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業績報告の展開と利益のリサイクリング

ドキュメント内 財務業績報告の基礎概念 (ページ 121-151)

I は じ め に

2001年4月にIASCの改組をうけて新たに組織されたIASBは,各国の基準と IFRSとの収数を目指して数多くのプロジェクトに取り組んでいる。なかでも

n

業績報告』プロジ、エクトは,会計情報の中核に位置する利益概念と密接不可 分な関係にあるため,今後,世界の会計基準の統合化を目指すIASBにとっては 最初の試金石となる可能性がある

J

(辻山 [2002]31頁)といわれており,その 動向が注目を集めている。

l似)

この業績報告プロジェクトは,

G 4  +1

によって作成された

2

つの報告書,

Johnson et al.  [1998]およびCeamset al.  [1999] (以下では,同文献からの引用 についてはパラグラフ番号などのカッコ書きによってその出所を示す)をふま えたものであり,両報告書の理論的影響を色濃くうけたものとなっている。補 論2でみたようにJohnsonet al.  [1998]では,伝統的な実現利益とそれよりも 包括的な利益とを2元的に報告するアプローチや実現基準などに制約されない 包括的な利益のみを1元的に報告するアプローチを含む4つのアプローチの比 較検討がなされた後に,実質的多数派の意見として,実現基準などに制約され ない包括的な利益のみを l元的に報告するアプローチが概念上理想的なものと して勧告されている。さらにCeamset al.  [1999]では,上述の実現基準などに 制約されない包括的な利益のみを 1元的に報告するアプローチを前提として,

財務業績の報告区分や利益のリサイクリングについて論じられている。

IASBによって現在進められている業績報告プロジェクトの出発点となった Ceams et al.  [1999]に対して利害関係者から寄せられた数々の回答は,当該プ 103)現在進行中のプロジェクトについては,IASBのホームページくhp:llwww.iasb. org/Home. 

htm>を参照されたい。

104) G 4 

1については,注91を参照されたい。

ロジェクトの今後を見極めるうえでも貴重な資料となるものと思われる。わけ でも企業が業績を報告するうえで,利益をどのようにとらえるのかは,きわめ て重要な問題である。利益のリサイクリングの問題も,最終的にはこの点に帰 着するであろうO というのも,リサイクリングの有無によって,想定されてい る中心的利益概念,およびその背後にある業績報告に対する考え方が異なるか らである。そこで本章は,

C e a r n s  e t   a

l.  [1

9 9 9  J

において提起された数ある論点 のなかでも利益のリサイクリングの問題を取り上げ,

r

リサイクリングは認めら れるべきか否か

J

(p.9)という問題提起に対して利害関係者からいかなる回答 が寄せられたのか,さらに,こうして集められた回答の背後にある会計観を明 らかにしていくことを主たる目的としている。デュー・プロセスをへて寄せら れた数々のコメント・レターという一次資料から,業績報告様式の背後にある 会計観の対立を明らかにすることによって,現在

I A S B

によって進められてい る業績報告改革の特徴の一端を浮き彫りにできれば幸甚である。

利益のリサイクリングとは

コメント・レター自体の検討に入る前にまず確認しておくべきなのは,そも そもリサイクリングとはいかなる考え方なのかということである。本節では,

まず,この点をアメリカの議論を手がかりとしてみていくことにしたい。

FASB

の 財 務 会 計 基 準 書 第

1 3 0

( F A S B [ 1 9 9 7 J

。 他 の 基 準 書 に つ い て は

S F A S 1 3 0

のような表記法によるものとする)は,リサイクリングについて以下 のようにのべている。

その期間の純利益の一部として表示される包括利益項目のうち,その期間 あるいはそれ以前の期間において,その他の包括利益の一部としてすでに 表示された項目の2重計上を避けるため,調整がおこなわれなければなら ない。たとえば,当期中に実現し純利益に含められたが,発生した年度に も未実現保有利得としてその他の包括利益にすでに含められている有価証

券投資による利得は,包括利益に

2

度計上されることを避けるため,純利 益に含められた年度にその他の包括利益から控除されなければならない。

このような調整は本基準書では[再分類調整

J

(reclassification adjustments)  とよばれるo (FASB  [1997J P紅.18)

ひとたびその他の包括利益として認識された項目を,その実現時に純利益に 振り替え,利益の2重計上を避けるために当該金額をその他の包括利益から減 額する手続き全般を,一般にリサイクリングという。ただし,

r

リサイクリング という用語は,この振替処理全体をきしているものと思われるが, SFAS130 (本 章にいう FASB [1997J一一引用者注)では特に後段の控除処理について再分類 調整という用語を用いているJ(包括利益研究委員会 [1998J 181頁)。

