中国威海市文登地区の農村民家に関する研究ー19世紀末から21世紀初期までの空間構成及び歴史的な発展について [ PDF
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(2) その下にカマドで調理した後の煙を通すことで部屋を. る(図 3)。また、正房の奥行や高さ等も大きくなった。. 暖める暖房装置である(図4)。カンの大きさは部屋. それは建築構造の変化に関係があると思われる。. の面積によって違う。また、カンの形状等は年代によ. ② 厨房. り多少違う。カマドを使わず、直接熱源を入れられる. ガスが普及される以前には、時代Ⅰの民家の厨房両. ように、カンの下に焚口が設けられている。. 側にカマドが配置されていた。現在、一つのカマドを ガスカマドにする例が多くみられる(図 5)。夏期では、 厨房の中央で食事をしている。時代Ⅲの民家の例には、 厨房の位置を問わずカマドとガスカマドを一つずつ設 けられている(図 6)。. . 図 5 時代Ⅰの民家の厨房. . 図 6 時代Ⅲの民家の厨房. 冬はカマドを使い、カンの下に煙を通らせ、部屋を 上:図2 時代Ⅰの民家の正房. 暖める。夏はガスカマドを使い、カンの暖房機能を止. 下:図3 時代Ⅲの民家の正房. める。そのため、カンの取り扱いかたは冬と夏により. 部屋の南側にカンが設けられ、中央に通路、北側に. 違う。. 収納家具がある。熱を逃がさないように、部屋の南側 にしか窓が設けられていなかった。時代Ⅲの民家には、 北側に窓が設けられている。 中国の東北地方にカンを北側に移動する例がみられ たが、研究地域においてはみられない。. 写真 1 カマドとガスカマド. カンがある部屋は寝室として使われているが、接客、. 3-2-2. 院子(中庭). 食事、団欒などの日常生活は全てカンの上で行われる。. 日本の中庭に近いが、研究地域では農具置場や、家. 但し、時代Ⅲの民家に寝室兼用リビングルームがある. 畜飼育等として使われている。夏期には、食事、涼を. 場合には、夏期に限定するが、ここで接客する。. 取ることもある。 院子の中央に井戸があり、井戸を中心に生活が行わ れている。時代Ⅰ及び時代Ⅱの民家では、電動式井戸 がなかったが、時代Ⅲの民家では電動式井戸が多くみ られる。時代Ⅰの民家の院子の一角では手洗いと家畜. 図 4 カンの機能断面説明. 民家の暖房設備はカンのみや、カンとボイラーを設. 小屋を隣接されていたが、清潔を意識し、時代Ⅱから. 置するが、電気暖房設備が全く見られない。. 家畜小屋が敷地外に設けられ、手洗いを付属部屋に取. カンの下に半地下の倉庫が設けられている場合が多. り込む事例が多くみられる。. い。倉庫に穀物を置いてある。天井裏のスペースを収. 3-2-3. 過道(入り口から院子をつなぐ廊下). 納スペースとして上手く利用されている。時代Ⅲの民. 過道の風通しが良好なため、夏期にはここで昼休を. 家では、正房に専用な収納室が設けられる例がみられ. とったり、食事をしたり、接客したりする。. 34-2.
