博 士 ( 農 学 ) 西 道 由 紀 子
学 位 論 文 題 名
乳牛の輪換放牧における放牧管理および 草地の生産と利用に関する研究
学位論文内容の要旨
わが国の 酪農は、 輸入濃厚 飼料に依 存する形 で発展し てきており、飼料自給率は平成11 年度で25% まで低下 してきて いる。こ うしたな かで自給 粗飼料生産の強化が求められてお り、草地利用、とくに草地の放牧利用が見直されてきている。草地の放牧利用においてIま、
放牧管理 の方法に より草地 生産およ び家畜生 産に大き な差が生じることはよく知られてい る。草地 生産や家 畜生産の 出発点で ある食草 滋、草高 や葉部・茎部割合などの草地構造に よって左 右され、 また家畜 の食草自 体が草地 構造に影 響する。また牧草が栄養成長期から 出穂など を伴う生 殖成長期 に移行す ると、そ の後の牧 草の生長や家畜による利用に悪影響 が生 じること も知られ ている。 食草によ る牧草の 除去はdefoliationとい われ、そ の影響 はintensity. frequency、timingと い っ た3っの パ ラメ ー 夕 一から検 討されて きた。放 牧は大別 すると、 連続放牧 と輪換放 牧があり 、草地に 対する放牧管理の影響は両者で異な る 。 連 続 放 牧 下 で は 、 単 位 面 積 当 たり の 放 牧頭 数 が 放牧 圧 に影 響 し 、defoliationの intensityとfrequencyの 双方 に同 時に影響 すること が知られ ている。 一方、輪換 放牧は 草地を小 牧区に区 分し、一 定の間隔 または割 当草量に もとづいて家畜を移動させる方法で あ り 、defoliationのintensityとfrequencyが異 な った 組 み 合わ せ にな り 、 草地 構 造 への影響 は複雑に なる。さ らに、いずれの場合も放牧開始時期がde、f01iationに影響し、
年間の草 地生産お よび利用 を左右す る。とく に、放牧 開始から生殖生長への移行期までの defoliationが 草 地 構 造 に 大 き く 影 響 し 、 草 地 生 産 お よ び 利 用 を 大 き く 左 右 す る 。 本研究は 、草地の 放牧利用 に関する 以上のよ うな認識 のもとに、輪換放牧において放牧 管理 が草地の 生産と利 用に及ぼ す影響の 作用機序 を、放牧管 理とdef01iationおよ び草地 構造の関 係から解 明するこ とを目的 として実 施したも のである。試験は全て乳牛を用い、
時間制限放牧下で行った。
本研究の成果は以下のようにまとめられる。
1. 試 験1,2で は、 放 牧間 隔 を 一定 に した 輪 換 放牧 と 、 割当草 量を一定 にした輪 換放 牧において、放牧開始時期が草地構造および草地の生産、利用量に及ぼす影響を検討した。
放牧間隔 が一定の 輪換放牧 において1ま、放牧開始時期が異なると草量、草高などの違いに より 、 放 牧圧 お よ び草 地 構造 の 両 面か ら 生殖 生 長 への 移 行期 におけ るdefoliation.の intensityに影響し た。割当 草量が一 定の輪換 放牧でfま 、放牧開始時期が異なると、まず 草量 の違いに より放牧 間隔に影 響し、そ の結果生 殖生長への 移行期に おけるdef01iation のintensityに 影響が生 じた。放 牧開始時 期が遅く なると、 生殖生長へ の移行期 における 草量が多 くなった 。その結 果、放牧 で採食さ れなかっ た残存草量が多くなり、枯死物量の 増加にっ ながり、 その後の 牧草の再 生量およ び利用量 が低下することが明らかになった。
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2.試験3,4では、早期に放牧を開始した場合の、生殖生長への移行期までの放牧間 隔の影響、および放牧開始時期と生殖生長への移行期までの放牧間隔の組み合わせの影響 を検討した。早期放牧開始では、生殖生長への移行期までの放牧間隔が短いと、葉部量が 少なくなり、牧草再生量および利用量も少なくなった。一方、生殖生長への移行期までの 放牧間隔が長いと、生殖生長への移行は抑制されると同時に、十分な葉部量が確保され、
高い牧草再生量および利用量が得られた。放牧開始時期と放牧間隔との組み合わせの試験 からは、放牧開始時期が遅く、放牧間隔が短い場合、生殖生長への移行期におけるdefo‑
liationのfrequencyは 高いが、defoliationのintensityが低くなった。その結果、
