性 の 商 品 化 と 商 品 価 値
―― ジェンダーを焦点にして一― 正 現 代社会 における性の商品価値 現代社会 における消費 は,機 能 ・性能 ・効用のような商品の合理的側面 より は,モ ノ=記 号の形式で表 される商品の非合理的側面 に価値 をお くことが多い。 す なわち,消 費行為 をとお した空想的 ・感情的 ・享楽的経験が重視 され,そ の ような経験 は,商 品や,商 品 と消費者 とのかかわ りに対 して付与 されたプラス の意味やイメージに価値 を見いだす ことによって実現 される。 このプラスの意 味やイメージを付与す る方法の中で,本 稿では,人 間の性 に関連づける方法 を 問題 にす る。 性 に関連づけて商品に価値 を創造する方法 として, 3つ を区別 しよう(図1, 図 2)。 第一 は,ジ ェンダー (gender)つま り男 らしさや女 らしさといった社会 的 ・文化的側面か らみた性差 を,商 品に付与 した り,商 品によつて刺激 した り, 商品 を通 して表現 。実現する方法である。例 えば化粧品は,そ の使用 を通 して, 女 らしさや男 らしさを実現する。第二は,セ ックス (sex)つまり生物学的側面 か らみた性差 (特に身体的性別や性欲)を 商品に付与 した り,商 品によって刺 激 した り,商 品を通 して表現 '実現す る方法である。例 えば性的行為の描写 を 主眼 としたポルノ (pornography)は,そ の一例 である。第三は,ロ マ ンチ ッ ク ・ラブ (romantic love)つま り男女間の恋 ごころを商品に付与 した り,商 品 によって刺激 した り,商 品を通 して表現 ・実現する方法である。例 えばバ レン タイン ・デーなどでの贈 り物交換 (恋愛マTケ ッ ト)は ,そ の一例であると第一のジェンダーの商品価値は,男 らしさ (masculinity)や
女らしさ (fettniniO
進 山 占 Y サ T性 の商品価値 ジェ ングーの商品価値 セ ッ クス の 商 品価 値 ロマ ンチ ック ・ラブの 商品価値 図 1 性 に関 す る 3つ の商品価値 ( ジェ ンダー) (セ ックス) 図 2 ジ ェンダー、セックス、および回マンチック ・ラブ (一一→は接近、影響、獲得) を商 品化す る こ とか ら生 まれ る。伝統 的 に男 ら しさは,攻 撃性 ,競 争性 ,独 立 性 ,知 性 ,自 信 な どの特性 に よって,女 ら しさは,美 しさ,や さ しさ,こ ぎれ い さ,如 才 な さな どの特性 に よつて表 されて きた。 また,役 割 の違 いか ら,男 が一家 のかせ ぎ手 であ るの に対 して,女 は家事 の担 当者 であ った。 表 1は ,製 品 とジェ ンダーの帰属 を調べ た結果であるが,さ まざまな製品に は,知 覚 され た性 (perceived sex)が存在 した。企 業 のマ ーケ テ イング戦略 , 特 に広 告 戦 略 を遂行 す る場合 で も,ジ ェ ンダーが利用 され る。例 えば,従 来 よ
り広告の女性は,次 のような女らしさの枠の中で描かれてきた。①若 く,ス リ
ム,色 自で,美 しい。②男性の保護や庇護を頼る。③男から性的対象とみなさ
れる。④身体的に闘争的ではない。⑤主要な労働力ではなく,職 業上の地位は
低い。③居場所は家庭で,消 費財の主たる購買者である。②重要な意志決定や
事柄を遂行 しない。なお,こ のような女らしさの枠組みをなくし,女 性の役割
や権利の拡張も目指された(フェミニズム ;feminism)。
また,女 性の居場所
は家庭などの考えに同意しない女性や,男 性中心的なレジャータ競技スポーツ,
その他の消費領域 (酒,た ばこ,自 動車,な ど)に 参加する女性も増えた。
男 の ヒ 、性 の商品化 と商品価値 の 表 1 24の 製 品 と ジ ェ ン ダー の帰 属 男 ら しい製品 女 らしい製品 ジェンダー不明 キー リング ( かぎ輪) 第二のセ ックスの商品価値 は,特 に男 (male)と女 (female)の間の身体的 性別 ・性欲 としてのセ ックス を商品化す ることか ら生 まれる。精神分析学の創 働 始者 フロイ トは,セ ックスが人間にとって最 も強い本能であ り,人 が衣服,家 , 自動車,食 物,娯 楽 を決めるや り方は,直 接,間 接 に性衝動 に関係 していると 考 えた。そ して,イ ドつ まり性欲のような快楽原理 に支えられた本能的衝動が, エ ゴの理性 とスーパ ー ・エ ゴの道徳性 によって調整 される中で,人 の願望が生 じる とい う。 商品のブラン ド戦略や広告戦略 などでは,セ ックスの商品化 は多いだろう。 ミス ターや男根の ようなセ ッタス ・シンボルを商品に連合 させ るや り方 もこの 一例である。肉体,特 に女性の肉体やその性的部位 (胸,尻 ,陰 部,脚 ,な ど) は,広 告,モ ー ド,大 衆文化の中で氾濫 している (女の商品化)。 また今 日の 性産業 をみれば,売 春か らさまざまな性商品にいたるまで,セ ックスの過剰 な 消費の実態 を知 ることがで きる。エ ロテ ィシズム (eroticism;性愛)は 根源的 4 ) に過剰消費 される対象であ り, そ れを抜 きに消費文化 は語れない。 第三のロマ ンチ ック ・ラブの商品価値 は, 男 女間の恋 ごころを商品化するこ とか ら生 まれる。恋 ごころとは, 異 性への恋 しい とい う恋愛感情であ り, こ の 5 ) 感情の裏には,寂 しいという感情が控えている。バーシェイ ドとウォルスター は,人 が恋愛に陥るための 3つ の条件を指摘 した。つまり,① 育った社会が恋 愛の文化をもつこと,② 理想の異性の出現,③ 一日ぼれに伴 う生理的興奮の存 在,で ある。 恋愛文化の育成には,マ ス ・メデイアの影響が大 きい。男女のつ き合い方, 恋愛の仕方や形態など,恋 愛マニュアルの消費を通 して学習される。また異性 フ ヽ手 ス ヽ寝 ヽ ナ ィ 一
ヵ浄 剤 、サ ン グ ラ
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サ 洗 X ン ス レ ラ 、 ヽル日 腔 着 、 ノ 、 ヽ ヘ ァ プ ろ ス 下 ル ン く 用 ン イ ア ボ 室 ロ オヽ つ め 切 リ
