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非連繋の数式による説明

ドキュメント内 財務業績報告の基礎概念 (ページ 84-93)

第 5 章 利益概念の重層化と包括利益の基準化

補論 1 非連繋の数式による説明

I は じ め に

前章においてみたように,包括利益の基準化が要請された背景に,資本取引 でも損益取引でもない項目を持分の独立項目に直接計上することを規定し,貸 借対照表と損益計算書との連繋を崩すような基準が散見されるようになったこ とがあった。これは,

r

簿記会計に伝統的な資本(資本取引)と利益(損益取

5

1)との峻別という基本原則

J

(安藤 [2000J27頁)に反する項目の存在を意味 していた。そこで,財務諸表の連繋の回復を Iつの目的として公表されたのが FASB [1997Jであった。

では,当該基準書において提起されている包括利益によって,はたして連繋 は回復されたのであろうか,また回復されたとしてもそれは従来の連繋と同様 のものなのであろうか。本補論では,これらの点について検討を加えていく。

かかる作業が,財務諸表の関係(連繋・非連繋)を理解するための一助ともな れば幸甚である。

FASBの連繋概念

FASB [1985Jでは,連繋について以下のようにのべられている。

構 成 要 素 の

2

種類の類型は,以下のような意味で相互に関連している。

(a)資産,負債および持分(純資産)はもう一方の類型の構成要素によっ て変動させられ,いつの時点でもそれらの累積的結果である。 (b) 資産の 増加(減少)はこれに見合う他の資産の減少(増加)またはこれに見合う 負債もしくは持分(純資産)の増加(減少)なしには起こりえない。これ

らの関係は,時にまとめて「連繋j といわれる。これらの関係の結果,第 2の類型の構成要素を示す計算書が第lの類型の構成要素を示す計算書に

依存し,また逆においてもそうであり,財務諸表は基本的に相互関連性を もつことになる

( p a r . 2

1)。

かかる連繋概念について本補論にとって重要なのは. (a)の意味での関連で ある。これを敷桁するならば.

2

時点聞における純資産の変動は,利益に連動 していると解することができるであろう。かかる連繋は,収益費用アプローチ または資産負債アプローチのいずれか一方に立脚するかぎり成立するものであ るが,当該関係を乱すような項目が近年増加してきたのである。かかる状況に 対して,財務諸表利用者から懸念が表明されていたことが

FASB[ 1 9 9 7 J

にお いて指摘されている

( p a r

.4

0 )

0 このような懸念に対して示された回答が.

FASB  [ 1 9 9 7 J

であったといえるであろう。

FASB 

[ 1 9 9 7 ]

公表以前

FASB 

[1

9 9 7 J

自体の検討に入る前に,まず.

FASB [ 1 9 9 7 J

が公表されるま での状況を概観しておくことにする。かかる作業によって,当初

FASB

が想定 していた貸借対照表と損益計算書との連繋がどのように崩れたのかが明らかに されるものと思われる。

FASB[ 1 9 9 7 J

では,連繋を崩す原因である貸借対照表 の持分の部の独立項目として直接計上される項目としていくつかのものがあげ られている手,本補論ではさしあたり財務会計基準書第115号『特定の負債証券 および持分証券への投資の会計処理j

( F A S B  [ 1 9 9 3 J )

を素材として検討を加え ていくことにする。

71)  FASB [1997Jが公表されるに到る契機が他にも想定しうることは,いうまでもない。

72)  FASB [1997Jでは,特定の資産または負債の変動について貸借対照表の持分の部の独 立項目として直接計上することを規定している基準として,財務会計基準書第12号『特定 の市場性ある有価証券の会計処理

J

.第52号『外貨換算

J .

80号『先物契約に関する会 計処理

J .

87号『事業主の年金会計

J .

第115号『特定の負債証券および持分証券への投 資の会計処理

J

があげられている。ただし,ここで第12号は,第115号によって置き換え

られている。

FASB [ 1 9 9 3 ]

は,有価証券を保有主体の保有目的に応じて,

i

満期保有目的 有価証券

J

(held‑to‑maturity securities), 

i

売買目的有価証券

J

(trading securities) , 

「売却可能有価証券

J

(available‑for‑sale securities)の3つに分類している (p訂 .

6 )。これらのうち本補論との関わりで重要性をもつのは,最後の売却可能有 価証券である。当該有価証券は公正価値で評価され (par.

