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ii 5.1. 存在文 情意文 出来文 第 2 種二重 主語 文 結論 - 場があるから主語は要らない 第 4 章日本語の論理再考 主体の論理と場所の論理 日本語の論理は

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Academic year: 2021

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目 次

目 次 ... i は じ め に ... 1 第 1 部 理 論 編 ― 「 場 所 の 哲 学 」 か ら 「 場 所 の 言 語 学 」 へ ― ... 6 第 1 章 場 所 の 哲 学 ... 6 1.「 場 所 」 と は な に か ... 6 2. 中 村 雄 二 郎 の 「 述 語 的 世 界 と し て の 場 所 」 ... 9 3. 城 戸 雪 照 の 「 場 所 の 哲 学 」 ... 14 3.1. 場 所 の 開 示 ... 14 3.2. 主 客 構 成 関 係 論 ... 15 3.3. 場 所 的 存 在 論 ... 16 3.4. 場 所 の 論 理 学 ... 17 第 2 章 言 語 学 に お け る 「 場 所 論 」 の 受 容 ... 21 1. 日 本 語 研 究 に お け る 「 場 の 理 論 」 の 系 譜 ... 21 2. 語 用 論 研 究 に お け る 「 場 所 論 」 の 系 譜 ... 25 2.1. メ イ ナ ー ド ( 2000) の 「 場 交 渉 論 」 ... 25 2.2. 井 出 ( 2006) の 「 わ き ま え の 語 用 論 」 ... 28 3. 言 語 学 に お け る 「 場 所 理 論 」 の 受 容 ― 池 上 ( 1981) ... 29 第 3 章 「 主 語 不 要 論 」 と 「 主 語 必 要 論 」 ... 34 1. 言 語 類 型 論 か ら 見 た 主 語 に つ い て ... 34 2. 最 近 の 主 語 不 要 論 ... 37 3. 尾 上 ( 2004) の 主 語 必 要 論 ... 42 3.1. 主 語 論 の 前 提 と な る 事 実 ... 42 3.2. 主 語 の 規 定 ... 45 3.3. 主 語 の 内 実 ... 46 3.4. 主 語 項 の 絶 対 性 ... 47 4. 川 端 善 明 の 主 語 論 ... 50 5. 「 二 重 主 語 構 文 」 の 批 判 ... 51

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5.1. 存 在 文 ... 51 5.2. 情 意 文 ... 54 5.3. 出 来 文 ... 57 5.4 第 2 種 二 重 「 主 語 」 文 ... 59 6. 結 論 - 場 が あ る か ら 主 語 は 要 ら な い ... 60 第 4 章 日 本 語 の 論 理 再 考 ... 64 1 . 主 体 の 論 理 と 場 所 の 論 理 ... 64 2. 日 本 語 の 論 理 は 形 式 論 理 で あ る か ? ... 69 2.1. 日 本 語 特 殊 説 に つ い て ... 69 2.2 「 論 理 は 比 喩 の 形 式 で あ る 」 か ... 71 2.3.「 日 本 語 の 論 理 の 基 本 は 容 器 の 論 理 で あ る 」 か ... 73 2.4.「 日 本 語 の 論 理 の 基 本 は 命 題 論 理 で あ る 」 か ... 75 2.5.「 英 語 の 論 理 の 基 本 は 、 述 語 の 部 分 の 論 理 で あ る 」 か ... 76 3 . 結 論 ... 77 第 5 章 認 知 言 語 学 の 「 場 所 論 」 に よ る 基 礎 づ け ... 79 1. 認 知 言 語 学 の 哲 学 的 基 盤 ... 79 1.1. 身 体 性 と 想 像 力 ... 79 1.2. 認 知 的 無 意 識 と 概 念 メ タ フ ァ ー ... 80 1.3. 存 在 論 と 認 知 科 学 ... 83 1.4. カ テ ゴ リ ー と 論 理 ... 87 2. 認 知 言 語 学 と 場 所 論 ... 90 2.1. 図 と 地 ... 90 2.2. 比 喩 ... 92 2.3. 参 照 点 構 造 ... 95 2.4. 主 観 性 と 視 点 配 列 ... 97 第 2 部 事 例 研 究 ... 103 第 6 章 場 所 論 に 基 づ く 「 ハ 」 と 「 ガ 」 の 規 定 ... 103 1. 概 念 的 「 場 」 と し て の ハ ... 103

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1.1. 先 行 研 究 ... 103 1.2. ハ の ス キ ー マ と 諸 用 法 ... 105 2. ガ の ス キ ー マ ... 108 2.1. 先 行 研 究 ... 108 2.2. ガ の ス キ ー マ と 諸 用 法 ... 110 3. 「 ~ ハ … ガ 」 構 文 ... 112 第 7 章 場 所 論 に 基 づ く 日 本 語 格 助 詞 の 体 系 的 研 究 ... 117 1. は じ め に ... 117 2. 先 行 研 究 の 検 討 ... 118 2.1. 「 場 所 の 論 理 」 と 格 助 詞 ― 浅 利 ( 2008) ... 118 2.2.「 起 点 ・ 経 路 ・ 着 点 」 の イ メ ー ジ ・ ス キ ー マ ー 菅 井 ( 2005) 119 2.3. 「 動 力 連 鎖 」 的 事 態 を 基 本 と す る こ と の 問 題 性 ― 森 山 ( 2008 ) ... 122 2.4. プ ロ ト タ イ プ か ら の 拡 張 論 の 問 題 点 ... 123 3. コ ア 理 論 を 使 っ た 説 明 ... 126 第 8 章 ニ 格 の ス キ ー マ と ネ ッ ト ワ ー ク ... 130 1. ニ の 用 法 ... 130 2. 先 行 研 究 の 検 討 ... 132 2.1. 「 密 着 性 」 に つ い て ー 国 広 ( 1986) ... 132 2.2. 対 峙 性 - 森 山 ( 2008) ... 134 2.3. 位 置 づ け 操 作 - フ ラ ン ス ( 2005) ... 138 3. 存 在 の 場 所 用 法 と 「 存 在 の ス キ ー マ 」 ... 140 4 . 時 間 用 法 ... 143 5. 移 動 の 着 点 用 法 ... 144 6. 授 受 の 相 手 と 出 所 ... 145 7. 受 身 に お け る ニ 格 ... 148 7.1 受 身 の ニ 格 の 認 知 過 程 ... 148 7.2 受 身 の ニ と カ ラ 、 ニ ヨ ッ テ の 違 い ... 152

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8. 原 因 の ニ 格 ... 157 8. ニ 格 の ス キ ー マ と ネ ッ ト ワ ー ク ... 160 第 9 章 ヲ 格 の ス キ ー マ と ネ ッ ト ワ ー ク ... 163 1. は じ め に - 格 助 詞 「 を 」 の 用 法 ... 163 2 . 先 行 研 究 の 検 討 ... 164 3. 経 路 用 法 ... 168 4. 起 点 用 法 ... 170 4.1 経 路 の 移 動 の 含 意 ... 170 4.2 起 点 内 の 領 域 で の 移 動 の 含 意 ... 172 4.3 移 動 の 経 由 点 ... 173 5. 対 象 用 法 ... 175 5.1. さ ま ざ ま な 対 象 ... 175 5.2. 対 象 の ヲ 格 の ス キ ー マ ... 176 5.3. 状 態 変 化 を お こ す 他 動 詞 構 文 の 対 象 ... 180 5.4. 制 作 動 詞 の ヲ 格 ... 181 6. 時 間 用 法 と 状 況 用 法 ... 182 7. ヲ 格 の ス キ ー マ と ネ ッ ト ワ ー ク ... 185 第 10 章 デ 格 の ス キ ー マ と ネ ッ ト ワ ー ク ... 187 1 . は じ め に - デ 格 の 用 法 ... 187 2. 先 行 研 究 の 検 討 ... 188 2.1. 森 田 ( 1989) ... 188 2.2. 中 右 ( 1998) ... 189 2.3. 菅 井 ( 1997) ... 190 2.4. 森 山 ( 2008) ... 191 3. 場 所 用 法 ... 192 4. 時 間 用 法 ... 193 5. 原 因 用 法 ― 出 来 事 が 起 き る 場 面 と し て の デ ... 194 6. 様 態 、 材 料 用 法 ― 状 態 次 元 の デ ... 196

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7. 道 具 ・ 手 段 用 法 - モ ノ 次 元 の デ ... 198 8. デ 格 の ス キ ー マ と ネ ッ ト ワ ー ク ... 199 9. 格 助 詞 の 体 系 と ネ ッ ト ワ ー ク ( ま と め ) ... 201 第 11 章 場 と 文 の 相 関 の 類 型 再 考 ... 204 1. は じ め に ... 204 2. 三 尾 の 「 場 と 文 の 相 関 の 類 型 」 ... 204 2.1. 「 話 の 場 」 の 概 念 と 「 場 と 文 の 相 関 の 原 理 」 ... 204 2.2. 「 場 と 文 の 相 関 の 類 型 」 と そ の 問 題 点 ... 205 3. 問 題 点 に 関 す る 検 討 、 考 察 ... 211 4. 新 た な 類 型 の 提 案 ... 213 5. 結 論 ... 215 第 12 章 日 本 語 諸 構 文 の 場 所 論 的 再 構 築 に 向 け て ... 217 1. は じ め に ... 217 2. 存 在 構 文 か ら 名 詞 述 語 文 、 形 容 詞 述 語 文 の 範 疇 化 ... 223 2.1. 存 在 構 文 ― 中 心 的 存 在 構 文 と 主 題 化 構 文 ... 223 2.2. 名 詞 述 語 文 ... 225 2.3. 形 容 詞 述 語 文 ... 228 3. 動 詞 述 語 文 の 複 合 的 ネ ッ ト ワ ー ク ... 230 3.1. 生 成 の ス キ ー マ ... 230 3.2 移 動 の ス キ ー マ ... 237 3.3. 他 動 詞 構 文 の ス キ ー マ ... 240 4. 結 論 ... 244 第 13 章 日 本 語 と 英 語 、 中 国 語 、 朝 鮮 語 の 事 態 認 知 の 対 照 ... 248 1 . 日 本 語 と 英 語 の 事 態 認 知 - ス ル と ナ ル の 言 語 学 再 考 ... 248 2 . 場 所 に お い て コ ト が ナ ル ― コ ト が 出 来 す る 場 と し て の 自 己 ... 253 3. ア ル 言 語 と し て の 日 本 語 ... 255 4.『 雪 国 』 の 冒 頭 の 文 と 中 国 語 、 朝 鮮 語 翻 訳 と の 対 照 ... 256 5. 中 国 語 、 朝 鮮 語 は ス ル 型 か ナ ル 型 か ... 258

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6. 中 国 語 の 認 知 的 特 徴 - 出 現 、 消 失 、 存 在 ... 261 7. 朝 鮮 語 の 事 態 認 知 ... 266 第 14 章 今 後 の 課 題 と 展 望 ... 271 1 . 類 型 論 的 位 置 づ け - 能 格 言 語 の 問 題 ... 271 2 . 言 語 習 得 と 心 の 理 論 ... 276 参 考 文 献 ... 283

