I は じ め に
前章でみたような狭義の連繋概念の意味での非連繋をもたらす項目,すなわ ちクリーン・サープラス関係を満たさない項目が散見されるようになってきた
90)
ことに対する懸念を根拠の
1
っとして,現在.IASB
を中心に第l
章でみたよう な業績報告プロジ、ェクトが進められている。このような業績報告の改革は,何 も当該プロジェクトに始まったものではない。認識・測定された事象をいかに 開示するかは,会計にとって古くて新しい問題であるといえる。とりわけ,現在の業績報告プロジ、エクトに多大なる影響を及ぼしたものとし て.
G 4 +1
による財務業績報告の提案を見逃すことはできない。G4+1
は, 業績報告に関して詳細な検討を加え.Johnson et al.[ 1 9 9 8 J
およびCeamset al.[ 1 9 9 9 J
を公表した。ここで導き出された結論は.IASB
の業績報告プロジェク トにおいて議論の出発点とされており,業績報告プロジェクトにおける基本方 針はJohnsonet al.[ 1 9 9 8 J
およびCeamset al. [19 9 9 J
においてすでに決定され ていたといっても過言ではない。そこで,本補論では.Johnson et a. l[ 1 9 9 8 J
お よびCeamset al. [19 9 9 J
における諸提案を概観し,業績報告プロジェクトが前 提としている利益概念の特徴をみていくことにしたい。なお,以下では,両文 献からの引用についてはパラグラフ番号などのカッコ書きによってその出所を 示すことにするO90) この他の根拠としては,業績概念の多様化やクリエイテイブ・アカウンテイングの横行 があげられる。
91) G 4
+
1とは,イギリス,アメリカ,カナダ,オーストラリア・ニュージーランドと IASCからなる作業グループであり,主要な会計問題について精力的な調査・研究を実施し てきたO1I
J o h n s o n e t a l . 日
998]における問題提起とその特徴Johnson et al. [1998Jは,イギリス,ニュージーランド,アメリカ, IASCの 業績報告に関する基準を比較検討したうえで (ch.2),12種類の業績計算書や,
業績計算書と持分変動計算書においてではなく,単一の業績計算書において財 務業績を報告すべきである
J
(par.3.l9)という見解を示している。そして業績 報告をめぐる 4種類のありうべきアプローチが検討されている。その 4つのアプローチの特徴を一覧表にすると,図表補
2‑1
のようになるO図表補2‑ 1 本作業部会が検討したアプローチの要約
般 的 特 徴
伝 統 的 な 測 定
業績の観点が ある「稼得実 用いられる 用いられる アプローチ 一元的かある 現一対応利益
J
報告形式の 主たる区分いは二元的か の報告 種類 の数
A 二元的 あり 多欄式 2
B 二元的 あり 調整式 2
C 一元的 なし* 伝統的 2
D
一元的 なし 伝統的 3*しかし,伝統的な稼得一実現一対応利益とある点では同様の利益の修正値が報告される。
図表補
2‑1
をみればわかるように,4
種類のアプローチの異同が,4
つの一般 的特徴(業績の観点,稼得実現一対応利益の有無,報告形式,区分の数)から 明らかにされている。まず業績の観点として, 1元観と 2元観という分類が示 されているO この分類は,業績の認識規準の差異によるものであり, 1元観と は1種類の認識規準にもとづいて1つの業績を示すものであり, 2元観とは2 92) Johnson et al. [1998Jは,実現基準や対応原則にもとづいて算定される伝統的利益を稼得実現ー対応利益とよんでいる。これは,一般に純利益とよばれるものと同様のものであると 思われるが,本補論では便宜上Johnsonet al. [1998Jの用語法に従うこととする。
