消費者集合訴訟制度に関する諸問題
保険会社・保険業務を中心に
浅 井 弘 章
■アブストラクト
消費者庁は,平成23年12月, 集団的消費者被害回復に係る訴訟制度の骨 子 を公表し,本稿脱稿日現在,新しい訴訟制度を導入するための法案作成 を行っている。新しい訴訟制度は従来の民事訴訟と異なる構造・特徴を有し ている。また,保険募集業務,契約管理業務,保険金支払業務など保険会社 が営む業務全般に係る紛争が新しい訴訟制度の対象となる可能性があると考 える。
保険会社が新しい訴訟制度の被告となるという事態の発生を避けるために は,それぞれの保険会社において新しい訴訟制度の特徴等を踏まえ,それぞ れの業務ごとに,従来から継続している態勢整備を一層充実・強化する必要 があると考える。
■キーワード
適格消費者団体,消費者庁,日本版クラスアクション
1.制度新設の目的と背景
消費者庁は,平成23年12月9日, 集団的消費者被害回復に係る訴訟制度 の骨子 (以下 骨子 という)を公表し,本稿脱稿日現在,新しい訴訟制 度を導入するための法案作成作業を行っている。
*平成24年6月1日の日本保険学会関東部会報告による。
/平成24年6月21日原稿受領。
新しい訴訟制度が導入される背景は次のとおりである。即ち,消費者庁及 び消費者委員会設置法附則6項において, 政府は,消費者庁関連三法の法 施行後3年を目途として,加害者の財産の隠匿又は散逸の防止に関する制度 を含め多数の消費者に被害を生じさせる者の不当な収益を剥奪し,被害者を 救済するための制度について検討を加え,必要な措置を講ずる と定められ ている。消費者庁関連三法 の施行日は平成21年9月1日である。
また,平成22年3月に閣議決定された 消費者基本計画 (平成22年3月 30日閣議決定・平成23年7月8日一部改定)においては, 適格消費者団体 による損害賠償等団体訴訟制度 について 平成23年夏を目途に制度の詳細 を含めた結論を得た上,平成24年常会への法案提出を目指します 旨の記載 が盛り込まれた。
以上の経緯を踏まえ,集団的消費者被害の救済に関する制度の在り方を調 査・審議をするため,平成22年8月に集団的消費者被害救済制度専門調査会 が消費者委員会に設置され,同専門調査会は15回にわたって調査・審議を行 い,平成23年8月に専門調査会報告書として取りまとめた。
この専門調査会報告書を踏まえて消費者庁が作成したものが頭書記載の骨 子である。本稿では骨子の内容を概観し,併せて新しい訴訟制度が導入され るにあたり保険会社・保険業務との関係で留意すべき事項を検討する。
2.新訴訟制度の内容
⑴ 原告となり得る者
後述するとおり,新しい訴訟制度は 共通争点の確認の訴え と 個別請 求権の確定訴訟 の二段階で構成されるが,この訴訟の原告となり得る者は 消費者契約法2条4項に規定する適格消費者団体のうち内閣総理大臣の認定 を受けた者(骨子ではこれを 特定適格消費者団体 と呼んでいる)に限定
1) 消費者庁関連三法とは,消費者庁及び消費者委員会設置法,消費者庁及び消 費者委員会設置法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律,消費者安全法を 意味する。
される(骨子3頁) 。換言すれば,個々の消費者は共通争点の確認の訴え の原告となることができず,また個々の消費者が共通争点の確認の訴えに参 加することもできない(骨子4頁)。
特定適格消費者団体が共通争点の確認の訴えを提起する時点では個々の消 費者から授権を受ける必要はないこととされるようである(後述するとおり,
共通争点の確認の訴え提起後,特定適格消費者団体が和解を行う場合には,
個々の消費者から授権を受ける必要がある(骨子4頁))。換言すれば,共通 争点の確認の訴えの当事者にとって被害者群の全貌が明らかになっていない 状態において共通争点の確認の訴えが提起されることもあり得ることになる。
⑵ 特定適格消費者団体の認定要件
適格消費者団体が特定適格消費者団体になるためには内閣総理大臣の認定 を受ける必要があり,その認定要件は次の6点である(骨子1頁)。この認 定の有効期間は3年とされ,特定適格消費者団体は有効期間の更新を受ける 必要がある(骨子2頁)。
① 被害救済関係業務(新しい訴訟制度の訴訟手続の追行に関する業務及び 当該業務の遂行に必要な消費者の被害に関する情報の収集等に係る業務を 意味する)に係る組織,当該業務の実施の方法,知り得た情報の管理及び 秘密の保持の方法その他の被害救済関係業務を適正に遂行するための体制 及び業務規程が適切に整備されていること
