血清蛋白分画検査における波形観察の重要性について
三重大学医学部附属病院 検査部 免疫血清検査室
○松田 儀一
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【はじめに】血清蛋白分画検査は、血清中に
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種類以上存在 する蛋白質を電気泳動し、その荷電の違いから5つのグループ(分画)に分け、その組成を調べる検査である。図1は、正常血
清をセルロース・アセテート膜上で電気泳動した後、染色した ものである。この膜を有機溶媒で透明化した後、デンシトメーター(濃度計)にかけると、図2(a)の波形が得られる。それぞれの分画の増減をみることで、病態を総 合的にとらえることができ、基本的な日常検査として血清蛋白分画検査は有用である。
免疫グロブリンは主にγ分画に泳動されるが、構造と荷電がわずかずつ異なるため、γ分画の波形は 正常な場合は全体として対称で、なめらかなものとなる。一方、骨髄腫その他の疾患では、異常に増殖 した1種類の細胞から均一な免疫グロブリン(M蛋白:monoclonal protein)が多量に産生されることが あり、その場合、蛋白分画の波形には鋭く幅の狭いピークが現れる図2(b)。図2(c)は、少量のM蛋白 が存在し、肉眼でもセルロース・アセテート膜上にMバンドが認められた例である。
実際に血清蛋白分画検査を行なっていると、図2(d)のようにγ分画の波形がなめらかでない例にしば しば遭遇する。
M
蛋白の存在を確認する検査として、免疫固定法検査(IFE検査)がある。γ分画の波形がなめらかで ない血清に対してIFE
検査を行なったところ、高頻度(2ヶ月間で22
例中18
例; 82%)にM
蛋白の存在 が確認された。当院の血清蛋白分画検査装置(AES 630:Beckman Coulter(OLYMPUS製造))には泳動波形解析プログ ラムが搭載されているが、γ分画の波形がなめらかでない検
体の波形を解析しても、M 蛋白陽性の結果は必ずしも得ら れない。泳動波形解析プログラムでは、波形の2次微分によ り元波形の変曲点をとらえ、M 蛋白存在の有無を判定する ものである。
血清蛋白分画検査で得られる波形の各分画はガウス分布 曲線と近似しており、たとえば図2(c)のγ分画は、図3の ように幅と高さの異なる2種類のガウス分布曲線の合成と してシミュレートできそうである。
そこで筆者は、2種類のガウス分布曲線を合成することで、
正常な免疫グロブリンによるなめらかなγ分画の分布の中 にわずかな(幅の狭い)M 蛋白が存在する状態をシミュレー トし、M 蛋白の存在が元の波形にどのように影響するかに ついて考察した。
【シミュレーションと結果】ガウス分布曲線は、式(1) で表される(ここでμは平均
:
中央の値、σは標準偏差 を表す)。式(1)を1回微分、2回微分すると式(2)、
(3)となる。
この式を使って、
f(x)
、g(x)
それぞれのμ、σとg(x)
のファクター(f(x)
よりもg(x)
のエリア面積がどれだ け小さいかを規定する)を決めたときに、x
が-4.0 から +4.0 の変化でf(x)、 g(x)、 f(x)+g(x)
がどのような値と なるかを計算し、それぞれの1回、2回微分の値も含 めてグラフ化するシートをMicrosoft Excel
で作成した。図4は、
f(x)
のμ,σが0,1、 g(x)
のμ,σ,ファクターが
1,0.2,0.02
のときに得られるグラフである。これは、
g(x)
がf(x)
の1σのところに分布の中心を持
ち、幅は
f(x)
の5
分の1
で面積はf(x)
の2%の場合を
想定している。f(x)+g(x)
の2回微分時にみられる下 に凸の2つの頂点は、f(x)
とg(x)
のそれぞれの分布 の中心となっていることがわかり、上に凸の2つの頂点は、
f(x)+g(x)
の変曲点である。図5は、
f(x)
の(μ,σ,ファクター)を(0,1,1) に固定し、g(x)
のσを 0.2 に固定した状態で、g(x)
のファクターを 0.005~0.04、g(x)
のμを 0~3 に変 化させたときの合成関数f(x)+g(x)
と、2回微分した 合成関数( (f(x)+g(x) )’ ’のグラフをまとめたものであ
る。g(x)
のファクターが小さいとき、合成関数ではg(x)
による影響はほとんどわからないが、2回微分す ることで変曲点がはっきりとらえられている。【考察】2種類のガウス分布曲線を合成することで、なめらかでない波形を再現し、2回微分による解 析を行ったところ、かなり微量な濃度でもM蛋白の存在を推定できることが確認できた。
M蛋白が検出されても、その量が少なければただちに治療する必要はなく、経過観察の対象とするの が基本である。
しかし、中には悪性化の経過をたどる場合もあるので、微量な段階からM蛋白の存在を確認し、増加 傾向の有無をチェックできれば適切な治療につながると考えられる。そのためにも、蛋白分画検査で得 られる波形をよく観察することは重要な作業であると思われた。
【参考文献】
菅野 剛史.蛋白分画の評価.神戸: シスメックス株式会社 学術本部; 2010