財務業蹟報告の基礎概念
山 田 康 裕 著
園田ーーー←
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財務業績報告の基礎概念
山 田 康 裕 著
第 1章 研 究 の 課 題 と 方 法 … I 研究の課題…
E
研究の方法…...・H・..…...・H・...・H ・...・H・...・H・H ・H ・...・H・...・H ・..6
l.方法論としての古典的アプローチ…...・H・..…...・H・...・H・..……… 62
.
変化の含意の抽出...・H ・...・H・...・H ・..………...・H・..…...・H・..……8
皿 本研究の構成・H・H・..…...・H・...・H ・H・H・..…...・H ・H ・H ・...・H・H・H ・..9 第2章 アメリカにおける実現概念の変遷の意義 一認識プロセスにおける機能的位置づけをめぐって ……… 13 I はじめに...・H・H ・H ・...・H・...・H・...・H ・..…...・H ・...・H・...・H・..…… 13 E 分析の視点...・H・...・H ・..……...・H・...・H・...・H・...・H・...・H・..…… 14 E 伝統的実現概念...16 N AAA1957年改訂会計原則の実現概念...・H・..………...・H ・...・H・H・H ・..18 l.項目識別機能を有する実現・H・H・...・H・H・H・..……H ・H・...・H・..…… 192
.
時点決定機能を有する実現...・H・..………...・H ・...・H ・..…...・H・..…2
0
3. 2つの実現概念の含意・H・H・..………...・H・H・H ・..…...・H・..…… 22V F
.
W. W
i
n
d
a
l
の実現概念…...・H・..…...・H ・H・H・...・H・..………2
4
VI AAA1964年実現概念委員会報告の実現概念...・H ・..……...・H・...・H ・..25 1. AAA [1965]における実現の要件・H・H・...・H・-……...・H・...・H・..26 2.保有損益の認識・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28 3. AAA [1965]における実現の機能…...・H・...・H ・..…...・H・...・H・..29 VIlFASB
概念書の実現概念………3
0
l.概念書第5号における実現概念と認識プロセスにおけるその位置づけ . 31. 33 3.利益概念の重層化と実現基準の機能変化……...・H ・...・H ・..……… 34
m
実現概念の変遷とその理論的含意……...・H・...・H ・H ・H・...・H・..…… 35 E おわりに……...・H・H・H・...・H・H・H・..…...・H ・..………...・H・...・H ・..… 37 第3章収益認識の展開と複式簿記・...・H ・...・H・...・H・....・H・-…...・H・....・H ・..39 I はじめに……・H・H・H ・H ・..…...・H ・...・H・...・H ・...・H・...・H・H・H ・...39n
FASB
概念フレームワークにおける収益に関する規定………4
0
E
実現稼得過程アプローチと資産・負債アプローチ・H ・H ・..………4
4
W 資産負債アプローチのもとでの複式簿記の必要性……… 46V
認識プロセスの変容…...・H・...・H ・..……...・H・..…...・H・...・H・H・H・..5
1
W おわりに…...・H・...・H・..…...・H・...・H・..…...・H・..…...・H ・H・H・..…… 52 第4章包括利益と純利益の関係…...・H・-…H ・H ・...・H・....・H・...・H・...・H ・.551
はじめに…・H ・H ・...・H・...・H・...・H ・...・H・...・H・...・H・..…・H ・H・..5
5
E 包括利益と純利益の概念....・H・...・H・H ・H・...・H・-…...・H ・....・H ・...・H・...56 E 包括利益の分類………...・H・...・H ・...・H・..……...・H ・..…...・H・..…… 57N
資産負債アプローチと収益費用アプローチの意味………5
8
V
包括利益と純利益の関係およびその含意・H ・H ・..…...・H・...・H・..……6
0
VI おわりに...・H・...・H・...・H ・...・H ・..…...・H・..……...・H・H・H・...・H ・..64 第5章 利益概念の重層化と包括利益の基準化………H・H・...・H ・...・H ・...65 I はじめに・H・H・..…………...・H・...・H ・H・H・...・H・...・H ・...・H・..…… 65 E 利益概念の重層化...・H・..…...・H ・..……...・H ・...・H ・...・H ・...・H・..…6
6
皿 財務諸表利用者による包括利益基準化の要請...・H ・H ・H・..………6
9
N
all-inclusive概念と comprehensive概念の混同……… 70 V 包括利益による連繋の「回復J
.
.
・H・...・H・-…...…..……H・H・-… 73補論
1
非連繋の数式による説明…...・H・H ・H・...・H・..…...・H・...・H・-……7
7
I はじめに...・H・...・H・..…...・H・..…・H・H・H・H・...・H・..…...・H ・...・H・..7
7
I
I
FASB
の連繋概念...・H・...・H・..…………...・H・..…...・H・..…...・H ・..…7
7
皿FASB [
1
9
9
7
]
公表以前...・H・...・H ・...・H・H・H・...・H・...・H・H・H・..…7
8
N
FASB
[19
9
7
]
公表以後…...・H・..…...・H・H・H・...・H・....…...・H・...・H・..8
0
V 連繋の回復の合意...・H・H ・H ・..…...・H・..…...・H ・..………...・H・..82 VI おわりに…...・H・..………...・H・...・H ・...・H・..…...・H ・...・H・..… 85 第6章財務諸表の連繋問題・………...・H・...・H・..…...・H・...・H・..…・8
7
I はじめに……...・H ・..…...・H・..……...・H ・...・H・...・H・...・H ・...・H・..8
7
E 財務諸表の連繋アプローチと非連繋アプローチ……… 881
1
1
FASB
[19
7
6
b
]
に示された非連繋論者の見解………8
9
1
.
R
a
p
p
a
p
o
r
t
[
1
9
7
1
]
の見解・H・H・...・H ・...・H ・..…...・H・..……...・H・..8
9
2.H
e
n
d
r
i
k
s
e
n
[
1
9
7
0
]
の見解………9
0
3
.
AICPA[
1
9
7
3
]
の見解・H・H・H・H ・..…...・H・...・H・...・H・H ・H・..……9
0
4
.
S
o
r
t
e
r
[
1
9
7
4
]
の見解…...・H・..………...・H・....・H・...・H・H・H・...・H・..9
1
5
.
小括………...・H・...・H ・H ・H・-…...・H・...・H・...・H ・..…...・H・..……9
1
N
FASB
の連繋概念………...・H・..………...・H・...・H ・..…...・H・..………9
2
V 2つの連繋概念...・H・..…・H ・H ・...・H・...・H ・...…...・H ・H・H・..… 95 VI クリーン・サープラス関係の意義…………...・H ・H ・H ・..………...・H・..9
8
W おわりに…...・H・...・H・..……...・H ・..…...・H・...・H・..………9
9
補論2 G4+1
による財務業績報告の提案………1
0
1
I
はじめに………...・H ・..………・・・……・・・…1
0
1
I
I
J
o
h
n
s
o
n
e
t
a
l.[
1
9
9
8
]
における問題提起とその特徴………1
0
2
皿2
元観とl
元観....・H ・....・H・-……・…・・H・H・………....・H・-…1
0
6
V
おわりに…...・H・...・H ・..………...・H ・...・H・..…...・H・..………1
1
4
第7
章 業績報告の展開と利益のリサイクリング………1
1
5
I
はじめに……...・H・H・H・...・H・...・H ・...・H・...・H・...・H ・..…...・H・.