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は じ め に

本 書 の 目 的 は 、「 場 所 の 哲 学 」に 基 づ い た「 場 所 の 言 語 学 」を 提 起 す る こ と に あ る 。「 場 所 の 哲 学 」は 、主 体 や 個 物 を 中 心 に 考 え る「 主 体 の 哲 学 」に 対 し て 、 場 所 の 重 要 性 を 強 調 す る 。 あ ら ゆ る も の は 、 場 所 に お い て 存 在 す る 。 場 所 が な け れ ば 、 モ ノ は 存 在 し 得 な い 。 逆 に 、 モ ノ ( 主 体 ) が な け れ ば 、 場 所 は 空 虚 な 空 間 と な る 。 場 所 と モ ノ は 「 存 在 」 に と っ て 相 補 的 な 要 素 で あ る 。 し か し 、 こ れ ま で の 西 欧 を 中 心 と し た 哲 学 は 、 場 所 の 重 要 性 を 看 過 し 、 モ ノ や 主 体 の 存 在 の み を 強 調 し て き た 。 西 欧 的 近 代 パ ラ ダ イ ム の 行 き 詰 ま り は 、 ニ ー チ ェ や ハ イ デ ッ ガ ー が 提 起 し て 以 来 、 ポ ス ト モ ダ ニ ズ ム に 至 る ま で 、 繰 り 返 し 論 じ ら れ て き て い る が 、 そ れ に 変 わ る 新 し い パ ラ ダ イ ム を 提 起 し え て い る だ ろ う か 。 ま た 、 東 洋 へ の 回 帰 と い う こ と も 必 ず し も そ の 行 き 詰 ま り を 打 開 す る も の で は な い 。 西 洋 、 東 洋 と い っ た 枠 組 み を 乗 り 越 え る 新 た な パ ラ ダ イ ム が 求 め ら れ て い る の で あ る 。こ こ で は 、「 場 所 」と「 主 体 」を 統 合 し 発 展 さ せ る 思 考 が 求 め ら れ て い る 。最 近 の エ コ ロ ジ ー の 流 行 な ど は 、「 人 間 的 主 体 」 や 「 個 人 」 と い う も の を 重 視 し す ぎ た 行 き 詰 ま り を 打 開 し よ う と す る も の で あ り 、 環 境 や 自 然 す な わ ち 「 場 所 」 を 取 り 戻 そ う と す る 世 界 的 な 動 き の 一 端 と 考 え ら れ る 。 一 方 で 、「 場 所 」( 共 同 体 ) の 重 要 性 を 強 調 す る あ ま り 「 主 体 」 を 否 定 し て し ま う と い う 陥 穽 に 陥 っ て は な ら な い 。 ハ イ デ ガ ー の ナ チ ズ ム へ の 荷 担 や 西 田 ら 京 都 学 派 が 近 代 の 超 克 を 目 指 し な が ら 全 体 主 義 に 巻 き 込 ま れ て い っ た こ と も 忘 れ て は な ら な い 。ま た 、社 会 主 義 の 歴 史 的 な 実 験 は 、「 共 同 体 」す な わ ち 「 場 所 」 を 類 的 に 世 界 的 に 推 し 進 め よ う と す る も の で あ っ た が 、 実 際 の 社 会 主 義 社 会 は 、「 主 体 」や「 個 」の 自 立 が 遅 れ た 後 進 地 域 で 成 立 し 、そ こ で は 一 党 独 裁 の も と に 、「 主 体 ( 個 )」 の 否 定 が 行 わ れ た 。 こ れ ら は 「 共 同 体 」 の 思 考 が 主 体 を お し つ ぶ す 負 の 事 例 で あ る 。 西 欧 近 代 の 「 主 体 の 論 理 」 の 行 き 過 ぎ を 「 場 所 の 論 理 」 が 相 対 化 す る と と も に 、「 主 体 」 の 自 律 性 を 維 持 し つ つ 、「 場 所 」 へ ら せ ん 的 に 回 帰 し て い く と い う 弁 証 法 的 発 展 が な さ れ な け れ ば な ら な い の で あ る 。 そ の 行 く 末 を 指 し 示

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す こ と は 筆 者 の 能 力 を 超 え る も の で あ る が 、「 場 所 の 哲 学 」を 言 語 学 の 世 界 で 示 す こ と に よ っ て 、 そ の 一 端 を 担 え れ ば と 考 え る 。 言 語 学 の 世 界 で 、「 場 所 」 と 「 主 体 」 の 対 立 が 問 題 に な る の は 、「 主 語 」 と 「 述 語 」の 問 題 に お い て で あ る 。「 場 所 の 論 理 」を 打 ち 出 し た 西 田 幾 多 郎 自 体 が 、判 断 の 形 式 で あ る 主 語 と 述 語 の 問 題 か ら 出 発 し て い る 。西 田 は 、「 S は P で あ る 」と い う 形 式 を 、「 S は P に お い て あ る 」と 解 釈 し た 。つ ま り 、判 断 と は 、一 般 者( 述 語 )が 特 殊( 主 語 )を 包 む と い う 形 で あ る と し た 。西 田 の「 場 所 の 論 理 」 は 論 理 学 、 哲 学 の 世 界 の 話 に 限 定 さ れ て い る が 、 言 語 学 や 日 本 語 学 の 世 界 で は 、 日 本 語 に 「 主 語 」 と い う 概 念 が 必 要 な の か 、 不 要 な の か 、 三 上 章 の 「 主 語 廃 止 論 」 の 提 起 以 来 、 常 に 議 論 に な っ て き た 。 三 上 の 提 起 を 受 け て 、 現 代 日 本 語 学 で は 、「 主 語 」 は 「 主 題 」 と 「 主 格 」 と い う 2 つ に 解 体 さ れ た か に 見 え る 。一 方 で 、生 成 文 法 を は じ め と す る 一 派 で は 、「 主 語 」の 概 念 は 、 ど の 言 語 に も あ る 普 遍 的 な 概 念 と し て 前 提 と さ れ 、 日 本 語 の 記 述 に お い て も 適 用 さ れ る 。 ま た 、 日 本 語 学 の 中 で も 、 山 田 文 法 を 継 承 す る 流 れ で は 、 「 文 は 、 主 語 ― 述 語 か ら な る 」 と い う 原 理 を 基 本 に 構 文 論 が 組 み 立 て ら れ て い る 。実 際 に 、主 語 が な い 文 が 日 本 語 に は 多 い と い う 事 実 も 、そ れ は「 省 略 」 と さ れ 、 や は り 「 主 語 」 と い う 概 念 は 温 存 さ れ て い る 。 言 語 類 型 論 的 立 場 か ら は 、必 ず し も 、「 主 語 」と い う 概 念 は 、普 遍 的 な も の で は な い 、と い う 説 も 提 示 さ れ て い る が 、「 主 語 」を 必 要 と す る 言 語 と「 主 語 」を 必 要 と し な い 言 語 を 対 照 す る 場 合 は 、 や は り 「 主 語 」 と い う 概 念 を か っ こ 付 き に で も 使 わ な け れ ば な ら な い の が 現 状 で あ る 。 ま た 、 学 校 文 法 で は 、 あ い か わ ら ず 、 小 学 校 か ら 「 文 に は 主 語 が あ る 」 と い う こ と が 前 提 と し て 教 え ら れ て お り 、「 主 語 」 と い う 概 念 は や は り 常 識 か に 見 え る 。 本 書 で は 、 こ う し た 「 主 語 」 の 立 場 か ら 論 じ る 論 理 を 「 主 語 の 論 理 」 と 呼 び 、 一 方 で 、「 日 本 語 に は 主 語 は い ら な い 」「 日 本 語 は 述 語 一 本 立 て 」 で あ る と い っ た 三 上 ら の 文 法 論 を「 述 語 の 論 理 」に 基 づ い て い る と 考 え る 。「 主 語 の 論 理 」 は 、 広 く 言 う な ら ば 、「 主 体 の 論 理 」 で あ り 、「 述 語 の 論 理 」 は 「 場 所 の 論 理 」に 通 じ る 。「 主 語 の 論 理 」や「 主 体 の 論 理 」に 基 づ く 文 法 論 や 言 語 学

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を「 主 体 の 言 語 学 」と 呼 ぶ な ら ば 、「 述 語 の 論 理 」や「 場 所 の 論 理 」に 基 づ く 文 法 論 、言 語 学 は「 場 所 の 言 語 学 」と 呼 ぶ こ と が で き る 。本 書 は 、「 場 所 の 言 語 学 」を 提 起 す る こ と に よ り 、「 主 体 の 言 語 学 」を 相 対 化 し 、そ し て「 主 語 の 論 理 」 と 「 述 語 の 論 理 」 の 統 合 的 理 解 を 目 指 す も の で あ る 。 本 書 の 構 成 は 次 の よ う に な る 。 第 1 部 は 、 理 論 編 と し て 、 第 1 章 で は 、「 場 所 」 と は 何 か と い う 問 い か ら は じ め 、「 場 所 の 言 語 学 」の 理 論 的 前 提 で あ る「 場 所 の 哲 学 」に つ い て 、西 田 幾 多 郎 の 「 場 所 の 論 理 」 を 現 代 的 に 復 権 し た 中 村 雄 二 郎 や 城 戸 雪 照 の 論 考 な ど を 導 き の 意 図 に し な が ら 明 ら か に し て い く 。 第 2 章 で は 、 日 本 の 言 語 学 に お い て 「 場 所 論 」 が ど の よ う に 受 容 さ れ て き た か を 、 日 本 語 研 究 ( 佐 久 間 、 三 尾 )、 語 用 論 研 究 ( メ イ ナ ー ド 、 井 出 )、 ス ル と ナ ル の 言 語 学 ( 池 上 ) な ど を 紹 介 し な が ら 明 ら か に し て い く 。 第 3 章 で は 、 ま ず 言 語 類 型 論 に お け る 「 主 語 」 の 扱 い に つ い て 検 討 し 、 文 法 上 の 「 主 語 」 が 歴 史 的 に 作 ら れ た も の で あ り 、 普 遍 的 な も の で は な い こ と を 明 ら か に す る 。 そ し て 最 近 の 日 本 に お け る 「 主 語 不 要 論 」 と し て 、 金 谷 の 議 論 を 取 り 上 げ 、 尾 上 の 「 主 語 必 要 論 」 に つ い て 批 判 検 討 す る 。 第 4 章 で は 、 日 本 語 の 論 理 再 考 と 題 し て 、「 主 体 の 論 理 と 場 所 の 論 理 」 が 具 体 的 に ど の よ う な 思 考 方 式 と し て 表 れ る か 、 ま た 、 英 語 や 日 本 語 と い っ た 個 別 言 語 に ど の よ う に 表 れ る か を 明 ら か に す る 。そ し て 、「 日 本 語 の 論 理 は 形 式 論 理 で あ る 」 と い う 主 張 を 批 判 検 討 し な が ら 、 日 本 語 の 論 理 の 基 本 が 「 場 所 の 論 理 」 で あ る こ と を 主 張 す る 。 第 5 章 で は 、 認 知 言 語 学 の パ ラ ダ イ ム や 哲 学 的 背 景 、 様 々 な 理 論 的 道 具 立 て に つ い て 、「 場 所 論 」の 観 点 か ら 位 置 づ け と 検 討 を 加 え る 。人 間 不 在 の 構 造 言 語 学 は 終 わ り 、 デ カ ル ト 流 の 近 代 的 主 体 思 考 の 流 れ で あ る 生 成 文 法 は 行 き 詰 ま り を 見 せ て い る 。 そ の 中 で 、 環 境 世 界 の 中 で 相 互 作 用 し て い る 認 知 主 体 の 認 知 的 営 み と い う 包 括 的 な 枠 組 み か ら 言 語 研 究 を 進 め て い こ う と す る 認 知 言 語 学 は 、 経 験 基 盤 主 義 や 新 し い カ テ ゴ リ ー 論 の 提 案 、 レ ト リ ッ ク の 復 権 、 イ メ ー ジ・ス キ ー マ な ど「 場 所 の 言 語 学 」と 通 底 す る 言 語 観 を 共 有 し て い る 。

