単旋律音楽におけるリアルタイムビートトラッキン グの実現
著者 近藤 弓末, 西野 順二, 小高 知宏, 小倉 久和
雑誌名 福井大学工学部研究報告
巻 46
号 1
ページ 25‑35
発行年 1998‑03
URL http://hdl.handle.net/10098/3391
福 井 大 学 工 学 部 研 究 報 告
第46巻 第1号
1998年3月
単旋律音楽における
リアルタイムビートトラッキングの実現
近 藤 弓 末 * 西野
IJ慎二紳 小高知宏** 小倉久和**
R e a l ‑ t i m e B e a t T r a c k i n g o f On e M e l o d y M u s i c
Yuzue KONDO, ]unji NISHINO, Tomohiro ODAKA and Hisakazu OGURA
(Received Feb. 27
,
199B)We study beat tracking system,出atprl配essesa
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ustic signa 1
s of music and recogI也estempor a 1
positions of恥a飴 inr,伺1time. Beat回ckingis an important initia 1
step泊 ∞mputeremulation of human music understanding, since b回ts紅e fundament a 1
to出.eperception of music.I n
addition, music a 1
beat回c泊19is useful for羽riousapplications such as video/audio editing and s包geligh也19∞
n位 。 1 .
Our system forl舵 おt白eb阻 飴byacoustic signals and也eknowledges of music.ηle siganls have relation句 白etime of sound ‑input. One of也eknowledges is tempo.Th
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B e a
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put,On
e Me10cly1 はじめに
25
プロモーションビデオや,舞台の照明等,音楽に同期させて編集・変更するものが多々存在する.こ れらの作業は,現在手作業で行われており,中には大変な作業になるものもある.パソコン上でリアル タイムに拍を検出できれば,音楽との同期をとる作業を簡単に行うことが可能である.
コンピュータ上でリアルタイムにビートを検出することは難しい.なぜならば拍というものは,特 定の音響信号ではなく,人聞が知覚する概念であるからである.そのため,コンピュータ上での定義が 非常に困難である.しかしコンサート会場等では,前もって打ち合わせをしたわけでもないのに,そこ に居合わせる人々の手拍子がひとりでに合っ、てくる.また,我々がひとたび手拍子を打ちはじめると,い ろいろな打ち方があるにも関わらず,いつも等間隔に手を打つようになる.しかも 等間隔であるとい うだけではなく,歌われる曲によってその間隔を長くしたり短くしながらも,同じ曲なり部分が続く限
・大学院工学研究科情報工学専攻
・・情報工学科
り,等間隔に打つ.このことは当たり前のことのように思えるが,これはやはり,我々が聞いている音 楽自体に,手拍子を秩序っ・けるものがあるためと推測される.これらのことより,音楽情報の中にその 手拍子を秩序づけるものがあり,これを見つけることができれば,コンピュータ上でリアルタイムに拍
を検出することが可能であると思われる.
本研究では,パソコン上でより簡単にリアルタイムにビートを検出することを試みた.今回は,まず,
音楽的にも単純である単旋律の音楽からのビートの検出を試みた.2節では本研究における拍の定義, 3 節ではリアルタイムピートトラッキングの実現方法, 4節でその結果, 5節で考察とまとめについて述 べる.
2 拍の定義
第1節で述べたように,音楽情報の中に手拍子を秩序づけるものがある.この 秩序づけるもの"の1 つに音の鳴るタイミングがある.人の場合を考えると,音楽を聴いて拍をとる時,例えばドラムの音に 非常に大きな影響を受けて,このドラムの音と重ねて手拍子を打つ場合が多い.また,メロデイの音で あるとか,伴奏の音であるとか,音の鳴るタイミングに影響を受けている.もちろん,これらの音は楽 譜上では音符で表されている.つまり,拍はほぼ等間隔で現れることが多く,楽譜情報の音符と重なる
ものが多いことがわかる.
また, 1拍の長さというのは,その音楽の演奏速度,つまりテンポによって決まる山[2].人が演奏す る音楽では,その演奏速度に揺らぎがある.そのため,厳密に1拍の長さを決めることはできない.し かし,人が拍をとる場合にはこのテンポの揺らぎにも自然に対応している.
