条 件や 生 産性につ い て の両 者の認 識に ギャ ッ プ が存 在 する の は珍しい こ と で は ない .そ うした認 識の 相 違 は、契約条 件,すな わ ち,業績 評 価 (成 果 配 分 )ル ー
ル に重 要 な 影 響を及ぼすはずで あるか ら, この ギ ャ ッ プ を埋め る た め に相互 に意 志 疎 通 を 図 る場が用 意さ れ る で あろ う.予算ない し業 績目標の決 定に管理者の 私 的 情 報を 反映すべ く,決 定過程へ 管理者の 参 加を求め るの は,その 一
例である.本 稿は,そ う し た事前 情 報の伝 達 に経 済的 価値が あ る か否か を 分 析 す る.し た が っ て,本 研 究は参 加の 有 効 性に 関する検証 と み るこ ともできる.
論 文の構 成は以下の通 りである.第2節で は基 本モデル と して, 情 報 伝 達 を 要 求 し ない モ デル (PROGRAM 1)と要 求 するモ デ ル(PROGRAM 2)を提 示 し,同 時に情 報 レ
ン ト とい う概 念 を 導入 す る.第3 節で は数値例 を 用 い て情 報伝 達の経 済的価 値を測 定 し,そ れ が価 値を もつ 場 合と も た ない 場 合を明ら かにする.第 4節では情輯伝 達の 価
値の有 無を決 定づける要因 を一般 式 を用い て検証する.
〈 キーワ ー ド〉
エ イ ジェ ン シー ・モ デ ル,逆 選 択,限 界生産 力の逓減,業 績 評 価, 情 報 伝 達, 情 報 非 対 称,情 報レ ン ト, 予 算 参 加
1994 年11 月 受 付 1995 年 3月 受 理
*早 稲田大学 教 授 社会 科 学 部
†放 送 大 学専 任 講 師
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1. は じめに
完全競 争 市 場におい て は, 価 格シ ス テ ム の働 きに よ っ て パ レー ト最適な資源 配 分 がなさ れ るこ とは厚生経 済学の 第一
命題 が 教 える と こ ろ である,そこ で は, 取 引に必 要なすべ て
の 関連 情 報が均 衡 価 格の な か に反 映さ れる か ら, 個々 の市 場 参 加 者は,価格 情 報のみ に基
づ い て行 動 すれ ば, 自動的に全 体最適 が実現 す る. し か し な が ら,管 理会 計の研 究 対 象で
あ る 「組織」に は そ れほ ど有力 な情 報伝達媒体は存 在 し ない 。 組織 内で取 引され る財貨は,
市場 で取 引さ れ る もの よ り遥か に複 雑か つ 非画一的で あ り, そ うし た質 的 な相 違を価 格と
い う単一次 元の 数 量情 報に吸 収 し き れ ない か らで ある.その た め, 組織で は価 格シ ス テム
に代わる情 報手段が探 求さ れ るこ と にな る.
他方, Arrow [1]が指 摘 する よ うに, 組織には , 隠 さ れた情報 ・知 識 (hidden informa − tionlknowledge ), 隠され た行動 (hidden action ) とい っ た情 報 非 対 称性が多様に存 在 す る.か か る情 報 非対称 を 放 置す れ ば,逆 選 択 (adverse selection ),モ ラ ルハ ザー ド
(moral hazard)とい っ た病理現象を誘発 して ,資源配 分 を 歪 め,組織効率性 の低 下 を 招 く.その た め, こ の問題解 決が経 営 管理の重 要な課題 と なる.
本 稿で は ,経 営者 (プ リンシパ ル )と管 理者 (エ イ ジェ ン ト)の 間の 情 報伝 達に焦 点を
当て, エ イジ ェ ン シ ー ・モ デル に基づ い て その経済 的 価 値 を 分 析 す る.管理者が 実行 し た 行動の結 果は , 管 理 会計が測 定 する業 績情 報に集 約 さ れ, こ れ を報 告 する とい う形 式で経 営者に伝 達 さ れる.そ れ が リス ク ・シ ェ ア リ ン グ と動 機づ けに果たす役 割につ い て は,こ れ まで の エ イ ジェ ン シー研究 が明ら かに し た とこ ろ で あ り, 業 績情 報の伝 達が経 済 的価値 を もつ こ とにつ い て は異論が ない .
