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【同志社大学知的財産法研究会】「日本漢字能力検 定協会」事件 : 商標法四条一項七号の解釈を中心

著者 高尾 豊, 井関 涼子

雑誌名 同志社法學

巻 66

号 1

ページ 163‑201

発行年 2014‑05‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014656

(2)

(   同志社法学 六六巻一号一六三 ◆同志社大学知的財産法研究会◆

―― 商標法四条一項七号の解釈を中心に――知的財産高裁平成二四年一一月一五日判決 平成二四(行ケ)一〇〇六四号(裁判所ウェブページ) ﹁日本漢字能力検定協会﹂審決取消請求事件 1

高    尾         

井    関    涼   

1 事実の概要

 本件は、被告が原告の商標登録の無効審判を請求し、特許庁が請求成立審決をしたため、原告がこれに対する審決取消訴訟を提起したものである。

一六三

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(   同志社法学 六六巻一号一六四

1―1 原告及び被告 原告は、﹁日本漢字能力検定協会﹂の文字を横書きに表してなる標章について、指定役務を﹁漢字についての読み・書き・使用その他の知識又は能力に関する検定﹂とする本件商標(登録第三〇七四一九〇号)の商標権者であった。原告の元代表取締役(平成二四年四月一五日まで)であるOは、平成二一年四月一六日まで、被告の理事長を務めた。被告(財団法人日本漢字能力検定協会)は、平成四年六月に公益法人として設立され、同年から毎年、﹁日本漢字能力検定﹂を実施している者である。 原告は、教材の開発、製作、出版及び販売等を目的とする株式会社であり、昭和四九年から漢字学習に特化した授業を行う漢字教室を全国にチェーン展開した。昭和五〇年ころから、原告は、教室外部の者も受験できる漢字テストである﹁日本漢字能力検定﹂を始めた。同検定は、原告の内部組織である﹁日本漢字能力検定協会﹂により行われたが、被告設立後は、被告により実施されるようになった。

1―2 本件商標の登録の経緯 平成四年九月、本件商標が原告名義で出願され、平成七年に原告を商標権者として登録がなされた。原告は平成一二年ころまで、被告の名称ないし﹁日本漢字能力検定﹂に係わる商標登録出願をし、登録を得ていた。これらのいずれの出願についても、被告理事会の承認等は得ずに行われていた。 被告の名称ないし﹁日本漢字能力検定﹂に係わる商標について、原告名義で出願することが、特許庁の審査において問題となったため、平成一三年ころからは、商標の出願は被告により行われるようになった。 なお、本件商標権について、平成一七年に存続期間の更新登録がされている。 一六四

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(   同志社法学 六六巻一号一六五 1―3 民間技能審査事業認定制度に基づく認定とその取り消し 被告は、﹁日本漢字能力検定﹂について、平成四年に文部省(当時)の民間技能審査事業認定制度に基づく認定を受け、同検定の実施を始めた。また、平成一七年からは、右認定制度の廃止に伴い、文部科学省から同省後援名義の使用等の許可を受けた。同検定は、文部省の認定により公的資格と見なされるようになったことなどから、志願者数が急増し、ピーク時(平成二〇年度)には、志願者数は約二八九万人となった。このような志願者数の増加に伴い、被告の名称の一部である﹁日本漢字能力検定協会﹂等の標章は、被告を表すものとして、社会一般に広く知れ渡った。 その後、公益法人である被告に多額の利益が生じていることや、Oが代表取締役を務める訴外会社との間で、必要性が不明瞭な取引が行われていること等が問題となり、平成二一年、改善策の検討を要求する行政指導がなされた。同年四月一五日、右行政指導に対して、被告(当時の理事長O)から報告書の提出があったが、その内容はなお不十分であるとされた。同月一六日に、Oは被告の理事長を辞任し、同月二〇日には、文部科学省は﹁日本漢字能力検定﹂について同省後援名義の使用等の許可を取り消した。

1―4 本件無効審判請求に至る経緯 原告は、平成一二年から平成一七年にかけて、被告に対して無償の専用実施権を設定していた。被告は、平成二一年に、原告に対して、本件商標を含む四五件の商標を実費相当額で譲渡するよう申し入れたが、原告はこれを拒否した。同年、本件商標を含む九件の商標が、訴外Aらに移転登録された(後に、別件の和解において、Aらから原告へ再度移転登録がされている)。平成二二年、被告は特許庁に対し、本件商標登録は商標法四条一項七号及び一〇号に該当し、法四六条一項により無効にされるべき旨を主張して、自らが使用する本件商標についての商標権を確保するため、本件

一六五

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(   同志社法学 六六巻一号一六六

商標登録の無効審判を請求した。原告は、被告による上記無効審判の請求後、被告に対して本件商標の使用の中止を求める通知をし、差止請求訴訟をも提起した。 なお、本件無効審判請求に係る第一回口頭審尋において、原告は、被告が譲渡を申し入れている商標権については、今後漢字検定事業を再開する構想もあるので、被告への譲渡は考えていないこと等を陳述している。

 特許庁は、平成二四年一月一九日、以下の理由により、請求成立とする審決をした 3

。① 商標法四条一項七号について ﹁商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第四条第一項第七号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである 4

﹂。また、﹁商標法は、出願に係る商標について、特定の利害を有する者が存在する場合には、それぞれ類型を分けて、商標法所定の保護を与えないものとしている(商標法第四条第一項第八号、第一〇号、第一五号、第一九号参照)ことに照らすと、周知商標等を使用している者以外の者から登録出願がされたような場合は、特段の事情のない限り、専ら当該各号の該当性の有無によって(筆者注:出願に係る商標の不登録事由該当性が)判断されるべきといえる 5

﹂。そして、﹁登録商標において、その商標が登録後に公益的不登録事由に該当するかの存否の判断は、出願された商標のときの判断と、その判断時期は異なるものの、判断基準についてはともに同じとみて差し支えない﹂。そうすると、﹁商標登録後に周知著名となった商標等について、その登録後の事情いかんによっては、特定の者に独占させることが好ましくなくなった商標等について、社会通念に照らして著しく妥当性を欠き、国家・社会の利益、すなわち公益を害すると評価し得る場合 一六六

