〔綜 説〕 (東京女医大誌・第24巻第6号頁203一一207日召禾に129年12月)
小児疾患に対するACTH S Cortisoneの応用
東京女子医科大学小児科教室教授 磯 田
イソ グ仙 三 郎
セン ザブ ロ‘ウ (受付 昭和29年11月20目) 脳下垂体前葉ホルモンと副腎皮質ホルモンの研 究は近来一大進歩を遂げ治療界に目覚ましい貢献 を為しつつある事は一般に知られる通りである。 即ち脳下垂体前葉からば甲状腺刺戟ホルモン thyreotropic hormone,性腺刺戟ホルモン gonadotropic hor皿one及び成長ホルモン growth hormoneが分泌される他に猶,副腎皮 質刺戟ホルモンAdrenocorticotropic hormone が1943年Sayer, White, Longに依て豚の脳下垂 体から分離された,ACTHとはこのものの略称 である。 副腎皮:質はACTHの刺戟を受けるとき主とし て3種のホルモンを分泌される。 第1は糸球層Zona glomerulosaから分泌され ると見倣されるホルモンで水と電解質の代謝に関 与する。即ちHiOと:NaC1の停留とKの排出を促 し細胞外液を増す作用をなすところのMineralo− corticoidでDesoxycortico−sterone,即ちDOC と亡ばれる。、 第2ぱ網状層Zona reticularisから分泌され ると見徹されているもので性に関与するホルモン 即ちTestosterone, Androsteroneである。 第3は束状層Zona fascicu1乱taから分泌される らしいホルモンで糖代謝に関与する処からS一ホ ルモン,91uco・corticoidと呼ばれ化学構造から は17−Hydroxycorticosteroneであって普通 Cortisoneと呼ばれているものが之である。 扱て是等の脳下垂体前葉及び副腎皮質ホルモンの中で特に治療界を驚かしたのはACTHと
Cortisoneとである。それは1949年Hench,KendallがCortisoneを,又次でACTHを関
節リウマチスに使用して其自覚的症状並に他覚的 症状に劇的偉効k奏したと発表した事である。以 来之に相次でリウマチ性疾患に限らす,リウマチ スと同一系統に属する播種性紅斑性狼瘡(Lupus erythematodes disseminatus),皮膚筋:炎 (Dermatomyositis),結節性動脈周囲炎(Peri− arteritis nodosa)等の如き膠原病に試られ更に アレルギー症や種々の.血液疾患,その他の治療困 難な疾患に対して次々に試みられるに至った。而 して次第にその効果や適応症に就て批判され叉, 本剤の生物学的種々なる作用が知られて来た。その結果現在でぱACTHもCortisoneも共に如
何なる疾病に対しても根治的効果を有元ない。唯 対症的には目覚ましい効果を示す適応症のある事 が知られて来た。叉,本剤を用いた時生体に種々 調な生物学的反応が現れて来るのでそれを総括し て見ると次の嗣ぎ項目に分けられる。第1に糖質 整作用で糖熟成を促し糖消費を抑制して肝内のグ リコゲンと血糖を増加させる。第2に:蛋白同化を 抑制して窒素排出を増す。第3に脂肪代謝身促進 する。第4に血管壁の抵抗性を増強するQ第5に 血液中の好酸球と淋巴球の減少をおごし一血小板増 多作用がある。第6に抗アレルギー作用。第7に 抗炎症乃至抗ビアルPニダーゼ作用がある。 而して猶ACTHを余り永続すると副腎の肥大を 来たし,Cortisoneを多量に永続使用すると副腎 の萎縮を起すと云われている。ACTHもCortisoneも近来各科方面で広く試
用され本邦でも求め易くなったので逐次報告例が 増しつつある。今ここに小児疾患に対して応用さ れた:文献の中本剤の奏効する疾患殊にその中の内 科的小児疾患に限ってであるが,主なるものを挙 げて見たいと思う。将来の治療上参考とならば幸 である。1.膠原病に対ナるACTHとCortisone
一208一2. Hench, Kenda11以来幾多の関節リウマチス其 他の膠原病に試みられて居るが小児科方面でもリ ウマチ様関節炎:,スチル氏病,結節性動脈周囲炎:, リウVチ性心臓炎:等に対する報告例が見られる。 例へぱMarieは20例の小児急性リウマチスに本 剤を使用して其日の2例には心雑音その他の心臓 症状を残さすに治ったと云い,Aceto(2)は10歳の リウマチ性全試演Pancarditis rheumat,がAC THで心臓の縮少をもたらしたと。叉Tarau et a1.(3)は16名のりウマチ性心臓炎:にACTH及 Cortisoneを使用レたが中止後再発を来たした。 然しMay G. Wilson(23)et al.は28名小児リウ