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一 方 で 、 そ の 中 に は 「 動 力 連 鎖 的 事 態 」 を 標 準 と す る 西 洋 中 心 主 義 的 思 考 も 存 在 す る 。 普 遍 的 な 言 語 理 論 の 確 立 の た め に は こ う し た 傾 向 を 乗 り 越 え る 日 本 言 語 学 か ら の 提 起 が 求 め ら れ る 。 第 2 部 は 事 例 研 究 と し て 、 第 6 章 で は 、 日 本 語 の 「 ハ 」 の ス キ ー マ を 概 念 的 場 と 参 照 点 構 造 か ら 位 置 づ け る 。 ま た 、 格 助 詞 「 ガ 」 の ス キ ー マ を 「 場 に お い て も っ と も 顕 著 な 存 在 物 」 と 規 定 し 、 係 り 助 詞 で あ る ハ と の 境 界 を 明 確 に す る 。 第 7 章 で は 、 日 本 語 の 格 助 詞 を 場 所 論 的 観 点 か ら 体 系 化 す る た め の 理 論 的 問 題 を 論 じ る 。 基 本 的 に 「 起 点 ・ 経 路 ・ 着 点 」 の イ メ ー ジ ・ ス キ ー マ に 基 づ い た ネ ッ ト ワ ー ク を 提 示 し 、 動 力 連 鎖 を 基 本 と す る ス キ ー マ 形 成 や プ ロ ト タ イ プ に 基 づ く 拡 張 論 な ど の 問 題 点 を 明 ら か に し 、 解 決 策 と し て 中 心 的 用 法 か ら コ ア ・ ス キ ー マ を 抽 出 す る コ ア 理 論 を 援 用 す る 。 第 8 章 で は 、 ニ 格 の 中 心 的 用 法 を 、 存 在 の 場 所 、 移 動 の 着 点 、 授 与 の 相 手 と 設 定 し 、 そ の コ ア ・ ス キ ー マ を 「 ニ 格 に 向 け た 指 向 性 」 と し て 、 様 々 な 用 法 の 拡 張 関 係 を ネ ッ ト ワ ー ク と し て 記 述 す る 。 第 9 章 で は 、 ヲ 格 の コ ア ・ ス キ ー マ を 「 起 点 ・ 経 路 ・ 着 点 」 の イ メ ー ジ ・ ス キ ー マ を ベ ー ス に 設 定 し 、 起 点 ・ 経 路 ・ 着 点 が そ れ ぞ れ プ ロ フ ァ イ ル さ れ た も の を 起 点 用 法 、 経 路 用 法 、 対 象 用 法 と し て 位 置 づ け る 。 第 10 章 で は 、デ 格 の 中 心 的 用 法 を 、場 所 用 法 、道 具・手 段 用 法 と 設 定 し 、 出 来 事 の 背 景 と し て の デ 格 の ス キ ー マ を 設 定 す る 。 第 11 章 で は 、 日 本 語 研 究 に お い て 初 め て 「 場 と 文 の 相 関 の 原 理 と 類 型 」 を 打 ち 出 し た 三 尾 砂 の 論 を 再 評 価 ・ 再 検 討 し 、 新 た な 類 型 を 提 案 す る 。 第 12 章 で は 、 日 本 語 の 様 々 な 構 文 を 取 り 上 げ 、 日 本 語 文 法 の 場 所 論 的 再 構 築 を 目 指 す 。 こ こ で は 名 詞 述 語 文 、 形 容 詞 述 語 文 は 、 存 在 構 文 の 拡 張 の 観 点 か ら 体 系 化 で き 、 動 詞 述 語 文 で は 、 生 成 の ス キ ー マ を 中 心 に 、 移 動 の ス キ ー マ 、 他 動 詞 構 文 の ス キ ー マ へ の ネ ッ ト ワ ー ク を 提 示 す る 。 第 13 章 で は 、 日 本 語 と 英 語 、 中 国 語 、 朝 鮮 語 の 事 態 認 知 に つ い て 、 ま ず ス ル 型 、 ナ ル 型 の 観 点 か ら 対 照 を 行 い 、 場 所 論 的 位 置 づ け を 与 え て い く 。 場

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所 の 言 語 学 が 他 言 語 に い か に 適 用 さ れ る か の 試 論 で あ る 。

第 14 章 は 、 今 後 の 課 題 と し て 、 能 格 言 語 の 場 所 論 的 位 置 づ け 、 言 語 習 得 と 心 の 理 論 の 問 題 の 批 判 的 検 討 を 行 い 、「 場 所 の 言 語 学 」 の 展 望 を 提 起 す る 。

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第 1部

理 論 編 ― 「 場 所 の 哲 学 」 か ら 「 場 所 の 言 語 学 」 へ ―

第 1 章 場 所 の 哲 学

本 書 の 理 論 的 基 盤 に な る 「 場 所 の 哲 学 」 は 、 西 田 幾 多 郎 の 「 場 所 の 論 理 」、 中 村 雄 二 郎 の「 場 所 論 」、城 戸 雪 照 の「 場 所 の 哲 学 」を 重 要 な 導 き の 糸 と し て い る 。以 下 、「 場 所 」と は 何 か を は じ め と し て 、「 場 所 の 哲 学 」に つ い て 紹 介 、 検 討 し て い き た い 。 1.「 場 所 」 と は な に か 「 場 所 」と は 、国 語 辞 典 的 意 味 と し て は 、「 何 か が 存 在 し た り 行 わ れ た り す る 所 。あ る 広 が り を も っ た 土 地 」(『 大 辞 泉 』)と 定 義 さ れ 、「 魚 の 釣 れ る 場 所 」 と か 「 約 束 の 場 所 」 な ど の 用 例 が 挙 げ ら れ て い る 。 ま た 、 一 般 に 「 も の が 占 め る た め に 要 す る 広 さ 」す な わ ち 、「 空 間 」と 同 義 の 意 味 と し て 使 わ れ る こ と も あ る (「 立 っ て い る 場 所 も な い 」)。 で は 、「 空 間 」 と 「 場 所 」 の 違 い は 何 で あ ろ う か 。最 近 の「 場 所 論 」を ま と め た 著 作 で あ る 丸 田( 200 8:56 )に よ れ ば 、 空 間 は 一 般 的 に 均 質 な 広 が り を も っ て い る が 、 そ こ に 人 間 が 関 与 す る こ と で 空 間 が 意 味 を 帯 び 、 方 向 性 が 生 れ 、 徐 々 に 均 質 性 が 崩 れ て い く 。 こ の よ う に 人 間 が 関 わ る こ と で 空 間 が 限 定 し て 、 特 殊 な 空 間 が 生 じ る が 、 こ れ が 「 場 所 」 で あ る 。 と し て い る 。 つ ま り 、 人 間 が 関 わ る 空 間 、 体 験 さ れ て い る 空 間 が 「 場 所 」 で あ る 。 こ こ で 注 意 し な け れ ば な ら な い の は 、 人 間 に 関 わ り の な い 物 理 的 空 間 が ま ず あ っ て 、 そ こ か ら 人 間 が 関 わ る 「 場 所 」 が 派 生 す る と い う よ り 、 人 間 が 開 く 「 場 所 」 が ま ず あ っ て 、 そ こ か ら 抽 象 的 な 空 間 概 念 が 出 て く る の で は な い か と い う こ と で あ る1 こ う し た 場 所 の 概 念 は 、地 理 学2や 文 化 人 類 学 に お い て 重 要 な 概 念 で あ り 、 そ こ で は 、 場 所 は 人 間 か ら 独 立 し て 存 在 で き な い し 、 人 間 は 場 所 か ら 離 れ て 存 在 で き な い と い う 基 本 的 性 質 を 持 つ こ と が 言 わ れ て い る 。 ま た 最 近 で は 、

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「 環 境 心 理 学 」 と い う 新 た な 分 野 か ら も 「 人 間 と 環 境 の 相 互 浸 透 性 ( ト ラ ン ザ ク シ ョ ン )」と い う 概 念 が 提 起 さ れ 、「 私 と 場 所 」の 問 題 が ふ れ ら れ て い る 。 「 こ こ は 温 か い 」- こ の よ う な 体 験 様 式 に は 、「 誰 が 」と い う 主 語 の 規 定 も 、 「 環 境 の 何 が 」 と い う 対 象 の 規 定 も 、 原 初 的 に は 与 え ら れ て お ら ず 、「 こ こ 」 の 状 態 と し て 直 に 叙 述 さ れ て い る 。つ ま り 、よ り 正 確 を 期 す な ら ば 、「 私 が い ま こ こ で 温 か い 」 と 表 現 さ れ る 体 験 は 、 私 の 感 覚 の 記 述 で あ る と 同 時 に 、 場 所 の 性 質・状 態 の 記 述 で も あ る 。両 者 は 不 可 分 で あ る 。「 こ の 町 は す み や す い 」 や 「 こ の 学 校 は の び の び し て い る 」 と い っ た 表 現 も 、 よ り 複 雑 で は あ る が 、 基 本 的 に は 「 こ こ は 温 か い 」 と 同 じ 構 造 の 叙 述 で あ る 。( 南 20 06:36) こ の 南 の 指 摘 に つ い て 、 矢 守 ( 2 008:79 ) は 次 の よ う に コ メ ン ト す る 。 こ こ で 指 摘 さ れ て い る こ と は 、 私 た ち の 原 初 的 な 体 験 様 相 に お い て は 、 主 体( 自 己 )と 対 象( 環 境 )と は 分 離 さ れ て い な い 、と い う 重 要 な 事 実 で あ る 。 こ う し た 叙 述 に お い て 、 主 語 と 対 象 が 明 示 さ れ な い の は 、 そ れ ら が 省 略 さ れ て い る か ら で は な く 両 者 が 渾 然 一 体 と な っ て 融 合 し て い る か ら で あ る 。( 中 略 )「 こ こ は 温 か い 」と い う 一 種 独 特 の 雰 囲 気 が 、一 方 に 温 か い 空 気( 対 象 ) を 、 他 方 に ほ ん わ か し た 気 分 ( 主 体 ) を 産 み 落 と し て い る 。 そ し て 、 き わ め て 重 要 な こ と は 、 明 確 に 分 離 し な い 主 体 と 対 象 と が 一 体 化 し た 一 つ の 全 体 と し て 体 験 さ れ る と き 、 そ う し た 体 験 は 、 両 者 が そ こ に お い て 重 合 す る < 場 所 > に 帰 属 さ れ て あ ら わ れ る と い う 点 で あ る 。「 こ こ は 温 か い 」と い う 形 式 で 。 < 場 所 > に お い て 、 環 境 と 自 己 は 深 い ト ラ ン ザ ク シ ョ ン を 果 た す の で あ る 。 主 体 と 対 象 の い ず れ で も な い 、 そ れ ら が 分 化 す る 以 前 の 、 環 境 と 自 己 と の 間 の 深 い 相 互 浸 透 ( ト ラ ン ザ ク シ ョ ン ) が 生 じ る 「 こ と 」 の 世 界 こ そ が 、 < 場 所 > と 呼 ば れ て い る の で あ る 。 丸 田 ( 200 8 ) で は 、 ま た 、 ハ イ デ ガ ー の 存 在 論3や メ ル ロ = ポ ン テ ィ の 身

