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第1節 目標研究の変遷

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Academic year: 2022

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(1)学業場面における誘惑対処方略の検討―自己制御の 観点から― 著者 学位授与大学 取得学位 学位の分野 報告番号 学位授与年月日 URL. 小林 麻衣 東洋大学 博士 社会心理学 32663甲第360号 2014‑03‑25 http://id.nii.ac.jp/1060/00006732/. Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja.

(2) 2013 年度博士学位請求論文. 学業場面における誘惑対処方略の検討 ―自己制御の観点から―. 東洋大学大学院社会学研究科 社会心理学専攻 博士後期課程 4550080003 番 小林. 麻衣.

(3) 目次 論文の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 1. 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 2. 第Ⅰ部 理論的検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 4. 第1章 目標研究の概観と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 5. 第1節 目標研究の変遷・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 第2節 目標の概念と構造・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 7. 第3節 目標の次元・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 (1) 具体的・抽象的目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 (2) 接近・回避志向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 (3) 内発的・外発的動機づけ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 (4) 習得・遂行目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 第4節 目標プロセス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 14. (1) 目標設定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 15. (2) 目標実行・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 15. 第5節 複数の目標間における追求・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 17. (1) 目標同士が相補関係にある場合・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 17. (2) 目標同士が競合または葛藤関係にある場合・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 17. 第6節 第1章のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 19. 第2章 自己制御・自己統制研究の概観と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 20. 第1節 自己制御と自己統制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 20. 自己制御と自己統制の定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 20. 第2節 自己制御・自己統制プロセスモデルの概観・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 22. (1) 自己制御プロセスモデル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 22. (2) 自己統制プロセスモデル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 27. (3) 各モデルの共通点・相違点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 32. i.

(4) 第3節 自己制御に失敗する要因・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 35. (1) 葛藤認識による自己制御の失敗・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 36. (2) 自我枯渇による自己制御の失敗・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 36. (3) 願望の処理による自己制御の失敗・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 37. (4) 誘惑の強度や利用可能性による自己制御の失敗・・・・・・・・・・・・・・・・・. 38. 第4節 自己制御・自己統制方略・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39 (1) 誘惑を予防する方略(事前)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40 (2) 誘惑を回避する方略(事後)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 41 (3) 目標の重要性を考える方略・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 44. (4) その他:自己制御に関連する方略(ストレス対処)・・・・・・・・・・・・・・・・ 45 第5節 学業場面における自己制御・自己統制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 47. 第6節 第2章のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 50. 第3章 本研究の目的と構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 51. 第1節 本研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51 第2節 本研究の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55. 第Ⅱ部 実証的検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 57. 第4章 研究1 自己統制葛藤に関する検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58 (1) 問題と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 58. (2) 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 59. (3) 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 60. (4) 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 62. (5) まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 64. 第5章 誘惑対処方略の抽出と尺度の作成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 66. 第1節 研究2 誘惑対処方略尺度の項目選定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 67. (1) 問題と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 67. (2) 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 67. (3) 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 68. (4) 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 72. ii.

(5) 第2節 研究3 再検査信頼性の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 74. (1) 問題と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 74. (2) 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 74. (3) 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 74. (4) 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 76. 第3節 研究4 妥当性の検討 -他尺度との関連の検討- ・・・・・・・・・・・・・・. 78. (1) 問題と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 78. (2) 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 79. (3) 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 80. (4) 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 82. 第4節 第5章のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 84. 第6章 誘惑対処方略の使用・有効性に関する検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 85. 第1節 研究5 誘惑対処方略の全般的な有効性に関する検討・・・・・・・・・・・ 86 (1) 問題と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 86. (2) 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 86. (3) 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 88. (4) 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 90. 第2節 研究6 誘惑対処方略の使用に関する時系列変化・・・・・・・・・・・・・・. 91. (1) 問題と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 91. (2) 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 91. (3) 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 92. (4) 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 96. 第3節 第6章のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 99. 第7章 状況の違いによる誘惑対処方略の使用・有効性の検討・・・・・・・・・・・. 100. 第1節 研究7 目標の困難さの違いが誘惑対処方略の有効性に 及ぼす影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 101 (1) 問題と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 101. (2) 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 101. (3) 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 102. iii.

(6) (4) 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 104. 第2節 研究8 達成目標の違いによる誘惑対処方略使用の変化に ついての検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 106. (1) 問題と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 106. (2) 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 107. (3) 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 108. (4) 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 113. 第3節 第7章のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 117. 第Ⅲ部 総合考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 118. 第8章 総合考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 119 第1節 本研究のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 119. (1) 第4章の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 119. (2) 第5章の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 119. (3) 第6章の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 120. (4) 第7章の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 120. 第2節 本研究の意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 122 第3節 本研究の限界点と今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 126. (1) 研究方法に関する限界・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 126. (2) 誘惑対処方略尺度の更なる検討の必要性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 126. (3) 誘惑対処方略に関する今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 127. 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 129. 本論文に含まれている研究の発表先一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 155. 本研究における倫理的配慮・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 156. 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・. 157. 巻末資料. iv.

(7) 論文の構成 序論 第Ⅰ部 理論的検討 第1章 目標研究の概観と考察 第2章 自己制御・自己統制研究の概観と考察 第3章 本研究の目的と構成. 第Ⅱ部 実証的検討 第4章 自己統制葛藤に関する検討 研究 1 自己統制葛藤に関する検討. 第5章 誘惑対処方略の抽出と尺度の作成 研究2 誘惑対処方略尺度の項目選定 研究3 再検査信頼性の検討 研究4 妥当性の検討 –他尺度との関連の検討-. 第6章 誘惑対処方略の使用・有効性に関する検討 研究5 誘惑対処方略の全般的な有効性に関する検討 研究6 誘惑対処方略の使用に関する時系列変化. 第7章 状況の違いによる誘惑対処方略の使用・有効性の検討 研究7 目標の困難さの違いが誘惑対処方略の有効性に及ぼす影響 研究8 達成目標の違いによる誘惑対処方略使用の変化についての検討. 第Ⅲ部 総括 第8章 総合考察. 1.

