博 士 ( 医 学 ) 金 内 優 典
学位論文題名
Induction of apoptosis by the p53‑273L (Arg ‑ Leu) mutant in HSC3 cells without transactivation of p21Wa . fl/Cipl/Sdil and bax
(
p 53−
273L(Arg→Leu) 変異株のHSC3 細胞における
p21Wan/Cipレ
Sdilおよび
baxの転写活性化によらないアポトーシス誘導能についての研究)
学位論文 内容の要旨
I
.緒言
p53
遺伝子のコドン273 における変異は,実際にヒト癌細胞でしばしば見いだされ,ホットス ポッ トのー っと 認識 され ている .我 々は
6種 類の コド ン273 変 異株の 機能 解析 を行い,p53‑
273 L(Arg
うLeu )は配列特異的転写活性化能を失っているにもかかわらず,細胞増殖を抑制し うることを明らかにした,そこで,この変異型p53 −273L の細胞増殖抑制能の本態を明らかにす るために,野生型p53 ,変異型p53 −175H(Arg →
His)あるいはp53 ‑273L を各々導入したHSC3 細 胞株を樹立し,導入遺伝子をZnz ゛で誘導することにより各p53 遺伝子の細胞内での転写調節能 や細胞増殖に与える影響について検討した.
II.
材料と方法
(1 )プラスミド及びブ口一ブ
野生型
p5 3(pC53‑S N3),変異型p5 3(pC53‑175H ,pC53 −2731) からBamHI 消化により分離さ れた各p5 3cDNA を,2n2 ゛で発現を誘導出来るプロモーターを有するpS V2‑ HMT/Ter ベクター にクローニングし,pSV2 ー
HMT/Ter‑ SN3,‑175H ,−273L を得た.p5 031 *ーanti‑p53 はMMT V‑ LTR プロ モー ター 下流に 野生 型p53 cDNA のア ンチ セン スDNA をクローニングして作製した.ヒト
b axプロ ーブ は既知 の塩 基配 列を もとに
PCR法に て増 幅し 作製 した.p53 ,
p21プロ ーブは各
cDNAフ゜ラスミド
(pC53―SN3 ,pcDSRa △‑Sdil )より調製した.
(2 )誘導可能な
p53遺伝子を有するHSC3 細胞株の樹立
2x 10
^個の
HSC3細胞に,各p53 クローン(pSV2 ーHMT/Ter‑SN3 ,
‑17 5H,−273L )と
p5031゛−
an ti‑p 53
とをりン酸カルシウム法にてコ・トランスフェクトし,G418 (
350ルg/ml) セレクショ ンに て耐 性コ ロニー を分 離した(HSC3/SN3 ,
HS C3/175H,
HSC3/2731).導入p53 遺伝子の発現 はZfi2 十(150 ル
M)存在下でスクリーニングした,
(3 )ルシフェラーゼアッセイ
2 x10
^個の
HSC3細胞に,2.5 ルg の
WWP−Luc レポータープラスミドと0.1 ,0.5 ,1 .
0,2.5 凪
gのpCMV‑Neo Bam (ベクターフ゜ラスミド),pC53‑SN3 ,pC53 −175H ,pC5 3‑273L とを,リン酸カル シウム法にてコ・トランスフェクトし、24 時間後の細胞抽出液における各々のルシフェラーーゼ 活性を測定、比較した.
ー 155 ‑
(4)
ノーザンブ口ットハイブリダイゼーション
40
ルg の
totaIRNAを6.7 %ホルムアルデヒドゲルで電気泳動後,ナイ口ン膜に転写し,32P でラ ベルしたプ口ーフ(p53 ,p21 ,bax ,p ―ac tin )でハイブリダイゼーション後,オートラジオグラフ イーを行った.
(5 )ウェスタンブ口ッテイング
Zn
添加前と添加後12 時間の各細胞株から抽出した蛋白(10 ルg )を10 %
PAGEで展開し,二 トロセルロース膜に転写し,一次抗体(PAb1801 あるいはDO −7 ),二次抗体に反応させ化学発光 法にてバンドを検出した.
