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博 士 ( 獣 医 学 ) 砂 川 紘 之 学 位 論 文 題 名 ポ ` ソ リ ヌ ス

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Academic year: 2021

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博 士 ( 獣 医 学 ) 砂 川 紘 之

学 位 論 文 題 名

ポ ` ソ リ ヌ ス C 型 菌 と D 型 菌 の 毒 素 変 換 フ ァ ー ジ に 関 す る 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  ボ ッリヌ スC型菌とD型 菌がわ が国で 土壌ナ ょどか ら頻 繁に分 離され るよう になったのは比較的 最近 であっ て, 東京や 千葉ナ ょどで野鳥のボツリヌス中毒が発生した1973年以降のことである。ボ ツ リ ヌ スC型 菌 とD型菌 は 少 な く とも2種 類 の ファ ージを 保有 してい るが, それら のう ちの大 型 のフ ァージ が親 株の毒 素産生 性を支 配し ている ことが 明らか にされ て以 来,ボツリヌスファージ の研 究は主 に毒 素産生 性との 関係に 焦点 をあて て進め られて きた。 しか しそれらの研究に用いら れた 菌株は いず れも諸 外国で 分離さ れた もので ,わが 国で分 離され た菌 株にっいてはほとんど研 究 が な され て い な い 。本 研究 ではわ が国 で分離 された ボツリ ヌスC型菌 とD型菌に っい てファ ー ジの 検索を 行う ととも に,分 離ファ ージ の形態 ,宿主 特異性 ならび に抗 原性にっいて,これまで に 諸 外 国で 分 離 さ れ たC型 菌 とD型菌 由 来 の フ ァー ジ と の 比 較検 討 を 試み た。ま たC型菌とD型 菌 各1株の それぞ れが保 有する 毒素変 換フ ァージ と毒素 非変換 ファ ージの 生物学 的・生 物物理 学 的 性 状 なら び に そ れ らの フ ァ ― ジ から 分 離 さ れ たDNAの 物 理化 学 的 性 状 を明 ら か に し , さら にD型 フ ァ ー ジDNAか ら 神 経毒 素 遺 伝 子 をク 口 ー ニ ン グ して そ の 塩 基 配列 を 決 定 し た。 そ の 結果 は以下 のと おりで ある。

  1. わが国 で発生 した水 鳥, ミンク とブ口 イラー のボツ リヌ ス中毒 例から 分離さ れた ボツリ ヌ ス 菌 と 中毒 の 発 生 に 関連 し た 地 域 の土 壌 か ら 分 離 され た 菌 株 , 合計C型菌8株とD型 菌1株につ い て 溶 原フ ァ ー ジ の 分離 を試 みた。 その 結果D型菌1株か ら従 来報告 されて いるフ ァー ジとは 宿 主 特 異 性や 抗 原 性 の 上で 異 な る 新 型の 毒 素 変 換フ ァ― ジが分 離され た。ま たD型菌1株とC型 菌 2株 か らC型 菌 とD型 菌 の 両 方 に 共通 に 感 染 し てい ると考 えら れる毒 素非変 換ファ ―ジ が分離 さ れ た 。 すな わ ち ボ ツ リヌ スC型とD型 の毒素 変換フ ァ―ジ は宿 主特異 性と抗 原性が 多様 なファ ー ジ 群 で あり , そ れ ら の性 質 の 違 い によ っ て 少 なく とも4群に 分か れるこ とが明 らかに なった 。   2. ボ ツ リ ヌ スC型 菌C−468株 とD―DCB16株 か ら 分 離 さ れ た 毒 素 変 換 フ ァ ー ジCEロ とd

―16¢ な ら び に 毒 素非 変 換 フ ァ ージCE7とd―1 に っいて 各種の ウイ ルス学 的性状 を調べ た。

フ ァ ― ジCE目 ,d一16¢ ,CEア とd−1 は , そ れ ぞれ 吸 着 定 数1.lX10‑。 耐 /rriin,3.3x

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10 ‑。祕/rriin,1.4xi0‑。紺/minと1.4xi0‑。 mE/minで感受性菌に吸着された。一段階増殖 で の潜伏 期はそ れぞ れ35分,45分,35分と35分で平均放出数は38個,85個,35個と35個であった。

