奈良教育大学学術リポジトリNEAR
明楽新考
著者 林 謙三
雑誌名 奈良学芸大学紀要. 人文・社会科学
巻 11
ページ 113‑132
発行年 1963‑02‑28
その他のタイトル New Study in Mingaku 明楽
URL http://hdl.handle.net/10105/3500
林
明 楽
新 考
謙
目 次
I 前 ロ Ⅱ 楽器11種
Ⅲ 管 絃組織 Ⅳ 声 調
Ⅴ 余 説 Ⅵ 結 ロ
(附)1.前者の正誤と補注 2.5線譜訳3曲について I 前 言
明末にわが国に亡命した明の楽人、貌之談の伝えた明楽については、かつて小論(明楽八調に ついて)を書いたことがある。ところが近年寓目するところの資料によって始めて明楽の全貌を 知りえたので、これに基き前考の未熟の点を補正し、併せてその記譜法・楽器の用法・管絃組織
・拍子形体・日本伝統音楽との相似点等を論じ、明楽の真相を一段と解明しようと試みたのが、
本考である。以下堕選を貌氏伝明楽の意に限定して用いる。表1に本考に用いる明楽8調の原義 的音組織(1。・2。・3。は官・商・角の略号)、12律名及び、その洋音名を掲げる。
表 1
姑
断 勝
南 無 応
資 料
(I)−前考「明楽八調について(田辺先生還暦紀念東亜音楽論叢、
研究、上海1957−巻末校正参照)中に7件の資料をあげておいたが、
1943=張度訳、明楽八調 そのうち本考で参照する 書名と略称だけを記しておく。1)明和5年刊、貌氏楽譜〔明1〕。2)安永9年、覿氏楽器図〔器1〕
。3)長原春田編、楽譜〔春〕。4)写本明楽譜〔明2〕。5)写本(仮題)中華楽之姶〔中〕。6)失載 増、霊星小舞譜「朱1〕。
(Ⅱ)−以下8件のうち1〜4は上記の所謂近年始めて見るところの資料−何れも東京芸術大 学蔵本−であるので、ここにやや詳しく紹介しておく。
1)貌氏楽譜6巻。甲乙2本ある。甲本は全巻を凌雲閣名入りの罫紙を用い、巻頭に貌暗(君 山、子明一明楽中興者)の朱印をおしてある。乙本は全く甲本の転写本にすぎない。曲目は重複
114 明 楽 新 考(林)
を去っても実に240曲にのぼる。第1巻の50曲だけが刊本と同じであり、第2−4巻の130曲を併せ て180曲は共通の譜式をもってとり扱われているので、これを雛氏楽の根本と判じ昼旦と呼ぶこ
とにする。以下第5巻には明の雅楽曲・風雅詩語・古雅歌を、第6巻には大常歌・古雅歌・仏楽 を集めている。仏楽以外は何れも中国で周知の曲であり、以上の諸曲は本曲とはやや異質でもあ り、また違ったとり扱いを受けているように判じ、遡旦と呼んで区別することにした。楽譜の表 現法は刊本と同様の形式をふみ、更に多くの書き込み−諸楽器の譜等−があっ′て歌語と管絃 の総譜の形体をとっている。しかしこの全巻は今日では最上の明楽譜であるとはみとめられても 決して完全なものではないことはたしかである。と云うのは例えば笠譜は第1華のみにあり、本 曲のうち末7曲には全く工尺の記入がなく、外曲でも殆んど絃譜の注記をもたず、4曲も重複す るものがある等々の全体的な不統一さが見られるからである。それにも拘らず明代の俗楽の一派 のもった音楽の実態をさぐる上での無二の宝典として本譜が音楽史上にもつ大きな価値について は少しも変りはないであろう。ちなみに本書(以下2〜4も同様)には音楽取調所章の印をおして あり、明治10年代に蒐集されたものであることをおしえる。略称〔明3〕。
2)覿氏楽晶弾秘訝 一巻。甲乙のうち、甲本には覿略の朱印をおしてある。乙本は甲本の転 写本。本書は明楽の11種の楽器の音律制を一貫的に説いたもので、〔器1〕とわずかに違った点が みとめられる。略称〔品弾〕。
3)覿氏楽器 1巻。甲乙2本あり、乙本は序文を筆写している。本図は〔器1〕よりやや古 い本で宝暦9年の覿斐幸の序文をもつ。その年代と「頃者従余学此曲者数輩、欲梓以大行、且為 之序、余辞而不得、遂亦題」の記のあることから推して、受章とは暗・君山の別称かとも思われ る。図のうち双竜形の太鼓の架はもっとも豪華で、多分貌氏舶載の旧制を示すものであろう(図 版B参照)。略称〔器2〕。
4)由緒書 1巻。2種あり、1は文化5年、覿氏5代の鉦鹿(おおが)蕗五郎の記すところ、
2は明治11年、同8代の篤義の記すところである。2書を併せて初代貌之攻以来の系譜や歴代の 略歴を知ることができる。もっとも明楽のことは元祖と略(呼名富五郎)のことしか書かれてい ない。この中興者は3代太左衛門の息子でありながら家名をつぐことを好まず、名を民部と改め 明楽師範となったと云う(巻末補注参照)。
