「ドー デ モ 英和 字 彙 」 の ロー マ 字 表 記 と語 彙
《研 究 ノ ー ト》
「ドー デ モ 英 和 字 彙 」の ロ ー マ 字 表 記 と語 彙
金 子 弘
は じめ に
『ドー デ モ英 和 字彙 』 とい う本 が あ る。 書 名 自体 が ま じめ な もの で は な く、 内 容 も当時 の俗 語 を英 語 風 の ロー マ字 見 出 し と し、 もっ と も ら し く日本 語 の語 釈 を 付 け た 本 で あ る。 簡 単 な解 説 が 『大 阪 女 子 大 学 蔵 日本 英 学 資 料 解 題 』(大 阪 女 子 大 学 附 属 図 書 館 編 集 、1962刊 、 項 目執 筆 者:渡 辺 実)に あ る 。 そ こで も指 摘 さ れ て い る通 り、 日本 語 資料(特 に語 彙 資料)と して の価 値 は高 い と言 え な い だ ろ う。 しか し、 掲 載 さ れ て い た雑 誌 が 、 『験 尾 団 子 』 とい う、 同 じ団 団社 が発 行 し た 『団 団珍 聞』 の姉 妹 雑 誌 で あ る とい う こ と。 した が って 、 様 々 な資 料 が存 在 す る 明治 時代 に お い て、 一・定 の読 者 を獲 得 して い て 、 当時 の 教 養 層 が 遊 び やパ ロデ ィ と して表 現 を享 受 して い た雑 誌 とい う点 で 資料 的価 値 が あ る と考 え られ る。
特 に金 子 が 興 味 を持 つ の は、 当 時 の教 養 層 に とって の ロー マ 字 表 記 とい う側 面 で あ る。そ こで本 稿 で は、 まず 「ドー デ モ 英和 字 彙 」の ロー マ字 表記 を取 り上 げ 、 次 に俗 語 資 料 と して の語 彙 面 に言 及 しよ う。
1書 誌
『ドー デ モ 英 和 字 彙 』 は、 明 治18年10月 、 礫 川 喜 望 著 と して 浮 木 堂 か ら発 行 され た もの で 、 本 文16ペ ー ジの 冊 子 状 の書 籍 で あ る。 序 文 に あ る よ うに、 雑 誌
『駿 尾 団子 』 に掲 載 され た 後 、 冊 子 の 形 に ま とめ られ た もの で あ る。 金 子 が 参 照 した の は、 次 の もの で あ る。
《雑 誌 》 『騨 尾 団子 』復 刻 版(新 井 勝 紘 監修 、2003年10月 発 行 、 柏 書 房)
《冊 子 》 国会 図書 館 所 蔵 本 の マ イ ク ロ複 写
雑 誌 と冊 子 で は、 構 成 と して 次 の4点 の違 い を指摘 で きる。
① 題 名 が 、 雑 誌 で は 「ドー デ モ ー英 和 字 彙 」(Eの み 「ドー デ ー モ 英 和 字 彙 」 とあ る の は活 字 転 倒 に よる誤 植 か?)と あ るの に、 冊 子 で は 「ドー デモ 英 和
字 彙 」 とカ タ カナ最 後 の長 音 符 号 が 削 られ て い るO
② 雑 誌 で はAか らHま で順 に掲 載 され た が 、冊 子 はH・E・F・G・A・B・
C・Dと い う順 に な っ て い る。
③ 『ドー デ モ 英和 字 彙 』 で は、 ロ ーマ 字 表 記 の上 に横 書 きの カ タカ ナで 英 語 の
「読 み方 」(と 思 わ れ る)が 付 け られ て い るが、 雑 誌掲 載 時 で そ う した 形 式 に な るの はC以 降(た だ し縦 書 き)で あ り、Aで は ロ.一マ 字 表 記 の 後 、Bで は ロー マ 字 表 記 の 後 に括 弧 で く くっ て示 して あ る。
④ 雑 誌 に載 せ られ て い た語 で 、 冊 子 で は削 除 され た語 が あ る。(増 え た 語 は無 い)
① の原 因 は不 明で あ る。題 名 につ い て は、そ れ以 外 に、次 の よ うな違 いが あ る。