本研究では,人が拍を知覚する場合には主に音の入力とテンポの2つに影響を受けていると考え,拍 の検出を行った.実際に今回使用した音響信号について見てみると,図1のようになっている.これは,
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鳥の歌J [ 3 ]
という歌の一部で,楽譜はその主旋律の部分を示し,下に実際ピアノで演奏したものの音 響信号の波形を示している.波形の下に実際の音の入力時刻の系列を示しである.実線は実際の拍と関 係のある音が入力された時刻を示し 破線は拍とは関係のない音が入力された時刻である.主旋律の楽譜│
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音響信号
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発音時刻
│ 拍のある発音時刻 i 拍と関係のない発音時刻
図1:単旋律音楽の音響信号の例
このようにみると,ピアノ音の場合,入力された時刻に音響信号の振幅もほぼピークを迎えているこ
27
とがわかる.以下音が入力された時間を発音時刻とする.このため,振幅がピークを迎える位置を検出 すれば,拍を検出する手掛りになると推測される.しかし,発音時刻全てが拍と一致しているわけでは ない.ここでは,システムにその音楽がどれくらいの速さで演奏されているかその演奏速度をあらかじ めシステムに与え,これとが発音時刻を手掛かりとして拍の検出を行う.
3 リアルタイムビートトラッキングの実現方法
人が拍をとるときに音が鳴るタイミングに非常に大きな影響を受けていることに着目して,リアルタ イムビートトラッキングシステムの実現を試みる.今回,音楽データとしては音楽的にも単純である単 旋律音楽を対象
[ 3 ] [ 4 ] [ 5 ] [ 6 ]
として.r
ピアノ演奏jと「人の歌声J
を例に拍の検出を行った.また,その 音響信号の特徴を解析するために,サウンドカード上で録音再生可能な時系列データであるWAVEファイルを使用した.
3.1 単 旋 律 ピ ア ノ 音 楽 か ら の 拍 の 検 出
単旋律ピアノ音楽では発音時刻に振幅がピークを迎えていることを手掛りとして拍の検出を行う.図 2にその処理の流れを示す.ピークからピークまでの時間をBnとする.このBn'こよって次の拍の位置' tn+lを予測する. しかし,先にも述べたように,全ての発音時刻が拍と一致するわけではない.そこ で,システムに事前情報として,その音楽がだいたいどれくらいの速さで演奏されているかを拍の時間 間幅Hとして与えた.発音時刻と時間Hとを手掛りとして拍を検出した.
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附[ ピ ー ヲ か ら ピ ー ク ま で の時 間 ‑
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図2:処理の流れ
次に,各処理について具体的に説明する.まず,入力信号に対して,閥値を設定し,入力信号の振幅が この関値を越えたときが発音時刻であるとする.この間値は,音楽の1番最初の音が入力されたときの 振幅の85%とした.これには2つの理由がある.1つは,ピアノ音であるために,音の1つ1つに大き さに違いがあり振幅のピーク値に違いがあるため,最初の音よりも小さな音でも発音時刻を検出できる ようにするためである.もう 1つは,この閥値をあまり低く決めると,減衰途中の振幅や音が出力され ている時間が短いために減衰が少ない聞に次の音が入力されてしまい,正確な発音時刻の検出を行えな い.以上の理由より,関値をl番最初の音が入力されたときの振幅の85%とした.図3には,発音時刻 と拍の予測の関係について示している.上が発音時刻の系列,下が予測された拍時刻の系列である.図 に示したように,発音時刻を bn• 予測された拍の位置を九と定義する.その関係は以下のようになる.
Bi = bi+1 ‑bi ti+1 = bi +Ti
時刻
予測
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g 強
発音時刻 の系列
ビート時刻 の系列
t1 tl
図3:拍の予測
T
1=H
ただし .Biと公の聞には次のような関係がある.
(IH ‑Bil ~ O.lH) (H ‑Bil
>
O.lH)H =Ti Tiが同じ値で5回以上続いたなら,
と置き替える.また,図3のb3やbjの後のように,休符・長音等によって前に予測された拍の位置の付 近に発音時刻が無い場合,つまり
H
ぱFO
噌i
O
一
>< 一 り り 一
一
1d +
‑aJ.qJ
'n v' hv
である場合には
bj+1 = bj
+ 勾
としている.