5)儀礼経伝通解 宋・朱薫。巻14の詩楽に収めた唐開元遺曲と称する風雅十二詩語のうち10 曲が明楽譜に入る。但し忠実な工尺譜訳ではなく、所々に繁声を加えている。略称〔儀〕。
6)文廟礼楽全書 4巻。明・剤民悦韓。このうちの大成殿の釈莫楽章6曲は明楽譜に入る。
詞は元代の旧詞をやや改め、曲は窟同・冷謙の作と云う。略称〔釈〕。
7)律呂精義外篇10巻。明・朱載靖。巻2に収めた大常楽譜3首と明世宗御製楽章7首、巻7 の風雅詩語は何れも明楽譜に入る。但し表現法に少差がある。略称〔朱2〕。
8)郷飲詩楽譜 6巻。朱載培。18曲の詩語はそのまま明楽譜に入る。但し朱氏の律名譜を工 尺譜に改めている。略称〔朱3〕。
曲 目−
下表は本考の資料とした明楽の全曲目である。その順序は〔明3〕により、終りに〔明2〕〔春〕
による4曲の補遺を加えた。重複曲は一切省く。なお曲名に加えた番号を以下本考の曲名の代用 とする。また調名の略号として次のものを用いる一一二道宮=①、小石訝=②、正平調=③、題詞
=④、黄鐘羽=⑤、双調=⑥、双角調=⑦、仙呂詞=⑧、黄鐘宮=⑨、黄鐘商=⑲、黄鑓角=
⑪、黄鐘徽=⑫、仲呂角=⑱、仲呂徽=㊧。
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曲 甘 露 殿⑥ 沐 浴 子④ 桃 葉 歌①
(1)江 陵 楽⑦
(5)喋 恋 花③
(9)聖 寿①
(13)関 推⑥ 行経華陰⑤ (17)小 重 山① 玉 胡 蝶③
杏 花 天① 平 蕃 曲① 魔 頭 吟① 秋 風 辞③ 千 秋 歳⑤ 青 玉 案⑧ 風 中 柳①
(21)遊 子 吟⑤
(25)採 桑 子③
(29)賀 聖 朝②
(33)竜 池 篇⑥
(37)万 年 歓④
(41)水 竜 吟③
(45)大 同 殿③
(49)慶 春 沢① 玉 島① (53)荷 葉 杯⑤ 帰 雁④ (75)白 雪 曲② 人
南 望 斉 干 昭 金 破 憶 如
〕旋
紫 成 桂 休 凱 宝 望 謁 綺 西 清 新 酔 応
月 何 春 飛 君 蕉 陣 王 夢 山 紺
∵ 徳 花 成 容 鼎 江 金 羅 江 庭 荷 春 天
円③ (61)梁 甫 吟⑤ 子⑤ (65)随 頭 水③ 宮⑥ (69)迎 春 楽④ 房⑤ (73)嘉 辞 楽① 楽① (77)木 蘭 花① 怨① (81)点 緯 唇① 菓3 (85)鰐元 郎 帰⑨ 子⑨ (89)鳳 棲 梧① 孫③ (93)酔 太 平① 令① (97)伝言玉女① 亭⑦ (101)夏 雲 峯① 馬① (105)碧 玉 歌④ 楽⑥ (109)宣 烈 楽① 曲① (113)有 所 思⑤ 楽② (117)宛 転 歌⑤ 楽⑤ (121)寒 夜 怨③ 現① (125)雲 仙 引⑤ 南⑤ (129)霜天暁角① 門⑤ (133)寒 翁 吟① 香⑤ (137)江 神 子⑤ 月⑤ (141)柳 相 青3 芳⑨ (145)酔 紅 粧⑤ 莫⑤ (149)魚遊春水⑤ 風① (153)品 令④ 長① (157)玉 燭 新①
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楽 楽 鷺 調 楽 観 楽 仙 馬 吟 台 観 楽 台 曲 宮 仙 引 責 台 天 子 引 子 仙 怨 田 落 山 怨 苑 蓮 近 松 郎 宴 会
∵ 竹 花 春 陽 客 遷 平 夏 玄 帰 鶴 頭 風 台 天 仙 蓮 明 江 模 馬 春 鴇 香 常 冠 橋 階 留 花 商 人 春 浦 事 大 新 庭
∵ 繍
∵ 園 百 校 寿 佑 喜 清 昭 大 恩 瑞 天 白 鳳 玉 斉 登 採 大 臨 螢 君 燕 一 腰 行 大 女 鵜 玉 上 梅 終 姫 宜 隔 好 風 賀 後 恋 四 間 柱
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)楊 白 花①
)倣 燈 楽②
)関 山 月①
)酔起言志④
)江 南 弄⑤
)陽 関 曲⑤
)宮 中 楽②
)活 平 楽⑤
)月下独酌⑧
)洞 仙 歌③
)大 聖 楽⑦
)長 歌 行⑤
)述 帝 徳⑤
)宣 政 殿①
)折 楊 柳③
)聴 琴① 南 曲①
.1江
し)寿 酒④ i)短 歌 行⑤
))永 遇 楽③ 3) 卜 算 子④ 7)雨 中 花⑥ L)浪 淘 沙⑤ i)憶 秦 娩①
))酔 蓬 莱①
−3)故 郷 王⑤ 7)目 鼻 騙① 1)金 殿 楽⑤ 5)燕 歌 行① 9)昭 遠 楽① 3)古従軍行③ 7)海 栗 春① i完 渓 沙① 5)孤 鸞⑤
勢 堂中高 と
一 錦 朝 最 璧 南
梅⑤ 春③ 措⑥ 楼⑤
〕先①
浦①
116
(160)帰 朝 歓②
(164)夜 遊 官⑳