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体 論 か ら 「 場 所 」 と い う 問 題 を 明 ら か に し て い る 。 存 在 と 関 わ り を 持 つ 人 間 の こ と を ハ イ デ ガ ー は 「 現 存 在 」( Da-sein) と い っ て い る が 、 ド イ ツ 語 の 「 Da」 と は 、 話 者 が 近 い と 認 識 す る 場 所 を 指 し 示 す 「 そ こ に 」 と い う 意 味 と 、 話 者 の 現 に い る 位 置 を 示 す 「 こ こ に 」 と い う 意 味 が あ る と い わ れ る 。 人 間 が 差 し 当 た り ま ず 関 わ る モ ノ は 、 な に か を す る た め の 道 具 で あ る 。 の ど が 乾 け ば 、 ジ ュ ー ス が 入 っ た コ ッ プ に 手 を 伸 ば す 。 人 間 は ま ず 、コ ッ プ の あ る「 そ こ に 」関 心 を 向 け 、「 そ こ 」か ら 自 分 の い る「 こ こ 」 が ふ り 返 ら れ る 。 自 分 の 存 在 と い う の は 、 他 の モ ノ の 存 在 を 認 知 す る こ と に よ っ て 与 え ら れ る と い う 意 味 で 、「 現 存 在 」 と い う の で は な い か と 思 う4 「 現 存 在 」 と は 「 世 界 内 存 在 」 で あ る 。 そ れ は 、 あ る 物 体 ( 身 体 ) が 、 世 界 の 一 部 を 占 め る と い う よ う な 、 単 な る 空 間 的 な 包 含 関 係 を 表 し て い る の で は な く 、 そ れ は 世 界 に 対 し て 常 に 存 在 が 開 か れ て い る 関 係 を 表 し て い る 。 つ ま り 他 の 存 在 者 に 関 心 を 持 ち 、 配 慮 す る と い う 外 部 に 開 か れ た あ り 方 を 示 す の が 「 現 存 在 」 で あ る 。 こ こ で 「 空 間 」 と い う 用 語 に 返 れ ば 、「 現 存 在 」 が 生 き る 空 間 を「 存 在 論 的 空 間 」と い う の に 対 し 、「 主 体 」が 対 象 と し て モ ノ や 対 象 を 客 観 的 に 認 識 す る 空 間 は 「 存 在 的 空 間 」 あ る い は 「 認 識 論 的 空 間 」 と 呼 ば れ る 。「 場 所 」と は 、前 者 の「 存 在 論 的 空 間 」で あ り 、生 き ら れ た 空 間 で あ る 。 こ の 「 存 在 論 的 空 間 」 は 「 身 体 」 な く し て あ り 得 な い こ と を 示 し た の が メ ル ロ = ポ ン テ ィ で あ る 。 身 体 は 、 そ れ を 通 し て 自 分 を 取 り 巻 く 対 象 世 界 を 体 験 す る た め の 「 主 体 」 の 一 部 で あ る 。 そ の 一 方 で 身 体 は 、 そ れ 自 身 が 対 象 と し て 体 験 さ れ る 「 客 体 」 の 1 つ で も あ る 。 こ の よ う に 身 体 は 、 主 体 と 客 体 と の 境 界 に あ る 両 義 的 な 存 在 で あ り 、 主 客 を 媒 介 す る 前 人 称 的 な 存 在 と し て 意 味 の 源 泉 と な り 、意 味 連 関 を 分 泌 し て い く の で あ る 。『 知 覚 の 現 象 学 』で は 、 「 わ れ わ れ は 、 わ れ わ れ の 身 体 に よ っ て 世 界 に 内 属 し 、 わ れ わ れ の 身 体 に よ っ て 世 界 を 知 覚 す る 」 と 述 べ て い る 。 私 た ち は 空 間 を 欠 い た 主 体 で は な く 、 身 体 を 通 し て 私 た ち 自 身 が 空 間 的 な 形 成 物 と し て 、 よ り 大 き な 包 括 的 空 間 の 中 に 埋 め 込 ま れ た 存 在 な の で あ る 。 丸 田 は 以 上 の よ う な 伝 統 的 場 所 論 に ふ ま え 、 イ ン タ ー ネ ッ ト 時 代 の 場 所 論

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と し て 、ウ ェ ブ 空 間 の 場 所 性 を 明 ら か に し 、一 方 で 現 実 空 間( 地 域 )で の「 帰 る 場 所 」 を 探 ろ う と し て い る 。 現 実 空 間 の 場 所 性 を 復 権 し て い く こ と は 必 要 な 作 業 で あ る が 、 本 書 の 範 囲 外 に な る の で ま た 別 の 機 会 で あ ら た め て 論 じ た い 。 次 に 「 場 所 」 を 主 題 と し て 包 括 的 に 論 じ た 中 村 ( 1 989) の 「 場 所 論 」 を 紹 介 す る 。 2. 中 村 雄 二 郎 の 「 述 語 的 世 界 と し て の 場 所 」 中 村 雄 二 郎 ( 1989) は 、 場 所 の 問 題 の 諸 相 と し て 、 自 然 哲 学 ・ 修 辞 学 の < 場 所 > 、 物 理 学 の < 場 > 、 非 線 形 の 物 質 形 か ら 生 命 系 を 考 察 し 、 場 所 の 基 体 的 性 格 を 共 通 の も の と し て あ げ る 。 基 体 と は 、 基 礎 あ る い は 根 底 に あ る も の と い っ た 意 味 で 、 ア リ ス ト テ レ ス で は 基 体 を 生 成 変 化 の 根 底 に あ っ て 一 貫 し て 変 わ ら な い 主 体 ( 主 語 ) で あ る 。 し か し 、 こ れ は ギ リ シ ャ 哲 学 の 第 一 原 因 あ る い は 創 造 主 と い う 考 え 方 、 お よ び そ れ を 受 け 継 い だ 伝 統 的 な 西 洋 形 而 上 学 の 考 え 方 が 前 提 に な っ て い る 。 中 村 は 、 こ う し た 主 語 ― 基 体 の 考 え 方 を 根 本 的 に 問 い 直 さ な け れ ば な ら な い と し て い る 。 こ う し て 、 中 村 は < 基 体 と し て の 場 所 > と い う 問 題 設 定 を 行 い 、( 1 ) 存 在 根 拠 と し て の 場 所 、( 2) 身 体 的 な も の と し て の 場 所 、( 3 ) 象 徴 的 な 空 間 と し て の 場 所 、( 4 ) 論 点 や 議 論 の 隠 さ れ た 所 と し て の 場 所 ( 言 語 的 ト ポ ス ) と い う 4 つ の 観 点 か ら 「 場 所 」 に つ い て 考 察 し て い く 。「 存 在 根 拠 と し て の 場 所 」 は 、 生 物 学 ・ 生 態 学 的 に 見 た 固 有 環 境 や 、 社 会 的 な 共 同 体 、 心 理 的 な 無 意 識 な ど の こ と で 、 意 識 的 な 自 我 が 成 立 し 、 自 己 の 存 在 根 拠 と な る 場 所 で あ る 。 「 身 体 的 な も の と し て の 場 所 」 は 、 意 識 的 自 我 が 成 り 立 つ 場 所 で あ り 、 ま た そ こ に 成 立 す る 身 体 的 実 存 に よ っ て 空 間 的 場 所 が 意 味 づ け ら れ 、 分 節 化 さ れ る 。 社 会 的 空 間 の 中 で 作 ら れ る 固 有 の 場 と し て の テ リ ト リ ー ( 縄 張 り ) は 、 身 体 的 な 場 所 の 延 長 で あ る 。「 象 徴 的 な 空 間 と し て の 場 所 」は 、典 型 的 に は 宗 教 的 、神 話 的 空 間 を あ ら わ す 。「 論 点 や 議 論 の 隠 さ れ た 所 と し て の 場 所 」 は 、 古 代 レ ト リ ッ ク の 具 体 的 な 議 論 法 と し て 始 ま る 言 語 的 ト ポ ス と し て の 場 で あ る 。 言 語 と 場 所 は 密 接 な 関 係 に あ り 、 そ こ か ら さ ら に 述 語 性 の 観 点 か ら 場 所

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の 本 質 に 迫 っ て い こ う と し た の が 、「 述 語 的 世 界 と し て の 場 所 」で あ る 。こ こ で は 、 ま ず 形 式 論 理 学 に お け る 述 語 論 理 学5に つ い て 考 察 し 、 西 田 幾 多 郎 の 「 場 所 の 論 理 」 の 述 語 的 論 理 と し て の 性 格 を 明 ら か に し よ う と す る 。 西 田 に よ れ ば 、 こ れ ま で の 認 識 論 は 主 観 と 客 観 の 対 立 か ら 出 発 し た が 、 む し ろ 意 識( 自 覚 )か ら こ そ 出 発 す べ き で あ る 。こ の 場 合 、 認 識 の 根 本 は 、何 よ り も < 自 己 の 中 に 自 己 を 映 す > こ と に 求 め ら れ る 。 す な わ ち 、 意 識 の 野 は 場 所 と し て の 性 格 を 持 つ が 、 そ の こ と が 最 も 明 瞭 に あ ら わ れ る の は 、判 断 の 論 理 形 式 中 で あ る 。判 断 と は 、元 々 形 式 論 理 学 上 、特 殊( 主 語 ) が 一 般 ( 述 語 ) の う ち に 包 摂 さ れ る こ と 、 つ ま り 、 特 殊 が 一 般 に お い て あ る こ と だ か ら で あ る 。 こ の よ う に < S は P で あ る > に 見 ら れ る 包 摂 関 係 と は 、 一 般 者 ( P ) が 特 殊 ( S ) を 包 む 関 係 で あ る が 、 そ れ は さ ら に 言 え ば 、 一 般 が お の れ を 特 殊 化 す る こ と 、 つ ま り 一 般 者 の 自 己 限 定 で あ る 、 あ る 判 断 が 現 実 に 妥 当 す る た め に は 、 そ の 根 底 に 具 体 的 一 般 者 が な け れ ば な ら な い 。 そ し て 、 こ の 具 体 的 一 般 者 と い う の は 、 も っ と も 豊 か に 自 己 に お い て 自 己 を 映 す よ う な 世 界 あ る い は ( 述 語 的 ) 場 所 の こ と な の で あ る 。( 中 村 1989:173) こ こ で 、 西 田 は 、 判 断 は 、 従 来 は 主 語 中 心 で あ っ た も の を 、 逆 方 向 で 述 語 中 心 に 考 え る べ き で あ る 、 と 主 張 す る 。 判 断 の 背 後 に は 述 語 面 が な け れ ば な ら な い 。 そ し て 、 ど こ ま で も 主 語 は 述 語 に お い て 存 在 す る の で あ る 、 と 。 場 所 は 自 分 と 物 が 、 と も に そ こ に 「 於 い て あ る 」 場 所 で あ り 、 つ ま り 、 存 在 を 根 源 的 に 可 能 な ら し め る 場 所 、 無 の 場 所 で あ る が 、 そ れ は 、 超 越 的 述 語 に 支 え ら れ て い る の で あ る 。