A‑Dの 項 で は角 書 き と して 「明治 新 刻 」 が付 い て い て 、D‑Fに は題 名 の 後 に
「続 編 」 と付 け られ て い て 、 さ ら にD・Fは 「ドウ デ モ ー 」 の よ う に ドの 長 音 が
「ウ」 で 表 記 され て い る。 つ ま りDは 「顯 ドウ デ モ ー英 和 字 彙 続 編 」レ(原文 縦 書 き)と な って い る。 ② につ い て は、 綴 じ方 な ど、 何 らか の 印刷 工 程 で の ミス とい う こ と も考 え られ る。Hが1・2ペ ー ジ、Eが3ペ ー ジ 目 とい う よ うに、 ぺ.一ジ の切 れ 目 と項 目の切 れ 目が 一・致 して い るの で 、 そ の 可 能性 はあ る。 しか し、8頁
目の途 中でGが 終 わ り、 す ぐにAの 項 目が続 い て い るの で 、 最 初 の 版 組 か らそ う い う並 べ 方 を して い た と考 え ざる を得 な い 点 もあ る。③ につ い て は、 雑 誌 掲 載 の C以 降で 表 記 法 の方 針 が 定 まっ た た め で あ ろ う。雑 誌 が 縦書 きで 冊 子 が横 書 き と い う差 は、本 文 の 語釈 で も同 じで あ っ て、雑 誌 掲 載 時 と冊 子 形 態 で の差 と言 え る。
④ につ い て はそ れぞ れ の語 の性 格 な ど を視 野 に入 れ て 、3節 で 再 考 す る。
雑 誌 掲 載 の年 月 日、 号 数 、 ペ ー ジ、 編 者 名 を一 覧 と して 示 す と次 の よ う に な る。
AB
C
DEFGH
明 治14年(1881)9月7日 明 治14年(1881)12月7日 舎 緑
明 治15年(1882)4月12日 家
明 治15年(1882)5月3日 明 治15年(1882)6月14日 明 治15年(1882)10月4日 明 治16年(1883)4月4日 明 治16年(1883)
149号,p・2405礫 川 喜 望
162号,P・2614礫 川 喜 望 先 生 之 尻 馬 松 廼
180号,p・2890(礫 川 喜 望 先 生 ノ尻 馬)梅 廼
183号,p.2938 189号p.3036 205号p3289 230号,p.3690
5月26日 『団 団 珍 聞 』340号,p.5119
梅廼家
梅 の家元 園子 礫川喜望 楮 鳴舎籟 々子
編者
仙里庵竹
「ドーデモ英和字彙」のローマ字表記と語彙 州 ・礫 川 喜 望
『験 尾 団 子 』 は235号 で 廃 刊 とな っ た の で 、 最 後 のH6ま 、 姉 妹 紙 の 『団 団 珍 聞 』 に掲 載 さ れ た 。
2「 ドー デ モ英 和 字 彙」 の ロー マ 字 表 記
も と も との語 の掲 載 形 態 は、 次 の よ うな もので あ る。
Aruken慧 ミ1岳H十く、1‡如≦1レ曇ミ!「「
Ariy卜Pヤ 糠畷 腿 懸 応撫 卜
(以 下 の 引用 で は、新 漢 字 、横 書 き とす る) 英 語 ら し くロ ーマ 字 で 見 出 し を書 い た とい う こ とで あ っ て、 体 系 的 な ロー マ 字 表 記 を 目指 した もの で は ない 。 い わ ゆ る ロ ーマ 字 表 記 法 に は、 当時 起 こっ て い た 国 字 と して の ロー マ 字 運 動 を含 め 、正 書 法 と して の 表 記 体系 が 背 後 に あ る。しか し、
「ドー デモ 英 和 字 彙 」 の ロ ー マ 字 表記 は 、言 語 学 の 用語 で い え ば、 「パ ロー ル」 に 相 当 す る個 別 的 な創 造 的 営 み とい え、 体 系 性 へ の指 向 を想 定 す る必 要 が な い。
