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頭部外傷後に中枢性塩類喪失症候群を呈したと考えられる3 症例

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Academic year: 2021

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はじめに

 中枢性塩類喪失症候群(cerebral salt wasting syn-drome)は,頭部外傷やくも膜下出血後に尿中 Na 排泄 の亢進による低 Na 血症を来す疾患群である.  今回,それぞれ異なる主訴と受診経緯で来院した が,外傷歴,検査所見より中枢性塩類喪失症候群と診 断しえた 3 症例を経験したため報告する.

症例報告

 症例 1:86 歳,女性  主訴:意識障害(進行性の水頭症精査)  既往歴:胆囊摘出術  現病歴:X-1 月中旬に転倒し,近医で経過観察して いた.X-1 月下旬から進行する物忘れと脳室拡大のた め紹介医へ入院し,精査目的で X 月 4 日に当院へ転院 した.  一般身体所見:BT 35.9°C, PR 80 bpm・整,BP 170 ~180/80 mmHg, RR 20/分.前頭部,下顎に多数の皮下 出血あり.項部硬直なし.  神経学的所見:JCS I-2~3, GCS E2V2M4,発語はあ るが会話は成り立たず(日付を質問すると名前を回 答).瞳孔異常や麻痺,感覚障害なし.

 血液検査(Table 1, Fig 1A):低 Na 血症,低尿酸血症 あり.血清浸透圧は低値で,血清浸透圧に比して尿浸 透圧は高値.血清 ADH は低値だが測定感度以上.意 識障害を来す感染症,腫瘍性病変,ビタミン欠乏 なし.  髄液検査:血性髄液(検査中の安静が困難なため traumatic tapの可能性あり)  腹部エコー:下大静脈径 6~11 mm  頭部 CT(Fig 1B):脳室拡大,左硬膜下水腫あり  入院後経過(Fig 1A):病歴,検査所見から硬膜下血 腫に伴う閉塞性水頭症と中枢性塩類喪失症候群による 低 Na 血症と診断し,Na 補充と脱水補正を行った.

頭部外傷後に中枢性塩類喪失症候群を

呈したと考えられる 3 症例

山田 英忠

,向井 智哉,棚橋 梨奈,荒木 睦子,仲  博満,時信  弘

要  旨  【はじめに】中枢性塩類喪失症候群は頭部外傷やくも膜下出血後に低 Na 血症と脱水を来す疾患群である.今 回,それぞれ異なる主訴と受診経緯で来院した 3 症例を経験したため報告する.【症例】症例 1, 2 は意識障害と 水頭症精査のために受診した 86 歳女性,83 歳男性である.いずれも低 Na 血症,低尿酸血症,外傷後の閉塞 性水頭症を認めた.症例 3 はめまい,嘔気にて受診した 51 歳女性である.低 Na 血症,低尿酸血症を認めた. 外傷歴,検査所見よりいずれも中枢性塩類喪失症候群と診断した.【考察】中枢性塩類喪失症候群の機序は不明 な点が多いが,Na 利尿ペプチドによる近位尿細管での Na,尿酸,水の再吸収抑制との関連が指摘されてい る.循環血漿量減少にもかかわらず,低尿酸血症を認めることが特徴的である.【結語】頭部外傷後に進行する 低 Na 血症では本疾患を積極的に疑い,低尿酸血症の確認,低 Na 血症,脱水の補正が必要である. (脳循環代謝 30:83~87,2018) キーワード : 中枢性塩類喪失症候群,頭部外傷,Na 利尿ペプチド 受付日:2018 年 2 月 28 日,受理日:2018 年 5 月 14 日 県立広島病院脳神経内科 *〒 734-8530 広島県広島市南区宇品神田 1 丁目 5-44  TEL: 082-254-1818 FAX: 082-253-8274  E-mail: hiyamadahi@gmail.com  doi: 10.16977/cbfm.30.1_83

(2)