.
1
1
5
E 利益のリサイクリングとは・H ・H ・..………...・H・..………...・H ・..…1
1
6
皿 リサイクリング賛成派の主張………...・H ・...・H・...・H・H ・H ・..…1
2
1
I
V
リサイクリング反対派の主張…………...・H ・..……...・H・..…...・H ・..…1
2
3
V 意見対立の構図...・H・..………...・H ・...・H・H・H・..………1
3
3
VI Cearns et al.[
1
9
9
9
]
に寄せられた回答が有する含意………...・H ・..…1
3
7
W おわりに...・H・...・H ・H ・H・...・H・...・H ・...・H・..…………...・H ・..……1
4
4
第8章 業績報告の新展開と純利益の意味...・H・...・H ・H・H ・....・H・...・H・..…1
4
5
I はじめに…...・H ・...・H ・...・H・H・H・..…...・H ・H・H・...・H・..……...・H・"
1
4
5
E 純利益の意味・H・H・...・H ・..…………...・H ・..…...・H・..……...・H・....・H・1
4
6
1
.
Cheetharn(財務諸表作成者)の見解...・H ・...・H ・-……H・H・-…H ・H ・.
.
1
4
7
2
.
Eriksson(財務諸表作成者)の見解・…H・H・...・H・....・H・...・H・...・H・.
1
4
7
3. Kelly (財務諸表作成者)の見解...・H ・....・H・...・H・...・H ・-…H ・H・-…・・1
4
8
4
.
Schuster(学者)の見解…...・H・..……...・H・..…...・H ・..…...・H・..……1
4
9
5
.
Kerkho百(財務諸表作成者)の見解…………...・H ・..………1
4
9
6
.
八重倉(学者)の見解.
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1
5
0
7
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山田(財務諸表作成者)の見解…...・H・..…...・H・..…...・H ・...・H ・.
.
1
5
0
皿J
I
G
の議論にみられる論点とその検討………1
5
1
1
.
J
I
G
による議論の位置づけ………1
5
1
2
.
J
I
G
における議論と Ceamset al.[
1
9
9
9
]
へのコメントとの類似性…1
5
2
I
V
おわりにJ
I
G
の活動の合意-...・H ・..………1
5
4
I はじめに…・H ・H ・...・H ・H ・H ・..……...・H ・..…...・H ・..…...・H ・...・H ・..…
1
5
7
E コンペンションにもとづく会計…………...・H ・...・H ・H ・H ・..…………1
5
8
皿 伝統的会計における経営者の意図・判断・期待…...・H ・...・H ・-……160 N 実現利益の相対化の意味………...・H ・...・H ・...・H ・H ・H ・...・H ・..162 V おわりに・H ・H ・...・H ・...・H ・-・……...・H ・...・H ・...・H ・...・H ・...・H ・..164 第10章研究の総括と展望...・H ・H ・H ・....・H ・...・H ・...・H ・....・H ・H ・H ・-…...・H ・.
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1
6
7
初出一覧・・・・・・.
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1
7
3
主要参考文献・・・・.
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1
7
5
AAA American Accounting Association AIMR Association for Investment Management and Research ASB Accounting Standards Board FASB Financial Accounting Standards Board IAS Intemational Accounting Standards IASB Intemational Accounting Standards Board IASC Intemational Accounting Standards Committee IFRS Intemational Financial Reporting Standards JIG JointIntemational Group on Performance Reporting RMA The Robert民10rrisAssociates SAB Staff Accounting Bulletin
SEC Securities and Exchange Commission SF AS Statements of Financial Accounting Standards
第
1
章 研 究 の 課 題 と 方 法
I 研 究 の 課 題
会計基準の国際的調和化から収数への流れは日々進展をみせているO このよ うな進展に大きな役割を担っているのが IASBである。 IASBは,その前身であ る IASCから改組されるにあたって新たな組織の目的を掲げ,そのうちの 1つ に,I
各国基準と IASとの質の高い解決に向けた収数 (convergence)を達成す るJ
(IASB [2002a] par. 2 (c))ことをうたっている。 このような収数を目指して IASBの発足当初から進められているプロジェク トの1
つに,業績報告プロジェクトがある。当該プロジェクトにおいては,新 たな業績報告書が検討されており,一時期,現在の損益計算書とはまったく異 なる業績報告書が提案されていた。それを示せば,図表 1-1のようになる。 この報告書の主たる特徴として,①「包括利益j をボトムラインとしているこ と,②実現基準を重視していないこと,③マトリックス形式を採用しているこ とという 3点をあげることができる。 まず第lに,図表1-1の最終行に示されるように,この業績報告書のボトム ラインは純利益ではなく,I
包括利益」となっている。ここでの「包括利益jと は,純利益よりもさらに包括的な利益,すなわち未実現項目をも包含する利益 をさしている。ただし,この「包括利益J
は,アメリカの包括利益と名称こそ 同じではあるが,以下でみるように未実現の段階で認識された項目を実現時に 1 )ここで「調和化j を「統一へ向かう過程」という意味で用いている。調和化概念の詳細 については,徳賀 [2000]第5章を参照されたい。 2) FASBの(リサイクリングをおこなう)包括利益と, IASBで検討されている(リサイク リングをおこなわない)I包括利益」とを区別するために,本章では便宜上,後者をカッコ 書きにしている。図表1- 1 一時期提案されていた新たな業績報告書のイメージ 合計 再測定前 再測定 営業活動 士冗