(6)
細胞増殖曲線
各細胞株の細胞(1xio ^個)を10 cm ディッシュに播種し,Zn2 ゛存在(100 ルM) 下に5 %及び0.1
%
FBS添 加
DMEMで 培 養 し っ
48時 間 毎 に 生 細 胞 数 を カ ウ ン ト し 作 成 し た .
(7)FACS解析及びDNA 断片化の検出
(6)
と同様に培養した細胞を5 %血清下ではday‑0 とday −6 に,0.1 %血清下ではday‑0 ,1 ,3 ,5 ,7 に浮遊細胞も含め回収し,propidium iodide(50 ルg/ml) 溶液でDNA 染色を行い細胞周期の解析 を行った.また0.1 %血清下で得られたサンプルから.フェノール/ク口口ホルム法によって
DNAを抽 出し ジゴキ シゲ ニン 法に てラベ ル後 .2 %ア ガ口 ース ゲルに て電 気泳 動しナイ口ン メンブランに転写,化学発光法にてDNA 断片化を検索した,
III
.結果
親株及び樹立した各細胞株を,Zn 添加(150 ルM) 下で培養すると,親株を除き,導入した各
p53遺伝子 は6 時間 後に は既に誘導されており,この誘導は24 時間後にも持続していることが 確認された.ウェスタン法にて親株以外の細胞株において
p53蛋白の誘導も確認された.また 野 生型
p53の発 現に よっ てのみ
p21が誘 導さ れ,
273L,17SH の発現では
p21は誘導されなかっ た
.baxの発現には,どの細胞株においても明らかな変化を認めなかった.ルシフェラーゼアッ セ イに より ,野生 型
p53のみがp21 プ口モーターを転写活性化し,273L 及び175H ではこの機能 を欠いていることが確認された.
これ らの 細胞株 を
5%
FBS,
Zn2十(100 ル
M)下で培養すると,HSC3/SN3 の細胞増殖は親株に 比 ベ 抑 制 され た が ,
HSC3/273Lの 細 胞 増殖 は 親 株 と 同 等 で あ っ た . しか し
0.1%
FBS下 で は ,
H SC3/175Hの 細胞 増殖 は親 株に比 ベ促 進さ れた のに対し,HSC3/273L では著しく抑制さ れた.
FACS
解析の結果,5 %FBS ,2n2 ゛(100 ル
M)下では,HSC3/S N3 においてday ―6 におけるGl 分画 の細胞数が
dayー0 に比ベ
30%以上増加していた.親株,HSC3/175H ,
HSC 3/27 3LではGl 分画の 細胞数に変化は認められなかった.一方0.1 %FBS ,Zn2 ゛(100 ルM) 下では,親株においてday −3 か ら
sub‑G1分画の 増加 が確認されたが,HS C3/S N3 ,HSC3/175H ではsub ―
Gl分画の増加は認 められなかった.しかし,HSC 3/273L では,day‑3 ,5 ,7 と著しくsub −G1 分画が増加していくこと が 確 認 さ れ ,
day‑7で 親 株 の 約
3倍 に 達 し て い た . ア ボ ト ― シ ス に よ る
DNAの 断 片 化 は
HSC3/
SN3,
HSC3/175Hで は 認 め ら れ な かっ た の に 対 し , 親 株 で は
day‑5か ら 検 出 さ れ 始 め,HSC3/273L ではday‑3 から著しく生じていることが確認された.
IV.
考察
p53
遺伝 子に よる 細胞 増殖抑 制効 果は その配 列特異的転写活性化能とよく相関すると考え
られている,今回,
Zn2十で誘導可能な野生型p53 ,変異型p53 (‑175H ,−273L) を導入し樹立した
HSC3細 胞 株 を 用 い て , 変 異型
p53‑273Lが , 低 血 清 条 件下で はp21 や
baxを 介さな い機 序で
HSC3
細胞に アポトーシスを誘導し,細胞増殖を抑制し得ることを明らかにした.また、野性 型p53 に よる
p21の誘 導は アポト ーシ スを 抑制することも確認された.従ってp53 遺伝子によ るアポトーシス誘導には,配列特異的転写活性化を介さない経路が存在することが示された,
さらに変異型p53 −273L は,実際にヒトの癌で見出される変異でありながらこの経路を活性化
する働きを保持していると考えられた.