(8) 序論 本研究の主たるテーマは“自己制御(Self-Regulation) ”と“自己統制(Self-Control)”で ある。自己制御や自己統制は,人々にとって日常生活の多くの場面で必要とされる。例え ば,試験勉強をしているときに友人に遊びに誘われてしまったとき,ダイエットをしたい のに美味しそうなケーキをもらってしまったときのような具体的な事例から,社会の規律 や学校の規則を守ること,感情を制御することも自己制御や自己統制に含まれる。自己制 御とは, “自分自身をコントロールする力の総称であり,様々な目標と思考・感情・行動に よる基準の中で,目標と基準を満足させるために目標設定や目標管理を行う全般的プロセ ス(e.g., Carver & Scheier, 1982, 1990) ”として定義されており,人々の制御を助けるもので ある。また,自己統制とは自己制御のなかの一つに組み込まれており,目標と誘惑といっ た 2 つの動機づけ間の葛藤が生じたときに焦点をあてた際に,誘惑に負けずに目標を優先 させるプロセスとして捉えられている(Ainslie, 1975)。 このような自己制御や自己統制には,まず“目標”を追求することが前提となる。人は 多数の目標をもっており,目標を達成するために目標追求を行うといわれている(e.g., Moskowitz & Gesundheit, 2009) 。先述した例では,試験で良い成績をとる目標や,ダイエッ ト(体重を減らす)目標があげられる。しかしながら,多数の目標を追求しているときに は,複数の目標間が競合したり葛藤したりすることもあるだろう。古典的な自己制御研究 では,このような目標間の葛藤を扱う際に, “目標”と“誘惑”間の葛藤として定義してき た。この定義に従うと,目標とは“大きな報酬だが遅れて得られる目標”であり,誘惑と は“小さい報酬だが即時的に利用可能な目標”のことである(e.g., Ainslie, 1975) 。先述し た例では, “試験で良い成績をとる”目標と“友人と遊びに行く”誘惑の葛藤として捉えら れる。このような葛藤が生じたとき,人は何らかの制御的反応(自己制御または自己統制) をすることで葛藤を解決するといわれている(Cavallo & Fitzsimons, 2012) 。つまり,自己 制御や自己統制とは,即時的で魅力的な誘惑に負けずに,自身をコントロールすることで 目標追求を促進させる機能をもつ。そのため,自己制御や自己統制は,目標達成を成功さ せるためのツールとして考えられている。 本論文では,このような自身のコントロールのために,人々がどのように自己制御を行 い,目標追求の成功を導いているかについて明らかにしようとする。特に,本論文では,. 2.

(9) 青年期において重要な自己制御領域となりえる“学業”における自己制御について取り上 げ,以下の目的に沿って検討していく。 まず,学業場面において人々がどのような自己統制葛藤を経験し,どのような自己制御 方略を使用しているかを把握することが第1の目的である。特に,今まで実験状況や仮想 的シナリオ上で扱われることが多かった自己統制葛藤と,日常場面で人々が経験している 自己統制葛藤が一致するかを確認する。その他にも,人々がどのような方略を普段からよ く使用しているのか,そしてどのようなときに目標(または誘惑)を優先するのかについ ても検討する。 次に,人々が学業場面においてよく使用している自己制御方略として“誘惑対処方略” を抽出し,普段どのくらい方略を使用しているかを測定する尺度を開発することが第2の 目的である。人々が学業場面で使用しているいくつかの自己統制方略(誘惑対処方略)を 自己報告で測定する尺度を開発することは,人々がどのような自己制御方略を用いている のか査定することを可能にすると考えられる。 第3の目的では,尺度作成の際に抽出された誘惑対処方略が自己制御方略としてどのよ うに働いているのかについて検討する。つまり,誘惑対処方略の全般的な使用が目標追求 の成功に及ぼす影響について検討する。その他にも,目標達成が近づくにつれて誘惑対処 方略の使用が変化するのかについて2週間のモバイル調査を用いて検討する。 第4の目的では,状況によって誘惑対処方略が自己制御方略としてどのように使用され ているかについて検討する。本研究では,状況による違いとして, “追求する目標の性質の 違い”に焦点をあて,様々な状況(追求する目標の性質)の違いによって,誘惑対処方略 の有効性や目標関連行動,動機づけに変化がみられるかについて検討する。 以上のように,本論文では,誘惑対処方略の使用実態や有効性に焦点をあて,学業場面 における自己制御について議論していく。. 3.

(10) 第Ⅰ部 理論的検討. 4.

(11) 第 1 章 目標研究の概観と考察 第1節 目標研究の変遷 自己制御や自己統制研究にとって, “目標追求”は基盤となる概念である。人々が多数の 目標を追求する際に自己制御は目標同士の葛藤を解決するツールとして働くといわれてい る(第2章にて後述する) 。その際,目標がどのような概念であり,目標達成までにどのよ うなプロセスを経るのかを明らかにすることは重要である。ここでは,まず目標研究の変 遷について紹介する。 目標に関する研究は,動機づけ研究に端を発する。動機づけは,生命維持活動の追求と 死の回避,目標の設定と追求,好き嫌いの形成,有利な方法で思考したり考えたりするた めに日々人々を駆動するものとして研究されている。動機づけが目標研究に及ぼす影響に ついては,まずニュールック心理学や内発的動機づけの研究があげられるだろう。例えば Bruner & Goodman(1947)は,潜在的または無意図的な動機づけとして,外的世界におけ る知覚に対する内的要因(例:欲求,信念)の影響について検討した。ニュールック心理 学の代表的な研究成果としてしばしばとりあげられる“貧しい子供が裕福な子供よりもコ インのサイズを過大評価する傾向にあった”という結果は,お金に関する動機づけが環境 におけるお金関連刺激の知覚により影響を及ぼしたためと考えられてきた。また, McClelland らは,達成のための欲求に代表される内的動機の存在(達成動機や勢力動機, 親和欲求) を提唱し,TAT(主題統覚検査)において知覚による無意識的な動機づけの効 果を示した(e.g., De Charms, Morrison, Reitman, & McClelland, 1955; McClelland , 1981; McClelland , Koestner, & Weinberger, 1989) 。 このような初期の動機づけ研究の影響を受け,目標研究は 1980 年代以降から盛んになり はじめた。初期の目標研究では,人々がどのように意図的に目標を設定し,熟慮的に目標 追求に対して努力を投入し,意識的で思慮深く追求の進展と軌道を査定するかが強調され る傾向にあった。つまり,意識的に望む目標を顕在的に追求していることが基盤とされて おり,目標追求の特徴は“内在的で意図的,そして意識的なプランニングと遂行,モニタ リング”として認識されていた(e.g., Bandura, 1986; Carver & Scheier, 1998; Deci & Ryan, 1985; Gollwitzer, 1990; Locke & Latham, 1990; Mischel, Cantor, & Feldman, 1996) 。. 5.

