多主桁鋼鈑桁橋の横断面に着目した温湿度環境
山口大学大学院 学生会員○宮宗哲也 丸山和人
山口大学大学院 正 会 員 麻生稔彦 田島啓司 1.はじめに
鋼構造物の維持管理において腐食は注意しなければならな い問題である.腐食には水の供給が必要不可欠であり,温湿度 によってもその進行は異なる.そのため橋梁の置かれた温湿度 環境を明らかにすることは,維持管理を進める上で重要であ る.本研究では,多主桁鋼鈑桁橋について橋梁断面での温湿度 および桁温度を観測し,温湿度環境の解明を目的とする.
2.観測概要
本研究では山口県内に架設された
2
橋(A
橋,B
橋)
を対象と した.A
橋とB
橋の架設位置を図-1に示す.A
橋は山口市阿 東町に位置しており,橋長60m,3
主桁の鈑桁橋である.B橋 は宇部市吉見に位置しており,橋長100m
,4
主桁の鈑桁橋で ある.図-2,図-3に対象橋梁の断面図を示す.また,気温と湿 度を観測する温湿度ロガー(ATH1~ATH6 , BTH1~BTH6)
および 桁温度を観測する桁温度ロガー(ATG1~ATG3,BTG1, BTG2)の
設置位置を図中に示す.A
橋の観測は2015
年9
月29
日から,B
橋については2016
年10
月8
日から開始した.3.観測結果
(1)
温湿度A
橋の日平均気温と日平均湿度の経時変化を図-4に示し,A
橋の日平均桁温度を図-5に示す.気温は冬期に低くなり,夏期 に高くなるのに対して,相対湿度は年間を通して80%
程度であ る.桁温度は冬期に低くなり,夏期に高くなる.対象橋梁の気 温,湿度,桁温度の一日の変動を見るために,表-1~表-4に対 象橋梁の気温,湿度,桁温度の代表日における6
時間ごとの推 移を示す.A
橋の6
時の気温では,桁内下部(ATH2 , ATH4)
と比 較して,桁内上部(ATH3,ATH5)が約4℃高い. 6
時~12時は桁 内上部が10
℃,桁内下部は13
℃それぞれ上昇し,12
時では桁 内上部より桁内下部が約1℃高い.さらに 12
時~18時は桁内 上部が2
℃上昇し,桁内下部は1
℃低下し,18
時では桁内下部 より桁内上部が約1℃~2℃高くなり,24
時ではその差が大き く なってい る.桁外 下部(ATH1 , ATH6)
は桁 内下 部(ATH2 , ATH4)と比較して 6
時の気温では,桁内下部が約1℃高い. 6
時~
12
時は桁外下部が15
℃上昇し,12
時では桁内下部より桁外 下部が約2℃高い.さらに 12
時~18時は桁外下部が約3℃低
下し,
18
時では桁外下部より桁内下部が約1
℃高くなり,24
時ではその差が大きくなっている.このように 桁上下部間で気温の変動が異なる理由は,床版が日射熱を溜め,その熱が桁内の床版周辺の空気に伝わってい キーワード:温度,湿度,濡れ時間連絡先 〒755-8611 宇部市常盤台
2-16-1
山口大学社会建設工学科 TEL0836-85-9005図—1 架設位置
図—2
A
橋断面図図—3
B
橋断面図図—4 日平均の温湿度の経時変化(A橋)
図—5 日平均の桁温度の経時変化(A橋) B橋
A橋
1300 2000 800 800 2000 1300
南側
G1 S1 G2 S2 G3
200
270 275
273 19 19
17
1900
単位:mm 北側
ATH4 ATH1 ATG2
ATH5
ATH6 ATH2
ATH3 ATG1
ATG3
1010 3000
25 450
3000
G1 G2 G3
450 450
3000 1010
G4
1700
450 南側 北側
単位:mm BTH1 BTH4
BTH6
BTH5 BTH3 BTH2 BTG2 BTG1
0 20 40 60 80 100
-10 10 30 50 70 90
10/1 11/1 12/1 1/1 2/1 3/1 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 1/1 2/1
相対湿度(%)
温度(℃)
ATH1 気温 ATH2 気温 ATH3 気温 ATH4 気温 ATH5 気温 ATH6 気温
ATH1 湿度 ATH2 湿度 ATH3 湿度 ATH4 湿度 ATH5 湿度 ATH6 湿度
湿度 気温
-10 0 10 20 30 40
5/1 6/1 7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 1/1 2/1
温度(℃)
ATH1 ATH2 ATH3
Ⅰ-4
土木学会中国支部第69回研究発表会(平成29年度)- 7 -
るためであろうと推測される.また,桁内外部間で気温の変動が異な る理由は,直射日光を浴びるためであろうと推測される.また,A橋 の
6
時の湿度では,桁内上部(ATH3,ATH5)と比較して,桁内下部(ATH2,ATH4)が約 10%高い.6
時~12時は桁内上部が30%,桁内下
部は
50%それぞれ低下し, 12
時では約3%桁内下部より桁内上部が高
い.さらに
12
時~18
時は桁内上部が10%
,桁内下部は15%
それぞれ 上昇し,18
時では桁内上部より桁内下部が約3%
高くなり,24
時では そ の 差 が 大 き く な っ てい る . 桁 外 下 部(ATH1 , ATH6)
は 桁 内 下部(ATH2,ATH4)と比較して 6
時の湿度では,桁内下部が約3%高い.6
時~12時は桁外下部が50%低下し,12
時では桁外下部より桁内下部 が約1~4%高い.さらに 12
時~18時は桁外下部が約15%上昇し, 18
時では桁外下部より桁内下部が約3
