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平成 27 年度 修士論文 立像の耐震性に関する基礎的研究 指導教員花里利一教授 三重大学大学院工学研究科 建築学専攻 安井佑佳 三重大学大学院工学研究科

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科

修士論文

立像の耐震性に関する基礎的研究

指導教員 花里利一教授

三重大学大学院工学研究科

建築学専攻

安井佑佳

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 1.1 概要 ---1 1.2 背景と目的 ---1 1.3 研究対象 1.3.1 薬師寺弥勒三尊像 ---2 1.3.2 東大寺法華堂仏像群 ---3 1.3.3 東大寺戒壇堂仏像群 ---3 1.4 既往の研究 ---4 1.5 地震被害 ---7 第2章 常時微動測定 2.1 概要 ---9 2.2 既往の研究 ---10 2.3 測定内容 2.3.1 測定方法 ---13 2.3.2 測定項目 ---14 2.3.3 測定位置と測定成分 ---15 2.4 測定結果 2.4.1 固有振動数 ---17 2.4.2 減衰定数 ---20 2.4.3 変形比 ---21 2.5 まとめ ---23 第3章 振動台実験 3.1 概要 ---24 3.2 既往の研究 ---24 3.3 実験計画 3.3.1 試験体概要 ---27 3.3.2 加振計画 ---30 3.3.3 測定計画 ---32 3.4 実験結果 ---35 3.5 まとめ ---48

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 4.2.1 解析対象モデル ---49 4.2.2 解析方法 ---51 4.3 解析結果 4.3.1 脱活乾漆像 ---52 4.3.2 塑像 ---56 4.4 まとめ ---57 第5章 結論 5.1 結論 ---58 5.2 今後の課題 ---59 謝辞 ---60 参考文献 ---61 付録 ---62

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1 章

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 1.1 概要 薬師寺は、680 年に天武天皇の発願により創建された寺院で、当初は現在の奈良県橿原市 城殿町に創建され、710 年に現在の地(奈良県奈良市西之京町)に移された。大講堂には、須 弥壇上中央に弥勒菩薩(薬師如来像)、両脇に法苑林菩薩(日光菩薩像)・大妙相菩薩(月光菩薩 像)がそれぞれ安置されており、銅造である。また諸説あるが、これらの仏像は奈良時代か ら平安時代に造られたものである。東大寺法華堂は、東大寺の中でも最も古い建造物であり、 1951 年に国宝の指定を受けている。正堂内陣に建築須弥壇、その上に八角二重の須弥壇を 置き、本尊不空羂索観音像を中心に十六躰の仏像が祀られている。これらの仏像の内、九躰 が乾漆造、五躰が塑造、二躰が木造であり、乾漆造及び塑造の仏像は天平時代、木造の仏像 に関しては鎌倉・室町時代に造られたものである。また、東大寺戒壇堂には、堂内の中央に 二重の壇を設け、各面に昇階段がつくられている。壇上の中央に多宝塔が安置され、四隅を 塑造の四天王像で固められている。塑造の四天王像は天平時代に造られたものである。何れ の仏像についても国宝または重要文化財に指定されており、歴史的、文化的な価値は非常に 高いといえる。 本研究は、歴史的、文化的価値の高い仏像の耐震安全性について調査、検討することを目 的とする。 研究内容としては、初めに仏像の基本的振動特性を確認するため、常時微動測定を実施し、 固有周期や振動モード、減衰定数の算出を行っている。また、地震時の仏像の挙動および転 倒条件を把握するため、縮小模型を用いて、一軸振動台による加振実験を行った。次に、拡 張個別要素法(EDEM)に基づいた解析的な転倒シミュレーションにより、振動台実験結果と 比較を行い、解析手法の有効性を図る。 1.2 背景と目的 歴史的建造物の地震被害を低減するための研究は近年活発に行われているものの、安置 されている美術工芸品等の文化財についての耐震性を考慮した研究例は少ないのが現状で ある。本研究で対象としている仏像、特に立像の転倒による破損被害は決して少なくはなく、 代表的な被害例として、1586 年の天正地震の際に、京都府の連華王院三十三間堂で仏像 600 躰が転倒したという記録も残っており、これまでに多くの仏像が地震で転倒し、損壊してき たと考えられる。東大寺法華堂や蓮華王院三十三間堂の様に密集して歴史的、文化的な価値 のある仏像が安置されている場合、地震時に一躰の仏像が転倒すると連鎖的に転倒する可 能性もあり、その被害は計り知れない。 東大寺や薬師寺がある奈良県北部には桜井市から京都府京都市までおよそ 35km に渡り 南北に奈良盆地東縁断層があり、法華堂・戒壇堂・薬師寺は歴史上、強地震動を幾度か受け ている。また、奈良盆地東縁断層で最も大きな活断層地震が起きた場合、最大加速度が 626Gal と推定されていることもあり、仏像の転倒防止対策は早急な課題である。しかし、 修復の跡は見られるものの、文書等記録がないため地震被害による修復であるかは定かで はなく、また、現在に至るまで原型を留めているのも事実である。これらのことから歴史的

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 に見て仏像群は一定の耐震性を有していると考えられるがその耐震性評価には科学的な調 査が必要となっているのが現状である。本研究では、仏像に関して、その耐震性を仏像の常 時微動測定、縮小模型実験および拡張個別要素法(EDEM)に基づいた解析により検証するこ とを目的としている。 1.3 研究対象 1.3.1 薬師寺弥勒三尊像 薬師寺は、680 年に天武天皇が皇后(後の持統天皇)の病気平癒を祈って発願された寺院で、 現在の奈良県橿原市城殿町に創建され、710 年に現在の地(奈良県奈良市西之京町)に移され た、法相宗の大本山である。大講堂には、須弥壇上中央に弥勒菩薩(薬師如来像)、両脇に法 苑林菩薩(日光菩薩像)・大妙相菩薩(月光菩薩像)がそれぞれ安置されている(図 1.1 参照)。こ の三体をまとめた弥勒三尊像が重要文化財の指定を受けており、何れも歴史的、文化的価値 は非常に高いといえる。表1.1 に各像の像高・重量・重心高さ・造り・制作時期を示す。制 作時期には、白鳳時代から平安時代頃までに至る諸説があるが、近年は奈良時代から平安時 代ではないかと言われている。 薬師寺は過去の地震において被害報告があり、仏像の被害をあげると、1819 年の地震の 際に、講堂再建のため仮屋に移座されていた脇侍像(日光)の頭部が、仮屋の倒壊により落下 する被害があった。また、1952 年の吉野地震により金堂の薬師三尊像に大きな被害を生じ たほか、講堂の脇侍像が転倒しかかるという被害があった。そのため、講堂では支持金具を 脇侍像の胴部に取り付け、これを各二本の鉄棒で堂の後壁と繋いで転倒を防止する工事が 行われている。また、1995 年兵庫県南部地震において文化財にも大きな被害が生じたこと を踏まえて、両脇侍像に免震装置の設置が提案され、その後設置に至っている。図1.1 に免 震装置の設置状態を示す。1) 表1.1 安置仏像一覧 図1.1 仏像配置図 名称 総高(台座含む) [cm] 像高 [cm] 重量 [kgf] 重心位置 [cm] 造り 制作時期 薬師像 266.6 2651 96.7 日光像 342.3 297.3 985 133(足裏から) 月光像 345.5 298.4 1016 132(足裏から) 銅造 奈良時代 ~ 平安時代