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図 1 西 田 の 判 断 の 形 式 西 田 は 、 長 い 間 哲 学 の 共 通 の 前 提 で あ っ た 主 語 論 理 主 義 の 立 場 か ら 述 語 論 理 主 義 の 立 場 へ コ ペ ル ニ ク ス 的 転 換 を お こ な う と と も に 、 そ れ を 通 し て 、 す べ て の 実 在 を 述 語 的 基 体 = 無 に よ っ て 根 拠 づ け 、無 の 場 所 を 有 の 欠 如 と し て で は な く 、 積 極 的 に あ ら ゆ る 有 を 生 み 出 す 豊 か な 世 界 と し て 捉 え た の で あ っ た 。( 同 18 1) こ う し て 場 所 の 論 理 は 、 述 語 論 理 を 主 語 論 理 と 同 等 の 資 格 を 持 つ こ と を 明 ら か に し た の で あ る 。 中 村 は さ ら に 、 西 田 の 場 所 の 論 理 が 、 期 せ ず し て < 日 本 語 の 論 理 > を 明 ら か に し て い た 、 と い う 。 そ の こ と を は っ き り と 気 づ か せ て く れ る も の と し て 、 時 枝 誠 記 の 日 本 語 文 法 論 を あ げ る 。 時 枝 ( 1941) の い わ ゆ る < 言 語 過 程 説 > は 「 言 語 を 、 人 間 行 為 の 一 と し て 観 察 し 、す べ て を 、 言 語 主 体 の 機 能 に 換 言 し よ う と す る 学 説 」 だ と い う 。 時 枝 の < 言 語 過 程 説 > と 西 田 の < 場 所 の 論 理 > と の つ な が り を こ と ば 上 見 え や す い か た ち で 示 し て い る の は 、言 語 活 動 の 基 礎 あ る い は 条 件 と し て の < 場 面 > と い う 考 え 方 で あ る 。 < 場 面 > は 単 な る 物 理 的 空 間 に と ど ま ら ず 、 そ れ を 充 た す も の や 色 づ け る も の を 含 ん で い る 。 い や そ れ は 、 場 所 を 充 た す 物 事 や 情 景 だ け で は な く 、 そ れ ら を 志 向 す る 主 体 の 態 度 、気 分 、感 情 さ え も 含 ん で い る 。「 場 面 は 純 客 体 的 世 界 で も な く 、 又 純 主 体 的 な 志 向 作 用 で も な く 、 い は ば 主 客 の 融 合 し た 世 界 で あ る 。」( 時 枝 1941: 4 4) そ し て 時 枝 は 、 言 語 表 現 に 不 可 欠 な こ の 場 面 に お け 無 の 場 所 P ( 述 語 ) S( 主 語 )

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る 主 体 と 客 体 の 関 係 を 、( 初 期 の 現 象 学 に 似 て )客 体 的 事 実 が 主 体 的 認 定 に よ っ て 成 立 す る 、 と い う 形 で 捉 え た 。 そ し て 言 語 で は 、 客 体 的 事 実 は 「 詞 」 に よ っ て 表 現 さ れ 、 主 体 的 認 定 の 過 程 は 「 辞 」 に よ っ て 表 現 さ れ る と し た の で あ る 。 こ こ に 、 言 語 ( 文 ) は 、 客 体 的 表 現 ( 詞 ) と 主 体 的 表 現 ( 辞 ) と の 統 一 、後 者 に よ っ て 前 者 が 包 ま れ る 統 一 と し て 捉 え ら れ る こ と に な っ た と い う 。 こ う し て 、 時 枝 の 所 説 が 、 期 せ ず し て 西 田 の 場 所 の 論 理 を 日 本 語 の 統 語 論 に お い て 明 ら か に し た の だ と い う6 中 村 は 、 さ ら に 述 語 的 論 理 と し て 、 パ レ オ ロ ジ ッ ク ( 古 論 理 ) を あ げ る 。 ア リ ス ト テ レ ス 以 来 の 伝 統 的 論 理 学 = 形 式 論 理 学 は 、 主 語 的 同 一 性 に 基 づ い た 主 語 的 な 論 理 で あ っ た 。 そ の 逆 転 と し て の 述 語 論 理 と は 、 述 語 的 同 一 性 に 基 づ い た 論 理 で あ る が 、 こ の 意 味 を 明 ら か に し た の が 、 ア リ エ テ ィ ( 1976 ) の い う パ レ オ ロ ジ ッ ク で あ っ た 。 ≪ す べ て の 処 女 は 聖 母 マ リ ア を 憧 れ る 。 彼 女 は 処 女 で あ る 。 彼 女 は 聖 母 マ リ ア を 憧 れ る 。 ≫ ( S) S は 通 常 の 形 式 論 理 学 の 三 段 論 法 で あ り 、 大 前 提 の 主 語 ( す べ て の 処 女 ) の う ち に 小 前 提 の 主 語 ( 彼 女 ) が 包 摂 さ れ 、 そ の 同 一 性 に 基 づ い て 結 論 が 出 て く る 。 一 方 、 ≪ 私 は 処 女 で す 。 聖 母 マ リ ア は 処 女 で す 。 ゆ え に 、 私 は 聖 母 マ リ ア で す 。 ≫ ( S’ ) S’ の 推 論 は 、述 語( 処 女 )の 同 一 性 に 基 づ い て 結 論 が 引 き 出 さ れ る 。こ れ は 欲 求 や 願 望 に 基 づ い た < 私 > と < 聖 母 マ リ ア > と の 結 合 で あ る 。 こ の よ う な 述 語 的 論 理 は 、 分 裂 病 者 ( マ マ7) に 見 ら れ る が 、 こ れ に 着 目 し こ の 種 の 思 考 法 を < 古 論 理 > と し て モ デ ル 化 し た の が ア リ エ テ ィ で あ っ た 。

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主 語 論 理 述 語 論 理 大 前 提 小 前 提 結 論 = ( 中 村 1989:1 97 ) 図 2 主 語 論 理 と 述 語 論 理 ( 中 村 ) ア リ エ テ ィ に よ れ ば 、古 論 理 的 思 考 で は 、A は 、B= 非 A で あ り う る だ け で は な く 、 同 時 に 同 じ 場 所 で A で あ る と と も に B= 非 A で も あ り う る 。 す な わ ち 、 A は A か 非 A の ど ち ら か で な け れ ば な ら な い と い う ア リ ス ト テ レ ス の 排 中 律 が 無 視 さ れ る 。 こ う し た 古 論 理 的 思 考 は 、 病 的 な も の と し て 、 分 裂 病 者 に の み 見 ら れ る の で は な く 、 神 話 的 な 象 徴 作 用 や 芸 術 的 な 創 造 の メ カ ニ ズ ム の う ち に も 見 出 さ れ る の で あ り 、 現 代 人 が 積 極 的 に こ れ を 開 発 し て 創 造 的 に 生 か す べ き で あ る と 説 い た の で あ る 。 い わ ゆ る 、 隠 喩 ( メ タ フ ァ ー ) の 思 考 聖 母 マ リ ア を 憧 れ る も の 全 て の 処 女 処 女 私 処 女 彼 女 処 女 聖 母 マ リ ア 聖 母 マ リ ア を 憧 れ る も の 彼 女 私 聖 母 マ リ ア

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法 も こ う し た 述 語 的 論 理 に 基 づ い て い る も の と 考 え ら れ る 。 こ う し て 、 述 語 的 世 界 は 、 述 語 論 理 学 か ら 日 本 語 の 論 理 そ し て 西 田 の 場 所 の 論 理 を 経 て 、 パ レ オ ロ ジ ッ ク に 至 る ま で 、 そ れ ぞ れ 場 所 の 問 題 と 深 く か か わ っ て い る こ と を 中 村 は 明 ら か に し た 。 中 村 は 最 後 に 、 場 所 の 反 対 概 念 と し て の 主 体 の 問 題 に つ い て 触 れ て い る 。 こ こ で 重 要 な 指 摘 は 、 場 所 の 重 要 性 を 強 調 す る こ と が 、 主 体 を 否 定 す る こ と で は な い と い う こ と で あ る 。 中 村 に と っ て 、 主 体 を 実 体 で は な く て 活 動 と し て 捉 え 、 主 体 に 正 当 な 位 置 を 与 え る こ と が 目 的 な の で あ る 。 共 同 体 か ら 自 我 ( 個 人 ) の 発 生 ・ 自 立 は 、 場 所 か ら 主 体 の 、 述 語 か ら 主 語 の 発 生 ・ 自 立 に 対 応 し て お り 、 主 語 = 主 体 の 働 き は 、 何 よ り も 述 語 = 基 体 的 な も の の 自 覚 的 な 統 合 に あ る 。 本 研 究 の 主 目 的 も 、 主 語 論 理 と 述 語 論 理 の 統 合 と い う こ と で あ り 、 中 村 の 提 起 に も 呼 応 す る も の と な る 。 3. 城 戸 雪 照 の 「 場 所 の 哲 学 」 城 戸 ( 2003) は 、 西 田 哲 学 の 問 題 意 識 を 継 承 し 、 こ れ を 科 学 的 視 点 か ら 考 察 す る も の と し て「 場 所 の 哲 学 」を 提 起 す る 。「 場 所 の 哲 学 」は 、主 観 的 観 念 論 ( 主 観 が 客 観 を 構 成 す る ) と 客 観 的 唯 物 論 ( 客 観 が 主 観 に 反 映 す る ) を 統 合 す る「 主 客 構 成 関 係 論 」、存 在 者 と 場 所 を 相 補 的 な も の と し て こ れ を 統 合 す る「 場 所 的 存 在 論 」、主 語 の 論 理 と 述 語 の 論 理 を 統 合 す る「 場 所 的 論 理 学( 弁 証 法 論 理 学 )」 か ら 構 成 さ れ る 。 3.1. 場 所 の 開 示 こ れ ら 認 識 論 、 存 在 論 、 論 理 学 の 問 題 を 取 り 上 げ る 前 に 、 生 命 体 に お い て 認 識 、 存 在 、 論 理 が 成 立 す る に は 、 ま ず 、 個 々 の 生 命 体 に よ っ て 「 場 所 」 が 開 示 さ れ な く て は な ら な い と い う こ と を 確 認 し て お き た い 。 こ こ で い う 「 場 所 」 は 、 個 々 の 主 体 が 開 く 場 所 で あ り 、 ハ イ デ ガ ー の 現 存 在 の 「 現 」 に あ た る も の で あ ろ う 。 こ の 「 場 所 」 は 、 個 々 の 生 命 体 の 認 識 機 構 、 環 境 世 界 に 依 存 し て 異 な る が 、 種 を 共 通 に す る 限 り 、 開 示 さ れ る 場 所 は ほ と ん ど 共 通 す る