%高くなり,24
時ではその差が大 きくなっている.このように桁上下部間で変動が異なる理由は,桁上部が桁下部に比べて,空気の動きが少ないこと が原因と推測される.また,桁内外部間で湿度の変動が異 なる理由は,直射日光を浴びるためであろうと推測され る.比較した結果より,温湿度の分布はどの時刻において も一様とはならず,
6
時~18
時の経時変化において桁上下部間 で温湿度の高低の逆転が起こる.B 橋においてもA
橋と同様 の変動を示している.表-3,表-4より,A
橋,B
橋ともに桁温 度は気温の変動と同様の傾向を示している.(2)
濡れISO 9223
の定義する濡れ時間(Time of wetness)は「気温0℃
以上かつ相対湿度
80%
以上の継続時間」である.また,気温と 相対湿度から得られる露点温度と桁温度から,桁温度が露点温 度を下回る時間を結露時間としている.図-6,図-7 に月別の 合計結露時間,結露発生回数の累積をそれぞれ示し,表-5 にISO9223
の定義する濡れ時間と結露時間を示す.図-6より,B
橋はA
橋に比べて結露時間は長い.また,A
橋,B
橋ともに冬 期の結露時間は長い.この図より,夏期には結露が発生 しにくく,冬期には結露が多く発生する傾向にある.結 露時間を部位ごとに比較すると,桁内下部(ATH4
,BTH2)はそれぞれ,桁内上部(ATH5,BTH3)よりも結露
時間が長い.また,図-7より,一日の中で結露発生は9
時~11 時に集中していることも明らかとなった.表-5 より,濡れ時間と結露時間を比較すると,A
橋での濡れ 時間は約3400~5000h
であるのに対し,結露時間は約20
~40h
と約0.7%
である.B
橋では濡れ時間は約1800
~2100h
であるのに対し,結露時間は約170
~300h
と約12%である.この結果より,2
橋とも濡れ時間に対して結露時間は極めて短いことが明らかとなった.4.結論
本研究により,多主桁鋼鈑桁橋における横断面の温湿度,桁温度分布が明らかとなった.結露は冬季に多く 発生し,
9
時~11
時に集中することが明らかとなった.また,ISO
の定義する濡れ時間と結露時間において,A
橋での濡れ時間に対する結露時間は約0.7%であり,B
橋では約12%と極めて短いことが明らかとなった.
表-1
A
橋の温湿度分布表-2
B
橋の温湿度分布表-3
A
橋の桁温度分布 表-4B
橋の桁温度分布図—6 月別の合計結露時間
図—7 結露発生回数の累積 表-5 濡れ時間と結露時間
6時 12時 18時 24時 6時 12時 18時 24時 ATH1 0.5 15.9 12.5 4.4 92.9 40.4 56.7 82.9 ATH2 1.4 14.5 13.7 5.8 87.9 40.6 53.9 76.6 ATH3 4.3 13.3 15.1 10.8 78.3 44.2 53.4 61.7 ATH4 1 13.9 13.6 5.6 90.0 40.6 54.9 75.4 ATH5 5.8 12.9 15.6 12.4 72.7 43 49.5 53.2 ATH6 0.5 17 13 4.5 91.5 36.5 52.5 81.5
A橋
気温3/22(℃) 湿度4/15(%)
6時 12時 18時 24時 6時 12時 18時 24時 ATH1 -0.3 11.4 8.6 2.5 94.6 69.9 79.3 92.5 ATH2 1.3 11.7 9.6 4.8 87.6 69.9 75.3 83.0 ATH3 1.6 10.5 9.9 5.6 83.9 75.6 74.0 78.5 ATH4 0.5 11.2 9.6 3.7 90.0 71.5 74.6 86.9 ATH5 1.4 10.5 9.8 4.7 83.5 75.0 74.8 81.0 ATH6 -0.2 16.6 8.4 2.7 92.1 52.5 77.5 90.6
B橋
気温1/4(℃) 湿度1/4(%)
6時 12時 18時 24時
ATG1 11 22 23.5 16
ATG2 14 22 25 22
桁温度5/18 A橋
6時 12時 18時 24時
BTG1 1.5 9.0 10.5 5.0 BTG2 3.0 8.0 10.0 6.5
桁温度1/4 B橋
0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 120.0
5月 6月 7月 8月 9月 10月11月12月 1月 2月
結露時間(h)
ATH4 ATH5 ATH6 BTH2 BTH3
0 10 20 30 40 50 60 70
0:00 1:00 2:00 3:00 4:00 5:00 6:00 7:00 8:00 9:00 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00 18:00 19:00 20:00 21:00 22:00 23:00
結露発生回数(回)
桁上部(ATH5) 桁下部(ATH4) 桁下部(BTH2) 桁上部(BTH3)
期間 対象橋梁
測定部位 ATH4 ATH5 ATH6 BTH2 BTH3
ISO(h) 4904 3442 4189 2036 1820
結露時間(h) 37 17 31 297 177 観測時間(h) 7128 7128 7128 3456 3456 結露時間/ISO 0.76 0.49 0.73 15 9.7
ISO/観測時間(%) 69 48 59 59 53
結露時間/観測時間(%) 0.52 0.24 0.43 8.6 5.1
5月~2月 10月~2月
A橋 B橋