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 1.3.2 東大寺法華堂仏像群 東大寺法華堂は、奈良県の北部、奈良市街の東に位置する華厳宗大本山東大寺にある建造 物の一つで、1951 年に国宝の指定を受けている建物である。正堂内陣には建築須弥壇上中 央に二重の八角須弥壇を置き、本尊である不空羂索観音を中心に十六躰の仏像が祀られて いる。法華堂に安置されている仏像の内、十二躰は国宝の指定を受けており、残る四躰も重 要文化財の指定を受けており、何れの仏像も歴史的、文化的価値は非常に高いといえる。表 1.2 に各像の像高、造り、制作時期等を示す。十六躰の仏像の内、比較的像高の高い九躰は 麻布を漆で貼り合せて制作した外殻を木造の骨格で支える乾漆像であり、五躰は塑像、二躰 は木彫の仏像である。制作時期は木彫の二躰が鎌倉時代に制作されたもので、他の十四躰は 天平時代に制作されたものであるとされている。当堂の尊像構成は他に類例をみないため、 何れの像が法華堂の当初像であるかについては諸説あるが、材質や像高の違いから、本尊を 含む乾漆像の仏像九躰が当堂本来の仏像であり、天平時代に制作された仏像の内、吉祥天、 弁才天像は他の堂からの客仏であることが定説となっている。塑像の日光、月光菩薩像と併 せて四躰が他の堂から移されたものとする説が有力である。これらの仏像の内、幾つかは修 復した形跡があり、その際に重量や底面部の図面等の資料が残っているものもあるが、諸元 が不明な像も幾つか存在する。19) 表1.2 安置仏像一覧 ※●:国宝、○:重要文化財 1.3.3 東大寺戒壇堂仏像群 東大寺戒壇堂は、奈良県の北部、奈良市街の東に位置する華厳宗大本山東大寺にある建造 物の一つで、755 年に創建され、1733 年に再建された建物である。堂内の中央に二重の壇 を設け、各面に昇階段がつくられている。壇上の中央に多宝塔が安置され、四隅を塑造の四 名称 像高 造り 制作時期 1 ● 不空羂索観音像 362.0cm 2 ● 梵天像 402.0cm 3 ● 帝釈天像 403.0cm 4 ● 金剛力士像(吽形) 306.0cm 5 ● 金剛力士像(阿形) 326.4cm 6 ● 持国天像(四天王) 309.0cm 7 ● 増長天像(四天王) 300.0cm 8 ● 広目天像(四天王) 304.0cm 9 ● 多聞天像(四天王) 310.0cm 10 ● 執金剛神像(秘仏) 170.4cm 11 ● 日光菩薩像 207.2cm 12 ● 月光菩薩像 204.8cm 13 ○ 吉祥天像 202.0cm 14 ○ 弁財天像 219.0cm 15 ○ 地蔵菩薩像 84.3cm 16 ○ 不動明王像 86.5cm 乾漆造 塑造 木造 天平時代 鎌倉 室町時代

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 天王像で固められている(図 1.2 参照)。天平時代に制作された四天王像が祀られていること で有名であり、国宝に指定されている。表1.3 に各像の像高・制作時期を示す。塑像は、心 木の周囲に、荒土・中土・仕上げ土の順に重ねて造形し、表面に彩色を施しているものであ る。創建当時の戒壇堂では銅造の四天王像が壇上を固めていたが、戦火で焼失したため、現 在の塑像は近世戒壇堂が再建された際、東大寺内の他の堂(中門堂)から移されたものである。 しかし、これらが当初東大寺のどの堂に安置されていたかは明らかではない。2)3) 表1.3 安置仏像一覧 図1.2 仏像配置図 1.4 既往の研究 研究を進める上で参考とした文献は、剛体の転倒問題および家具などを剛体とした研究 成果を基にしている。以下に参考とした既往の研究から抜粋し、概要を示す。また、共同研 究として東京文化財研究所の森井順之らが行なった法華堂安置仏像群の三次元計測と仏像 群の地震時転倒予測についてもその概要を示す。さらに、藤田らによって実施された模型を 用いた振動台実験についても概要を示す。 石山祐二は、物体を力学的に剛体であると仮定し、物体の運動形態を主に解析的に検証を 行っている。既往の研究のほとんどは、地震時に物体はロッキング振動を起こして転倒に至 ると仮定しているのに対し、物体の滑動や跳躍も加えた運動形態を 6 種に分類して解析で きるように式を導き、コンピュータプログラムを開発した。入力としては、正弦波と地震動 についてシミュレーションを行ない、転倒条件式を提案している。さらに、物体が転倒する には加速度のみならず速度もある値以上でなければならないことを振動数婦引実験および シミュレーションにより算出している。4)5)6)7)8) 像高(cm) 造り 制作時期 持国天像 160.5 増長天像 162.2 広目天像 169.9 多聞天像 164.5 名称 四天王像 塑造 天平時代

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 金子美香らは、地震時の家具の転倒可能性を簡易的に評価する手法を提案しており、地震 動の最大加速度及び最大速度、建物の固有周期と減衰定数及び1 次モード形状が分かれば、 設置された家具の転倒可能性を大まかに推定することができるとしている。また、剛体の転 倒及び滑り量には摩擦係数に依存し、最大移動量に関しては剛体の形状には依存しないこ とを示している。さらに、他の研究では転倒危険性が生ずる最小の入力レベルである転倒限 界に着目したものがほとんどであるが、金子らは地震時における剛体の転倒する確率を転 倒率として求め、家具等剛体の転倒率推定方法を提案している。9)10)11)12)13)14) 森井らは凸版印刷株式会社で開発中のステレオカメラを用いた小型装置による簡便な三 次元形状情報及び色情報を取得する手法を用い東大寺法華堂の仏像群の三次元計測を行っ ている(図 1.3 参照)。当堂の仏像群は大小十六躰の仏像が非常に密集した状態で安置されて おり、従来のレーザーレンジスキャナ等の大型の形状計測機では計測不可能であった。本手 法を用いることで仏像同士の干渉によるデータの欠落等の問題を解決し、須弥壇内にて安 全かつ簡便に計測することが可能になったとしている。また、計測した三次元形状情報を基 に、金子らが提案した家具等剛体の転倒率推定方法による仏像の地震時転倒予測を行って いる。仏像の底面幅をB(m)、高さを H(m)とすると、転倒する平均的な加速度 Aave(=λ)は、 (1)式となり、仏像の転倒率 R は(2)式となる。

𝐴

𝑎𝑣𝑒

=

𝐻𝐵

𝑔 (1 +

𝐻𝐵

)

(1)

R = α ∙ Φ (

𝐼𝑛𝐴𝑓−𝜆 𝜁

)

(2) ここで、g:重力加速度、α:仏像の滑りにくさを表現するパラメータ、Φ:平均値λ、標 準偏差ζの正規分布関数、Af:床応答加速度(cm/s2)である。これを仏像形状に適用する際、 仏像は密度一様の剛体をして転倒予測を行なうこととしている。また、高さH は像高では なく三次元計測より算出された推定重心高さを二倍したものを採用した。本来の重心高さ は推定より低くなることが想定されるが、これは本予測手法の安全率とし考慮することと している。その結果、例えば乾漆金剛力士阿形像の場合、神戸海洋気象台で得られた兵庫県 南部地震の地震波形(南北成分)については(Amax=818Gal の場合)、転倒率 R=0.123 と算出さ

れ 、 ま た 、 奈 良 盆 地 東 縁 断 層 で 最 も 大 き な 活 断 層 地 震 が 起 き た 場 合 の 模 擬 地 震 波 (Amax=626Gal の場合)では、R=0.006 と算出され、仏像が転倒する確率は低いとしている。 15)

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 図1.3 乾漆金剛力士阿形像の三次元計測による形状図 藤田らは、既往の研究における剛体角柱の転倒条件が仏像の様な複雑な形状の物体にも 適用することが可能であるか検討を行うために、仏像縮小模型を用いた振動台実験を実施 した。試験体には、金剛力士阿形像の縮尺1/10 と 3/16 の試験体を、エポキシ樹脂を用いて 制作した。本実験では、床面と仏像台座床面の摩擦を1 つのパラメータとして、入力波の最 大変位、速度、加速度を変化させた場合の挙動について調べている。入力地震動には、調和 正弦波、ランダム波、JMA-Kobe NS 波を用いた。結果として、仏像の地震時の挙動は、台 座床面と床面の摩擦係数に大きく左右されることが確認された。摩擦係数が大きくなると 転倒の可能性が高くなり、摩擦係数が小さくなるとスライドやロッキング振動を起こし、転 倒の可能性は低くなる。また、仏像の様な複雑な形状の物体であっても、B を底面の幅、H を全高ではなく重心高さの 2 倍として用いることで、転倒限界加速度を設定することが可 能であることが確認された。19) さらに、縮小模型実験により、ある程度の転倒予想が可能であることは示されたが、縮小 模型での結果は相似則の問題もあり、必ずしも実現象を表しているとは言えない。また、研 究対象とした仏像は脱活乾漆像であり、剛体と仮定するには剛性が低いと言えるため、実物 大模型を用いた振動台実験を実施した。試験体には、乾漆持国天立像を対象とし、総高 350.4cm、総重量 231.5kg、乾漆厚およそ 5.0~6.0mm と等価となるように製作した。入力 地震波には、STEP 波、調和正弦波、JMA-Kobe NS 波、K-NET 小千谷 EW 波、JR 鷹取 も用いた。結果として、乾漆持国天立像は重心高さが低く安定しているため、最大加速度 1000Gal、最大速度 100kine 程度の強地震動であっても転倒しないといえる。また、これに 類似するような仏像についても形状係数に大きな違いがなければ転倒する可能性は低いと 推測できる。しかし、仏像は剛体と仮定するには剛性が低く、振動時に弾性応答することか