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ナ ン 札 ズ ば ト ビ リ ン か と と 一 れ ケ エ 数 ジ 入 ポ シ の 一 類の獲得 には容姿が重要であ り,身 体的 ・外見的魅力 を高めるための商品が利用 される。直接 に理想の異性 を提供す るサービス も商品化 される。ペアル ックや ポケ ッ トベルで さえ,恋 愛感情や一体感 を高めるために利用 される。生理的興 奮の創 出に係 わる商品には,二 人でゆ くコンサー ト,ッ ーリング,遊 園地での ア トラクシ ヨン,ロ マ ンチ ックなデー ト・スポ ッ トなど,多 くの事例があるだ ろ う。 エ ジ ェンダーの商品価値 2-1 ジ ェンダーの商品化 消費者行動は,男 女の行動上の相違を明示する一つの領域である。そ して多 くの商品が, しばしばジェンダーと関連づけられる。例えば,欧 米の多 くの地 域では,家 の外で働 くための道具が男 らしさに,家 事にかかわる多 くの品目は 女 らしさに関連づけらる。また,儀 式や行事で使われる人工物の中には,男 か 女のいずれかに関連づけられるものも多い。ウェデイング ・ドレスや結婚指輪 6 ) などの選択が花嫁によって主体的になされるのも,そ れを表す一例である。ク リスマス ・ギフトの買物は 「愛の労働」 として女 らしさを象徴する行為であり│ 働 赤子誕生のためのお祝 いの買物 な ども女 らしさを象徴する。 一方,男 らしさを形成 し,強 化するために消費 (つまり参加,観 戦,ニ ュー ス視聴)さ れる商品に,組 織スポーツがある。 ラグビー,フ ッ トボール,ベ ー スボール,サ ッカーの ようなスポーツである。その意味や必要視 される戦闘力, 攻撃力,統 御力,非 感受性のため,組 織スポーツはほとんど排他的に,男 の世 界で行 われて きた。そ して男たちは,組 織スポーツの消費 を通 して,男 らしい の 自己アイデンティティーを獲得 し,男 の間の社会的な絆を促進させてきた。 近年の 3つ のアメリカ映画,エ ーリアン,タ ーミネーター2,セ ルマ&ロ イ スの中に登場する女性 ヒロインが,物 語の中でどのように振舞い,何 を消費 し 1 0 ) ているかを調べ た研究がある。それによると,彼 女たちの行動 は,男 らしい と みなされる商品を一貫 して使用 し,逆 に女 らしい とみなされる商品を一切使用 しない ことによって描かれた。彼女たちが した男 らしい消費は,次 の事項 に表
性の商品化と商品価値 157 された。(a)喫煙,(b)飲酒,(C)自動車両 (自動車, トラック,オ ー トバイ,な ど) の操縦,(d)技術や複雑 な機械の操作,(e)銃の使用,(f形巳罪の実行 と財産の消耗, (0暗紋 (他者の生命 の消費)。また,彼 女たちが しなかった女 らしい消費 は, 次の事項 に表 された。(a)メーキャップ化粧,(b)長く,ソ フ トで流れるような髪 型,(C)ドレス,ス カー ト,ス トッキ ング,ブ ラジヤーの着用。 商品が ジェングー と関連づけられるケースは,わ が国で も多 く存在するであ ろ う。その事例のい くつかを列挙 してみ よう。 (a)年少の女の子 に長年人気がある 「リカちゃん」人形,OLや 高校生 に根強 い人気がある白い子猫 「キテ ィちゃん」 グッズなどは,か わいい女の子のシン ボルである。それに対 して,模 型 自動車や戦闘アニメ ・プラモデルなどは男の 子の シンボルである。 この事情 は,米 国で も類似 している 。 (b)子供 たちの ラン ドセル ・学用品 。洋服 にも,ジ ェンダーが表示 される 。 市販 されているラン ドセルの中で,男 の子が選ぶ色はほとん どが黒や紺色,女 の子 は赤や ピンクである。 また,異 性の色 に挑戦する度合は女の子 に多い。筆 箱や鉛筆削 りなどの文房具 にも,男 の子の色 =青 ,女 の子の色 =赤 とい う色分 けが認め られ,メ ーカーによる色分 けについての思い込み も根強い。 さらに, 通学時の服装で も,男 の子は紺,黒 ,茶 など,女 の子は赤,ピ ンク,自 などが 多 い。 (C)人気 アニメ番組 には,強 くてかっこいい男性主人公が,長 い髪 。大 きな瞳 の若い女の子 を守 って戦 うとい うパ ターンが多い。女の子は,や さしく,奉 仕 的で,男 を頼 りにする可愛い恋人 とい う設定である。 このことは,人 気キャラ 1 3 ) クターに関する玩具や絵本 にも反映 される 。 ( d ) 男らしい顔,女 らしい顔 は若者の関心事であ り,特 に女性顔の女 らしさは 眉や唇 な どのパ T 卜 の形 によって醸成 される。従来 より,女 性の化粧 にはさま ざまな女 らしさが演出 されて きた。戦後の復興期 には,西 洋人 を手本 に,ピ ン ク系の白い肌,立 体的な目鼻立ちに関心が向けられた。 しか し,高 度成長期 に 褐色 の肌が登場 し,70年 代 の女性の社会進出 とあいまって, 日本人固有の美 し さを演出するオークル系の化粧へ と移行 した。80年代 か ら90年代,美 しさと力
強 さを共 に願 う新 しい女 らしさへの期待 に答 えるべ く,化 粧品はます ます高機 能化 ・多機能化への道 を歩んでいる。 (e)人間の肉体 はジェンダーの影響 を受け,ス ポーツマ ン体型への憧れや,細 くてスマー トな体型への憧れ (痩身願望)の ように,男 らしい身体や女 らしい 身体 を得 るために消費カイ子われる。ボディビルディング,エ ステティックやフイッ トネス,小 顔 ・顔やせ グッズ,矯 正下着,各 種美容整形,等 々である。 (f溶水やオーデコロンなどの芳香製品 (フレグランス)の 使用 も,ジ ェンダー やセ ックス と密接 に関わっている。 フレグランスを使 う重要な動機の一つに, 異性の引 きつけがあ り,そ れ を実現す るために,男 らしい香 り (男の香 り), 女 らしい香 り (女の香 り)力落J用される。 (g)既製服の企画では,ジ ェングー ・イメージが商品差別化の方法 としてよく 用 い られる。 