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(   同志社法学 六六巻一号一六七 に限って上記判断 6

が許されると解されるものである﹂。

② 登録時における商標法四条一項七号該当性について 被請求人は、請求人設立の約三か月後に被請求人名義で本件商標を出願し登録を受けたが、この出願は請求人の理事会や評議会などの承認を経ずになされたもので、﹁全く問題なしともいえない﹂。しかし、これは﹁財団法人とその関連企業との間の私人間の問題と判断するのが相当であって、被請求人の名義による本件商標出願が、請求人の理事会などの承認を得ていないことに社会的妥当性を欠くと問題化するほどのことはなかったといわざるを得ない﹂。したがって、﹁本件商標は、商標法第四条第一項第七号に違反して登録されたものではない﹂。

③ 後発的無効事由としての商標法四条一項七号該当性について 本件商標は、遅くとも、受検生が一〇〇万人を超えた平成九年の頃には周知著名なものとなっていたと認められる。 ﹁通常であれば、本件のような請求人自らが使用する著名な商標の存在を、請求人自らが無効の請求をすることは考えにくく、このような出願した者と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきものである。しかし、本件商標は、本件審判の請求時にはすでに周知著名な商標となっており、かつ、漢字能力検定を公的資格としてこれを受け入れる受検生、学校や企業など、一般社会に対する社会的影響がきわめて大きい状況下にあっては、請求人は、財団法人として、ますます公共性が求められることとなる﹂。

一六七

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(   同志社法学 六六巻一号一六八

 ﹁請求人の運営改善に係るマスコミからの指摘や文部科学省からの行政指導などにより、公的資格を利用する受検者やその受け入れ先となる学校や企業などに対し、社会的混乱を生じさせたことは明白であり、請求人自体に社会的信用の失墜がみられ、さらに、周知著名性を有した本件商標権を請求人とは何ら関わりのない第三者三名に譲渡した行為は、請求人の漢字能力検定に係る円滑な事業の遂行に支障を来すおそれを誘発させた。その後、本件商標権を第三者から被請求人に戻したとしても、被請求人は、請求人に対し、本件商標の使用を差止めたり、将来的には被請求人自らが使用する意思があるとして、あくまでも請求人への譲渡は考えていないとする。そうとすると、被請求人によるこれらの行為は、登録後の事情にかんがみ、社会通念に照らして著しく妥当性を欠き、国家・社会の利益、すなわち公益を害すると評価し得る場合に該当し、かかる行為を是認することは、商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないというべきである﹂。 ﹁したがって、本件商標は、その設定登録後、被請求人から第三者である審判請求時の本件商標権者三名への本件商標権の移転の登録がされた平成二一年一一月一六日に、商標法第四条第一項第七号に該当するものとなったといわなければならない﹂。

④ まとめ ﹁以上のとおり、本件商標は、その商標登録がされた後において、商標法第四条第一項第七号に該当するものとなったものであるから、その余の無効理由について論及するまでもなく、同法第四六条第一項第五号の規定に基づき、その登録を無効とすべきものである﹂。 一六八

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(   同志社法学 六六巻一号一六九 2 判旨

 原告の請求を棄却する。

2―1 商標法四条一項七号について 商標の構成自体が公序良俗に反するものでなくとも、﹁当該商標を指定商品又は指定役務について使用することが、法律によって禁止されていたり、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳的観念に反していたり、特定の国若しくはその国民を侮辱したり、国際信義に反することになるなど特段の事情が存在するときには、当該商標は同法四条一項七号に該当すると解すべき余地がある。そして、商標法四六条一項五号は、商標登録がされた後、当該登録商標が同法四条一項七号に掲げる商標に該当するものとなったことを登録無効事由として規定しているところ、商標登録後であっても、当該商標を指定商品又は指定役務について使用することが、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳的観念に反するなどの特段の事情が生じた場合には、当該商標は同法四条一項七号に該当すると解すべき余地があるといえる﹂。

2― 2 本件事実関係の下での特段の事情の有無 被告は、公益法人であって、文部省(当時)の認定ないし後援を受けて﹁日本漢字能力検定﹂を実施していたのであるから、これに係わる商標の登録出願も自ら行うべきであった。しかし、﹁当時原告の代表取締役であり、被告の理事長でもあったOは、被告理事会の承認等を得ることなく、本件商標を含む、被告の名称ないし﹃日本漢字能力検定﹄に係わる商標を、原告名義で出願したり、出願人名義を被告から原告に変更するなどしていたものであって、そのこと自

一六九

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(   同志社法学 六六巻一号一七〇

体、著しく妥当性を欠き、社会公共の利益を害すると評価する余地もある﹂。 加えて、﹁O氏は、被告に対して文部科学省による行政指導がなされ、新聞報道等で被告と原告関連四社との利益相反取引等が糾弾され、⋮背任罪で起訴された上、被告から多額の損害賠償請求訴訟が提起された後、本件商標の登録名義を原告からAらに移転したり、被告に対して本件商標等の使用差止請求訴訟を提起するに至ったものである。さらにO氏⋮は、本件商標等について、権利の取得・維持の実費相当額での被告への譲渡を拒み、これらを原告自ら使用する可能性に言及するなどしている﹂。 ﹁上記事情に照らすと、原告の前代表取締役O氏⋮は、商標権者等の業務上の信用の維持や需要者の利益保護という商標法の目的に反して、自らの保身を図るため、原告が有する被告の名称ないし﹃日本漢字能力検定﹄に係わる商標を利用しているにすぎず、原告が、本件商標を指定役務について使用することは、被告による﹃日本漢字能力検定﹄の実施及びその受検者に対し、混乱を生じさせるものであり、社会通念に照らして著しく妥当性を欠き、社会公共の利益を害するというべきである﹂。 原告は、﹁商標権者が侵害者に対して権利行使ができることは当然である﹂、﹁被告に対する本件商標の譲渡を一切拒絶するものではない﹂、﹁検定事業等は私的な経済活動にすぎない﹂等として、本件商標に後発的無効事由としての公序良俗違反はない旨を主張する。しかし、﹁不当な方法で本件商標の登録名義人となった原告が、その権利に基づき、被告に対し、商標使用差止請求等をすることは、権利の濫用に当たる上、被告による﹃日本漢字能力検定﹄の実施及びその受検者に対し、混乱を生じさせるものといえる﹂。さらに、被告は公益法人であること、﹁日本漢字能力検定﹂は文部省による﹁認定ないし後援を受けて公的資格と見なされるようになったものであり、これにより多数の受検者を獲得し、我が国有数の検定試験となっていること﹂に照らすと、﹁被告及び﹃日本漢字能力検定﹄に係わる商標の帰属に関する 一七〇