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 1.5 地震被害 研究対象である東大寺法華堂・戒壇堂は過去に幾つかの強地震動を受けており、仏像群に は修理した形跡があるものの、書面等の記録はなく地震による被害が過去に存在していた かは定かではない。法華堂では、塑像である弁財天、吉祥天像は何らかの要因で転倒し、弁 財天像に関しては後世に手を復元している。転倒原因は不明ではあるが、須弥壇内をかく乱 する要因として、地震等の天災を想定してもよいだろう。また、薬師寺に関しても、過去に 幾つかの強地震動を受けており、過去に、回廊・金堂・東西両塔・中門・西院・八幡廊・八 幡宮楼門・東西門等が倒壊・損傷した記録があり、1819 年の地震の際に、講堂再建のため 仮屋に移座されていた脇侍像(日光)の頭部が、仮屋の倒壊により落下する被害があったほか、 1952 年の吉野地震により金堂の薬師三尊像に大きな被害を生じたほか、講堂の脇侍像が転 倒しかかるという被害があった。そのため、支持金具を脇侍像の胴部に取り付け、これを各 二本の鉄棒で堂の後壁と繋いで転倒を防止する工事が行われている。 仏像の転倒による被害例としては、1586 年の天正地震の際に、京都府の連華王院三十三 間堂で仏像600 躰が転倒するという記録がある。また、2011 年 3 月に発生した東北地方太 平洋沖地震でも多くの仏像が転倒又は移動により破損している。表1.4 に奈良地方が受けて きた過去の代表的な強地震動の一覧 16)、表1.5 に東北地方太平洋沖地震で破損した仏像の 被害報告一覧を示す。表1.5 の東北地方太平洋沖地震で破損した仏像は、木造または木芯乾 漆造であった。 表1.4 奈良地方が受けた強地震動一覧 発生年月日 地震名 地震規模 震度 684年11月29日 白鳳の南海東海地震 M8.25 855年7月1日 不明 887年8月2日 仁和の南海東南海地震 M8.0~8.5 1070年12月1日 M6.0~6.5 1096月12月17日 永長の東海地震 M8.0~8.5 1099年2月22日 康和の南海地震 M8.0~8.3 1185年8月13日 文治の京都地震 M7.4 1361年8月3日 正平の南海地震 M8.25~8.5 1449年5月13日 M5.75~6.5 1494年11月19日 M6.0~6.5 1498年9月20日 明応の東海地震 M8.2~8.4 1586年1月18日 天正の飛騨美濃近江地震 M7.8 震度5程度 1596年9月5日 慶長の京都地震 M7.5 震度5~6 1605年2月3日 慶長の東海南海地震 M7.9 1662年6月16日 寛文の琵琶湖西岸地震 M7.25~7.6 震度5程度 1707年10月28日 宝永地震 M8.6 震度6程度 1802年11月18日 M6.5~7.0 1819年8月2日 M7.25~7.5 震度5程度 1854年7月9日 伊賀上野地震 M7.5 震度5程度 1854年12月23日 安政の東海地震 M8.4 震度5程度 1854年12月24日 安政の南海地震 M8.4 震度5~6 1899年3月7日 紀和地震 M7.0 1936年2月21日 河内大和地震 M6.4 1944年12月7日 昭和の東南海地震 M7.9 震度5程度 1946年12月21日 昭和の南海地震 M8.0 震度5程度 1952年7月18日 吉野地震 M6.7 震度5程度 1995年1月17日 兵庫県南部地震 M7.3 震度4程度

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 表1.5 東北地方太平洋沖地震の仏像被害一覧 県名 市町村 種別 被害物件 被害状況 花巻市 有形文化財 毘沙門堂:伝阿弥陀如来立像 転倒による破損 花巻市 有形文化財 安浄寺:阿弥陀如来立像 転倒による破損 平泉市 有形文化財 白王院:観世音菩薩坐像 転倒、一部破損 平泉市 有形文化財 寿徳院:阿弥陀如来坐像 転倒、一部破損 住田町 有形文化財 光勝寺:阿弥陀如来坐像 一部破損 住田町 有形文化財 光勝寺:観音菩薩坐像 一部破損 住田町 有形文化財 光勝寺:勢至菩薩坐像 一部破損 紫波町 有形文化財 称名寺:阿弥陀如来立像 落下し破損 奥州市 有形文化財 木造神面 転倒による一部欠損 奥州市 重要文化財 黒石寺:四天王立像 一部破損 奥州市 重要文化財 黒石寺:僧形坐像 転倒による一部欠損 宮城県 栗原市 重要文化財 双林寺:二天王立像 転倒による一部欠損 いわき市 重要文化財 能満寺:木心乾漆虚空菩薩坐像 一部破損 いわき市 重要文化財 阿弥陀如来及び両脇侍像 一部破損 いわき市 重要文化財 願成寺:持國天及び多聞天立像 一部破損 常陸太田市 重要文化財 西光寺:薬師如来坐像 一部破損 城里町 重要文化財 薬師寺:薬師如来及び両脇侍像 一部破損 港区 重要文化財 瑞聖寺:須弥壇 転倒による一部欠損 台東区 重要文化財 不動明王立像 一部破損 岩手県 福島県 茨城県 東京都

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2 章

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 2.1 概要 現在、奈良県内で東大寺ミュージアム、興福寺、法隆寺、薬師寺の4 カ所で免震ゴムが設 置されている。本研究では、平成 15(2003)年の大講堂再建以降、須弥壇に設置された積層 ゴム免震台の上に安置されている薬師寺仏像について調査をする機会を得た。その理由と して、設置から約10 年経過し、両脇士像について、免震台と台座の隙間が前後不一致であ るという指摘を受けており、地震時に免震台が有効に機能するかが心配されているからで ある。図2.1 に免震装置の設置状態を示す。今回は、両脇士像のうち大妙相菩薩像(写真 2.1 参照)を対象に測定を行なった。薬師寺両脇士像の耐震性について調査する手法として常時 微動測定及び人力加振による自由振動実験を行ない、基本的な振動特性を得るとともに、免 震台の有効性を検証した。耐震性に関する基礎的な振動特性である固有周期や振動モード、 減衰定数を得る手法として、常時微動測定は簡便で有用な方法である。また、既往の研究と して、東大寺法華堂に安置されている仏像においても測定を実施している。計測は、奈良県 教育委員会及び東京文化財研究所の協力のもと実施した。 写真2.1 銅造弥勒如来および両脇士像

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 図2.1 免震装置 2.2 既往の研究 東大寺法華堂に安置されている乾漆持国天立像を対象に、基礎的な振動特性を得るため、 常時微動測定および自由振動実験を行なっている。19)常時微動測定は、仏像右肩と台座及び 床等に高感度速度計を設置し、仏像の前後方向と左右方向の測定を行ない、各方向の固有振 動数の算出を行なった。また、仏像台座に上下方向に二つの速度計が対称位置となるように 設置し、ロッキング振動を生じていないか検証を行なった。以下に測定項目、測定位置及び 測定成分(表 2.1,2.2、図 2.2,2.3 参照)を示す。 (1)Case1:前後方向の測定 表2.1 Case1 速度計一覧 チャンネル番号 設置位置 方向 チャンネル番号 設置位置 方向 Ch1 台 前後 Ch2 台座後 上下 Ch3 台座右 前後 Ch4 台座前 上下 Ch5 仏像右肩 前後 Ch6 床 前後 ※微動計は、前後方向は後が+、上下方向は下を+とする 図2.2 Case1 速度計配置図 Ch5 Ch3 Ch4 Ch1 Ch6 Ch4 Ch3 Ch2 Ch6 Ch1

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 (2)Case2:左右方向の測定 表2.2 Case2 速度計一覧 チャンネル番号 設置位置 方向 チャンネル番号 設置位置 方向 Ch1 台 前後 Ch2 台座右 上下 Ch3 台座前 前後 Ch4 台座左 上下 Ch5 仏像右肩 前後 Ch6 床 前後 ※微動計は、前後方向は後が+、上下方向は下を+とする 図2.3 Case2 速度計配置図 測定結果として、仏像前後方向及び左右方向における、床上(Ch6)、台上(Ch1)、台座上 (Ch3)それぞれに対する仏像右肩(Ch5)の伝達関数を図 2.4,2.5 に示す。表方向共におよそ 2.3Hz と 4.1Hz に顕著なピークがみられ、大小関係から前後方向の固有振動数は 2.3Hz、 左右方向の固有振動数は4.1Hz であると考えられる。 図2.4 前後方向の伝達関数 Ch5 Ch6 Ch1 Ch3 Ch2 Ch4 Ch2 Ch3 Ch4 Ch6 Ch1