また,女 性向けのバ ッグ ・家具 ・インテ リア ・マ ンシ ョン ・自動 車 などには暖か く,柔 らかい色が,男 性向けのそれ らには濃 く,暗 い色が多 く 用 い られる。 さらに,商 品の図柄 (花 ・愛玩動物 =女 らしさ,乗 り物 ・スポー ツ ・野性動物 =男 らしさ,な ど),商 品の形や感触 (まるみある形 ・やわ らか な感触 =女 らしさ,四 角や角張 った形 ・ごわついた感触 =男 らしさ,な ど)に も,ジ ェングーが表示 される。 (h)毛ビジネス市場 (育毛 ・養毛剤,シ ェーバ ー ・脱毛器,カ ツラ ,付 け毛, 染毛剤 夕な どの市場),ジ ュエ リー ・アクセサ リー市場,ア ンブ レラ市場,な どで扱 われるさまざまな商品 も,ジ ェンダーと密接 に関連 している。例 えば, ワキ毛の手入れや手足の脱毛は,文 化的な女 らしさの表現である。 まるさ 。やわらかさ=女 らしさのように,ジ ェンダーと連合する製品特性は, ブラン ド属性 を知る手がか りとして用い られる。 これ とは逆 に,消 費者は,ブ ラ ン ドに基づいてある種 の製品特性 を推論す ることも明 らかになっていると ブラン ド名 に用い られるアルファベ ッ トは,そ のような推論 を促す一つの手が か りになる。 アル ファベ ッ トのジェンダー ・ステ レオタイプを調べ た研究 に よれば,活 字のX,Z,W,Kは 男 らしい文字で,中 で もXは 最後 に位置 し, か どば り,き つい感 じが強い点で最 も男 らしい。それに対 して,G,S,O,
性の商品化と商品価値 159 Q , A は や わ らか な響 きや形 を もう女 ら しい文字 であ る。 C,L,Yな ど もや わ らか な響 きを もった女性 と連合 され る文字 で,香 水 やオーデ コロ ンのブラ ン ド名 に よ く用 い られ る。 また,ア ル フ ァヌメ リック体 の ブラ ン ド名 (つま り, シャネルNo.5,カ ローラエ,P C98,リ ーバイス501のような,言 葉や文字 と 数字 を合 わせ たブラン ド名)の 使用 にも,ジ ェンダー ・ステ レオタイプが認め られる。その場合,小 さな数字は女 らしさと運合 しやすい。逆 に,大 きくて複 雑 な数字 は,背 後 に科学的研究や理性の存在 を強 く示唆 し,男 らしさと連合 し やすい。そ してそれは,通 常の食品よりは特別の処方箋や調理法が必要な食品, ランジェ リーよりは仕事着,家 具 よりはオフィス用具,美 術品よりは工業 ・化 学製品,の ブラン ド名 にとって適切 となる。 以上の ように,さ まざまな商品や消費行動がジェンダーと関連づけられるが, その背後 には,表 2の ようなジェンダーの二分割が存在 した。 この三分割は, 資本主義社会 における諸経験 に意味 と秩序 を与えるためにモ ダニズムによって 利用 され,近 代社会 に一定の規範 とモダニティとい う近代性 を与える大 きな役 害Jを果た して きた。そ して近代の諸企業 も,ジ ェンダーの三分割 を志向 したマー ケテ イングを積極的に展開 して きた。 1 8 ) 表 2 ジ ェ ンダー の意 味 ( 男 男 ら しさ 男 方脅升申 太 陽 ネ申昌と 所有 者 消費 をさせ る ら し さ ) 公 的、職場、生産 生産者、能動(積極性) 合理 的、理性 、独 断 文化 価値 のある 人(主内 ( 女 女 ら しさ 女 肉体 月 俗世 所有物 消費をさせられる ら し さ ) 私 的、家庭 、消費 消費者、受 け身 感激 的、興奮、服従 自然 価値 のない 物( 客体) 確 かに,近 代社会が作 りあげたこのようなジェンダーの三分割は,根 強 く, 強情 な規範 として,今 日で も影響力 を行使 している。 しか し他方で,個 人の, ジェンダー ・カテゴリーか らの解放の動 きも顕著である。例 えば,男 性の女性
化,女 性の男性化 によつて生み出 される性 アン ドロジエ イ (両性 タイプ)や 性 未分化 タイプの増加 は,伝 統的でステ レオタイプ化 されたジェンダー ・カテゴ リーか らの,個 人の解放の現れである。 また消費が,受 動的な欲求充足過程で あるよりは,能 動的な自己構築過程であるとい う傾向 も,伝 統的なジェンダー ・カテゴリーか らの解放 を促 している。 さらにジェンダーの三分割 には,男 女 対等 な社会進出を求めるフェミニズムか らの批判 も向け られている。要するに, 現在 の消費者の諸経験 や諸行動 を理解す るための重要 な視点の下つが,ジ エン ダーとその変容 なのである。 2-2 広 告 におけるジェングーの表現 近代社会が作 り上げて きたジェンダーの三分書Jは,大 衆消費社会の演出者で あるマス コミ広告 によつて利用 され,あ る場合 には誇張 されて きた。表 3は , 60年代の半 ばよ り30年間,わ が国のテ レビCMで 描かれた代表的な男 と女 を例 示 した ものである。 これに示 されるように,従 来 よ リジェンダーの演出は,商 品差別化の重要 な手法であった。そのことは,ゴ フマ ンちミ広告 における 「ジェ ンダー表現の過度の儀礼化 (hyper一ritualization)」として指摘 し,ボ ー ドリヤー ル も 「男性 的モデル対女性 的モデル」 として指摘 した。ボー ドリヤールはさら に,第 三のモデル としての両性的モデル (このモデルは自己陶酔的な若者 と直 結 している)の 出現 を明言 した。表 3の 少 な くとも90年 代以降の広告では, 男 らしさと女 らしさを備 えた両性的モデルが,魅 力あるジェンダー ・イメージ にな りつつある。 それでは,広 告 における男 と女はいかに誇張 して描かれて きただろうか。 ゴ フマ ン│ま,次 の 6つ の点か ら,広 告 における 「ジェンダー表現の過度の儀礼化」 を特徴づ けた。 ①相対 的な大 きさ ;男 女の相対的な大 きさ,特 に身長の大 きさは,権 力,地 位 ,名 声,な どを意味深長 に表現する一方法である。女性 より男性の社会的地 位が高いことは,広 告 において,男 性の身長や胴 まわ りが女性 より大 きいこと によつて表 される。 またこの ような相対的な大 きさは,ジ ェンダーを記号化す