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(   同志社法学 六六巻一号一七一 ことが、単なる私人間の経済活動にすぎないということはできない﹂。 ﹁以上によれば、⋮本件商標は、商標登録後に、商標法四条一項七号に該当するものとなったと認められる﹂。

3 検討の方向性

3― 1 本判決の位置づけ 本判決は、商標登録後に当該商標が商標法(以下、単に法という。)四条一項七号(以下、単に七号ということがある。)に該当するに至ったとして法四六条一項五号により登録を無効とした審決を維持した判決であり、管見の限りでは、後発的な無効事由としての七号該当性を肯定した初めての判決である。 本判決の特徴は、次の点にある。すなわち、①一般論として、商標の構成自体に公序良俗違反がない場合であっても、当該商標を指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反するなどの﹁特段の事情﹂が存在するときには、七号に該当すると解すべき余地があると述べた点、②その﹁特段の事情﹂として、1.原告による本件商標の出願の経緯が、著しく妥当性を欠き、社会公共の利益を害すると評価する余地があること、2.原告の元代表取締役であるOらによる本件商標の利用態様が、自らの保身を図るためであること、3.原告が本件商標を指定役務について使用することは、被告による﹁日本漢字能力検定﹂の実施及びその受検者に対し、混乱を生じさせるものであることを、それぞれ挙げている点、③﹁特段の事情﹂の存在を、後発的な無効事由の判断において肯定している点である。 以上から、本判決は、七号の公序良俗概念につき、後発的無効事由としての七号に該当することとなる﹁特段の事情﹂の、一つの具体例を示すものと位置づけられる。

一七一

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(   同志社法学 六六巻一号一七二

3―2 本判決の問題点 本判決は、原告が本件商標を指定役務について使用することが、社会通念に照らして著しく妥当性を欠き、社会公共の利益を害するとしているが、不正の目的で使用する商標の登録出願については、法四条一項一九号が別途不登録事由を定めており、これとの整合性が問題になると思われる。特に、一九号が後発的な無効事由とはなっていないことに照らせば、商標登録出願の経緯が著しく妥当性を欠くとはいえ、後発的無効事由としての七号該当性の判断に当たっては考慮できないのではないかという疑問が生じる。 本事案で商標登録の無効が争われた登録商標は、本件商標の他にもいくつかあるが、そのうち、﹁漢検﹂の文字を縦書きにし、第四一類﹁技芸・スポーツ又は知識の教授﹂を指定役務とする登録商標を、本判決と同様に後発的無効とした判決

)7

に対しては、私的な紛争の域を超えるのか、という疑問が呈されている

)8

。この見解は、﹁出願人と本来登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも当事者同士の私的な問題として解決すべき﹂と判示した﹁CONMER ﹂事件判決(後述)を引用しているが、同判決は、当該事件がまさに一九号の問題であって、七号により解決を図るべきではない旨を述べるものであるから、この見解も、七号と一九号との関係に着目して、本件事案を七号により処理することを問題視するものと考えられる。 よって、この点につき、七号が適用され商標登録出願又は商標登録が排除されることにより保護される法益(七号の保護法益)と、一九号の保護法益との違いに着目して検討してみたい。 一七二

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(   同志社法学 六六巻一号一七三 4 検討 4―1 商標法四条一項七号の法規定 法四条一項は、一号ないし一九号からなり、商標の不登録事由を限定列挙する。同項七号は、﹁公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標﹂を挙げる。つまり、公序良俗を害するおそれがある商標は、商標登録できない。また、過誤登録された場合は、登録無効となる(法四六条一項一号)。 本号該当性の判断時点は、商標出願の段階においては査定審決時であるが、査定審決時に本号に該当せずに一旦登録された後であっても、当該商標が事後的に本号に該当するものとなった場合は、登録は無効となる(法四六条一項五号)。この場合、当該商標権は、当該商標登録が後発的に無効事由に該当するに至った時から存在しなかったものとみなされる(法四六条の二第一項)。また、除斥期間の適用はなく(法四七条一項)、過誤登録から五年以上経過した場合であっても、登録が無効となる。

4―2 商標法四条一項一九号の法規定 法四条一項一九号は、他人の周知商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的で使用するものは、登録できない旨を定める。本号への該当性は、査定審決時において判断されるが、商標登録出願の時に本号に該当していなければ、査定審決時に本号に該当していても、本号を理由に出願が拒絶されることはない(法四条三項)。また、商標が登録後に本号に該当するに至ったとしても、無効事由とはならない。 本号は、平成八年の商標法改正により追加された規定である。その理由は、法解釈の明確化にあると説明されてい

一七三

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(   同志社法学 六六巻一号一七四

)9

。すなわち、国内外の周知商標について、不正の目的でなされた出願については、従来は法四条一項七号や同一五号(出所の混同)の解釈により登録を排除していたところ、周知著名商標の保護の明確化及び不正目的使用の防止の要請の高まりを受け、別途明文規定を設けるに至ったのである。なお、本号が﹁周知性﹂を要件としたのは、未登録商標を﹁﹃不正の目的﹄があるからという理由だけで一律に保護することとするのは、商標の使用をする者の業務上の信用を維持することを目的とし(商標法第一条)、かつ先願登録主義を建前とする我が国法制の下では適切ではないから﹂とされる ₁₀