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 図2.5 左右方向の伝達関数 また、自由振動実験によって、算出した減衰定数は、仏像の前後方向は0.45%、左右方向 は1.20%であった。さらに、図 2.6 に仏像台座上の上下方向の常時微動時刻歴波形を示す。 両方向共に位相が逆になっており、本躰と台座は一体となってロッキング振動を起こして いることが考えられる。 測定結果より、乾漆持国天立像の基礎的な振動特性結果を得ている。 図2.6 上下方向の常時微動時刻歴波形

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 2.3 測定内容 2.3.1 測定方法 常時微動測定は、株式会社東京測振の携帯用振動計SPC-51A(写真 2.2 参照)を用い、セン サーには高感度速度計VSE-15D(写真 2.3,図 2.7 参照)を使用した。感度特性曲線を図 2.8 に 示す。サンプリング間隔は100Hz、1 回あたりのサンプリング時間は 20 分とし、それぞれ の測定条件について、常時微動測定を1 回、人力加振による自由振動実験は 60 秒間の測定 を5 回実施した。 写真2.2 携帯用振動計 写真 2.3 高感度速度計 図2.7 外形寸法(単位:mm) 出典:株式会社東京測振 HP

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 図2.8 速度計の感度特性 2.3.2 測定項目 本測定では、薬師寺大講堂の両脇士像の大妙相菩薩、法苑林菩薩のうち、大妙相菩薩を対 象とし、常時微動測定及び人力加振による自由振動実験(写真 2.4 参照)を実施した。 大妙相菩薩像に速度計(6 個)を配置して、仏像前後方向及び左右方向の測定を行なった。 速度計は、両方向共に仏像右耳・台座・須弥壇上、床に設置した。その結果より、各方向の 固有振動数の算出を行なう。また、仏像台座に上下方向に二つの速度計が対称の位置になる ように設置することで仏像が地震時転倒に至る大きな要因の一つであるロッキング振動を 生じていないか検証を行なった。仏像右耳の速度計は、写真2.5 に示すプラスチック製のケ ースを右耳に固定し設置した。また、積層ゴム免震台の設置時の設計値は、1 次固有周期 T=1.6s、減衰定数 h=0.15 とされている。

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 写真2.4 自由振動試験 写真 2.5 仏像右耳設置状況 2.3.3 測定位置と測定成分 速度計は、測定ごとに指定の位置に設置し、各速度計とデータ収録装置(又は接続ボック ス)を専用ケーブルで接続する。速度計の設置位置及び各測定成分(表 2.3,2.4、図 2.9,2.10 参 照)を測定項目ごとに示す。 (1)Case1:前後方向の測定 表2.3 Case1 速度計一覧 チャンネル番号 設置位置 方向 チャンネル番号 設置位置 方向 CH1 須弥壇上 前後 CH2 台座後 上下 CH3 台座中央 前後 CH4 台座前 上下 CH5 仏像右耳 前後 CH6 床 前後 ※微動計は、前後方向は後が+、上下方向は下を+とする 図2.9 Case1 速度計配置図

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 写真2.6 Case1 設置状況 (2)Case2:左右方向の測定 表2.4 Case2 速度計一覧 チャンネル番号 設置位置 方向 チャンネル番号 設置位置 方向 CH1 須弥壇上 左右 CH2 台座左 上下 CH3 台座中央 左右 CH4 台座右 上下 CH5 仏像右耳 左右 CH6 床 前後 ※微動計は、前後方向は後が+、上下方向は下を+とする 図2.10 Case2 速度計配置図

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 写真2.7 Case2 設置状況

2.4 測定結果

各ケースにおける 20 分間の常時微動測定の結果から、60 秒間のデータを抜粋し分析を

行なった。より正確な結果を得るため、データの抜粋は5 回行ない平均を算出した。分析に

はPwave32 を使用し、Hanning Window を 5 回ずつかけ、全てのケースでフーリエスペ クトル及び伝達関数を求め、固有振動数を算出した。また、人力加振による自由振動実験よ り得られた波形から減衰定数を算出した。 2.4.1 固有振動数 フーリエスペクトルの結果を図2.11,2.13 に示す。また、床上(CH6)、台座上(CH3)、須弥 壇上(CH1)それぞれに対する仏像右耳(CH5)の伝達関数を図 2.12,2.14 に示す。 結果として、仏像前後方向の固有振動数は3.2Hz、左右方向の固有振動数は 3.3Hz であ った。また、伝達関数より、振動モードを算出し、その結果を図2.15 に示す。結果として、 前後方向は変形が大きく、左右方向の変形はわずかであることがわかった。

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科

図2.11 Case1(前後方向)のフーリエスペクトル

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科

図2.13 Case2(左右方向)のフーリエスペクトル

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 前後方向 左右方向 図2.15 振動モード 2.4.2 減衰定数 人力加振後の減衰自由振動測定の結果を用い、減衰定数を算出する。算出方法は振動波形 から減衰の効果が見受けられるピーク点X(n)と、その点から1 周期ごとにピークをとり、m 個目のピーク値X(n+m)を抽出し、(1)式より減衰定数 h の算出を行なった。

h =

𝑚1

×

2𝜋1

× 𝑙𝑜𝑔 (

𝑥𝑛 𝑥𝑛+𝑚

)

(1) 結果として、仏像前後方向の減衰定数は、台座で7.4%、右耳で 6.6%であり、左右方向は 台座で7.9%、右耳で 6.9%であった。結果を表 2.5,2.6 に示す。 表2.5 前後方向の減衰定数 CH3(台座) CH5(右耳) h 1 回目 0.0769 0.0684 2 回目 0.0712 0.0659 3 回目 0.0733 0.0682 4 回目 0.0793 0.0652 5 回目 0.0701 0.0642 平均 0.0741 0.0664 平均(%) 7.41 6.64

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 表2.6 左右方向の減衰定数 CH3(台座) CH5(右耳) h 1 回目 0.0877 0.0637 2 回目 0.0761 0.0648 3 回目 0.0785 0.0748 4 回目 0.0719 0.0697 5 回目 0.0811 0.0711 平均 0.0790 0.0688 平均(%) 7.90 6.88 2.4.3 変形比 図2.15,2.16 に Case1 での仏像台座上測定点 2 点(CH2、CH4)、図 2.17,2.18 に Case2 で の仏像台座上測定点2 点(CH2、CH4)の時刻歴波形を示す。図 2.15,2.17 は常時微動測定時 の結果であり、図2.16,2.18 は自由振動実験時の結果である。 両ケース共に常時微動測定における 2 つの測定点の振幅は同位相であり、上下応答に伴 うものであることを示している。逆に自由振動実験においては、逆位相であるため、ロッキ ング振動を起こしていることが確認できる。 また、図2.16、2.18 の結果を用いて、仏像の応答変位として、ロッキング、スウェイ及 び仏像の弾性変形の割合を検討した。その結果、仏像前後方向では、仏像の弾性変形約13%、 ロッキング動による変位約16%、スウェイ動による変位約 71%であることがわかった。ま た、仏像左右方向では、仏像の弾性変形約16%、ロッキング動による変位約 19%、スウェ イ動による変位約 65%であることがわかった。頭部の水平応答を占める割合は、スウェイ 動による変位がほとんどの割合を占めていることがわかった。この要因は、免振装置が設置 されているからであると考える。 図2.15 時刻歴波形 Case1(常時微動測定)

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 図2.16 時刻歴波形 Case1(自由振動実験)

図2.17 時刻歴波形 Case2(常時微動測定)

