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第3章 振動台実験

3.2 既往の研究

東大寺法華堂に安置されている乾漆持国天立像を対象モデルとし、実物大模型による振 動台実験を実施している。19)試験体は、総高 350.4cm、総重量 231.5kg、乾漆厚およそ

5.0~6.0mm を対象とした条件を等価として製作した(図 3.1 参照)。持国天立像は乾漆造り

であるが、コスト面と施工性の問題から比較的加工が容易な紙粘土を代用品として用い、強 度不足を補うため、下地材として亀甲金網、針金を用い、表面の剥離やひび割れを抑制する ため、ニス塗仕上げとした。さらに、接合部は本来、鋳鉄製の釘などを用いているが、施工 性を上げるため取り付け金具を用いた。

加振には、茨城県つくば市にある防災科学技術研究所大型耐震実験施設の水平一方向加 振振動台を用いた(写真3.1参照)。また、転倒条件の一つに試験体と設置面との摩擦が大き く関わることが確かめられているため、振動台上に合板を用いて簡易な床を製作し、その上 で加振実験を行なった。測定は、加速度計による加速度の計測、最終的な移動量の実測、三 次元画像計測による変位量の計測、ビデオカメラ 6 台による録画を行なった。入力地震動 には、調和正弦波、JMA-Kobe NS波(1029gal)、K-Net小千谷 EW波(1357gal)、JR鷹取

(1134gal)を使用し、また試験体の振動特性を計測するため、STEP波を用いた。

図3.1 実物大模型断面図 写真3.1 振動台実験

三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科

試験体の振動特性の結果として、試験体の固有振動数は2.8Hz であった。調和正弦波に よる実験結果を図3.2及び表3.1に示す。図3.2に示すように転倒することはなく1.0~5.0Hz においてもロッキング振動を生じているものの、回転角からわかるように転倒の危険はな いといえる。表3.1に示す転倒限界回転角は、試験体前後方向(Bx/H=0.739)の静的な転倒限 界時の回転角である。実験結果として、三波共にロッキング振動を生じたが、転倒までには 至らなかった。結果を表3.2に示す。静的な転倒限界回転角は36.46°であり、三波のうち 回転角が最大のJR鷹取であっても最大回転角は15.48°に留まっており、転倒の危険はな いと言える。本試験体は、剛体と仮定するには剛性が不足しているため、実験結果として試 験体が振動時に変形していることが挙げられる。そこで、本躰の回転角を R1、底面の回転 角をR2とし、その差分を変形角Dとした(図3.3参照)。また、変形角Dに試験体の総高を 乗じて頭部の変形量を算出した。これより、物体を剛体と仮定した場合より、剛性が低い試 験体は回転角が大きくなる。回転角の増加が直接転倒と相関があることを裏付けるものは ないが、転倒の可能性が大きくなることは予測出来る。

図3.2 調和正弦波加振における最大加速度と転倒限界

表3.1 調和正弦波加振における最大回転角

0 10 20 30 40 50 60

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

Maximum acceleration(m/s2)

Frequency(Hz) Criteria of acceleration

B/H=0.739 Rocking Stillness

振動数

Hz rad °

1.0 0.0143 0.819 2.0 0.0491 2.815 3.0 0.0305 1.749 4.0 0.0086 0.495 5.0 0.0048 0.277 6.0 0.0032 0.184 7.0 0.0024 0.137 8.0 0.0024 0.137 9.0 0.0017 0.096 10.0 0.0013 0.075 転倒限界

回転角 0.6364 36.46 -静止 ロッキング 最大回転角

調和正弦波

運動形態

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表3.2 最大回転角一覧

図3.3 回転角

既往の転倒限界加速度とJMA 神戸 NS波、K-NET 小千谷 EW波、JR 鷹取の三波の 比較を行うため、卓越振動数の設定を行う。波の卓越振動数を表す一つの指標である、最大 加速度値Amaxと最大速度値Vmaxから(1)式により算出される等価振動数Feを用いることと する。

𝐹𝑒=2𝜋∙𝑉𝐴𝑚𝑎𝑥

𝑚𝑎𝑥 (1)

表3.3に等価振動数及び最大加速度を示す。この等価振動数を用いて転倒限界加速度との 比較を行った結果が図3.4である。三波共に転倒限界加速度を超えており、既往の研究2)

7)では転倒の可能性はあるとされているが、回転角の余裕度から、本実験のように転倒確率 を著しく上げるような要因(転落、衝突等)がない場合、転倒はしないといえる。

表3.3 等価振動数及び最大加速度

最大回転角R1 rad 0.0529 (3.03°) 0.1686 (9.66°) 0.2702 (15.48°) 最大回転角R2 rad 0.0417 (2.39°) 0.1411 (8.09°) 0.2607 (14.94°) 最大変形角D rad 0.0191 (1.09°) 0.0471 (2.70°) 0.0553 (3.17°)

最大変位δ max mm 66.9 165.1 193.9

JMA Kobe NS K-NET Ojiya EW JR Takatori

最大速度Vmax 最大振幅Dmax 等価振動数Fe 等価周期Te

Gal m/s2 kine mm Hz sec

JMA Kobe NS波 1029 10.29 105.03 200.0 1.55 0.65

K-NET 小千谷 EW波 1357 13.57 107.92 187.4 1.97 0.51

JR 鷹取 1134 11.34 106.68 218.7 1.69 0.59

最大加速度Amax

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図3.4 入力地震動における転倒限界加速度と運動形態

3.3 実験計画

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