(12) 1990 年代以降になると,自動性研究の第一人者である Bargh により,“目標は意識的に 選択する必要がない”ということが主張され,新たに“自動動機”の概念が導入された。 自動動機モデル(Bargh, 1990)では,目標や動機は,それが環境の特徴とともに繰り返し 一貫して活性化することで,環境の心的表象と自動的に連合するようになると仮定されて いる。その結果,その状況の特徴が引き金となり,目標を直接活性化するようになり,自 動的に動機づけシステムが作動し行動を誘発するといわれている(e.g., Bruner, 1957; Miller, Galanter, & Pribam, 1960; Norman & Shallice, 1980; Zeigarnik, 1927) 。つまり,一連のプロセ スに意識的処理の関与はないため“無意識的に動機づけられた行動”といえる。自動動機 モデルは,多数の知見において実証されている。例えば,Bargh, Gollwitzer, Lee-Chai, Barndollar, & Trotschel(2001)は,高い成績をとることに関する目標(例:成功、勝利)に 関してプライミングされた条件は統制条件よりも,その後のパズル課題の成績が高くなる ことを示している。また,Aarts, Gollwitzer, & Hassin(2004)は,他者(例:ターゲット人 物)の目標を観察することによって目標が誘発され,同時に人は非意識的に“どう行動す るか”についても決定することを示している。こういった自動動機に基づく目標プライミ ング研究の発展により,Bargh(1990)は目標を“スキーマとステレオタイプのような社会 的構成概念に似た認知的構造”として説明した。つまり,知覚者の自覚がなくても目標は 環境によって誘発されることや,プライムされることを示唆する(レビューとして; Bargh, 2007(及川・木村・北村(編訳), 2009; 北村, 2013) 。その他にも,目標がいかにして動機 づけを高めたり,価値をもたらしたりするかについても明らかになっている。Custers & Aarts(2005)によると,目標はポジティブな感情価と連合していることが示している。ま た,人は目標表象をポジティブ感情に結び付けることによって目標追求に力を与えること も明らかになっている(Aarts, Custers, & Veltkamp, 2008) 。 このように目標研究は,顕在的,潜在的な側面から行われ,様々な知見が得られている。 次節では,目標はどのような構造をもつのか,人々の目標追求はどのような処理で支えら れているのかについて社会心理学的な観点から概観する。. 6.

(13) 第2節 目標の概念と構造 目標とは, “望まれた最終状態の心的表象”として定義される(e.g., Austin & Vancouver, 1996; Fujita & Macgregor, 2012) 。先述したように,目標は動機づけにも深く関わっており, 広範で抽象的な動機システムの認知表象としても捉えられる。このような目標は“目標内 容”と“目標プロセス”の2側面によって構成されている。 まず目標内容とは, “何を達成しようとしているのか”という目標の内容のことである。 例えば動機づけシステム理論(Ford, 1992)によると,人間の目標は結果ごとに大別されて おり, “望まれる個人内の結果”と“望まれる人-環境の結果”に分けられる。 “望まれる 個人内の結果”は, “情動目標(例:娯楽や幸福に関する目標)” , “認知目標(例:好奇心 の満足や知識を得ることに関する目標)” , “主観的構成目標(例:他者との調和や並はずれ た活動の状態を体現することに関する目標) ”などによって構成される。“望まれる人-環 境の結果”は“自己主張的社会関係目標(例:他者から承認を得ることや他者と比較によ り自分が優れていたいなどの目標) ” “統合的社会関係目標(例:公平さや平等さの促進や, , 社会的コミュニティの維持に関する目標) ”, “課題目標(例:達成や安全に関する目標)” によって構成される。 また,目標は動機づけや欲求の構造と類似しており,階層構造になっていると仮定され ている(Carver & Scheier, 1998; Kruglanski, Shah, Fishbach, Friedman, Chun, & Sleeth-Keppler, 2002; Vallacher & Wegner, 1987) 。例えば Emmons(1989)は,動機づけが抽象レベルの異な る目標からなる階層構造と対応していることを提案している。つまり,目標は上位目標か ら階層的に下位目標が連なっており,上位目標は下位目標よりも抽象度が高いことを示し, 下位目標になるにつれて“具体的な手段”に近づいていくといわれている。一方で Caver & Scheier(1998)は,目標を行動制御の基準となる価値として位置づけ, “自己”を手段‐目 的関係によって結びつく目標階層構造であることを提唱している。この目標階層構造は, 抽象度の違いによって上位から“システム概念”, “原則”,“プログラム”, “連鎖”の4つ のレベルがある(図 1-1) 。また,目標の内容によって上位から大きく3つに分けている。 “システム概念”と“原則”は,例えば“知的な人間になる”といったような抽象度の高 い目標であり“BE ゴール”と呼ばれる。これは, “かくありたい自分”を示す目標のこと である。次に“プログラム”は“勉強をする”や“活字を読む”といったように“BE ゴ ール”を達成するための手段となる具体的な行為を指示する目標であり“DO ゴール”と. 7.

(14) 呼ばれる。そして最後の“連鎖”では“専門書を買う”, “ドラマやお笑い番組を観る時間 を減らす”といった“DO ゴール”の手段となる目標として“動作制御ゴール(motor control goal) ”と呼ばれている。. 理想自己. 原則 知的な人 になる. プログラム. 連鎖. BEゴール. 活字を 読む. DOゴール. 専門書を 買う. 動作制御ゴール. 図 1-1 目標の階層構造(上淵, 2004 を一部改変). さらに,Kruglanski et al.(2002)は,目標階層構造の考えを基盤として,目標システム 理論(Goal Systems Theory)を提唱している。この目標システムの理論では,目標は代替 目標や達成手段と認知的に連合したネットワークにおける心的表象から構成されていると 仮定している。動機づけ的な概念の心的表象は表象同士が認知的なリンクでつながれてい る。このリンクには, “目標間の相互関連性”, “手段間の相互関連性” ,そして“目標と手 段間の相互連結”を仮定している。つまり,高次目標は様々な下位目標(または手段),場 合によっては中間目標と認知的につながっている(図 1-2)。これらのリンクには,抑制的 なリンクと促進的なリンクが存在する。促進的なリンクは,目標と一致する手段間の要素 を垂直関係で結んでいる。一方で抑制的なリンクは,競合する目標や競合する手段間を水 平関係で結んでいる。. 8.