した が って 、 ロー マ 字 表 記 史(体 系 と して の表 記 確 立 の歴 史)の 上 か らは 、前 後 の 影響 関係 を論 ず る まで もな い取 る に足 りな い資 料 で あ る。 しか し、 パ ロー ル と して の ロー マ 字 表 記 の 営 み 、 ま た、 当時 の ロ ーマ 字 表 記 の受 け取 られ 方 とい う 点 か ら考 え る な らば、 十 分 に検 討 の価 値 が あ る。 なぜ な ら、 そ こに見 られ る表 記 形 態 は 、現 代 の ロー マ 字 表 記 に よ る行 為 と同 じ レベ ル の もの で は な いか と考 え ら
れ るか らで あ る。
現 代 の学 校 教 育 にお け る ロー マ 字 表 記 は、 日本 式 の表 記 法 を第 一 と し、 ヘ ボ ン 式 を認 め る とい う訓令 式 の 立 場 で あ る。 しか し、 現 実 の表 記 行 為 に お い て は 、 そ う した規 範 が 守 られ て い る とは言 いが た い。 例 え ば、 プ ロ野 球 「北 海 道 日本 ハ ム フ ァイ ター ズ 」 の新 庄 剛 選 手 の ロー マ 字 表 記 は、SHINJOと な っ て い るが 、 阪神 タイ ガ ー ス 時代 に はSHINJYOと 「Y」 が 挿 入 され て い た。 ジ ョをjy
oと 綴 る表 記 は、 学校 教 育 の 現場 で も教 え られて い な い表 記 で あ る。 大 学 生 を対 象 に授 業 で調 査 して も、 ジ ョの ロー マ 字 表 記 は 「jo、jyo、zyo」 な ど多 彩 で あ る。 そ の 表 記 の 由来 は、 学校 教 育 とは 関係 な く、 英 語 学 習 に よ る英 語 表 記 を下敷 き と して 、 日本 人 が 英 語 ら しい ロ ーマ 字 表 記 と捉 え て表 記 した もの の よ う に思 わ れ る。jyoな ど、英 語 綴 りで も0般 的 で は ない 表 記 が 出 る とい うこ とは、
英 語 表記 そ の もの の 影響 と言 うよ りも、 英 語 表 記 と 日本 語 ロ ー マ字 表 記 の混 合 と 考 え る のが 妥 当 で あ る。
正 式 な 規範 と して の ロー マ 字 表 記 法 で は な く、 自由 な表 記 意 識 を反 映 した もの とい う観 点 で 見 る と き、 『ドー デモ 英 和 字 彙 』 の ロ ー マ字 表 記 を分 析 す る価 値 も 見 えて くる。
さて 、使 わ れ て い る ロー マ 字 表 記 と50音 図 との 対 応 は次 の表 の よ うに な る。
ア段 イ段 ウ段 工段 オ段
ア行 a ie u e 0
力行 ka ki ku ke kococoe
ガ行 ・ gi gu ge ・ ・
サ行 sa shi susz se so
ca CI * ce *
ザ行 za ji ZU * Z4
タ行 to chiti thu#sz to to
ダ行 da * dsudi ・ ・ ・
ナ行 na ni nu ne no
ハ 行 ha hi fu he ho
バ行 ba bi bu ・ bo
バ行 ・, * pu ・ ・f
マ 行 ma mi * me mo
ヤ行 ya X * X vo
ラ行 ra ri ru re ro
la :IC Fu le io
ワ行 wa X X X X
× は 元 々 想 定 しな くて も よ い 表 記(woに つ い て は 可 能 性 が あ る か も しれ な い)、
*は 全 体 の 分 量 が 少 な い た め に 今 回 見 ら れ な か っ た と 思 わ れ る 表 記 で あ る 。
「Akusekutア ク セ ク ト」 の 「tト 」 の よ う に音 節 末 で 母 音 の 伴 わ な い も の は 表 か ら外 して あ る 。
