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ホメオボックス遺伝子の過剰発現によるヒト肺癌細胞

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 尾 松 徳 彦

学 位 論 文 題 名

ホメオボックス遺伝子の過剰発現によるヒト肺癌細胞 A549 の細胞運動性および浸潤性の増強

学位論文内容の要旨

目 的

癌 の 浸 潤 ・ 転 移 を 発 生 生 物 学 的 に 考 察 す る と , 細 胞 の も つ 固 有 の 空 間 的 位 置 情 報 の 変 化 が 原 因 と 捉 え る こ と が で き る . 動 物 胚 の 発 生 過 程 に お い て 形 態 情 報 を 位 置 情 報 に 変 換 す る 遺 伝 子 は ホ メ オ ポ ッ ク ス 遺 伝 子 と よ ば れ , こ の 遺 伝 子 群 が 位 置 情 報 の 最 終 的 な 担 い 手 で あ る 細 胞 接 着 因 子 遺 伝 子 の 発 現 を 調 節 し な が ら 胚 の 形 態 形 成 を 進 め て い く . 脊 椎 動 物 て は 出 生 後 も 造 血 組 織 , 腎 臓 , 肝 臓 , 中 枢 神 経 な ど で ホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 の 組 織 特 異 的 な 発 現 バ タ ー ン が 認 め ら れ る . ヒ ト 第2染 色 体 に 存 在 す るHOX D3ホ メ オ ポ ッ ク ス 遺 伝 子 の 発 現 は 正 常 肺 組 織 で は 認 め ら れ な い が , 肺 癌 の 原 発 巣 お よ び 転 移 巣 で は し ば し ば 認 め ら れ る . こ の よ う な 背 景 か ら ,HOXD3ホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 の 発 現 異 常 は , 癌 細 胞 の 転 移 ・ 浸 潤 性 と 密 接 に 関 連 し て い る と 予 測 さ れ る . そ こ で 本 研 究 で は , ホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 の ー つ で あ るHOXD3を ヒ ト 肺 癌 細 胞A549に 導 入 し て 過 剰 発 現 さ せ , 細 胞 の 接 着 , 運 動 お よ び 浸 潤 性 の 変 化 に つ い て 解 析 を 行 っ た .

方 法 お よ ぴ 結 果

【HOXD3の 導 入 と 発 現 】 動 物 細 胞 で のHOXD3発 現 ベ ク タ ー と し てTaniguchiら に よ っ て 構 築 さ れ たpMAMneo ‑H OX 4A(+)を 用 い た . コ ン ト ロ ー ル に は , ネ オ マ イ シ ン 耐 性 遺 伝 子 の み を 発 現 す るpMAMneoを 用 い た . ヒ ト 肺 癌 細 胞A549に そ れ そ れ の べ ク タ ー を 導 入 し , HOXD3過 剰 発 現 株(HOX+1,HOX+2), ネ オ マ イ シ ン 耐 性 遺 伝 子 発 現 株 (Neol,Ne02) を 得 た .HOXD3の 発 現 は ,RT―PCR法 に て 調 べ た . コ ン ト ロ ー ル と し て ヒ トpア ク チ ン を 同 じ 条 件 で 増 幅 し た .     HOX D3遺伝 子の 発現 は, 親株 およ びコ ント 口ー ルク ロー ンて は 非 常 に 低 か っ た が ,HOX+1とHOX+2で は 高 い こ と が 明 ら か と な っ た ・

【 接 着 分 子 の 発 現 】 細 胞 表 面 の 接 着 分 子 で あ る イ ン テ グ リ ンp1,p3, ば3,a4,a5, a6, 口IIb,av,av,83お よ びav,85の 抗 体 を 用 い , フ ロ ー サ イ 卜 メ ト リ ー に て こ れ ら の 分 子 の 発 現 を 調 べ た . 親 株 お よ び 他 の す べ て の ク ロ ー ン に お い て イ ン テ グ リ ンa3,ロ5, av, ロ1,83,av,83お よ び ぱvp5の 発 現 が 認 め ら れ た . こ れ ら の う ち ,a3,p3お よ びavロ3の 発 現 は HOX+1とHOX+2で 増 強 し た . イ ン テ グ リ ンa4の 発 現 は ,HOX+1と HOX+2の み で 認 め ら れ た . イ ン テ グ リ ンallbの 発 現 は , 親 株 を 合 め た い ず れ の ク ロ ー ン に お い て も 認 め ら れ な か っ た ・

【 細 胞 の 接 着 性 】 フ ィ ブ ロ ネ ク チ ン , ラ ミ ニ ン , ビ ト 口 ネ ク チ ン お よ びBSAに 対 す る 細 胞 の 接 着 性 を 経 時 的 に 調 べ た . フ ィ ブ 口 ネ ク チ ン と ビ ト ロ ネ ク チ ン に 対 し てHOX+1と HOX+2は 親 株 お よ び コ ン ト 口 ー ル ク ロ ー ン と 比 較 し て 高 い 接 着 性 を 示 し た . ラ ミ ニ ン と BSAに 対 す る 接 着 性 は 各 ク ロ ー ン と も 同 程 度 で あ っ た .