J
二 士I司xxx
xxx
xxx
売上原価-xxx -xxx
xxx
物流費xxx -xxx
xxx
一般管理費-xxx -xxx
xxx
在外事業体への純投資に関する為替xxx
Oxxx
換算差額xxx
xxx
xxx
営業活動合計 財務活動 支払利息-xxx -xxx
xxx
保険数理差損益xxx
。
xxx
売却可能有価証券の評価損益xxx
。
xxx
金融活動合計-xxx
xxx
xxx
税金-xxx
包括利益xxx
純利益に戻し入れる処理(リサイクリング)をおこなわない点で,アメリカの 包括利益とは異なっている。 第2に,この業績報告書では実現基準が重視されていない点があげられる。 これまでの損益計算書では収益は実現したもののみが計上されており,その意 味で純利益は実現利益であった。しかし,この業績報告書では,再測定による 3 )当該用語の英語表記においては,通常, “recycling"と進行形で表されている(たとえ ばCearnsetaJ. [1999])が,日本語表記では「リサイクル」とされることが多い(たとえ ば包括利益研究委員会 [1998] 石川 [2∞
0];辻山 [2000] [2002])。しかし本研究では, 原語に忠実に「リサイクリングjと表現することにする。未実現損益をも包含する,純利益よりもさらに包括的な利益が表示されること になる。この点において,実現基準は収益の認識基準ではなくなっているので あるO しかも,リサイクリングがおこなわれないため,これまでの純利益に相 当する金額は業績報告書のどこにも表示されないことになるのである。 また第3に,図表1-1を一瞥して明らかなように,新たな業績報告書はマト リックス形式をとっている。行(営業活動・財務活動)と列(合計・再測定前・ 再測定)とがクロスする形で,各項目が分類されているO まず行の営業活動と 財務活動の区分は,使用総資本に対するリターンと自己資本に対するリターン とを区別することができるようにするためのものである。さらに列の再測定前 と再測定の区分は,一時的な,将来への持続性が低い損益と,そうでない損益 とを区別することができるようにするためのものである。もっとも,図表
1-1
では各項目について再測定による損益が表示されるかのように図示されてい るが,本プロジェクトはあくまでも表示に関する問題を検討するものであり, いずれの項目を再評価するかといった認識・測定の問題は本プロジェクトでは 扱:われないことになっていた。 以上に述べたように,この業績報告書は,現在の損益計算書といくつもの点 で異なったものとなっていた。その後,当該プロジェクトの継続の是非が問わ れるサンセット・レビューをへた後,I
A
S
B
はパートナーをFASB
に代えたう えで,当該プロジェクトを再開した。そこでは,まず第l段階として財務諸表 の表示に議論を集中させ,I
A
S
1
r
財務諸表の表示jの改定に向けて作業が進め られた。そのなかで示された業績報告書の雛形には純利益の小計がみられ,I
A
S
B
が暫定的に示した業績報告書の雛形はFASB
のS
F
A
S
1
3
0
で示された雛形 に近いものとなっていた。この点に関する限り,上述のような従来I
A
S
B
が主 張してきたマトリックス形式の純利益を開示しない業績報告書の主張は影を潜 めたかにみえた。しかし,第2段階として,その他の包括利益やリサイクリン グの是非を検討するなかで,長期的には,r認識された収益および費用の項目は, すべて同様の様式で分類されるJ
(
I
A
S
B
[
2
0
0
6
]
)
べきであり,r
認識収益費用 計算書の小計は,r
時点.1 (timinig)の違いによるのではなく,当期に生じた資産および負債の変動にもとづくべきであり, したがってリサイクリングのメカ ニズムは廃止すべきである
J
(IASB [2006J)ことが合意されたという。ただし 当該プロジ、ェクトは現在も審議が継続中であり,このような業績報告書の特徴 もあくまでも暫定的なものである。しかも,当該プロジ‘ェクトには不確定要素 が多分にあり,最終的にどのような業績報告書が導入されることになるのかに ついては予断を許さない状況である。 とはいうものの,ここで看過しえないのは,I
あくまでも表示に関する問題 を検討する」という IASBの見解とは裏腹に,その変更はたんなる表示上の問 題にとどまらず,その背後にある基本的な考え方,いわば会計観にまで関わる きわめて大きな変革がなされる可能性をはらんでいる点であるO それは,上述 の第2の特徴,すなわち新たな業績報告書において実現基準が重視されていな い点をとってみても明らかであろう。しかも IASBの議論は,実現基準の否定 を所与のものとして進められていたといわざるをえないのである。 しかしながら,実現基準が何故に否定されねばならないのかについては,か ならずしも明らかにはされていない。実現基準にもとづく利益計算は経営者の 恐意性に左右されると,批判されることがしばしばある。たしかに実現基準に よるかぎり,利益計算に経営者の恋意性が介在する余地があることは否定でき ない。とはいうものの,経営者の恋意性が介在する余地があることと,実現基 準にもとづいた純利益が有用でないこととは本来また別の問題であるはずであ る。現在の会計基準の収数に大きな影響力をもっている IASBやFASBが,いわ ゆる「意思決定有用性アプローチJ
(AAA
[19
7
7
J
p
.
lO)にもとづいて基準設定 をおこなっていることは,周知のとおりである。当該アプローチを前提にする かぎり,実現基準にもとづいた純利益が有用ではないことを立証せずして,経 営者の恋意性の介在のみをもって実現基準を否定するというのは早計にすぎる 4 ) こ れ ま で の 実 証 研 究 に よ る な ら ば 「 実 現 の 概 念 と 対 応 / 配 分 の 概 念 に 規 定 さ れ る ( ・..H ・〕純利益の情報は, (..・H ・〕投資家にとって有用な情報であるJ(大日方 [2002J 400頁)といわれているOといえよう。実現利益を開示しない新たな業績報告書を導入しようとする
I
A
S
B
の姿勢は,一方的な「信念に主導された基準設定活動の極致J
(藤井[
2
0
0
3
]
2
6
頁)であると断じざるをえないのであるO とするならば,今求められ るべきは,実現基準にもとづいた利益計算を一方的に批判することではなく, そもそも実現基準とはいかなるものなのか,また実現基準にもとづいた純利益 が現在に至るもなお有用性を認められているのはいかなる理由によるのかを, 真撃に問うてみることであるはずである。 その際に重要になるのが,I
A
S
B
やFASB
における現在の議論とそれ以前の先 行研究,とりわけ,いわゆる「古典的アプローチJ
(AAA [19
7
7
]
p.lO)にもと づいた諸研究との連続性(または非連続性)の検証である。I
A
S
B
やFASB
が基 準設定をおこなうに際して拠り所とすべき「憲法J
(
F
A
S
B
[19
7
6
a
]
p
.
