博 士 ( 農 学 ) 松 村 伸 二
学 位 論 文 題 名
気象衛星データによる凍霜害危険地解析 学位論文内容の要旨
本 論 文は , 図38,表24,120ぺー ジ から なる 和 文で , 別に9編 の参 考論 文が添えられている。
凍霜 害は全国的に発 生する農業気 象災害で、し かも発生件数 が多く、農 業に 深刻な被害を もたらす災害 である。この災 害の発生は気 象的な要因と 地形 的な要因が関 係するため局 地性があり、あ らかじめ凍霜 害危険地を検 出す るのは困難で ある。凍霜害 危険地を解析す るには同一時 刻の局地的な 低温 域が比較でき 、しかも広域 をカバーしてい る衛星データ の利用が有効 であ る。しかし、 現在まで衛星 データの利用に は面倒な前処 理が必要なた め、 十分利用され ていなかった 。本研究は気象 衛星NOAAデータにつ いて、
誰に でも簡単に処 理出来るシス テムを開発し、 これを使用し 地形と冷却の 関 係 を 明 ら か に し て 、 凍 霜 害 危 険 地 の 検 出 法 を 研 究 し た も の で あ る。
第I章 「 緒論 」に お いて 、 研究 の 背景、既往の 研究、凍霜害 危険期の概 要、 研究目的など を述べている 。すなわち、研 究目的はNOAAデータ を広く ー般 に利用できる ように処理シ ステムを構築す ること、この 処理システム を利 用して、地形 パラメータに よる凍霜害危険 地を推定し、 局地気象災害 解 析 へ の 応 用 の 可 能 性 を 明 ら か に す る こ と と し て い る 。 第u章 は 「NOAAデ ー タ 処 理 シ ス テ ムの 構 築」 で ある 。NOAAデ ー タの 利 用には 放射量補正や幾何学的補正などの前処理を行う必要がある。しかし、
今ま でこの前処理 は多くの研究 者が個別にプロ グラムを作成 しており、極 めて 非効率であっ た。一方、最 近は高性能のパ ーソナルコン ピュータが開 発さ れ、さらに操 作性の良い環 境を提供するOSも 登場した。本 章はパーソ ナル コンピュータ によるNOAAデータの 前処理と画像処 理について、 誰にで も 利 用 で き る よ う に 処 理 シ ス テ ム の 開 発 を 行 っ た も の で あ る 。 すなわち、この処理システムは、NOAAデータの「前処理システム」.と「画 像処 理システム」 を、Microsoft Windows 95をOSとする パソコン上で 作動 するよ うに作成した。「前処理システム」の幾何補正は、NOAAデータの様々 ――233―−
な幾何学的歪みを、地図上の正確な位置に補正するためのシステムで、タ ンジェント変換による補正および地上基準点による補正で処理した。また、
「画像処理システム」は幾何補正されたデータの画像と数値の表示処理、
植生指数算出、温度変換処理およびそれらのファイル出カと印刷が実行で きるようになっている。開発されたシステムは、初心者にも利用できるよ うに、処理メニューを順次開き、必要な処理を選択して実行するシステム である。また、各処理は数秒から70秒ほどで終了する十分な処理速度を持 っている。ワークステーション等の既存プログラムに比べ、機能および処 理速度面でほぼ同等で、システムの操作性ではより使いやすいシステムで ある。このシステムの開発によって普及の進んだパーソナルコンピュータ 上で、誰もが簡単にNOAAデータ処理が可能となり、利用拡大が期待できる。
第m章は「NOAAデータと国土数値情報による凍霜害危険地の検出」であ る。前章で開発した処理システムを使用し、 「1.NOAAデータによる低温域 と国土数値情報によるメッシュ単位の地形との関係」および「2.NOAAデー タと国土数値情報による地形単位の冷却量と凍霜害危険地の解析」の研究 を行った。
「1.NOAAデータによる低温域と国土数値情報によるメッシュ単位の地形 との関係」の研究において、北海道の羊蹄、空知、名寄、十勝の各地域を 対象にして、NOAAデータと国土数値情報からメッシュ単位の凍霜害危険地 の判定法を検討した。すなわち、まずNOAAデータから算出した地表面温度 を冷却の指標として、凍霜害の危険性が高い低温メッシュを検出した。次 いで、国土数値情報から谷や盆地など冷却しやすいメッシュを簡単な各種 地形パラメータによって選定した。さらに、この両者を組み合わせた凍霜 害危険地の判定法について検討した。
NOAAデータの地表面温度による低温域は谷や盆地、`山頂付近に分布し、