(168)感 皇 恩⑦
(172)江城梅花引①
(176)満 国 花
(180)大 筋 外 曲
(184)終 献①
(188)凝 和⑧
(192)通 真⑨
(196)皇皇者華⑳
(200)魚 靂⑫
(204)南LLl有台⑩
明 楽 新 考(林)
(161)霜 菓 飛⑤
(165)踏 捗 行⑤
(169)天 仙 子⑧
(173)燭影採紅①
(177)八声甘州
(181)「迎
(ユ85)徹
(189)寿
(193)敷
(197)南
(201)由
(205)由
(208)葛 要⑪ (209)采
(212)「鹿 鳴⑨ (213)四
(216)南有嘉魚⑨
(220)抱 巣④
(224)古南風歌③
(228)狩与那与⑲」
(232)古 南 風⑧
(236)「朔望祝聖儀①
(240)六 供 養⑬」
本 曲 補
(244)水 中 月④
⑦
⑥
⑳
春 令 令 京 兎
陵侭 と 帝魚
武 解師憶 摸
3 7 1 5 9 6 6 7 7 7 1 1 1 1 1
③
⑤
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吟 倣渡児 子
鳳家 草煤 流
丹 漁 芳 粉 風
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神③ (182)初 献③ (183)亜 餅⑳ (186)送 神⑧」(187)「達 轄⑨ (190)沖 玄⑨ (191)敷 祥⑨」(194)「鹿 鳴⑩ (195)四 隊⑳ (198)日 華⑳ (199)華 庚⑩ (202)南有嘉魚⑳
儀⑳ (206)関 惟⑪ 繋⑩ (210)巻 耳⑫ 牡⑨ (214)皇皇者華⑨
(217)南山有台⑧ (218)葛 要④
(221)乗 積①」(222)「立我蒸民⑳
(225)古秋風辞⑧」(226)「慶源発祥⑨
(229)撃壊之歌 (230)立我蒸戌①
(233)洛 浪 歌⑨ (234)曽孫候氏①
(237)五 供 養⑭ (238)音 楽 兄⑭
(241)烏 夜 暗⑧ (242)師 子 序⑤
(203)崇
⑧
⑩
⑨
⑩
⑳
◎
献 馨 祥 牡 黍 丘
(207)為 巣⑧
(211)采 顔⑬」
(215)魚 麗⑧
(219)巻 耳④
(223)思文后櫻⑳
(227)顕合幽今⑳
(231)恩文后穫⑳
(235)狸 首①」
(239)陀 羅 尼②
(243)鳥 栖 曲④
丑 楽器11種
明楽は歌謡を中心とする音楽であって、その旋律は工尺字で書いた笛譜で知ることができる。
工尺譜は古の十字譜に由来するが明楽では「勾」1字を殆んど用いない。稀に「中」を加える例 もある。これら工尺譜は笛・犀築・雲錦の旋律を現わすのに用い、京・売琶・月琴の譜は調絃さ れた絃、または絃柱の位置によって具体的に表示する方法をとっている〔図版A参渦〕。それは茸 竜や月琴では音図式の上でこそ工尺譜は便利であっても演奏の上では手法を加味したものの方が 役立つからであろう。明楽はこうして歌謡を中心、とはしながらも、すべて管絃考撃を伴っており、
調音のような純器楽曲を前奏にもつものもあり、これらを一丸とした音楽として理解するには 各楽器の奏法や記譜の知識を必要とするであろう。殊に家には譜の表面には隠されている旋律型
(掻型)をもっものがあり、これらに通じなければ、その昔を知ることすら不可能である。また工 尺字には1字2律兼用のものがあり、伝統を失った曲調のうちには、その弁別を迷わすものが往
々ある。これらを吟味して正解する上にも歌謡に伴った諸楽器の譜に通ずる必要が大いにある。
そこで以下各楽器の奏法や記譜法についてたずねてみることにする。(以下の楽律中、旋律・和 声楽器の音律については表7参照。)
種板−古の拍子の遺制で3枚の堅質板をもって作り、打ち合せて楽節をととのえる。楽譜に はエ符をもってその位置を示す。本曲では毎8拍子の始めに打つものが8二割の多きを占め、歌詞 では特に句頭、また句の中間に適宜に用いられている。
雲錦−1架10枚を1梓でうつ。その譜は雲形で示されるが実例は乏しい(35)。その他、往々
「雲環一拍子」(53 80 8188 96)とか「雲錦一字一拍」(181)の記入がある。その音律 のうち主に♯C〔器1〕〔春〕・C〔品弾〕の2説があるが、明楽主要調の必要度から前説をとりたい。
太鼓−扁平の胴に2革を張ったものを架一旧制は双竜型一にかけて2浮でうつ。その譜は「O」
一遍、「㊤」二遍、「0」三遍の符号を用いて区別する。鼓法には陰陽鼓・連鼓(独鼓)・三拍 子・四拍子・五拍子・雷鼓(雷声)の6種があると云う。