拍の時間間幅に誤差を設けているのは,人の演奏する音楽では演奏速度が微妙に揺れているため,そ れに対応できるようにするためである
.H
をR
によって,変化させているのもこのためである.また,音楽的に単純な旋律のものについて考えているため.4/4拍子で16分音符より短い32分音符等はほと んど楽譜上に現れないものと仮定している.Hを1と考えたとき 16分音符の長さは0.25と考えられる.
32分音符が入力された場合も考慮してO.lHという値にした.
また,休符や長音によって発音時刻を予測された拍の位置の付近で発音時刻を検出できない場合には,
その直前の発音時刻を基準として次の発音時刻をあるものと仮定して,次のBnの値を求めた.
29
3.2 人 の 歌 声 か ら の 拍 の 検 出
同様にして,人の歌声から拍の検出を行った.図4見てみると,人の歌声の信号もピアノ演奏の音楽 の信号のように,拍の位置で振幅がピークを迎えていることが多い.そのため,ほぼ単旋律の音楽のと
きと同じ方法で拍を検出できる.しかし,信号を見てみると,ところどころ拍ではない位置でピークを 迎えていたり,信号が減衰せずにそのまま維持されていたりしている.そこで,人の歌声から拍を検出
信号のピーク
図4:発音時刻の検出
する場合には,まず関値を最初に入力された信号の90%とした.ピアノ音よりも閥値を高く設定したの は,人の歌声ではピアノ音よりも減衰しないからである.そこで予測された拍の付近で発音時刻を探す 場合,その前後で振幅がずっと閥値を越えたままならば,音がのぼされていると考えて予測された拍の 位置に次の発音時刻があるとした.また,図4に示すように,人の歌声では必ずしも発音時刻に振幅が ピークを迎えているとは限らない.しかし, 1つ1つの歌詞を発音した後には必ず振幅にが極端に滅衰 している.そのため,振幅が閥値を越えたところで発音時刻とできると考えられる.ピアノ演奏ではほ とんどが振幅が闇値を越えた位置がほぼ振幅がピークを迎えて発音時刻であるのに対して,人の歌声で は,実際にはピークでなくても同値を越えた位置を発音時刻としているのである.
後は単旋律の時と同様に,発音時刻bnからbn+Iまでの時間をBnとしこれを演奏時間H と比較するこ とにより,次の拍を予測した.
4 拍検出の結果
3.1, 3.2節で述べた方法で拍をリアルタイムに検出を行った.以下に単旋律で行った場合と人の歌声で 行った場合についてその結果を示す.なお音楽データとしては,圧縮されていなくて操作しやすいWAVE
ファイルを使用した.
4 . 1 単旋律ピアノ音楽の結果
以下にまず,単旋律ピアノ音楽において行った拍検出の結果について示す.単旋律ピアノ音楽におい ては,音楽的にも簡単でリズムがなるべく単調であるものを5曲選曲し,まず実験を行った.その次に シンコペーションを含んでいる等リズムが少し複雑になった曲を5曲選曲し実験した.その曲のリスト を表
1
に示す.曲は,小学校・中学校の音楽の授業で使用しているテキスト[ 3 ] [ 4 ] [ 5 ] [ 6 ]
から選曲した.以 下にそのいくつかについての結果を示す.表1に示した10曲のうち7曲は拍を正しく検出することができた.その中から 2つの結果を図5・6 に示す.以下に示す図では 1番上にその音楽の主旋律の楽譜,真中に実際にピアノで演奏したときの 信号, 1番下に実際に検出された拍を示している.信号と拍の横軸は時間(秒)で一致している.図5は
│リズムが単純なもの │リズムが複雑なもの 手を叩きましょう │手のひらを太陽に
とんほのめがね │小さな木の実 クラリネットこわしちゃった│大空讃歌
鳥の歌 │気球に乗ってどこまでも
虹と雪のバラード │未知という名の船に乗り
表
1:ピアノ演奏の実験を行った曲リスト「クラリネットこわしちゃった
J
での拍検出の結果,図6は「未知という名の船に乗りjでの拍検出の結 果を示す.与えたH=O.5秒
‑E
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図5:クラリネットこわしちゃった(ピアノ)
与えたH=O.5秒
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楽情 ・~ζ .,
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検出した拍│
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図6:未知という名の船に乗り(ピアノ)
このように,図6に示した結果のようにリズムが多少複雑になっても拍の検出を行うことができた.ま た,図7に示すようなものもある.