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こ と に な る 。 こ う し た 共 通 の 認 識 機 構 、 環 境 世 界 に よ っ て 形 成 さ れ る 場 所 の こ と を「 場 」と 城 戸 は 呼 ぶ 。他 者 が 自 己 と 同 一 で あ る こ と が 了 解 で き る の は 、 個 々 の 生 命 体 の 存 在 す る 共 通 の 「 場 」 を 基 準 と す る か ら で あ る 。 こ の 「 場 」 が 相 互 主 観 化 の 基 礎 で あ り 、 客 観 の 基 礎 と な る と す る 。 こ こ で い う 「 場 」 と は 、 複 数 の 個 体 に 共 通 す る 場 所 で あ り 、 ハ イ デ ガ ー の い う 「 共 同 現 存 在 」 に 当 た る 意 味 も あ り 、 も う 1 つ は 客 体 を 含 め た 「 世 界 」 と い う 意 味 を も 含 め て 言 っ て い る の で は な い か と 考 え ら れ る 。 3.2. 主 客 構 成 関 係 論 ま ず 、 認 識 論 と し て の 「 主 客 構 成 関 係 論 」 に つ い て 城 戸 は 述 べ る 。「 主 体 」 と い う の は 、 個 々 の 「 場 所 」 を 開 示 す る 生 命 体 の こ と で あ り 、「 客 体 」 と は 、 そ の 「 場 所 」 と し て の 生 命 体 が 開 示 す る 外 的 な 世 界 で あ る 。 認 識 論 的 に み る と 、主 体 と い う の は 、「 主 観 」で あ り 、あ る 認 識 機 構 を 持 つ 生 命 体 が 自 ら 開 示 し た 「 場 所 」 に お い て 、 そ の 認 識 機 構 に 反 映 し た 外 界 の 内 容 で あ る 。「 主 観 」 は 「 場 所 」 に よ っ て 規 定 さ れ る 。 一 方 、 客 体 は 、 認 識 論 的 に み る と 「 客 観 」 で あ り 、 複 数 の 主 体 が 共 有 す る 「 場 」 に お い て 、 主 体 に よ っ て 構 成 さ れ る と と も に 、 そ の 主 体 の 認 識 機 構 に 反 映 す る 外 界 で あ る 。 客 観 と い う の は 、 主 体 に よ っ て 構 成 さ れ つ つ 主 体 に よ っ て 反 映 す る と い う 相 補 性 を も つ の で あ り 、 構 成 的 側 面 か ら 見 れ ば 、 観 念 論 が で き る し 、 反 映 的 側 面 か ら 見 れ ば 、 唯 物 論 が で き る が 、 そ れ ら は 客 観 も 持 つ 二 側 面 の う ち の 一 側 面 で あ り 、 ど ち ら が 正 し い と 言 え る も の で は な い と い う 。 こ う し て 、「 認 識 」 と は 、「 場 所 」 に お い て 構 成 さ れ 、 か つ 、 反 映 す る 「 主 観 」と 、「 場 」に お い て 構 成 さ れ 、か つ 反 映 す る「 客 観 」と の 相 互 作 用 で あ る 。 こ の 主 客 の 構 成 関 係 と し て 構 築 さ れ る 認 識 論 を 「 主 客 構 成 関 係 論 」 と 呼 ぶ 。

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図 3 「 場 所 」( 場 ) と 主 体 ( 主 観 )、 客 体 ( 客 観 ) 3.3. 場 所 的 存 在 論 次 に 、 存 在 論 と し て の 「 場 所 的 存 在 論 」 に つ い て 述 べ る 。 あ る 認 識 機 構 を 備 え た 生 命 体 に よ っ て 開 示 さ れ た「 場 」そ れ 自 体 が「 存 在 」で あ り 、そ の「 場 」 に お い て 形 成 さ れ る 主 体 と 客 体 の 総 体 が「 存 在 者 」で あ る 。「 存 在 」は 、「 場 」 が 開 示 さ れ て は じ め て 生 ま れ る も の で あ り 、 か つ 主 体 か ら 離 れ た 「 存 在 」 と は あ り え な い の で あ る 。 一 般 に 、 存 在 と い う と ま ず 、 存 在 す る も の を 考 え る の が 普 通 で あ る 。 こ れ を 存 在 者 = 存 在 の 存 在 論 と 呼 ぶ と す れ ば 、 存 在 を 成 り 立 た せ る 場 所 を 基 盤 と し て 考 え る 存 在 論 は 場 所 = 存 在 の 存 在 論 で あ る 。 城 戸 ( 2003) は 「 こ の 場 所 = 存 在 の 立 場 か ら 存 在 者 = 存 在 を 考 え 、 存 在 者 = 存 在 の 立 場 か ら 場 所 = 存 在 を 考 え る 存 在 論 は 、 広 い 意 味 で 開 示 さ れ る そ の 場 所 の 立 場 か ら 基 礎 付 け ら れ る 存 在 論 で あ る か ら 、 こ れ を 「 場 所 的 存 在 論 」 と 呼 ぶ こ と に す る 。」( 51) と 規 定 す る 。 存 在 と い う た め に は 個 物 が な け れ ば な ら な い 。 個 物 が あ っ て 初 め て 存 在 と い う こ と が 生 じ る 。 し か し 、 個 物 は 常 に 場 所 に お い て あ り 、 場 所 に 規 定 さ れ て 存 在 す る の で あ り 、 個 物 と 場 所 と は 存 在 を 規 定 す る 2 つ の 欠 く こ と の で き な い モ メ ン ト な の で あ る 。 す な わ ち 、 存 在 と は 、 個 物 と 場 所 と の 相 補 的 な 相 互 作 用 で あ る 。 個 物 と 場 所 が 相 関 す る こ と に よ っ て 生 ま れ る の が 出 来 事 で あ る 。 出 来 事 と い う の は 、 個 物 ( = 存 在 者 ) と 場 所 ( = 存 在 あ ら し め る も の ) と の 相 互 作 用 で あ る 。ま ず 存 在 す る の は 出 来 事 で あ り( 関 係 の 一 次 性 )、そ こ か ら 個 物 が 生 ま れ る の で あ る 。 場 主 主 客

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3.4. 場 所 の 論 理 学 第 3 に 主 語 論 理 と 述 語 論 理 の 統 合 と し て の 場 所 の 論 理 学 に つ い て 述 べ る 。 ま ず 、 論 理 と い う の は 、 あ る 何 か と 何 か の 関 係 の 表 現 で あ り 、 関 係 が 生 ま れ る た め に は 、個 々 の 主 体 や 客 体(「 存 在 者 」)と 、そ れ が 存 在 す る 場 所(「 所 在 」) と が 互 い に 分 離 す る こ と が 必 要 で あ る と い う 。「 所 在 」 と い う の は 、「 存 在 者 が 存 在 す る 概 念 的 位 置 ま た は 空 間 的 も し く は 時 間 的 位 置 」 の こ と で あ り 、 広 い 意 味 で 、 そ の 「 存 在 者 」 の 述 語 に 相 当 す る 部 分 で あ る 。「 主 語 論 理 」 と は 、 個 々 の 主 体 ま た は 客 体 ( 存 在 者 ) か ら 出 発 し 、 そ う し た 主 体 ま た は 客 体 が お か れ て い る 所 在 = 場 所 = 述 語 を そ の 主 語 に 属 す る 性 質 と し て 論 じ る 論 理 で あ る 。た と え ば 、「 太 陽 は 輝 く 」と い う 文 で は 、太 陽 と い う 主 語 が 輝 く と い う 性 質 を 有 す る と 考 え る 。 太 陽 と い う 主 語 が ま ず あ っ て 、 こ の 主 語 に 包 摂 さ れ る も の と し て 輝 く と い う 性 質 を 述 定 す る の で あ る 。こ れ に 対 し 、「 述 語 論 理 」は 、 所 在 = 場 所 = 述 語 か ら 出 発 し 、そ の 場 所 に お い て 包 み 込 ま れ る 主 体 や 客 体( 存 在 者 )に つ い て 論 じ る 論 理 で あ る 。例 え ば 、「 輝 く 」と い う 所 在 = 場 所 か ら 出 発 し 、 輝 く も の が 包 摂 す る も の を 同 一 の も の と し て 論 じ る の で あ る 。 主 語 論 理 か ら す れ ば 、 女 性 と 太 陽 は 、 主 語 、 主 体 と し て は 明 ら か に 異 な る も の で あ る 。 し か し 、 輝 く と い う 述 語 的 同 一 性 の も と で 見 る な ら ば 、 女 性 も 太 陽 も 輝 く も の で あ り 、「 太 陽 は 輝 く 」、「 女 性 は ( 男 性 に と っ て ) 輝 く 」 故 に 、「 女 性 は 太 陽 で あ る 」 と い う 結 論 を 導 く 。 一 般 に メ タ フ ァ ー ( 隠 喩 ) は 述 語 論 理 に 従 っ て い る の で あ り 、 メ タ フ ァ ー の 重 要 性 を 説 く 認 知 言 語 学 は 、 述 語 論 理 の 復 権 と い う 点 で 評 価 さ れ る べ き で あ る と 考 え る 。 述 語 論 理 は 、 言 語 以 前 の イ メ ー ジ 的 同 一 性 を 重 視 す る 論 理 で あ る 。 ま た 、 述 語 論 理 は 主 語 論 理 よ り も 基 底 的 、 根 底 的 な 論 理 で あ り 、 意 識 を 形 成 す る の が 主 に 主 語 論 理 で あ る と す れ ば 、 無 意 識 を 形 成 し て い る の は 主 に 述 語 論 理 な の で あ る と す る 。