小鼓−投技用の円板形の鼓を架にかけ2挿一稀に1樟(22)−でうつ。その譜は⑳をもって示さ れる。鼓法には順鼓・三拍子・乱鼓・離達鼓・斐鼓・掃射の6種があり、地拍子を加えることも ある〔春〕。このうち楽譜に乱鼓(24 34 42 43 50 55)・離達鼓(12)その他が見える。
龍笛・長篇、−ともに6孔の横笛で律制も全く同じである。異なるところは膜孔の有無にあ り、〔器2〕によるとこれを有するものが長篇と明記している。〔わが国では明笛と通称している ものは、すべて膜孔をもつ。〕その拇孔は吹孔に近い方より順次一二三四五六と呼び、指法に弾・
羞・窺・放・札がある。一五孔は指示以外はつねに閉じる。諸書の記すところ標準音はa・h・
恥・d・e・鮮・梅に一定しているが、曲孟酎こよって音を高下することは可能であり、中(g)や 勾(肘)の用例もある。特殊な手として「六(a)に上の孔を開く」との注をつけた例もある(4)。
なお、わずかながら笛譜に日本雅楽風の唱歌をつけたものがある(33 41)。
笠−形制は和笠に近いが部分的の差がみとめられる。特に注目すべき点は第17管の律が彼の 乙(如)〔器1〕に対し、我は比(C)であることである。和笠の和音が明笠に代用されて以後、
明菜の恥の笠譜は過半Cの和音譜にゆがめられた。これと歩を合せて雲錨の律の恥もCとする説 を生した。明楽譜でもわが笠の和音をそのまま用いた具体例がある(22)〔明1〕。
常葉−横笛と同じ旋律を奏するに適した律制をもっている〔器1〕〔品弾〕。筒音は日本の楽 器より4度も低いのに拘らず、最上音においては短3度の差となっているのは一部の律の関係にく い違いがあるからである。〔明3〕には週童の所々にこの楽器の使用を指示しているのが見られ るだけである(50 62 86 96116)。
琵琶−4絃14柱で絃名は低より順次、元・亨・利・貞と呼ぶ。絃創こ放絃には選、その他は 柱の番号をつけて譜を作り1)「㊨」順弾、2)「盆」逆弾、3)「−」1絃弾の符号を添えて楽譜に 書き入れる。1絃弾き以外は順も逆も楽琵琶のようにアルペジオに弾く約束である。調絃は黄
(A)・林(e)・黄(a)・仲(d′)と仲(d)・林(e)・南(鮮)・責(a)の2種である。〔品弾〕に弾法を次の ように記している。「元ヲ押シ鼓ス時ハ元亨利貞ト鼓ス亨ヲ押シ鼓ス時ノ、元亨ト鼓ス利ヲ押シ鼓ス時ノ、元亨利ト 鼓ス貞ヲ押シ鼓ス時ノ、元亨利貞ト鼓ス或ハ利貞ト鼓事アリ合音也 同音重ル時ハエ絃鼓ス或ノ、四絃鼓ス(以下 略)」。表2は2渦紋による順逆の弾法例を示したものである。明楽では1曲全体を1絃楽器が弾奏 し続けることは稀で、琵琶言削こは若干これがある(719 2124 3189)。その他は1曲のうち の定められた所に用いることが多い。
月琴−古の既成の流れをくむもので、複2絃14柱をもつ。東京芸大蔵品には亀甲の細長い頂 を添えてある。低絃を天(●符)、高絃を地(葛符)をもって示し、これに塾とか柱の番号を加 えたもので譜を作る。調絃は黄(a)・林(e′)と仲(d)・黄(a)の2種で、何れによっても12律のすべ てを奏することができる。もっとも楽譜例ではd・e・#f・#g・a・h・鱒C(C)に限られ、一般に
118
明 楽 新 考(林)冬 て 利 垂ぴ7 一旦・
迫堅 蒜を
天より地を多く用いる。譜には多く複絃の単音として記されているが、時に合音に弾ずることも あって、「天散と天地合」(10)の例を見る。なお、譜の上での月琴は1曲全体的に用いることは 稀で(21)、大抵2〜4字をもって散在する。これは他の絃楽器も同様であるが、譜の表現が他の2 楽器よりも簡単である点から、実演にあたってはこの与えられた絃音を基本として何かの技法を 加えて弾奏したものではないかとも思われる。例えは近世の短頸の清楽月琴が旋律を小刻みにリ ズム的処理をしているのと同様に−。
認−14絃の小型のこの楽器の明楽における位置は重要である。それは8調の規範が恋絃によ って作られているからである。その絃名は低より順次一二三……をもって呼び、ただ十以上をそ れぞれ黄・呂・文・武とも呼ぶ〔中〕。譜に用いる符号は1)㊥大指1絃弾、2)01絃弾、3)l12絃 同時弾の3種で、この符号に絃数をつけて譜を作る。この他に1拍子・2拍子にかけて特殊な旋律 型の存在を示す朱の弧線を用いることもある。奏者は右手指で絃を弾く。その指法については一 応、大・人・中・名の4指の入出絃法が説かれているものの、楽譜上には大・人・中の3指と入 出紋に向(出)・前ぐ入)の記入が稀に見出されるのみである。左指は原則的には不必要で、もし 押手(46 60121)・曳手(125)を要するときは譜にこれを指示している。
