34 1. はじめに
表 面 プ ラ ズ モ ン 波 ( surface plasmon resonance wave: SP)は金属と誘電体の界面に存 在する電子の疎密波である。プリズムを利用し た表面プラズモンの原理図を図1(a)に示す。
全反射条件で入射角を変化したとき、ある入射 角の光のエネルギの一部がSP励起に使われる。
このため、入射角を横軸に、反射光強度を縦軸 にとると図1(b)のように最小値が現れる。最 小値をとる入射角を共鳴角とよぶ。光ファイバ を利用する場合(図2参照)、入射角を変化させ ることは困難である。そこで、光ファイバのコ ア側面にSPを励起するため、光源に白色光を用 い、媒質の屈折率が入射波長に依存することを 利用する。その結果、図1(b)の横軸を波長と した応答が得られる。反射光強度が最小となる 波長を共鳴波長という。波長に対する光強度を 測定するには、分光器が必要である。このため、
システムは高価となる。この解決策として、波 長を固定しかつ高感度検出可能な手法を見出し た(1)。共鳴波長より左側に波長を固定すると、
共鳴波長のシフト(増加)に伴い、光強度が増 加する。一方、共鳴波長の右側に波長を固定す ると、シフトにより強度は減少する。そこで、2 波長の光強度を測定し、その差動出力を検出す れば高感度検出可能である。理論と実験により 最適な2波長と測定可能屈折率範囲を見出した。
図3に開発したシステムの概略と測定例を示す。
2波長光ファイバ表面プラズモンセンサの実用化研究
静岡大学創造科学技術大学院 近藤 淳 [email protected]
再現性の高い光ファイバ表面プラズ モンセンサプローブの製作法の確立.
課 題
・光ファイバSPRセンサの実用化
・液体の屈折率計測法の確立
応 用
金薄膜
θ プリズム
サンプル
表面プラズモン(SP)
入射光 反射光
Normalized reflection intensity
Incident angle
'
銀膜
400μ m
ク ラ ッ ド
コア 白色光 金薄膜
10mm 480μ m
図1 プリズムを用いた表面プラズモンセンサ の構成図(a)とその応答例(b)。
(a)
(b)
図2 光ファイバSPセンサの構造。
〔村田基金研究助成〕
35
ジャケット(TefzelÑBuffer coating)、クラッド
(bonded hard polymer)、コア(pure silica)と 素材が違う材料の切断に市販のカッターナイフ を利用していた。コア切断面写真を図4に示す。
コア外側の円周全体にそって欠けが見られる。
この原因は、ナイフの硬度がコアの硬度よりも 低いためである。一本のファイバを切り出す間 に刃こぼれが生じ、図4のような状態になる。
10cmのファイバには切断面が2カ所ある。この 両方を滑らかな状態にする必要がある。そこで、
切断用ナイフの加工を行った。市販のカッター ナイフにチタンコートを施したナイフとチタン コート高速度鋼ナイフを作成した。チタンコー トすることにより、ナイフの強度を上げること ができる。チタンコートカッターナイフにより ジャケットとクラッドに切り目を入れ、チタン コート高速度鋼ナイフにより切断した。その結 果を図5に示す。図4と比べると滑らかな切断面 になっていることが分かる。また、チタンコー トしたナイフを利用することにより、成功率も 向上した。
2.2 金属蒸着方法の改善
切断した光ファイバの一方のみ10mmクラッ ドとジャケットを除去したのち、端面にミラー 図3 (a)2波長光ファイバセンサシステムと
(b)測定例。
図4 従来法で切断した光ファイバの断面。
図5 新手法で切断した光ファイバの断面。
1.33 1.34 1.35 1.36
-0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2
612 nm 680 nm Difference
Normalized reflectance
Refractive index
Ethanol, Glucose Water
y=8.698x-10.88
y=-8.408+11.91
y=17.11x-22.79
(a)
(b)
2波長の差動出力を検出することにより、高感度 検出可能なことが分かる。
本研究で用いた光ファイバ(Newport製、セ ンサグレード、ステップインデックス型マルチ モード光ファイバ)のコア径は400μm、開口数