1 2 )  

,その時価評価差

73) 

額すなわち未実現保有損益は,実現するまで稼得利益には含まれず,所有者持 分の独立項目として計上される

( p a r . 1 3 )

このような所有者持分の独立項目として計上される項目が,連繋を崩すこと になるのである。この点を明らかにするために,売却可能有価証券が公正価値 で評価される前すなわち期首の貸借対照表と,公正価値で評価された後すなわ ち期末の貸借対照表および損益計算書を等式で表せば,次のようになるであろ

期首の貸借対照表:

A=L+E

Q …...・H ・...・H ・..…...・H ・..…(補

1‑1)

期末の貸借対照表

:A'=L+(Eq+e+Ea)'"

H ・‑……・…(補

1 ‑ 2 )

損 益 計 算 書 E x + E ,

=R

...・H ・....・H ・....・H ・...…・(補

1‑3)

ここで,各記号の意味は次のようなものである。

A

期首の資産 A':期末の資産 L 負債

:期首の所有者持分

73)本研究における,稼得利益と純利益の取り扱いについては,第1章注11を参照されたい。

ただし,包括利益と対比される利主主(包括利益の内訳要素である利益)として, FASB  [1997J以前の諸文献においては稼得利益が, FASB [1997Jにおいては純利益が想定さ れているので,本補論でも,便宜上,かかる用語法に従っている。

74)もっとも以下の式は,稼得利益や次節で検討する純利益が,実際に貸借対照表において 表示されていることを意味するものではない。たとえばFASB [1997Jに示されている貸 借対照表のひな型では,純利益は留保利益に含められており,貸借対照表上には現れてい ない。ここでの式は,所有者持分の変動額を示しやすいようにモデル化したものである

(次節においても同様)。

e 売却可能有価証券の時価評価差額を持分の部の独立項目として計 上したもの

E

,稼得利益 E :費用

R

収益

上式の(補

1‑1

)および(補

1‑2)

より,持分の変動は,次のように導き 出される。

(Eq+e+Ea) ‑Eq=e+E

, 

すなわち,持分の変動はe

+E

,となる。これに対して, (補

1‑3)

より,収 益と費用との差額として導き出される利益は,

R‑Ex=E

, 

となり

E

,である。ここで,持分の変動である

e+Ea

と,収益と費用の差額 であるE,との聞に,売却可能有価証券の時価評価差額を持分の部の独立項目

として計上した

e

だけの差異が生じている。すなわち連繋が

e

によって崩され ているのであるO これを式で表せば,次のようになるであろう。

e  +  E

,牛

E a

かかる差異が生じるのは,所有者との資本取引でもなく,利益でもなく,資 本修正でもないような項目が,実現するまで暫定的に持分の部に計上されるた めであるO かかる項目は,連繋を崩す処理を規定する基準が現れる以前には想 定されていなかった。すなわち,所有者との資本取引でないかぎり,純資産の 増加は,資本か利益かのいずれかという区分で済んでいたのであるO そして,

このような持分の独立項目が,今後のデリパテイブ会計などの発展を想定する かぎり増加する一方で、あることが予想されるため 当該項目の増加に対処する ための対策として取り組まれたのが,包括利益の基準化であった。

N  FASB [ 1 9 9 7 J

公表以後

FASB 

[ 1 9 9 7 J

は,一般に認められている会計原則のもとで認識されるが純利 益からは除外される項目を「その他の包括利益」とよび,これまで報告されて

きた稼得利益すなわち純利益に当該項目を加えたものを,

r

包括利益」とよんで いる (par.lO)。ここで,その他の包括利益は,前節で検討した持分の部の独立 項目として計上される項目をさすとされている (par.17)。そして, FASB [1997]  の公表以前に所有者持分の独立項目として計上されていた項目は,

r

その他の包 括利益累積残高

J

とよばれている (p紅.2

6 )

。この持分の部の独立項目として計 上されていた項目の変動を,

r

他の財務諸表と同じ程度に目立つよう表示される 計算書において報告する

J

(par.5)ことが要請されているO かかる報告の方法と して, FASB [1997]では,損益計算書で純利益合計額の下に表示する方法,純 利益で始まる独立した包括利益計算書に表示する方法,および持分変動計算書 に表示する方法があげられている。本補論では,便宜上,純利益で始まる独立

した包括利益計算書に表示する方法を想定して検討を進めることにする。

では,前節でみた連繋の乱れが, FASB [1997]によってどのように変化した のかを,同様の事例を用いて検討していくことにする。売却可能有価証券が公 正価値で評価される前すなわち期首の貸借対照表と,公正価値で評価された後 すなわち期末の貸借対照表と,損益計算書および包括利益計算書を等式で表せ ば,次のようになるであろう。

期首の貸借対照表

:A

L + 

EqHH..… H ・ H ・~. . . . ・.H ・....・H ・...(補

1‑4)

期末の貸借対照表:

A '   =  L  +  ( E

+ム OCI累 +NI)  ...・H ・.. (補

1‑5)

損益計算書 E+NI=R....・H ・....・H ・...・H ・...…(補1‑6) 包括利益計算書 NI

OCI CI...・H ・...・H ・....・H ・...・H ・‑…(補1‑7)  ここで,各記号の意味は次のようなものである。

ムOCI累:その他の包括利益累積残高の当期の変動額 NI:  純利益

OCI:  その他の包括利益

75) その他の包括利益に含まれる項目に関して.I将来の会計基準により,区分の追加や,

現行の区分のなかでの項目の追加が生じうるであろう

J

(par.17)とされている。

76)ただし,本補論ではFASB[1997]を検討の対象としているので,リサイクリングを前 提としている。

C I :  

包括利益

また,その他の包括利益累積残高の当期の変動額は,包括利益計算書に計上 されるその他の包括利益と同値なので,

ムOCI累 =OCI'"・HHH ・....・H ・‑…HH ・‑…………...・H ・...(補1‑8) となる。上式の(補1‑4)および(補1‑5)より,所有者持分の変動は,次 のように導き出される。

(E +ムOCI累 +NI)  ‑ E=ムOCI累十M

すなわち,所有者持分の変動はムOCI累+NIとなる。これに対して包括利益 は, (補l一7)より純利益とその他の包括利益との合計額であり, NI + OCIと 表される。ここで, (補1‑8)に示されているようにムOCI累とOCIとは同値 であるため,所有者持分の変動は包括利益に等しくなる。すなわち,包括利益 の次元で考えるかぎり,連繋は回復されたことになる。これを式で表せば,次 のようになるであろう。

ムOCI累+NI=NI+OCI

では,純利益の次元ではどうであろうか。(補

1‑6)

より,収益と費用との 差額として導き出される純利益は,

R‑E

,=NI 

となり, NIである。所有者持分の変動であるムOCI累 +NIと,収益と費用の 差額であるNIとの聞には,売却可能有価証券の時価評価差額を所有者持分の独 立項目として計上したムOCI累だけの差異が生じているO すなわち,純利益の 次元で考えるかぎり,連繋は,依然としてムOCI累によって崩されているので あるO これを式で表せば,次のようになるであろうO

ムOCI累 +NINI

V  連繋の回復の含意

以上の考察からえられる合意として,以下の

2

点を指摘しうる。まず第

1

に は,包括利益の次元で回復された連繋は,従来の連繋と同等のものとみなしう るのかという点があるO すなわち包括利益が,従来の稼得利益が有していた利

益数値と同等の機能・役割を果たすものでなければ,包括利益の次元での連繋 の回復は,稼得利益について成立していた連繋とは異なるものとなるのではな いかということである。

FASB [1997]では,包括利益の「合計金額は企業の期末の財政状態と当期中 の財務活動のすべての側面の連繋を明示し,それによって財務諸表の理解可能 性を向上させる

J

(par.68)ということが指摘されているO これより.FASB 

[1997]は,包括利益の次元での連繋を想定していたことが窺える。前節で検討 したように,純利益の次元では連繋は回復していないのであるから,崩れた連 繋の回復を目的のlっとしていたFASB [1997]が,包括利益の次元での連繋

を想定していたとしても不思議はない。

しかしながら,公開草案の段階では包括利益の1株あたり数値の表示が要請 されていたにもかかわらず,デュー・プロセスをへることによって,かかる要 請は撤回されることになった (pars.75‑77)ことから推測すると,少なくともコ メント・レターを寄せた利害関係者にとっては,純利益と包括利益とは異なる 意味を有しているものと思われる。すなわち,純利益(稼得利益)が業績指標

としてみなされつづけている一方で,包括利益は業績指標としてはみなされて いないのである。とするならば,包括利益の次元での連繋の回復は,従来の稼 得利益の連繋とは異質なものであるといわざるをえないのではないであろうか。

たしかに従来の稼得利益の連繋においても,包括利益の次元での連繋において も,ともにクリーン・サープラス関係が満たされているといえる。しかしなが ら,従来の稼得利益の連繋では,業績指標としての稼得利益をへていたのに対 し,包括利益の次元での連繋では,業績指標としてみなされてはいない包括利 益をへているにすぎないのであるO 業横指標としてみなされている純利益の次 元では,クリーン・サープラス関係は満たされておらず,損益計算書と貸借対 照表との関係は非連繋のままである。したがって,業績指標という観点からみ るかぎり,従来の稼得利益の連繋と対比されるべきは,包括利益の次元での連 繋ではなく純利益の次元での連繋であり.FASB [1997]による連繋の回復は表

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