図7は「小さな木の実jで拍の検出を行った結果である.この曲では,拍子記号は'6/8'になっている.
これは1小節に8分音符が6つ分の長さの音符が入るということであるが,実際には2拍子とみなすの が普通で,拍の3固に1回しか手をたたかない.本システムでは拍子記号も指定できるようにし, 6/8' のときには,拍の出力を3回に1回出力するようにした.
31
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図7:小さな木の実(ピアノ)
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ずれ ピアノ音 での演奏
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図8:気球に乗ってどこまでも(ピアノ)
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E声図9:クラリネットこわしちゃった(人の歌声)
機 出 さ れ た 拍
しかし,表1に示した曲のうち2曲はうまく拍が検出できなかった.その結果の1つを図8に示す.図 8は「気球に乗ってどこまでも jで拍検出を行った結果である.このシステムでは,音の入力を手掛かり として拍の検出を行っているため,この曲のように曲の始まりに半拍の休符が入る(シンコベーション) と,始めからすでに半拍ずれて拍を検出するので,裏打ちになる.図8の検出された拍で,破線で囲ま れている部分が半拍ずれいる部分である.しかし,演奏速度の揺れによって,途中で長音が入ってくる と偶然その後の拍が正しく検出されることもある.同じような理由で「大空讃歌jについても,拍の検 出を正しく行うことができなかった.
ピアノ音楽では,シンコペーションのものを除けば,多少リズムが複雑になっても拍を検出できた.
人 の 歌 戸 か ら の 拍 の 検 出
次に人の歌声から拍の検出を行った結果を示す.人の歌声についても単旋律ピアノ音楽同様,音楽的 にも簡単でリズムがなるべく単調であるものと,シンコペーションを含んでいる等リズムが少し複雑に なった曲を9曲あらかじめ選曲し, 3人の被験者に歌を歌ってもらった.その曲のリストを表2に示す.
曲は,小学校・中学校の音楽の授業で使用しているテキストから選曲した.表 2に示した 9曲の中から,
3人の歌声全部から拍を検出できたものが7曲 できなかったものが2曲であった.
4.2
│リズムが単純なもの│リズムが複雑なもの
│
鳥の歌 │あの素晴らしい愛をもう一度 サザエさん │気球に乗ってどこまでも
クラリネット │ピクニック こわしちゃった│真赤な秋
人間っていいな │手のひらを太陽に 表2:人の歌声をとった曲のリスト
と 耳
昌三基
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、句.,司、h・・・ーーー~
Fてと ち
皇 内 ハ
与えたH=O.5秒 l
= = ‑ = ゴ
γ
被験者2の 取声
睦
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検出された拍
図10:あの素晴らしい愛をもう一度(人の歌声)
まず,拍検出できたものの中から3曲についてその結果を示す.以下に示す図は,単旋律ピアノ音楽 同様に, 1番上が主旋律を示した楽譜で歌詞を加えたもの,真中に歌の信号, 1番下に実際に拍を検出し た結果を示す.信号と拍においては,横軸は時間(秒)を示し,一致している.歌を歌った3人のデータ には被験者1・2・3の番号をつけてある.図9には「クラリネットこわしちゃった
J
,図10には「あの 素晴らしい愛をもう一度J
,図11には「人間っていいなjについてそれぞれ被験者2の歌声て拍の検出 を行った結果について示している.このようにみてみると,人の歌声の場合,言葉1つ1つで信号がか33
4.,.,円
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図11:人間っていいな(人の歌声)
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図12:手のひらを太陽に(人の歌声)
たまっていることが多い.また,発音時刻をはっきり検出することができなくても,前の拍の予測結果 を利用して拍を検出することができている.他の被験者2人についても同様にして拍を検出することが できた.
