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非乏尿性腎障害を呈した神経性やせ症患者5名の臨床経過と尿細管障害の特徴

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Academic year: 2021

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はじめに 神経性やせ症は摂食障害の一つであり,多彩な臓器障害 をきたすことが知られている1)。Antoine ら1)は神経性やせ 症患者の70 %以上が腎合併症を経験し,20 %程度が低カ リウム血症による慢性腎臓病を呈したと報告した。一方で 神経性やせ症患者における急性腎障害(AKI)の発症頻度 や予後は不明であり1),なかでも非乏尿性 AKI の報告は乏 しく,その詳細が判明していないのが現状である。 非乏尿性 AKI は尿濃縮能が障害された状態,例えば急 性間質性腎炎や尿細管間質性腎炎の病態を反映することが あり2,3),これらが進行した場合に尿細管壊死をきたし乏 尿を呈する2)。Allgren ら4)は AKI を呈した患者のうち透 析導入を行わずに生存した割合が非乏尿性 AKI で59 %, 乏尿性 AKI では 8 %と大きな差が認められたと報告して おり,当然ながら非乏尿性 AKI はより進行した病態の乏 尿性 AKI より予後が良い。

AKI を診断するにあたり KDIGO 分類・RIFLE 基準・ AKIN 基準を用いる場合,診断に必要な検査項目は血清ク レアチニンや尿量である5)。しかし非乏尿性 AKI では尿量 の低下が認められないため,血清クレアチニンの上昇が認 められなければ診断に苦慮する場合がある。 今回非乏尿性 AKI を呈した神経性やせ症患者に対し, 尿中ナトリウム排泄分画(FENa)や尿細管障害マーカー の測定を行ったことが診断の一助となり早期介入を行うこ とができた例を 5 例経験したため,ここに報告する。 症   例

患者 1:29歳女性。Body Mass Index(BMI)12。既往 は神経性やせ症のみであり,利尿薬も含め内服薬の常用は なかった。患者は国内旅行中,全身脱力感をきたして当院 に救急搬送された。来院時 Glasgow Coma Scale(GCS) E4V5M6と意識障害はなかったが,血糖値35 mg/dL と低 血糖状態であり,日常的に 1 食につき 2 ~ 3 口しか食事を 摂取していないとの病歴が聴取できた。患者自身の強い意 思と飴をなめる程度の経口摂取ならば可能だったことから 一度は帰宅となったが,最初の搬送から 7 時間後に低血糖 昏睡を呈し再度搬送となった。血液検査では尿素窒素 (BUN)34.2 mg/dL,血清クレアチニン(血清 Cr)0.74 mg/ dL と BUN/血清 Cr 比開大を認めた。加えて,初回搬送時 の胸部単純 X 線写真で心胸郭比37 %の滴状心を認めたこ とから脱水状態にあると考えられ,したがって尿量は減少 することが予想された。それにもかかわらず輸液開始前か ら150 mL/h の排尿があったため,循環血漿量を維持する よう輸液を開始した。患者の所持品に利尿薬はなく利尿薬 乱用を考えにくかったこと,尿浸透圧351 mOsm/kg と尿 崩症などの水利尿の病態も考えにくかったことから,尿細 管障害による非乏尿性腎障害の可能性を考え正の水分出納

症例報告

 *

髙 橋 叶 衣   

**

松 田   航   

**

渡 邉 愛 乃   

**

山 本 真貴子

**

廣 瀬 恵 佳   

**

植 村   樹   

**

小 林 憲太郎   

**

佐々木   亮

**

木 村 昭 夫

キーワード:血清クレアチニン値,尿中ナトリウム排泄分画,N- アセチル - β -D- グルコサミニダーゼ,β2- ミ クログロブリン 神経性やせ症患者における急性腎障害,とりわけ非乏尿性腎障害についての報告は乏しい。非乏尿性腎障害では,乏尿 性腎不全への進行を防ぐため早期診断・介入が重要である。本報告では自験例 5 名を中心に検討した。全例で来院時の血 清クレアチニンは基準範囲内にあったが,尿中ナトリウム排泄分画(FENa)や尿細管障害マーカーは高値を示していた。 KDIGO 分類上でも入院時に急性腎障害と診断した。入院中正の水分出納を保つよう輸液管理を行ったところ全例で乏尿性 腎不全への進行を防ぐことができた。神経性やせ症患者では,患者の正常腎機能を示す血清クレアチニンが一般的な基準範 囲の下限を下回る場合があり,腎障害の発見が遅れる可能性がある。その場合には,FENa や尿細管障害マーカーが非乏尿 性腎障害の早期診断に有用となり得る。早期診断した場合には,循環血漿量を維持する輸液管理を早期から開始することが 肝要と考える。

