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【学位論文要旨】
[題目] Novel Tridentate Mesoionic Carbene, Applied to 3d-Transition Metal Complexes
[日本語訳] 新規三座メソイオン性カルベンおよび 3d
遷移金属錯体の開発SD132501
岩崎 春香[目的]
有機合成化学的に有用な炭素
-
炭素結合や炭素-
ヘテロ原子結合などの形成反応にお いて、有機金属化合物が触媒として広く用いられている。有機金属化合物の反応系中で の触媒活性は、中心となる金属と配位子となる有機分子の電子的および立体的性質に依 存する。現在、これらの化合物にはパラジウム、ルテニウムに代表されるような4d
遷 移金属種を用いた例が多く報告されている。しかし、これらの金属は資源の問題や生体 毒性などの懸念があるため、近年ではこれに代わる金属種として鉄や銅などの3d
遷移 金属種に注目が集まっている。3d
遷移金属種は、いずれも環境調和性分子として知ら れ、これらの有効活用は重要な課題である。しかし、これらの金属は、4d
遷移金属種 に比べ活性が低い点、また反応中間体の安定性が低く詳細な反応機構解明が困難な点が 問題点として挙げられる。これらの問題点を解決するには、3d
遷移金属錯体を安定化 することができる新たな配位子の開発が必要である。そこで本研究では、最近開発・報 告されたメソイオン性カルベンに注目し、メソイオン性カルベンを有する新たな三座配 位子の開発、またこれらを用いた鉄や銅等を用いた錯体の合成とその性質の解明を目的 としている。[結果と考察]
新たなメソイオン性カルベン配位子を合成するため、
Schubert
らの方法を参考に構造の 異なるアジドを用いて[2+3]Hüisgen
環化反応を行い、1,2,3-triazole
である1a
と1b
をそ れぞれ収率79
と91%
で得た。その後Me
3OBF
4を作用させて、triazolium2a,2b
を得た。3a,3b
とNaO
tBu
やKN(SiMe
3)
2を反応させ新規三座配位子の3a,3b
の合成に成功した(Scheme 1)
。 得られた化合物1a, 2a
および3a, 3b
は1H NMR,
13C NMR, ESI-MS
にて同 定を行った。1a, 2a
については元素分析を行った。また3a
に関しては、単結晶X
線構 造解析により構造を明らかにすることができた。このような遊離のメソイオン性カルベ ンを合成し構造決定した例はこれまでほとんどなく、特に2つのカルベン部位をもつ分 子についてはこれが初めての例となる。3a, 3b
の合成に成功したことにより有機金属錯 体に広く用いられているN-
ヘテロ環状カルベン(NHC)
との化学的特性を比較すること ができた。結合長、結合角やカルベン炭素の13C NMR
のケミカルシフトの値を比較す ることにより、この分子のカルベン炭素には、類似のNHC
よりも強い電子供与性があ ることがわかった。2
N N3
R1 R1
CuSO4
Naascorbate N N
N N N NN
R1
R1
R1
R1 R2
R2 R2
R1 = iPr, R2 = H R1 = Me, R2 = Me
N N
N N N NN
R1
R1
R1
R1 1a:R1 = iPr, R2 = H 1b:R1 = Me, R2 = Me
R2 R2
N N
N N N NN
R1
R1
R1
R1 R2 R2
2BF4
Me3OBF4 CH2Cl2, r.t
N N
N N N NN
R1
R1
R1
R1 2a:R1 = iPr, R2 = H 2b:R1 = Me, R2 = Me
R2 R2
2BF4
NaOtBuorKN(SiMe3)2 Ether
N N NN N
N N
2a:R1 = iPr, R2 = H 2b:R1 = Me, R2 = Me 1a:R1 = iPr, R2 = H 1b:R1 = Me, R2 = Me
R3 R3
R3 = TMS R3 = H
R1
R1 R2
R1
R1 R2
3a:R1 = iPr, R2 = H 3b:R1 = Me, R2 = Me
Scheme 1. Synthesis of 3a and 3b
3a,3b
の化学的性質を考察するため3a
のDFT
計算を行った。その結果、3a
が一電子 還元されたラジカルアニオン種3a’
は3a
よりも-10.39 kcal/mol
だけ安定であることが示 唆された。一電子還元された3a’
のSOMO
は3a
のLUMO
と電子状態が似ており、pyridine
と両端の
triazoleylidene
のπ*
軌道が繋がった広い共役を形成していることがわかった(Figure 1)
。つまり、3a
は金属に配位することによって、金属から3a
のLUMO
への逆供与が起こりやすく、π共役によって安定な電子状態を形成する。すなわち、これらの
分子は
pyridine
を中心とする広がったπ共役による強いπ電子受容体(acceptor)
として、一方で
1,2,3-triazole-5-ylidene
の炭素原子による強いσ供与体(donor)
として構成される両性
(amphoteric)
の化合物であるとみなすことができる。過剰の塩基と3a
の反応を行いESR
や電子スペクトル測定から、アニオンラジカルの状態を実測することにも成功して いる。このような電子的な性質は類似のNHC
配位子やtriazoleylidene
を連結するpyridine
部位が
benzene
に置き換えられたような配位子では報告されていないことから、3a
および
3b
に特有の興味深い性質であると考えられる。N
N NN N
N N
3a'
Fig. 1. SOMO of 3a’, obtained using DFT calculations at B3LYP/6-31G(d) level.