調絃は8種で8調に応ずるが、これについては〔品弾〕・〔中〕・〔春〕の3書の記するところは一 定し、その組織成立のかげに、ある疑問が存するにせよ泰独自の接型と共に覿略の時代には実用
していたものと判じられる。筒井景周の所謂「貌楽所伝凡八調、皆徽之蒙絃、蓋唐八十四訝之遺 也、如其定絃之法、操綬之度、則魂氏伝授之秘訣、得之耳」〔器1〕の語のうちに以上の調絃(定 絃)制の存していたことを推測することができる。その調絃の型は1官調・3商調・3羽調・
1角調の4型ある。今これを表3に掲げる。〔一印は各調の主絃を示す。〕
表 3
官調型と商調型の差は第1絃の問の1音だけである。したがって主音を同位dにおく宮調の退官
と商調の双調では第2絃以上が完全に同音の調絃をなっている。もっともこれらに与えられた声 名は全く違うが、こんな関係をもつことから遺調と区別のつけられない双調もありうるのである。
4型のうちやや問題のあるのは羽錮型である。その対応絃である3−8、6−11絃は互に半音の 差をもつから合音の場合は高位舷に押手を与えて半音だけ高める必要があるが、楽譜では自明の こととしてか大抵注をつけていない(2 4145)。家の調舷にはこの他に車型と生堅固と云うの があると〔中〕に見える。その正体は明かでない。
接型の規格について。蒙には独自の揺型(かきかた)−一1種の旋律型−が十指を屈するほ どあり、曲によってこれを指定している。それらは調名と共に曲の大切な標慨となるものであっ て、三正・再正・急正・筍正・正編・稲作・大福・中指・大中稲・小節・乱摘と呼ばれている。
その弾法については従来〔中〕にわずかに6種の略解を掲げるのみであり、具体例が乏しいため に、その実体は全く不明であった。〔明3〕の記譜例の検討により次第にその大意がわかり出した のである。これらの技法は大別して正と塙の2群に分つことができる。正字のつくものは4字、
再正は8字の先行絃音をもつところの㊨(大指弾)を骨子とし、痛字をもつものはIl符の意味す るところの2絃の合音を骨子とする。正塙は両方にわたり、小節・乱摘や0符をもつものは大 抵、塙に属している。指法については先行4音のうち、始2字は人指、後2字は中指に一定してい る。塙の合音の先行では大轟が大指、中塙がr国旨となっている。その他はこれに准ずる。今本曲に 現われた11技法の特色をわかり易いように表4にまとめて掲げておく。〔(早弾、宍合弾。〕表5
数 備 考
120
明 楽 新 考〔林)の五線譜訳のうち塵に所属するものには先行音の絃名を欠くものが多いので、それらは私案によ って補った。……を附したのがそれである。これらの2表の対照によってもわかるであろうが、
三正等において、人・中指の弾ずる4音は要するに入棺の絃音に応ずる1絃をめぐって装飾的効 果をあげるだけのものにすぎない。
∬ 管 絃 組 織
前節で明楽の楽器とその律について注目すべき点を個別にとりあげてみたが、ここではこれら の楽器の譜を一丸として、小管絃楽譜の体裁をもつ〔明3〕の踪合的な考察を試みたいと思う。
これは従来、明和刊本等、主として笛譜しか書き込んでいない楽譜からでは到底望めない仕事で ある。
拍子−明楽には唐楽の所謂拍子の明記がない。しかし楽譜の1区画が拍子の1単位を表現し 表 5 ているので、これをどう組み合せて
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いるかを、旋律形体・絃楽器の配置
・大小鼓の打ちどころなどを参考し て観察することから、唐楽のように 8拍子とか4拍子とかの拍子の規格 を見出すことができる。こうして一 応本曲のすべてを整理した末、8拍 子、すなわち8区画を単位とするも のがもっとも多く75%を占めること を知った。これに次ぐのは4拍子で ある。残りは4拍子を中心に2・3拍 子を加えた混合拍子が占め、稀に6
・10拍子がある。これらのうち、規 則的な拍子をもつ曲では、拍子1個 の間に3種の絃楽器がどこかに記譜 されるのが常例である。しかし8拍 子のうちには末を4拍子をもって切 り捨てた例がかなりある点から、8 拍子はむしろ4拍子2個であり、そ の絃楽器の配置も「京と重曹」「蒙 と月琴」の2組の4拍子の場合もあ ってよいのではないかとも思われる のである。ともかく明楽では4が拍 子の基本数であると認めてよい。そ の楽譜が1行8区画をもつのは合理 的である。ときには6拍子の曲を1行2区画ずつ空自として整えたり(24)、不規則な拍子をもち1 区画のちらを使用したために、1行の末に集の区画分を空自とした例(14)もある。曲の終りと か、曲の中半において譜の書き入れの全くない空白部分があれば、それは拍子外として、とり扱