マチ性心臓炎にACTHを4∼42日(平均7日)使 用した経験から,発病の早期に治療したものは短 日数で治り,使用量の不充分だつたものが再発し た。棄て初期から此ホルモン療法を施せば心臓障 碍を防響得るかも知れないと述べている。 幼年型リウマチ様関節炎或はスチル氏病に対す るACTHやCortisoneの応用例が上田(5>,藤 井④,淵上(6)氏等から発表された。それ等の成績 は遇しも同様では無V・が上田,淵上氏の例では解 熱,関節痛の解消及び関節淋巴腺腫張の縮少が見 られ猶淵上氏例では貧血の改善,好中性球の増加 と淋巴球,好酸球の減少を見たと云う。 小舞踏病に就ては相反する成績があげられ Schwartzmam1(1953)は従来の成績を綜合して
奏効33%と推定し,且つACTHとCortisone
の併用療法存推賞し,その方法によれば50%奏効 すると云う。 結節性動脈周囲炎に就てDent et al.(1953) は既に2年半を経過している9才児にCortisone を1日1200mgから始めて100 mgに減量し4日 目に50mg,翌月再び100mgに増量して全量3gを 55日間与え(同時にビタミンC併用)既存の関節 痛,筋痛及結節や熱の解消を見た。且,摘出して 喜べた結節ぱ治癒してv・たと云う。叉Simpson(9)et a1は15才の本患児にACTHを15mg宛1日
4回,3週間,次で15mg宛1日2回を3ケ月聞, 次で15mg 1日1回1週間与えて治療直後から皮 膚出血皮下結節の消失と自覚症状の好転及び体重 増加を見た。 以上の如く膠原病に対する対症的効果ぱ顕著な るものがある様だ。然し治療を中止すれば早晩再 発をまぬがれぬ様である。2.気管枝喘息に対するACTHとCortisone
種kのアレルギP一性疾患に対して影響を及ぼす 事は定評があるがその作用機序に曾ては未だ判然 せす種:k・の説明が為されている。Thornに依れ ば副腎のステロイド化合物ぱ抗元抗体反応に続く アレルギー性反応に好影響を与えるものでヒスタ ミンの形成を抑制し,且つその破かいを促進させ るものだと云う。Selyeは抗体産生に対して阻止 的に働くのだと云う。Weinmannは叉一方には 抗体産生を抑制し他方にぱ一血管壁を密にして分泌 の抑制的作用をなすのだと云う。Simpsonも亦 抗体の新生を減少さぜると云う。 気管枝喘息はアレルギー症の部類には相違ない がどの気管枝喘息も悉くが単なるアレルギーとぱ 解し難く抗元抗休反応と共に素質やホルモンの不 全機能が関一与してv・るとの考えもある。ZOIIner u.Fuchsは喘息者に於てK:orticoidの尿中排 出が小:量なる事を認め喘息者に於ては多量の Korticoidが消費される為でぱなv・かと推測し た。.z様な点からもCortisoneを喘息に試用す るのも理の存する処である。 気管枝喘息にCortisoneを使用したのは1950 年にRandolph&Rollins(10)がある。成人の喘 息、に対して24∼36時間内にCortisone 300mg筋 注しビタミンCも併用して急速の発作寛解を認め Carryer(11)は枯草熱を合併した気管枝喘息3例に 使用してその使用中及びその無しばらくの闇症状の劇的寛解を見た。叉Haward, Harvey, Carey &Winkenwerder(エ2)は同年1τACTHが気管枝 喘息に有効なる事を認め而もCortisone ・よIJ優 秀であると報じた。 翌1951年『にScbwartzご13)ばCortisone acetate を経ロ的に与え,これまた癸作解消に著効のあっ た事を報じている。 然しJohnsson&Skanse(14)が1952年に発表 した成績によると20mg ACTH:注射して好酸球 が50%以下に減少した気管枝喘息患者は10名の申 5名to bこの事から喘息者の副腎皮質機能の減退 者があるとの結論を得た。又治療効果に就てば 重症7例にACTH:1日量20∼40mg 3日以上使用 して著効は3例,幾分有効のもの3例で1例は Cortisoneだけに反応したと云う。叉他の1例に Cortisoneで悪化したものがあったと報じてい る。 一204一
小児喘息2例を報告している。それによると喘息 発作の急速な寛解に伴ってラ音の消:失,好酸球の 減少,淋巴球の比較的減少,血清蛋白分二値の正 常化,全身状態の好転と食慾増進等を来たしたと
述べている。
KUhne, Schmidt, Kania(16)がCortisone治療 後の経過を長く観察した15例に就て記載している が 6週以内の発作再発……9例,24時間の発作再発 ……Q例,3ケ月間発作なぎもの……4例,6ケ月経 過後も発作なぎもの……2例 で結局効果、は一時的の発作寛解である。