現在アメリカでは,その他の包括利益に含まれるものとして,在外子会社の 財務諸表の換算時に生じる為替換算調整勘定 (SFAS52),追加最小負債の未認 識過去勤務費用に対する超過額 (SFAS87),売却可能有価証券の未実現保有損 益 (SFAS1l5),キャッシュフロー・ヘッジを目的としたデリパティブの評価損 益 (SFAS133)の4項目がある。このうち2つめの追加最小負債の未認識過去 勤務費用に対する超過額を除き,その他の包括利益のそれぞれの分類ごとに再 分類調整をおこなわなければならないとされている (FASB [1997J par.19)。

以上のように,リサイクリングとは,ひとたびその他の包括利益として認識 した項目を実現時に純利益として再び認識し,包括利益レベルでの利益の2重 計上を避けるために調整をおこなうことをさしているが,具体的にいかなる会 計処理がおこなわれるのであろうか。以下では,売却可能持分証券の保有損益 についてリサイクリングの会計処理をみていくことにしたい。

105)以下の設例は,FASB[1997Jの付録Cで示されているものである。ただし,図表7‑3 よぴ7‑4については筆者自身が作成した。

設例:

SFAS

1l

5

の売却可能持分証券の保有損益のリサイクリング

本設例において,売却可能持分証券は,その公正価値が上昇しているも のとするO 企業は1997年12月に1,000株の持分証券を l株10ドルで購入し,

売却可能有価証券に分類したo1998年12月31日および1999年12月31日にお けるこの持分証券の公正価値は各々 12ドルと15ドルであった。この有価 証券は1999年12月31日に売却されたが,配当宣言はなかった。税率は30 パーセントと仮定する。

図表7‑1 保有利得の計算

その他の包括利益において認識される保有利得:

1998年12月期 1999年12月期 総利益

税引前 法人税 税引後

$ 2, 000  $ 600  $ 1,400  3,000  900  2,100 

$ 5, 000  $ 1, 500  $ 3, 500 

図表7‑2 : 1998年12月期および1999年12月期において純利益およびその他の 包括利益で報告される金額(リサイクリングあり)

純利益:

有価証券売却益 法人税費用

純利益として実現した利得の純額 その他の包括利益:

当期中に発生した保有利益(税引後) 再分類調整(税引後)

その他の包括利益として認識された利得(損失)の純額 包括利益に対する総影響額

1998  1999 

$ 5,000  (1,500)  3,500 

$ 1,400  2,100 

(3,500)  1,400  (1,400) 

$1,400  $2,100 

図表

7‑1

は保有利得(税引前および税引後)の計算を示したものである。

1998年において l株10ドルから12ドルに上昇しているので,保有利得(税引前) は1,000株分で2,000ドルとなる。そしてこの2,000ドルに30パーセントの税金 がかかり,保有利得(税引後)は1,400ドルとなるo1999年には1株12ドルから 15ドルに上昇しているので保有利得(税引前)は3,000ドルとなり,保有利得 (税引後)は2,100ドルとなるO

図表

7‑2

は,リサイクリングがおこなわれる場合の,純利益およびその他 の包括利益で報告される金額を示したものである。まず1998年に保有利得(税 引後)がその他の包括利益として1,400ドル計上され,当該金額が包括利益に対 する総影響額となるO さらに1999年には, 2,100ドルの保有利得がその他の包 括利益に計上されると同時に,これらの保有利得が売却によって実現し有価証 券売却益(税引後)3,500ドルが純利益に含められる。このとき利益の2重計上 を避けるために,再分類調整としてその他の包括利益から3,500ドルが減額さ

図表7‑3 : 1998年12月期および1999年12月期において純利益およびその他の 包括利益で報告される金額(再分類調整なし)

1998  1999  純利益:

有価証券売却益 $ 5,000 

法人税費用 (1,500) 

純利益として実現した利得の純額 3,500  その他の包括利益:

当期中に発生した保有利益(税引後) $ 1,400  2,100 

再分類調整(税引後) O  O 

その他の包括利益として認識された利得(損失)

の純額 1,400  2,100  包括利益に対する総影響額 $1,400  $ 5,600 

図表7‑4 : 1998年12月期および1999年12月期において純利益およびその他の 包括利益で報告される金額(リサイクリングなし)

純利益:

有価証券売却益 法人税費用

純利益として実現した利得の純額 その他の包括利益:

当期中に発生した保有利益(税引後) 再分類調整(税引後)

その他の包括利益として認識された利得(損失) の純額

包括利益に対する総影響額

1998  1999 

$1,400  O 

$ 3,000  (900)  2,100 

$0  O 

1,400  0 

$ 1,400  $ 2,100 

注)この設例においては決算日と売却日とが同じであるため,有価証券売却益として認識する のではなく保有利得として認識することも可能であろうoむしろそのほうが,図表7‑2  などの処理と整合的であるといえる。

れるO こうして, 1999年における包括利益に対する総影響額は,純利益として 実現した利得の純額の3,500ドルとその他の包括利益として認識された利得(損 失)の純額の‑1,400ドルを合わせた2,100ドルとなる。