経 営 者と管理者の 間で伝 達 さ れる情 報に は, 会 計 報 告の ような事 後 情 報だけで な く, 有 用であ れ ば事前 情 報 も含 ま れる であろ う。た と え ば, 契 約を締 結する前段 階におい て , 環 境 条件や生 産性に関 する両者の認 識に ギャ ッ プ が存 在 する のは珍 しい こ とで は ない . そ う
し た 認 識の相 違は, 契約条件 ,す な わ ち, 業績 評価 (成果配分 )ル ール に重要な影響を及
ぼすはずで あるか ら, この ギ ャ ッ プ を 埋め るた め に 相 互 に意志疎通 を 図 る場が 用意さ れ る で あろ う.予算ない し業績 目標の決 定に管理者の私 的 情 報を反 映すべ く, 決定 過程へ の参 加 を求め るの は, その 一
例で ある.本稿で は, こ の よ うな事前 情報の 伝 達に経 済 的価 値が あるか否か を分析 する.ゆ えに, 本研 究は参加の 有効 性に関する検証と み る こ と もで きる.
2. 基 本モ デル
最初 に,管理者か らの情 報 伝 達 を要 求 し ない 業 績 評 価モ デ ル と情 報伝 達を要 求 する モ デ 一般 を 示 し 両 関 を 明 ら か し よ が 以 下 PROGRAM 1
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情 報 非 対 称と情 報 伝 達の価 値
り, 後者がPROGRAM 2 で ある. [PROGRAM 1]
亀。 ΣθΣx (x−x (x ))φ(x is(θ,α))N(θ) (1−a )
s. t. Σ= U(z (sc))φ(x 亅s (θ,α))_V〔α (θ))≧ η fc)r a皿 θ (1−b) α (θ)∈ argn )aX a Σ. u(z (x))φ(x l 8(θ,α))−v(α(θ))
fbr an θ (1−c)
[PROGRAM 2]
MaxZ ,a ΣθΣ= (x −z (θ,x ))φ(x ts(e,a ))N (θ) (2 −a ) s. t. ΣxU (2(θ,x))φ(x ls(θ,α ))− V(α(θ))≧ η fbra皿θ (2−b) (θ,α (θ))∈ argmax (θ,ω ΣxU (Z (θ,X ))φ(X IS(θ,α ))− V(α (θ))
fOr a皿 θ (2−c )
最 初に記 号の意味 を 説 明 し な が ら, モ デル の 仮 定 を 述べ る.α ∈ A ∈ R+ は管理者が行使 する努 力, x ∈ X ∈ R は期 末に実 現 する利 得 (outcome ), z は報 酬で ある. すな わ ち, 管 理者は, 契 約を締 結 し た後に努力 を イン プ ッ ト し,期 末に利 得が実現 する と, そ れに応 じ て努力の対 価 と して報 酬 を受取 り, 経 営 者 は 報 酬 を 支 払 っ た後の 利 益x − z を受 取る.x は 契 約の 締 結 時 点で は確率 変 数で あ り, iP(x)はその確 率関数で あ る.そ れ は条件 付 確 率と し
て定 義 され ,関数s(θ, α)が 示すよ うに, 2つ の 要 因 ,すなわ ち, 管理者が行使 す る努力α
と期 中に生起 する環 境 状 態 θ∈ θ ∈ R の結合 結 果と して ,s の値が 確 定 し, x の 確率 分 布 を 規定する .s の 値が定まれ ば, α と θの 組み合わ せ の相違は確率分布に影響を与 えない . 環 境状 態と し て い か なる θが実 現 する か は,契 約の締 結 時 点で は不確 実で あ り, し た が
っ て ,θも確率変数 と して定義さ れ る.N (θ)は その確率関数で あ る.た だ し,そ れ は経 営 者の 確率 信 念で あっ て,管理者は契約 を 締 結 する時 点で, その 実現 値 を 確 実 に 知っ て い る もの と仮 定 する 〔1}.つ ま り,φ(x)の 決 定 要 因で ある θ とα は管理者だけが事 前 に知 りうる 変数で あっ て , 経営者は これ ら を事 後的に も知 り得ず, ア ウ ト プ ッ ト変 数で ある x しか観 察で きない と仮 定 して ,情 報 非 対 称 とい う現実の予算 編 成 過程の 組 織 条 件に 近 似 す る 状 況 をモ デル 化 する の で ある.なお , α をθの 関 数とし て定 式化 し てい るの は, 管理者は環 境 状 態を知 っ た 上で 努 力を決 定で きるか らで ある.σ(・