4―3 ﹁公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標﹂の意義4― 3― 1 基本的理解 ﹁公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標﹂の意義については、時代に応じて変化し得るものであり、一義的には定め得ないが ₁₁

、裁判例及び学説により、その具体化、類型化が図られてきた。 七号の文言は、商標の構成に着目したものとなっており、商標の構成自体に公序良俗違反がある場合、すなわち、商標の﹁構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形﹂が七号に該当することについては、争いがない。 もっとも、昭和二七年の﹁BOY SCOUT ﹂事件判決 ₁₂

が示すように、七号は、商標の構成自体に公序良俗違反がなくとも、﹁これを指定商品に使用することが、社会公共の利益に反し、又は、社会の一般的道徳観念に反するような場合に、その登録を拒否すべきことを定めている﹂と解されている。この事件は、ボーイスカウトの服装をした少年が直立する図形とその下に横書きした英文のBOY SCOUTの文字を要部とし、﹁香料及び他類に属しない化粧品﹂を指定商品とする 一七四

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(   同志社法学 六六巻一号一七五 商標(﹁BOY SCOUT﹂商標)が、旧商標法二条一項四号(現行法四条一項七号と同旨)に該当するか否かが争われた事案であり、判決は上記の一般論を述べつつ、﹁BOY SCOUT ﹂商標がその指定商品に使用されたとしても、秩序又は風俗をみだすものとは解されないと判断した。この判決は妥当なものとして支持されており ₁₃

、また、一般論として、商標の構成自体に公序良俗違反がない場合であっても、それを指定商品又は指定役務に使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合は、七号に該当し得ることは、今日でも広く受け入れられているところである ₁₄

。 しかしながら、具体的にどのような場合に社会公共の利益が害されるのかという点や、上記以外の場合にも七号に該当する場合があるのかという点については、議論がある。

4― 3― 2 特許庁解釈 特許庁の商標審査基準は、商標が七号に該当する場合を類型化している。これによると、﹁公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標﹂とは、﹁1.⋮その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合及び商標の構成自体がそうでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれるものとする。⋮ 2.他の法律によって、その使用等が禁止されている商標、特定の国若しくはその国民を侮辱する商標又は一般に国際信義に反する商標は、本号の規定に該当するものとする ₁₅

﹂とされる。すなわち、①商標の構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるもの、②指定商品・役務について使用することが社会公共の利益又は一般的道徳観念に反するもの、③他の法律によってその使用等が禁止されているもの、④特定の国若しくはその国民を侮辱するもの、⑤

一七五

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(   同志社法学 六六巻一号一七六

一般に国際信義に反するもの、の五つの類型が、公序良俗を害するおそれがある商標とされている。 商標審査基準の、さらに具体的な審査基準を定めた商標審査便覧においては、国家資格等を表す又は国家資格等と誤認を生ずるおそれのある商標、暴力団に係る標章、歴史上の周知・著名な故人の人物名からなる商標等が、七号に該当する商標として例示されている ₁₆

4―3―3 裁判例 本件は、不正目的での商標の使用が問題となっているので、これを扱った判決を引用する。

① 「Juventus」事件判決 ((

(七号該当性否定( 一九号を追加した改正法の施行前に、後述の無効審判が請求された事案であるが、新設された一九号の趣旨を考慮して、商標権の存続期間の更新登録の際に当該商標が他人を表す商標であって周知著名なものと同一又は類似となっていたとしても、当該商標の登録出願時に、当該他人の名声を僭用して不正な利益を得るために使用する目的その他の不正な意図が認められなければ七号に該当しないとした事例として、﹁Juventus ﹂事件判決がある。 原告は﹁Juventus﹂の欧文字を特殊な字体で横書きにしてなる標章を要部とし、指定商品を﹁装身具、化粧用具﹂等とする登録商標の商標権者である。原告は当該登録商標につき、存続期間の更新登録を経ていたが、被告により存続期間の更新登録の無効審判が請求され、更新登録を無効とする審決がされたため、この審決の取り消しを求めた。この審決における存続期間の更新登録無効の理由は、当該商標が、イタリアのプロサッカーチームの略称として、存続期間の更新登録時においてサッカーファンを始めとするスポーツ愛好者の間で周知・著名となっていた﹁JUVENTUS﹂、﹁ユ 一七六

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(   同志社法学 六六巻一号一七七 ベントス﹂の名称と類似し、指定商品への使用が需要者に混同を生じさせるおそれがあるため、当該商標の登録を維持することが公正な競業秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものであり、商標制度の趣旨に則しないから、当該更新登録は七号に該当する、というものであった。 裁判所は、﹁我が国においてその名称又は略称をもって著名な外国の団体と無関係の者が、その承諾を得ずに当該団体の名称又は略称からなる商標又はこれらに類似した商標の設定登録を受けることは、それが商標法四条一項八号、一五号等によって商標登録を受けることができない場合に当たらないとしても、当該団体の名声を僭用して不正な利益を得るために使用する目的、その他不正な意図をもってなされたものと認められる限り、商取引の秩序を乱すものであり、ひいては国際信義に反するものとして、公序良俗を害する行為というべきである﹂としつつ、﹁登録出願の際には、当該団体もその略称も我が国において著名ではなく、それ故、登録出願が前示のような不正な意図を伴うものではなかった場合には、その登録出願後に、当該団体及びその略称が我が国において著名となったとしても、そのこと故をもって直ちに該商標に係る商標権を保有することが公序良俗を害するものになるとは解し難く、したがって、商標の登録出願時におけるかかる不正な意図の有無を問うことなく、存続期間の更新登録の当時において、該商標が我が国において著名な外国の団体の著名な略称からなり、あるいはこれと類似するものであったことを理由として、当該商標が商標法四条一項七号に該当し、当該存続期間の更新登録が無効であるものと解することは、誤りというべきである﹂と判示して、審決を取り消した。また、このような解釈につき、﹁本件に適用されるものではないが、⋮商標法四条一項一九号、同条三項、四六条一項五号の各規定の趣旨及び相互関係からもそのように解すべきことが窺われる﹂とした。