種類の認識規準にもとづいて(一方が他方と重複する) 2つの業績を示すもの である。したがって
1
元観のもとでは,稼得・実現・対応の諸基準に制約され ない包括的な利益のみに焦点があてられるのに対して 2元観のもとでは,伝 統的利益(すなわち稼得一実現対応利益)と包括的な利益との両方に焦点があ てられるのである。アプローチAおよびBは2元観をとっているため,これらのアプローチにも とづく業績報告書には稼得一実現一対応利益が表示されるのに対して,アプロー チCおよびDはl元観をとっているため,稼得一実現一対応利益よりも一層包括 的な利益が表示されるのみであり,稼得一実現対応利益は注記または別の場所 で報告すればよいと考えられている。
また報告様式については,アプローチAが多欄式,アプローチBが調整式,
アプローチ
C
およびD
が伝統的様式をそれぞれとっているOさらに業績報告書の表示区分の数については,アプローチAおよびBは2元 観をとっているため,稼得一実現一対応利益に含まれる項目と含まれない項目の
2
つに区分される。したがって,ここでは実現が区分基準として機能している ことが理解される。またアプローチC
では,流動資産・負債に関連の深い項目 とそうでない項目との 2つに区分される。すなわちアプローチ Cにおいては,流動資産・負債の変動をともなう操業活動による損益と,流動資産・負債の変 動をともなわない保有活動による損益とに区分され,予測価値の高いものとそ うでないものとに区分されていることから,ここでは相対的予測価値が区分基 準として機能していることが理解されるのである。さらにアプローチDにおい ては,まず相対的予測価値の観点から操業活動による損益とその他の損益とに 区分され,さらにその各々から財務活動による損益が抽出されることにより,
「操業活動による損益
J
,r
資金調達およびその他の財務活動による損益J
,r
その93)理論的には, 1元観のもとで稼得一実現一対応利益のみに焦点をあてる考え方もあるかもし れないが,そのような考え方はJohnson et al. [1998]では取り上げられてはいない。
94)ただし,アプローチCでは,伝統的な稼得←実現対応利益とある点では同様の利益の修 正値が報告されるとされている。
図表補
2‑2:2
元 観 に も と づ く 業 績 報 告 書 アプローチB 財 務 業 績 報 告 書E O O O
収益[売上高] :
継続的操業活動
5 5 0
取 得
5 0
廃止事業
1 7 5 7 7 5
売上原価
( 6 2 0 )
その他の費用 (99)
収益の費用に対する超過分:
継続的操業活動
5 5
取得
6
廃止事業 (1
4 )
控除:準備金 9
( 5 )
継続的操業活動に供されている財産の売却益廃
1 8 5 6
止事業の処分損 (1
7 )
控除:準備金
2 0 3 2 1
債務利息 (1
8 )
税 金a (1
4 )
少数株主持分
( 2 )
稼 得 実 現 対 応 利 益
4 3
固定資産の再評価
4
関連会社への投資の再評価b
( 3 )
外貨純投資の換算差額
( 2 )
(1) 控除:リサイクリング調整c (1
4 )
(15 )
合計d[増減資を除く持分の増(減)]
2 8
a 稼得実現一対応利益の下に報告されている項目は税金の影響をうけるかもしれず,当該 金額はかかる影響を反映するように配分されるであろうが,表2と同様に,この例におい てはlつの税額しか示してはいない。
b この文脈においては.