温 度pH, 紫 外 線 な ら び に 有 機 溶媒 な ど に 対 する フ ァ ー ジ の感 受 性 を 調 べた と こ ろ 毒 素 変換 フ ァ ー ジ は これ ら の 因 子 に対 して毒 素非 変換フ ァージ より強 い感 受性を 示した が,前 者のCEロ とdー16¢,ま た後 者のCE7とd―1 はそ れぞ れ同じ 感受性 を示し た。

  3. 精 製 し たCEロ ,d―16¢ ,CEア とd―1 の 各 フ ァ ー ジ 粒 子 か らDNAを 抽 出 し , そ れ ら に っ い て 種 々 の 物 理 化 学 的 性 状 を 調 べ た 。CEロ ,d―16¢ ,CE7とd−1 のDNAの 浮 遊 密 度はそ れぞれ1. 687g/ 田,1.689g/甜,1.687g/甜 と1.688g/ 甜,ま た融解 温度Tm は80.0℃ ,80.0℃ ,81.3℃ と81.1℃で あ っ た 。HPLCに よる 塩 基 分 析 の結 果 ,GC%は ,CEロ で は25.9% ,d―16¢ で は26.0%,CEア で は28.4%, ま たd―1 で は27.7% で あ った 。7種 類 の 制 限 酵 素 に よ る 切 断 パ タ ー ンを 比 較 し た 結果 ,2種 類 の毒 素 変 換 フ ァ ージDNAでは 切 断 パ タ ー ンに 差 異 が 認 めら れ た が , 毒素 非 変 換 フ ァ ージDNAでは い ず れ の 酵素 を 用 い て も 切断 パ タ ー ン は 全く 、 同 一 で あっ た 。 制 限 酵素 に よ る 切断 片の大 きさか ら測定 したDNAの 塩基対 数 は 毒 素 変 換 ファ ー ジ で は 約l10kbp, ま た 毒 素変 換 ファ ージ では約65kbpで あった 。各 毒素変 換 フ ァ ― ジのDNAの間 の ホ モ 口 ジ ―は50〜 75% , ま た毒 素 変 換 フ ァー ジ のDNA間 の ホ モ ロ ジー は ほ ぼ100% で あ っ たが 毒 素 変 換 ファ ― ジ と 毒 素 非変 換 フ ァ ー ジのDNA間で ホモロ ジーは 認め ら れ な かっ た 。 こ れ らの フ ァ ― ジDNAの 性 状 試験 に お い て も毒 素 変 換 フ ァー ジ は 分 離 フ ァー ジ 毎に性 状に違 いが 認めら れたが ,毒素 非変 換ファ ージで はいず れの試 験に おいても差異は認め ら れなか った。

  4.D型 菌D−CB16株 の 産 生 す るD型 神 経 毒 素を 精 製 し て 還元 剤 の 存 在 下 で重 鎖 と 軽 鎖 に解 離 さ せ ,それ らの標 品を作 製し た。さ らに軽 鎖と重 鎖を2種類 の蛋 白分解 酵素を 用いて 限定的 加 水 分 解 を 行 い, そ れ ぞ れ2個 と3個の ポりペ プチド を得た 。そ こでこ れらの 軽鎖と 重鎖 にっい て ア ミノ酸 分析計 を用 いてア ミノ酸 組成を 分析 すると ともに ,これ らの蛋 白な らびにポリペプチド のN末 端 アミ ノ 酸 配 列 を ダイ レク 卜マイ クロシ ーケ ンシン グ法に より決 定し た。D型神 経毒素 で 決 定 さ れ た アミ ノ 酸 配 列 をA型 とC,型 神 経 毒 素 の それと 比較 すると ,共通 な薬理 作用 による 毒 性 発 現 機能を 分担し ている とさ れてい る軽鎖 はN末端部 分に各 型に 共通な アミノ 酸配列 を持っ て い た。し かし感 受性 動物細 胞への 毒素の 吸着 と軽鎖 を細胞 内ヘ取 り込ま せる 作用を分担している と さ れ ている 重鎖で はN末端の アミノ 酸配 列が各 型毒素 ごとに 異な ってい た。こ れらの ことは 各 型 毒素が 共通の 薬理 作用を 持ちな がら型 ごと に動物 種によ って毒 カが異 なる というボツリヌス神 経 毒素の 特徴を 端的 に説明 するも のと思 われ る。