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 2.5 まとめ 各測定項目の固有振動数、固有周期及び減衰定数を表2.7 に示す。大妙相菩薩における一 次固有周期は仏像前後方向が0.31 秒、左右方向が 0.30 秒であった。両ケースともに須弥壇 上、床で 0.3Hz のところでピークがあるが、これは奈良盆地における長周期波形による影 響だと考えられる。振動モードから前後方向の変形は大きく、左右方向はわずかであること がわかった。また、一次固有振動の減衰定数は、前後方向で6.6%、左右方向で 6.9%である ことが明らかとなった。さらに、変形比を考えると、頭部の水平応答を占める割合は、約70% がスウェイ動による変位であることがわかった。 設置されている積層ゴム免震台の設計値 1)としては、1 次固有周期 T=1.6s、減衰定数 h=0.15 とされている。今回の結果と比較すると、設計値と違った結果となっており、免震 装置は有効に機能してないことが考えられる。また、免震台設置当時の固有周期、減衰定数 と本調査で得られた結果の比較を付録に示す。 本調査で得られた基本的な振動特性は、基礎資料としての役割として十分であり、また免 震装置の機能を確認する上で有用な知見となる。 表2.7 大妙相菩薩の基礎振動特性 固有振動数(Hz) 固有周期(sec) 減衰定数h 前後方向 3.2 0.313 0.066 6.6% 左右方向 3.3 0.303 0.069 6.9%

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3 章

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 3.1 概要 仏像における耐震性及び転倒による危険性の科学的検討は、その歴史的、文化的な価値及 び、仏像における現在に至るまでの地震被害 16)からも早急な課題であるといえる。これま で、既往の研究 19)として、脱活乾漆造の仏像をモデルとした実物大模型実験、縮小模型実 験が行われ、地震時の挙動、転倒特性の把握が行われた。本研究では、塑造の仏像をモデル とした試験体を用いて、振動台実験を行い、塑像の場合での地震時の挙動及び転倒特性の把 握を行う。また、既往の研究4)~14)における成果(剛体角柱の転倒条件)が適応可能であるかの 検討を行なう。本実験の成果は、縮小模型の使用及び模型の形状等の条件から、必ずしも実 現象を表しているものではないが、基礎的資料としては重要といえる。 3.2 既往の研究 東大寺法華堂に安置されている乾漆持国天立像を対象モデルとし、実物大模型による振 動台実験を実施している。19)試験体は、総高 350.4cm、総重量 231.5kg、乾漆厚およそ 5.0~6.0mm を対象とした条件を等価として製作した(図 3.1 参照)。持国天立像は乾漆造り であるが、コスト面と施工性の問題から比較的加工が容易な紙粘土を代用品として用い、強 度不足を補うため、下地材として亀甲金網、針金を用い、表面の剥離やひび割れを抑制する ため、ニス塗仕上げとした。さらに、接合部は本来、鋳鉄製の釘などを用いているが、施工 性を上げるため取り付け金具を用いた。 加振には、茨城県つくば市にある防災科学技術研究所大型耐震実験施設の水平一方向加 振振動台を用いた(写真 3.1 参照)。また、転倒条件の一つに試験体と設置面との摩擦が大き く関わることが確かめられているため、振動台上に合板を用いて簡易な床を製作し、その上 で加振実験を行なった。測定は、加速度計による加速度の計測、最終的な移動量の実測、三 次元画像計測による変位量の計測、ビデオカメラ 6 台による録画を行なった。入力地震動

には、調和正弦波、JMA-Kobe NS 波(1029gal)、K-Net 小千谷 EW 波(1357gal)、JR 鷹取 (1134gal)を使用し、また試験体の振動特性を計測するため、STEP 波を用いた。

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 試験体の振動特性の結果として、試験体の固有振動数は2.8Hz であった。調和正弦波に よる実験結果を図3.2 及び表 3.1 に示す。図 3.2 に示すように転倒することはなく 1.0~5.0Hz においてもロッキング振動を生じているものの、回転角からわかるように転倒の危険はな いといえる。表3.1 に示す転倒限界回転角は、試験体前後方向(Bx/H=0.739)の静的な転倒限 界時の回転角である。実験結果として、三波共にロッキング振動を生じたが、転倒までには 至らなかった。結果を表3.2 に示す。静的な転倒限界回転角は 36.46°であり、三波のうち 回転角が最大のJR 鷹取であっても最大回転角は 15.48°に留まっており、転倒の危険はな いと言える。本試験体は、剛体と仮定するには剛性が不足しているため、実験結果として試 験体が振動時に変形していることが挙げられる。そこで、本躰の回転角を R1、底面の回転 角をR2 とし、その差分を変形角 D とした(図 3.3 参照)。また、変形角 D に試験体の総高を 乗じて頭部の変形量を算出した。これより、物体を剛体と仮定した場合より、剛性が低い試 験体は回転角が大きくなる。回転角の増加が直接転倒と相関があることを裏付けるものは ないが、転倒の可能性が大きくなることは予測出来る。 図3.2 調和正弦波加振における最大加速度と転倒限界 表3.1 調和正弦波加振における最大回転角 0 10 20 30 40 50 60 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Ma xi mum acce ler at ion(m /s 2) Frequency(Hz) Criteria of acceleration B/H=0.739 Rocking Stillness 振動数 Hz rad ° 1.0 0.0143 0.819 2.0 0.0491 2.815 3.0 0.0305 1.749 4.0 0.0086 0.495 5.0 0.0048 0.277 6.0 0.0032 0.184 7.0 0.0024 0.137 8.0 0.0024 0.137 9.0 0.0017 0.096 10.0 0.0013 0.075 転倒限界 回転角 0.6364 36.46 -静止 ロッキング 最大回転角 調和正弦波 運動形態

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 表3.2 最大回転角一覧 図3.3 回転角 既往の転倒限界加速度とJMA 神戸 NS 波、K-NET 小千谷 EW 波、JR 鷹取の三波の 比較を行うため、卓越振動数の設定を行う。波の卓越振動数を表す一つの指標である、最大 加速度値Amaxと最大速度値Vmaxから(1)式により算出される等価振動数 Feを用いることと する。 𝐹𝑒=2𝜋∙𝑉𝐴𝑚𝑎𝑥 𝑚𝑎𝑥 (1) 表3.3 に等価振動数及び最大加速度を示す。この等価振動数を用いて転倒限界加速度との 比較を行った結果が図3.4 である。三波共に転倒限界加速度を超えており、既往の研究2)~ 7)では転倒の可能性はあるとされているが、回転角の余裕度から、本実験のように転倒確率 を著しく上げるような要因(転落、衝突等)がない場合、転倒はしないといえる。 表3.3 等価振動数及び最大加速度 最大回転角R1 rad 0.0529 (3.03°) 0.1686 (9.66°) 0.2702 (15.48°) 最大回転角R2 rad 0.0417 (2.39°) 0.1411 (8.09°) 0.2607 (14.94°) 最大変形角D rad 0.0191 (1.09°) 0.0471 (2.70°) 0.0553 (3.17°) 最大変位δ max mm 66.9 165.1 193.9

JMA Kobe NS K-NET Ojiya EW JR Takatori

最大速度Vmax 最大振幅Dmax 等価振動数Fe 等価周期Te

Gal m/s2 kine mm Hz sec

JMA Kobe NS波 1029 10.29 105.03 200.0 1.55 0.65

K-NET 小千谷 EW波 1357 13.57 107.92 187.4 1.97 0.51

JR 鷹取 1134 11.34 106.68 218.7 1.69 0.59

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 図3.4 入力地震動における転倒限界加速度と運動形態 3.3 実験計画 3.3.1 試験体概要 本実験では、東大寺戒壇堂に安置されている塑像を対象とする。しかし、実験の実施とと もに、同一試験体を対象として解析を行なう予定であるため、実験結果と解析結果の比較が 容易に行なえるよう、試験体形状は、球・円錐柱・円柱からなる比較的単純なものとした。 試験体形状は、実際の試験体との再現性を取っていないが、高さに関しては、東大寺戒壇堂 に安置されている仏像の像高を60%縮小した試験体としている。試験体高さ 103.2cm、総 重量 62.7kg の試験体となっている。また、実物の塑像は台座まで粘土で覆われているが、 今回の試験体の台座は板材のみとなっている。図3.5 に試験体の概要を示す。19mm×19mm ×773mm の角柱と 300mm×500mm×9mm の板材を用いて軸組みを製作し、軸組みに麻 紐を巻いたのち、粘土を塗り重ねて製作を行なっている。また、土台は八角形である。 実験に用いた仏像底面と床面の材料および摩擦係数を表3.4 に示す。表 3.4 に示す摩擦係 数は、写真3.2 に示すデジタルフォースゲージ(AD-4932-50N)のピーク値を測定する機能を 用いて5~7 回計測した荷重の平均値を試験片の質量で除した値を採用している。表 3.5 に デジタルフォースゲージの仕様を示す。静止摩擦係数を計測する場合、最大摩擦力の計測で きるタイミングは極めて短い時間である。しかし、デジタルフォースゲージの測定周期が約 0.8 秒と長いため、最大値を正確に計測することは困難である。よって、摩擦係数は、静止 摩擦係数と動摩擦係数の間の値となっている。