(2)

【 細 胞 の 運 動 性 】 フ ィ ブ 口 ネ ク チ ン , ビ ト 口 ネ ク チ ン , ラ ミ ニ ン お よ ぴ フ ィ ブリ ノ ー ゲン に 対 す る 細 胞 運 動 性 を ト ラ ン ス ウ エ ル チ ャ ン バ ー を 用 い た ハ プ ト タ キ シ ス ア ッセ イ に て調 べ た . フ ィ ブ ロ ネ ク チ ン, ビ ト 口ネ ク チ ンお よ び フ ィブ リ ノ ーゲ ン に 対す る 細 胞運 動 性 は,

親 株 お よ び コ ン ト 口 ー ル ク 口 ー ン と 比 較 し てH OX+1とHOX+2で 有 意 に 増 強 し た . ラ ミ ニ ン に 対 す る 細 胞 運 動 性 は 各 ク 口 ー ン と も 同 程 度 で あ っ た . 次 に イ ン テ グ リ ンp1, イ ン テ グ リ ン ロ3に 対 す る 中 和 抗 体 で 各 ク ロ ー ン を 処 理 し て , フ ィ ブ 口 ネ ク チ ン と ビ ト 口 ネ ク チ ン に 対 す る ハ プ ト タ キ シ ス ア ッ セ イ を 行 っ た . 親 株 と コ ン ト ロ ー ル ク 口 ー ン のフ ィ ブ 口ネ ク チ ン に 対 す る 細 胞 運 動 性 は , 抗 イ ン テ グ リ ンp1抗 体 に よ っ て ほ ぼ 完 全 に 抑 制 さ れ た の に 対 し , 抗 イ ン テ グ リ ンp3抗 体 に よ っ て は 全 く 抑 制 さ れ な か っ た .HOX+1とHOX+2の フ ィ ブ 口 ネ ク チ ン に 対 す る 細 胞 運 動 性 は , 抗 イ ン テ グ リ ンp1抗 体 あ る い は 抗 イ ン テ グ リ ン ,3抗 体 に よ っ て 部 分 的 に 抑 制 さ れ た . ビ ト ロ ネ ク チ ン に 対 す る 細 胞 運 動 性fま , 親 株 と コ ン ト ロ ー ル ク 口 ー ン で は 抗 イ ン テ グ リ ン,1抗 体 あ る い は 抗 イ ン テ グ リ ンp3抗 体 の 単 独 処 理 に よ っ て 部 分 的 に 抑 制 さ れ , 両 抗 体 で の 処 理 で は 完 全 に 抑 制 さ れ た .H OX+1お よ ぴ HOX+2の ビ ト 口 ネ ク チ ン へ の 細 胞 運 動 性 は 各 抗 体 の 単 独 処 理 で も 部 分 的 に 抑 制 さ れ , 両 抗 体 の 処 理 で は さ ら に 抑 制 さ れ た が 完 全 で は な か っ た ・

【 ウ 口 キ ナ ー ゼ 型 プ ラ ス ミ ノ ー ゲ ン ・ ア ク チ ベ ー タ ー(uPA)お よ びetsフ ん ミ リ一 遺 伝 子の 発 現 】uPAと そ の 転 写 因 子 で あ るetsフ ん ミ リ ー 遺 伝 子 (ets‑l,ets‑2,EIAF) のmRNAの 発 現 をRT‑PCR法 を 用 い て 調 べ た .HOX+1お よ びHOX+2のuPA,ets‑lお よ びets―2の 発 現 は 親 株 お よ び コ ン ト 口 ー ル ク ロ ー ン と 比 較 し て 高 か っ た .EIAFとHOXD3の 発 現 程 度 に は 明 ら か な 相 関 性 は 認 め ら れ な か っ た ・

【In vitroの 浸 潤 性 】 基底 膜 モ デル と し て 頻繁 に 利 用さ れ て いる マ ト リゲ ル に 対す る 浸 潤性 を 調 べ た .HOX+1とHOX+2は , 親 株 お よ ぴ コ ン ト ロ ー ル ク 口 ー ン と 比 較 し て 有 意 に 高 い 浸 潤 性 を 示 し た . さ ら に , 浸 潤 ア ッ セ イ 系 に プ ラ ス ミ ノ ー グ ン を 添 加 す る と ,HOX+1と H OX+2に お い て の み 浸 潤 性 の 増 強 傾 向 が 認 め ら れ た .