② 被害救済関係業務の執行決定機関として理事会が置かれており,決定方 法が適正であること。また,弁護士が理事として選任されているなど関与 が強められていること
③ 被害救済関係業務を遂行するための人的体制に照らして被害救済関係業 務を適正に遂行することができる専門的知識経験を有すると認められるこ と
④ 被害救済関係業務を適正に遂行するに足りる経理的基礎を有すること 2) 本稿脱稿日時点における適格消費者団体の数は10団体である。
⑤ 特定適格消費者団体が支払を受ける報酬又は費用がある場合には,その 額又は算定方法,支払方法その他必要な事項を定めており,これが著しく 不当なものでないこと
⑥ 消費者契約法,弁護士法等に違反して罰金刑に処せられた日から3年を 経過していないことその他欠格事由に該当しないこと
事業者側の視点から見た内閣総理大臣の認定要件のポイントとして次の点 を指摘することができる。即ち,上記認定要件の①によると,特定適格消費 者団体の新たな業務である被害救済関係業務は 新しい訴訟制度の訴訟手続 の追行に関する業務と 消費者の被害に関する情報の収集等に係る業務とに 細分化され,後者の業務は前者の業務の遂行に必要な業務であると位置づけ られている。これらに鑑みると,特定適格消費者団体は共通争点の確認の訴 えを提起するに先立ち,業務規程所定の方法で消費者被害に関する情報の収 集等を行い,この情報に基づきこれを提起することを決定することになると 考えられる。
骨子によれば国民生活センターや地方公共団体は消費生活相談情報(以下
PIO
‑NET
情報 という) を特定適格消費者団体に提供することができる こととされる予定であり(骨子2頁),PIO‑NET
情報の内容が特定適格消 費者団体による訴訟提起の判断にあたり重要な考慮要素になる可能性がある。このことは,PIO‑
NET
情報において苦情・相談件数の多い事業分野の事業 者はそれだけ共通争点の確認の訴えの対象とされるリスクが高いことを意味 すると考えられ,こうした事業分野に属する事業者にとっては注意が必要で ある。3) PIO‑NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)とは,国民生活セ ンターと全国の消費生活センターをネットワークで結び,消費者から消費生活 センターに寄せられる消費生活に関する苦情相談情報(消費生活相談情報)の 収集を行っているシステムを意味する。
⑶ 遵守事項 ア 遵守事項の内容
特定適格消費者団体は,被害救済関係業務の遂行に当たって次の事項を遵 守しなければならない(骨子1頁〜2頁)。
① 多数の消費者の利益のために被害救済関係業務を適切に遂行しなければ ならない。
② 共通争点の確認に係る訴権を濫用してはならない。
③ 他の特定適格消費者団体と相互の連携協力に努めなければならない。
④ 共通争点の確認の訴えの提起等の主要な行為について,他の特定適格消 費者団体に通知するとともに,内閣総理大臣に報告しなければならない。
⑤ 情報管理及び秘密保持に関する義務を遵守しなければならない。
⑥ 共通争点の確認の訴えに関する訴えの提起等を公告しなければならない。
⑦ 共通争点の確認に係る訴権の行使につきその相手方から不当な金銭等の 財産上の利益を受けてはならない。
⑧ 差止請求関係業務及び被害救済関係業務以外の業務については,定款等 に記載した上で,これらの業務に支障がない限り,行うことができるとと もに,所要の区分経理を行う必要がある。
イ 訴権濫用のリスクへの対応
事業者側の関心の高い論点として,上記の遵守事項②の特定適格消費者団 体による共通争点の確認に係る訴権の濫用リスクの問題がある 。そこで,
万一共通争点の確認に係る訴権の濫用が発生した場合,事業者側にどのよう な救済手段が考えられるかを検討する。
第一に,行政上の救済手段について検討する。前述したとおり特定適格消 費者団体は内閣総理大臣の認定を受けその監督に服する。骨子に記載されて いるわけではないが,特定適格消費者団体が上記遵守事項②に違反し訴権を
4) 経団連消費者法部会 集団的消費者被害救済法制について (2011年7月22 日)などを参照。