3.血液疾患に対するACTHとCortisone
Dougherty, White以来ACTHやColtisone
に依て末梢血の淋巴球と好酸球減少の起る事が知 られ台岳若者では淋巴球減少の他に淋巴腺及脾臓 の縮少も起る事が知られ,之に依て面一血器と此等 のホルモンとの聞に密接な関係のある事が示唆さ れ爾来,治療困難な幾多の一血液疾患に本剤が試み られるに至った。 a)貧血症に対してはHansen(17)の集録に依る と種々の溶血性貧血に有効である。例えば胎生性 赤芽球症,鎌形貧1血,後天性溶血性貧血等に有効 であってLetman(18)の28例の後天性溶血性貧血 の経験では赤血球増加と共に赤血球の抵抗増進が 常に見られ,而も投薬中止後4ケ月乃至9ケ月経過 しても再発を見なかったと云う。然し一般には一 時的改善に過ぎないと云われてV・る。 再生不良性貧血に対してはACTHを有効とナ る者(Kass&Sundall(19);Flsher(20)&Allen 等)と無効とする者(Hansen(17)其他)とがある。 顯粒球消失症(Agranulocytosis)で本剤の奏 効するものは凡て薬物使用に依て起つたもめに対 してであって特発性或は原発性のものには無効と 見られている。 b) 白」血病に対しては使用量にもよるが其他病 型によって反応が異なるらしく一般に小児では急 性白.血病に著効を奏し,臨床的にも1血液学的にも 可成りの改善が見られ,Gasser(21)に依るとCo− rtisoneで骨髄の正常化迄に至ったものがあると 云う。又Vetne(22)(1953)は急,性白」血病に随伴 する貧血や血.小板減少IC迄も屡・々好影響を及ぼし たと云う。使用量は米国では多量を使用されその の抗白血病薬剤冴併用すると更によい効果慶期待 し得ると云うQ然し再発が起って療法を繰り返す 中についに無効となるのが通例の様である。 慢性白血病は小児に’ぱ勘く主に年長児に見られ るがKeibl(24)に依れば淋巴性でも骨髄性でも慢 性白1血病にはCortisoneは好影響を及ぼさす, のみならすCortisoneは禁忌とさえ去ってv・る。C)紫斑病に対するACTHとCortisone
血小板非減少性紫斑病即ち血管性紫斑病,過敏 症性紫斑病,リウマチ性紫斑病又はSch 6nlein− Henoch氏紫斑病の病名で呼ばれて居る紫斑病}c 対しては可成り多くの治験報告が見えているQKreidberg (1951)(25), Wooley (1952)(26), Lever (27)(1952年),Stefanini(28)(1952年目, Hansen(17) (1953年),Hennemann(29)(1953年),三崎(30) (1953年),津田(31)(1953年,長谷川(32)(1954年), 吹野(33)(1954年),岸田(34)(1954年)等の報告例存 見るとCortisoneの使用:量,使用期間等は各例 異るけれども使用後問もなくから症状が好転し始 めて関節痛,疵痛が軽減し糞便の血液も紫斑も次 第に消失して居るのでその効果を賞讃して居る事 は膠原病やアレルギ・一丁に対すると同様である。 血小板減少性紫斑病に対してはWilliam(35) (1951年),Robson(33)(1952年), Jacobson(37) (1952年), Paloon a. Lozner(38)(1953年), Gasser u Anders(39)(1953年),岸田(34)(1954ご年), 羽口(40)他等の報告があるがACTH叉はCorti− soneによって血小板数の増加,出一門下問の短縮 及び毛細血管の抵抗力増進を認められている。然 し効果は他の疾患の揚合と同様に一時的で根治す る訳には行かないとStefanini・やPaloon u Loznerは述べているQ 毛細血管の抵抗力に対する『ACTHとCorti− soneの効力をRobson u Duthie(41)が比較し た成績によると200mg Cortisone・Acetateの皮下
注射は25mgのACTHよりも効力弱く又経ロ
投与の方が効果的で大概の二合に100mgでf時間 以内には毛細一血管抵抗が高まると云う。4.ネフローゼに対するACTH及Cortisone
ネフローゼ症候群にACTHを使.用した報告ぱ Barn∋tt(42), RapopDrt(19:0)を始めとして Kurtz2mann(43)(1953), Fanconi(44)(1953),Mei−dinger et Kurtzemann(45), Arneil et Wilson