非乏尿性腎障害を呈した神経性やせ症患者 5 名の臨床経過と尿細管障害の特徴

東京医科歯科大学医学部附属病院 放射線診断科 **国立国際医療研究センター(NCGM)病院 救命救急センター・ 救急科

(2)

を保つよう管理を行った。その後 FENa が4.02 %から, 尿細管障害があると診断した。入院後第 1 病日の水分出納 が負となったため,第 2 病日からは 2 時間ごとに尿量を測 定し,尿量に応じて正の水分出納を保つよう輸液量を調整 した(図 1 )。その結果徐々に尿量は安定し,FENa や血 清 Cr も改善が見られた。 患者 2:21歳女性。BMI9.1。既往はなく,搬送当時の 内服薬の常用もなかった。患者は前医受診時の低血糖昏睡 により,当院へ転院搬送された。患者 1 と同様に,血液検 査では BUN17.8 mg/dL,血清 Cr0.34 mg/dL と BUN/血 清 Cr 比開大を認め,脱水状態にあると考え尿量の低下を 予測した。しかしながら輸液開始前から105 mL/h の排尿 があったため,循環血漿量維持の目的で輸液を開始した。 患者 1 と同様に,利尿薬の所持はなく尿浸透圧477 mOsm/ kg と水利尿の病態は考えにくかったため,尿細管障害に よる非乏尿性腎障害を疑い,正の水分出納を保つよう管理 を行った。その後β2ミクログロブリン(β2MG)1,181 µg/ L,FENa 2.09 %であることから,尿細管障害が存在する と考えた。 患者 3:29歳女性。BMI 7.9。既往に神経性やせ症があっ たが,内服薬の常用はなかった。患者は低血糖昏睡による 意識障害で当院へ救急搬送となった。これまでの患者と同 様に BUN 30.1 mg/dL,血清 Cr 0.33 mg/dL の BUN/血 清 Cr 比開大と心胸郭比30 %の滴状心から脱水と考え,尿 量 の 低 下 を 予 測 し た。 し か し な が ら 輸 液 開 始 前 か ら 200 mL/h の排尿があり,循環血漿量維持目的に輸液を開 始した。これまでの患者と同様に利尿薬の常用がなく尿浸 透圧336 mOsm/kg と水利尿は明らかでないと判断し,尿 細管障害による非乏尿性腎障害を疑い,正の水分出納を保 つよう管理を行った。その後β2MG 464 µg/L,FENa 5.86 %から尿細管障害の存在を確認した。 患者 4:35歳女性,BMI 9.7。既往に神経性やせ症と急 性肝不全があり,常用薬は電解質配合顆粒のみであった。 患者は神経性やせ症による肝機能障害,意識障害のため集 中治療目的に当院へ転院搬送された。これまでの患者と同 様に,BUN 37.4 mg/dL,血清 Cr 0.54 mg/dL の BUN/ 血清 Cr 比開大と心胸郭比35 %の滴状心から脱水と考えた。 尿量の低下が予想される状況であったが,100 mL/h の排 尿があり,循環血漿量維持目的に輸液を開始した。少なく とも前医入院中は利尿薬を使用していないこと,尿比重 1.012と正常範囲であり水利尿の病態は考えにくいことか ら,尿細管障害による非乏尿性腎障害を疑い正の水分出納 を保つよう管理を行った。その後β2MG 270 µg/L,FENa 5.17 %から,尿細管障害があると考えた。 患者 2 ~ 4 については患者 1 と同様に,入院後も正の水 分出納を保つよう輸液管理を継続しβ2MG・NAG・FENa や血清 Cr の改善を得た。 患者 5:32歳女性。BMI 13。既往歴として神経性やせ 症による他院入院歴があったが,利尿薬も含め内服薬の常 用はなかった。患者は意識障害を主訴に当院へ搬送された が,搬送時の GCS は E4V5M6と意識レベルは改善してい た。そのため,患者自身から来院前 1 週間はゼリーのみで 生活していたという食事摂取不良の病歴が聴取できた。ま た身体所見上皮膚の乾燥が著しく,心エコーでは下大静脈 が 虚 脱 し て い た。 さ ら に BUN 9.8 mg/dL, 血 清 Cr0.38 mg/dL と BUN/血清 Cr 比開大を認め,脱水状態 にあると考えられた。そのため尿量の低下を予測したが, 輸液開始前から140 mL/h の排尿があり,循環血漿量維持 目的に輸液を開始した。利尿薬の所持はなく入院歴のある 他院からの診療情報提供書上でも利尿薬乱用の病歴がない こと,尿浸透圧386 mOsm/kg と水利尿の状態は考えにく いことから尿細管障害による非乏尿性腎障害を考え,正の 水分出納を保つよう輸液管理を行った。その後 N- アセチ ル -β-D- グルコサミニダーゼ(NAG)30.0 U/L と高値 図 1  患者 1 の入院後経過 血清 Cr :血清クレアチニン,FENa :尿中ナトリウム排泄分画