しかし,被験者によって拍を正しく検出できたりできなかったりする曲もあった.その結果について 図12に示す.
r
手のひらを太陽にjについて被験者1・2の歌声における拍検出の結果について示してい るが,被験者2は正しく拍を検出できており,被験者1は始め半拍ずれて拍を検出している.この曲は,曲の途中にシンコベーションが入っている例である.人の歌声の場合,直前に長音があった場合の半拍 があいまいになり,ここで拍がずれる可能性が高い.また,半拍ずれた後に図12に示した楽譜の2小節 目のように長音が入ったり,発音時刻が正確に検出できないと正確に拍の時間を求めて予測できなくな る.また,この時に演奏速度が揺れてしまうと,拍が徐々にずれていく.
人の歌声で拍の検出を行う場合人によってテンポの揺れ方が違っても拍の検出を行うことが可能で あった.
5 考察とまとめ
本研究では,リアルタイムビートトラッキングの実現を試みた.現在,様々な方法でリアルタイムビー トトラッキングの実現
[ 7 ] [ 8 ] [ 9 ]
が試みられているが,より簡単な処理で,パソコン上でリアルタイムビー トトラッキングを実現することができた.今回の実験では,音楽的に単純な単旋律の音楽で,しかもリ ズムもそれほど複雑ではないものに対して行ったため,それでも,ある程度の精度でリアルタイムビー トトラッキングを実現できた.単旋律ピアノ音楽における拍の検出では,発音時刻を手掛りとするアル ゴリズムで拍の予測を行い,リアルタイムピートトラッキングを実現することができた.これは,ピア ノ音では音の入力時に振幅が大きくなり徐々に減衰していくため,発音時刻を検出しやすいためである.人の歌声においても,同様のアルゴリズムで拍を検出することが可能であった.しかし,ピアノ音より も演奏速度の揺れに対応できる時間幅が狭くなっていた.また,ピアノ音では演奏する人が違っても演 奏速度が変化するだけで,拍の検出には違いが表れなかったのに対して,人の歌声では,歌う人によっ て拍が検出できるものとできないものがあった.
これらの原因としては,以下のことが考えられる.
・歌のデータとしてあらかじめアカペラで歌ったものを用いていること.
・人の歌声では,その振幅の変化がピアノ音のように減衰しないため,正確に発音時刻を検出でき ていない場合がある.
1つめについては,歌う場合に どうしても人は伴奏に合わせて歌おうとするため,より自然に演奏速 度が変化するようにあらかじめアカベラで歌ってもらったものをWAVEデータとしてファイルにした ものを用いた.そのため,その人によって休符のタイミングや,音をのばす長さが実際の演奏速度に対 してその時間が正確にのばされていないためである.それに加え 2つめに上げたように振幅の変化が ピアノ音のように減衰しないため,拍を予測した付近で,実際に発音時刻ではない位置を発音時刻とし てしまい,そこから拍がずれてしまうことがあるからである.
今後の課題としては,今回の手法では拍予測をうまく行うことができなかったシンコペーションの問 題が挙げられる.これは,例えば,予測している拍が,発音時刻と発音時刻の聞に常に現れるようであっ たら,半拍づれて裏打ちになっているから,次の拍の予測だけはもともとの予測値の1/2にしてやれば 解決できると思われる.
また,人はより複雑なリズムのものや演奏速度の大きな揺れに対しても的確に対応して手拍子を打つ.
これは今までの経験や学習から行われているが,システムにも拍に対する学習を行い,間違って予測し ていた拍を自動で修正できるようになれば,より人らしい応答を行つシステムになると思われる.
参考文献
[1]ダイアナ・ドイチユ: 音楽の心理学ヘ西村書房(1995).
[2]東川清一,平野 昭(編著): 音楽キーワード事典"春秋社(1988). [3]渡瀬昌治(編): クラス合唱用 若い旅"教育芸術社(1982).
[4]カワイ音楽教室部指導研究室(編): こどものうた"カワイ出版(1974).
[5]松本恒敏,今成睦夫(編曲): 小学校の楽しいコーラスペ株式会社エー・ティー・エヌ(1986). [6]ドレミ楽譜編集部: エレクトーンアニメ・ヒット・ポケットペドレミ楽譜出版社(1987).
35
[7]後藤真孝,村岡洋一: 音楽音響信号に対するピートトラッキング"情報処理学会研究報告 Vo1.94
,
No.71[8]後藤真孝: 計算機は音楽に合わせて手拍子を打てるか?ーリアルタイムピートトラッキングーペ bit Vo1.28