性 の商 品化 と商 品価 値 1 9 ) テレビCMで 描かれた 「男」と 「女」 資生堂C M に 前田美波里。 レナウン「ヮンサカ娘」。
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キム タクの日紅C M 。 表 3 容 内 1966年 1967年 1970年 1975年 1980年 1985年 1986年 1989年 1992年 1996年 る基礎 になり,例 えば男性の腕時計は女性のそれより大 きい。 ②女 らしいタッチ ;広告における女性の指や手は,つ かんだり,操 縦 したり, 支えた りではなく,添 えた り,な ぞった り,な でたり,た だ触れているだけ, のタッチで描かれる。 ③役 目のランクづけ ;広告における男女は,あ る仕事の遂行に協力 し合うが, 医者 と看護婦,コ ーチとプレイヤーのように,男 は命令 ・指示を与えることが できる役割を遂行する。このような役 目のランクづけは,子 供を用いた広告に も存在する。 ④家族 ;広告に登場する家族では,少 女 (娘)と 母親,少 年 (息子)と 父親 の間の社会的きずなが強調される。また母親は,父 親が息子に対するよりも, 娘にいっそう近い (同じ性質の)も のとして描かれる傾向がある。さらに家族 を守る父親は,家 族のメンバーの輪の少 し外で描かれる。 ⑤服従の儀礼表現 ;体 を真っす ぐに立たせた り,頭 の位置が高いことは,優 位,相 手へのさげすみの印である。広告の男は, しばしば女より上の位置で く つろぐ。女はベッド,ソ ファータ床の上で描かれる。また女は,は にかみながらひ ざや か らだ を曲げ,首 をか しげ,頭 の位置 は相対 的 に低 い。 これ らは,自 分 が下位 で あ る こ との受 け入 れ と,迎 合 や従 順 さの表現 となる。広告 の女 は ま た, しば しばお どけてみせ ,愛 想 よ くほほ笑み,男 のふ ざけの獲物 になる。 そ の他 ,女 が男 に対 してお こな う腕 のか らませ な ども,服 従 の儀礼表現 となる。 ⑥身を引 く自由と特権 ;例えば,後 悔 ・はにかみ ・悲嘆 ・恐怖 ・喜びなど, 感情の表出を許すことによつて,女 は,社 会的諸状況から心理的に自由に身を 引 くことができ,ま わ りの他者の保護や温情に依存するように描かれる。感情 を表出させる方法には,手 で顔や口を覆 う,日 に指をあてがう,日 を大 きく開 ける,指 をからませる,鼻 をす り寄せる,視 線をそらす,夢 見ごこちに振舞う, 人 (しば しば男)に す り寄る,も たれかかる,肩 を抱かれる,腕 を支えられる, な どがある。 広告 におけるジェンダーの表現は,必 ず しもジェンダーの実態 と同じではな い。つ まり,ジ ェングーの実態が早い速度で変化 している場合で も,広 告 にお けるジェンダーの表現 は必ず しもその ような変化 に即応 しない。広告表現 には 過度の儀礼化が認 め られ,そ れは現実 を,必 要以上 に標準化,誇 張,単 純化す ることか ら特色づけ られる。 さらに広告表現 には,こ うあるべ き,あ つてほ し い,と い う社会的理念 ・理想が反映 される。 ゴフマ ンによる広告分析 は,新 聞や雑誌 などの出版物 を対象 に行 われたが, 内容分析 を用いてテ レビ広告のジェンダー描写 も研究 されている。そ してテレ ビ広告で も,同 様 な性のステ レオタイプ化が認め られ,そ れは大人だけでな く, 子供 に も適用 されていると例 えば,男 と女 に関 して,職 場での ビジネスの遂行 とともに描 く,家 庭内で描 く,権 限をもつ人 として描 く,も たない人 として描 く,男 女のそれぞれに限定 した製品カテゴリーとして描 く,男 女のそれぞれに 特徴 的な誇張 された行為,声 の トー ン,ボ デイ ・ランゲージを用いる,な どで ある。 オース トラリア,メ キシコ,ア メリカの 3カ 国のテ レビ広告の内容が,ジ ェ 2 2 ) ンダー描写 の観点か ら比較 されたことがある。内容分析 において用 い られた ( コー ド化 された) 変 数 は, 次 の とお りであつた。広告 に関 して, 広 告製品の
性の商品化と商品価値 163 カテゴリー とユ ーザ ー,ナ レーターの声,セ ッテ イング (物語 の背景や撮影地)。 登場 人物 に関 して,性 ,年 齢 ,結 婚 や仕事 の有無 ,職 業 ,ス ポー クス ・パ ーソ ン (製品の唱道者 と しての貢献度),信 憑性 (信憑性 の理 由),援 助 や助言 (援 助 ・助 言 す る人 か ,さ れ る人か),役 害J,活 動状 況 ,な ど。 3カ 国で共通 す る
結果は,次 のようなものであった。①広告に登場する女性は35歳以下が多 く,
男性は35歳∼50歳が多い。②女性は雇用されていない人が多 く,男 性は就業中
の人が多い。③女性は他者に依存 した役割を遂行する人が多 く,男 性は他者に
依存 しない役割を遂行する人が多い。また,ア メリカとメキシコで共通する結
果として,広 告に登場する女性が製品への信憑性をその使用者であることから
得 ようとす る度合が高かったのに対 して,男 性 はその道の権威者であることか ら得 ようとする度合が高かった。 わが国のテレビ広告 におけるジェンダー描写に関 して,内 容分析 を行った研 究役 よれば,い くつかの点で上記の研究 と同様 な結果が得 られている。す なわち,① (主人公として)広 告に登場する女性は男性より多 く,ま た女性は20
代,男 性は30代,40代が多い。②女性は家庭に多 く登場 し,男 性は職場に多 く
登場する。③広告製品への信憑性を得るために多 くの芸能人が登場するが,女
性はその使用者であることから信憑性を得ようとする度合が高い。④女性は,
主人公のイメージとして極めて魅力的である。⑤女性は,美 容関係の広告に頻
繁に登場する。⑥女性には日本人の占める割合が高い。②女性に対しては,日 ,
髪;身 体,胸 が多 く接写されている。
広告の中には,男 性向け広告や女性向け広告がかなりあるだろう。そして,