2
)
たる 概念フレームワークが,それ以前の先行諸原則における論理を継承したもので あることは,すでに先行研究において詳細な検討がなされているところである。 したがって,会計規制に関わる基礎理論が古典的アプローチから意思決定有用 性アプローチに移行したとはいえ,現在の会計基準が,古典的アプローチのも とで形成されてきた諸理論とまったく無関係に成り立っているわけではないこ とは想像に難くない。とするならば古典的アプローチにもとづく理論の意義 を,現在の会計問題との関わりにおいてあらためて問い直すことが必要となる であろうO かかる作業をつうじて,はじめて,現在問題になっている認識対象 の拡張の可能性が明らかになるものと思われるのである。そうであればこそ, 古典的アプローチとは何かを,主要先行研究の成果に依りつつ,筆者なりに吟 味・整理しておく必要があろう。以下では,節を改めて,その作業をおこなっ ていくことにしたい。 5 )この点に関しては,藤井[1997J第3-4章;津守 [2∞
2J138-142頁を参照されたい。 6 )この点に関して大日方 [2∞
2bJでは,アメリカの会計基準の詳細な検討をとおして, 古典的アプローチにもとづく理論である「対応/配分の概念が[...)強固な支配的通念 として定着しているJ (大日方 [2002bJ244頁)ことが明らかにされている。E
研 究 の 方 法 l.方法論としての古典的アプローチ 前節において断片的にふれたように, AAA [1977]は,会計理論の根底にあ る代表的なアプローチとして,古典的モデル,意思決定一有用性,および情報 経済学の3つをあげている。ここで古典的モデル(またはアプローチ)とは, 「広範囲に適用される絶対的会計モデルを定式化J
(AAA [1977] p. 10)したり, 「現存する会計実務の主要な構成要素を理論的に説明J
(AAA [1977] p. 10)す ることを指向した理論的アプローチをいう。そもそも AAA [1977]は,r
外部 報告書の立案の根底になければならない基礎的諸概念を見出すことJ
(AAA [1977] p.1)を目的として設立された委員会の報告書であるO そして当該委員 会が至った結論とは,r
ただひとつの普遍的に認められる基礎的会計理論という ものは現時点では存在しないJ
(AAA [1977] p.l)というものであった。かか る結論によるならば,上述の3
つの理論的アプローチのいずれも,普遍的承認 をえられなかった代替的アプローチの1
つにしかすぎない。 にもかかわらず,皮肉にも当該報告書の公表と相前後して, FASBが意思決 定有用性アプローチにもとづいて基準設定を精力的におこなっていったことは 周知のとおりであるO また現在では, IASBに代表される国際的な会計基準設 定の場における FASBの影響力の大きさはいうまでもないであろう。とはいう ものの,理屈ぬきで FASBや IASBが投資者に有利な基準設定をおこなってきた わけではない。 FASBや IASBが公表してきた概念書や基準書を通覧すれば,何 らかの理論的な根拠にもとづいて基準設定がなされてきたことが理解される。 7) ここで意思決定一有用性とは,r
意思決定モデルまたは規準に対して目的適合性を有す る情報を識別し,当該意思決定モデルを遂行するのに必要であると思われるデータと各種 の会計上の代替案とを比較するJ(AAA [1977] p. 10)こと,および「望ましい報告方法を 帰納的に導き出す手段として,代替的な会計データに対する意思決定者の反応を研究す るJ
(AAA [1977] p.10)ことを指向した理論的アプローチをいう。 8 )ここで、情報経済学とは,r
情報を慣習的な経済財として扱い,その取得は経済的な選択 の問題であるJ
(AAA [1977] p.21)とする理論的アプローチをいう。しかも,それらを詳細に検討してみると,そこには,古典的アプローチにもと づいた伝統的会計理論における中心的な概念の1つであった配分概念が散見さ れるのであるO ここで伝統的会計理論という語を,本研究では,原価・実現・ 対応の諸原則によって規定される会計理論をさすものとして用いているO すな わちPatonand Littleton [1940] によって精綴に理論化された理念的体系を想定 している。 また,現行の会計には原価・実現・対応といった伝統的な概念では説明でき ない部分が増大しつつあるとはいうものの, f1940年に Patonand Littletonが記 した諸特徴の多くが現在も残っている一
I
(Johnson and Swieringa [1996] p. 110) ということも否定できないのであるO 伝統的会計理論は非科学的である とする主張もあるとはいえ 1つの普遍的な会計理論を確定することは不可能 であるという AAA[1977]の見解を真撃に受け止め,伝統的会計理論の存在意 義をこそ再評価する必要があるというべきであろう。 とするならば,FASB
やI
A
S
B
によって公表されている概念書や基準書のなか に,それまでの伝統的会計理論の影響がどれほど及んで、いるのか,それまでの 会計理論のどの点が受け継がれ,どの点が捨て去られたのか,またそれはいか なる理由によるものなのかが問われなくてはならない。そこで本研究は,それ まで形成されてきた会計理論との連続性を意識しつつ,現存する会計基準の主 要な構成要素を理論的に説明するという作業をつうじて実施される。FASB
やI
A
S
B
の概念書および基準書は意思決定有用性アプローチの採用によって伝統 的会計理論とは一線を画しているかにみえるものの,当該理論との連続性(非 連続性)を意識することによって,そこに内在する問題点も明らかになるもの と期待される。 このように伝統的会計理論の連続性(非連続性)を考察することは,歴史的 視点を重視することにつながるものである。そもそも本研究において,このよ うな歴史的視点を重視するのは 上述のようなFASB
成立前後における会計理 9 )この点に関しては,大日方 [2002b] を参照されたい。論の断絶を克服し.FASBや IASBによる公表物の解釈のみをもってよしとする 研究姿勢に対するアンチテーゼを示そうとすることによるものである。伝統的 会計理論が形成されていった
1
9
3
0
年代および1
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年代の諸研究,さらにその動 揺期ともいえる1
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年代および1
9
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年代の諸研究は.1
0
0
年にも満たない歴史 しか有してはいない。しかしながら,かかる作業をつうじて,今日問題とされ ている論点に対して何らかの示唆をえることができるならば,それは公表物の たんなる解釈からはえることのできない成果であるといえるであろうoFASB 成立以前の伝統的会計理論およびそこでの方法論としての古典的アプローチを 重視する所以も,ここにあるといえるのであるO2
.