(3) 新築では、院子内にトラクターを止めるように、過. 3-2-5. 屋上. 道の高さ及び幅が大きくなった。また、過道の仕上が. 正房の屋根は切妻であり、附属部屋の屋根は陸屋根. りが整っている。. である。陸屋根の屋上を穀物の乾燥及び保管、洗濯物 干場や夏の休憩場等として利用している。 3-2-6. 小結 1970、80 年代以前には、民家の変化がほとんど見 られなかった。1970 年代末に「改革開放」が行われ た後、生活スタイルは大きく変化した。それは民家空. 写真2 過道. 3-2-4. 付属部屋. 間にも大きな変化をもたらした。また、民家は家族人. 正房以外の部屋は附属部屋と呼ばれる。付属部屋は. 数の減少に関わらずに、建築規模が大きくなっている。. 全て敷地の南側に配置されている。物置(貯蔵室)、. 80 年代から、個室の設えをそのまま継承した民家. 便所、シャワー室等である。部屋の数は各民家の状況. 及び設えを変更した民家が現れた。但し、ヒアリング. により違うが、経済状況が悪い民家では、付属部屋を. 及び調査より後者の数が多く、最近では、前者がみら. 建設しないことにしている。. れなくなった。. 時代Ⅰの民家では、家族人数が多い為、付属部屋の. 4. その他. 一部屋を寝室にする事例があった。また、シャワー室. 4-1. 民家の建築手順. が整備されていなかった。時代Ⅲの民家ではシャワー. 基礎:地震がないため、基礎構造は単純で、地盤を. 室を整備されており、夏期ではよく使われているが、. 500 ~ 600mm 掘削し、石やレンガを地上より高さ. 冬期には村の銭湯へ行くことにしている。正房に暖房. 100mm ~ 500mm まで積み上げ、基礎としている。. 設備があるが、付属部屋に全く暖房設備がみられない. 堅固土壌ではない場合、地固めを必要としている。. ためであると考えられる。. 床 / 壁:基礎は数ヶ月間の安定期間を置き、壁工事. また、時代Ⅲにおいて、排水、動線等を考え、付属. にかかる。床を作った後ドアの位置を決め、ドア枠を. 部屋の位置を合理的に配置する事例が多くみられる。. 設置し竿で固定させ、壁をつくる。壁が 900mm の. 表3 時代による民家の変遷 約200年前. 約100年前. 1936年. 1983年. 1984年. 2007年. 天井があるため、 断面取れない。. 天井があるため、 断面取れない。 135.62㎡ 34.90㎡ 54.55㎡ 32.96㎡. 177.20㎡ 83.91㎡ 29.27㎡ 41.73㎡ 6.81㎡. 現在 年寄り夫婦 将来 未定. 現在 内装中 将来 若い夫婦. 平 面 図. 立 面. ※. 正房 断面 敷地 正房 院子 付属 過道. 142.73㎡ 28.78㎡ 36.80㎡ 40.94㎡ 3.42㎡. 101.44㎡ 28.80㎡ 10.75㎡ 32.55㎡ 4.21㎡. 139.91㎡ 28.78㎡ 53.74㎡ 22.25㎡ 6.65㎡. 177.49㎡ 68.23㎡ 34.57㎡ 49.51㎡ 8.29㎡. 家族 構成. 以前 大家族(推測) 現在 空き家. 現在 夫婦+一人子供 将来 親+若い夫婦. 以前 大家族(推測) 現在 空き家(撤去). 以前 夫婦+2人子供+親 現在 空き家. 生活 様式. そ の 他. カンを4つ、カマドを 2つ設置し、昔家族人 数が多かったと推測さ れる。人数が減りつ つ、付属部屋のカンを 使わないことにし、部 屋を物置にした。. 村の医者であり、夏に は南側の診察室で診察 を行い、冬にはカンの 上で診察を行う。家族 の日常生活と混同す る。 カンを3つ、カマドを 2つ、家族人数が多 かったと推測される。 現在、3人家族で、カン ①を使わないことに し、部屋を物置にす る。. 5人家族であり、より家 族規模が多くいと考え る。夫婦二人は共働い ながら、農事もやって いる。. 年寄り夫婦であり、農 業を続いている。家に 訪ねる人がすくない。 子供たちがよく家に戻 りするが、家で泊まら ない。 聞き取り内容により、 カンを2つ、ベッドを1 院子が比較的に広い。 昔9人家族だった。南側 つ。家族人数が比較的 院子内に農具をたくさ と北側にカンがある寝 に多い。厨房を正房か ん置く。 室を設け、真ん中に院 ら外し、正房内に貯蔵 平面図には変更が現れ 子だった。 室が設けられ、平面図 ない、昔の平面をその 家族人数が減りつつ、 に大きな変化が現れ ままうけ継いだ。寝室 南側の寝室を物置に転 る。生活スタイルの変 一つを使っている、ほ 用した。 化に合わせ、建築形式 かの2つの寝室を物置 も変わったと考える。 に転用している。. ※ 窓と扉が撤去されたため、位置のみ記録する. 34-3. 現在内装中、カンを2つ 造る予定だが、一つの 位置が決められ、もう 一つのが検討中。 部屋の間仕切りなし、 ニーズに応じる自由な 平面だと思われる。.