考 察

A549細 胞 の フ ィ ブ 口 ネ ク チ ン や ビ ト 口 ネ ク チ ン に 対 す る 細 胞 運 動 性 がHOXD3遺 伝 子 の 過 剰 発 現 に よ っ て 増 強 す る 原 因 と し て , イ ン テ グ リ ン 分 子 の 発 現 亢 進 と 機 能 性の 変 化 が考 え ら れ る .A549細 胞 は , フ ィ ブ 口 ネ ク チ ン に 対 す る 細 胞 運 動 に 際 し て は 本 来 イ ン テ グ リ ン Biを 使 用 し て い る が ,HOXD3が 過 剰 に 発 現 さ れ る と イ ン テ グ リ ンav,83の 発 現 が 亢 進 し , ロvp3とp1の 両 方 を 禾IJ用 す る よ う に な る こ と が 示 唆 さ れ た . ビ ト ロ ネ ク チ ン に 対 す る 運 動 性 の 亢 進 は イ ン テ グ リ ン83の 発 現 亢 進 と そ の 利 用 に よ る と 考 え ら れ る ,A549のHOXD3 過 剰 発 現 株 に お い てuPAの 発 現 の 増 強 が 認 め ら れ た .uPAの 転 写 因 子 の ー っ にetsフ ん ミ リ ー遺 伝子が 知られて いる.     HOX D3過 剰発現株 におい てets‐1,ets−2の著明な発現の亢進が 認 め ら れ ,HOX D3は , 転 写 因 子 で あ るetsフ ァ ミ リ ー の そ の 上 位 の 転 写 因 子 と し てuPAの 発 現 を 促 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た .uPAは プ ラ ス ミ ノ ー グ ン を プ ラ ス ミ ン に 変 換 す る こ と に よ り 様 々 な 細 胞 外 マ ト リ ッ ク ス を 分 解 し , ま た , マ ト リ ッ ク ス メ タ ロプ 口 テ アー ゼ

(MMP)を 潜 在 型 か ら 活 性 型 に 変 換 さ せ る .uPAの 発 現 と 転 移 ・ 浸 潤 性 と の 相 関 は 肺 癌 を 含 め 多 く の 癌 に お い て 報 告 さ れ て お り , イ ン テ グ リ ンp3の 発 現 は ヒ ト メ ラ ノ ー マ の 悪 性 化 に 伴 っ て 増 加 す る こと , お よび ヒ ト 乳 癌細 胞 の 骨転 移 と 関連 す る こと が 報 告さ れ て いる , uPAの ほ か にetsフ ん ミ リ 一 遺 伝 子 に よ っ て 転 写 が 調 節 さ れ る 遺 伝 子 と し てMMPに 属 す る MMP‐1,MMP−3,MMP−9な ど が 挙 げ ら れ る , こ れ ら の 分 子 は 癌 の 転 移 ・ 浸 潤 に 関 わ る 分 子 で あ る . 実 際 ,HOXD3過 剰 発 現 株 の マ ト リ ゲ ル へ の 浸 潤 性 は , コ ン ト ロ ー ル 株 に 比 ベ 有 意 に 高 か っ た . 従 っ て , 癌 細 胞 に お け るHOX D3の 発 現 異 常 は , 転 移 関 連 遺 伝 子 の 発 現 を亢 進し, 転移・浸 潤性を 増強して いる可 能性が示 唆された .

結語

―338―

(3)

ヒト肺癌細胞A5 49 の転移・浸潤は癌細胞に特有な遺伝子発現によって起こるというより

は,むしろ発生過程の遺伝子発現プ口グラムを模倣あるいは借用している可能性が高いと

考えられた.