変化の合意の抽出 FASBや IASBの概念書や基準書を検討の対象とするものの,ここで看過され てはならないのは,会計研究におけるこれらの公表物の位置づけである。本研 究の課題は,当該公表物に迎合することでもなければ,規定間の矛盾を指摘す ることでもない。 FASBや IASBによって基準が制度化されるにあたって,いか なる要因が契機となったのか,また,かかる制度化はいかなる合意を有してい るのかといった点の解明が,本研究の主たる課題である。本研究では,かかる 観点にもとづき. FASBや IASBの概念書や基準書を検討の対象とするものの, それはあくまでも現代会計の特徴を浮き彫りにするための素材にしかすぎない 10)この点に関して,大日方 [2002a]は次のようにのべ,基準設定主体による公表物があく までも会計学の観察対象である点を指摘している。I
基準設定主体が公表している基準や 公 式 文 書 (.・.H ・〕をあたかも個人学説ないし研究成果のようにみなして,用語定義や概念 規定をめぐる文献研究の対象にすることは,わが国の学界ではしばしば見られるが, (..・H・〕そうしたアプローチを疑問なしとしない。基準設定主体による公表物は研究成果 ではなく,あくまでも会計学の観察対象であって,正当化するのと同様,やみくもに批判 するのもおかしいからである。ある規定が制度化された背景や契機を分析したり,制度設 計の効率性の評価や目的達成度を測定したり,あるいは,現実に果たしている機能を分析 するべきであって,実験者が試験管の中身に文句をいうのは滑稽で、あろうJ(大日方 [2002a] 134頁)0のである。 さらに付言するならば,会計研究における伝統的会計理論の位置づけも問題 になるであろう。すなわち 基準設定による経済的影響や変化のプロセスを, 近隣諸科学を援用することによって明らかにするという研究も可能である。筆 者は,これらの研究の重要性を微塵も否定するものではない。しかしながら, 実証研究が基準設定にいかに影響を与えているかが議論されるほど,その(潜 在的)影響力のおおきさは否定しえないにしても,これら近隣諸科学を援用し た研究結果が基準設定のための唯一の拠り所ではあるまい。そもそも基準が設 定されるためには何らかの理論的根拠のうえに規定がなされているはずで、あるO とするならば,この理論的根拠のなかに,どれほど伝統的会計理論の影響があ るのか,そしてその理論的含意は何なのかを解明することは無駄な作業ではな いはずである。かかる作業をつうじて.FASBや IASBの議論では等閑視されて いた問題点が浮き彫りにされるならば,当該作業は過去の理論的遺産の継承以 上の価値があるといえるのである。
E
本 研 究 の 構 成 本研究では,まず収益の認識基準である実現基準の概念的変遷を検討するO 当該検討は,実現基準による認識対象の拡張およびそれによらない拡張を考え るうえでの基礎概念となるものであるO さらに,そのうえで,実現基準にもと づく利益ともとづかない利話が重層化していく過程を跡づけ,かかる重層化の 含意を検討していくという順に考察が進められている。次章以下の構成を示せ ば,次のとおりである。 まず第2
章では,認識対象の拡張に対処する手段としての実現概念の拡張問 題,すなわち実現概念の拡張によって認識対象の拡張をおこなうには,いかな る理論的可能性があるのかが検討されているO 認識プロセスにおいて実現基準 が有している機能を時点決定機能および項目識別機能という 2つの機能に区分 したうえで,アメリカにおける実現概念に関する諸文献がいずれの機能を問題 にしているのかが論じられる。かかる視点により,認識対象を拡張するための手段として実現概念の拡張が盛んに議論されたにもかかわらず,ほどなく当該 議論が収束した背景が明らかにされるとともに,両機能をどのように変更すれ ば認識対象が拡張されるのか,また当該変更によっていかなる問題が新たに生 じることになるのかが明らかにされるO また第2章は,現在進行中の業績報告 プロジェクトにおける利益概念を考察するうえでの重要な視点を与えるもので もあるO 第3章では,実現概念の拡張によってではなく,会計観の転換によって認識 対象の拡張をもらそうとしている近年の収益認識の問題について検討されてい る。 第4章では,認識対象の拡張によって生じた2つの利益概念,すなわち包括 利益と純利益の違いについて検討している。すなわち,包括利益と純利益の調 整に関するアメリカでの議論において等閑視されてきた計算擬制的項目の調整 の必要性が,両利益概念が拠って立つ利益観にさかのぼって検討していくこと によって明らかにされる。 第5章では,前章における包括利益と純利益という 2つの利益概念の差異を ふまえたうえで,このように利益概念が重層化していった歴史的背景が考察さ れている。包括利益が基準化されるにあたって,公開草案の段階では包括利益 が業績指標と位置づけられていたにもかかわらず,成文化された基準書ではそ の よ う に 位 置 づ け ら れ て は い な い 根 底 に は , 財 務 諸 表 利 用 者 に よ る “all -inclusive"概念と“comprehensive"概念との混同があったのではないかとの仮 説が提示され,当該仮説について理論分析的な検討が加えられている。そのう えで,かかる混乱を背景として,基準書の公表後も依然として連繋問題が解決 されてはいない点が明らかにされるO 11)包括利益と対比されるべき利援概念として稼得利益があげられることもある。厳密には 稼得利益と純利益とは異なる概念であり,前者は会計方針の変更にともなう累積的影響額 を含まない点において後者と異なる。しかし,かかる差異は本研究の議論にとってさした る重要性はないと思われるので,本研究では両者を同義のものとして扱うこととし, FASB [1997Jにならい,もっぱら純利益という用語を用いることにする。
なお補論
1
では,財務諸表の連繋問題の理解を容易にするために,非連繋と はいかなるものなのかが,簡単な数式を用いることによって説明されている。 第6章では,前章において指摘された財務諸表の連繋問題,すなわち貸借対 照表と損益計算書とがいかなる関係にあるのかという点について,さらに詳細 な検討がなされているO まず財務諸表の連繋について論じたアメリカの諸文献 を年代順に跡づけ,これらの文献において2種類の連繋概念が用いられている ことを明らかにしている。そのうえで,かつては広義の連繋概念が想定されて いたのに対して,近年の議論においては狭義の連繋概念が想定されている背景 に,企業活動の業績を全体期間にわたってみるのではなく 2時点聞の比較でみ るという,企業の継続性への期待の変化があるという点が明らかにされるO 本 章は,業績報告プロジ、エクトの理論的合意を,財務諸表の連繋という観点から 論じたものとして位置づけられるO つづく補論2では,業績報告プロジェクトの出発点となった Johnsonet al. [1998] お よ び Ceamset al. [1999 ] の 理 論 的 特 徴 が 検 討 さ れ て い る 。 ま ず Johnson et al. [1998] において事実上勧告されている業績報告様式を概観した うえで,当該様式の理論的背景にまでさかのぼって検討することにより, Johnson et al. [1998] の主張とは裏腹に当該様式は現行実務とは大きく異なっ たものであることが明らかにされる。さらにCeamset al. [1999] において示 された数ある論点のなかでも,本研究との関連の深い利益のリサイクリングに ついてのCeamset al. [1999] の主張がとりあげられる。 第7章では,前章でみた Ceamset al. [1999]の利益のリサイクリングについ ての主張に対して,利害関係者からいかなる回答が寄せられたのかが検討され ている。