4 (46)(1953)等のものがあり,本邦でも高木(47) (1952),館(48)(1952),桜井(49)(1953),満田(50) (1953),松永(51)(1952),向井(52)(1952)め諸氏等 があるがそれ等の成績を通覧すると速かに利尿の 促進と浮腫の消失が見られ,血液蛋白像の正常化 遊来す。然し尿の変化は依然として好転せず治療 ?中止して後は早晩再発を来たし第二巡のACT H使用によって再び症状は二子するが第三巡第 四巡と治療存繰り返すうちに利尿の効果が無くな る揚合が多く永久治癒には至らなV・。 ACTHの静注法を試みた、Gordon, Mande1, Sayer, Edin,満田(50)の諸氏によると小量にして 筋注と同様の効果を示し,Gordon lcよると12時 間点滴静注の場合筋注の1/20で足ると云う。 Ameil etWilson(45)はネフローゼ症候群に対
するACTHとCortisoneとの比較を述べてい
るが利尿効果はACTHの時速におこるがCor−
tisoneでは中止後始めておこる。然しACTH よりも副作用が僅少であり且つ経口的に与えられ るからよいとしてCostisone左推賞している。 但しCortisoneの大:量長期投与は副腎皮質の萎 縮をおこし17・Ketosteroidの尿中排出減少をお こすと述べている。 以上の他にも種々の小児疾患に対して試みられ ているが要するに本剤は対症的効果で根治療法と しての価値は無V・。 使用法について ACTHぱ副腎皮質?活動させる凹むなすので あるからその使用は副腎皮質機能の正常なものに 限るので,副腎皮質機能不全なるものに使用して mp無意味である。ACTHはCortisoneよりも迅速に効果?現わ
す代りに叉迅速に消失する。従てACTHは6∼
8時間毎に筋注し症状の軽決た干て間隔?延ば し,成る訂く迅に減量すべきで1∼2週間以内に24 時闇間隔とし最小維持量を定めるべぎであるQ筋 注の他に点滴静注法も推賞される。それば筋注の 二合その局所の筋肉内で酵素によって不活性にさ れる事がC.H. Liよにつて知られたのでMandel eta1.が静注を唱え筋注の1/10∼1/20の小量投 与で好結果穿得允と云う。Gordonの測定によっ ても筋注の1/20で足ると云う。Mandelはネフロ ーゼに5∼10 mg(1日量)を5%葡萄糖(O・2 % KCI含有)の1∼2立に溶解して之を20時間に点滴 静注叉は鼠子500ccを8∼12時間に静注し元が1日 量2.5∼5mgで有効で量が過ぼると顔面の潮紅, 胸部緊張感,腹部膨満感を訴えると云う。満田氏 (50)はネフローゼの10才児に1日10mg,2才児に 1日5mg,40%葡萄糖に溶かし6時間毎に分注して 副作用もなく利尿作用と浮腫の消失を見た。 Cortisoneは筋注では作用発現が緩慢で持続時 問が長いから1日1回で足りる(Fanconi),経口 投与の方が筋注よりも好酸球反応が早く且つ顕著 に現れる。その代りに作用時間が短い,従て副作 用が少いと云うので経口投与が推賞されて来た。 故にCortisoneの内服は3∼4時間間隔とする。斯様にACTHとCortisoneは作用速度が異る
から急性症にして急を要する知合や重篤で迅速の 効果?必要とする場合にはACTHを用い,然ら ざる揚合で長期投与には最初からCortisoneの 内服を選ぶか又はACTHに次で速にCortisone に移る方法をとるべきが一般の使用法である。 長期多量の使用は副腎皮質に悪影響?及ぼし, ACTHの場合は副腎皮質の肥大穿起し, Corti− soneの揚合ぱ副腎機能を抑制して萎縮存招く恐 れがあると云われる。 使用量は年令即ち体重に従って減量すべきであ るが其他疾病の種類その軽重の程度,函嶺の特質 等によって可成ゆの相違があって一定する事は出 来ないがFanconiの記載によると治療効果を現 す為めには小児ではACTH 26∼ユ00mg(1日:量), Cortisone 50∼200皿g(1日:量)としてあるQ 使用期間も同様に千差万別である。 副作用 使用:量が過直れば水i分とNa, CIの如 き塩類の貯留冷おこしKの欠損と窒素の排出を促 進ナる6猶過血糖,糖尿,血圧上昇,満月顔貌・ 一過性精神病等存おこす。 叉此のホルモンには炎症作用に対する抑制作用 がある為め感染症が不知不識の間に進行する危険 がある。故に是等の副作用を防止する為には此療 法と同時に減塩食を摂らせKC1の補給(1HO・5 ∼3g),ビタミンC補給,時には抗生物質を併用 する事が必要である。 本療法の禁忌は,高皿圧症,糖尿病,糸球体腎 =炎である。 文 献1. Fanconi : Lehrbuch der Paediatrie, 1954. 2. Aceto:Clini. Pediatr. 35, 357N361, 1953.
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