濫用した場合,これによって影響を受ける事業者は,当該特定適格消費者団 体の監督を行う内閣総理大臣に対し,適切な監督権限(特定適格消費者団体 に対する報告徴収,立入検査,適合命令・改善命令,認定の取消し等の監督 権限)の発動を事実上促すなどの対応を行うことが考えられる。
第二に,民事上の救済手段について検討する。民事上の救済手段として,
例えば特定適格消費者団体が訴権の濫用を行った場合,被告とされた事業者 が当該適格消費者団体に対し不法行為を理由に損害賠償請求を行うことがで きるかが問題となる。この点については,最高裁昭和63年1月26日判決 民 集42巻1号1頁が,訴え提起が不法行為を構成するかに関し, 法的紛争の 当事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求めうることは,法治国家の根幹 にかかわる重要な事柄であるから,裁判を受ける権利は最大限尊重されなけ ればならず,不法行為の成否を判断するにあたっては,いやしくも裁判制度 の利用を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要とされること は当然のことである。したがって,法的紛争の解決を求めて訴えを提起する ことは,原則として正当な行為であり,提訴者が敗訴の確定判決を受けたこ とのみによって,直ちに当該訴えの提起をもつて違法ということはできない というべきである。(中略)以上の観点からすると,民事訴訟を提起した者 が敗訴の確定判決を受けた場合において,右訴えの提起が相手方に対する違 法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関 係…が事実的,法律的根拠を欠くものであるうえ,提訴者が,そのことを知 りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて 訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相 当性を欠くと認められるときに限られるものと解する と判示していること が参考になる。特定適格消費者団体による訴え提起が被告とされた事業者に 対する不法行為を構成するかという点についても,基本的には上記と同様に 解され,特定適格消費者団体による訴権の行使が不法行為と評価されるのは 極めて限定された場合に限られると考える。
第三に,訴訟手続上の救済手段について検討する。上記の遵守事項②に違
反する共通争点の確認の訴えが裁判所による訴え却下決定の対象となるかと いう点が問題となる。例えば,事業者側から濫訴の危険が指摘されている会 社法に基づく役員等の責任追及の訴え(いわゆる株主代表訴訟制度)につい ては,濫訴に対する役員側の救済手段として担保提供命令申立制度を設け
(会社法847条7項,同条1項但書),株主が裁判所の担保提供命令に違反し た場合には裁判所が訴えを却下する(民事訴訟法78条・81条)という形で,
訴訟手続上の救済手段を設けている 。骨子をみる限り,株主代表訴訟制度 に準じた訴訟手続上の救済手段は設けられていないようである。
ウ 複数の団体による重複的訴訟のリスク
現行法においても多数の消費者が共同原告となって民事訴訟を提起するこ とが可能であり(民事訴訟法38条),こうした訴訟を実務上 集団訴訟 な どと呼んでいる。集団訴訟においては,被害者群ごとに弁護団が形成され,
これらの被害者群が順次各地の裁判所に訴えを提起し,複数の裁判所に同一 又は同種の争点を内容とする民事訴訟が係属し,事業者側が重い応訴の負担 を強いられるという事態が生じていたが,共通争点の確認の訴えに関しては こうした問題について次のような配慮がなされている。
第一に,骨子では,共通争点の確認の訴えの管轄について, 被告の普通 裁判籍による管轄のほか,営業所等の所在地及び共通争点の確認の訴えの対 象となる事業者の行為があった地の管轄を認めることとする , 二段階目の 手続において請求権の届出をすることが見込まれる者の数が著しく多数であ るときは,高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所などの大規模裁判所に も管轄を認めることとする としたうえで, 以上の規律により2以上の地 方裁判所が管轄権を有するときは,先に訴えの提起があった地方裁判所が管 轄することとする としている(骨子3頁)。この骨子の記述の趣旨は必ず しも明確ではないが,骨子の記述が,ある特定適格消費者団体が共通争点の 確認の訴えを提起した後,他の特定適格消費者団体が同一の訴えを提起する