(15) 目標1. 下位目標1. 手段1. 下位目標2. 手段2. 図 1-2. 手段3. 下位目標3. 手段4. 手段5. 目標と手段のシステム(Kruglanski et al., 2002). 目標と手段間の相互連結には, “等結果(equifinality)”と“多重結果(multifinality) ”に よる2つの形態を仮定している。まず“等結果”形態は,特定の1つの目標には複数の手 段のリンクがつながっていることを指す(図 1-3)。“等結果”は,いわば“全ての道はロ ーマにつづく”ということわざの通り,ある1つの上位目標に複数の下位手段があること を表す。例えば,ある目標が6つの手段と関連していた場合,目標はそれらの手段を通じ て,あるいはそれらの手段の何らかの連結によって達成される。次に“多重結果”形態は, 特定の1つの手段に複数の目標のリンクがつながっていることを指す(図 1-4)。これは“一 石二鳥”のことわざの通り,1つの手段で複数の目標を追求可能であることを指す。つま り,複数の目標が単一の手段と関連している場合,目標の活性化度合に依存する。その際, 認知資源が限られている場合には1つの目標の活性化は代替目標の抑制を示す(Hugenberg & Bodenhausen, 2004) 。つまり,重要な目標はより達成されやすくなり,周辺的な目標はよ り達成されにくくなる。多様な手段は目標達成に適しているが,手段は文脈依存的である ため,常に同じ手段だけが使用されるわけではない。手段の選択については,文脈におけ る利用可能性,もしくは文脈の性質(例:ある文脈における特定の手段の望ましさ)によ って決定される。このような目標システムの働きは自動的に生じることが前提とされてい るが,意識的に目標間の関係を調整し管理することも可能であるといわれている。. 9.

(16) 目標. 手段1. 手段2. 図 1-3(Kruglanski et al., 2002). 目標2. 目標1. 手段. 図 1-4(Kruglanski et al., 2002). 10.

(17) 第3節 目標の次元 前節では,目標の概念と構造について紹介してきた。目標の構造は上位目標から階層的 に下位目標が連なっており,下位目標に近づくにつれて具体的な手段や行為を表す目標と なることを仮定している。このような目標の階層構造は目標の上下関係に焦点をあててい るが,一方で並列関係にある目標についても考慮していく必要がある。Kruglanski et al. (2002)はこのような並列にある目標間の関係のことを“水平関係”と表現している。こ のような水平関係にある目標は,下位目標(手段)だけでなく,上位目標においても同様 である。このような先行研究では,上位目標(基本的目標)間の水平関係を扱うために, 数々の目標次元を提案し,それぞれを区別してきた。目標の次元は,大別すると4つの目 標次元(抽象・具体的目標/接近・回避志向/内発的・外発的動機づけ/習得・遂行目標) が提唱されている。本節ではこうした基本的な目標の区別について概観する。. (1)具体的・抽象的目標 目標階層を想定したとき,上位目標と下位目標の抽象度の違いについて言及したが,目 標の抽象度のみに焦点をあて,区別したものとして具体的目標と抽象的目標がある。目標 の性質においても抽象度が異なることが指摘されている(e.g., Carver & Scheier, 1982; 1990) 。 例えば多くの目標は特定の具体的な事象(例:新聞を毎日読む)の達成をさしているが, なかにはより全体的で抽象的な事象(例:知的な人になる)に言及する目標もある。具体 的目標では,特定の文脈に対する特定の行動によって達成されるが,抽象的目標は多様な 文脈にあてはまる一般的な目標であるため,単一の行為ではめったに達成できない (Rachlin, 1995) 。また,抽象的目標は進捗状況を測る基準がないため,完全に成就するこ とがないともいわれる(Wicklund & Gollwitzer, 1982) 。 こ う い っ た 目 標 の 抽 象 度 は 時 間 的 距 離 の 感 覚 に も 関 連 し て い る ( e.g., Bar-Anan, Lieberman, & Trope, 2006) 。例えば,具体的目標(例:毎日新聞を読む)は結果に対して時 間的に近接していると感じられ,抽象的目標(例:知的な人になる)は結果や報酬を得る には時間的に遠いと感じられるかもしれない。そのため,具体的・抽象的目標は,短期的・ 長期的目標と呼ばれる次元とも対応しているとみられている(Fujita & Macgregor, 2012) 。 また,先述した目標システム理論から仮定すると,手段や下位目標はより抽象的な目標を 達成するための具体的目標として位置付けることができるだろう。. 11.

(18) (2)接近・回避志向 接近と回避は目標研究における基本的な区別の1つである(e. g., Atkinson, 1957)。接近 と回避の理論の多くは,目標自体というよりも動機システムや志向性に適用されている。 本来,目標には特定の終点があり,その終点に接近・回避する行動を導くが,動機システ ムや志向性はある特定の種類の終点を追求・回避するように導く。例えば,接近の動機的 志向はポジティブな結果に焦点をあて,回避の動機的志向はネガティブな結果に焦点をあ てる。こういった接近動機・回避動機は目標追求においても影響を及ぼすことが多くの知 見で示されている(e.g., Carver & Scheier, 1982) 。接近動機は特定の最終状態に焦点をあて, 現在と望ましい最終状態との乖離を減らす行動のみを促進する。目標追求を行ううえで必 要な目標努力(goal striving)は,この乖離の程度によって開始・維持される。一方で回避 動機は現在と望ましくない最終状態との乖離を広げるあらゆる行動を促進する。. (3)内発的・外発的動機づけ 内発的動機づけと外発的動機づけは,個人的な満足感や生産性にとって重要である(e.g., Deci, 1971) 。内発的動機づけとは, “行為そのもののために遂行させる動因”であり,行為 自体が目的となる。 外発的動機づけとは, “より大きな目標のために行為を遂行させる動因” であり,行為は何らかの結果を得るための手段となる。学業に対する動機づけを例にあげ ると,内発的動機づけは“学業に対する好奇心や関心を高めること”であり,外発的動機 づけは“テストの点数を高める”ことになる。 内発的動機づけと外発的動機づけに関しては,帰属と欲求の2つの観点から説明される。 帰属の観点では,内発的動機づけと外発的動機づけはともに帰属の結果であると説明され る。これは Bem(1967)の自己知覚理論に基づいており,行動の原因が活動自体にあると 知覚されるときに内発的動機づけが高まり,活動以外の何かに原因があると知覚されると きに外発的動機づけが高まる(Kruglanski et al., 1978)。欲求という観点では,コンピテン スと自律性という2つの基本的な心理的欲求が影響するとみられている(Deci & Ryan, 1985) 。コンピテンスとは,自分の可能性を示し,拡張したいという欲求であり,自律性は 自分の活動を自由に選択したいという欲求である。内発的に興味を持った行為の遂行中に は,この 2 つの欲求は維持され,内発的動機づけは高まる。ただし2つの欲求が満たされ ない課題や環境では,内発的動機づけは弱まり,外発的動機づけが強まる。例えば,自主 的に英会話に関心をもって英会話教室に通った場合に内発的動機づけは高まるが,英会話. 12.