うべきことは上の例と同様である。ともかく明楽には唐楽的な拍子の明記がないが、蟄然とした 1行8区画の譜を使用するかげに、拍子についてもかなり細心の注意をしていたことは想像でき
る。
管絃組織−一明楽が唱歌を主としたものであることはすでに知られている。諸楽器の役は、歌 声に和し、それを助けるのにある。それで宮掲園は次のように記している。−「此楽以敢為 主、諸楽器皆倍歌而和之耳、如其雅俗、則姑不論悪、試拾歌声、唯以練竹奏之、則不覚異体製甚 有異同、但即歌曲詳之、則毎曲各存一体、故愈出愈奇、不可測也」(明1)。もって管絃の地位を 知るべきである。しかしながら管絃は歌声を助けても歌声を乱すことを、おそれられている。そ こで管絃の使い方に細かい心遣いがなされているわけである。このことは楽譜を通じてもよくわ かるところである。竜笛・長篇は歌声のpitchを教え、歌声と平行して曲を奏でる。これが歌者 にとっても必要であり、明楽譜の歌詞に笛譜をそのまま、つけている理由でもあろう。痺築は恐 らく笛と同音であるので譜は一切略したものらしい。笠の譜も第1巻の注を通じて一応曲の始め から終りまでつけているが、或は唐楽の場合のように密集とともに付所があって、途中から笛に 加ったものかも知れない。ところが3種の絃楽器は一様に異様なとり扱いを受けて管と奇妙な対 照をしている。それは指弾絃楽器では旋律において到底、笛類に及ばないので、管とは違った手 法を加えることによって、却って合奏楽的に高い効果をあげようとしたのであるかも知れな い。
楽譜では宏・琵琶・月琴はそれぞれが1曲の全体に現われることはほとんどない。もちろん例 外も稀にはある。そこで実際の演奏はどうであったかと一応不審に思われる。景周は「‥・故諸絃 斉弾、如同一絃、衆管芽吹、如同一管」〔器1〕と述べているが、3絃楽器が同拍子に記譜された 例は案外に少ないのである。もし諸絃斉弾で始終するならば、語学散在のまま、それなりに統制 のとれている多数の曲譜の存在は何んと説明してよいだろうか。「硬膏皆弾」の注のある曲は、
たしかに全体にその譜を並べているが(7)、若干の曲(243189)の他、琵琶譜は散在的であ る。これは宏や月琴においても同様である。和音を多く用いる売膏や独自の旋律型を奏でる泰の 絃音が、そのまま他の絃に反映するとは思われないし、歴然たる180曲の共通表現を前にして
は、「諸絃如同一絃」の奏楽状況などは到底思い浮べることはできないのである。
譜の上での3絃楽器は、それぞれに整然とした位置づけをされており、更にこの3楽怨が互に適 当に組み合って排列されている傾向がみとめられる。その中心は京と恩われるが、家と他の2楽 器との結びつきは同拍子に現われる場合をのぞき、a)宏一}琵→月、b)恋→月→茸、C)麦→琵、景
→月、d)その他混用に分けることができる。これらは同一圏内においてその位置をかえる場合 も多く見られる。例えばa)茸→月→忍、月→琵→琵、b)月→琵→家、琵→麓→月、C)葱→月、
蒙→琵‥・のどとくである。3楽器のうち、3着が同拍子に現われる例は全曲中十数例にとどまる に反し、2者のどれかが同拍子に現われるのはかなりの数にのぼる。また1曲全体に3者とも完 全に離れて存在する例はかなりの多数にのぼる。これらの現象着通じて3楽器は同時合音的であ るよりは、むしろ継起的にうけ渡されるかのように使用されていることが推測されるのである。
3楽器の進退が全くの同型の反復であるものを表6に掲げる。〔必=麦、比=茸竜、月=月琴。
○はそれぞれの譜を、−は意の正の先行部、‥・は椙の先行部を示す。〕
3種の絃の組み合せについて概算したところ、2曲以上で同じ型を保つものの総計は本曲全部 の40%を占め、残りはおよそ1曲1型に近いものであることがわかった。3つの絃の組み合せだけ なら一見簡単なように考えられても、そのうちの1型にしても家の11掻型による技法や琵琶の単
122
三 正(110)
明 楽 新 考(林)
表 6
・〇・ ︑
・〇 〇
・〇・
・〇・
・〇・
〇・
必 比 月
〇・
必 比 月
〇・
必 比 月
一〇
中
・
・〇 〇
拾
︵ 6 9 ヽノ・ 〇 〇 〇
再 正(53)
・一 〇 ・
〇・
〇〇・〇
急 正(24)
一
〇
〇
〇〇・ ・〇〇 必 比 月
〇・
〇〇・〇
〇
〇
〇 D 0 0 0
8
︵
一
〇
・
正
一
・
〇
覆
必 比 月
・〇・正
〇〇・
後 1
一
・
〇
必 比 月
・〇 三
∩ ︶ ・ 必 比 月
.