すなわち,寄せられた回答に伏在する意見の対立(論点)を抽出し, 当該対立の理論的背景を明らかにしている。かかる検討をつうじて,リサイク リングをめぐる意見対立の根底に利益概念の対立,さらには実現概念の対立が あることが明らかにされる。 第8章では,業績報告プロジェクトのなかで,一時期は実現利益の放棄が提 唱されたにもかかわらず,その案が現在に至るも採用されていない背景について, IASB' FASB自身による実現利益の検討を手がかりとして,実現利益の意 味について考察されている。 第9章は,業績報告プロジェクトなどにみられるような新たな利益概念が主 張されているにもかかわらず,伝統的な純利益に対する支持が絶えることがな い背景について検討し,実現基準の意義が再評価されている。かかる検討をつ うじてえられた実現基準にもとづく純利益の特徴は,利益概念の進化のー形態 としての包括利益概念の評価をするうえでの重要な視点を与えてくれるものと なる。 本研究では,以上のような検討をつうじて, IASBなどによって進められてい る業績報告プロジェクトの基礎概念と理論的含意が明らかにされている。本研 究が,当該プロジェクトを評価するうえでの新たな視点を提示し,それをつう じて会計研究の深化と発展に多少なりとも貢献することができれば幸甚である。
第
2
章
アメリカにおける実現概念の変遷の意義
認識プロセスにおける機能的位置づけをめぐって一
I
は じ め に
近年の企業を取り巻く諸環境の変化,とりわけ金融活動の相対的重要性の増 大は,企業会計に大きな問題をもたらしている。すなわち,デリパティブ取引 を代表とする,原価主義会計では早期に認識されえない取引,オフバランス取 引の増大が問題視され,原価主義会計は再検討を余儀なくされた。そして,こ のような原価主義の再検討の動きは,I
損益計算上の実現主義は,貸借対照表上 における資産評価の原価主義と密接な関連を有するものであるJ
(黒津[19
6
4
J
348頁)といわれるように,実現基準の再検討へとつながる可能性を有していた。 すなわち,企業を取り巻く諸環境の変化に応じて,I
形式より実質,法的実態よ り経済的実態を重視する考え方が高まり,これまでの実現主義の考え方をさら に拡大する必要が生じているJ
(中川[
1
9
9
0
J1
9
頁)といわれ,認識対象の拡張 をおこなうための手段の lつとして実現基準が注目された。実現概念を拡張す ることによって,これまで実現したものとはみなされず財務諸表上に現れな かった項目をオンバランス化しようというのである。 しかし,このような動きは原価主義や実現基準の欠点を指摘することを通じ て原価主義会計の変革の必要性を重視した主張に支えられたものが多く,当該 12) また, R. K. Storeyは,r
未実現の(すなわち販売前の)資産を原価で評価することを要 請しているのは,実現の公準であるJ (Storey [1959J p.237) と述べている。 l3)本研究では,r
規準J
(criterion) および「基準J
(s回 dard) という語を,以下のような意 味で使い分けている。r
規準」とは,ある判断または意思決定がくだされるときに依拠す べき条件を意味すると考えている。すなわち,実現にかぎっていうならば,現金または現 金等価物の受領や,確定性といった,実現が生じるための個々の条件をさすものとして 「規準jを考えている。これに対して,上述の「規準jの組み合わせをまとめたlつの ルールとして実現をとらえるときに「基準jという語を用いることにする。変革の可能性,例えば金融資産に時価評価を導入することがいかなる論拠にも とづいて可能で、あるのかといった議論が十分になされているとはいいがたいの である。 そこで本章では,実現基準をめぐる変革の理論的可能性を探求するための予 備的考察として,実現概念の拡張問題が他国に先駆けて議論されたアメリカに おいて,実現概念はどのように変遷してきたのか,また当該変遷はいかなる理 論的含意を有しているのかを明らかにしていくことにする。個々の実現基準は, 認識プロセス上はたしていかなる機能を有していたのであろうか。さらには, 認識対象の拡張のための手段として実現基準を用いる場合,いかなる方法があ るのだろうか。以下では,こうした問題に焦点をあてつつ,検討を進めていく ことにしたい。
E
分 析 の 視 点
IAAA1957年会計基準 (AAA [1957]一一引用者注)における実現の基本的 な考え方を受継ぎ,これをさらに発展せしめた論者J
(若杉 [1985] 302頁)と して知られる F.W. Windalは,収益などの認識プロセスにおいて実現基準は2 つの機能を有しているとのべている。すなわち,それは,I
時 点 決 定 装 置j (timing device) (Windal [1961a] p.39 ; Windal [1961b] p.251)および「項目識 別装置J
(screening device) (Windal [1961a] p. 40; Windal [1961b] p.251)とし 14)本節における認識プロセスにおける項目識別機能および時点決定機能という視点は,認 識プロセスを1次認識および 2次認識という 2段階に区分してとらえる考え方に通じるも のであると思われる。このI次認識および2次認識については,藤井 [1997J第9章を参 照されたい。ただし藤井 [1997Jでは,認識一般について論じられており,実現基準に限 定して認識プロセスを検討されてはいない。また,この1次認識および2次認識という区 分と実現基準との関連を論じた先行研究として,岡村[1975J口976JがあるO 15) Windal[1961aJでは.AAA [1957Jにおける実現以外にも,それまでの様々な文献に おける実現概念が検討されている。これら多くの実現概念を検討した後,実現基準の機能 として以下に述べる時点決定および項目識別があげられていることから,これら2つの機 能はAAA[1957Jにおける実現に限定されたものではないと思われる。ての機能であるO ここに時点決定とは,
I
ある項目が認識されるべき特定の時点 を決定するJ(Windal [1961bJ p.251)ことをいう。すなわち当該段階において は,r
いつj認識されるのか,いいかえれば「認識を保証するだけ十分に,事象 および測定両者の不確実性がいつ取り除かれたのかJ(Johnson and Storey[1982J p.84)が決定される。こうして財務諸表項目の期間帰属決定がおこなわれ,利 益計算に含まれるべき項目が決定されるのである。以下では,このような機能 を「時点決定機能jという。また項目識別とは,r
勘定に記録される項目の『品 質管理.1(quality controJ)をおこなうJ(Windal [1961bJ p.251)ことをいう。す なわち当該段階においては,r
何J
が認識されるのか,いいかえれば財務諸表に 記載されるべき項目の候補が決定されるのである。ただし当該段階において決 定されるのは財務諸表への記載そのものであり,損益計算書に記載され当期の 利益計算に含まれる項目として認識されるのか,あるいは貸借対照表に記載さ れ当期の利益計算に含まれない項目として認識されるのかに関しては,当該段 階では明らかとならない。以下では,このような機能を「項目識別機能」といつ
O ここで注意を要するのは このような認識プロセスにおける実現基準の2つ の機能のうち,認識プロセス上いずれが先行して生じるのか,同時に生じるの か,あるいはいずれか一方しか生じないのかは,かならずしも自明の事柄では ないということであるO 以下では,上述のような認識プロセスにおける2つの 機能,すなわち「何jが認識されるのか,また「いつ」認識されるのかを決定 するという機能が,それぞれの実現基準においてどのように位置づけられるの かを明らかにしていくことにする。 16)認識を「いつ」および「何」という 2つの問題に分けて検討した先行研究として, Johnson and Storey [1982Jがある。また,当該研究をさらに敷街した先行研究として,徳 賀 [1990Jおよび藤井 [1997J第9章も合わせて参照されたい。 17)この点を明らかにするのが,上述の時点決定機能に他ならない。E