一七七

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(   同志社法学 六六巻一号一七八

② 「母衣旗」事件判決 ((

(七号該当性肯定( ﹁Juventus﹂事件判決と同様に、一九号を追加した改正法の施行前に、後述の無効審判が請求された事案であるが、商標登録出願の経緯及び出願人の意図を考慮して七号該当性を肯定した事例として、﹁母衣旗﹂事件判決がある。 被告は﹁母衣旗﹂の漢字と﹁ほろはた﹂の平仮名文字により構成され、指定商品を﹁加工食料品﹂等とする登録商標の商標権者であった。原告(福島県石川郡石川町)は、石川町内の伝承上の地名である﹁母衣旗﹂の名称を、同町の経済の振興を図る方策の中心に位置付け、町内の各業者に対し使用を奨励していた。そのような状況の下、被告は上記商標の登録出願をし、商標権を得た上で、当該商標権に基づき﹁母衣旗﹂の名称を使用する業者に対して、差止及び損害賠償の請求をした。原告は、上記商標の登録無効審判を請求したが、請求不成立の審決がされたため、当該審決の取消を求める訴訟を提起した。 裁判所は、﹁被告による本件商標の取得は、仮に、その主張するとおり、本件商標を自ら使用する意思をもってその出願に及んだものであるとしても、原告による、町の経済の振興を図るという地方公共団体としての政策目的に基づく公益的な施策に便乗して、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、指定商品が限定されているとはいえ、該施策の中心に位置付けられている﹃母衣旗﹄名称による利益の独占を図る意図でしたものといわざるを得ず、本件商標は、公正な競業秩序を害するものであって、公序良俗に反するものというべきである﹂と判示して、審決を取消した。

③ 「ハイパーホテル」事件判決 ((

(七号該当性否定( 商標の登録出願が適正な商道徳に反して社会的妥当性を欠き、その商標の登録を認めることが商標法の目的に反する 一七八

(18)

(   同志社法学 六六巻一号一七九 ことになる場合には、その商標は商標法四条一項七号にいう商標に該当することもあり得るとしつつ、商標の構成自体に公序良俗違反がない場合には、商標登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限って七号に該当し得るとした事例として、﹁ハイパーホテル﹂事件判決がある。 この事件は、訴外A社(申立人)により、原告(被申立人)の有する登録商標(原告登録商標)に対して、法四条一項七号及び一〇号に該当することを理由とする登録異議の申立てがなされ、特許庁が当該商標の登録を取り消す決定をしたため、特許庁長官を被告として原告が提起した商標登録取消決定取消請求訴訟である。 原告登録商標は、﹁ハイパーホテル﹂の片仮名文字を標準文字により書してなり、﹁宿泊施設の提供﹂等を指定役務とする商標である。 申立人は、宿泊施設等の企画・コンサルティング業務及び経営を行うことを目的として平成九年三月に設立された会社である。同人は、平成一〇年ころから、加盟店を募って、エコノミーホテルを全国に展開している。加盟店の募集は、申立人とパートナーシップ契約を結んだエリアパートナーにより、一定の地域ごとに行われた。原告は、平成一〇年五月に、申立人との間でパートナーシップ契約を締結し、東北地域のエリアパートナーとなった。原告のホテルは、﹁ハイパーホテル青森﹂の名で平成一一年四月に開業し、以来、同名称で営業を続けている。 申立人は、平成九年四月に、﹁ハイパーホテル﹂の片仮名文字と﹁HYPER HOTEL﹂の欧文字を二段に併記してなる商標を、﹁宿泊施設の提供﹂等を指定役務として商標登録出願したが、この出願は、麒麟麦酒株式会社の有する登録商標﹁ハイパー/HAPA﹂(以下﹁麒麟ハイパー商標﹂という。)を引用され、商標法四条一項一一号に該当するとして、拒絶査定がされ、確定した。

一七九

(19)

(   同志社法学 六六巻一号一八〇

 原告は、平成一二年四月二四日、麒麟ハイパー商標について商標法五〇条による不使用取消審判を請求 ₂₀

するとともに、同日、原告登録商標の商標登録出願をし、平成一三年八月二四日に原告登録商標に係る商標権の設定登録を受けた。なお、原告登録商標の登録出願について、原告は、出願の意思を事前に申立人に伝えた。 この登録に対し、申立人は登録異議の申立てをした。特許庁は、原告登録商標が法四条一項七号に該当することを理由に、原告登録商標の登録を取り消す決定をした。 裁判所は、次のように判示して、原告登録商標が七号に該当するとした審決の判断は誤りであるとした。すなわち、﹁商標の登録出願が適正な商道徳に反して社会的妥当性を欠き、その商標の登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合には、その商標は商標法四条一項七号にいう商標に該当することもあり得ると解される。しかし、同号が﹃公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標﹄として、商標自体の性質に着目した規定となっていること、商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については同法四条一項各号に個別に不登録事由が定められていること、及び、商標法においては、商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば、商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法四条一項七号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである﹂。原告が原告登録商標の登録出願をしたのは、申立人に対する上記拒絶査定が確定した後一年以上経過した時期であること、原告は当時すでに﹁ハイパーホテル青森﹂の名称で営業していたこと、及び、申立人は上記拒絶査定後ハイパーホテル商標(片仮名文字の﹁ハイパーホテル﹂又は欧文字の﹁HYPER HOTEL ﹂からなる商標)の商標権取得に向けて何らかの方策を講じたとは認められないことから、﹁原告が本件商標を登録出願し、商標登録を取得⋮したことは、既に営業を開始していた原告のホテル営業について、ハイパーホ 一八〇

(20)