・〇・ 〇〇・
ヽノ0 5
〇
・
l︵
正
〇
・
〇 正(50)
必 ○ ・
比・ ・ 0 0 月 ・ ○ ○・
・〇
〇
・
〇 必 比 月
音・重音の差をからませたりすれば、たちまち変化する。その上、太鼓・小鼓の加え方によって は、また差違が生ずるであろうから、1曲1型の感を呈するものが、かなり多いのも当然である。
旋律と和音−明楽の楽器で始終旋律を奏でるのは笛・痺饗であり、雲銀は恐らく1拍子に1音 程度の晋を鳴らしたのであろう。これに対して明笠は雲銀同様の簡素な旋律線の上に2つ3つ程 度の和音を積み重ねたものを奏したと思われる。このことは明の釈莫楽章の笠譜を介して想像が つく〔釈〕。その後和笠の和音を採用するようになってからは唐楽風の奏法をとったものと思われ る。〔春〕・〔品弾〕に示した和音は唐楽のものと全く同じである。一方3種の絃楽中、もっとも簡 素な表現をもつ月琴の役目は表面的には旋律のごく一部分を複絃音をもって彩るだけである。こ れに比べると丑琶ほ和音的に活動する分野をもち、楽豆竜の掻撥・返撥・一機の手とほとんど同 じものをまじえて、その上音部に旋律の一部を坦うとともに、その下に和音を重ねることが多 い。その他、単絃をもって分散和音を弾くこともある。最後に家は11種の掻型を標望して旋律に 参加する。その主奏部は必ず曲の旋律と合うのが当然であるが、これらは本来1種の旋律型にす ぎないから、正や指の先行部の旋律が笛に合わない場合があっても意外ではないのである。とも かく正は特別の型の緩徐な分散和音と見てよい。〔明3〕は簡単ながら、このような機能をもつ楽 器の総譜であることを知って、譜のかげにかくされた楽器や曲節を思い浮べつつ読む必要があ る。いま旋律を主とするもの、和音を加えるもの、その他8調の律に応ずる楽器の音律関係をわ
ヽ
かりやすいように表7に示してみる。凡例:1)前考には琵琶の秘調、月琴の2調、家の8調を 掲げなかったので今これを補う。2)工尺字は「合(ム六)・五(四)・乙(一J・上・尺・工・凡」
のうち()内の字は略す。3)別に「中」字を加える。4)雲鏡と明笠は〔器1〕記載の本来の 律を掲げる。
夢と旋律−一家の三正などの掻型は豪としては大切な装飾的奏法とも云うべきもので、その一 つの型一例えば三四二三七一一のうちに現われた帰着音〔ここでは七〕は笛の旋律に合致しても、
先行音〔ここでは三四二三〕ほ必ずしも笛に合わないことは上にも述べたごとくである。こんな
均
均
雲
124
明 楽 新 考(林)点から明楽は家一売琶・月琴もーをあまり念頭におかずに旋律を作られているように思われるの であるが、この予想を裏切るものがかなりある。それは三正の若干曲(特に7880838588)と 硬正の全曲である。その何れも三四二三型をもっている。三正にせよ、後正にせよ8拍子か4拍 子毎に掻型をもつものであり、その位置において整然と笛の旋律と合うとすれば−2つの間のわ ずかの表現の差は無視して−その合致する旋律は笛よりも家の方が先在的と云ってよい。家は常 にある型のうちでしか旋律的行動は許されず、したがって笛のための自由な旋律に接型をもって 常に追従することは不可能だからである。少なくともこの場合、三正の旋律癖や明楽の基本型に 通じた人によって始めて作曲が可能であるだけであるハ恋の掻型による旋律が笛の先駆をなして いるとしか考えられないもっともよい例は後正の8曲で、何れも4拍子をもっている。後正の1単 位は3拍子をとるから、これらの曲は、ほとんど掻型のetudeに後から歌詞をはめたような感じ
をもっている。殊に興味をおぼえるのは、揺型の帰着音にあたる絃を順次高く、または低く並べ た曲(81130)のあることで、全く器楽的な作曲であり、歌詞を従とした曲としか思われない。
その1つには特に上記の帰着音だけを曲名の下に「六七八九十十九八七六六七八九十七」と指示 している(84)。これと同様の表現をもつ曲が三正に3曲(808385)もある。その1つには「六 七八九十三十九八七六七八九十、可弾」の注が与えられている(83)。当時の作曲の手法の一傾
向を見るに足るであろう。〔巻末の5線譜訳第3曲参照。〕
秘調−琵琶・月琴にはそれぞれ2調舷があり、その組み合せ方に一定の約束がある。すなわ ちa)茸:Aead!調一月:ae′訝、b)敢de#fa訝一月琴:da誼で、後者はともに秘調である。〔明3〕に現わ れた本曲の全譜を検してaは87曲(1〜87)、bは85曲(88〜173、但し170は不記)で相半ばして いる。秘調は琵琶と月琴だけに関することであって、これを用いる上に伝授の制限があったので あろう。このような多数の曲まで同時に秘したものかどうか、この点は明かでない。
湘音−歌曲本位の明菜のうちに、歌声をはずした少数の器楽曲がある。これが調音と呼ばれ るもので、唐楽の音取・調子のようなものである。これをもつものは12曲(334150628896 99100101116121159)ある。短いものは16拍子(33)から長いものは52拍子(41)に及ぶ。