図表7‑3は, 1999年に再分類調整をおこなわなかった場合の,純利益およ びその他の包括利益で報告される金額を示したものである。 1999年において,

純利益(税引後)3,500ドルとその他の包括利益(税引後)2,100ドルがそのま またし合わされ,包括利益に対する総影響額は5,600ドルとなる。 1998年から 1999年までの通年でみた場合の包括利益に対する総影響額は7,000ドルとなり,

再分類調整を含むリサイクリングがおこなわれる場合(図表7‑ 2)における 1998年から1999年までの通年でみた場合の包括利益に対する総影響額3,500ド

ルのちょうど

2

倍になっており,これは再分類調整がおこなわれないと包括利 益のレベルで利益の2重計上が生じることを示している。

さらに図表

7‑4

は,リサイクリングがおこなわれない場合の,純利益およ びその他の包括利益で報告される金額を示したものであるO この場合, 1998年 には保有利得が, 1999年には売却益が計上されるO ただしリサイクリングがお こなわれない場合,ひとたびその他の包括利益(保有損益)として認識された ものは後の期に純利益に含められることはないので, 1999年に売却益として認 識されるのは取得原価 (10ドル)と売却価格すなわち1999年の公正価値 (15ド ル)の差額に相当する金額ではなく, 1998年の公正価値(1

2

ドル)と売却価格(15 ドル)の差額に相当する金額である。この点において,リサイクリングがおこ なわれない場合(図表

7‑4 )

は,取得原価と売却価格の差額に相当する金額 が売却益(実現利益)として純利益に計上されるリサイクリングがおこなわれ る場合(図表 7‑ 2) とは異なっているのである。これに対して包括利益への 総影響額については,リサイクリングがおこなわれる場合(図表 7‑ 2) もお こなわれない場合(図表 7‑ 4) も同様になる。

以上においてみたようなリサイクリングに対して, Ceams et al.  [1999]は

「リサイクリングは禁止されるべきである

J

(par.4.16)という否定的な立場を明 確にしたうえで,かかる見解に賛成か否かについての回答を求め,合計51通の 回答がIASCに寄せられた。以下では,リサイクリング賛成派および反対派の

1(6) 

代表的なコメントを順次みていくこととする。

E  リサイクリング賛成派の主張

リサイクリングに賛成,すなわちCeamset al.  [1999]の提案するリサイクリ

107) 

ング禁止に反対する見解の代表的な論拠として,①実現の現実性,②経営者の

106)本章においてコメント・レターを引用する場合,そのコメント・レターの受理番号(お よびその頁数)で示すことにする(例:CLl  p.l)

107)このような見解は,例えばCL310, 1722283940414249で示されている。

1081  1091  110) 

裁量,③純利益の歴史的強固性の3点があげられる。

まず実現の現実性については,実現は後のたんなる可能性ではなく現実のも のとなった時点を示すものであり,現実と可能性との質的な違いが,リサイク リングをおこなう根底にあるという論拠が示されているO すなわち,公正価値 で測定された利益は,いわば機会費用のようなものであり,このような可能性 の次元から現実の次元への転換を意味するのが実現なのである。 Ceamset a l.

[1999]では「実現利益は未実現利益と同様の経済的事象を反映しているj (p 4.12)とのべられているものの,実現利益は覆ることのない交換取引の完 了を表しているのに対して,未実現利益は将来に覆りうる経済環境の変化を表 しており,ゆえに再評価のリスクをはらんでおり,両者は同様の経済的事象を 反映しているとはいいがたいという。したがって,この見解においては,実現 による利益の確定性が重視されているといえるであろうO 現実にもとづく数値 と可能性にもとづく数値とが業績計算書に混在することは,当該計算書の透明 性・信頼性・質を損ねることになるのである。

また経営者の裁量については,経営者のコントロールが及ぶ要因と及ばない 要因(たとえば公正価値の変動)とを業績としてまとめてしまうのではなく,

明確に区分すべきであるという論拠が示されている。両者が混在することに よって,業績のボラテイリテイが増大し,業績計算書の透明性・信頼性・質が 損なわれることになる。かかる見解に立つならば,業績として2元的な利益が 想定されるO すなわち,一方は経営者のコントロールの及ぶ要因のみによって 構成される利益が,もう一方は経営者のコントロールの及ばない要因をも含む 利益が用いられるのである。そして,後者に含まれていた要因が前者に含まれ るようになった段階で,リサイクリングの手続きが必要になる。

さらに純利益の歴史的強固性については,努力と成果の差額が業績であると いう考え方のほうが,理論上の持分の変動を業績とみる考え方よりも,伝統的 108)このような見解は,例えばCLlO17, 22, 28, 30, 37, 40, 41で示されている。

109)このような見解は,例えばCLl722, 28, 30, 37, 40, 41, 43で示されている。

110)ただし,これら3点は,相互に密接に関連するものである。

ドキュメント内 財務業績報告の基礎概念 (ページ 121-151)