全 体 の 表 記 に お い て は 、 サ 行 と ラ 行 に 広 い2系 列 が 見 ら れ る 。 サ 行 のcuとc oが シ ・ソ に 当 て られ て い な い の は 、 単 に 表 記 量 が 少 な い と い う こ と で は な い 。 coはColonda(コ ロ ン ダ 転 ん だ)やCowamesy(コ ワ メ シ ー 強 飯)の よ う に コ に相 当 し て お り、cuはCucintou(キ ウ シ ン トウ 急 進 党)やCuheyda(キ
ユ へ 一 ダ 旧 弊 だ)の よ う に キ ュ の 音 節 を 表 す た め に用 い られ て い る 。 サ 行 と ラ
「ドーデモ英和字彙」のローマ字表記 と語彙 行 以 外 は 個 別 の 複 数 表 記 が 見 られ る 程 度 で あ る 。
全 体 と し て い わ ゆ る 「ヘ ボ ン式 」 の 綴 りで あ り、shichi1'tsufu
な ど は 英 語 綴 り を 反 映 さ せ た もの で あ る 。szdzの 表 記 と 共 に 、 ヘ ボ ン の
『和 英 語 林 集 成 』 初 版 の 表 記 に 列 な る も の と 言 え よ う。 た だ し 、 イ のe表 記 と coeコ(Bondencoekボ ン デ ン コ ク)、tiチ(Atetigayア テ チ ガ イ)は ヘ ボ ン式
で は な い 。 イ のe表 記 は 、Eの 項 が 一 貫 し て 元 々 は イ で 始 ま る 単 語 で あ り(イ ケ シ ャ ー シ ャ 、 イ ラ ナ イ な ど)、 英 語 の 雰 囲 気 を か もす た め に 、 意 図 的 にE表 記 を 取 っ た も の と 思 わ れ る 。 「Frueruフ ル エ ル 」 で は エ に 当 た っ て い る 。tiは 日 本 式 で あ る が 、 英 単 語 の 綴 り に も あ る か ら、 英 語 風 の ロ ー マ 字 綴 りの 書 き物 と し て は 許 容 さ れ る で あ ろ う 。coeは 英 語 的 で な く、 ク の 表 記 と して な ら、 オ ラ ン ダ語 資 料 に 見 られ る 日本 語 表 記 で あ る 。 た だ し、Bondencoek(ボ ン デ ン コ ク)
1例 しか 見 られ ず 、Bondencockな どckと 綴 るべ き と こ ろ を(Bicklyビ ツ ク リ にckの ク の 例 が あ る)、 校 正 で 見 逃 し た の か も しれ な い 。 雑 誌 の 時 と冊 子 に す る と き の2回 と も見 の が した こ と に な る が 、 他 の 例 で もそ う し た 例 が 見 ら れ る 。
次 に 、 特 殊 拍 の 表 記 問 題 を 考 え て み よ う 。
ま ず 、 長 音 で あ る 。 ア 段 長 音 はCewaney(セ ワ ー ネ ー 世 話 一 ね 一)の み で あ り、 単 音 のaと 区 別 が な い 。 イ 段 長 音 は 、Ariy(ア リ イ)、akaracy(バ カ ラ シ イ)な ど 、yを 使 う例 が あ る が 、y自 体 はCraseney(ク ラ セ ネ イ)、Berammy (ベ ラ ン メ ー 〈マ マ 〉)な ど、 工 段 長 音 で も用 い ら れ る 。 工 段 長 音 をeで 表 し た 例 は な い の で 、yが イ段 長 音 ・工 段 長 音 に 相 当 す る 関 係 に あ る 。 な お 、iで 長 音 を 表 し た 例 は な く、iは 短 音yは 長 音 に 当 て られ て い る こ と に な る 。 オ段 長 音 は 、 DorobΩ(ド ロ ボ ー)の よ う に 、 短 音 のoと 区 別 な く使 わ れ て い る 例 も あ る が 、 Douraku(ド ー ラ ク)、GΩ 旦tsuku(ゴ ウ ツ ク)の よ う に 、ouで 表 記 さ れ て い る 例 も あ る 。 オ段 長 音 を ウ で 表 す と い う仮 名 表 記 を 反 映 した 表 記 法 が 採 用 され て い る と言 え よ う。 ウ段 長 音 に 関 し て は 、 直 音 の ウ は 、Dzdzshy(ヅ ー ヅ シ ー 図 々 し い)のdzの よ う に 短 音 と 区 別 しな い 例 と 、Funszu(フ ンス ウ)のszuの