学位論文審査の要旨
主 査 教 授 長 嶋 和 郎 副 査 教 授 吉 木 敬 副 査 教 授 藤 本 征 一 郎
学位論文題名
Induction of apoptosis by the p53‑273L (Arg →Leu) mutant in HSC3 cells without transactivation of p21Wa'''Cip'/Sdil and bax
(p 53―273L(Arg→Leu)変 異 株のHSC3細 胞 にお け るp21Wafl/CipレSdil お よ びbaxの 転 写 活 性 化 に よら な い アポ ト ー シス 誘 導能 に つ いて の 研究 )
p53遺伝子 のコドン273変異株(6種 類)の機 能解析を 行い,p53‑273L(Arg+Leu)は配列特 異的転 写活性化 能を失って いるにも かかわら ず,細胞 増殖を抑制しうることを申請者らは すでに明らかにした.そこで申請者は今回,この変異型p53‑273Lの細胞増殖抑制能の本態を 明らか にするた めに,野生 型p53,変異型p53‑175H(Arg→His)あるいはp53‑273Lを各々導入 し たHSC3細 胞 株を 樹 立 し,導入 遺伝子を2n2゛ で誘導す ることに より各p53遺 伝子の細 胞 内での転写調節能や細胞増殖に与える影響について検討した.
野生型p53(pC53‑SN3),変異型p53(pC53‑175H,pC53‑273L)からBam HI消化により分離さ れ た各p53cDNAを,2n2゛で発 現を誘導 出来るブロ モ一夕ー を有するpSV2‑HMT/Terベクタ ーにク口ーニングし,pSV2‑HMT/Ter―SN3,―175H,‑273Lを得た.p503 l*‑anti‑p53はMMTV−LTR プ ロモ 一 夕ー 下 流 に野 生 型p53cDNAの ア ンチ セ ンスDNAを クロ ー ニ ング し て作 製 した . ヒ トbaxプ ロー ブ は 既知 の塩基 配列をもと にPCR法にて 増幅し作 製した.p53,p21プ ローブ は各cDNAプラスミド(pC53‑SN3,pcDSR口△‑Sdil)より調製した,
2X l06個のHSC3細胞に,各p53クローン(pSV2―HMT/Ter―SN3,―175H,−273L)とp5031*― antiーp53とをりン酸カルシウム法にてコ・トランスフェクトし,G418(3 50ルg/ml)セレクショ ンにて 耐性コ口 二一を分離 した(HSC3/SN3,HSC3/175H,HSC3/273L),導入p53遺伝子の発現 は2n2゛(150ルM)存在下でスクリーニングした.
40ルgのtotalRNAを6.7%ホルムアルデヒドグルで電気泳動後,ナイ口ン膜に転写し,3゜P でラベルしたプ口ーブ(p53っp21,bax,p−actin)でハイブリダイゼーション後,オートラジオグ ラフイーを行った.
2n2゛添加前と添加後12時間の各細胞株から抽出した蛋白(10ルg)を10%PAGEで展開し,
二ト口 セル口ー ス膜に転写 し,一次抗体(PAb1801あるいはD0‑7),二次抗体に反応させ化学 発光法にてバンドを検出した.
親株及び樹立した各細胞株を,2n2゛添加(150ルM)下で培養すると,親株を除き,導入した各 p53遺伝子 は6時間後 には誘導さ れており ,24時間後 にも持続していることが確認された.
ウエスタ ン法にて親 株以外の 細胞株に おいてp53蛋 白の誘導 も確認された.また野生型p53 の発現に よってのみp21が誘導さ れ,273L,175Hの発現ではp21は誘導されなかった.baxの 発現には 、どの細胞株においても明らかな変化を認めなかった,ルシフウラーゼァッセイに より , 野生 型p53のみ がp21プ 口 モ 一夕一 を転写活 性化し,273L及ぴ175Hではこ の機能を 欠いていることが石寉認された,
これらの 細胞株を5%FBS,2n2゛(100以M)下で培養すると,HSC3/SN3の細胞増殖は親株に 比ベ 抑 制さ れ た が,HSC3/273Lの 細 胞増殖は 親株と同 等であっ た.しかし0.1%FBS下で は,HSC3/175Hの細 胞増殖は親 株に比ベ 促進され たのに対 し,HSC3/273Lでは著しく抑制さ れた.