(3)

であることが判明し,尿細管障害であると診断した。入院 後血清 Cr・NAG は輸液管理により改善したが,その後血 清 Cr が一過性に0.95 mg/dL まで悪化した(図 2 )。水分 出納が負となり腎前性腎障害を呈した可能性を疑い,水分 出納を正となるよう調整したところ,血清 Cr は再度改善 した。 5例とも搬送時に脱水があったにもかかわらず,多尿が 併存していた(表 1 )。また全例で血清 Cr・推定糸球体濾 過量は基準範囲内だったが,各種尿細管障害マーカー高値 から非乏尿性腎障害があると診断するに至った(表 1 )。 考   察 自験例 5 例は全例とも当院受診歴がなく,血清 Cr の基 礎値が不明であった。しかし,血清 Cr の基礎値を推定す る方法の一つに入院中の最低血清 Cr をその患者の血清 Cr の基礎値とするものがある5)。これを適用すると,最高血 清 Cr と最低血清 Cr の比をとると全例で1.5倍以上となり, KDIGO 分類上5)全例で stage 1 ~ 2 の AKI があったこと

を示唆する(表 2 )。 上記の事実から,自験例では来院時血清 Cr が基準範囲 内にあったものの実際には非乏尿性 AKI が隠れていた可 能性を考えた。実際に入院後も正の水分出納を保つよう輸 液管理を行ったところ,全例で血清 Cr の改善が得られた。 血清 Cr が基準範囲内であっても腎障害が隠れていた理 由は,神経性やせ症患者では筋肉量が少なく,患者自身の 正常腎機能を示す血清クレアチニン値が一般的な基準値の 下限を下回る場合があるからである。なぜならば,神経性 やせ症患者に限らず筋肉量と血清 Cr 値は比例するからで 表 1  各患者の腎機能・尿中ナトリウム排泄分画・尿細管障害マーカー 患者1 患者2 患者3 患者4 患者5 年齢,性別 29歳女性 21歳女性 29歳女性 35歳女性 32歳女性 BMI 12 9 8 10 13 搬送形態 三次救急 二次救急 二次救急 二次救急 二次救急 初日尿量(ml/h) 200 105 125 100 140 尿比重 1.009 1.007 - 1.012 1.010 尿糖 陰性 陰性 陰性 陰性 陰性 FENa(%) 4.02 2.09 5.86 5.17 0.12 尿中β2 MG(µg/L) 111 1181 464 270 -NAG(U/L) - - - 30.0 初回血清 Cr(mg/dl) 0.66 0.45 0.33 0.54 0.38 eGFR (mL/min/1.73m2 85.9 143.3 183.4 101.4 152.8

BMI:Body Mass Index,FENa:尿中ナトリウム排泄分画,β2MG:β2ミクロ

グロブリン,NAG:N- アセチル -β-D- グルコサミニダーゼ,eGFR:推定糸球 体濾過量,血清 Cr:血清クレアチニン

図 2  患者 5 の入院後経過

(4)

ある6)。Andrew ら7)は,神経性やせ症患者ではその筋肉 量や摂食量低下のため血清 Cr も異常低値を示すと報告し ている。 また,患者 5 の経過において体内の水分出納が負となっ た際に容易に腎前性腎障害を呈したことから,非乏尿性 AKI を放置しておくと腎前性腎障害を呈し病状が悪化す る可能性もあるといえる。過去の文献では41歳で末期腎不 全を呈し腹膜透析導入直後に合併症で死亡した神経性やせ 症患者の報告がある8)ことから,比較的若年で予後不良と なってしまう可能性もある。 以上のことから,神経性やせ症患者では AKI の有無を 早期に判断することが重要だが,その診断に血清 Cr が有 用でない場合があるといえる。その場合には,自験例のよ うに尿細管障害マーカーの測定が診断の一助となり得る。 AKI の診断がついた際には,非乏尿性 AKI のうちから正 の水分出納を保つよう輸液管理を行い,乏尿性 AKI への 進行を防ぎ,腎機能の回復を図ることが肝要と考える。 なお,自験例では尿細管障害マーカー高値が全患者で確 認され,病態として尿細管障害が非乏尿性 AKI を引き起 こした可能性が高いと考えられた。しかしながら腎生検等 の病理検査を行っていないため,明確な病態は不明である。 これまでの文献でも,神経性やせ症患者における AKI, 特に非乏尿性 AKI についての一元的な機序を明確に述べ たものは筆者の調べた限り存在せず,さらなる知見の集積 が必要と考える。 おわりに 神経性やせ症患者では,患者の血清 Cr 値が基準範囲内 であっても腎機能障害が隠れている可能性がある。このよ うな患者において非乏尿性 AKI が鑑別にあがる場合には, FENa や尿細管障害マーカーを測定することで早期診断で きる可能性がある。非乏尿性 AKI が存在する場合には, 循環血漿量が保たれるよう早期から適切な輸液管理を行い, 予後不良な乏尿性 AKI へ発展させないことが肝要と考え る。 なお,本報告では患者全員の個人情報が特定されないよ う細心の注意を払って記載した。さらに,本報告に開示す べき利益相反はない。