そのようないずれかの性を標的にした広告では,社 会的理念 ・理想としてのジェ
ンダーが表示される。例えば,1970年にわが国で放映されたコマーシヤル,
“
男は黙つてサッポロビール
"(表
3)に もみられたように,特 に酒,タ バコ,
ドリンク剤,ジ ーンズなどのコマーシヤルでは,ス テレオタイプ化された男ら
しさが強調 されて きた。 ア メ リカの コマ ー シ ヤル に登場 す る “M a r i b o r o M a nであろぢ
6七
“
Mariboro Man"は
,男らしく
,粗野で,
ルな ども,そ の代表例 尊大 なカウボーイの イメージであ り,開 拓者の神話や伝説上の人物 と連合 している。男性視聴者を狙っ たあるコマ ーシャルは,“MaribOro Man"に よる身体 的挑戦つ ま り身体的脅 威 の克服 をテーマに,ビ ール と自然 ・開拓者 とを結 びつけた。 またタバ コにつ いての有名で成功 したコマーシャルの一つに,フ イリップ 。モ リス社のマール ボロ ・キャンペ ーンがある。 このキャンペ ーンの “MaribOro Man"は ,タ バ コを売るカウボーイ以上の意味 と存在 を有 している。世界の広告塔 にそびえる “ Mariboro Man"は ,真 っす ぐな鼻, しわを寄せた額やた くましく四角いあ ごの横顔,野 望 に満ちた目つ き,タ バ コをぎゅっとつかんだ大 きな男 らしい手 な どで描かれ,そ れは理性, 自立,効 能, 自負,自 由などを表すアリス トテレ ス的美の理念 を象徴する。“Mariboro Man"は 20世紀のダビデであった。 しか し,男 性向け広告が強調 して きたステ レオタイプ化 された男 らしさは, 特 に1980年代以降,明 白な変化 を経験することになる。その変化 とは,断 固た る男か ら決断力のない男へ,有 能な男か らつ まづ く男へ,尊 敬 される性の男か ら敬意 を受 けない性の男へ, リーダーとしての男か ら追随者である男ヘタのよ うな方向での変化である。この変化は,男 が女にアタックする場合の重要な手 段である力 と金を,女 性が同様にもつようになったことも一因している。そ し て男 も,従 来の女 と同様に,衣 服を脱いで身体を見せはじめ,性 的対象 として 描かれはじめた。199o年代になってもこの傾向は続いている。現代における広
告上の
男のイメージとし
て,次の6つ
のタイプ
が指摘さ
れている
と①「
Maゴ
s
Man(男 のなかの男)」
,② 「
Wild and Crazy Guy(手
に負えない,無 分別な
男)」
,③ 「
Wimp(身 を落とした,つ まらない男)」,④ 「
Businessman(実
業
家,実 務家)」
,⑤ 「
Hunk(身 体的に女の興をそそる,マ ッチョな男)」,⑥
「
Sensitive Guy(ナ
イーブで,繊 細な男)」
。
男と同様,広 告における女も,か なり長い問,ス テレオタイプ的に描かれて
きた。本稿でとりあげた諸研究は,そ のようなステレオタイプが現在でもなお
強いことを示 している。広告におけるステレオタイプ化された女らしさに関し
て,,次
のような,対
照的な4 つ
のタイプ
があると
いう
とすなわち
, ①「
V i r g i n
性の商品化と商品価値 165
Lady(優 雅で洗練 された女)」,④ 「Sex obiect(性的対象 としての女)」,で
ある。① と③は肯定的イメージ,② と④は否定的イメージである。 「Virgin Mary」の特徴は,そ の養育的特質,特 に人間に対する関心 と愛で あ り,性 的特質を強調 しないことである。このタイプの女性は,家 庭・夫 ・子 供などに責任 をもつ無私無欲の母親や妻 として描かれる。「Temptress Eve」 は,魅 力度が高 く,心 地よい危険に男を誘い込める女 として描かれる。このタ イプの女性は,酒 ,香 水,化 粧品,フ アツション用品などの広告によく登場す る。「Courtly Lady」は,裕 福で地位 も高 く,美 や優雅 さをもち,人 から称賛 を受けている女性である。このタイプの女性は,上 流階層の贅沢を売るような 広告,例 えば高価な宝石 ・貴金属品,化 粧品,リ ゾー ト,マ ンションなどの広 告によく登場する。「Sex Obiect」は,自 ら力をもてず,男 の力の行使 を受容 するタイプで,性 の対象 として男から見つめられ,利 用 され,捨 てられる。こ のタイプの女性は,性 を刺激 したり,性 と連合させるような多 くの広告にしば しば登場する。 男の描写の変化がそうであったように,家 庭の外で働 く女性の増加によつて, 特 に1980年代以降,女 性に関するステレオタイプが変化 しつつある点 も見逃せ 2 9 ) ない。確かに,全 面的に受 け入れ られているわけではないが,現 代の広告業者 は,女 性 に関 して従来 とは異 なつた新 しいイメージを作 り上げることによつて, この変化 に対応 している。 3 0 ) 男女間の平等性を唱えるような女性の描 き方は,一 つの対応である。これは, 広告に登場する女性が多様な役割のもとで描かれるようになったことに表され ている。別の対応 として,伝 統的女性から現代的女性へ という描写の変化 もあ ると現代的女性 とは,強 いキヤリア (職業)志 向性をもち,性 的平等を強 く肯 定する態度や,家 事に対する夫 との責任分担意識などによつて特徴づけられる。 この現代的女性は,「SuperwOman(ス ーパーウ下マン)」や 「Egalitarian(平 等主義者の女)」として描かれると「Superwoman」は,ほ とんど誰からの助け を借 りるこ とな く仕事 と家庭 の要求 をうま くこなす女性 を表 している。 「Egalitarian」は,共 働 き夫婦などにおいて,家 事や雑用を分担 し合 う女性 を