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主 語 論 理 述 語 論 理 「 女 性 は 輝 く 」 「 太 陽 は 輝 く 」 「 太 陽 は 輝 く 」 「 女 性 は 太 陽 だ 」 = 図 4 主 語 論 理 と 述 語 論 理 ( 城 戸 ) 新 し い 論 理 学 は 、 こ の 主 語 論 理 と 述 語 論 理 を 論 理 の 相 反 す る 相 補 的 な 2 つ の 側 面 で あ る こ と を 自 覚 的 に 統 合 す る も の で あ り 、 主 語 と 述 語 と を 統 合 す る 場 所 に お け る 論 理 学 で あ る か ら 、 こ れ を 「 場 所 的 論 理 学 」 と 城 戸 は 呼 ぶ 。 全 く 相 い れ な い 、相 反 す る 2 つ の 論 理 を 統 合 す る 論 理 と し て は 、「 弁 証 法 論 理 」 が あ る 。 弁 証 法 論 理 が 形 成 さ れ る た め に は 、 感 性 と 悟 性 と を 積 極 的 に 統 合 す る こ と 、 感 性 的 認 識 と 悟 性 的 認 識 と を 結 合 す る こ と が 必 要 で あ る 。 感 性 的 認 識 は 、 言 語 以 前 の 論 理 、 非 言 語 的 論 理 に 基 づ く も の で あ り 、 悟 性 的 認 識 は 、 言 語 を 媒 介 と し た 論 理 で あ る 。 言 語 を 媒 介 と し た 論 理 に 非 言 語 的 な も の を 結 合 す る と い う こ と は 、 通 常 の 言 語 の 論 理 に お け る 矛 盾 律 、 同 一 律 、 排 中 律 と い う 論 理 法 則 を 相 対 化 す る こ と が 必 要 で あ る 。 概 念 的 言 語 に 矛 盾 を 抱 え 込 ま せ る こ と に よ っ て 、 そ こ に 述 語 論 理 の 切 れ 目 を 入 れ る こ と に よ っ て 、 は じ め て 主 語 論 理 と 述 語 論 理 と が 合 体 し て 、 絶 え ず 変 動 し て や ま な い 現 実 の 世 界 を 表 現 す る こ と が で き る よ う に な る の で あ る 、 と 城 戸 は し て い る 。 た だ 、 こ の 2 つ の 論 理 の 統 合 の 内 容 に つ い て は 、 別 の 機 会 に 個 別 的 な テ ー マ を 通 し て 具 体 的 に 論 じ る こ と に し た い と し て 、 詳 細 は 述 べ ら れ て い な い 。 場 所 論 の 観 点 か ら 、 こ の 主 語 論 理 と 述 語 論 理 の 統 合 を め ざ し て い く こ と は 、 こ れ か ら の 大 き な 課 題 で あ る が 、 次 の よ う な 示 唆 が 見 ら れ る8 太 陽 輝 く 輝 く 女 性 輝 く 太 陽 女 性 太 陽

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こ こ で 、注 意 す べ き は 、「 場 所 」と「 主 体 」は 、互 換 性 が あ る と い う 点 で あ る 。 本 来 場 所 と 主 体 と い う の は 、 最 も 基 本 的 な 対 立 構 造 を 持 っ て い る の で あ る が 、 そ の 基 本 的 な 性 格 か ら 、 場 所 と 主 体 の 同 一 性 も 基 礎 付 け ら れ て く る の で あ る 。 つ ま り 主 語 と な る も の を 場 所 と 見 る こ と も 出 来 る し 、 場 所 と な る も の を 主 語 と し て 考 え る こ と も で き る 。 西 田 の 絶 対 矛 盾 的 自 己 同 一 の 構 造 が 生 ま れ る 背 景 に は 、 こ う し た 主 体 と 場 所 と の 同 一 性 と い う 問 題 が 潜 ん で い る の で あ る 。し た が っ て 、あ る「 状 態 」や「 動 作 」の 帰 属 す る「 場 所 」が「 主 体 」 と し て 機 能 す る と き 、 そ れ は 言 語 空 間 に お い て は 、 「 主 語 」 と し て 現 れ る と い う こ と を 意 味 し て い る 。「 沖 縄 は 暖 か い 」と い う と き 、文 字 通 り 、「 沖 縄 」 を 主 体 、主 語 と し て 捉 え れ ば 、暖 か い と い う こ と の 主 語 、主 体 は 沖 縄 で あ る 。 し か し 、 同 時 に そ れ は 、 人 間 が 沖 縄 と い う 場 所 に お い て 暖 か い と 感 じ る と い う こ と を 意 味 し て い る 。 人 の 心 が 温 か い と い う の も 、 人 の 心 と い う 場 所 を 暖 か い と 誰 か が 感 じ る の で あ り 、 そ れ は 主 語 と 同 時 に 場 所 で あ る 。 人 は 主 体 で あ る と と も に 場 所 で あ る と い う の は 、 そ こ に あ る 主 体 と 場 所 の 絶 対 矛 盾 的 自 己 同 一 性 、逆 対 応 を 指 し て い る の で あ る 。つ ま り 、場 所 か ら 出 発 し た 言 語 は 、 い つ で も 、 そ の 場 所 を 主 語 と し て 考 え る こ と が 可 能 で あ り 、 こ の 場 所 を 主 語 と し て 考 え る 思 考 様 式 に な る こ と で 、 場 所 的 思 考 が 主 体 的 思 考 に 転 換 さ れ る の で あ る 。 そ こ に 言 語 が 媒 介 項 と し て 、 主 語 論 理 的 思 考 が 生 ま れ る 根 拠 が あ る 。 つ ま り 、「 主 語 論 理 的 思 考 」 は 、「 述 語 論 理 的 思 考 」 か ら 生 じ た 。 非 言 語 的 な 述 語 論 理 的 思 考 の 基 礎 の 上 に 、 主 語 論 理 的 思 考 が 生 ま れ 、 言 語 が 発 生 し た の で あ る と 考 え ら れ る 。 場 か ら 言 語 が 発 生 し た シ ス テ ム を 解 明 し 、 主 語 論 理 の 背 景 に あ る 述 語 論 理 的 発 想 に 帰 っ て み る と い う こ と が 必 要 な の で あ る 。 求 め ら れ る の は 、 場 所 か ら 主 体 が 自 立 し 、 そ し て 主 体 が 自 立 し た 上 で 、 場 所 に 帰 っ て い く と い う 弁 証 法 的 発 展 で あ る 。 注

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Casey(1997)は 、 西 洋 哲 学 の 中 で 、「 空 間 」 概 念 の も と に 隠 蔽 さ れ 、 抑 圧 さ れ て き た 「 場 所 」 の 概 念 の 歴 史 を 明 ら か に し た 。 そ し て 、「 場 所 」 の 理 念 を 、 カ ン ト 、 フ ッ サ ー ル 、ハ イ デ ガ ー 、メ ル ロ = ポ ン テ ィ な ど の 現 代 の 哲 学 思 想 を 組 み 合 わ せ な が ら 、復 興 し よ う と し て い る 。 2エ ド ワ ー ド・ レ ル フ『 場 所 の 現 象 学 』ち く ま 学 芸 文 庫 、1999 な ど で 論 じ ら れ て い る 。「 場 所 」 と い う 言 葉 で わ れ わ れ は 一 体 何 を 了 解 し て い る の か と い う 「 場 所 へ の 問 い 」 を ハ イ デ ガ ー の 解 釈 学 的 現 象 学 の 方 法 論 か ら 明 ら か に し よ う と し た 論 考 と し て 阪 本 ( 2 0 0 8 ) が あ る 。 4 ド イ ツ 語 で「 … が あ る 」と い う 表 現 は 、「 e s g i bt ~ 」( そ れ が ~ を 与 え る )で あ る が 、 こ こ で の e s( そ れ ) と は 、 人 間 が 開 く 「 現 」( そ こ ) と い う 場 所 の こ と で は な い だ ろ う か 。 人 間 が 開 示 す る 場 所 が 存 在 物 を 与 え る の で あ る 。 5中 村 (1989) に よ れ ば 、 述 語 論 理 学 と は 命 題 を 関 数 の 形 式 F(x), G(x, y) ・ ・ に よ っ て 表 現 し 、あ ら ゆ る 主 語 を 述 語 の 場 に お い て 捉 え る 論 理 学 だ と い う 。命 題 は 主 語 的 実 体 本 位 で は な く 述 語 的 関 係 性 に お い て 、ま た 、述 語 は 埋 め る べ き 空 白 を 含 ん だ 一 種 の 場 と し て 捉 え ら れ る と し て い る 。 た だ 、 注 意 す べ き は 、 こ う し た 共 通 性 は あ る も の の 、 形 式 論 理 学 と し て の 述 語 論 理 学 と 場 所 の 論 理 と し て の 述 語 論 理 と い う の は 異 な る も の で あ る 。 述 語 論 理 は 、 主 語 論 理 を 生 み 出 し 、 そ の 基 底 に あ る 原 初 的 な 論 理 の こ と で あ る 。 6 た だ 、 日 本 語 文 法 論 の 立 場 か ら は 、 時 枝 の 文 法 論 に 対 し て は さ ま ざ ま な 問 題 点 が 指 摘 さ れ る 。 た と え ば 野 村 ( 1 9 9 1 ) は 、「 詞 と 辞 、 客 体 的 表 現 と 主 体 的 表 現 、 叙 述 内 容 と 陳 述 の 区 別 と い う 文 観 、 述 語 観 は 、 近 代 的 な 客 観 ・ 主 観 図 式 に 基 づ い て い る 。 動 詞 + 助 動 詞 に 分 析 さ れ る 述 語 に は 、客 観 も 主 観 も 認 め ら れ な い 。そ れ は 一 ま と ま り に 事 態 の 見 え 姿 を 表 わ し て い る だ け で あ る 」と す る 。筆 者 も 、時 枝 の 文 法 論 を 全 面 的 に 受 け 入 れ る わ け で は な い が 、時 枝 の 場 面 論 は 、言 語 が そ の 場 面 と の 関 係 に お い て 表 現 さ れ る 、と い う 基 本 的 な 姿 勢 を 維 持 す る も の と し て 、注 目 さ れ る 。時 枝 文 法 の 全 体 的 評 価 は ま た 別 の 機 会 に し た い と 思 う 。 7 現 在 、 分 裂 病 は 「 統 合 失 調 症 」 と 呼 ば れ て い る が 、 出 典 の 用 語 の ま ま 使 う こ と に す る 。 8 大 塚 正 之 氏 ( 城 戸 雪 照 ) 主 宰 の 研 究 会 の 趣 意 書 「 場 所 の 言 語 学 研 究 の 基 本 的 視 座 」 (2010 非 公 開 ) か ら の 引 用 。

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第 2 章 言 語 学 に お け る 「 場 所 論 」 の 受 容