5) 東京地方裁判所商事研究会 類型別会社訴訟Ⅰ(第2版) 303頁以下参照
場合には,最初に訴えの提起があった地方裁判所が専属的管轄を有するとい う趣旨であるとすれば,同一内容の共通争点の確認の訴えが各地の裁判所に 係属するという事態は生じないことになる。
第二に,裁判所は,同一の共通争点の確認の訴えに係る訴訟が数個同時に 係属するときは,その弁論及び裁判を併合してしなければならない(骨子4 頁)。同一の地方裁判所に提起された同一の共通争点の確認の訴えは併合し て審理されることになり,事業者側が複数の特定適格消費者団体による同一 内容の訴訟にそれぞれ応訴せざるを得ないという事態が生ずることがないよ う配慮されている。
3.手続の全体像
前述したとおり,新しい訴訟制度の手続は2段階に分けられており,前者 の手続が 共通争点の確認の訴え ,後者の手続が 個別請求権の確定訴訟 と呼ばれている。前者の手続では個々の消費者に共通する争点について審理 が行われ,後者の手続では個々の消費者の個別の被害額の認定等が行われる。
骨子をもとに手続の流れ(概要)を図示すると次のとおりである。
【第一段階目】
特定適格消費者団体による共通争点の確認の訴え提起
↓
共通争点に関する審理
↓ ↓
判決(確認判決) 和解
↓
【第二段階目】(特定適格消費者団体が勝訴した場合等に限る)
特定適格消費者団体による二段階目の手続の開始の申立て
↓
裁判所による開始決定
↓
対象消費者への通知・公告の実施
↓
対象消費者が個別請求権の届出を行う旨の申出
↓
原告(特定適格消費者団体)が対象消費者からの申出を整理し,
裁判所に対し個別請求権の届け出を行う
↓
被告が個別請求権について認否を行い,これを裁判所に提出
↓ ↓
(当事者間に争いのない債権) (当事者間に争いのある債権)
↓ ↓
個別請求権が確定 原告の異議申立を受け裁判所が決 定で個別請求権の有無等を判断
4.共通争点の確認の訴えの対象となる紛争
共通争点の確認の訴えの対象となる紛争は一定の範囲に限定されている
(骨子3頁)。
即ち, 特定適格消費者団体は,消費者…の事業者…に対する以下の請求 権(金銭の支払を目的とするものに限る。③④については,契約の目的に生 じた損害に係るものに限るとともに,人の生命・身体に損害が生じたときの 当該損害に係るものを除く。)について,事業者に対し,相当多数の消費者 と事業者との間に共通する責任原因の確認を,訴えをもって請求することが できることとし(以下,この訴えを 共通争点の確認の訴え という。),個 別の対象消費者の請求権について判断するために必要な事実に関する争いで 主要なものが別に存在する場合はこの限りでないこととする。
① 消費者契約…が不存在若しくは無効又は取消し若しくは解除(クーリン グオフを含む。)がされたことに基づく不当利得返還請求権
② 消費者契約に基づく履行請求権
③ 消費者契約の締結又は履行に際してされた事業者(消費者契約の相手方 又は相手方になろうとする事業者のほか,勧誘をする事業者,勧誘を行わ せる事業者,当該消費者契約の内容を定めた事業者,当該消費者契約の締 結について媒介又は代理をする事業者,履行を補助する事業者をいう。)
の民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権
④ 消費者契約に債務不履行がある場合の損害賠償請求権又は瑕疵担保責任 に基づく損害賠償請求権 (骨子3頁)。
⑴ 各紛争類型の具体例
上記①の紛争(以下 第1類型 という)は例えば消費者の意思表示に瑕 疵があったことなどを理由に消費者契約が不存在・無効・取り消されたこと に起因する紛争である。保険分野の具体例として,消費者契約に該当する保 険契約の無効・取消しを理由とする保険料返還請求に係る紛争などがこれに 該当し得ると考える。
次に,上記②の紛争(以下 第2類型 という)は事業者が消費者契約の 履行を行わないことを理由とする紛争である。保険分野の具体例として,保 険会社が保険約款の免責条項に該当することを理由に保険金の支払を拒んだ ところ,保険契約者側が免責条項の無効等を主張し保険金請求権を有するこ との確認を求める紛争などがこれに該当し得ると考える。
更に,上記③の紛争(以下 第3類型 という)は事業者による不当な勧 誘が広範囲にわたって行われたことに起因する紛争である。保険分野の具体 例として,不適切な保険募集資料に基づく保険募集に起因する紛争などがこ れに該当し得ると考える。