(   同志社法学 六六巻一号一八一 テル商標を安定して使用し得る地位を確保するための安全策という要素を持つものであって、⋮その商標登録出願から商標権取得に至る行為をあながち不当、不道徳と評価することはできない。また、⋮原告の本件商標(筆者注:原告登録商標。以下、この判決の引用中において同じ。)登録出願が不正の目的でなされたと断定することもできない﹂と判示した。 また、裁判所は、﹁付言するに、⋮本件商標﹃ハイパーホテル﹄の使用関係を原告と申立人グループとの間でいかに律するかは、当事者間における利害の調整に関わる事柄である。そのような私的な利害の調整は、原則として、公的な秩序の維持に関わる商標法四条一項七号の問題ではないというべきである﹂とも述べている。

④ 「COMEX」事件判決 ((

(七号該当性肯定( 七号の公序良俗概念を商標法の予定する秩序との関係で捉えた上で、商標権者の剽窃的意図、周知商標へのただ乗りの意図、需要者の出所誤認のおそれ等を理由に、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反し、七号に該当するとした事例として、﹁COMEX ﹂事件判決がある。 原告は、ロレックス時計を専門に扱う時計の輸入・販売業者であり、﹁COMEX﹂の欧文字を横書きにしてなり、指定商品を﹁時計﹂等とする登録商標の商標権者であった。被告ロレックス社は世界的に有名な時計メーカーであり、被告コメックス社は海洋開発の分野では有名な海洋探査会社である。被告ロレックス社は、被告コメックス社に深海用時計を提供し、被告コメックス社からその使用結果の報告を得、更なる製品の開発を行うこと等を内容とする契約を、被告コメックス社との間で締結していた。この契約に基づき開発された時計には、﹁ROLEX﹂の商標とともに﹁comex﹂、﹁COMEX﹂の商標が付され、﹁コメックスのダブルネーム﹂、﹁コメックスモデル﹂等と呼ばれていた。他方、原告は、

一八一

(21)

(   同志社法学 六六巻一号一八二

オリジナルブランドのダイバーズウォッチ﹁プロレックス﹂に、﹁PRO﹂の文字と﹁LEX﹂の文字の間にごく短いハイフンを入れた﹁PRO-LEX﹂の商標及び﹁comex﹂の商標を、﹁コメックスのダブルネーム﹂における﹁ROLEX﹂商標及び﹁comex﹂ロゴと同一の配置並びにこれらと酷似した字体で付して発売した。また、原告は、時計に関する雑誌上で﹁幻のWネーム﹃COMEX﹄ロゴがあなたの時計⋮に蘇る。限定一〇〇本でCOMEXバージョン・加工サービスをお受けします﹂、﹁(原告は)日本におけるCOMEXWATCHの正規オフィシャルライセンサーです。国内における全ての

COMEXロゴ入り時計の販売は、当社の許可が必要です﹂等の宣伝をした。 被告らは、原告の上記登録商標の無効審判を請求したところ、特許庁が当該登録を無効とする審決をしたため、原告はその取消を求めて訴訟を提起した。 裁判所は、次のように判示して、原告の登録商標が七号に該当するとした審決を支持した。すなわち、①原告の商標登録出願の意図につき、﹁我が国において﹃時計、時計の部品及び付属品﹄を指定商品とする﹃comex﹄、﹃COMEX﹄の商標登録がされていなかったことを奇貨として、被告ロレックス社に無断で先取り的に出願したものといわざるを得ない﹂、②原告の登録商標の使用の意図につき、﹁原告は、プロレックスの販売について、被告ロレックス社製の時計に付される﹃comex ﹄、﹃COMEX ﹄が持つ高いイメージを連想させることによって、被告ロレックス社のダイバーズウォッチの名声にただ乗りすることを図っているものといわざるを得ない﹂、③原告の登録商標の使用態様につき、﹁原告の販売する時計プロレックスが被告ロレックス社の承認の下に製造販売されているとの誤った印象を需要者に与える可能性が高く、被告ロレックス社製ダイバーズウォッチに使用される﹃comex﹄、﹃COMEX﹄の商標の信用を毀損するとともに、需要者の利益に反するものである﹂、﹁﹃ROLEX/comex ダブルネーム﹄時計と紛らわしい外観の商品を作出する行為であって、偽物の流通につながりかねない危険をはらんでいる。しかも、原告は、⋮同様の行為が他のブランドの 一八二

(22)

(   同志社法学 六六巻一号一八三 時計については違法であることを認識しつつ、被告ロレックス社のサブマリーナ及びシードゥエラーに﹃COMEX﹄のロゴ入れ加工をすることを、原告が有する本件商標﹃COMEX ﹄の商標登録によって正当化し、法的問題のないことを需要者に対しアピールしているのである。その一方で、原告は、同業他社に対しては、⋮同様のロゴ入れ加工や﹃COMEXロゴ入り時計﹄の販売を牽制しているのであって、これらは、著しく社会的妥当性を欠く行為というべきである﹂と述べ、原告登録商標につき七号該当性を肯定した審決の判断に誤りはないとした。 なお、この審決取消訴訟においては、一九号は当事者から主張されなかった。

⑤ 「CONMER」事件判決 ((

(七号該当性否定( 商標法の構造上、一九号と密接不可分な事情については、専ら一九号により判断されるべきことを述べた事例として、﹁CONMER ﹂事件判決がある。 本件商標は、﹁コンマー﹂及び﹁CONMER﹂の文字を上下二段に横書きしてなり、﹁ボタン類﹂を指定商品とする商標であり、原告はその商標権者である。被告は、﹁CONMAR ﹂の文字からなる商標(CONMAR 商標)にかかる米国商標権を、ファスナーについて有する会社である。CONMAR商標は、もともとは米国のコンマー社が、その製造販売するファスナーに使用していたものである。同社廃業後は、CONMAR 商標は、A社に承継された。被告はA社を吸収合併し、その際CONMAR商標を承継した。同商標権は、一旦は更新されずに消滅したが、その後被告はCONMAR商標にかかる商標権をファスナーについて取得した。 原告の前身会社であるB社は、A社との間で﹁CONMAR﹂との表示を付したファスナーの製造委託について交渉したことがあり、また被告との間で﹁CONMAR﹂との表示を付したファスナーについて商談を行い、同製品の供給を受