伝統的実現概念 まず本節では,伝統的実現概念として,I
貸借対照表アプローチを損益計算書 アプローチへ転換する〔……〕画期的な意義J(阿部[1996J 108頁)をもっ理 論を提示し,I
アメリカ会計学説上の重要な総括的地位J
(木村[1955J 133頁) にあるとされる Patonand Littleton [1940J における実現概念を検討していくこ とにする。 Paton andLittleton [1940J では,実現について,次のようにのべられている。 収益は現金の受領や,受取債権その他の新しい当座資産で立証されたとき に初めて実現されることになる。この場合は2
つのテストが暗黙裡に考え られているO すなわち,第1
に法的な販売または同様な過程による転換, そして,第 2に 当 座 資 産 の 取 得 に よ る 確 定 で あ る (Patonand Littleton [1940J p.49)。
このような内容をもっ実現と明確に区別されるべきものとして, Paton and Littleton[1940J は,I
稼得J (eaming) をあげている。「収益が生産の全過程の 結果として稼得されるということと,収益が製品の完成と処分とに先立つて測 定されまた認識されうると考えることとはまったく別個のことであるo (... ...) この(ヲl
渡しの)ときに至ってその製品に対する価格は客観的に確定され,そ して収益実現の尺度とするにふさわしい新しい資産が登場するのである」 (Paton and Littleton [1940J p.49) と, Paton and Littleton [1940J はのべている。 ここで注意を要するのは,生産過程における価値の変化を認識・測定するので はなく,企業に流入する貨幣 (PatonandLittleton [1940J によれば当座資産) 18)本章では,第 l次世界大戦以降に,とりわけ1929年の世界恐慌以降に支配的となったと いわれている実現概念乞伝統的実現概念とよぶことにする。これ以前の実現概念をめぐ る 経 緯 に つ い て は , 例 え ばAIA[1952] pp.23-28 ; Windal[1961a] pp.22-34;辻山 [1991]193-216頁;可児島 [1994]72-84頁などを参照されたい。を認識・測定するという考え方が明らかにされていることであるO すなわち, 企業会計においておこなわれるべき認識・測定の対象は,価値ではなく,貨幣 であると考えられているのであるO そして,企業に流入する貨幣の量,すなわ ち価格が客観的に確定されるのが,実現の時点であるとされているのである。 次に,上述のような伝統的実現基準が,認識プロセスにおいてどのような機 能を担っているのかを検討していく。 Patonand Littleton [1940Jでは,
I
会計諸 記録における収益認識の基礎としては,一般的には,実現が〔……〕重要であ るJ (Paton and Litt1eton[1940J p.49)と述べられており,実現基準は収益の認 識に関して用いられている。このことから,伝統的実現基準は,当期の利益計 算に含まれる項目を選び出す,換言すれば利益の期間帰属決定をおこなうため の基準であることが理解される。たしかに,実現が生じるまでは原始記入がお こなわれず,実現が生じた時点で原始記入がおこなわれると同時に収益として 認識されると考えられるかもしれない。すなわち実現基準は,項目識別機能と 時点決定機能とを同時に果たしていると考えられるかもしれないのである。し かしながら,原始記入の時点で「収益j と記帳されていても,決算記入におい て修正されることによって財務諸表に記載されるべき収益や利益が確定するの で,原始記入の時点での「収益j はまだ不確定なものであり,収益の候補であ るとしかいえないであろう。そして,当該「収益」のなかから,当期の収益と なるべきものを選び出すための基準が実現基準であるといえるのである。この ような意味で,伝統的実現基準においては,時点決定機能が第1
の機能である といいうるのである。そして,期間帰属決定がおこなわれた結果として,当期 に認識されるべき項目の範囲が決定されることになる。すなわち伝統的実現基 準においては,時点決定機能こそがその主たる機能であり,項目識別機能は副 次的なものであるといえるのであるO そもそも伝統的実現基準がとられる理論的根拠として,I
利益であるためには, 19)このように,価値の不確定性を批判し,価格の確定性を重視する考え方については, Littleton[1929J [1935Jなどを参照されたし、その処分可能性が考蔵されなければならないので,貨幣性資産の裏付けを必要 とするが,財貨などは,販売によって,収益(またはそれによって算定される 利益)が貨幣性資産の裏付けを得るようになることJ(飯野 [1993J 11-17頁)が 考慮されていることは,周知のとおりである。このことは,伝統的実現基準の 第
1
の機能が時点決定機能であることと整合的であるO ここで注意を要するの は,処分可能性の意味である。すなわち,I
収益の認識にとっては,投下資本の 回収原因事実の確定(...J
こそが本質的な条件をなし,それは投下形態にあ る企業資本が回収形態としてのそれ(現金または現金請求権)へと転化する現 象を意味しJ(山桝・鳥村[1992J 181頁),資本から利益が分離したことをもっ て,当該利益を処分しでも資本には影響を及ぼさないという意味で処分可能で、 あるとされるのである。算定利益や「回収余剰に支払手段としての利用性を求 めることは,会計計算とは区別されるべき経営財務上の問題であるJ
(山桝・鳥 村[1992J 181頁)といえよう。N
AAA1957年 改 訂 会 計 原 則 の 実 現 概 念 第2次世界大戦後の経済環境の変化,とりわけ急激なインフレーションの進 行によって,原価主義会計の欠陥が多く指摘されるようになった。さらには, これにともなって会計の報告面を重視するという気運も高まっていった。 このような背景のもとに, AAAによって1957年改訂会計原則 (AAA[1957J) が作成された。 AAA [1957Jは,I
これまでのステイトメントをすべて入念に 検討したうえで作成されたもので,また,それらのステイトメント,とくにサ プレメンタリイ・ステイトメントのうちからこのなかにとりいれられた部分も あるJ(AAA [1957J p.536)とされているO このようなAAA[1957Jにおいて, 従来とはまったく異なる実現概念が提起されるに至った。以下では,収益認識 プロセスにおいて実現基準が担っている機能に留意しつつ, AAA [1957Jにお ける実現概念を検討していくことにする。1.項目識別機能を有する実現 AAA
[
1
9
5
7
J
では,会計諸慣行の根底にあると考えられるいくつかの基礎概 念が掲げられており,そのうちの1
つとして,実現は次のように定義されてい る。 実現の本質的な意味は,資産または負債における変動が,会計記録上での 認識計上を正当化するにたるだけの確定性と客観性とを備えるに至ったと いうことである。このような実現の認識は,独立の当事者聞の取引がおこ なわれたこと,これまでに確立された取引上の実践慣行にかなっているこ と,あるいは,その履行が実質的に確実視されるような契約諸条件を基礎 としておこなわれることとなろうO その認識は,銀行制度の安定性,商業 上の契約の拘束力,あるいは,高度に組織化された市場が資産の他の形態 への転形を容易にしうる能力のいかんによって規定される (AAA[
1
9
5
7
J
p
.