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  5. フ ァ ー ジd―16ゆDNAか ら スgtllーE. coli Y1090株 の ク ロ ー ニ ング 系 を 用 い てD型 神 経 毒素遺 伝子 をクロ ―ニン グした 。イム ノス クリー ニング 法およ びエ ピトー プ抗体選択法によっ て ク 口 一 ン の 選 択 と 同 定 を 行 っ た と こ ろ , 得 ら れ た ク ロ ー ンD―3の 挿 入DNAはD型 神 経毒 素 のN末 端 に 対 応 す る21merの オリ ゴ ヌ ク レ オチ ド プ ロ ー ブ と高 い 相 同 性 を示 し ,D―3挿 入 DNAの 制 限 酵 素 地 図 上 のH2断 片 の 位 置 にD型 神 経 毒 素 のN末 端が 存 在 す る こと が 判 明 し た。

制 限 酵 素 で 切 断 し たDー3挿 入DNA断 片 をPUC系 とM13系 ベ ク 夕 ― を 用 い て サ ブ ク 口 ― ニ ン グ し て , 毒 素遺 伝 子 の 塩 基配 列 を 決 定 した 。 そ の 結 果 ボッ リ ヌ スD型菌DーCB16株の 産生す る D型 神 経 毒 素に 対 応 す る3,825bpのORFを 含 む 塩 基 配列 が 決 定 さ れ た。 この 配列か ら推定 され た1,275残 基のア ミノ酸 配列 (分子 量146,785)は ダイレクトマイクロシ―ケンス法によって得ら れ た 毒素 構成蛋 白とそ れらの 部分ポ りペ プチド のN末端ア ミノ酸 配列と 一致 し,推 定され た配列 が 正 し い こ とが 裏 付 け ら れた 。D型 神 経毒 素 は 軽 鎖(441ア ミノ酸 残基, 分子量50,410)と 重鎖 (834残基 , 分 子 量96,394)に よ っ て 構成 さ れ , 軽 鎖のC末 端 近 傍と 重 鎖 のN末 端近 傍には ジス ル フィド 結合 を形成 して両 鎖を連 結して いる と推定 される システ イン 残基の 存在が認められた。

D型 神 経 毒 素の 塩 基 配 列 なら びにア ミノ酸 配列を すでに 報告 されて いるボ `ソリ ヌスA型とC,型 神 経 毒 素 お よび 破 傷 風 神 経毒 素 の そ れ と比 較 す ると ,D型神経 毒素はC,型神 経毒素 とかな り高 い 相 同 性 を 示し , ま た 軽 鎖より も重鎖 でより 高い 相同性 が認め られた 。D型神経 毒素 とA型 神経 毒 素 の 相 同 性 の 程 度 はD型 神 経 毒 素 と 破 傷 風 神 経 毒 素 と の 場 合 と ほ ぼ 等 し か っ た 。   本 研 究は ボ ツ リ ヌ スC型 とD型 毒素 変 換 フ ァ ー ジ研究 の基礎 資料を 提供し ,さ らにD型神 経毒 素 の塩基 配列 の決定 によル ボツリ ヌス神経毒素の遺伝子レベルでの研究を可能とし・た。この成果 を 基礎と して ボツリ ヌス神 経毒素 の抗原 決定 基ある いは機 能ドメ イン の分子 構造に関する研究が よ り 一 層 進 展 し , 有 効 で 安 全 な ヮ ク チ ン の 開 発 が な さ れ る も の と 期 待 さ れ る 。

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学位論文審査の要旨 主 査    教 授    橋 本 信 夫 副 査    教 授    波 岡 茂 郎 副査   教授    清水悠紀臣 副査   助教授   首藤文榮

  ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)は極めて強い神経毒素を産生し,ヒトや動物の重 篤な食中毒として知られるボツリヌス症を引き起こす。これまで本菌は毒素の抗原性をもとにA

〜Gの7菌型に分類 されている。C型菌とD型菌の神経毒素産生性は両型菌の保有する毒素変換 ファージによって支配され,しかもそれぞれの毒素は型あるいは株特異的な抗原決定基のみなら ず両型毒素に共通な抗原決定基を有し,血清学的に多様な毒素群を構成している。しかしこれら のファージの性状に関してはボツリヌスC型とD型の神経毒素の構造遺伝子が毒素変換ファージ のDNAに組み込まれ ているにもかかわらず,これまでほとんど知られていない。著者はまず C型とD型のファー ジのウイルス学的性状とDNAの物理化学的性状を明らかに するとともに D型神経毒素の全塩基配列を決定し,その全アミノ酸配列を推定した。本論文はこれらの成績を まとめたもので,邦文127頁からなり参考論文7編を付している。