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 図3.5 試験体概要 表3.4 使用材料及び摩擦係数 表3.5 デジタルフォースゲージ性能表 写真3.2 デジタルフォースゲージ また、重心高さの算定を行う。表3.6、3.7 に試験体の重心高さ及び算出結果を示す。図 3.6、3.7 に示すように試験体を高さ方向に 11 分割し、各断面積に相当する質量を概算し、 次式により重心高さを算出した。 ∑ 𝑚𝑖 𝑖= 𝑀 , ℎ𝑔=∑ 𝑚𝑖 𝑀𝑖×ℎ𝑖 mi:i 断面における質量、M:全体質量、hi:i 断面の高さ、hg:重心高さ 床面 底面 摩擦係数μ 合板 合板 0.307 名称 AD-4932-50N 測定精度 ±(0.2%+1digit)23±5℃ 測定範囲 5000g 表示分解能 1g 許容最大荷重 10kgf 最大変位量 約0.2mm 測定周期 約0.8秒 動作温湿度範囲 0℃~50℃,80%RH以下

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 図3.6 分割位置図 図3.7 分割断面図 表3.6 試験体の重心高さ 床面積(㎡) 0.30 全体重量(kg) 62.7 重心高さ(cm) 49.39

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 表3.7 試験体の重心高さの算出 3.3.2 加振計画 本実験の加振には、三重大学構造実験室にある米国 MTS 社製水平一軸振動台(写真 3.3) を用いることとする。表3.8 に振動台の仕様を示す。また、振動台には床材として、合板を 設置した状態で加振を行なっている(図 3.8 参照)。激しく転倒した場合や振動台から落下し た場合に破損するおそれがあるため、写真3.3 のように振動台上部から振動時の挙動に影響 が表れない程度に余裕を持たせて、紐を用いて繋いだ。振動台には写真3.3 に示すように転 倒防止の枠(内法約 1000mm×1000mm)を取り付けている。 図3.8 振動台及び床材図面 断面1 97.20 5.76 560 断面2 87.20 5.48 276 断面3 77.20 7.02 434 断面4 67.20 7.78 523 断面5 57.20 7.78 445 断面6 47.20 7.78 367 断面7 37.20 7.78 289 断面8 27.20 4.82 131 断面9 17.20 2.91 50 断面10 7.20 2.31 17 断面11 1.35 3.29 4 合計 - 62.7 3096 モーメント mihi 高さhi (cm) 重量 (kg)

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 写真3.3 水平一軸振動台及び試験体設置状況 表3.8 振動台の仕様 入力波には、調和正弦波、JMA-Kobe NS 波を用いている。入力波一覧を表 3.9 に、入力 波形を図3.9 に示す。調和正弦波については、変位一定とした場合、速度一定とした場合の 二通りについて振動数を0.2~2Hz まで変化させ加振を行なった。また、波の立ち上がり部 分の過渡応答の影響を小さくするため、図3.9 に示すように徐々に振幅を大きくし、定常状 態で20 秒間加振を行っている。JMA-Kobe NS 波については、縮小模型実験であること、 振動台の性能限界から、振幅20%、時間軸 50%に縮小している。図 3.9 の JMA-Kobe NS 波については、縮小していない波形を示している。 表3.9 入力波一覧 名称 米国MTS社製水平一軸振動台 油圧加振器 244.21型 油圧源 505.30型 最大起振力 50kN 最大ストローク ±125mm テーブルサイズ 1000×1000mm 制御方法 変位制御

制御ソフト Multi Purpose Test Ware

入力波 変位一定 5mm 0.2~1.0Hz 変位一定 2mm 0.8~2.0Hz 速度一定 22.5mm/s 0.5~1.0Hz 振幅20%×5%,時間50% 振幅20%×10%,時間50% 振幅20%×15%,時間50% JMA-Kobe NS波 備考 調和正弦波

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 図3.9 入力波形 3.3.3 測定計画 (1)加速度計による計測 本実験では、株式会社東京測器研究所の小型低容量加速度計ARF-50A を使用し、加速度 の計測を行なった。図3.10 に加速度計の取り付け位置、図 3.11 に出力感度特性、表 3.10 に加速度計の性能表を示す。写真3.4 に示すように、加速度計は両面テープで試験体に設置 したのち、養生テープで試験体に固定した。CH1~3 は前後方向(前方を正)の計測を行い、 CH4 は振動台に設置している。サンプリング周波数を 100Hz に設定し計測を行った。 図3.10 加速度計取り付け位置

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 写真3.4 加速度計 表3.10 加速度計性能表 図3.11 加速度計の出力感度特性 (2)運動形態の記録 本実験では、転倒の有無、ひび割れの確認及び運動形態について記録を行なっている。さ らに、全加振ケースについてビデオカメラによる撮影を実施いている。 (3)三次元画像計測 本実験の一部の加振ケースにおいて、三次元画像計測による変位測定を実施している。三 次元画像計測は、試験体及び振動台に発光マーカー(LED)を設置し、加振時の発光マーカー の挙動を高感度カメラで多方向から撮影、記録を行ない、記録データの解析により各マーカ ーの初期座標値からの差を変位として算出し、試験体の動的挙動を正確に把握する計測手 法である。表3.11 に三次元画像計測を行った加振ケース一覧を示す。計測点は、図 3.12 に 示し、試験体に14 箇所、振動台に 2 箇所の合計 16 箇所に設置した。写真 3.5、3.6 にマー カーの設置状況及び高感度カメラを示す。 名称 小型低容量加速度計 型名 ARF-50A 容量 50m/s2 定格出力 約0.5mV/V(1000×10-6ひずみ) 許容温度範囲 -10~+50℃ 許容過負荷 300% 質量 13g

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 表3.11 三次元画像計測実施加振ケース 図3.12 計測マーカー取り付け位置 写真3.5 計測マーカー設置状況 写真 3.6 高感度カメラ 振動数 振幅 Hz mm 1 1.0 5 3 0.4 5 5 0.8 5 6 0.8 2 7 1.0 2 8 1.2 2 9 1.4 2 12 2.0 2 13 0.5 45 14 1.0 22.5 15 16 17 Case No. 振幅20%×5%,時間50% 入力波 振幅20%×10%,時間50% 振幅20%×20%,時間50% JMA-Kobe NS波 調和正弦波 変位一定 5mm 変位一定 2mm 速度一定 22.5mm/s

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 3.4 実験結果 本実験では、試験体足元に破損が見られたら、実験を終了するとし、実験を行なった。そ の結果、速度一定22.5mm/s-1.0Hz 入力時に足の付け根に破損が生じたため、実験を終了と した。その後、固有振動数の算出及びデモンストレーションとして、JMA-Kobe NS 波を入 力した後、実験を終了した。以下の結果には、調和正弦波の結果を示す。 本実験で、加速度計及び三次元画像計測において得られた最大加速度・最大速度・最大変 位の値から、頭部と土台の応答倍率を算出し、図3.13、3.14 に示す。今回入力している加 振波は調和正弦波であるため、振動数が大きくなると応答倍率も大きくなると考えられる が、変位一定2mm-1.4Hz の加振後より応答倍率が小さくなっている。この要因として考え られるのは、1.4Hz が共振振動数であるからではないかと考える。そのため、その後の振動 数では応答が小さくなっていると考える。

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 図3.13 加速度計における応答倍率

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 図3.14 三次元画像計測における加速度応答倍率 図3.15 に JMA-Kobe NS 波における振動台加振方向に対する頭部の前後方向の伝達関数 を示す。固有振動数は調和正弦波の場合、入力波の振動数に大きく影響され、検出すること が困難であるため、JMA-Kobe NS 波を用いる。参考までに図 3.16 に JMA-Kobe NS 波の 加速度応答スペクトル(h=0.05)を示す。図 3.15 をみると 2.6~7.0Hz にピークがいくつかみ られ、この内の何れかが固有振動数であると推測される。しかしながら、JMA-Kobe NS 波 入力時は、試験体が破損した後であるため、正確な値であると判断するのは難しいと考えら れる。また、共振振動数と考えられる 1.4Hz のところにピークが見られないことから、固 有振動数を判断する上で、信頼性は低いと考える。