第 1 章 で 述 べ た 西 田 の 「 場 所 の 論 理 」 は 直 接 日 本 語 の 問 題 に つ い て 言 及 し た も の で は な い が 、一 方 で 国 語 学 の 中 で は 、時 枝(1941)や 佐 久 間( 1959)、 三 尾(1948:2003)の 場 面 論 と い う 形 で 場 所 の 論 理 と 軌 を 一 に し た 指 摘 が な さ れ て い る 。ま た 、最 近 の 語 用 論 や 談 話 分 析 の 研 究 の 中 で も 、「 場 交 渉 論 」と し て 、「 場 」 の 考 え 方 を 日 本 語 研 究 に 応 用 し て い く メ イ ナ ー ド (2000)、 井 出 (2006)の 取 り 組 み が あ る 。 言 語 学 に お い て は 、池 上( 1981)は 、ド イ ツ の 「 場 所 理 論 」 を 適 用 し た 言 語 学 を 提 起 し よ う と し た も の で あ り 、 日 本 に お け る「 認 知 言 語 学 」の 受 容 の 中 で 、「 場 所 論 」が 受 容 さ れ て い る こ と が 見 て 取 れ る 。 ま ず は 、 日 本 語 研 究 に お け る 「 場 の 理 論 」 の 系 譜 、 語 用 論 研 究 に お け る 「 場 所 論 」 の 系 譜 、 言 語 学 に お け る 「 場 所 理 論 」 の 受 容 の 順 に つ い て 見 て い く 。 1. 日 本 語 研 究 に お け る 「 場 の 理 論 」 の 系 譜 日 本 語 研 究 に 「 場 」 の 理 論 を 初 め て 導 入 し た の は 佐 久 間 鼎 だ と さ れ る 。 佐 久 間 ( 1959) で は 、「 発 言 の 場 ・ 話 題 の 場 ・ 課 題 の 場 」 を 提 起 し て い る 。「 発 言 の 場 」 と は 、 表 出 や 呼 び か け が 行 わ れ る 場 で あ り 、 発 言 者 が 話 手 と し て ひ と つ の 極 を 形 づ く り 、 こ れ に 対 し て も う ひ と つ の 極 に 話 し 手 が い て 、 こ の 両 極 が 焦 点 的 な 位 置 を 占 め る 場 で あ る 。 次 に 「 話 題 の 場 」 は 、 情 景 が 視 聴 の 知 覚 面 の 前 面 に 立 ち は だ か る 場 合 で 、 共 同 の 場 を 構 成 す る た め に 、 そ の 情 景 を 言 語 化 し て 話 題 と す る と き に 成 り 立 つ 場 で あ る 。 そ し て 、「 課 題 の 場 」 と は 、 題 目 を 解 答 請 求 の た め に 提 出 し 、 そ れ に よ っ て 緊 張 状 態 を 起 こ し 、 そ れ が 解 決 を 要 請 す る こ と に つ な が る 場 の こ と で あ る 。 日 本 語 に お い て は 、 課 題 の 場 を 設 定 し 、そ の 範 囲 を 確 立 し 、言 明 の 通 用( 妥 当 )す る 限 界 を 明 示 す る 働 き 、 す な わ ち 題 目 の 提 起 を 行 う の が 提 題 助 詞 「 は 」 の 働 き と い う わ け で あ る 。 佐 久 間 は 日 本 語 の 「 ハ 」 が 「 課 題 の 場 」 を 設 定 す る と い う 提 起 を し た と い う 点 で 独 創 的 な 点 が あ る が 、 そ の 三 種 の 場 は 、 別 々 の 場 と し て 捉 え ら れ て い て 、 そ れ ら が ど の よ う な 関 係 に あ る の か は っ き り し な い の が 難 点 で あ る 。 特 に 、

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「 発 言 の 場 」 と 「 話 題 の 場 」 の 違 い が は っ き り し な い の で あ る 。 む し ろ 佐 久 間 が 以 前 に 述 べ た 「 現 場 」 と 「 話 の 場 」 と い う 概 念 の ほ う が 分 か り や す く 思 わ れ る 。 一 方 で 、 三 尾 砂 ( 1 948=2003 ) は 、「 話 の 場 」 と い う 概 念 を 提 起 し 、 場 と 文 の 相 関 原 理 か ら 文 類 型 を 提 起 し て い る 。 話 手 の 「 つ も り 」 の 発 生 か ら 言 の 実 現 ま で を 言 語 行 動 と い う な ら ば 、 次 の よ う に 話 の 場 を 定 義 す る こ と が 出 来 よ う 。 あ る し ゅ ん か ん に お い て 、 言 語 行 動 に な ん ら か の 影 響 を あ た え る 条 件 の 総 体 を 、 そ の し ゅ ん か ん の 話 の 場 と い う 。( 同 23) 話 の 場 も 、 話 手 と い う 主 体 が 中 心 で 、 場 は 話 手 の 作 用 を 受 け る 被 動 の 場 で あ る と 、 か ん た ん に は 考 え ら れ が ち で あ る 。 し か し 、 話 に お け る 場 は あ べ こ べ で あ っ て 、 話 手 は 場 か ら 働 き か け ら れ る も の で あ る 。 場 が 能 動 で 、 話 手 は 被 動 な の で あ る 。 場 が 話 手 に 影 響 を あ た え る 、 す な わ ち 場 が 話 手 を 規 定 す る の で あ る 。 話 手 は 場 「 に お い て 」 話 し て い る だ け で な く 、 場 「 に よ っ て 」 規 定 さ れ て い る の で あ る 。 ゆ え に 話 の 場 と い う の は 、 話 手 を 被 動 主 体 と し て 、 そ の 主 体 「 に 」 影 響 を あ た え る 限 り の 勢 力 け ん を い う の で あ る 。 い い か え る と 、 話 手 に 影 響 を あ た え る 限 り の 力 の 総 体 が 話 の 場 で あ る 。( 同 19) 一 言 で 言 っ て 、 場 が 話 手 を 規 定 し 、 文 を 規 定 す る の で あ る 。 た と え ば 、「 あ あ 、あ つ い 」と い う 文 が あ る と す る 。そ し て カ ン カ ン と て っ て い る 日 の 光 や 、 熱 気 や 、 う ち わ を 使 う 動 作 や 、 流 れ る あ せ や 、 胸 を は だ け る 動 作 や 、 今 ま で 外 に い て あ つ く て も あ つ い と い え な い で が ま ん し て き た も の が 、 家 へ か え っ て き て 、 や れ や れ と い っ た 気 持 ち で え ん り ょ な し に 足 を 投 げ 出 し て す わ り こ ん だ 、 と い っ た よ う な 事 態 の い っ さ い を ふ く め た 「 場 」 の 中 に あ っ て 、「 あ あ 、あ つ い 」と い う 言 が 出 た の だ と す る 。す る と 、そ う い う

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「 場 」 が 「 あ あ 、 あ つ い 」 と 言 わ し め た の で あ る 。「 あ あ 、 あ つ い 」 は 場 の 中 で 生 き 、意 味 を あ た え ら れ て い る 。「 あ あ 、あ つ い 」の 意 味 脈 絡 は「 場 」と の 間 で な さ れ る 。「 あ あ 、 あ つ い 」 の 意 味 脈 絡 は 「 場 」 と の 間 で な さ れ る 。「 あ あ 、 あ つ い 」 の 前 後 の 文 は 「 場 」 で あ る 。 す な わ ち 「 場 」 こ そ 文 脈 に 他 な ら ぬ 。( 同 16) 文 の 具 体 的 な 、 あ る が ま ま の 在 り 方 は 、 場 の な か に あ る と と も に 、 場 に よ っ て 完 全 に 影 響 さ れ て あ る も の で あ る 。 場 の 「 中 に 」、 場 に 「 依 っ て 」、 在 る も の で あ る 。 場 に 規 定 さ れ て あ る の で あ る か ら 、 場 を は な れ て は 現 実 に 存 在 し な い わ け で あ る 。 だ か ら 、 生 き た 雑 多 な 文 の 在 り 方 を 見 き わ め る に は 、 そ う い う 文 が そ の 中 に 在 る 場 の 構 造 を あ き ら か に す れ ば よ い わ け で あ る 。 ( 同 38-39) こ う し て 、場 と 文 の 相 関 原 理 を 適 用 し て 、「 場 と 文 の 相 関 の 類 型 」を 提 起 す る 。 そ れ は 、 次 の よ う な も の で あ る 。 ( 1 ) 場 の 文 場 の 文 は 、 そ れ 自 身 が ひ と つ の 場 で あ っ て 、 新 し く ひ と つ の 場 を も ち だ す も の で 、 < … が + 動 詞 > と い う 形 で 、 現 象 文 と な る 。( 例 : 雨 が 降 っ て い る ) ( 2 ) 場 を 含 む 文 場 を 含 む 文 と は 、 課 題 に 対 し て 判 断 を 行 う も の で 、 課 題 の 場 の 文 と 転 位 の 文 が あ る 。 < … は + 用 言 ( の だ ) > < … は + 体 言 + だ > と い う 形 を と り 、 判 断 文 と な る 。( 例 : そ れ は 梅 だ ) ( 3 ) 場 を 指 向 す る 文 場 を 指 向 す る 文 と は 、 概 念 的 な 展 開 は 不 完 全 の ま ま だ が 、 場 の 全 領 域 を 指 向 す る も の で 、 感 動 詞 や 一 語 文 な ど で 、 未 展 開 文 と な る 。( 例 : あ ! 雨 だ ! ) ( 4 ) 場 と 相 補 う 文

図 1  西 田 の 判 断 の 形 式   西 田 は 、   長 い 間 哲 学 の 共 通 の 前 提 で あ っ た 主 語 論 理 主 義 の 立 場 か ら 述 語 論 理 主 義 の 立 場 へ コ ペ ル ニ ク ス 的 転 換 を お こ な う と と も に 、 そ れ を 通 し て 、 す べ て の 実 在 を 述 語 的 基 体 = 無 に よ っ て 根 拠 づ け 、無 の 場 所 を 有 の 欠 如 と し て で は な く 、 積 極 的 に あ ら ゆ る 有 を
図   3  「 場 所 」( 場 ) と 主 体 ( 主 観 )、 客 体 ( 客 観 )   3.3.     場 所 的 存 在 論   次 に 、 存 在 論 と し て の 「 場 所 的 存 在 論 」 に つ い て 述 べ る 。 あ る 認 識 機 構 を 備 え た 生 命 体 に よ っ て 開 示 さ れ た「 場 」そ れ 自 体 が「 存 在 」で あ り 、そ の「 場 」 に お い て 形 成 さ れ る 主 体 と 客 体 の 総 体 が「 存 在 者 」で あ る 。
図 1 「 X ハ Y 」 の イ メ ー ジ ・ ス キ ー マ             図 2  主 題 ― コ ン マ 越 え と ピ リ オ ド 越 え 三 上 ( 1960) が 、 ハ の 本 務 は 題 述 の 呼 応 と し た よ う に 、 ハ の 基 本 用 法 と し て 、「 主 題 」 の 用 法 が あ る と 考 え る 。「 こ の 本 は 、 タ イ ト ル が い い の で 、 大 い に 期 待 し た 。 図 書 館 で す ぐ 読 ん だ が 、 得 る と こ
図 1  菅 井 ( 2005) の 格 助 詞 の 体 系   第 一 に 、< 起 点 - 経 路 - 着 点 > と い う イ メ ー ジ・ス キ ー マ を 援 用 し な が ら 、 経 路 の 部 分 を < 過 程 > に 変 更 し 、 ヲ 格 が < 過 程 > を 具 現 化 し た も の と 規 定 し た 点 で あ る 。 菅 井 ( 1998) で は 、 ヲ の ス キ ー マ を < 過 程 > と し た 理 由 に つ い て 、 も し 、 < 経 路 > と 規

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