表 している。特 に,現 在の多 くの女性市場 においては,広 告効果 という観点か ら,平 等主義者のイメージの方が より有効 な役割の描 き方であるといわれる。 それは女性の間に,仕 事 と家庭の両方 に対 して,同 等 に責任 をもつことが難 し い とい う感 じが広がっていることにもよる。 2-3 ジ ェンダー ・アイデンティティーと商品の選択 商品情報への接触方法や商品の選択能力 に関 して,性 差が報告 されて きたと 例 えば,男 が 自分 を焦点 に した目標 を探求 しやす く,女 は自分 と他者の両方に 関連す る日標 を探求 しやすい。男の情報処理は社会的関係 とは独立 に,女 のそ れは社会的関係の文脈で行 われやすい。同様 に,男 の判断が 自己関連情報の利 便性 にのみ影響 されやす く,女 の判断は自己関連情報 と他者関連情報の関係 を 反映す るようになされやすい。 メッセージにおける諸手がか りの一致度が高い 場合 な どでは,男 の情報処理がメ ッセージのテーマや概要によって行われやす く [概要 に基づ く処理戦略],女 のそれはメ ッセージの内容 を詳細 に練 り上げ るこ とによってなされ [詳細 な処理戦略],メ ッセージの細 目に過剰 に反応 し やすい。帰属思考 に関 して性差があ り,男 が内的に帰属 をし,よ って行為の原 因が能力や性格などの内的要因にあると考えやす く,女 は外的に帰属 をし,よ っ て行為 の原因が周囲の状況要因や外的要因にあると考えやすい。説得的訴求に 関 して,女 は男 よ りも説得 されやす く,影 響 されやすい。男が自己主張欲求や 支配欲求 を刺激する広告 に説得 されやす く,女 は親和欲求を末J激する広告にも 説得 されやすい。男 は女 よ りも他者 との競争 を描いた広告 を好む。聴覚による 情報処理 に性差があ り,例 えば初めて聞 く音楽 に対 して,男 性は分析的,女 は 感覚的な対応 を しやすい。女 は,特 に音の強 さが もた らす効果に敏感で,低 い 音の音楽にも好意的に反応する。 以上のような性差 には,セ ックス とジェングーの両方に起因する場合がある だろう。従来 より,後 者のジェンダー関連的な性差 をとらえる一側面 として, 人が社会的な意味で 自分 をどの程度男 らしくない し女 らしくみているかの自己 認知であるジェンダー ・アイデ ンティティー(gender identity),ジェンダー自
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己概念 (gender self一concept),あ るい は性役割 同一性 (sex role identity)の
概念が使 われて きた。 それで は,自 分 を男 ら しい と認知 している人が男 ら しい 特性 の商 品 を好 み,女 ら しい と認知 してい る人が女 らしい特性 の商品 を好 むだ ろ うか。 確 かに従来の研 究ネ iま、ジェンダー ・アイデ ンテ イテ イー と商品選択 との間 に,あ る程度の肯定的な関係が指摘 されて きた。例 えば,自 分 を男 らしい と考 える人は,実 際の性 に関係 な く,男 性的 とみなされる商品 (例えば男性的イメー ジの タバ コ)や 活動 を頻繁 に好み,自 分 を女 らしい と考 える人は,実 際の性 に 関係 な く,女 性的 とみなされる商品 (例えば女性的イメージのタバ コ)や 活動 4 5 ∼4 8 ) に強い好み を示 した。近年の研究 で も、ジェンダー ・アイデンティテ ィー と商 品評価 ・商品選択 との関係が,断 定的ではないにせ よ指摘 されている。例 えば, 自分 を男 らしい と考 える人は男 らしい言葉で表現 された商品を,女 らしい と考 える人は女 らしい言葉で表現 された商品 を好んだ。 しか し,女 らしさの自己認 知以上 に,男 らしさの 自己認知が消費行動 と強い関連性 をもつ傾向 もあった。 また,女 らしさの 自己認知が,工 芸 ・美術 品の ような特定の商品に対する強い 関与 を生み出す傾 向 もあった。 ジェンダー ・アイデ ンテイテイーの消費行動への影響は,特 にたべ るとい う 食行動や まとうとい う被服行動,さ らに家庭生活上の意思決定問題 などに現 わ れやすい。 これ らの中で,特 に被服行動 には興味ある内容が含 まれ,次 の機会 に議論 をゆず る。 ほっそ りした体型 につ なが るとい う意味で,「小食」 といわれる食行動 は, 女 ら しさの象徴 的行動 である。そ して,女 らしさの 自己認知が強い人ほ ど, 「小食」 を しやすいであろう。 なぜ な らば,「小食」 を通 して,ほ つそ りした 体型 と肯定的評価 を得 たい と願 うだろ うか らである。女性 (特に若い女性)に よくみ られる痩身願望や摂食抑制は,そ れを表 している。 また代償的飲食にも, ジェンダー ・アイデ ンテ ィテ イーの影響がある。代償的飲食 とは,「優 しさと 愛」の不足 を感 じるとき,こ れを克服するために食べ ることであ り,感 情 に由 来す る もの (例えば,精 神的に落ち込んでいる時に多 く食べ る)と ,外 的に触
発 され た もの (例えば,人 が食べ てい るの を見 る と食べ た くなる)と が ある。 4 9 ∼5 0 ) 代償的飲食について次のことが指摘 されている。①女性は感情に出来する代 償的飲食を多 く行 う,② 男女 とも,女 らしさの自己認知が強い人は,精 神的ス トレスを伴 う問題の処理に際 して悲観的感情をもちやす く,自 己中心的になり やすい,③ そ してそのような人ほど,代 償的飲食に陥 りやすい,④ 男 らしさの 自己認知はス トレスを和 らげる緩衝装置 となり,代 償的飲食を防 ぐ。 それでは,ジ ェンダー ・アイデンティティーは,商 品情報,特 に広告への接 触方法や接触行動にどのような影響を及ぼすであろうか。これに関 しては,男 性 より女性のジェンダー ・アイデンティティーをとりあげたものが多い。女性 のジェンダー ・アイデンティティーの方が,近 年において,い っそう流動性に 富んできたことによるものであろう。その一つの表れは,デ モグラフイック属 5 1 、5 2 ) 性 の影響 であ る。例 えば,女 らしさの 自己認知が強い女性 には,高 年齢で, 結婚 を し,子 供があ り,低 賃金の仕事 に雇 われている傾 向が高かったのに対 し て,男 らしさの 自己認知が強い女性 には,年 齢が若 く,独 身で,専 門的職業 に 就 いている傾 向 も高かった。 