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 図3.15 固有振動数

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科

三次元画像計測から得られた結果を用いて、それぞれの加振での変形モードを図3.17 に

示す。変位2mm-0.8Hz の調和正弦波入力時において、足元と胴下で変形量が大きくなって

いる。加振終了時にひび割れは確認されていないが、試験体内部でひび割れなどが起きたこ とで、結果に影響が出たのではないかと考える。

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 図3.17 変形モード 既往の研究 13)により、剛体角柱における転倒可能性のある加速度領域は、剛体角柱の形 状(高さ H と幅 B の比)により求められている。振動数の低い領域において静的な転倒限界 である加速度一定の(1)式、振動数の高い領域においてはエネルギー一定則より算出される 速度一定式に(2πf)を乗じて加速度とした(2)式、以上であるとされている。図 3.18 に示す (1)式と(2)式との交点を境界振動数 f0とし、(3)式に示す。振動時の運動形態は、静止、滑動 (スライド)、ロッキング振動、転倒の組み合わせで表すことが出来る。また、ロッキング振 動の種類には、図3.19 に示すような、1 次の固有振動である同位相ロッキング、2 次の固有 振動である逆位相ロッキング、比較的安定しているサブハーモニック・ロッキングがある。 4)~8)3.18 において、低い振動数領域である領域Ⅰでは同位相ロッキングからの転倒、高い 振動数領域である領域Ⅱでは逆位相ロッキングからの転倒が起こるとされている。 𝐴𝑐𝑟1=𝐻𝐵𝑔 (1) 𝐴𝑐𝑟2= 𝑉𝑐𝑟∙ (2𝜋𝑓) = 10𝐵√𝐻𝐻 (2𝜋𝑓) (2) 𝑓0=20𝜋√𝐻𝑔 ≈15.6√𝐻 (3) ここで、Acr1、Acr2、Vcrは転倒限界加速度及び速度、f は振動数、g は重力加速度である。 図3.18 転倒限界加速度 Ma xi m u m ac cele ra tion( Gal) Frequency (Hz) Ⅰ Ⅱ

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 図3.19 ロッキング振動の種類 (同位相ロッキング、サブハーモニック・ロッキング、逆位相ロッキング) 調和正弦波による実験結果を図3.20 および表 3.12 に示す。図 3.20 は横軸に入力波(調和 正弦波)の振動数、縦軸に入力波加振時の最大加速度を取り、プロットしたものである。ま た、図中の2 本の直線は(1)、(2)式に示した転倒限界加速度を示したものである。本実験に おいて、調和正弦波入力時において、速度一定22.5mm/s-1.0Hz 時を除き、転倒限界加速度 以下に結果が収まっており、転倒の危険はないことが確認された。速度一定 22.5mm/s-1.0Hz 時は転倒限界加速度の値を越えているが、表 3.12 に示すように回転角から考えると、 静的限界回転角以内に収まっているため、転倒の危険はないことが言える。表3.12 の転倒 限界回転角は、試験体前後方向(Bx/H=0.607)の静的な転倒限界時の回転角である。 図3.20 加振における最大加速度と転倒限界加速度

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科

表3.12 頭部および足元の最大回転角

また、調和正弦波における実験結果を図3.21、3.22 および表 3.13 に示す。図 3.21 は時 刻歴波形であり、試験体の回転角を頭部(No.6 or No.7)と足元(No.15 or No.16)の変位量か

ら算出した結果である。図3.22 は、頭部の変形量の時刻歴波形である。全ての加振におい て、ロッキング振動は生じることはなく、転倒までに至らなかった。静的な転倒限界回転角 は31.27°であり、最大の回転角であっても 3.37°に留まっているため、転倒の危険はない ことがいえる。 本試験体の底面は剛体であると仮定をした上で、本躰の回転角をR1、底面の回転角をR2 とし、その差分を変形角D とする(図 3.23 参照)。また、変形角 D に試験体の総高を乗じて 頭部の変形量を算出した。図3.22 を見ると、今回の加振において、残留変形は生じていな いことがわかる。調和正弦波 速度一定 22.5mm/s-1.0Hz の加振で、変形量は最大で 59.75mm、変形角ではおよそ 1/17rad であり、木造の安全限界変形角 1/30rad は越えてい ることがわかる。図3.21、3.22 を見ると微小な振動が見受けられる。これは、部材の変形 によるものだと推測され、試験体が振動時に変形していることに相違なく、R1は部材の変 形角D による回転角を含んでいる可能性が考えられる。 振動数 Hz rad ° rad ° 0.2 - - - -0.4 0.0009 0.05 0.0033 0.19 0.6 - - - -0.8 0.0049 0.28 0.0051 0.29 1 0.0073 0.42 0.0073 0.42 0.8 0.0016 0.09 0.0019 0.11 1.0 0.0056 0.32 0.0041 0.23 1.2 0.0091 0.52 0.0072 0.41 1.4 0.0167 0.96 0.0116 0.66 1.6 - - - -1.8 - - - -2.0 0.0055 0.32 0.0048 0.28 0.5 0.0193 1.11 0.0126 0.72 1.0 0.0588 3.37 0.0391 2.24 転倒限界 回転角 0.5459 31.27 0.5459 31.27 最大回転角 変位5㎜ 頭部 足元 変位2㎜ 速度22.5mm/s 最大回転角 調和正弦波

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 図3.21 回転角時刻歴波形

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 図3.22 頭部変形量の時刻歴波形

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 表3.13 最大回転角一覧 図3.23 回転角 既往の転倒限界加速度と調和正弦波の比較を行うため、卓越振動数の設定を行う。波の卓 越振動数を表す一つの指標である最大加速度値Amaxと最大速度値Vmaxから(1)式により算 出される等価振動数Feを用いることとする。 𝐹𝑒=2𝜋∙𝑉𝐴𝑚𝑎𝑥 𝑚𝑎𝑥 (1) 表3.14 に等価振動数と最大加速度を示す。この等価振動数を用いて転倒限界加速度との 比較を行った結果を図3.24 に示す。全てが転倒限界加速度を超えない結果となっており、 転倒の可能性はないことがわかる。 振動数 [Hz] 最大回転角 R1[°] 最大回転角 R2[°] 最大変形角 D[°] 最大変位 δ max[mm] 0.4 0.05 0.02 0.06 1.10 0.8 0.28 0.02 0.28 4.99 1.0 0.42 0.01 0.42 7.64 0.8 0.09 0.03 0.09 1.66 1.0 0.32 0.03 0.30 5.44 1.2 0.52 0.04 0.48 8.73 1.4 0.96 0.06 0.92 16.57 2.0 0.32 0.02 0.35 6.21 0.5 1.11 0.07 1.05 18.96 1.0 3.37 0.11 3.32 59.75 変位一定5mm 変位一定2mm 速度一定22.5mm/s

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 図3.24 転倒限界加速度と等価振動数における最大加速度 表3.14 等価振動数及び最大加速度 3.5 まとめ 本実験により、転倒限界加速度以上の実験結果は確認されなかったため、転落・衝突など のような転倒確率を著しく上げる要因がない限り、今回の入力波において、転倒の危険はな いことが確認された。この結果より、既往の転倒限界は安全側に設定されており、適応可能 であることが言える。また試験体のB/H より、静的限界回転角の算出を行い、今回の実験 結果から得られた最大回転角との比較を行ったが、全ての結果が静的限界回転角の範囲内 に収まる結果となった。これらの結果より、形状係数に大きな違いがなければ、転倒する可 能は低いと推測できる。しかし危惧しなければならない要因としては、加振によって足元に 負荷がかかり、足元から破損することが推測される。

最大速度Vmax 等価振動数Fe 等価周期Te

Gal m/s2 kine Hz sec

0.2Hz 68 0.678 6.1 1.76 0.57 0.4Hz 77 0.774 6.0 2.06 0.49 0.6Hz 68 0.678 6.5 1.66 0.6 0.8Hz 107 1.065 6.8 2.48 0.4 1.0Hz 165 1.646 10.9 2.41 0.41 0.8Hz 48 0.484 6.2 1.24 0.81 1.0Hz 87 0.871 7.5 1.85 0.54 1.2Hz 174 1.742 11.6 2.39 0.42 1.4Hz 280 2.807 16.0 2.79 0.36 1.6Hz 107 1.065 8.0 2.13 0.47 1.8Hz 107 1.065 6.3 2.70 0.37 2.0Hz 116 1.162 6.0 3.10 0.32 0.5Hz 436 4.356 30.5 2.27 0.44 1.0Hz 610 6.098 46.6 2.08 0.48 変位一定 5mm 変位一定 2mm 速度一定 22.5mm/s 最大加速度Amax 調和正弦波

