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ヒト癌細胞における癌遺伝子および染色体の異常

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Academic year: 2021

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83 シンポジウム 〔東女医大誌 第58巻 第6号頁 547∼550 昭和63年6月〕

遺伝子操作の基礎と臨床

ヒト癌細胞における癌遺伝子および染色体の異常

東京女子医科大学 第1内科学教室 ワ ダ マ キ オ ミゾグチ ヒデァキ

和田真紀夫・溝口 秀昭

(受付 昭和63年2月5日) はじめに 癌遺伝子の研究の発端とな:つたのは,宿主に白 血病や肉腫をひき起こすレトロウイルスの発見で あった.このようなウイルスの担う癌遺伝子(v− 0ηのと相同な細胞遺伝子(C−0πのが,ヒトを含 めた後生動物類に既に内存していることがわかる に至り,ウイルスの持つ癌遺伝子は,ウイルスゲ ノムと宿主ゲノム間で組換えを起こした結果生じ たものであることが明らかとなってきた.こうし て研究の焦点はV−0η6からC−0η0へと移り,本来 生命現象を営む上で重要な役割りを果たしている 細胞遺伝子(proto−oncogene)が,どのような異 常を起こして活性化された細胞癌遺伝子(on− cogene)となり癌化が起こるのか,そのメカニズ ムを解析することが主題となった. その一方で,癌を起こさせる遺伝子である癌遺 伝子に対して,癌になることを抑制している遺伝 子,すなわち癌抑制遺伝子(anti−oncogene)の概 念が生まれ,この癌抑制遺伝子が不活化されるこ とによって癌化が起こるとも考えられている. 現在までに約40種にものぼる癌遺伝子が見出さ れているが,これら個々の遺伝子の構造や機能を 分子生物学的に解析する一方で,臨床に則した立 場からは,これらの癌遺伝子の異常がどの位の頻 度で実際のヒトの癌に関与しているのかを検定し ていくことも重要である. また,染色体の特定の部位の欠失として捕えら れる癌抑制遺伝子の検索に関しては,新たな分子 生物学的手法を用いて多数の癌組織をスクリーニ ングし,特定の癌に特異的な染色体異常を見出す ことが有効な手段となっている, 1.ヒト癌細胞における癌遺伝子異常 癌の発生や進展における癌遺伝子の変化として 認められるものには,遺伝子増幅,点突然変異, 再配列がある.遺伝子増幅の例としては,神経芽 細胞腫や肺小細胞癌における彫鐸遺伝子群の増 幅,扁平上皮癌における6乃B−1,腺癌における 6乃B−2の増幅などがある.点突然変異としては, 膀胱癌におけるHa一画sの12番または61番目のコ ドンにおける一塩基の置換を始め,白血病や骨髄 異形成症候群におけるN一名αsの13番目のコドン の変異など,名αs遺伝子群の異常が多い.再配列に 関しては,やはり血液疾患のバーキットリンパ腫 や慢性骨髄性白血病にみられる染色体転座に伴っ て出現するσ溺翼やαろ1を含む構造変化が代表 的である. これらの癌遺伝子の変化のうち,特に遺伝子増 幅はいろいろな:癌において広く認められている異 常である.しかし,その報告の多くは,癌組織よ り確立された培養細胞においてみられたもので, 実際勿伽。の癌組織における癌遺伝子増幅の頻 度は決して高くはない. 2.胃癌および肺癌組織における癌遺伝子増幅 筆者らは,胃癌患者35例,肺癌患者53例より得

Makio WADA, Hideaki MIZOGUCHI〔Department of Medicine I, Tokyo Women’s Medical Col− 1ege〕:Genetic alterations of oncogenes and chromosomes in human cancers

(2)

