九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
ベトナム産タイワンヤマツツジの花色と耐暑性に関 する研究
ダオ, ティ, タン, ヒュエン
https://doi.org/10.15017/1807106
出版情報:Kyushu University, 2016, 博士(農学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
氏 名 : ダオ ティ タン ヒュエン
論文題名 : Studies on the Flower Coloration and Heat Stress Tolerance of Rhododendron simsii Planch. Distributed in Vietnam
(ベトナム産タイワンヤマツツジの花色と耐暑性に関する研究)
区 分 : 甲
論 文 内 容 の 要 旨
タイワンヤマツツジ(Rhododendron simsii Planch.)は中国の中南部,ベトナム,台湾および日本 の南西諸島に分布するツツジで,欧米や日本などで広く流通している鉢物アザレア(ベルジアンア ザレア)の最も重要な育種母本とされている.本種の花冠は漏斗型,花色は赤,5裂した花弁上部 3枚に赤紫色のブロッチをもつのが特徴とされるが,これまでベトナム産の集団についてはほとん ど調査,研究が行われていなかった.そこで,本研究では,ベトナム産のタイワンヤマツツジを材 料とし,花弁上部に見られる赤紫色のブロッチ部分の発色要因を明らかにし,次いで,ベトナム産 タイワンヤマツツジと数種の日本および台湾産常緑性ツツジ類の種間交雑親和性を調査した.さら に,ベトナム産タイワンヤマツツジの耐暑性についても調査し,本種の育種親としての有用性につ いて評価した.
まず,タイワンヤマツツジの花弁の横断切片を光学顕微鏡により観察したところ,すべての花弁 の向軸面と背軸面の表面に赤色の細胞が見られたが,上部花弁の向軸面のブロッチ部分の表面にの み赤紫色の細胞が認められた.上部花弁と下部花弁のアントシアニン構成はほぼ同じだったが,下 部花弁の極大吸収波長が 505.7nm であったのに対し,上部花弁のブロッチ部分におけるそれは
514.9nm であった.タイワンヤマツツジの花には花弁全体にシアニジン配糖体が主要アントシアニ
ンとして含まれていたが,赤紫色のブロッチ部分にはシアニジン配糖体に加えフラボノール(ケル セチン配糖体)が含まれていた.そこで,カラムクロマトグラフィーによりアントシアニン分画と フラボノール分画をそれぞれ分取し,得られた両分画を生花弁とほぼ同じ pH に調整した緩衝 液とともに試験管内で1: 7.5の重量比で混合したところ,アントシアニン単独の溶液よりも極 大吸収波長が9.6 nm長波長側へシフトした.これは新鮮花弁で認められた上部花弁と下部花弁 との極大吸収波長の差(9.2 nm)とほぼ一致した.このことから,タイワンヤマツツジのブロ ッチ部分の赤紫色の発現にはアントシアニンとフラボノール(ケルセチン配糖体)とのコピグ メンテーションが重要な要因であることが明らかとなった.さらに,タイワンヤマツツジのブ ロッチ部分に含まれていた2種のケルセチン配糖体を単離・精製し,TLC,HPLCおよび LC-MS により詳細に調査したところ,これらはquercetin 3-glucosideおよびquercetin 3-rhamnosideと同 定された.これらはサツキ,キンモウツツジおよびケラマツツジの赤紫色のブロッチ部分にも 含まれていたことから,赤色花をもつ常緑性ツツジに広く含まれるフラボノールと思われた.
次に,ベトナム産タイワンヤマツツジを花粉親とし,数種の常緑性ツツジ類(オオシマツツジ,
キンモウツツジ,フジツツジ,マルバサツキ,ミヤマキリシマ)との交配を行ったところすべての 組み合わせで種子が得られた.これらの種子から得られた実生をRAPD 分析したところ,すべて種 間雑種であることが確認された.
さらに,葉の細胞膜耐熱性(leaf cell membrane thermostability)を調査し,ベトナム産および西表 島産のタイワンヤマツツジとマルバサツキの耐暑性を評価したところ,マルバサツキの耐暑性が最
も高く,ベトナム産タイワンヤマツツジの耐暑性が最も低かった.これは西表島産のタイワンヤマ ツツジが海岸線から標高 300m 程度の陽光に恵まれた丘陵地に自生するのに対し,ベトナム産タイ ワンヤマツツジが標高 800m以上の山岳地帯の渓流沿いに自生するという異なる環境に適応した結 果と思われた.しかしながら,マルバサツキとベトナム産タイワンヤマツツジとの雑種個体は,西 表島産のタイワンヤマツツジと同程度の耐暑性を示したことから,ベトナム産タイワンヤマツツジ を用いた種間交雑により耐暑性をもった新規な常緑性ツツジ園芸品種を育成できる可能性が示され た.