3
次にカルベンを用いて鉄錯体の合成を行った。
3b
と塩化鉄を22
時間反応させたとこ ろ、紫色の沈殿を得た。アセトニトリルとTHF
を用いてこの沈澱の再結晶を行ったと ころ、3a
が二分子配位した六配位錯体4b
が生成したことを明らかにし、その構造を単 結晶X
線構造解析にて確認した。また得られた錯体をアニオン交換した後、1H,
13C NMR
と
ESI-MS
スペクトル測定によって生成を確認した。次に、3a
が一分子のみ配位した錯体の合成を試みた。目的の錯体の生成は示唆されたものの、反応時間や反応溶媒、反応 試薬を変えて反応を行ったが、いずれも二分子配位した錯体が混在し分離は容易ではな かった。
N NN
N N
NN
2BF4 -
NaOtBu FeCl2(THF)2
THF/ether
N N NN
NNN Ar
Ar N N N N
NN N
Ar
Ar Fe
2+
Ar:
2(FeCl3) -
2b
4b
Scheme 2 Synthesis of 4b
この錯体形成反応を考察するため、
3a
と臭化鉄を反応させた後、直ちに反応混合物の
ESI-MS
測定を行ったところ、一分子配位錯体と二分子配位錯体の両方が観測され、その後一分子配位錯体が消失したことから、二分子目の配位子の反応は一分子配位錯体 を経由しており、
Scheme 3
に示すように進行すると考えられる。Danopoulosらの報告で は、類似のNHCとハロゲン化鉄の反応において、このような二分子配位錯体は得られてい ない。4aが生成した要因はわかっていないものの、3aの両性的な性質に起因する可能性が ある。すなわち鉄に配位することでカルベンからの電子供与により鉄の電子密度が上昇し たことから、さらに過剰の配位子と結合し逆供与により強く安定化したためと考えられる。N N
NN N
N Fe N Br
5a- Br+
N N NN
NNN Ar
Ar N N N N
NN N
Ar
Ar Fe
2+
Ar:
4a N
NN
N N
NN
3a
FeBr2(THF)n
N N
NN N
N Fe N Br
5a- Br+
Br
N N N
N N
N Fe N Br
5a- Br+
Br
FeBr2(THF)n
N N
NN N
N Fe N Br
5a- Br+
FeBr3
FeBr3 2(FeBr3)
3a+FeBr2(THF)n
Scheme 3. Proposed reaction processes to form 4a
4
ハロゲン化鉄と
3a,3b
の反応では、触媒活性を有すると考える一分子配位錯体が単離 できないことが分かった。そこで次にハロゲン化鉄の代わりにテトラカルボニル臭化鉄 を用いて合成を行った(Scheme 4)
。2a,2b
とNaO
tBu
を反応させ3a,3b
を系中で発生させ た後、アルゴン雰囲気下でテトラカルボニル臭化鉄に滴下した。得られた生成物はNMR
、IR
、ESI-MS
測定にて確認した。IR
測定より6a,6b
のいずれも2000 cm
-1付近にカルボニ ル由来の強い吸収を二本観測した。ESI-MS
測定では、カルボニル二分子と臭化物イオ ンが脱離したカチオン錯体をそれぞれ観測した。N N N
N N
N N
N N N
N N
N Fe N
OC Br
2BF4
- NaOtBu
FeBr2(CO)4
ether,r.t , 1h
CO
+ Br-
2a:R1 = iPr, R2 = H 2b:R1 = Me, R2 = Me
R1 R1 R2
R1 R1
R2 6a:R1 = iPr, R2 = H(45%) 6b:R1 = Me, R2 = Me(76%) R1
R1
R1
R1 R2 R2
Scheme 4. Synthesis of 6a and 6b
6a
は徐々にカルボニル配位子が遊離し、別の錯体に変換されることがわかった。そ こでsodium tetraphenylborate
に6a
を作用させてアニオン交換したところ11%
の収率で6a-BPh