)は報 酬に対 する管 理 者の効 用関数,
V(・
)は努力の 負効用 , ηは留保 効 用で あ る.ま た, 経 営 者は リス ク 中立的と仮 定 して い る. 各 PROGRAM の 目 的 関 数 式 (a )は, 報酬 支 払後の 利益 (残余 )の期待 値 を最 大にするx
とα を 決定すべ きこ と を 示 し,制約 式(b)は個人 的 合 理 性条 件 (individual rationality :
以下 , IR 条 件と呼ぶ ), (c)は動 機づ け ない し誘 因両 立条 件 (incentive compatibility )で ある .PROGRAM 1の 報酬関数2 は, 両者が観 察で きる変 数κ だ けで 定 義され てい る.つ
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ま り, 管理 者か らの情 報 伝 達を要求 し ない か ら,(1−c)が示 すように, 環境 状 態に適 合す る 努 力 を動 機づ ける こ と だ けが そこ で の 課 題 となる (これ をIC 条件と呼ぶ ).そ れ に対 し,
PROGRAM 2 の報酬 z は θとx の 2変量 関数に なっ て お り, 経営 者が直接 観 察で きない 情 報 θを含ん で い る か ら,管理 者か らの 情 報伝 達が必 要と なる. 管理者か ら す れ ば,伝 達す
る メ ッ セ ージの 内容に応 じて適用さ れ る業 績 評 価ル ール を変更で き る か ら, 自分 に有利な 情 報 を伝達 し たい とい う欲 求 が 生 ま れる .こ の た め,この モ デル で は, 環 境に適 合 する努 力の動 機づ け だ けで な く, 真 実 報 告の 動機づ け (truth inducing)が 必 要に なる (こ れ を TI 条件 と呼ぶ ).(2−c)は真 実を報告 する と きの期 待効 用が最 大に なる こ と を示 して い る.
こ の 条 件の 充 足 に よ り, 虚 偽報 告 の 誘因 が打 ち 消 さ れ, 真 実の 情 報が伝 達 さ れ る とすれ ば,
環境 情 報が 経営者に知 ら さ れ, 将来業 績 をよ り的 確に 予測で きる よ うに なる で あろ う.そ
の意 味に おい て , 真 実の 情 報伝 達は,業 績 評 価目的だけで なく,意 思 決 定 目的に も有 用 と なる .し か し,こ こ で は前 者の 分析に焦 点を当て る こ とに し よう(2).
情 報伝 達の経済 的価 値は, PROGRAM 1 と2の 目 的 関数値の差と して定 義され る. もっ と も, 状 況に応 じて経 営 者は伝 達 情 報を無 視 する こ と もで き, その場 合には, PROGRAM 2
は1に収束 する か ら,こ こ で は情報 伝達 が 強意に パ レ ー ト優 位な解を導 くか どうか が検討の 課題となる.その 作 業は, 当然な が ら, 情 報伝 達に価 値が生 じ るの はい か なる理 由によ るの か とい う原 因解 明を伴っ たもの で なければ な らない .結 論を先に述べ る と, PROGRAM 1
と2に定 式化さ れるモ デル の も とで情 報伝 達が価 値を もつ の は次の 3つ の理由に よる こ と が,
こ れ までの研究で 明らかに なっ て い る (3). (イ)情 報 レ ン トの節 約
(ロ)追加 的情 報レ ン ト を支払 うこ と な くよ り効 率 的な行 動 選択を動 機づ ける. (ハ )リス ク ・シ ェ ア リン グの改 善
本 稿の 目的は, (イ)と (ロ )につ い て論述するこ とにある.(ハ )につ い て は第4節で簡 単に触れ る.
3. 情 報レ ン トの 節 約 効 果と効 率 的 行 動 選 択 効 果
3.1. 情 報伝 達が有 効 な場 合
以下 で は, リ ス ク ・シェ ア リ ン グ の 影 響を 中 立化 する た め に, 管理者 も リス ク中 立 的と 仮定す る.分析に入る前に , 情 報 レン ト とい う概 念につ い て述べ て お く.前 述した よ うに,
管理者は契約 を 締結す る 前 に θ に関 する私 的情 報を 入手 して お り, IR 条件が示 す よ うに, その 内容に関わ らず, 経 営 者は留 保効 用を保 証 しな けれ ば なら な い か ら, 有利な環境が 生