一八三

(23)

(   同志社法学 六六巻一号一八四

けたことがあった。 ﹁CONMAR﹂との表示は、遅くともB社と被告との上記商談の前には、コンマー社及びそのファスナーに関する事業を引き継いだ者のファスナーを表示するものとして、日本国内及び米国において、それらのファスナーの需要者等の間で広く知られていた。 原告は、平成一五年六月に本件商標について登録出願を行い、平成一六年二月に登録を得た。 被告は、平成一八年一二月に、本件商標が法四条一項七号、一〇号、一五号、一九号に該当することを理由に、本件商標の登録無効審判請求をした。特許庁は、本件商標が七号に該当することを理由に、本件商標登録を無効とした。 裁判所は、次のように判示して、原告登録商標の七号該当性を否定した。すなわち、﹁法四条一項七号は、上記のような場合(筆者注:商標を構成する標章それ自体が公序良俗に反する場合。判決はこれを﹃商標の構成に着目した公序良俗違反﹄とする。)ばかりではなく、商標登録を受けるべきでない者からされた登録出願についても、商標保護を目的とする商標法の精神にもとり、商品流通社会の秩序を害し、公の秩序又は善良な風俗に反することになるから、そのような者から出願された商標について、登録による権利を付与しないことを目的として適用される例がなくはない(主体に着目した公序良俗違反)。⋮しかし、商標法は、出願人からされた商標登録出願について、当該商標について特定の権利利益を有する者との関係ごとに、類型を分けて、商標登録を受けることができない要件を、法四条各号で個別的具体的に定めているから、このことに照らすならば、当該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについては、特段の事情がない限り、当該各号の該当性の有無によって判断されるべきであるといえる。⋮商標法のこのような構造を前提とするならば、少なくとも、⋮法四条一項八号、一〇号、一五号、一九号⋮の該当性の有無と密接不可分とされる事情については、専ら、当該条項の該当性の有無によって判断すべきであるといえる。⋮そして、特段の事 一八四

(24)

(   同志社法学 六六巻一号一八五 情があるか否かの判断に当たっても、出願人と、本来商標登録を受けるべきと主張する者⋮との関係を検討して、例えば、本来商標登録を受けるべきであると主張する者が、自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、出願を怠っていたような場合や、契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず、適切な措置を怠っていたような場合⋮は、出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、⋮特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない﹂。確かに、B社とA社との製造委託交渉及び被告からB社への﹁CONMAR ﹂との表示を付したファスナーの供給から、B社は﹁CONMAR﹂との米国商標が被告に帰属したとの事情を認識していたと推認される。しかし、原告被告間の紛争は、一般国民に影響を与える公益とは無関係であること、そもそも本件のような私人間の紛争についてはまさに法四条一項一九号の問題であって、同号該当性の有無によって判断されるべきであること、本件商標出願は、同項一〇、一五、一九号に該当するものであること等を総合すると、本件商標が七号に該当するとした審決の判断には誤りがある。

⑥ 「日本数学検定協会」事件判決 ((

 本判決と事実関係が類似し、同様に後発的な七号該当性が問題となったものの、公序良俗違反はないとされた事例として、﹁日本数学検定協会﹂事件判決がある。

 

識定知関の教授﹂等を指役す務とする登録商標にる ₂₄ 書﹂等を指定商と品し、﹁学習支援籍、﹁﹂字告は、﹁日本数学検定協会ての文を ないつに章標るて標し表で字文準原 1)告被び及告原 

(以下、原告登録商標という。)の商標権者である。原告は、平成

一八五

(25)

(   同志社法学 六六巻一号一八六

二二年一月まで、被告の理事長を務めた。被告(財団法人日本数学検定協会)は、平成一一年に公益法人として設立され、同年から毎年、実用数学技能検定を実施している者である。 原告は、数学の検定制度の開発者であり、平成二年に﹁数学能力検定﹂と称する仮検定を実施した。平成四年には任意団体である﹁日本数学検定協会﹂が発足し、第一回全国数学検定試験が行われた。平成一一年の被告設立後は、同様の試験が被告により実施されるようになった。同検定試験の受検者数は、平成一八年以降、三〇万人以上で推移し、﹁日本数学検定協会﹂の標章もより広く知られるようになった。 

― 願(商号一一二三四〇〇二標商 ₂₅ 授援に関する知識の教す﹂等を指定役務と習る支学検定成一六年、﹁数、﹁﹂﹁数学検﹂ の文字を二段に書してなり平 2)緯経の録登の標商告原 

)が原告により出願された。原告商標は、平成一七年に被告により出願されたが、上記商標と同一又は類似である旨の拒絶理由通知を受けたことから、これを解消するため、出願人を原告に変更し、平成一八年に登録がなされた。 なお、商願二〇〇四―三二一一号に係る商標の出願過程において、商標の登録は、﹁公的な機関が主催する数学に関する検定試験の一つであるかのように認識、理解される﹃数検﹄﹃数学検定﹄の文字を二段に書してなるところ、これを一個人である出願人が自己の商標として採択使用することは、検定試験に対する社会的信頼を失わせるおそれがあり、穏当ではありません。⋮商標登録出願に係る商標は、商標法第四条第一項第七号に該当します。﹂との理由で拒絶査定された。原告は不服審判において、原告は被告の理事長であり、数学に関する検定試験の公的機関であるから、検定試験に対する社会的信頼を失わせるおそれはないことを記載した意見書、及び、被告の理事会の決議により原告が商標権の取得を認められている旨が記載された理事会議事録を提出し、これによって、同商標を原告が登録商標として確保す 一八六

(26)