1) Antoine B, Bernard ED, Jean-Marie K, et al:Anorexia nervosa and the kidney. Am J Kidney Dis 2012;60: 299-307.

2) Rajeev R, Garabed E:Acute interstitial nephritis :A reappraisal and update. Clin Nephrol 2014;82:149-162.

3) Rebecca LR, Jeffrey JF:Tubulointerstitial nephritis. Pediatr Clin N Am 2019;66:111–119.

4) Allgren RL, Marbury TC, Rahman SN, et al:Auriculin anaritide acute renal failure study group:Anaritide in acute tubular necrosis. N Eng J Med 1997;336:828-834.

5) Khwaja A:KDIGO Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury. Nephron Clin Pract 2012;120: c179-c184.

6) Boag F, Weerakoon J, Ginsburg J, et al:Diminished cre-atinine clearance in anorexia nervosa:Reversal with weight gain. J Clin Pathol 1985;38:60-63.

7) Andrew DR, Kent RB, Gary LS, et al:For estimating creatinine clearance measuring muscle mass gives bet-ter results than those based on demographics. Kidney Int 2009;75:1071–1078.

8) Eva O, Isabel M, Isabel B, et al:Anorexia nervosa and dialysis:We have no time when the body is so dam-aged! BMJ Case Reports Published online, Available on-line at:https://casereports.bmj.com/content/2013/bcr-2012-007294.long. Accessed January25, 2020.

表 2  各患者の血清クレアチニンの経過 患者1 患者2 患者3 患者4 患者5 陽性の尿細管障害マーカー FENa FENa β2MG FENa β2MG FENa β2MG NAG 最低血清 Cr(mg/dl) 0.41 0.21 0.21 0.37 0.28 最高血清 Cr(mg/dl) 0.74 0.45 0.33 0.54 0.95 最高/最低血清 Cr 比 1.8 2.1 1.6 1.5 3.4 急性腎障害 stage1 stage2 stage1 stage1 stage2 血清 Cr:血清クレアチニン,NAG:N- アセチル -β-D- グルコサミニダーゼ 急性腎障害の病期診断に用いた基準は KDIGO 分類5)である

(5)

Clinical courses and features of renal tubular damage in 5 patients with anorexia nervosa

and non-oliguric acute kidney injury

 *

Kanae Takahashi,

**

Wataru Matsuda,

**

Akino Watanabe,

**

Makiko Yamamoto,

**

Keika Hirose,

**

Tatsuki Uemura,

**

Kentaro Kobayashi,

**

Ryo Sasaki, and

**

Akio Kimura

 *

Department of Radiology, Tokyo Medical and Dental University

**

National Center of Global Health and Medicine Department of Emergency

Medicine and Critical Care

Key words:serum creatinine level, fractional excretion of Na(FENa), N-acetyl- β -D-glucosaminidase, β2

-microglob-ulin Abstract

There have been few reports of non-oliguric acute kidney injury(AKI)in patients with anorexia nervosa(AN). We report on five non-oliguric AN patients with initial serum creatinine levels within reference range. Their fractional ex-cretion of Na(FENa)or urinary levels of renal tubular damage markers(RTDMs)were high. We considered they were complicated by AKI, and maintained their water balance positive. In AN, the low serum creatinine levels were not necessarily reflective of normal renal function, which might delay AKI detection. FENa and RTDMs may be useful for early start of appropriate hydration to prevent progression to oliguric AKI.

図 2  患者 5 の入院後経過
表 2  各患者の血清クレアチニンの経過 患者1 患者2 患者3 患者4 患者5 陽性の尿細管障害マーカー FENa FENa β 2 MG FENaβ2 MG FENaβ2 MG NAG 最低血清 Cr(mg/dl) 0.41 0.21 0.21 0.37 0.28 最高血清 Cr(mg/dl) 0.74 0.45 0.33 0.54 0.95 最高/最低血清 Cr 比 1.8 2.1 1.6 1.5 3.4

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