(NA)0.37である。図2に示すように、光ファイ バ先端部分10mmのジャケットとクラッドを剥 がし、先端にミラー用銀、コア周囲にはSP励起 用金薄膜を蒸着している。以下では、光ファイ バSPセンサ実用化に向けた問題点、特にセンサ 作成法について検討した結果を述べる。
2.光ファイバセンサ作成工程における問題点 と解決法
2.1 光ファイバの切断方法改善
ドラムより所望の長さ(約10cm)の光ファイ バを切り出し、一方の先端を加工する。従来、
36 用金属を蒸着する。その後コア側面にSP励起用
金薄膜を形成する。これまでミラー用金属とし て銀を用いてきた。しかし、銀は酸化しやすい ため、蒸着後数日でセンサの基礎特性が変化す る。化学的に安定な金の場合、測定波長領域に 対する反射率が銀よりも低い。そこで、ファイ バ先端面に最初に銀を蒸着し、保護材料として 金を蒸着した。次に、ファイバを回転させなが らコア側面に均一にSP励起用金を蒸着した。こ のように作成した光ファイバSPセンサを図6に 示す。また、蒸着半年後のミラーを銀のみとし たセンサおよび蒸着9ヶ月後のミラーに銀と金を 用いたセンサの写真を図7に示す。図7(a)の場 合、先端が酸化し変色していることが分かる。
一方、同図(b)ではその変化が僅かであるこ とがわかる。新作成法により、センサ寿命が長 くなったといえる。
3.実験による特性改善効果の確認
白色光と分光器を用いた測定系で光ファイバ SPセンサの評価を行った。図8は10本のファイ バを用いたときの結果である。代表的なファイ バの断面写真を図9に示す。ミラー面がセンサ側、
入射面が光源(および分光器)側である。切断 面が均一でない場合、光の漏れにより分光器で 検出される光強度が弱くなることが分かる。一 方、滑らかな端面の場合、光強度は強い。図8の 結果より、本研究で検討した切断面の特性改善 が重要であることが分かる。
次に、センサの経時特性について検討した。
図10は光ファイバSPセンサを用いた測定結果で ある。表1に共鳴波長と半値幅を示す。共鳴波長 と半値幅どちらも83日経過しても変化していな い。しかし、反射光強度は変化していることが 図より分かる。このため、図3に示す反射光強度 を測定する場合、経時特性について問題が生じ る可能性がある。今後の課題である。
図6 新しく作成した光ファイバSPセンサ。
(a)
(b)
図7 (a)ミラーを銀のみとした光ファイバセ ンサ作成半年後、(b)ミラーを銀+金とした光 ファイバセンサ作成9ヶ月後。
図8 代表的な光ファイバSPRセンサの特性。
図9 図8中のfiber3(a)とfiber4(b)の切断面。
左:ミラー面、右:入射面。
(a)
(b)
37
表1 図10より求めた水とエタノールに対する 共鳴波長と半値幅(単位はμm)。
図10 光ファイバSPセンサの経時特性測定結 果。(a)蒸着直後に測定、(b)83日後に 測定。
波長 半値幅
(a)water 609 100
(b)water 609 100
(a)ethanol 651 114
(b)ethanol 650 115
500 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
600 700
Wavelength (μm) 800
(a)water,
(b)water,
(a)ethanol
(b)ethanol
5.まとめ
2波長光ファイバSPRセンサの実用化を目指 し、研究を実施した。当初、光ファイバセンサ 作成法以外にも光源や計測方法についても検討 を行う予定であった。しかし、再現性の高いセ ンサ作成に多くの時間が費やされ、それ以外に ついては十分検討することができなかった。ま た、ここで述べた以外にも、SP励起用金膜の厚 さの検討(2)、ファイバを用いたバイオセンサ応 用(3)についても検討を行った。
参考文献
(1)H. Suzuki, et al., Meas. Sci. & Tech., 17, 1547-1552, 2006.
(2)H. Suzuki, et al., Sensors & Actuators B, Vol.
132, Issue 1, pp 26-33, 2008.05.
(3)G. Gupta, Ph. D. Thesis, Shizuoka Univ., 2007.