(   同志社法学 六六巻一号一八七 ることが穏当でないとは言い得ない旨の審決を得た。 

記支間期約契、とこう払を平料トンテパ合割の定はで成る一上。たあで等とこっす一と年七月から一〇年 は容内のそ。たれづさ結締き基に被議、活告用の一、合場るすをが許特や標商の告原決会た契事れ。同約は、被告の理 告で、原商所有の標告間も被告原、くな特ま後立設告や用許料さ結締が約契のていつに用を使の合場るす 活が告被被 3)等標原告被告間の商利め用についての取決 

  、は告原、に月九年三成平た告ま、れさわ交が書約誓る被二にに。対し付送を書告警るす対た用告使て、原し登商標の録 告原告被登、間で原告に、成月四年三二平、後のそ 商録を標制と容内を等とこるす限用を使るよに告被の標商む含す っ。た 三テント料合計二億五五五万の三〇〇〇円を原告に支払パでれ成こらの契約に基まき、平づ一年分から平成二二年一分 のついて二契約﹂﹁平成料ントテパ標商年一二成平れ﹁年二に商﹂を標、告被。るいてし結締は約にテント料パついての契 標かないてれさ録登はっ、商録登告原締はで点時結。た及原平契ぞれそ、もに年三二成び告年一二成平、はと告被と約 ()同、り通の

。数せわ合い問の多あのるいてし乱混が等り話、たっ行等応対を電数多、は告の被 者生、保護、から成受二検の、生先の当担学数国全 年三平九告月、すやい違間、し対にい被にでま日七二らか一、日 知通。した でのかるなよくなは数格資的公が﹂検な、﹁う生趣担さてし対に先の当学旨数、をせら知おのれ化営民が告被、は会協 定団体受検協日は、被回のが五たし施実の会同。たし始告検実に同、施ま。たいてっな重た日の定る検定す検団体受検 告被告の名酷称と後似し、を任退﹁長事理の告被、はた様数し 開を業事の同と告被、設検創を﹂会協定検学数本日原 4)等の被告理事長退任後原始告による事業の開 

一八七

(27)

(   同志社法学 六六巻一号一八八

 このような状況下において、被告が原告の商標登録の無効審判を請求したところ、特許庁が請求成立審決をしたため、原告がこれに対する審決取消訴訟を提起した。 裁判所は、次の通り判示して、原告の請求を認容した。 ﹁本件商標(筆者注:原告登録商標。以下、この判決の引用中において同じ。)は、当初、原告によって使用されており、⋮被告は⋮平成二三年四月ころまでは原告が本件商標権を有することを前提として﹂いる。﹁上記の事情からすると、被告の設立後、本件商標の周知著名性が高まった事実があるとしても、本件商標が被告によって使用されるべき性格の商標になったということはできない﹂。﹁当事者間の民事上の紛争や受検生等の混乱は、もっぱら当事者間の反目や当事者による本件商標の使用態様その他の行動に起因して発生したものというべきであり、本件商標登録によって生じたとは認められない。そうすると、仮に、被告の実用数学技能検定事業が何らかの公的性格を有するとしても、民事上の紛争等が発生していることを根拠として、本件商標が⋮社会通念に照らして著しく相当性を欠き、公益を害するようになったということはできない﹂。﹁出願経過において、原告が被告の理事長の地位にあり、被告のために公的な機関として行動することを前提として、商標の登録が認められたと考えられるから、現状において、原告に本件商標を独占させることは、社会的妥当性を著しく欠き、公益を害する﹂との被告の主張について、﹁商願二〇〇四― 三二一一号に係る商標の登録が認められたのは、むしろ、当時、原告が被告の理事長であり、被告の理事会の決議により商標権の取得を認められている旨の議事録が提出されたことから、原告の出願に不正、不当な意図がないことが推認されたためと解するのが相当であ﹂り、上記主張は失当である。﹁したがって、本件商標は被告によって使用されるべき性格の商標になったこと、社会的混乱を生じさせたこと等の諸事情を根拠として、本件商標は、商標登録がされた後において、商標法四条一項七号に該当するものとなったとした審決の判断には誤りがあり、原告の主張には理由がある﹂。したがって、審 一八八

(28)

(   同志社法学 六六巻一号一八九 決は違法として取り消されるべきである。

4―3―4 学説① 七号について 七号に現れる商標法上の公序良俗概念は、一般法である民法の九〇条とは別に規定が置かれていることから、民法上の公序良俗とは異なるものであることが、旧法下において既に主張されていた ₂₆

。その後も、七号の公序良俗概念は、商標法の目的や商標法の体系との関係において理解されるべきことが主張されてきた ₂₇

。﹁商標登録を認めて当該商標の使用を促したり⋮、商標登録を認めて商標権の行使を許容することが公序または良俗を害するおそれがある場合も含まれると解すべき ₂₈

﹂との説も、商標法がその目的、体系上、登録を許すべきかどうかという観点を加味したものと思われる。 従来の七号の類型として、特許庁見解の五類型及び裁判例上示されている﹁出願の経緯が著しく社会的妥当性を欠く場合﹂(﹁ハイパーホテル﹂事件判決ほか)が挙げられるが、出願の経緯に関する事項がなぜ、指定商品・役務について使用することが社会公共の利益又は一般的道徳観念に反する場合(特許庁見解②類型)又は他の法律によってその使用等が禁止されている場合(特許庁見解③類型)とは別の類型とされるのかという指摘 ₂₉

や、剽窃的出願は、審査基準のいう﹁社会の一般的道徳観念に反する﹂、﹁国際信義違反﹂、﹁出願の経緯が著しく社会的妥当性を欠く場合﹂のいずれにも該当し得るとして、従来の類型が理論的にやや未整理であるという指摘 ₃₀

がある。特に後者の説は、七号が商標自体の性質に着目した規定であること、商標法は四条一項各号において個別に不登録事由を定めていること、商標選択の自由を前提にして先願主義が採られていること、特許法三八条に相当する共同出願違反の規定がないこと、及び七号は公益的理由に基づく後発的無効事由であることから、七号の適用は例外にとどまるべきとの前提に立った上で、七号適用の利益状況に着目し、①公益上、何人も登録・使用してはならない商標、②本来、団体的に帰属すべきであり、特定者に独

一八九

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