(19) 教室でレベルが上がるごとに賞金がもらえる場合は,外発的動機づけを高めることになる だろう。. (4)習得・遂行目標 人が何かを達成しよう,達成したいという動機を達成動機とよぶ。達成動機とは社会的 欲求の中の1つである(Murray, 1938)。Dweck(1986)の達成目標モデルでは,達成動機づ けを,有能さを希求する動機づけとして定義し(Dweck & Elliot, 1983; Schutz, 1994; 上淵・ 川瀬, 1995) ,特に,高い能力を追求するための人々の知能観(固定理論/増大理論)に対 応させて,習得・遂行目標の2つを区別している(Ames & Archer, 1988) 。まず習得目標は, 新しいスキルの学習によってコンピテンスを増大することに焦点をあて,スキルや能力の 習得を通してコンピテンスを高める学習過程によって促される。これは,成功を努力に帰 属することで目標努力の継続が促され,失敗を努力不足に帰属することで再試行と更なる 努力が促される(Dweck & Leggett, 1988)。一方,遂行目標は成功によってコンピテンスを 証明することに焦点をあて,他者から良いコンピテンス評価を得るために努力する遂行過 程によって促される。これは,成功が自分の特性に帰属されるとポジティブな結果が促さ れるが,失敗が安定的な特性に帰属されると,学習的無力感や目標からの離脱が促される。 習得目標は課題への内発的な興味を予測するが,遂行目標は実際により良いパフォーマン スを予測する(e.g., Barron & Harackiewicz, 2001) 。. 13.

(20) 第4節 目標プロセス 前節では,水平関係にある基本的目標として,様々な目標の次元を概観した。人は様々 な目標の次元に対して目標を追求することで達成を目指すことが考えられる。このような 目標追求プロセスについては,多くの知見で共通した見解が仮定されている(e.g., Gollwitzer, 1990) 。目標追求プロセスの第1段階は, “どのような目標を設定するか”であ る。設定する目標が定まっていなければ,目標追求を行うことはできないといえる。この 段階において,前節で取り上げた様々な目標の次元が設定されると考えられる。第2段階 は, “どのように目標を実行するか”である。目標実行として,目標追求の継続や中止につ いて判断することになる。 目標追求プロセスについて扱ううえで,まず目標の機能を知ることが重要である。目標 の機能については,目標設定理論(goal-setting theory)のなかで目標が4つのメカニズム を通して遂行に影響を及ぼすことを主張している(Locke & Latham, 2002)。第1に,目標 は指向的機能(directive function)に従事することを意味する。目標は目標関連活動に対し て注意と労力を向けさせる一方で,目標とは無関連な活動からは距離をとらせる。この効 果は認知的にも行動的にも生じる。例えば Locke & Bryan(1969)は,課題の遂行において 多側面のフィードバックを与えられた参加者は,彼らの目標に一致した次元の遂行を改善 したが,目標に一致していない次元では改善は見られなかった。第2に,目標が活力機能 (energizing function)をもつことである。例えば困難な目標は簡単な目標よりもより労力 を必要とする。第3に,目標は固執に影響を及ぼす。目標にかける労力と時間の関係はト レードオフであるため,人は困難な目標に直面すると,短時間でより速く熱心に課題に取 り組むか,もしくは熱心さは弱まるが長時間かけてゆっくりと課題に取り組もうとする。 ただし締め切りが迫っているときは,締め切りに余裕があるときよりも素早く課題を遂行 しようとすることも示されている(Bryan & Locke, 1967; Latham & Locke, 1975)。第4に, 目標は課題関連知識と方略の喚起や発見,または使用することによって間接的に行為に影 響を及ぼすことができる(Wood & Locke, 1990)。全ての行為は認知と動機づけの結果であ るが,目標追求は上記の4つのメカニズムを複雑な方法で相互作用させていると仮定され ている。 目標追求のプロセスは先述したとおり,大きく2つに区別されている。目標追求を行う うえで,目標追求の成功を導くには, “目標設定(goal setting) ”と“目標実行(goal. 14.

(21) implemention) ”の2つの連続的な課題を解決することが必要となる(Oettingen & Gollwitzer, 2010) 。2つの連続的な課題とは,“どの目標を追求するか(目標設定)”と,“設定した 目標をどのように目標を追求するか(目標実行) ”である。. (1)目標設定 “目標設定”では,もしも達成したい目標がある場合,達成を最大限に高める点からフ レーム化した目標を設定する必要がある。例えば,ポジティブな結果の促進(vs. ネガテ ィブな結果の予防)の点からフレーム化することは,コンピテンスを持つことを示すより も,コンピテンスの獲得に努めることになる(習得 vs. 遂行目標; Dweck, 1999)。さらに, 外的報酬よりも内的報酬を予測することで(Ryan & Deci, 2001) ,目標達成を促進すること が考えられる。また,強くコミットしている目標を設定することも目標達成を促進すると いわれている。例えば, “目標は重要であり,達成の見込みが高い”という感覚(目標に対 する強いコミットメント)の増加は,目標一致行為を行うためのシグナルとなるといわれ ている(Atikinson & Birch, 1970; Atkinson & Raynor, 1978; Bem, 1972; Cialdini, Trost, & Newsom, 1995; Feather, 1990) 。. (2)目標実行 “目標実行”では,選択された目標を実行するために,4つの問題を解決することが必 要となる。4つの問題とは,1). 目標追求を開始すること,2). 順調に目標追求を進めるこ と,3). 無駄な目標への努力の投入にストップをかけること,4). 自分自身の限度を超えな いことである。次の3章で取り上げられる自己制御方略は,この4つの問題のいずれか(と きに全て)を助ける役割をもっている。 上記で説明した“目標設定”と“目標実行”の2つの側面を結び付けたのが,行為段階 のマインドセット理論(Gollwitzer, 1990; 2012)である。この理論では,目標設定と目標努 力の連続プロセスについて記述されており,目標追求には4つの行為段階(action phases) があると仮定している。1つめの前決定段階(predecisional phase)では,目標設定が行わ れる。2つめは前行為段階(preactional phase)であり, “どのように目標を実行するか”に ついて計画するプロセスが生起する。3つめは行為段階(actional phase)であり,行為の 形成を実現させる。4つめは後行為段階(postactional phase)であり,目標追求の評価が行 われる。この理論では,こういった目標追求のプロセスにおいて人は様々な処理様式(マ. 15.