(4)

学位論文審査の要旨 主査    教 授    宮坂和男 副査    教 授    守内哲也 副査   教授   細川真澄男

学 位 論 文 題 名

ホメオボックス遺伝子の過剰発現によるヒト肺癌細胞     A549 の 細 胞 運 動 性 お よ び 浸 潤 性 の 増 強

   癌の浸潤・転移を発生生物学的に考察すると、細胞のもつ固有の空間的位 置情報の変化が原因と捉えることができる。動物胚の発生過程において形態 情報を位置情報に変換する遺伝子はホメオボックス遺伝子とよぱれ、この遺 伝子群が位置情報の最終的な担い手である細胞接着因子遺伝子の発現を調節 しながら胚の形態形成を進めていく。ホメオポックス遺伝子の発現異常は、

癌細胞の転移・浸潤性と密接に関連していると予測される。そこで本研究で

は、 ホメオボックス遺伝子のーつであるHOXD3 をヒト肺癌細胞A549 に導入

して過剰発現させ、細胞の接着、運動および浸潤性の変化について解析を行

った 。ヒト肺癌細胞A549 に HOXD3 発現ベクターとネオマイシン耐性遺伝子

のみ を発現するべクターをそれそれ導入し、 HOXD3 過剰発現株および、ネ

オマ イシン耐性遺伝子発 現株を得た。HOXD3 の発現は RT ―PCR 法にて調べ

た。 HOXD3 遺伝子の発現は 、コントロール株 、親株に上ヒ較して、HOXD3

過剰発現株で高く認められた。細胞表面の接着分子であるインテグリンの発

現を抗体を用い、フローサイトメトリーにて調べた。コントロール株、親株

に 比 較 し て 、 HOXD3 過 剰 発現 株で イ ンテ グリ ン a3 、 a4 お よび p3 鎖 の発

現の亢進カs 認められた。フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンへの

細胞 接着性および細胞運動性を調べた。HOXD3 過剰発現株では、コント口

ール株、親株に比較して、フィブ口ネクチン、ビトロネクチンへの細胞接着

性および細胞運動性の亢進が認められた。癌の転移・浸潤に関与する細胞外

マトリックス分解酵素のひとつであるウロキナーゼ型プラスミノーグン・ア

ク チベ ー ター(uPA )とそ の転写因子である ets フんミリーの mRNA 発現 を

(5)

RT‑PCR 法で調 べた。 コン トロー ル株、 親株に比較して、 HOXD3 過剰発現 株において uPA の発現が亢進し、uPA の転写因子であるets ―1 、ets‑2 の発現 の亢進が認められた。また、 HOXD3 過剰発現株ではコント口ール株、親株 に比 較 して 、基 底膜モ デルで あるマ トリ ゲルへ の浸潤 性が増 強した 。 中和抗体を用いた細胞運動性の実験より、 HOXD3 遺伝子の過剰発現によっ てA549 細胞のフィブロネクチンやビト口ネクチンに対する細胞運動性が増 強する原因としては、インテグリン分子の発現亢進と機能性の変化が考えら れた。また、 HOXD3 遺伝子は ets フんミリーの転写を調節し、 ets フんミリ ーを介して uPA の転写を調節している可能性が示唆され、 HOXD3 遺伝子の 過剰発現によるマトリゲルへの浸潤性の増強の原因としてはこれらの細胞外 基質の分解系の促進が考えられた。

   以 上 から 、癌 細胞 A549 にお ける HOXD3 遺伝 子の発 現異常 は、 HOXD3 遺 伝子によって支配されている転移関連分子であるインテグリン、uPA 、ets フんミリーの発現を亢進し、癌細胞の接着、運動およぴ浸潤性を増強してい る可能性が示唆された。

   口頭発表に際し、副査細川教授よりin vivo でのHOXD3 遺伝子の過剰発現 による転移の変化、および HOXD3 遺伝子の過剰発現を行わない癌細胞につ いて、 HOXD3 遺伝子の発現と癌細胞の転移、浸潤性について質問がなされ た。副査守内教授より、 HOXD3 の過剰発現株での細胞運動性の増強とイン テグリン分子の発現との関係、およびuPA の発現増強とets‑l 、ets ー2 の発現 との関係についての質問がなされた。主査宮坂教授より、HOXD3 遺伝子の 発現と、臨床的な癌の悪性度との関係について質問がなされた。また、自土 助教授から、形態温存の治療としての放射線治療とホメオポックス遺伝子に ついての質問がなされた。申請者は、メラノーマと乳癌におけるHOXD3 の 発現、 in vitro の実験の結果および、インテグリン分子の発現と転移との報 告などに基づぃて、概ね妥当な回答を行った。

   動物胚の発生過程での位置情報を担うホメオポックス遺伝子と癌細胞の運 動性、浸潤性の関係を検討した研究はまだ少なく、先駆的な研究として学位 論文に値するものと判断した。

   審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取

得単位なども併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有

するものと判定した。

参照

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