(4) 高さに至ると、窓の位置を決め、窓枠を設置し固定さ. が、民家の空間構成と歴史的な発展を把握することが. せてから、壁工事を完成させる。. できた。. 屋根:壁の安定を確認した後、屋根工事にかかる。. 5-1. 民家の課題 . 屋根の設置方法には幾つかあり、「梁穴」(溝)に落と. 農具の収納スペースが少ないため、農具を院子に散. す方法と壁上部直接に屋根を取り込む方法がある。. 乱している例が幾つか見られる。また洗濯機置場が見. 院壁及び付属部屋:母屋の工事と同時に附属部屋の. られない。これは手洗いの洗濯方法に関係があると考. 工事が進捗する。. えられる。将来の発展に対応できる様にするには、ラ. 4-2. 建築材料. ンドリースペースやユーティリティスペース等が必要. 建築材料は建設年代により違っている。建築技術の. と考える。. 発展により、材料に大きな変化がみられる、そのため、. 接客スペースと私的なスペースが未分離であるが、. 壁の厚さ、部屋の高さ等に様々な変化が現れる。. 現在の生活スタイルの影響を受けていると思われる。. 表2 建築材料. 経済、文化の発展に伴い、今後はより生活スタイルに. 時代Ⅰ. 時代Ⅱ. 時代Ⅲ. 変化が現れるであろうと容易に予想できる。将来の生. 加工石 材料. 自然石 (乱積み). 厚さ. 400mm. 外 壁. レンガ下地、 モルタル塗 400㎜/240㎜ /120㎜※. 活スタイルの変化に対応できるよう、接客スペースと. レンガ下地、 モルタル塗. 私的スペースは分離した計画が必要になるのではない かと考える。生活スタイルが変化しつつあるため、建. 240㎜/ 120㎜※. 築の柔軟性が要求されている。自由な間仕切りができ、 その時代の生活スタイルにあわせることができる民家. 土壁 内 材料 壁. 土壁. レンガ下地、 モルタル塗. 厚さ 120~150mm 屋 材料 根. 草ぶき. 床 材料. 土. 120㎜ 草ぶき 瓦ぶき 土 モルタル塗. レンガ下地、 モルタル塗. 形式に対する要求が増えていくと考えられる。 調査により、構造計算を全く行っていないことが明. 120㎜. らかにまった。将来地震等自然災害の可能性があり、. 瓦ぶき. 計算が必要であると考える。また、村住民が都市へ引 越すため、空き家が増えている。日本でもあるように、. モルタル塗. 限界集落になる可能性がある。 5-2. 民家の発展方向. ※ 積み方により、壁の厚さが違う。. 4-3. 職種類. 現在、研究地域では民家の新築が禁止され、政府の. 職種として、木匠(大工)は窓枠、建具枠、屋根の. 政策が変わらない以上で、新たな民家建築様式が誕生. 木構造等を製作する。石匠(石工)は石を切り出した. することは厳しいと思われる。しかし、民家の空間構. り、石の細工を行う。瓦匠(左官)はレンガ積み、瓦. 成を上手くマンションの設計に展開することは可能で. 葺き、しっくい塗り等の工程を行う。苫匠は草葺き屋. ある。研究地域では、90 年代から流行しはじめのカ. 根の仕上げ工程を行う。掌尺は施工チームのリーダー、. ン付きマンションがその一例ととらえる。. 所謂現場監督である。各職人たちは近年の機械化の波. 6 . おわりに. の影響を受けず、手作業で施工を行っている。. 調査により、研究地域においては、これまで民家に. 4-4. 建築組織. 関して建築計画の視点からの研究が行われていなかっ. 1952 年以前には組織というものが存在せず、工事. た。今後の課題としては、さらに民家建築形式に注目. がある時各職人が集まり、掌尺というリーダーのもと. し、カン付きマンションや、ますます増えている空き. で工事を行った。工事が終わると、それぞれ農業へ戻. 家、また若い世代の生活スタイルに合わせる建築様式. る。1952 年に「新木工社」という組織が設立され、. に関する研究を行うべきである。その上で、本研究は. 文登市内の最初の建設企業の誕生だと思われる。しか. 今後の研究の参考になるのではないだろうか。. し、組織の設立に関わらずに、民家の建設が掌尺の下 で行われている。 5. 民家の課題と発展方向 各時代の民家を併せて 12 件調査し、平面、立面及 び断面図を書き起こした。資料が少なかったため、時 代Ⅰ及び時代Ⅱの民家状況を詳細に把握できなかった. 【参考文献】 1)威海海草民居研究 , ゴ テンエイ ,2008 年 2)文登市志 , 文登市地方志編纂委員会 , 中国城市出版社 ,1996 年 12 月 3)中国山東省農村集落・住宅調査報告(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ), 青木正夫等 , 農村計画学会誌 Vol.2,No.3,1983 年 【図版出典】 表 1 ~ 3、図 1 ~ 6 は筆者作成、写真 1 ~2は筆者撮影 【注釈】 1)三合院及び小四合院:研究地域に限られている名称であると考える。. 34-4.
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