4の単離に成功した。同定は1H,
13C NMR, IR, ESI-MS
測定および元素分析により 行った。また、精密化には至っていないが単結晶X
線構造解析にて構造を確認するこ とができた。1H,
13C NMR
測定より6a-BPh
4は六配位八面体の反磁性体であることがわ かった。IR
測定より6a
と同様にカルボニル由来の吸収を二本観測した。ESI-MS
も6a
と同様にカルボニル配位子が遊離した化学種が観察された。つまり6a, 6b
はMS
条件下 でカルボニル配位子が二分子脱離する熱挙動があると言える。この熱挙動について考察 するため、TG-DFT
測定、6a-BPh
4の加熱実験とDFT
計算を行った。いずれの結果もカ ルボニル配位子が加熱により脱離が起こることを示唆していた。すなわち、今回合成に 成功した配位飽和な18
電子錯体である6a, 6b
は、加熱によって配位不飽和な14
電子錯 体を容易に生じることが分かった。NaBPh4
THF, r.t,1h Br
N N N
N N
N Fe N
OC Br
CO
BPh4
+ +
N N N
N N
N Fe N
OC Br
CO
6a 6a-
BPh411%
Scheme 5. Synthesis of 6a-BPh4
鉄錯体を合成し、その性質を明らかにしたので、次に銅錯体の合成を行った。
1,2,3-tirazol-5-ylidene
を用いた銅錯体は既にいくつか報告があり、銀錯体を合成したのち塩化銅を用いたトランスメタル化反応によって達成されている。そこで合成した
2a
5
を用い、
Schubert
らの文献を参考にイソプロピル基を有する7a
の合成を行った。N N
N N N NN
2a
2BF4
Ag2O CH3CN, reflux
N N NN N
N N 7a Ag
Scheme 6. Synthesis of 7a
7a
に塩化銅を作用させたところ、3a
に2
分子の塩化銅が配位した錯体8a
を68
%の 収率で単離することができた。1H,
13C NMR, ESI-MS
にて同定を行い、単結晶X
線構造 解析により構造を確認した。その結果、興味深いことに2
分子の塩化銅が2
か所の1,2,3-tirzole-5-ylidene
のみにそれぞれ配位していた。しかし、TullochらはピリジンとNHC
が連結した二座配位子を用いたハロゲン化銅錯体においてNHC
とピリジンの窒素の両 方が銅に架橋配位していることを報告している。そこで、DFT
計算により銅錯体の立体 構造を調査した。その結果、錯体8a
ではピリジンとカルベンの架橋配位は立体障害に よ り 安 定 で は な い こ と が わ か っ た 。 銅 がpyridine
の 窒 素 に 配 位 し た 場 合 、1,2,3-triazole-5-ylidene
のメチル基の水素とピリジンの3
位の水素との立体障害が生じる ためである。NHC
ではカルベン炭素を含む5
員環にメチル基がないことから、架橋配 位が可能であるとわかった。さらに、錯体8a
においても配位子3a
と同様にpyridine
と 2つの1,2,3-triazole-5-ylidene
は安定なπ共役を生じることがDFT
計算より示唆され、架橋構造を作るよりも安定であることがわかった。これは
cyclic voltammetry
測定でも 一電子酸化波が二つみられたことからも裏付けられた。CuCl, NMe4Cl CH3CN/CH2Cl2 40oC, overnight
N N NN N
N N 8a Cu Cl
Cu N
N NN N
N N 7a Ag
Cl
Scheme 7. Synthesis of 8a
[まとめ]
本 研 究 で は 、 新 た な メ ソ イ オ ン 性 カ ル ベ ン と し て
pyridine
で 架 橋 さ れ た1,2,3-triazole-5-ylidene
を有する三座配位子の合成、単離に成功した。この配位子は、類似の