(22) インドセット)を用いて情報処理を行うことを仮定している。この理論で提案されている マインドセットは熟慮マインドセット( deliberative mind-set)と実行マインドセット (implemental mind-set)である。まず熟慮マインドセットは,1つめの前決定段階で用い られる。このマインドセットは,幅広く情報が収集され目標達成のメリット・デメリット が比較評価され,達成可能性の客観的な判断がなされる認知プロセスを生起する。望みの 望ましさと達成可能性が十分に熟考されると,コミットメントを伴う目標へと変わる。次 に実行マインドセットは,2つめの前行為段階と3つめの後行為段階において, “いつ,ど こで,どのように目標を実現させるか”といった目標努力の計画に関する情報処理を増加 させる。. 16.

(23) 第5節 複数の目標間における追求 以上のように,目標追求に関する先行研究では,目標追求プロセスに関する知見が多く 存在するが,その多くは単一の目標を想定した目標追求プロセスを検討していることが指 摘できる(同様の指摘として; Cavallo & Fitzsimons, 2012) 。しかしながら,日常場面を考え たときに,人が単一の目標だけを追求することは稀であろう。なぜなら,人は常に多数の 目標をもって生きており,必ずしも1つの目標だけを常に追求しているとは限らないから である。例えば,自分の部屋で机に座っている瞬間であっても,同時に多数の目標(“試験 勉強をしたい” , “ネットサーフィンを楽しみたい” ,“恋人や友人と電話で話したい”,“お 菓子を食べたい”など)をもっているかもしれない。このような多数の目標を達成させる ためには,関連しあう複数の目標をうまくやりくりし,バランスをとる必要がある。本節 では,複数の目標追求を想定した際に,人がどのように複数の目標を管理し,追求してい るのかについて先行研究を紹介する。. (1)目標同士が相補関係にある場合 複数目標の追求時に目標同士が互いに相補的(促進的)に働くものがある。このような 場合,1つの目標関連行動によって複数の目標が達成できる。例えば,“海外ドラマを観る こと”は, “ドラマを楽しみたい”という目標と“英語を勉強したい” という目標の両方 が達成可能である。目標同士の相補的な関係については,本章の第2節で紹介した目標シ ステム理論(Kruglanski et al., 2002)の“多重結果形態”にあたる。. (2)目標同士が競合または葛藤関係にある場合 複数の目標間の追求を考えた場合,互いに目標同士が相補関係にあるときよりも,目標 同士が同時に追求できないときの方が多いだろう。例えば,Lewin(1935, 1951)では, “接 近‐接近葛藤”と“接近‐回避葛藤”について説明している。“接近‐接近葛藤”は,ある 目標への進展が別の目標の進展を妨害することである。具体的な例としては,キャリア目 標の追求は,社会的な目標(家族の幸せなど)を妨げるかもしれない。一方,“接近‐回避 葛藤”は,ポジティブ目標の接近がネガティブ目標の回避を妨害することである。例えば, 他者への親密さの追求が拒絶からの回避を妨害することになる(Murray, Holmesm & Collins, 2006) 。. 17.

(24) 目標同士の競合(competing goal)に関しての知見では,限られた心的資源において目標 同士が競合することが示されている。人の心的資源には限りがあるため(詳しくは第2章 にて後述する) ,複数の目標に同時に注意を向けたり,同時に追求したりすることは,両方 の目標に対するパフォーマンスを妨げることが指摘されている(Pashler, 1994)。つまり,資 源の競合によって,片方の目標の成功は,他の目標の存在によって損なわれることになる。 例えば,仕事帰りに“ジムで運動する”という目標と“帰ってからも仕事をする”という 目標は競合関係といえるだろう。Shah & Kruglanski(2002)では,焦点目標として,実験参 加者にアナグラム課題に従事してもらい,半数の参加者には別の目標を閾下プライムし, 残りの半数には統制プライムを行った。その結果,前者ではアナグラム課題(焦点目標) における持続やパフォーマンスが低下していた。 目標同士の葛藤(conflicting goal)は,目標同士の競合と類似しているが,細かく区別す ることができる。目標同士の葛藤(conflicting goal)は,別の目標とは相容れない行動を求 められるときに,目標同士が葛藤状態を引き起こすことをさす。例えば, “大きなパフェを 楽しむ” という目標と“体重を減らす”という目標は互いに葛藤しているといえる。目標 同士の競合との違いとして,目標同士の葛藤は,資源の有無とは関係なく直接的にある目 標追求が別の目標の進展を妨げることである。このような目標間の葛藤が生じたとき,人 は何らかの制御的反応(自己制御・自己統制)によってこの状態を解決することが求めら れる(Cavallo & Fitzsimons, 2012) 。 次章では,目標間の葛藤が生じた時の制御的反応に焦点をあて,自己制御・自己統制研 究について概観していく。. 18.

(25) 第6節 第1章のまとめ 本章では,目標の構造や次元,追求プロセスについて概観してきた。目標は, “望まれた 最終状態の表象”として定義され,階層構造を成すことが先行研究によって提案されてき た。また,目標追求プロセスでは,目標を追求するためにまずは目標を設定し,実行する ことが数々の先行研究により明らかになった。しかしながら,日常場面では,単一の目標 の追求は稀であり,複数の目標を追求していることの方が多いだろう。これらの複数の目 標は,全てが順風満帆に進展,達成するとは限らず,人々は複数の目標同士の競合や葛藤 に対して,何らかの解決策を投じていくことになる。このような解決には,制御的反応と して,目標達成の成功を促進し,他の目標による妨害を弱めたり抵抗したりする方略を実 行することが必要となる。次章では,人々が目標追求のためにどのように自身をコントロ ールしているかについて,自己制御・自己統制に関する知見を概観する。. 19.