よ う に 仮 名 表 記 の 反 映 と 思 わ れ る 例 が1例 ず つ 見 られ た 。 拗 長 音 に 関 し て は 、 Cucintou(キ ウ シ ン ト ウ)のcu、Futotszcho(フ ト ツ チ ヨ ウ)のcho、
Ekeshasha(イ ケ シ ヤ ー シ ヤ)のsha、Hudoro(ヒ ユ ー ド ロ)のhu、 ま た Biodo(ビ ヨ ウ ドウ)のbioの よ う に 、 長 音 と短 音 の 区 別 が 無 い よ う に 思 わ れ る 。 な お 、aiの 二 重 母 音 を 表 す の にyを 用 い てByin(バ イ イ ン 売 淫)と す る 例 も あ る 。Baidok(バ イ ドク 梅 毒)の 例 も あ る の で 、 常 にyでaiを 示 す わ け で は な い 。
促 音 の 表 記 は 、子 音 を 重 ね る と い う現 在 普 通 に 使 わ れ て い る 表 記 法 で あ る 。例 、 Assarit(ア ツサ リ ト)、Bakkin(バ ツ キ ン)、Botchari(ボ ツ チ ヤ リ)、CapPore
(カ ツ ボ レ)。 しか し、Gatsukari(ガ ツ カ リ)の よ う に 促 音 表 記 の ツ を ロ ー マ 字 書 き し た と思 わ れ る 例 が1例 見 ら れ た 。
仮 名 表 記 の ロ ー マ 字 書 き と い う点 で は 、 拗 音 に 関 し て 、 「Emkiyoイ ム キ ヨ」
「Hiyottokoヒ ヨ ツ ト コ 」 のkiyo、hiyoの よ う な 例 が 見 ら れ た 。 ま た 、
「Giafunギ ヤ フ ン」 の よ う に 、iを 半 母 音 と し て 挿 入 し た 拗 音 表 記 が あ る 。 擾 音 に つ い て は 、 仮 名 表 記 「ン」 に対 し てn、 「ム 」 に 対 し てmと い う対 応 が 見 ら れ る 。 音 声 的 に はmと 思 わ れ る 「Denboデ ン ボ ー 」 の ンがn表 記 で あ る の に 対 し て 、nで あ る と思 わ れ る 「Emkiyoイ ム キ ヨ 、Emkinイ ム キ ン」 のm に 相 当 す る 仮 名 表 記 は ム で あ る か ら で あ る 。
仮 名 表 記 の 影 響 が 少 な か らず 認 め ら れ る と い う の も 、 現 代 に お い て 営 ま れ て い る ロ ー マ 字 表 記 と通 じる も の が あ る 。 現 に 書 か れ る ロ ー マ 字 表 記 は 、 学 校 教 育 な ど で教 え ら れ る よ う な 厳 格 な 規 則 に 則 っ た も の で は な く、 い くつ か の 表 記 形 式 が 混 在 し て い る 。 現 代 の ジ ョ表 記 に見 られ る複 数 性 は 、 ロ ー マ 字 に よ る 日本 語 表 記 に は 常 に つ き ま と っ て い る 問 題 で は な い か と思 わ れ る 。そ れ は 、ロ ー マ 字 表 記 が 、 外 国 人 へ の 日本 語 教 育(中 世 キ リ シ タ ン資 料 の ロ ー マ 字 本 を含 む)を 含 め て 「臨 時 的 な 」 表 記 法 で あ り、 正 書 法(国 字)と して の 表 記 法 で は な い こ とか ら くる 統 制 力 の 弱 さ の 反 映 で あ る と考 え る 。
3俗 語 資 料 と して の掲 載 語