最後に,上記④の紛争(以下 第4類型 という)は小売業者が消費者に 販売した商品に瑕疵があることなどを理由とする紛争である。
以上の検討によれば,保険会社が営む業務との関係でみると,共通争点の 確認の訴えの対象となり得る紛争は保険募集業務と保険金支払業務の双方に
業務に関係する広いものであるといえる。
⑵ 第3類型と第4類型の限定の意味
第1類型・第2類型と異なり,第3類型・第4類型については 契約の目 的に生じた損害に係るものに限るとともに,人の生命・身体に損害が生じた ときの当該損害に係るものを除く という限定が付されている 。
この限定の趣旨は契約の目的に生じた損害以外の損害(拡大損害)を対象 とする紛争を共通争点の確認の訴えの対象から除外する趣旨であると思われ る。
この点に関連し事業者側の関心が高い論点として慰謝料が 契約の目的に 生じた損害 に含まれるかという点がある 。骨子の文言に鑑みれば,慰謝 料は 契約の目的に生じた損害 に含まれないと解するのが自然な解釈であ るように思われる。
⑶ 保険募集業務との関係での論点
前述したとおり,消費者契約の締結に際してされた事業者の民法上の不法 行為に基づく損害賠償請求権に係る紛争は,共通争点の確認の訴えの対象と なり,この 事業者 には 消費者契約の相手方又は相手方になろうとする 事業者 のほか, 勧誘をする事業者 や 消費者契約の締結について媒介 又は代理をする事業者 が含まれる。保険募集人は 勧誘をする事業者 又 は 消費者契約の締結について媒介又は代理をする事業者 に該当すると考 えられるから,保険募集人による保険募集に民法上の不法行為があったこと を理由とする損害賠償請求権に係る紛争のうち契約の目的に生じた損害に係
6) 契約の目的 という用語は,消費者契約法4条において 物品,権利,役 務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し,将来におけるその価額,
将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確 実な事項につき断定的判断を提供すること などという形で用いられている。
7) 日本証券業協会 集団的消費者被害回復に係る訴訟制度の骨子 について の意見 (平成23年12月28日)(日本証券業協会のウェブサイト参照)
るものは共通争点の確認の訴えの対象になると考える。
保険募集業務との関係では,保険業法283条1項は 所属保険会社等は,
保険募集人が保険募集について保険契約者に加えた損害を賠償する責任を負 う 旨定めているところ,特定適格消費者団体は保険業法283条に基づく損 害賠償請求権に係る紛争について共通争点の確認の訴えを提起することがで きるかといった問題などがある。骨子が共通争点の確認の訴えの対象となる 紛争として 民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権 という文言を用い て限定を行っているからである。
⑷ 顧客情報漏洩に係る紛争への適用の有無
顧客情報漏洩事案に係る紛争について共通争点の確認の訴えを提起するこ とができるかという点は事業者側の大きな関心事の一つである。
保険会社による顧客情報漏洩事案に係る紛争について第4類型として共通 争点の確認の訴えの対象となる可能性は否定できないと考える。なぜならば,
保険会社は,顧客との取引内容に関する情報などの顧客情報につき,商慣習 上又は契約上,当該顧客との関係において守秘義務を負っており,保険会社 がこれに違反して顧客情報を外部に漏らすことは債務不履行を構成すると考 えられるからである(最高裁平成19年12月11日決定民集61巻9号3364頁)。
もっとも,前述したとおり,第4類型においては契約の目的に生じた損害 に係る紛争に限り共通争点の確認の訴えの対象になるとされているから,こ の要件を満たさない顧客情報漏洩事案については共通争点の確認の訴えの対 象となることはないと考えられる 。
8) 金融機関による顧客情報漏洩によって契約の目的に損害が生ずる事例として,
例えば,預金取扱金融機関が守秘義務に違反して顧客情報を漏洩し,預金の不 正払戻しが行われた場合が考えられる。保険会社の場合,顧客情報の漏洩によ って 契約の目的に損害が生じる ということは考えにくいが,例えば顧客情 報が漏洩し積立型の保険契約が契約者の意思に基づかずに解約され解約返戻金 が第三者に支払われてしまった事例などでは,契約の目的に損害が生じている と評価することができると考えられる。