(26) 第2章 自己制御・自己統制研究の概観と考察 第1節 自己制御と自己統制 前章では,目標の構造や追求プロセスに関する先行研究について概観してきた。人が多 数の目標を追求することは,日常生活を営むうえで非常に適応的である。例えば,大学生 にとって,学業目標,就職活動目標,恋愛目標の達成を目指すことは,生きるうえでポジ ティブな結果をもたらすだろう。 しかしながら,このように多数の目標追求を行うことで, ある目標の追求が他の目標によって妨害されてしまうことがある。その際,目標同士が両 立できずに葛藤が生じる。このようなとき,人は自己制御を働かせることで,重要な目標 の追求を守るといわれている。自己制御は,経済学(e.g., O`Donoghue & Rabin, 2001; Thaler & Shefrin, 1981)や政治学(e.g., Elster, 1977; Schelling, 1984) ,心理学(e.g., Ainslie, 2001; Baumeister & Vohs, 2004; Kuhl & Beckmann, 1985; Mischel & Patterson, 1976; Rachlin, 2000)な ど多くの領域で長年研究されており,人間の行為と思考において一般的なものとして扱わ れている。Wegner & Pennebaker(1993)は,自らの心や行動を調整する能力は,自己責任 を礎とする文化体系の中で最も重要な課題の1つであると述べている。自己制御研究には, 学業遂行,健康行動だけにとどまらず,犯罪や薬物問題なども含まれており,自己制御の 低さは精神病理や問題行動の予測因なることが明らかになっている。この章では,社会心 理学の視点から自己制御に焦点をあて,先行研究を紹介していく。. 自己制御と自己統制の定義 自己制御(self-regulation)とは,“様々な目標と思考・感情・行動による基準の中で, 目標と基準を満足させるために目標設定や管理を行う全般的プロセス”とされる(e.g., Carver & Scheier, 1982, 1990) 。これらのプロセスには“どの目標を追求するかの決定”, “目 標追求のやり方のプランニング” , “プランニングの実行” , “競合する関心から目標を守る こと” , “成功または失敗フィードバックに続いて目標を続けるか中止するかを決定するこ と”などが含まれる(e.g., Gollwitzer, 1990) 。 一方で,自己統制(self-control)は自己制御と関連の深い類似した概念である。自己統 制は満足遅延や遅延割引に関する研究を基盤として, “即時的だがより小さい報酬”よりも. 20.

(27) “遅れてくるがより大きな報酬”を優勢する傾向として定義されてきた(Ainslie, 1975; Hoch & Loewenstein, 1991; Kirby & Herrnstein, 1995; Mischel, 1974; Rachlin, 1995; Rachlin & Green, 1972; Schelling, 1978; Strotz, 1956; Thaler & Shefrin, 1981)。自己制御と自己統制を区 別するものとして,自己統制は全般的なプロセスのなかでも目標と誘惑間の二者間葛藤に 焦点をあてており,メンタルコントロールとしての自己制御(例:ストレスコーピングや 思考抑制など)の一部として扱われている(e.g., Baumeister, Vohs, & Tice; 2007)。例えば, 満足遅延の研究のように, “1つのマシュマロを今すぐ食べること(小さい報酬だが即時的 に利用可能) ”または“15 分後に2つのマシュマロをもらうこと(大きな報酬だが遅れて 得られる) ”についての葛藤は,後者を優先するために自身をコントロールすることで自己 統制を働かせるといえるだろう。その他にも,遅延割引の研究のように, “今すぐ 10 ドル をもらう”か“1年後に 100 ドルもらう”かについて選択する場合, “今すぐ 10 ドルをも らう”といった小さくて即時的な報酬(誘惑)をとるか, “1年後に 100 ドルもらう”とい った大きくて遅い報酬(目標)をとるかについて葛藤することが想定されるため,同様に 自己統制として扱われる。つまり,自己統制と自己制御の関係について要約すると,自己 統制はあくまで広範な自己制御の課題の1つして扱われており,全ての自己制御が自己統 制を生じさせるとは限らないといえる(Fujita, 2011) 。 ただし最近では,自己統制についても自己制御という用語を用いて,広く目標管理の観 点から自己統制を扱う研究者が増えている。その際,自己制御や自己統制の区別をせずに, “自己の思考・感情・衝動・行動を統制し,打ち勝つ能力”, “自分の行為に対して自分で コントロールを実行する過程”,“長期的目標に対する短期的目標の脅威を克服する力 (Fishbach & Trope, 2005) ”として扱われており,自己統制も含めた“自己制御”として扱 う傾向にある。それは,互いに関連しあう自己制御研究と自己統制研究を統合するうえで 有益であろう。ただし,本研究では目標管理の観点から自己統制を自己制御の中の一部と してとらえるため,適宜自己制御と自己統制の用語を使い分けることにする。. 21.

(28) 第2節 自己制御・自己統制プロセスモデルの概観 前節では,自己制御と自己統制について定義を概観した。先行研究による自己制御や自 己統制の定義から,自己制御は自分自身をコントロールするための全般的プロセス(また はプロセスの一部)として解釈できるだろう。このような自己制御または自己統制は,目 標と誘惑間の葛藤(自己統制葛藤)を同定することが必要となる。先行研究では,人は自 己統制葛藤を同定すると,追求している目標を守るために自己制御を働かせるといわれて いる(Dhar & Wertenbroch, 2000; Gollwitzer, 1999; Kivetz & Simonson, 2002; Metcalfe & Mischel, 1999; Muraven & Baumeister, 2000; Trope & Fishbach, 2000) 。また,自己制御は自身 を制御するための能力を反映した認知的,メタ認知的,感情的,意志的なプロセスを調整 するといわれている。今までの先行研究において,このような自己制御・自己統制プロセ スに関しては様々な側面から多くの理論が提唱されている。本章では主に社会心理学の観 点から提唱されてきた一般的な自己制御・自己統制モデルについて8つのモデルを概観す る。. (1)自己制御プロセスモデル 1) コントロール理論 コントロール理論 (Carver & Scheier, 1982, 1990)では,自己制御のサイバネティックフ ィードバックプロセスを仮定している。このプロセスは,目標の循環的な追求を基盤にし ており,4つの要素(入力機能/参照価/比較器/出力機能)のシステムから構成されて おり,サイバネティック・コントロールモデルとして描かれている(Mackay, 1966; Miller, Galanter, & Pribram, 1960; Powers, 1973; Wiener, 1948; 図 2-1 参照) 。まず入力機能では,セ ンサーからシステムへ情報が伝達される。次に参照価(reference value)では情報の第2の 源となり,目標や基準として働く。次の比較器では,入力した情報と参照価を比較するメ カニズムとして働く。この比較器において乖離が生じていれば,フィードバックを循環す ることになり,両者に差がなければ出力機能として離脱する。 この理論では,ポジティブまたはネガティブな参照価を想定し,2つの自己制御システ ム(ネガティブ・フィードバックループ/ポジティブ・フィードバックループ)を区別し ている。ネガティブ・フィードバックループでは,ポジティブな参照価をもつシステムで あり,望ましい結果状態(desired end state)を参照点とし自分の現状を望ましい参照点に. 22.