「ドー デ モ英 和 字 彙 」 は、 当 時 の俗 語 資料 と して の価 値 もあ る。 実 際 の用 法 か ら当時 の意 味 用 法 を帰 納 す るの が、 語 彙 に お け る意 味研 究 の 常 道 で あ ろ うが 、 そ う した過 程 を経 て得 られ る知 識 に も限界 が あ る。使 用 回 数 が 少 ない 語 や 一 過 性 の 用 法 な どは 、 そ う した 分 析 で使 用 時 の 意 味 に 到 達 す る こ とが 難 しい 。 た だ し、
『日本 国語 大 辞 典 』(第 二 版)に 採 録 され て い る語 も多 く、俗 語 の宝 庫 と言 え る ほ ど多 くの 特 殊 な語 が 掲 載 され て い る わ け で は な い 。
ABC各 項 の 雑 誌 掲 載 時 にお け る語 数 を示 す と次 の よ う に な る(括 弧 内 に冊 子 体 で の語 数 を示 す)。
A24(17)B17(17)C19(19)D18(17) E17(17)F18{18)G21{20)H17(17) 合 計151(142)
全 体 で9語 が 削 除 され て い る。 そ の語 は、
ア ン シ ン ダ ア ヲ ム イ タ ア ゴハ ヅ ス ア マ リ ドヲ ヨ ク
ダ ン ゴ ガ ラ ク タ で あ る 。
「ドー デ モ 英 和 字 彙 」 の ロ ーマ 字 表 記 と語 彙 ア キ ガ ナ イ ト ア ク セ ク ト ア レ マ
ダ ン ゴ と ガ ラ ク タ は 、 興 味 深 い 俗 語 の 例 で な く、 自分 の 雑 誌 の こ と に 言 及 して い る 語 な の で 削 除 さ れ た と考 え て い い だ ろ う(ダ ン ゴ の 語 釈 は 「0種 ノ 奇 妙 奇 体 列 ノ 珍 聞(団 々 国 ノ 産 ナ リ)米 粉 末 ニ テ 製 シ タ ル ク シ ザ シ ノ 附 焚 ノ 食 物 」、
ガ ラ ク タ の 語 釈 は 「験 尾 団 子 中 一 種 ノ 問 答 」 と な っ て い る)。 しか し、Aの7語 は そ う した 意 味 の 語 で は な く、 組 み 版 で 隙 が な い と い う わ け で も な い か ら、 何 ら か の 意 図 を も っ て 削 除 さ れ た と思 わ れ る が 、 そ の 理 由 は 不 明 で あ る 。 複 合 語 が 目 立 つ が 、 他 の 項 で も複 合 語 は 見 られ る の で 、 そ れ が 理 由 と も思 わ れ な い 。
全 体151語 の う ち 、 『日本 国 語 大 辞 典 』(第 二 版)に 掲 載 さ れ て い る 語 は100語 (66%)で あ る 。 掲 載 さ れ て い な い 語 は 、 ア ル ケ ン 、 イ ラ ナ イ 、 フ ラ レ ル な ど、
活 用 語 の 非 辞 書 形 で あ る とか 、 ア ゴ ハ ズ ス(顎 外 す)、 バ ンニ ク ル(晩 に 来 る)、
フ テ ー ヤ ツ(太 い 奴)な ど の 複 合 語 、 ア カ ベ イ(ア カ ンベ ー)、 ゲ イ プ(ゲ ップ)、
イ ガ ク リ(毬 栗)な どの 音ti11..を含 む 語 形 な ど で あ る 。 そ う した 語 以 外 で は 、
ア リ イ ア フ ア フ デ ン デ ン ガ デ ガ ゲ ロ リ ゴ メ ン サ イ ホ ク シ ョ ヒ ッ テ ン テ レ ツ ク
な どの 擬 音 語 ・擬 態 語 や か け声 。 ま た 、 Agottaア ゴ ッ タ 魚 ノ 骨
Bakachan(ベ カ チ ヤ ン)吝 音 、 人 ヨ リ依 頼 サ ル ・事 ノ ア ル 時 之 ヲ仕 振 リニ テ 拒 絶 ス ル コ ト、 娼 妓 ノ 無 心
Bilgero(ビ リ ゲ ロ)吐 ヒ タ リ下 シ タ リス ル コ ト、 流 行 病
チ ド ツ カ モ チ