5.管轄の問題
前述したとおり,骨子では,共通争点の確認の訴えの管轄について, 被 告の普通裁判籍による管轄のほか,営業所等の所在地及び共通争点の確認の 訴えの対象となる事業者の行為があった地の管轄を認めることとする とさ れている。
多くの保険会社は営業所等を全国各地に設け保険の引受等を行っているか ら,保険会社を被告とする共通争点の確認の訴えが保険会社の本店所在地以 外の都道府県に所在する地方裁判所に提起されることもありうる。保険会社 の普通保険約款等において保険契約に関する訴訟について保険会社の本店所 在地を管轄する地方裁判所を管轄裁判所とする旨の条項を設けているものが,
こうした普通保険約款の効力が共通争点の確認の訴えにも適用されるかなど も問題となる。
6.共通争点の確認の訴え提起後の問題点
⑴ 既存の個別訴訟との関係
特定適格消費者団体が保険会社を被告とする共通争点確認の訴えを提起し た場合,既に当該保険会社と保険契約者等との間で同一の争点を内容とする 個別訴訟が,複数,裁判所に係属している場合があると予想される。
この場合,共通争点確認の訴えの提起により,当該共通争点の確認の訴え と事案及び争点を共通にする個別訴訟にどのような影響が生ずるのであろう か。
この点について,骨子では 共通争点の確認の訴えが提起された事件につ いて,消費者と事業者との間に当該共通争点に関連する請求権に係る訴訟が 係属しているときは,裁判所は,消費者と事業者との間の訴訟手続を中止す ることができることとする 旨定めている(骨子4頁)。
当職の実務経験に照らせば,個別訴訟の訴訟代理人の多くは当該個別訴訟 の手続を先に進めるのではなく,共通争点の確認の訴えの進捗状況を見なが
ら個別訴訟を進行するか個別訴訟の訴訟手続を中止するかのいずれかを希望 することが多いように思われる。
⑵ 和解の可否
骨子は,共通争点の確認の訴えに関する和解について, 特定適格消費者 団体は,共通争点の確認の訴えに係る訴訟手続において,個々の消費者から 授権を受けて個々の消費者の請求権に関する和解をすることができる と定 めている(骨子4頁)。換言すれば,特定適格消費者団体が共通争点の確認 の訴えを提起する段階では個々の消費者から授権を受ける必要はないが,
個々の消費者の請求権に関する和解を行う際には個々の消費者から授権を受 ける必要がある。
それでは,保険会社が共通争点の確認の訴えに関し和解を行う場合,どの ような点に留意する必要があるであろうか。この点について次の二点を指摘 できると考える。
第一に,骨子では被告となる事業者側が和解を行うことについて格別の要 件を設けていないため,法令上は特別の手続を要しない可能性が高い。
第二に,保険会社が共通争点の確認の訴えに関し和解を行う場合,通常,
その取締役会の承認決議を要すると考えられる(会社法362条4項,相互会 社につき保険業法53条の14第4項)。保険会社の取締役が共通争点の確認の 訴えに関し和解を行う旨の経営判断を行う場合,いわゆる 経営判断の原 則 に準拠し,前提事実に不注意な誤りがないことや経営判断の過程・内容 に著しく不合理な点がないことなどに注意する必要がある。後者の点に関し て,前述した日本証券業協会の前記意見書では, 骨子4頁2⑼の記載から すると,特定適格消費者団体への授権をした個々の消費者との間の和解を前 提としているようだが,事業者からすれば,授権のなされていない対象消費 者が潜在する中で,潜在的な被害総額も分からないまま,とりあえず授権を した個々の消費者との間だけ和解をすることは難しいと思われる。和解金額 が損害額の一つの指針として後発の対象消費者による訴訟で利用される可能
性があるからである。被害総額の見通しがたたなければ,事業者は和解をす すめることは困難である。和解手続への対象消費者への参加について,二段 階目の通知公告とは別途の通知公告手続きのようなもの(オプト・イン型で,
参加しないものには和解の効力は一切生じないもの)を想定されているよう であれば,事業者側に対して,より和解に応じやすいような配慮が必要であ ると考えられる と述べられており,和解を行う旨の経営判断を行うにあた っては注意が必要である。
7.判決の効力
共通争点の確認の訴えに係る確定判決の効力は,他の特定適格消費者団体 及び二段階目の手続において請求権を届け出た消費者に及ぶ(骨子4頁)。