84 られた癌組織に関して,癌遺伝子増幅の有無につ いてサザンプロット法を用いて検索した.胃癌に おいては,検索を行なった12種類の癌遺伝子のう ち,6γ∂B−2で4例(11%)の増幅を認めた他,θ幼B・ 1,ぬs’,勿’2,〃厩の増幅がそれぞれ1例認められ た.しかし,規ッ6遺伝晶群や名α∫遺伝子群の増幅 はなく,全体として遺伝子増幅の頻度は極めて低 かった.肺癌においてはやや傾向が異なり,c・勉ッ‘ で3例(6%),L一解yoで3例(6%)の増幅が認 められた.他に嬉の増幅が1例認められたもの の卿ッ6遺伝子群の増幅がめだった.しかし頻度と してはやはり低く,これらのことから,癌遺伝子 の増幅は勿擁〃。の組織では高頻度に起きている 現象ではないことがわかる. 3.ヒト癌における染色体の部分欠失 かねてより染色体分析により,小児の網膜芽細 胞腫では,染色体13番の長話の一部が特異的に欠 失していることが報告されており,その後DNA レベルで欠失部位の解析がなされ,1∼B gene (retinoblastoma.susceptibility gene)カミクローニ ングされた.1∼βgeneは癌抑制遺伝子と考えられ ており,この遺伝子が不活化することにより網膜 芽細胞腫となる可能性が示唆されている. 染色体の特定の部位が,ある種の癌において特 異的に欠失しているという現象は,遺伝的背景を 持つ小児の代表的な2疾患に認められていた.す なわち,上述の網膜芽細胞腫の13番の長腕の欠失 と,ウイルムス腫瘍の11番の油島の欠失である. ところで,近年のDNAレベルの解析から,成人の 多くの固形癌に:おいても特異的な染色体欠品部位 があることが相次いで確認された.このうち,肺 小細胞癌と腎癌における染色体3番の短腕の欠品 は,100%の症例に認められており,癌との関連を 強く示唆する. 4.染色体異常の分子生物学的検索方法 特定の制限酵素でDNAを切断した場合に,染 色体の同じ部位でありながら,人によってその DNA断片の長さが異なる場合がある.この現象

をRFLP(restriction fragment length polymor.

phism)といい,個体差による違いと考えられてい る.通常,1個体は2本の相同染色体を持ってい るので,父方由来の染色体と母方由来の染色体が ある。そのDNA断片の長さが異なる個体,すなわ

ちヘテロの個体では,このRFLPを検知する

DNAプローブを用いてサザンプロット法を行な うと,2本のバンドとして検出される.同一患者 の正常組織と腫瘍組織を比較して,腫瘍組織での み2本のバンドの一方が消失していれぽ,腫瘍組 織で特異的に相同染色体の一方が検索部位を含ん で欠失していることになる. 5.胃癌および肺癌組織における染色体欠失 筆者らは,胃癌患者30例,肺癌患者47例の腫瘍 組織および非三部正常組織について,その染色体 欠失の有無を検索した.サザンプロット法に用い たポリモルフィックマーカーは27種類で,これら のプローブは染色体の4番と21番を除く20の常染 色体に認識部位を持つ.これらのプローブを用い たRFLP分析の結果,胃癌および肺癌においても 染色体の欠失が認められた.写真はその一例を示 したもので,写真の3例(1∼3)の胃癌患者の うち2例(症例1,2)において染色体1番の短 腕に二二部位を認めた.すなわち,DNAを制限酵

1 2 3

TNTNTN

10.0一〇〇嚇○幽晦鱒一a

6・6一欝○◎筋○◎.b

茎:§:藁雛鎌轍繋雛一、

1.55一 1.05一 藩’

L・myc十。・myb

写真 ]・ 一548一

(3)

85 素EooRIで切断した場合,染色体1p32を認識する L一窺y6プローブでは,父方由来,母方由来の相同 染色体に対応してa:10kbp(kilobase pair:キ ロ塩基対)またはb:6.6kbpのバンドを認める が,この2つのバンドに対してヘテロである3例 のうちで,症例1,2は正常組織Nに比べて腫瘍 組織Tで明らかに一方のバンドの強さが減少し ている.完全にバンドが消失しないのは,正常細 胞の混入のためと思われる.同時に用いた。一〃zψ プローブは染色体6q22−24を認識し,やや複雑な ポリモルフィックバンドa,bとコモンバンドを