r
関連会社への投資」は,営業のためや当座資産を保有する代わり としてではなく,企業関係を固めるために保有される投資を意味している。C リサイクリング調整に含まれているのは,取得原価にもとづく減価償却費がその他の費 用に含まれている資産の再評価調整としての1::5と,売却され利益が取得原価にもとづいて いる継続的操業活動用財産の再評価調整としての1::9である。
d 当該報告書の「末尾jは,ありうべき混乱を避けるために,たんに「合計
J
と表示して いる。というのも,様々な管轄の問で術語を用いる場合に起こる相違が存在しているため である。例えば,当該金額は合衆国では「包括利益」と,また連合王国では「総認識利得 損失jとよばれているO図表補2‑3: 1元 観 に も と づ く 業 績 報 告 書 アプローチ
D
財 務 業 績 報 告 書
f:
O O O
操業(営業)活動:
収益[売上高1:
継続的操業活動 550
取得 50
廃止事業 175 775
売上原価 (620)
その他の費用a (104)
収益の費用に対する超過分: 50
継続的操業活動 6
取 得
廃止事業 (15) (5) 51
控除:準備金 10
資金調達およびその他の資金活動:
債務利息b (18)
その他の損益
廃止事業の処分損 (17) 3
控除:準備金 20 9
継続的操業活動に供されている財産の売却益関 (3)
連会社への投資の再評価c 4
固定資産の再評価 (2)
外貨純投資の換算差額 11
税金d (14)
少数株主持分 (2)
合計. [僧減資を除く持分の増(滅
) J
28a 固定資産が再評価されたからには,再評価額に係る減価償却費を含む。
b 支払利息として報告されている金額は,取引日レートで測定されている。しかし,債務 が再評価されたからには,支払利息も決算日レートで修正・測定することが可能で、あろうO
C この文脈においては.I関連会社への投資」は,営業のためや当座資産を保有する代わり としてではなく,企業関係を固めるために保有される投資を意味している。
d 当該例の目的上,税額は報告書の末尾に 1つの金額で示されているO しかし,当該金額 は代わりに,報告書内の様荷な区分に配分することも可能であろう。
e 当該報告書の「末尾」は,ありうべき混乱を避けるために,単に「合計jと表示してい る。というのも,様々な管轄の聞で術語を用いる場合に起こる相違が存在しているためで ある。例えば,当該金額は合衆国では「包括利益jと,また連合王国では「総認識利得損 失」とよばれている。
他の損益j という
3
つに区分されるO ここで,とりわけ財務活動による損益を 独立して表示する理由として,J o h n s o n e t a
l.[ 1 9 9 8 J
は,財務活動は財務部門に よって集権的に意思決定されるのに対して他の活動は個々の事業管理者によっ て分権的に意思決定されるという意思決定のされ方が異なること,および,金 融商品は他の資産・負債と比べて市場の影響をうけやすいうえに近年金融商品 の発達が著しいことをあげている( p
訂s . 5 . 3 8 ‑ 3 9 )
。以 上 の よ う な 特 徴 を も っ た 4つのアプローチを比較検討したうえで,
J o h n s o n e t a
l.[ 1 9 9 8 J
は,いずれのアプローチにも長所および短所があるとしつ つも,ワーキング・グループの「実質的大多数が概念上理想的なものとしてア プローチD
を明確に選択したJ( p a r . 5 . 4 5 )
ことが明らかにされている。なお,以下の議論の理解のために,
J o h n s o n e t a
l.[ 1 9 9 8 J
で例示されているア プローチBおよびDにもとづく業績報告書を示すと,図表補2‑2および補23
のとおりである。m 2
元観と1
元 観前節で明らかなように,
J o h n s o n e t a
l.[ 1 9 9 8 J
には,多くの論点や問題提起が 含まれているが,なかでも,財務業績を2元観から報告するか,あるいはl元 観から報告するかという問題は本研究にとって多くの示唆を含んで、いると思わ れる。そこで,本節では, 2元観およびl元観からの報告が有する含意を考察95)
していく。なお本節では,説明の使宜上,
2
元観にもとづくものとしてJ o h n s o n e t
al.[ 1 9 9 8 J
におけるアプローチB
を,1
元観にもとづくものとしてアプローチDを想定することにする。
まず,両アプローチそれ自体の検討に先立ち,それらの比較対象となってい る会計システム,すなわち,
J o h n s o n e t a
l.[ 1 9 9 8 J
において稼得一実現一対応利 益とよばれる利益を l元的に報告する会計システム(以下「伝統的会計I
とい96)
う)が有している含意を明らかにしていく。