5
3
8
)
。
「既に多くの文献が指摘しているように,会計における実現の概念は, (……〕 〔この定義によって〕その意義が大幅に拡張されたと言われるJ
(辻山[
1
9
9
1]1
3
6
頁)。すなわち伝統的実現概念においては,その具体的要件として,①法的 な販売または同様な過程による転換,および②当座資産の取得による確定が要 求されていたが,AAA [
1
9
5
7
J
においては,確定性と客観性という 2要件があ げられているにすぎないのである。さらには,伝統的実現は収益または利益の 認識基準として用いられていたが,AAA
[19
5
7
J
における実現は「単に収益認 識の概念としてのみならず,会計一般についての認識概念J
(福島[
1
9
7
8
J1
9
頁, 傍点はママ)として用いられている。 20) このような内容をもっ新たな実現概念に対して,少なからず批判が寄せられた。そのう ちのいくつかをあげると,次のようであるO G. J. Staubusは, AAA [1957Jの実現概念には,評価すべき点と批判すべき点との 2点 があるとしているO まず,短期貨幣性資産の受領を考慮せずとも,資産および負債の変化このように定義された AAA[1957Jの実現は,認識プロセスにおいては,ど のような機能を担っているのであろうか。上述のように,ある項目が確定的か っ客観的になれば当該項目を勘定記入できるというのが AAA[1957Jにおける 実現であった。すなわち当該実現基準は,勘定における認識に関して規定され たものである。このことから,当該基準においては,
r
何jが認識されるべきか を決定すること,いいかえれば項目識別機能が第lの機能であることが理解さ れる。しかも当該基準のもとで認識されるのは,収益に限定されてはいない。 したがって,当該基準が時点決定機能を有しているとはいいがたいのである。2
.
時点決定機能を有する実現 上述のように, AAA [1957Jの基礎概念の項において定義されている実現基 準は項目識別機能を有していると考えられる。しかし,当該実現概念がAAA [1957Jにおいて一貫して用いられていたわけではない。すなわち,基礎概念の を論じられるようになった点を,彼は評価している。しかし,当該実現概念とその適用に おいて首尾一貫性に欠けていると,彼は批判している。それは,以下の3点であるという。 まず第1には,資産の価格総計の変化を確証するために,市場取引またはそれに匹敵する ものが要求されている点である。第2には,企業の純利益の定義に,ことさら「実現」と いう語が付されている点である。さらに第3は,I
V
I
表示の基準」の「表示の程度」の 項で, I実現」という語が不必要に用いられている点である(この点は,筆者が伝統的実 現概念が用いられていると指摘している点である)0 Staubusは,当該箇所を以下のように 変更すべきであるとしている。 I場合によっては,資産または負債における変動を会計記 録上で認識するための,当該業界で確立された規準がまだ満たされていないにもかかわら ず,資産または負債の変動は明確であることがありうる。会計人と業界との意見が異なる ような場合,純利益の算定にあたっては業界の意見を優先すべきであるが,意見の相違が あったことは完全に開示されるべきであるJ (Staubus [1958J p.22)。 さらにw.J.Vatterは,次のようにのべている。「実現は多くの含意を有しており,周囲 の状況を考慮して適用されるということを,当該報告書 (AAA [1957Jのこと 引用者 注)は示しているにすぎない。資産または負債が変化した時点,あるいは収益または費用 が生じた時点を確証するのに用いるべきテストをより明確に規定することによって,当該 実現概念を意味づけるよう努めることがとりわけ必要であるJ (V訓er [1962J pp.661 -662)。項において定義された実現概念とは異なる実現概念が,用いられているのであ る。それは,
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表示の基準」の「表示の程度」という項における,以下の ような文言にみられるo 場合によっては,当該業界で確立された実現基準がまだ満たされていない にもかかわらず,資産または負債の変動が明維であることがありうるO こ の種の未実現の変動は,財務報告書に明示されるべきであるが,r
実現純利 益J
(realized net income)の金額をこれによって左右すべきではない (AAA [1957J p.543)。
基礎概念の項における実現概念,すなわち項目識別機能を有する実現概念が ここにおいても用いられていたとすると,r
実現基準がまだ満たされていないj ということは,その変動が「会計記録上での認識計上を正当化するにたるだけ の確定性と客観性とを備えるに」至ってはいないことを意味するはずであり, このような変動は当該実現概念のもとでは認識されることはなく,財務諸表に 掲載されることもないはずである。にもかかわらず,r
資産または負債の変動 が明確であることがありうる。この種の未実現の変動は,財務報告書に明示さ れるべきであるJ
という主張は,基礎概念の項における実現概念をとるかぎり, 矛盾しているといわざるをえない。したがって,当該丈言の「実現基準がまだ 満たされていない」というくだりに関して,確定性・客観性の規準が満たされ ていないために基礎概念の項における意味での実現基準が満たされていないと 解釈することは不可能であろう。すなわち,当該文言における実現概念は,基 礎概念の項における実現概念とは異なったものであると考えられる。とするな らば,ここでの実現概念は, AAA [1957J が公表される以前からすでに支配的 であった伝統的実現概念を意味していると考えるのが自然であろう。「当該業 界で確立された」というくだりも,伝統的実現概念を暗示するものと思われる。 では,ここで用いられている伝統的実現基準は,認識プロセスにおいて,ど のような機能を担うことが予定されているのであろうか。当該文言において,伝統的実現概念の意味で「未実現の変動は,財務報告書に明示されるべきであ るが,実現純利益の金額をこれによって左右すべきではない」と述べられてい る。ここに実現純利益とは,
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(a)収益を対応する費消済原価と比較して求め た過不足差額,と, (b)資産の売却,交換その他の転換から企業にもたらされ たその他の利得または損失,とから生ずる,その純資産変動額J
(AAA [1957] p.540)をいい,r
企業が有形の製品をその顧客に提供する場合であれば,収益 は通常販売の際に認識されるべきであるJ
(AAA [1957] p.540)とされている。 これより,資産または負債の変動が確定的かっ客観的であり,基礎概念の項に おける意味での実現基準を満たしていても,販売や売却,交換その他の転換を へていないと当該変動を実現純利益に含めないということを規定するものが, AAA [1957]における伝統的実現基準であるといえよう。したがって収益の認 識基準は,あくまで伝統的実現基準であると考えられる。当該実現基準は,す でに識別されている諸項目を,実現純利益に含まれるべきものと,これに含ま れずたんに財務諸表に開示されるべきものとを区分するための基準であり,時 点決定機能を有しているといえるであろう。 3. 2つの実現概念の含意 既述のように,そもそも AAA[1957]は,第2次世界大戦後にインフレーシヨ ンが進むなか公表されたサプリメンタリー・ステイトメントを検討したうえで 「会社財務諸表会計諸概念および諸基準(1948年改訂版)J
(AAA [1948])を改 定するという形で作成されたものであった。このような事情を背景として, AAA [1957]では,投資家などの財務諸表利用者への報告面が重視されている。 それは,認識対象の拡張の要請に対処したものであったといえるであろう。こ の拡張された認識対象を認識するための基準こそが,基礎概念の項における実 現基準だったのであるoすなわち,基礎概念の項における実現基準は,伝統的 21)ここのことは, AAA [1957Jを作成した委員会の委員長であったR.K. Mautzが報告面を 重視していたことからも容易に理解できる。彼自身の主張については, Mautz [1953Jを 参照されたい。実現概念の意味での未実現損益を認識するための基準であったといえるであろ