どの曲も笛が中心であり、簡単な曲では笛と太鼓、更に小鼓を加えただけであり(334150 62)、わが乱声を連想させる。その他は歌曲と同様の楽器を用いたらしい。なかには初遍は笛が 独奏し、2遍に笠が加わり3遍に葱と庫賓が加わる一打物は別一一と注したもの(62)や、具体的 に諸楽器の加わる拍子の位置まで譜の上で示した好例(8896)もある。楽器の加え方に一定の法・
別はないようであるが、太・小鼓と笛に始まり、適宜に他の楽器を加えて行くことだけは共通し ている。その旋律は歌声にわずらわされない自由さをもつが、明楽的な規格からはずれることが 許されず、旋律のうちに家の三正の絃音を写した例がある(8896)。
調音の他に歌曲の中間に介在する短い金型葦がある。実例としてわずかに2曲(2223)があ げられる。何れも歌詞の行に楽器の譜を書き入れて表現している。一つは笠譜(〔明1〕には合竹 を表示する)のみを、一つは工尺譜を、別行に琵譜(大中塙)を書いている。以上が〔明3〕に見
られる器楽的なもののすべてである。
凡・乙の律−明楽においては8孟闇の差なくd・e・鮮・a・hの5音を通用しているために、夷則 均の仙呂調はその正当さを失っている。のこる凡・乙のうち、凡については従来抱に一定してい たが、念のため乙と併せて絃譜及び一部笠譜を対照して、〔明3〕全曲を通じ何音が妥当として いるかを検討し、また矛盾する場合には是非を批判してみたいと思う。
1凡。明記されたものでは1例の他、すべて抱にあたる。一小石訝(16262729116)。黄鐘
羽(16125)。双調(18)。仙呂調(35)。なお不記のものは正平調(1020414344)、黄鐘羽
(33)に経過音として現われている。無射・爽鐘・夷則3均では本来gをとるべきであり、黄鐘羽 の1曲(23)に「 ̄中」(g)を用いた例があるので、譜に#gとなっている場合でも、仲呂均以外は半 音を低くする約束でもあったのかとも思われないでもないが、琵琶の第1〜4柱のように半音間隔 におかれたものについても、特に「亨三」(亨二はg)を用いているのは、この予想を裏切る。し たがって明楽では使用の律を仲呂均中心にまとめ、梅を他の均に通用していると原則的に認める 他はないのである。
2 乙(−)。もっとも問題を起すのはこの字のもつ律であって、楽譜上ではかなりの混乱の姿 が見られる。まず本来恥をもつべき仲呂・無射2均のみならず、本来これを不必要とする夷鐘・
夷則2均にも併せて雛を用いている例がある。一一退官(12107)、小石璃(26 27 2957116)、
越訝(7183)、黄鐘羽(237094117125165)、双調(433)、双角調(6)、仙呂調(3586)。一 方仲呂均以下に乙にCを与えた例も少なからずある。一道官(1176)、小石調(14262729 116)、正平調(4379162169)、越調(83)、黄鐘羽(117125146149)、双諏(4)、双角調
(16163)、仙呂調(3586)。C・C#不明記のもの。−小石調(170)、正平調(41)、越訝(15)。
以上のように乙についてはC・♯Cを与えるものがそれぞれ通算20曲以上あり、なかには同一曲 で2様に記譜したものもある。後の場合は何れかが不正と見るか、一方を均外の声として装飾音 的に用いたものと解釈する他はない。ところで楽譜上ではd・e・鮮・a・hの律が一定し、さらに 凡が抱をとるときほ、調としての音程関係からして乙に#C以外を与ええないことは自明である。
この譜の上に明確にC・恥が混在している現象に対して重要な解答と思われるのは和笠の和音採 用に伴う転靴である。明星の第17管乙(♯C)の和音を和笠の第17管、比(C)の和音で間に合わ せたために明笠の乙譜は機械的に和笠の比譜に移され、仲呂均や無射均で必要な恥にもCを与え る動機をもたらしたと推定する。もっとも笠譜のユ(如)に訳されている例もあるが、それは明 譜では丁(#C)とあったものであろう。このような律の転説に呼応するかのように雲銀の10枚 中、本来♯Cであった乙〔器1〕・〔春〕がC〔品弾〕に移動したものも同様に考えてよい。
Ⅳ 声 調
明楽では何れの曲にも所属の諸を示すために謂名を与えている。これらの調は意の訝絃と密着 しているものであり、作曲者・編曲者の考えによって処理した形迩があったために、むしろ他の 調と判断したい場合もありうるのである。殊に外曲では恋の調名はほとんど便宜的な附与と云っ てよいことが多い。今、1)本曲については、それらに与えられた調をそのまま、2)また外曲に ついては、曲のグループ毎にその声調を明楽の標準に照らして妥当と思われる調に解釈して、両 方の調の全貌を概説し、前考の補遺としたい。
本曲の認「一一(l)仲呂均では乙にC・恥2説があるが#Cが妥当であることは、すでに述べたごと くである。凡はすべて鞄にあたる。今この意をくんで仲呂3均をながめる。1)遷宮の大多数は d・e・♯トa・hの5声曲で占めており、正当に終止するものがもっとも多く、越調に似たものも
ある。2)小石調は2群あり、1つばeに終止、1つは#gに終止する。これらは同一瀬とは思われ ないものを明楽では琵調としての便宜上、併合したものかも知れない。3)正平調も遺宮同様純5 声曲が多い。(Ⅱ)無射均においては、その官にあたるgを明星や雲鋸では「中」をもって表現して いるが、楽譜の上では「中」は稀にしか現われていない。多くは「中」の代りにエ(触)を代用