(29) 向けてできるかぎり近づける(乖離減少させる) 。このループは,価値づけられた目標を達 成したいときや基準を確証したいときに生起する。一方,ポジティブ・フィードバックル ープでは,ネガティブな参照価をもつシステムであり,望ましくない結果状態(undesired end state)を参照点とし,自分の現状を望ましくない参照点からできるかぎり遠ざける(乖 離を増加する) 。このループは,望ましくない目標を恐れるときや好ましくない可能自己の ときに生起する(Carver, Lawrence, & Scheier, 1999; Markus & Nurius, 1986; Ogilvie, 1987) 。. 目標 基準 参照価. 比較器. 出力機能. 入力機能. 環境. 図 2-1. サイバネティック・コントロールモデル(Carver & Scheier, 1998, p.11 より作成). 2) 認知感情処理システム 認知感情処理システムモデル(Cognitive-Affective Processing System Model)は,個々の 心的プロセスの個人差を分析するためにコネクショニストモデルを基に提案されたモデル である(Mischel & Shoda, 1995, 1998; Shoda & Mischel, 2000) 。このモデルでは,状況刺激 によって触発される心的表象のネットワークとして心の働きを概念化し,感情や思考を処 理ユニットと考え,その活性化のパターンによって行動が決定される(e.g., Higgins, 1990; Shoda & Smith, 2004) 。特に,個々の心的表象は認知的・感情的ユニット(CAUs)とよば. 23.

(30) れ,状況の解釈と評価,目標と価値,予期と信念,自己制御能力から構成される。これら の異なるユニット同士は安定したネットワークで相互に連結しており,一連の活性化と抑 制のパスによってユニット間の活性化が促進されたり,制約されたりする。この安定した 活性化パターンが自己制御システムの動的なプロセスを構成している。 また最近では,近年の認知心理学や神経科学の知見に基づき,2つの相互作用システム (Hot/Cool System)が追加された(Mischel & Ayduk, 2004; Metcalfe & Michel, 1999) 。ホッ トシステムは, “Go”と呼ばれ,感情的で生物学的に生得的な反応(嫌悪,闘争-逃走, 食欲など)をもたらす刺激に対する自動的な反応を調整する。比較的少数の表象(hot spot) から構成され,トリガーとなる状況刺激によって活性化したときにほぼ反射的に接近・回 避反応を生じさせる。このシステムは情動性の基礎となり,論理的な自己制御の試みを妨 げるものとして機能する。神経科学的には,扁桃体の活動と関連しているといわれている (Gray, 1982 ; LeDoux, 1996; Metcalfe & Jacobs, 1996; 1998) 。一方,クールシステムは“Know” と呼ばれ,刺激の情報的,認知的,空間的側面を調整し,クールノードによって相互に連 結されたネットワークから構成され,論理的で熟慮的な行動を生成する。このシステムは 自己制御や自己統制の基盤となっており,神経科学的には,前頭前野や帯状回の活動と関 連しているといわれている(Ochsner & Gross, 2007)。この2つの相互作用システムは絶え 間なく相互作用し続けており,片方が強まると片方は弱まる。この相互システムの考えの 例として,子供が美味しそうなクッキーを見た時,すぐにホットな表象が活性化するが, クッキーの形を“木のようだ”など再解釈することでクールノードの活性化が生じ,結果 的に食べたいという欲求は弱まるかもしれない。このモデルでは,自己制御の個人差に関 して,広範な特性という観点を脱し,心的プロセスの相互作用という観点からの説明を可 能にする。このモデルではクールシステムによって生成される方略がホットシステムの活 性化を回避することで自己制御を行うと考えられている。 これらの仮定に関して,実際にシステム間の相互作用を支持する神経生理学的証拠もあ る(Ochsner, Ray, Robertson, Cooper, Chopra, Gabrieli, & Gross, 2004) 。参加者にネガティブ刺 激を呈示し,ネガティブ反応が弱くなるように再解釈してもらったところ,クールシステ ムの認知的処理に関わると考えられる部位である前頭前野や帯状回の活動が増加し,ホッ トシステムに関わると考えられる扁桃体の活動は減少した。 また,2つのシステムのバランスに影響を及ぼす要因に関しては,発達的要因とストレ スがあげられている。例えば発達的要因に関しては,ホットシステムは早い段階から発達. 24.

(31) する一方で,クールシステムの発達は遅いため(4歳ごろ) ,幼いうちはホットシステムが 優勢となり,クールシステムはその後の発達に従って徐々に優勢になっていく(Eisenberg, Spinrad, Fabes, Reiser, Cumberland, Shepard, Valiente, Losoya, Guthrie, Thompson, & Murphy, 2004; Rothbart, Ellis, & Posner, 2004; Mischel, 1989) 。ストレスに関しては,主に成人期にお いて最も影響を及ぼすといわれている。高レベルのストレスはクールシステムの働きを弱 め,ホットシステムの優勢を作り出すため,自己制御の失敗を導くことが示唆される。. 3) 制御焦点理論 Higgins(1997,1998)の制御焦点理論は,快楽原則を基盤とした快・不快という二分法で はなく,さらに“どのように快に接近し,不快を回避するか”という追求の仕方に新たに 質的に異なる2つの様式(促進焦点/予防焦点)を提唱した。促進焦点とは,理想や願望 や要求の達成に焦点を向ける。利益の有無に関心を向け,現状からのポジティブな変化に 感受性がある。予防焦点とは,義務や責任を果たすことに焦点を向ける。損失の有無に関 心を向け,現状からのネガティブな変化に感受性がある。この考えは,セルフ・ディスク レパンシー理論(Higgins, 1987, 1989)における2つの自己指針(理想自己/義務自己)が 望ましい結果状態として働くことに関連している。例えば理想自己では,自分あるいは他 者がその個人に理想として持っていて欲しいと願う属性の表象のことであり,要約すると “自分あるいは他者の希望・願い・大志”のことである。一方,義務自己では,自分ある いは他者がその個人が義務として持っているべきだと信じる属性の表象のことであり,要 約すると“本人の義務・責務・責任についての自分あるいは他者の信念”である。人はこ れらの自己指針への接近に動機づけられており,理想・義務自己と現実自己(自分の現状) との乖離を減少させようとする。ただし,理想にむけた自己制御と,義務にむけた自己制 御とは動機的に異なっている。例えば,理想・義務自己は,望ましい結果状態からの乖離 が生じたときに異なった種類の情動を生起させることが示されている(Higgins, Bond, Klein, & Strauman, 1986; Strauman, 1990)。理想自己からの乖離は,失望,不満,悲しみとい った落胆(dejection)関連の情動が生起する一方で,義務自己からの乖離は,心配な,怯 えた,怖いといった不安(agitation)関連の情動が生起する。このように,それぞれは接近 回避において異なった傾向性をもつ。制御焦点は理想・義務自己にむけたそれぞれの自己 制御と対応している。つまり,制御焦点は目標追求への志向性といいかえることもできる だろう。. 25.

参照

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