生殖生長への移行は抑制されるが、放牧後の残存草量が多くなり、夏季以降の枯死物量の 増加、牧草再生量および利用量の低下がみられた。年間の草地生産量および利用量も放牧 開始が早く、放牧間隔が長い場合にくらべて低下した。このように放牧開始時期1ま、その 後のdefoliationのtimingに影響し、生殖生長への移行の有無を決定することも明らか になった。また放牧開始時期と放牧間隔との組み合わせによっては、放牧季節を通じての 草地生産量および利用量に大きな差はなく、放牧開始が遅れた場合でも、放牧間隔の調整 により適切な草地構造の回復をはかり、草地生産量および利用量を低下させずに放牧を行 える可能性が示唆された。
3.試験1から4妾での結果を総合的に検討すると、輪換放牧における放牧開始時期と 生殖生長への移行期までの放牧間隔の組み合わせは、生殖生長の移行期におけるdefoliー ationの intensityとfrequencyの 点 か ら 次 の 4っ の 場 合 に 大 別 さ れ た 。
(A)放 牧開始が早 く放牧間隔 が短いと、 intensityもfrequencyも高いdefoliation になる結果、生殖生長への移行はみられないが、草量及び葉部量が少なく、草地生産 量および利用量Iま少なくなる。
(B)放牧開始が早く放牧間隔が長いと、intensityが高くfrequencyが低いdefoliation になる結果、生殖生長へは移行せずに、草量及び葉部量が多くなり、草地生産量およ び利用量は高くなる。
(C)放牧開始が遅くて放牧間隔が短いと、 intensityが低くfrequencyが高いdefoli− ationになる結果、生殖生長への移行はみられないが、茎部量および枯死物量が多く、
夏季以降の牧草再生量および利用草量が低下する。
(D)放牧開始 が遅くて放 牧間隔が長いと、intensityが低くfrequencyも低いdefoli− ationになり、生殖生長への移行がみられ、茎部量および枯死物量の増加により、夏 季以降の牧草再生量および利用草量が低下する。
この4っの場合の比較から、 (B)の放牧開始を早くし、生殖生長への移行期までの放牧 間隔を長くした場合が、草地の生産および利用という点からみて最も有利と判断きれた。
気象条件や草地利用年数の違いから試験1から4までの結果を定量的に比較するのは困難 である。しかし、草地構造の変化と草地生産量および利用量の関係から検討すると、北海 道の道央地域の輪換放牧では、草高10cm程度で放牧を開始し、放牧間隔が20日程度の放牧 が生殖生長への移行の抑制と葉部量の増加をもたらし、草地の生産および利用の両面から 望ましいといえる。草高10cm程度で放牧を開始し、放牧間隔を10日程度にした場合は草量 不足になり、草高20cm程度で放牧を開始した場合は、放牧後の残存草量の増加から、枯死 物が蓄積し、いずれも草高10cmで放牧開始、放牧間隔が20日の場合よりも、草地生産およ び利用の両面で劣っていた。
以上のように、本研究では輪換放牧における放牧管理によってdefoliationのintenー sityとfrequencyは別々に変化するが、それぞれ相互に密接に関連することを明らかに
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し、乳牛による牧草の
defoliation
と草地構造からみて、早期に放牧を開始し、生殖生長 への移行期までの放牧間隔をある程度長く保つ方が、草地の生産と利用を向上きせ得るこ とを示した。―1110―
学 位論文 審査の要旨 主査
副査 副査
教授 教授 助教授
大久保 田中 近藤
学 位 論 文 題 名
正彦 桂一 誠司
乳牛の 輪換放 牧におけ る放牧 管理および 草 地の生産 と利用に 関する研究
本 論 文
I
ま6
章 か ら な り 、 図46
、 表44
、 引 用 文 献90
を ふ く む 総 頁 数142
の和文論文であり、他に参考論文10編が添えられている。輸 入飼 料へ の依存 度が 高い わが 国の酪 農に おい ては、 自給 粗飼 料生 産の強化が 求め られ てお り、と くに 草地 の放 牧利用 が見 直さ れてき てい る。 放牧 による家畜 生 産 は 、 家 畜に よ る 食 草 か ら始 まる。 食草 によ る牧 草の除 去は
defoliation
とい われ てお り、 その強 度や 頻度 と草 地構造 の聞 には 相互作 用が みら れ、 草地の生産 性を 左右 して いる。 本研 究は 、乳 牛の輪 換放 牧に おける 放牧 管理 が草 地の生産と 利用 に及 ぼす 影響の 作用 機序 、を 、放牧 管理とdefoliationおよび草地構造の関係 から解明することを目的として実施した。得られた成果の概要は以下の通り′′であ る。1.