一般の気象観測による結果と一致した。また、国土数値情報を用いて地形 を表すパラメータの算出法を検討した結果、8近傍点負勾配頻度を利用する 方法が標高による依存性がなく、最適と判定された。この場合、谷や盆地 のパラメータ設定値は勾配距離が2、負勾配頻度が6以上とした。この値に よって検出した地形と低温メッシュを重ね合わせた結果、一致する割合が 高い地域は羊蹄地域と名寄地域で、低い地域は空知地域と十勝地域であつ た。一致する割合が高い羊蹄地域と名寄地域では、低温メッシュ周りの標 高差が大きい。そのためパラメータで検出した地形と低温メッシュが一致 す る に は 、 地 域 全 体 の 起 伏 量 が 関 係 す る と 推 定 で き た 。
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これを検証するため、標高を階級別に数値化し、隣り合うメッシュとの 標高を比較して、各地域の起伏量の大きさを数値で表した。その結果、こ の数値が大きい地域はパラメータで検出した地形と低温メッシュとの一致 の割合が高かった。したがって、地形パラメータである8近傍点負勾配頻度 により凍霜害危険地を検出するには、地域全体の起伏量を考慮する必要が あることが判明した。また、冷却域は谷や盆地付近にクラスタ状に現れる ことがあり、より大きな地形スケールによる解析が必要であることが推定 できた。
「2.NOAAデータと国土数値情報による地形単位の冷却量と凍霜害危険地 の解析」の研究では、メッシュ単位より大きな地形スケールの冷却現象に ついて、中国地方を対象に検討した。すなわち、地形による地域の区分は 種々検討の結果、稜線検出による方法を用いた。地形ごとに区分された地 区について、面積、比高、容量、遮蔽量の各種形状パラメータを計算した。
また、メッシュの冷却量は標高と最高地表面温度との回帰式を計算し、こ の回帰直線からの偏差とした。この冷却量はアメダス気温による冷却量と 高い相関があるため、ほば妥当な値と考えられた。冷却量と各種形状パラ メータとの相関を計算した結果、面積および容量を表すパラメータとの相 関は有意であったが、比高や遮蔽量を表すパラメータとの相関は有意でな かった。
次に、凍霜害発生時は無風のため、NOAAデータ取得時に無風状態と考え られる地区を、アメダスデータによって選定した。この地区について同様 な相関を計算した結果、面積と容量を表すパラメータはより高い相関とな った。さらに、凍霜害発生時は接地逆転層が存在する。NOAAデータによる 地表面温度とその標高の関係から、接地逆転層が存在する地区を選定して 解析した結果、面積と容量を表すパラメータではさらに相関が高くなった。
面積を表すパラメータのうち地区内の全メッシュ数を示すパラメー夕(以 下、領内面積)との相関が最も高く、これを用いて凍霜害危険地の判定を 試みた。その結果、領内面積が60メッシュ以上の地形で凍霜害の危険性が 高いことが判明した。
以上のように、本研究は気象衛星NOAAデータの処理システムを開発し、
これを使用して低温メッシュの検出や冷却量を計算し、地形パラメータと 組 み 合 わ せ て 凍 霜 害 危 険 地 の 検 出 法 を 検 討 し た も の で あ る 。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
気象衛星データによる凍霜害危険地解析
本 論 文 は , 図38, 表24,120べ ー ジ か ら な る 和 文 で , 別 に9編 の 参 考 論 文 が 添 えら れ て いる 。
凍 霜 害 は 全 国 的 に 発 生 す る 農 業 気 象 災 害 で 、 し か も 発生 件 数 が多 く 、農 業 に 深 刻 な 被 害 を も た ら す 災 害 で あ る 。 こ の 災 害 の 発 生 は 気 象 的な 要 因と 地 形 的な 要 因 が 関 係 す る た め 局 地 性 が あ り 、 あ ら か じ め 凍 霜 害 危 険 地 を検 出 する の は 困難 で あ る 。 凍 霜 害 危 険 地 を 解 析 す る に は 同 一 時 刻 の 局 地 的 な 低 温域 が 比較 で き 、し か も 広 域 を カ バ ー し て い る 衛 星 デ ー タ の 利 用 が 有 効 で あ る 。 しか し 、現 在 ま で衛 星 デ ー タ の 利 用 に は 面 倒 な 前 処 理 が 必 要 な た め 、 十 分 利 用 さ れて い なか っ た 。本 研 究 は 気 象 衛 星NOAAデ ー タ に っ い て 、 誰 に で も 簡 単 に 処 理出 来 る シス テ ムを 開 発 し、
こ れ を 使 用 し 地 形 と 冷 却 の 関 係 を 明 ら か に し て 、 凍 霜 害 危険 地 の検 出 法 を研 究 し た も ので あ る 。
第I章 「 緒 諭 」 に お い て 、 研 究 の 背 景 、 既 往 の 研 究 、 凍 霜 害 危 険 期 の 概 要 、 研 究 目 的な ど を 述べ て いる 。