認めるが,正常組織Nと腫瘍組織Tで出現した

バンドのパターンに差はなく,この部位の欠失は 表1 胃癌手術材料における染色体部分欠失 染色体部位 頻 度

1P

2/12(17%) 11q 1/11(9%) 12P 1/4(25%) 13q 3/23(13%) 14q 1/17(6%) 16q 1/11(9%) 19P 1/16(6%) 表2 肺癌手術材料における染色体部分欠失 染色体部位 頻 度

1P

2/20(10%)

3P

12/15(80%) 5 1/11(9%)

6q

3/18(17%)

9q

2/14(14%) 11P 6/23(26%) 13q 20/42(48%) 14q 2/23(9%) 16q 5/20(25%) 17P 8/17(47%) 18 3/28(11%) 20 1/10(10%) 認められない.このような方法で検索した各染色 体のうち,貸間を認めたものに関して表1(胃癌) および表2(肺癌)に示した.胃癌および肺癌共 に散在的に染色体の部分欠失を認めたが,特に肺 癌において全体にその頻度が高く,またその中で 特に頻度の高いいくつかの部位が存在することが わかった.しかもこれらの部位に関して肺小細胞 癌に限ってまとめると,表3に示すように染色体 3p,13q,17pではほぼ100%の症例で欠失してお り,きわめて特異的であった.このうち,3pは従 来から染色体分析によりその心当が指摘されてい た部位で,腎癌でも同一の部位が欠失していると 報告されている.13qと17pはこれまでの染色体 分析では指摘されていなかったが,それぞれ網膜 芽細胞腫,大腸癌において同一の部位の欠失が報 告されている.これらのことから,特定の癌に共 通する発癌のメカニズムが存在する可能性も示唆 される.特定の癌における染色体の特異的な部位 の部分遠洋の意義は,1∼Bgeneの解析など今後の 研究が待たれるところである. おわりに 癌遺伝子の異常のうちの遺伝子増幅に関して は,1つの癌遺伝子の増幅だけでは癌の発生や進 展のメカニズムを説明しにくい状況にあるが,多 くの遺伝子増幅は過剰な遺伝子発現を伴い,遺伝 子産物を過剰に産生することで影響を及ぼす.遺 伝子再配列に増幅を伴う場合もある.遺伝子点突 然変異や再配列のヒト癌におけるスクリーニング の報告は増幅に比べ多くはない.新たな遺伝子構 造の異常を検索するには,より詳細な遺伝子解析 が必要であり,またそれらを発見する有効な手段 がないなどの問題もある.癌抑制遺伝子の検索を 含め,さらには癌の進展,転移に関係する遺伝子 など,幅広く研究を進めていかねぽならない. 表3 肺小細胞癌手術材料における染色 体部分欠失 染色体部位 頻 度

3P

P3q P7P 7/7(100%) P0/11(91%) T/5(100%) 本研究は,国立がんセンターにおいて寺田雅昭博 士,横田 淳博士らとの共同研究で行われた. 文 献

1)Yokota J, Yamamoto T, Toyoshima K et al:

Amplification of c・erbB−20ncogene in human

adenocarcinomas in vivo. Lancet 1:765−766, 1986

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86

2) Yokota J, Yamamoto T, Miyajima K et al : Genetic alterations of the c-erbB-2 oncogene occur frequently in tubular adenocarcinoma of the stomach and are often accompanied by amplification of the v-erbA homologue. cogene 21283u287, 1988

3) Yokota J, Wada M, Shimosato Y et al : Loss of heterozygosity on chromosomes 3, 13 and 17 in small-cell carcinoma and on chromosome 3 in adenocarcinoma of the lung, Proc Natl Acad Sci USA 84 I 9252-9256, 1987

4) Yokota J, Wada M, Yoshida T et al :

geneity of lung cancer cells with respect to the

amplification and rearrangement of mJ;c family oncogenes. Oncogene 2 I in press, 1988

5) Wada M, Yokota J, Mizoguchi H et al: Y chromosome abnormality in human stomach

and lung cancer. Jpn J Cancer Res (Gann) 78: 780-783, 1987

6) Wada M, Yokota J, Mizoguchi H et al:

Infrequent loss of chromosomal heterozygosity in human stomach cancer. Cancer Res 48:in press, 1988

参照

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