Chokkamochi窃 盗 、 泥棒 コ ソ コソ、 泥 ツ ク トモ 云 フ
な どの俗 語 や 下 品 な言 葉 が 見 られ る。 俗 語 資 料 と して一 定 の価 値 を持 つ語 例 と言 え る だ ろ う。 ベ カチ ヤ ンは、 ロ ーマ 字 表 記 は 「ば か ち ゃん」 と読 め るが 、 あ か ん べ い を して い る挿 絵 が あ る の で 、 ベ カ コ ウ ・ベ カ コ な ど と も言 われ るベ カ(「 日 国 』 に も立 項)に 人 物 呼 称 で使 われ る チ ャ ンが 付 い た もの で あ ろ う。動 作 で は な く吝音 な人 とい う語釈 が 当時 の用 法 と して興 味 深 い。 た だ し、 一般 性 が どこ まで あ っ たの か 、 そ う解 釈 す る こ とで面 白 さ を出 して い た だ け で は ない か とい う懸 念 は残 る。 チ ョツ カ モチ とい う語 は、 冊 子 で も ロー マ字 表 記 が変 わ らない ので チ ョ ッ カモ チ と認 め られ る。 『日国』 に、 こそ泥 の 意 の 「ち ょっ く ら もち」 と、 さ さ い な様 を言 う 「ち ょっか 」 とい う語 が 掲 載 され て い るの で 、 チ ョ ッカモ チ とい う
語 形 が あ った もの と推 定 され る。
な お 、 こ の辞 典 が1881‑83年 の用 例 で あ り、 『日本 国 語 大 辞 典 』(第 二 版)の 用 例 よ りも初 出年代 が 古 い例 が い くつ か見 られ るの で 、列 挙 して お く。 明治 期 の 資 料 を0定 程 度 調査 す れ ば、 辞 典 よ りも早 い初 出例 が い くつ か 見 つ か る こ とは珍 し くない の で 、 そ れ だ け で 「ドー デ モ英 和 字 彙 」 を貴 重 な 日本 語 資料 と言 うわ け に は い か ない が 、 発 見 効 率 は い い か も しれ な い。(括 弧 の 中 が 『日国 』(第 二 版) の 初 出年代)。
キ ウ シ ン ト ウ
Cucintou廿 三 年 ヲ待 兼 ル 入 総 ノ 嫌 ヒ ナ ル モ ノ(1900)
プ リ チ ン ア カハ ダカ マ タ フンドシ シ マ マ
Furitin赤 裸 、 又 揮 ヲ 締 メ ス 、(金 子 注:締 メ ヌ か?)(1951)
ギ ヤ フ ン
Giafun鼻 ヲ衝 クコ 、 己 レ独 リ大 天 狗 デ 居 ル ヲ他 ヨ リ充 分 悪 ク 云 ハ レー 言 モ ナ キ コ(1902)
ホ ゴ キ ン
Hogokin特 別 二 官 ヨ リ下 渡 サ ル ・資 金 、 御 情 ケ 金 、 涙 ケ 金(1887)
ポ ジ ク ル
Hojikuru綿 密 二探 訪 ス ル 、 聴 糺 ス 穿 盤 ス ル(② の意 味 で は1910)
国 会 開 設 を 「廿 三 年 」 と呼 ん だ り、 官 吏 を 「総 」 と呼 ぶ(『 日国 』 に指 摘 あ り) な ど、 当 時 の 言 語使 用 の 実 態 が 浮 か び上 が る語 釈 に な って い る。
以 上 、 「ドー デ モ 英 和 字 彙 」 の ロー マ 字 表 記 と語 彙 に つ い て略 述 した。 明 治 語 の 資 料 を どう 開発 す るの か は 、 明 治 語 の実 態 を知 るた め に は重 要 な課 題 で あ る。
本 稿 は、そ う した 資料 開発 の 一 環 の 意 図 もあ っ て書 い た もの で あ る。そ の 中 で も、
特 に この 資料 へ の 関心 は、 ロ,一マ 字 表 記 の あ り方 に あ る。 こ う した資 料 以 外 に、
一 般 人(ロ ー マ 字 論 者 で は ない 人)の ロ ー マ字 表 記 資 料 が あ れ ば、取 り上 げて 考 察 して み た い 。
(か ね こ ・ひ ろ し、 本 学 教 授)