分子機能:基質結合などの外部からの摂動に対する応答 として始まる一連の構造変化とそれに伴う化学反応
ディビジョン番号 ディビジョン名
3
理論化学、情報化学、計算化学
大項目 1. 理論化学
中項目 1-4. シミュレーション 小項目 1-4-7. バイオ(2)
概要(200字以内)
現状と最前線
生体分子系のシミュレーションは、主としてタ ンパク質について、量子化学、分子動力学、さ らに粗視化されたモデルを用いて、その分子が 発現する生物機能を明らかにするために行わ れる。右図に示すように、シミュレートされる べき生物機能は応答としての非平衡過程とし て捉えられる。タンパク質は、水などの環境の なかで機能し、フェムト秒から秒を越える緩和 過程を持つ巨大な高分子であるため、そのシミ ュレーションは常にチャレンジングである。
ひとつのタンパク質分子の分子機能は上述のような応答的イメージで記述することができる。
構造解析で決定される静的な立体構造に対して、タンパク質の基質分子、DNA 等との相互作用、
外部環境からの刺激、そしてその結果起こる構造変化と化学反応というダイナミックな振る舞 いを研究することが、分子シミュレーションによるタンパク質の機能理解の方法である。
このタンパク質のダイナミクスはしかし、フェムト秒の原子振動から秒を越える分子間相互
作用やフォールディングなどの 10
15を優に越える多階層的な振る舞いをする。多くの場合、こ
れらの階層は互いに強く相関し、長時間の振る舞いは、短時間の振る舞いを無視して語ること
は困難である。また、時間スケールの違いは物理的記述の階層の違いとなって現れる。例えば、
信号伝達ネットワークに現れるタンパク質群は、タンパク質のリン酸化という反応によって信 号処理が制御されている。リン酸化それ自体は、化学反応として量子化学的に扱われるべきで あり、それによって起こる構造変化、相互作用の変化は古典的な分子動力学のレベルの対象で あろう。さらに、拡散過程を含んだ細胞という場までを考えれば、相当程度粗視化されたモデ ルによるシミュレーション手法を用いることが想定される。ここに、量子化学、分子動力学、
粗視化モデルの3 つの異なった階層での計算方法の必要性が表れる。 それぞれの階層の課題は、
量子化学計算: タンパク質中の化学反応は、タンパク質とその環境としての水の運動と共役 しているため、核の運動に沿った水中の巨大分子の電子状態を記述する。
分子動力学計算: 比較的短時間に止まっている水中のタンパク質のシミュレーションを、現 実の機能発現過程が再現できるところまで拡大する。
粗視化モデル計算: 粗視化方法の一般論を確立し、より広い問題に適用できるようにする。
将来予測と方向性
・5年後までに解決・実現が望まれる課題
1.より多様な生物学的課題に関わる生体高分子系のシミュレーションへの展開
2.より長時間の現象、より大きな生体高分子系への適用による分子機能のシミュレーション 3.よりすぐれた分子動力学計算用ポテンシャルの開発
・10年後までに解決・実現が望まれる課題
1. 上記 3 階層のマルチスケールモデリングによる生物学的課題を解くシミュレーション 2. 細胞の環境を考慮した細胞機能のシミュレーション
3. 現象の説明にとどまらず、構造(静的、動的)予測、機能制御(人工タンパク質の設計)を行う キーワード