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4 章

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 4.1 概要 建築研究所開発の数値解析ソフトウェアであるwallstat ver3.0.017)18)を用いて、拡張個別 要素法(EDEM)に基づいたシミュレーションを行う。解析対象としては、脱活乾漆造の仏像 と塑造の仏像とし、それぞれ仏像の骨組みを参考として、解析モデルを作成する。振動台実 験結果とシミュレーション結果の比較を行い、拡張個別要素法(EDEM)に基づいた解析手法 が仏像の解析を行うのに有効な手法であるかの検討を行う。 4.2 解析対象および方法 4.2.1 解析対象モデル (1)脱活乾漆像 振動台実験が行われた実物大模型と同様の仏像(持国天立像)の骨組みをモデルとして 用いる。総高350.4cm、床面の形状についての条件は、実物の仏像と等価となるようにモ デルを作成する。モデル各節点の重量に関しても、仏像の総重量231.5kg となるように、 節点重量を計算し、重量分配を行なっている。また、モデルの各節点間は軸組バネで繋い でおり、最大曲げモーメント達しない限りは、接合部は固定されている。バネのパラメー タとしては、仏像の骨組みに用いられている木材(ベイマツ)のヤング係数 11.8kN/mm2 用いている。図4.1 に仏像の骨組み及び解析モデルを示す。さらに、試験体の重心位置と 解析モデルの重心位置を表4.1 に示す。なお、平面の重心位置も合わせるため、解析モデ ルの修正を行なったため、修正前後の重心を表4.1 に示す。重心位置の算定については付 録に示す。 図4.1 仏像骨組み及び解析モデル X Y Z

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 表4.1 重心位置(左:修正前、右:修正後) (2)塑像 振動台実験が行われた縮小模型の骨組みをモデルとして用い、総高 103.2cm、床面の 形状についての条件は、試験体と等価となるようにモデルを作成する。モデル各節点の重 量に関しても、試験体の総重量62.7kg となるように、節点重量を計算し、重量分配を行 なっている。また、モデルの各節点間は軸組バネで繋いでおり、最大曲げモーメント達し ない限りは、接合部は固定されている。バネのパラメータとしては、仏像の試験体に用い られている粘土のヤング係数 0.61kN/mm2を用いている。図4.2 に試験体の骨組み及び 解析モデルを示す。さらに、試験体の重心位置と解析モデルの重心位置を表4.2 に示す。 重心位置の算定については付録に示す。 図4.2 試験体骨組み及び解析モデル 表4.2 重心位置 [cm] X Y Z 実物 61.56 74.99 81.92 実物大模型 55.95 78.01 81.85 解析モデル 61.45 78.59 80.44 [cm] X Y Z 実物 61.56 74.99 81.92 実物大模型 55.95 78.01 81.85 解析モデル 56.40 77.28 82.05 [cm] X Y Z 試験体 30.0 30.0 49.4 解析モデル 30.0 30.0 48.8 X Y Z

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 4.2.2 解析方法 解析条件として、振動台と台座の間の固有振動数、静止摩擦係数、動摩擦係数、弾性剛性、 減衰定数を設定し、地震動を入力する。固有振動数は、振動台実験から算出したものを用い、 静止摩擦係数、動摩擦係数については、振動台実験を実施した際に実験を実施し、算定され た値をそれぞれ用いる。弾性剛性、粘性減衰については、振動台実験の際は固い床である振 動台の上に、合板による簡易的な床を作成し、その上に試験体を載せて実験を行なった。そ のため、今回は地盤とモデル床面の跳ね返りがあるということを仮定し、設定を行なった。 入力地震動には、脱活乾漆像の場合は、JMA-Kobe NS 波(1029gal)、K-NET 小千谷 EW 波 (1357gal)、JR 鷹取(1134gal)を使用し、塑像の場合は調和正弦波 速度一定 22.5mm/s-1.0Hz を使用した。表4.3 に脱活乾漆像、塑像それぞれの解析条件を示す。 表4.3 解析条件(振動台と台座の間) 脱活乾漆像 塑像 固有振動数[Hz] 2.8 1.4 静止摩擦係数 0.8 0.36 動摩擦係数 0.73 0.31 弾性剛性[kN/m] 100000 100000 粘性減衰 0.005 0.01 4.3 解析結果 解析結果より、振動台実験同様に、解析モデルの底面が剛体であると仮定をした上で、図 4.3 に示すように、仏像が回転したときの本躰の回転角を R1、底面の回転角をR2とし、そ の差分を変形角D とした仏像の回転角について比較、変形角 D に試験体の総高を乗じて算 出した頭部の変形量について、比較を行なう。さらに、仏像足元の残留変形、弾性応答、脱 活乾漆像に関しては、加振前後の移動量(図 4.4 参照)についても比較を行なう。 図4.3 回転角 R1 R2

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 図4.4 加振前後の移動量 4.3.1 脱活乾漆像 振動台実験結果と解析結果の回転角の比較を解析モデルの修正前後をそれぞれ、表 4.4、 4.5 及び図 4.5~4.7 に示す。回転角については、それぞれ時刻歴での最大値となっており、 最大変位は最大変形角時のときの変形量である。また加振前後の移動量について、表 4.6、 4.7 及び図 4.8~4.10 に示す。 モデル修正前の解析結果として、本躰の回転角 R1は1%または 4%程度、底面の回転角 R2は20%または 40%程度、変形角 D は 10%または 40%程度の違いが出る結果となった が、概ね再現性は図れていることが確認された。また、頭部の変形量について比較しても大 体整合している。また、加振前後の移動量について比較を行なった結果、実験結果に対して、 解析結果の方が移動しており、相違が出る結果となったが、移動方向は同じ結果となった。 次に、弾性応答および残留変形について考えると、実験結果・解析結果ともに弾性応答は 起こっており、また実験結果・解析結果ともに残留変形はないということが確認されたため、 再現性が図れている。 モデル修正後の解析結果としては、回転角は実験結果の半分以下の結果となっており、相 違が出ていることが分かるため、さらなる修正が必要であることが考えられる。加振前後の 移動量について比較を行なった結果、実験結果に対して、解析結果の方が移動しており、相 違が出る結果となったが、移動方向は同じ結果となった。また、弾性応答および残留変形に ついて考えると、実験結果・解析結果ともに弾性応答は起こっており、残留変形はないこと が確認された。結果に相違が出た要因として、今回の解析モデルは、接合部を剛接として設 定し、解析を行っているが、実際は接合部の影響があるために、結果に相違が出たと考えら れる。そのため、今後の解析では、接合部の影響を考慮に入れてモデルを修正して、解析を 行っていく必要があると考える。 よって、今後さらなる解析モデルの修正やパラメータ設定の必要性が考えられる。 X Y + + - - ①

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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 表4.4 回転角の比較(修正前)

表4.5 回転角の比較(修正後)

図4.5 JMA-Kobe NS 波の回転角比較

最大変位δ max

[rad] [°] [rad] [°] [rad] [°] [mm]

実験結果 0.0529 3.03 0.0417 2.39 0.0191 1.09 66.9 解析結果 0.0829 4.75 0.0612 3.54 0.0210 1.21 73.7 実験結果 0.1686 9.66 0.1411 8.09 0.0471 2.70 165.1 解析結果 0.1708 9.78 0.0964 5.52 0.0743 4.26 260.5 実験結果 0.2702 15.48 0.2607 14.94 0.0553 3.17 193.9 解析結果 0.2675 15.33 0.2179 12.49 0.0496 2.84 173.7 K-NET 小千谷 EW波 JR鷹取 JMA-Kobe NS波 最大回転角R1 最大回転角R2 最大変形角D 最大変位δ max

[rad] [°] [rad] [°] [rad] [°] [mm]

実験結果 0.0529 3.03 0.0417 2.39 0.0191 1.09 66.9 解析結果 0.0259 1.48 0.0128 0.74 0.0131 0.75 45.8 実験結果 0.1686 9.66 0.1411 8.09 0.0471 2.70 165.1 解析結果 0.0745 4.27 0.0737 4.22 0.0311 1.78 108.9 実験結果 0.2702 15.48 0.2607 14.94 0.0553 3.17 193.9 解析結果 0.1593 9.13 0.1212 6.95 0.0452 2.59 158.4 JMA-Kobe NS波 最大回転角R1 最大回転角R2 最大変形角D K-NET 小千谷 EW波 JR鷹取

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図4.6 K-NET 小千谷 EW 波の回転角の比較

図 2.11  Case1(前後方向)のフーリエスペクトル
図 2.13  Case2(左右方向)のフーリエスペクトル
図 2.17  時刻歴波形  Case2(常時微動測定)
図 3.1  実物大模型断面図              写真 3.1  振動台実験
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参照

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