共通争点の確認の訴えの当事者は特定適格消費者団体と被告(事業者)で あるから,これらの訴訟当事者には判決の効力が及ぶ(民事訴訟法115条1 項1号)。上記の骨子の記載の趣旨は,これに加えて,訴訟当事者以外の一 定の者にも共通争点の確認の訴えの判決の効力が及ぶこととするものである と考える。
消費者が二段階目の手続において請求権の届出を行うためには,その前提 として,特定適格消費者団体の請求が一段階目の手続において認容されてい ること等が必要であるから,上記の骨子の記述のうち, 二段階目の手続に おいて請求権を届け出た消費者に及ぶ という点の趣旨は,特定適格消費者 団体が一段階目の手続において敗訴した場合の判決の効力は消費者に及ばな いことを意味するものと考えられる。このため,特定適格消費者団体が共通 争点の確認の訴えに敗訴した場合であっても,個々の消費者は,通常の民事 訴訟手続を利用して,同種の請求を内容とする訴訟を提起することができる ものと考えられる。
これに対し,他の特定適格消費者団体には判決の効力が及ぶため,他の特 定適格消費者団体は,同種の請求を内容とする訴訟を提起することはできな いと考えられる。
8.二段階目の手続の内容
⑴ 二段階目の手続の開始
二段階目の手続は,共通争点の確認の訴えについての(一部)認容判決が 確定した場合などにおいて,原告である特定適格消費者団体の申立てにより 裁判所がその開始決定を行うことによって始まる。二段階目の手続は共通争 点の確認の訴えを行った裁判所において取り扱われる(骨子5頁)。
裁判所は,開始決定と同時に対象消費者が有する請求権の届出をすべき期 間,認否をするための期間を定める(骨子5頁)。
⑵ 特定適格消費者団体による通知・公告
開始決定の申立てをした特定適格消費者団体(以下 申立団体 という)
は,知れている個別請求権の確定訴訟に届出をすることのできる対象消費者
(被告からの情報提供によって知った対象消費者を含む)に対し,事案の概 要,共通争点の確認の訴えについての判決内容,個別請求権の届出方法など の法定事項について,相当な方法で個別に通知を行い,またインターネット の利用等の相当な方法により公告を行う(骨子5頁)。これらの通知・広告に 要する費用は原則として申立団体が負担する(骨子6頁)。
⑶ 被告(事業者)の協力義務
申立団体は,被告に対し,被告のウェブサイト等に見やすいように掲載す るなど相当な方法による公告(広告)を求めることができる(骨子6頁)。
被告のウェブサイトに掲載すべき内容は骨子からは明らかでない。
また,裁判所は,申立団体の申立てにより,決定で,正当な理由のない限 り,被告に対し,対象消費者の氏名,住所,電子メールアドレスのうち通知 に必要なものが記載された文書等を申立団体に提出するよう命ずることがで きる(骨子6頁)。被告がこの命令に従わないときは,裁判所は,決定で,
過料に処することができる(骨子6頁)。換言すれば,共通争点の確認の訴
えに敗訴した被告(事業者)は対象消費者のリストなどを申立団体に提供す るよう求められる場合があることになる。
⑷ 個別請求権の届出
共通争点の確認の訴えに係る訴訟が終了した時に原告であった特定適格消 費者団体は,個別請求権の確定訴訟において届出をすることのできる対象消 費者から授権を受けて,個別請求権の届出を行う(骨子6頁)。これにより 届け出た対象消費者を 届出消費者 と呼ぶ。
個別請求権の届出を行うことのできる請求権は,共通争点の確認の訴えに ついての判決書に二段階目の手続において請求することのできる請求権とし て記載されている請求権に限られる(骨子6頁)。
⑸ 被告による認否
被告は,認否をするための期間内に上記の届出について認否をする(骨子 7頁)。被告が認め,又は期間内に認否をしなかったときは,個別請求権は 届出の内容で確定する(骨子7頁)。
原告(特定適格消費者団体)は認否に不服があるときは一定期間以内に異 議を申し出ることができる(骨子7頁)。裁判所は,認否に対する異議の申 出があった個別請求権について,当事者を審尋の上,決定をする(骨子7 頁)。
⑹ 実務上の論点
前述したとおり,被告は裁判所の決定によりその顧客情報を特定適格消費 者団体に提供するよう命じられる場合があるが,被告である保険会社がこれ に応じて顧客情報を特定適格消費者団体に提供することは保険会社の守秘義 務や個人情報保護法上の第三者提供規制に反しないかが問題となる。