女性市場の獲得 を狙 った製品ポジシ ョエ ング戦略 (市場 における製品の位置 づ けに関す る戦略)と して,従 来 より,「伝統的」 と 「現代的」 と命名で きる 2つ のアプローチが実行 されて きた。伝統的ポジシ ヨエ ングでは,製 品が主 に 家族や家庭 に注意 を集中させ る女性 に向けられ,現 代的ポジシ ョエ ングでは, 職場 と家庭の両方で有能に働 く女性 に向けられた。 この両アプローチについて, 総体 としては,現 代 的ポジシ ョエ ングの方が広告への好意的な反応 を促進 させ ること,広 告効果に関 して製品ポジショエングとジェンダー ・アイデンティティー との間に交互作用が存在す ること,な どが報告 されて きた。例 えば,男 らしさ の 自己認知が強 く,女 らしさの 自己認知が弱い女性 は,現 代的ポジシ ヨエング の広告 に好意的な反応 を示 したのに対 して,そ の逆の女性 は,伝 統的ポジシ ョ ニ ングの広告に好意的な反応 を示 したもこのことは,ジ ェンダー ・アイデンティ テ イーに適 う商品情報は容易 に処理 され,肯 定的に想起 されやすいことを意味 している。 しか し,ジ ェンダー ・アイデ ンティティーと広告への接触方法や接
性の商品化と商品価値 169 触行動 の 間の関連性 は,例 えば家庭用 ク リーナーの ような家事 関連 ,化 粧 品の ような装 い関連 ,金 融 商 品の ような出資 関連 とい った商 品 カテ ゴリーで異 なる こ とも示 された。 さらに家事 関連商 品で も,そ れが 自分 の在 り方 と深 く関係 し ない場合 には,男 ら しさの 自己認知 が高 くて も,伝 統 的ポジシ ョエ ングを好 む 女性 たち もいた。その意味では,「伝統的」対 「現代 的」 として描 かれるジェ ングー広告の効果は,ジ ェングー ・アイデ ンティティーヘの適合以上 に,受 け 手のセル フ ・スキーマヘの適合 によって,ま た受け手が広告商品を自己概念の 改善や向上のためにどの程度用 いるかによって,さ らに受け手が広告商品を自 分 といかに関連づけるか とい う自己参照のプロセスや度合 によっていっそ う左 3 1 、4 6 、5 3 ∼5 6 ) 右 される といえる。 2 - 4 ジ ェンダー消費 とフェミニズム ウーマ ン ・リブを発端 とし,そ の後,多 様 な立場の議論 と運動 を活性化 させ たのは,フ ェ ミニズム (第二波 フェ ミニズム)で ある。 フェ ミニズムは,ジ ェ ンダーや性役割 を主要概念 とし,法 律や制度の上で平等 を達成 して も,慣 習や 規範意識 などにジェンダーか らくる縛 りがあれば実質的な平等は達成 されない とい う共通認識 をもっている。 フェミニズム論 は,マ ーケテイングの領域 に対
して,い くつかの視点を提示している。例えば,① 消費財マーケテイングの主
要 な標 的であ った女性 に関 して,女 性特有 の認識方法 に対 す る理解 を深 め る こ とができる。②女性販売員などを通 して,男 性 とは違った販売上の成功に至る 道筋や成功の理由づけを知ることから,マ ーケテイング活動に関する知識を深 めることができる。③ コンビニエンス ・ス トアの隆盛などが示唆するように, 女性役割の変化によって引 き起こされる消費環境の変化を知ることができる。 ④従来より環境運動や消費者保護運動において指導的立場をとり続けてきたこ とに関 して,女 性をこのような行動にか りたてる要因は何か,ま た女性の世界 観は何かへの理解から,マ ーケテイング活動が潜在的に抱えている問題 と,そ れらから誤 りを除 くための方策とを検討することができる。 フェミニズム論は,ま た,消 費者研究に対 しても少なからず影響を与えてきた。近年の消費者研究 に影響 したフェミニズム論の一つは,女 性の役割やライ フス タイルの変化,働 く妻 と消費,な どをテーマに した1980年代の研究によく 見 られ,女 が男 よりも合理性,知 性,オ 能などで劣 っているとい う性的ステ レ 5 7 ) オタイプの修正 をイデオロギー上の目標 に した ものである。 これは男 らしさの 獲得戦略 と呼 ばれ,男 性的特性が人間にとって最 も好 ましい特性であるとい う イデオロギーを本質的には受け入れるが,公 的世界や専 門的職業の世界で受け 入れ られるために女 も男性的特性 を多 く身につけるべ きだ と主張 した。 それに対 して,1990年 頃 までに,別 の二つの流れが登場 した。第一は,補 完 の戦略 と呼べ るもので,女 性的価値 を補完 とい うイデオロギーで とらえ,既 存 の男性的世界観 を,養 育 ・共感 ・情緒 ・愛他主義の ような女性的価値で補完 し ようという考え方である。 この考え方は,例 えば,ホ ームレス,ギ フ ト・ショッ ピング,既 婚女性の消費,な どに関する研究で見受けられた。第二は,置 き換 え戦略 と呼べ るもので,既 存の男性的世界観 を女性的価値で置 き換 えようとい う考 え方である。つ ま り男性的価値 は今や批判 を受けているとし,そ れ とは対 立 した世界観 を提唱す る。 この考 え方は,例 えば,社 会倫理 に反 した商品の価 格設定 と消費,広 告の説得効果 と消費者の 自律的抵抗,フ リー ・マーケ ッ ト, な どに関する研究で見受け られた。 ところで,フ ェ ミニズム論 は,マ ス ・メデ ィア,特 に広告の中で女性 たちが いかに描かれているかに関心 を払 った。そ して,次 のような女性の描写 を批判 2 1 、5 8 ) の対象にした。①非現実的で,視 野の狭い女性,② 性的対象,幸 せな家庭の 主婦,無 能者 としての女性,③ 男への依存 をテーマにすること,④ 働 く女性の 主張の過小評価,な ど。確かに,こ のようなセクシズム (女性差別主義)力ざど の程度に表 されるかは,製 品カテゴリーで異っている。例えば,ビ ジネス用品 や旅行サービスなどの広告に比べて,生 活用品やお しゃれ用品などの広告では, セクシズムの強いジェンダー描写が多いだろう。この現象は,ジ ェンダーと商 品 との適合 という考え方から部分的には説明で きる。性 と関連性の強い商品 (上の例以外 にも,フ レグランス,化 粧品,宝 石 ・貴金属品,な ど)で は,セ クシズムの強いジェンダー描写 と商品との関連づけが有効な場合 もあろう。 し