第H章 は 「NOAAデ ー タ 処 理 シ ス テ ム の 構 築 」 で あ る 。NOAAデ ー タ の 利 用 に は 放 射 量 補 正 や 幾 何 学 的 補 正 な ど の 前 処 理 を 行 う 必 要 が あ る。 し かし 、 今 まで こ の 前 処 理 は 多 く の 研 究 者 が 個 別 に プ ロ グ ラ ム を 作 成 し て お り、 極 めて 非 効 率で あ っ た 。 本章 は パ ーソ ナ ルコ ン ピ ュー タ に よるNOAAデ ータ の 「 前処 理 」と 「 画像処理 」 に つ い て 、 誰 に で も 利 用 で き る よ う に 処 理 シ ス テ ム の 開 発を 行 った も の であ る 。 「 前 処理 シ ス テム 」 の幾 何 補 正は 、NOAAデー タ の 様々 な 幾何 学 的 歪みを 、地図 上 の 正 確 な 位 置 に 補 正 す る た め の シ ス テ ム で 、 タ ン ジ ェ ント 変 換に よ る 補正 お よ び 地 上 基 準 点 に よ る 補 正 で 処 理 し た 。 ま た 、 「 画 像 処 理 シス テ ム」 は 幾 何補 正 さ れ た デ ー タ の 画 像 と 数 値 の 表 示 処 理 、 植 生 指 数 算 出 、 温 度変 換 処理 お よ びそ れ ら の フ ァ イ ル 出 カ と 印 刷 が 実 行 で き る よ う に な っ て い る 。 開発 さ れた シ ス テム は 、
一 ,236―
夫豊 一 郁 慎 口田 野 堀松 浦 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
処理メニューを順次開き、必要な処理を選択して実行するシステムである。また、
各 処 理 は 数 秒 か ら70秒 ほ ど で 終 了 す る 十 分 な 処 理 速 度 を 持 っ て い る 。 第m章は「NOAAデータと国 土数値情報 による凍霜 害危険地の 検出」であ る。前 章で開 発した処理 システムを使用し、「1.NOAAデータによる低温域と国土数値情 報によ るメッシュ 単位の地形 との関係」 の研究を行 った。この研究において、北 海道の 羊蹄、空知 、名寄、十 勝の各地域 を対象にし てNOAAデータと国土数値情報 から、メッシュ単位の凍霜害危険地の判定法を検討した。
すなわち 、まずNOAAデー タから算出 した地表面 温度を冷却の指標として、凍霜 害の危 険性が高い 低温メッシ ュを検出し た。次いで 、国土数値情報から谷や盆地 など冷 却しやすい メッシュを 簡単な各種 地形パラメ ータによって選定した。さら に 、 こ の 両 者 を 組 み 合 わ せ た 凍 霜 害 危 険 地 の 判 定 法 に つ い て 検 討 し た 。 NOAAデータの 地表面温度 による低温 域は谷や盆 地、山頂付近に分布し、一般の 気象観測による結果と一致した。また、国土数値情報を用いて地形を表す各種ノく ラメー タの算出法 を検討した結果、8近傍点負勾配頻度を利用する方法が標高によ る依存 性がなく、 最適と判定 された。こ の値によっ て検出した地形と低温メッシ ユを重 ね合わせた 結果、一致 する割合が 高い地域は 羊蹄地域と名寄地域で、低い 地域は 空知地域と 十勝地域で あった。一 致する割合 が低い地域は平坦地が多い。
このよ うな地域の 凍霜害危険 地を検出す るには、よ り大きな地形スケールによる 解析が必要であることが判明した。
「2.NOAAデータ と国土数値 情報による 地形単位の 冷却量と凍霜害危険地の解 析」の 研究では、 メッシュ単 位より大き な地形スケ ールの冷却現象について、中 国地方 を対象に検 討した。す なわち、地 形による地 域区分は種々検討の結果、稜 線検出 による方法 を用いた。 地形ごとに 区分された 地区について、面積、比高、
容量、 遮蔽量の各 種形状パラ メータを計 算した。ま た、メッシュの冷却量は標高 と最高 地表面温度 との回帰式 を計算し、 この回帰直 線からの偏差とした。冷却量 と各種形状ノくラメータとの相関を計算した結果、面積および容量を表すパラメー タとの 相関は有意 であったが 、比高や遮 蔽量を表す パラメータとの相関は有意で なかっ た。面積を 表すパラメ ータのうち 地区内の全 メッシュ数を示すパラメー夕
(以下 、領内面積 )との相関 が最も高く 、これを用 いて凍霜害危険地の判定を試 みた。 その結果、 領内面積が60メ ッシュ以上 の地形で凍霜害の危険性が高いこと が判明した。
以上のよ うに、本研 究は気象衛 星NOAAデ←タの 処理システムを開発し、これを 使用して低温メッシュの検出や冷却量を計算し、地形パラメータと組み合わせて凍霜 害危険地の検出法を検討したものである。この成果は学術的・実用的に高く評価され る。よって審査員一同は,松村伸二が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を有 するものと認めた。 ―237ー