オンラインゲーム使用者の心身健康状態と依存者の回復過程の検討
人間教育専攻
臨床心理士養成コース 海 面 敬
I.問題と目的
近年我が国のインターネットを用いた情報技 術の発展は著しく、その功績はオンラインゲー ムやソーシャルゲームといった新しい娯楽を生 み出した。 一方で、そういった楽しさや、居心 地の良さがあるインターネットの世界に依存す ることによってひきこもる人の増加が問題視さ れてきている。オンラインゲームの悪影響につ い て は 平 井(2003)がオンラインゲームの使用が 抑うつ感と関わりがあることを示唆し、特に中 学生は他の職業群と比べて依存の度合いが大き い こ と を 示 し た 。 藤 ・吉田(2007)はオンライン ゲームの世界への没入や依存を媒介する場合に は、孤独感や敵意的認知が増大するといった影 響があることを示した。また、三原ら(2011)は我 が国の成人人口におけるネット依存曙癖傾向に ある者は合計 271万人に達することを示してお り、牟田(2004)はオンラインゲームがひきこも りを長期化させていると指摘している。
我々心理臨床家が対象者や家族と接する場合、
対象の日常の精神的健康も含めた状態像とそと からの支援方略は欠かせないものである。した がって、研究 lは対象者の最もゲームをしてい た時の日常的精神健康状態への影響を明らかに し、研究2でかつて依存していた者がどのよう に時間を減らせたのか、抜け出したのかを調査 することで依存者に対する支援者や家族の有効 なアフ。ローチ方法を模索することを目的とした。
指 導 教 員 葛 西 真 記 子
ll.研 究1
1.対象と方法:四国地方にある大学の大学生 と大学院生164名(有効回答54名)と筆者の知人 45名 と ホームページ上のアンケートで一般人 225人に、鄭(2007)が作成したインターネット依 存傾向測定尺度と鄭(2008)が作成した日常的精 神健康尺度を提示し、回答してもらった。
2.結果と考察:
ソーシヤルゲーム群においては今回の調査で は依存という結果を示すことができず、オンラ インゲームの尺度では測れない別のものである 可能性が考えられた。オンラインゲーム群で重 回帰分析の結果、(現実との区別支障)、(仮想的 対人関係)、〈没入〉といった因子が〈心身疲労 感〉ゃく神経質傾向)を高める影響因であるこ とがわかった。しかし、(快的満足感〉はく心身 疲労感)や(神経質傾向)を減少させる影響因 であり、同時に(生活充実感〉を高める影響因 であることが示された。一方で(仮想的対人関 係)が(生活充実感)を減少させる影響因とし
て働いているという依存のサイクルが示された。
また、依存得点と使用時間のクラスター分析か ら、 「最長時間依存群J,
r
長時間高依存群J,r
短 時間低依存群」の3つの群が示され、日常的精 神健康を従属変数とした分散分析からは 「長 時 間高依存群」の日常的精神的健康のネガティブ な因子が高いことから、オンラインゲーム使用 を減らしたことによる精神的離脱症状として依qd
o o
存の得点が高まることが考えられた。
III.研究 2
1.対象と方法 :研究Iの筆者の知人 45名か らオンラインゲームの使用を伴うひきこもりが みられた8人(うち 1人は内容不備のため除外し て7名)を対象として、最もオンラインゲームを 使用していた時の状態像と、どのようにしてオ ンラインゲーム使用時間を減少できたのか、抜 け出せたのかを「家族との関係による現象J,
r
ゲ ームに関係する現象J,r
現実世界の関係による 現象」という 3つの現象についてインタビュー 調査を行った。得られたデータから逐語記録を 作成し、 グラウンデッ ド・ セオリー 。アプロー チ(犬木, 2008)を参考にオンラインゲーム使用 時間を減少させた要因をメインカテゴリーとし、サブカテゴリーとの関連を分析した。
2.結果と考察:
(現実世界の関係による現象)と (家族関係 による現象〉に依拠じといた事例では、 対象者 が友人に対して無視という対応をとっていたが、 それに対して友人は本人の状況を理解し、無理 やり家の中に入ってく るといった手法を取るこ とで、友人と安定した関係が築けている。つま り、現実世界の友人と接する状況があり、友人 が対象者を理解して見捨てないといった状況が 時間の減少と大きな関わりがあると考えられた。
両親との関係は全く無く(現実世界の関係に よる現象)のみに依拠していた事例では、友人 からの干渉が強引であることや、先でも述べた ように友人が本人を理解し、見捨てないといっ た姿勢がオンラインゲームへの依存から抜け出 す指標のーっとなり得る可能性が考えられた。
〈家族関係による現象〉と〈ゲームに関係す る現象〉に依拠していた事ー例では母親の対応が 厳しいものから受容的な対応に変化し、親密性
の高いオンラインゲーム内の友人との関係を持 続させるために現実世界でお金を稼ぐとともに、
オンラインゲーム内の友人から仕事を紹介され るに至っており、オンラインゲーム内の親密な 関係性による友人の理解と、家での母親の受容 的な対応を得られたこ とが対象者の満足になる
と考えられた。
(家族関係、による現象)のみに依拠していた 事例では、 両親が厳しい対応から受容的な対応 へと変化し、尚旦つ両親と対象者が本音を話せ るというお互いの理解があることがオンライン ゲーム使用時間の減少に結びついており、受容 的な空間と、 お互いの理解の促進という ことが 大きな課題であると考えられた。
(ゲームに関係する現象)のみに依拠してい た事例では、どの現象においても対象者を理解 する土壌はなかった。両親にさえもオンライン ゲームをしているという本音を言えず、オンラ インゲーム使用時間は減少したものの、ひきこ
もりは続いていた。
これらの結果から、オンラインゲーム依存を 伴うひきこも りの支援に際して、 3つの現象い ずれかの対象者の性格や状況、そしてオンライ
ンゲームをすることの 「理解」が必要であると ともに、 我々心理臨床家は、対象者がオンライ ンゲームの世界で満たされている自己対象欲求 (kohut, 1984)を知ることが、対象者とその周囲を 取り巻く養育者を含めた環境へのより良いアプ
ローチとなると考えられた。
I V .
今後の課題今後、 現在ひきこもっている人を対象として 縦断的に研究を進めてし1かなければならない分 野であるとともに、臨床家は次々と発展する時 代による新たな依存に対して切り替えを行い、
時代背景を理解した対応をとることが望まれる。
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