FACS解析の結 果,5%FBS,2n2゛(100ルM)下では ,HSC3/SN3においてday‑6におけるGl分 画の 細 胞数がday‑0に 比ベ30%以 上増加し ていた. 親株,HSC3/175H,HSC3/273LではGl分 画の細胞数に変化は認められなかった,一方O.1%FBS,2r12゛(100肛M)下では,親株において day―3からsub‑Gl分 画の増加が 確認され たが,HSC3/SN3,HSC3/175Hではsub―Gl分画の増 加は認められなかった.しかし,HSC3/273Lでは,day‑3,5,7と著しくsub‑Gl分画が増加して いく こ とが確認 され,day‑7で 親株の約3倍に達し ていた, アポトーシ スによるDNAの断片 化はHSC3/SN3,HSC3/175Hでは認め られなか ったのに 対し,親 株ではday−5から検出さ れ 始 め , HSC3/273Lで は day‑3か ら 著 し く 生 じ て い る こ と が 確 認 さ れ た . 2n2゛で誘導可能な野生型p53,変異型p53 (‑175H,―273L)を導入し樹立したHSC3細胞株を 用い て ,変異型p53‑273Lが,低血 清条件下 ではロ´ やbaxを介さ ない機序でHSC3細胞にア ポトーシ スを誘導し,細胞増殖を抑制し得ることを本研究において明らかにした.また、野 性型p53によ るp21の誘 導 はア ボ ト ーシ ス を 抑制 す るこ と も 確認 され た.従っ てp53遺伝 子による アポトーシ ス誘導に は,配列 特異的転 写活性化 を介さな い経路が存在することが はじめて 示された,さらに変異型p53‑273Lは,実際にヒトの癌で見出される変異でありなが らこの経路を活性化する働きを保持していると考えられた,
公 開 発 表 に際 し ,副 査 の 吉木 教 授 から ,HSC3細胞 を 実 験に 供 した 理 由 ,HSC3細 胞 で のアボト ーシス誘導経路が他の癌細胞において存在する可能性,今回のin vitroの成果をin vivo(例えばSCIDマウス) で確認し たか,ヒ トにおい てこの変 異をもつこ との予想 される 効果,配 列特異的転 写活性化 を介さな い経路で のアポト ーシス誘 導について具体的な実験 施行 の 有無 , ア ポト ー シス 誘 導 にお けるp53とp21との関係 ,p53‑273Lによるア ボトーシ ス誘 導 経路 の 解 明に あ たり ,p21,bax以 外の他の 因子の検 討の必要性 ,などに っいて質 問があっ た.副査の 藤本教授 からは,p53‑273Lが検出さ れるヒト 癌の特徴とその癌の自然 史,低血清濃度で細胞を培養したことの臨床的意義,亜鉛濃度(100l.t M)を設定した根拠,
D0‑7抗体 を 用い た ウ エス タ ン法 で 野 生型p53蛋白 の バ ンド が 認 められ なかった 理由,な どについ て質問があ った.主 査の長嶋 教授から は,細胞 株樹立時 の回収ク口ーン数とクロ ーン 間 でのp53‑273L誘 導 の差 異 ,p21の他にコ ドン273領域 が転写活 性化する因 子,p53‑
273Lが 独 自に 活 性 化す る 因子 の 存 在,p53のり ン 酸 化とp53‑273L変 異と の 関 連,273コ ドン が 口イシン に変化す ることに よるp53蛋白 の立体構 造への影響 ,などに っいて質 問が あった. これらの質 問に対し て,申請 者は自身 のこれま での研究 成績や文献的情報をもと に概ね妥当な回答をなしえた・
審 査員 一 同 は,p21お よぴbaxの転 写活性 化によら ないp53‑273Lによ るアボトー シス誘 導能を初 めて示唆し た本研究 の成果を 評価し, 申請者が 博士(医 学)の学位を受けるのに 資格を有するものと判定した.