性の商品化 と商品価値 171 か しその広 告 の中 に,セ クシズ ムが露骨 に表示 され る場合 には,フ ェ ミニス ト は言 うに及 ばず ,一 般消費者 に とって も不快 の対象 とな り,彼 らか らの拒絶 を 受 け る こ とになるで あ ろ う。 最後 に,女 に関するジェンダー描写 に対 して,敏 感か否かの反応の違いは何 によるものだろうか。 これまでの知見では,女 に関するジェンダー描写への知 覚 には,フ ェ ミニス トか伝統主義者 (伝統的なジェングー ・ステ レオタイプの 保持者)か とい う役割志向性や,デ モグラフイック属性の影響がある。 フェ ミ ニス トは教育水準が高い傾向にあ り,女 の描写 に敏感で,現 代的な働 く女 を強 調す る広告 を好むが,伝 統主義者 はそ うではない。 よってジェンダー描写が及 ぼす効果 を考 える鍵 は,そ れをとらえる個人の心模様 や意識 を理解することに ある。特 に,伝 統的社会か らの 自律 を強 く表明する人ほど,広 告の ような社会 的刺激の性質やそ こに描かれた役割期待 にいっそ う敏感 となるだろう。 l l l むすび にかえて 作 られた性か らの解放,ジ ェンダー ・フリーな社会 をめざして,女 の子 ・男 の子 ― “らしさル不要,女 らしさの拘束か ら解放 されて自分 らしさを,男 女の 無境界化が進む,も うはや らない男のた くましさ, しっか り女 に甘 えた男,浸 透す るフェ ミ男 くん ・・,こ れ らは,ジ ェングーの変化 を興味深 く指摘 した最 近の新聞報道の見出 しである。近年 におけるこのようなジェンダーの変化 にア プローチす る場合,少 な くとも二つの立場が可能だろう。一つは,男 らしさ一 女 ら しさのジェンダー ・カテゴリーその ものが社会の レベルにおいて溶融 し, 消滅 しつつあって,そ の意味 において個人は何 をして も自由だ (個人 を拘束す る ものはない)と い う解釈である。他の一つは,男 らしさ一女 らしさのジェン ダー ・カテゴリーは明確 に存在す るが,個 人がそれをどの ように担 うかは自由 だ とい う解釈である。本稿 は,ジ ェンダーの変化 に関する後者の解釈に立って いる。 ジェンダーは,社 会全般 に広 く浸透 した文化の一側面である。そ して,そ の 表示は しば しば明瞭になされて きた。 しか し現代では,ジ ェンダー ・カテゴリー
とセ ックス ・カテゴリーの対応関係 に亀裂が生 じ,そ れが消費者 に対 して, し ば しば世間の通説 に反 した経験 を,ま た従来では成 し得 なかったような冒険的 ・快楽的な経験 を可能にしている。 よって,マ ーケテイングの担当者は,「男」 対 「女」,「男 らしさ」対 「女 らしさ」 をクロスさせて仕事 をすることも余儀 な くされる。そこでは,子 供の養育 に熱心で,感 覚的,官 能的な男のイメージや, 家庭 の外で仕事 に専心する,強 引で,力 強い女のイメージが可能である。 さら に男女 にとって,力 強 く,魅 力的,魅 惑的なイメージも可能であろう。 男 と女 に とつて,従 来のステ レオタイプ化 されたジェングーか ら解放 される ことは,自 由を手 にするとい う意味では望 ましいだろう。 しか し自由を手 にし たあ とで,市 場 において再度構築 された “理想的な"性 のイメージにふ りまわ され,逆 に人々がジェンダーに強 く統制 される可能性 も存在する。その場合 に は,性 の “理想的"イ メージに合 うように自らを積極的に変容 させ ることか ら 人々が市場の渦 に飲み込 まれ,自 分 自身まで も商品 として消費する,と い う危 険性がつ きまとう。 ジェンダー ・カテゴリーが二元論的,対 立的特性 をもって存在 しなが ら,社 会が男や女 (個人)に 対 して何 を期待 し,何 を適切 とするかのメ ッセージを明 瞭 に提示 しない状況では,あ る程度の混乱が発生する。 この混乱の下では,消 費者 は自らの消費 に個人的な意味 を与 えることが, したが って自らの消費 に自 分 らしさを追求す ることが大いに可能 となる。 また消費者 は,意 味づけられた 「もの 。こと(消費の品 目や行為)」に興 じ,そ れ らを解体 し,再 構成 して表明 す ることか ら,文 化構築の積極的な担い手 になることがで きる。社会的に表明 され,統 制 された意味や役割期待が受け手の レベルにおいて崩壊 し,分 解する 過程 にある時 には,個 々の消費者は,自 分の経験や存在 と結びつ き,ま た自分 の経験や存在か ら引 き出 した意味 を,消 費 を通 して意のままにで きる大 きな自 由 をもつ。その 自由の下では,消 費は もはや受動的 ・授受的な欲求充足過程で はな く,積 極的な自己 (ない し自己イメージ)構 築過程 となる。そ して消費者 は生産者 として,製 品の生産 に参加することになる。 今後 ,ジ ェンダーとそれを取 り巻 く状況がいかに推移するに して も,消 費者
性の商品化 と商品価値 1 7 3 の経験 や行動へ の理解 に,ジ ェ ンダー とその変容 (特にス テ レオ タイプ化 され たジェンダー ・カテゴリーからの個人の解放)と いう視点は重要であ り続ける だろう。そ して,二 極のカテゴリーに分解 してきたジェンダーが,ジ ェンダー の鎖から解 き放たれた人々の自己定義に際 して,再 度,い かに意味づけされ, 表現 されるようになるかについての理解なしには,今 後の消費を十分に語るこ とはできないであろう。 文 献 1 ) 坂田隆文 1 9 9 5 滋 賀大学経済学部学生懸賞論文. 2 ) A l l i s o n , N . K . e t a l . 1 9 8 0 ムθ妃. , 7 , 6 0 6 . 3)Freud,S.1953-1957 フロイ ト選集 ;第一巻 ∼第十五巻 日本教文社 .
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