  1.わが国で分離 されたボツリヌスC型菌8株とD型菌1株にっいて溶原ファージの分離を試 みた結果,D型菌1株から従来報告されているファージとは宿主特異性や抗原性の上で異なる新 型の毒素変換ファ ージが分離された。またD型菌1株とC型菌2株から両型菌に共通に感染して いると考えられる 毒素非変換ファージが分離された。っぎに,C型菌C―468株とD型菌D―CB 16株から分離され た毒素変換ファージCE口とd−16¢ならびに毒素非変換フ ァージCE7とd

―1 にっいて宿主菌への吸着定数,一段階増殖パターン,潜伏期間,平均放出数ならびに温度,

pH,紫外線や有機溶媒などに対するファ―ジの感受性を明らかにした。毒素変換ファージはこ れらの因子に対して毒素非変換ファージよりも強い感受性を示した。さらにこれらのファージか ら抽出されたDNAの 浮遊密度と融解温度を測定してGC%を算出するとともに,高速液体ク口 マトグラフィーに よって構成塩基の分析を行った。その結果,GC%は,CE声とdー16¢で26

% , ま たCE7とd―1 では29% であ っ た。7種類 の 制限 酵素 によ るDNAの 切断 パ ター ン の比 較 では ,毒 素変 換フ ァージCEロとd―16¢ のDNAの間では差異が認めら れたが,毒素 非変 換 ファ ージCEア とdー1 のDNAの間 では いず れの酵素を用いても切断 パターンに差

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異は認められなかった。 制限酵素による切断片の大きさから算出されたDNAの塩基対数は毒 素変換ファージでは約l10kbp,また毒素非変換ファージでは約65kbpであった。各毒素変換 ファージのDNA間のホモロ ジーは50‑‑ 75%,また毒素非変換ファージのDNA間のホモ口ジー はほぼ100%であったが毒素変換ファージと毒素非変換ファージのDNA間でホモロジーは認め られなかった。このよう に毒素変換ファージのDNAではいずれの試験においても分離ファー ジごとに性状に違いが認 められたが,毒素非変換ファ ージでは差異は認められなかった。

  2.D型菌D―CB16株の産 生するD型神経毒素を精製し ,その軽鎖と重鎖にっいてアミノ酸 分析計を用いてアミノ酸組成を分析するとともに,それらの毒素構成蛋白とこれらを限定的加水 分解して得られた5個のポリペプチドにっいてダイレク卜マイクロシーケンス法によりN末端ア ミノ 酸配列を決定した。さらにD型ファージdー16ゆDNAからスgtll‑E. coli Y1090株のク ロ一・Iニング系を用いてD型神経毒素遺伝子をクローニングした。次いでクローンDNAの制限 酵素地図を作成し,D型神経毒素に対応する3,825bpのORFを含む塩基配列を決定した。この 配列から推定された1,275残基のアミノ酸配列(分子量146,785)はダイレクトマイクロシーケン ス法によって得られた毒素構成蛋白とそれらの部分ポリペプチドのN末端アミノ酸配列と一致 し,推定された配列の正しぃことが裏付けられた。D型神経毒素は軽鎖(441アミノ酸残基,分 子量50,410)と重鎖(834アミノ酸残基,分子量96,394)によって構成され,さらに軽鎖のC末 端近傍と重鎖のN末端近傍にはジスルフアド結合を形成して両鎖を連結していると推定されるシ ステイン残基の存在が確認された。

  以上のごとく,本研究によってボツリヌスC型菌とD型菌の毒素変換ファージおよび毒素非変 換ファージのウイルス学 的性状ならびにファ―ジDNAの物理化学的性状が明らかにされた。

さらにD型神経毒素の全塩基配列を決定できたことから,ボツリヌスC型とD型神経毒素の遺伝 子レベルでの研究が可能となった。これらの知見はボツリヌス神経毒素の抗原決定基あるいは機 能ドメインの分子構造に関する研究を進める上で貢献するところが大きい。よって審査員一同は 砂 川 紘 之 君 が 博 士 ( 獣 医 学 ) の 学 位 を 受 け る 資 格 を 有 す る も の と 認 め る 。

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