まず,守秘義務との関係については,訴訟当事者である保険会社が裁判所 の決定に従い訴訟の相手方である特定適格消費者団体に対し顧客情報を提供
することは顧客に対する守秘義務に反しないと考える。なぜならば,この場 合,保険会社はみだりに顧客情報を外部に漏らしたとはいえないからである
(最高裁平成19年12月11日決定民集61巻9号3364頁参照)。
次に,個人情報保護法の第三者提供規制(同法23条)との関係については,
訴訟当事者である保険会社が裁判所の決定に従い訴訟当事者である特定適格 消費者団体に対し顧客情報を提供すること,文書提出命令に基づく文書の提 出と同様,同条1項1号の 法令に基づく場合 に該当し,同条に違反しな いと考える。
9.保険会社への影響とその対応策
⑴ 特定適格消費者団体の動向・関心
前述したとおり共通争点の確認の訴えの原告となり得る者は法令上特定適 格消費者団体に限定されているため,この訴えがどのような形で,またどの 程度利用されるかという点は特定適格消費者団体の意向・動向による。
前述したとおり,特定適格消費者団体は
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情報などを収集しこ れらを踏まえて共通争点の確認の訴えを提起する旨の決定を行うこととされ るから,保険会社としても国民生活センター等が公表する苦情・相談情報に 一層の関心を払う必要があると考える。⑵ 自社による相談・苦情受付・解決態勢の拡充
前述したとおり,PIO‑
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情報などにおいて苦情・相談件数が多い事業 分野の事業者はそれだけ共通争点の確認の訴えの対象とされるリスクが高く なる。国民生活センターなどに持ち込まれる苦情・相談の内容には深刻なものか ら比較的軽微なものまで多岐にわたると思われるが,このうち軽微なものに ついては,保険会社自身による相談・苦情受付態勢の充実や相談・苦情解決 機能の充実により,国民生活センターなどに相談が持ち込まれる前に解決す ることができるものも相当数あると思われる。
監督行政上の顧客保護の要請に加え,国民生活センター等への相談・苦情 の件数を減らすという観点から,保険会社が自社による相談・苦情受付・解 決機能を強化・拡充することが共通争点の確認の訴えの被告となるリスクを 減少させるために有意義であると考える。
⑶ 保険募集業務との関係での留意点
保険募集業務との関係での留意点として次の三点を挙げることができる。
第一に,前述したとおり,保険会社・代理店による不適切な広告・保険募 集が行われた場合,共通争点の確認の訴えの対象となる可能性がある。この ため,従来にも増して,募集文書の審査態勢の強化・充実(審査担当者に対 する研修等の強化を含む)が重要である。
第二に,共通争点の確認の訴えにおいて保険募集の適法性が争われる場合,
保険会社は 実際には保険募集人が不利益情報も口頭で説明しており保険契 約者もその内容を了知している , 保険契約者は保険に関する知識・経験が 豊富なので,当然,その程度のことは知っていたはずだ といった個々の保 険契約者に着目した反論が難しいという点に留意し,パンフレット・重要事 項説明書・意向確認書等の内容だけで適切な保険募集を行っていることの立 証ができるようにすることが望ましい。
第三に,不適切な広告・保険募集資料が発見された場合には適切な対応を 行う必要があるという点である。不適切な個別対応を行うことは特定適格消 費者団体による共通争点の確認の訴えの対象となるリスクを増加させる危険 性があり,注意が必要である。
⑷ 保険金支払業務との関係での留意点
個々の保険金の支払に係る紛争(有無責の紛争)は,基本的に共通争点の 確認の訴えの対象外であることが多いと考える。なぜならば個々の保険事故 に係る有無責の判断について 共通争点 というものが観念しづらいからで ある。
もっとも,多数の保険契約者等に関係する免責事由の解釈に関する紛争に ついては共通争点の確認の訴えの対象となる可能性があり,注意が必要であ る。
⑸ 契約管理業務との関係での留意点
最後に,契約管理業務との関係では,保険会社の事務のうち確立した判例 法理から離れた取扱いが行われていないかという観点から既存の事務手続を 総点検し,判例法理から離れた取扱いが行われている点については必要に応 じ見直しを行う必要があると考える。
(筆者は弁護士)