輪 換 放 牧 に お け る 放 牧 開 始 時 期 と 草 地 構 造 及 び 草 地 の 生 産 ・ 利 用 と の 関係放 牧間 隔 が 一 定 の輪 換放 牧にお いて は、 放牧 開始時 期が 異な ると放 牧圧 およ び 草地 構造の 両面 から 生殖 生長へ の移 行期 におけ るdefoliationの 強度に影響した。
割 当 草量 が 一 定 の 輪換 放牧 では、 放牧 開始 時期 が異な ると 、ま ず草量 の違 いに よ り 放 牧間 隔 に 影 響 し 、 そ の 結 果 生殖 生 長 へ の 移 行 期に おける
defoliation
の強 度 に 影 響が 生 じ た 。 放牧 開始 時期が 遅く なる と、 放牧で 採食 きれ なかっ た残 存草 量 が 多 くな り 、 枯 死 物量 の増 加にっ なが り、 その 後の牧 草の 再生 量およ び利 用量 が 低下 するこ とが 明ら かに なった 。2.
放 牧開始 時期 と放 牧間 隔の組 み合 わせ の影 響早 期放牧 開始 では 、生 殖生長 への 移行 期までの放牧間隔が短いと、葉部量が少 なく なり、 牧草 再生 量お よび利 用量 が少 なくなった。一方、生殖生長への移行期 まで の放牧 間隔 が長 いと 、生殖 生長 への 移行は抑制されると同時に、十分な葉部 量が 確保き れ、 高い 牧草 再生量 およ び利 用量が得られた。放牧開始時期が遅く、
放牧間隔、が短い場合、生殖生長への移行期におけるdefoliation の頻度は高いが、
強度が低くなった。その結果、放牧後の残存草量が多くなり、夏季以降の枯死物 量の増加、牧草再生量および利用量の低下・がみられ、年間の草地生産量および利 用量も低下した。このように放牧開始時期は、その後の defoliation に影響し、
生殖生長への移行の有無を決定していた。また放牧開始時期と放牧間隔との組み 合わせによっては、放牧季節を通じての草地生産量および利用量に大きな差はな く、放牧開始が遅れた場合でも、放牧間隔の調整により適切な草地構造の回復を はかり、草地生産量および利用量を低下させずに放牧できる可能性が示唆された。
3 .defoliation 及び草地構造からからみた放牧管理の評価
輪換放牧における放牧開始時期と生殖生長への移行期までの放牧間隔の組み合 わせの影響は、次のように大別きれる。@放牧開始が早く放牧間隔が短いと、強 度も頻度も高いdefoliation になり、生殖生長への移行はみられないが、草量及 び葉部量が少なく、草地生産量および利用量は少なくなる、◎放牧開始が早く放 牧間隔が長いと、強度が高く、頻度が低いdefoliation になり、生殖生長へは移 行せずに、草量及び葉部量が多くなり、草地生産量および利用量は高くなる、
◎放牧開始が遅くて放牧間隔が短いと、強度が低く、頻度が高いdefoliation に なり、生殖生長への移行はみられないが、茎部量および枯死物量が多く、夏季以 降の牧草再生量および利用草量が低下する、@放牧開始が遅くて放牧間隔が長い と、強度も頻度も低いdefoliation になり、生殖生長への移行がみられ、茎部量 および枯死物量の増加により、夏季以降の牧草再生量および利用量が低下する。
この 4 っの場合の比較から、◎の放牧開始を早くし、生殖生長への移行期まで の放牧間隔を長くした場合が、草地の生産および利用という点からみて最も有利 と判断した。草地構造の変化と草地生産量および利用量の関係から検討すると、
北海道の道央地域では、草高10cm 程度で放牧を開始し、放牧間隔が20 日程度の放 牧が、草地の生産および利用の両面から望ましいとした。このように輪換放牧に おける放牧管理によって、defoliation の強度と頻度 1 ま相互に密接に関連して変 化しており、乳牛による牧草の defoliation と草地構造からみて、早期に放牧を 開始し、生殖生長への移行期までの放牧間隔をある程度長く保つことが、草地の 生産と利用を向上きせ得ると結諭した。
以上のように本研究は、輪換放牧における放牧管理が草地の生産と利用に及ぼ す影響の作用機序を明らかにしたものであり、学術上、応用上高く評価される。
よって審査員一同は、西道由紀子が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格 を有するものと認めた。
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