A

B

Fig. 1.症例 1 A:入院後経過 B: 頭部 CT(X 月 6 日)左前頭部に硬膜下水腫を認める.(X 月 10 日)脳室拡大の進行を認める. (X+2 月 7 日)脳室拡大は改善している. Table 1.3 例の臨床的特徴 症例 1 症例 2 症例 3 年齢(歳) 86 83 51 性別 女性 男性 女性 主訴/外傷 転倒後の意識障害,水頭症増悪 交通外傷後のめまい,嘔気 頭蓋内病変 外傷性硬膜下血腫,水頭症 外傷性くも膜下出血 受傷時期 約 2 週間前? 5日前 2日前 Na補充期間 約 2 カ月 約 10 日 $2カ月 最大 Na 補充量(mEq/day) 345.6 195 311 検査所見  血清/尿中 Na(mEq/l) 122/94 125/― 118/48  血清尿酸値(mg/dl) 1.5 3.4 1.3  NT-proBNP(pg/ml) 170 1184 ―  ADH(pg/ml) 7.1 ― 1.1  血清/尿浸透圧(mOsm/l) 255/397 ―/― 261/434  髄液所見 血性髄液 ―  腹部エコー:下大静脈径(mm) 6-11 ― 6-10 その他:今回の入院理由 水頭症増悪のため精査入院 外傷治療後に自宅退院 その後,上記主訴で受診

(3)

以降も脳室拡大は進行したが,家族希望にて対症療法 を行い紹介医へ転院した.転院後,意識障害,低 Na 血症,脳室拡大は緩徐に改善し,グループホームへ退 院した.Day 60 の血液検査では低尿酸血症も改善して いた.  症例 2:83 歳,男性  主訴:意識障害,頭痛  既往歴:心房細動,脳梗塞,閉塞性動脈硬化症,変 形性腰椎症,認知症  現病歴:X-1 月 28 日に自宅内で転倒し,近医で経 過観察していた.X 月 1 日に頭痛で当院を受診し,頭 部 CT,血液検査を行い経過観察した.X 月 3 日に頭 痛,不穏様の意識障害で再度受診した際に,血清 Na 125 mEq/l(X 月 1 日 138 mEq/l)と低下を認め,近医で 補液を行った.X 月 11 日に意識障害増悪と脳室拡大 に対して精査入院した.  一般身体所見(X 月 3 日):BT 37.0°C, PR 69 bpm・ 整,BP 198/103 mmHg, RR 18/分,SPO2 100%(RA). 経口摂取は可能.舌の乾燥やツルゴール低下なし.項 部硬直なし.  神経学的所見:意識は軽度不穏様.瞳孔異常や麻 痺,感覚障害なし.

 血液検査(Table 1, Fig 2A):低 Na 血症,低尿酸血症 を認めたが,入院時はすでに低 Na 血症は改善してお り,血清浸透圧,尿浸透圧,ADH は評価せず.  髄液検査:淡血性髄液

 頭部 CT/MRI(Fig 2B):脳室拡大と右前頭部に少量 の硬膜下血腫あり

 入院後経過(Fig 2A,X 月 1 日を day 1 として記載): 外来での補充にて低 Na 血症は改善していたが,外傷 後の経過から中枢性塩類喪失症候群の関与を疑った. 頭痛と水頭症進行については,症例 1 と同様に硬膜下 血腫に伴う閉塞性水頭症と診断し,保存的加療で一時

A

B

C

Fig. 2.症例 2 A:入院後経過 B: 頭部 CT(X 月 1 日)脳室拡大を認めない.(X 月 11 日)脳室拡大を認める.頭部 MRI(X 月 11 日) 右前頭部に硬膜下血腫を認める. C:髄液の肉眼所見.淡血性髄液を認める.

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的に改善を認めたが,尿路感染症のため day 36 に死亡 した.  症例 3:51 歳,女性  主訴:めまい,嘔気,倦怠感  既往歴:多発外傷(現病歴参照)  現病歴:X-1 月 5 日に多発外傷(交通事故)のため入 院し,外傷性くも膜下出血,外傷性顔面神経麻痺,左 鎖骨骨折,肋骨骨折,脾損傷に対して加療した.X-1 月 8 日より低 Na 血症(133 mEq/l)を認め,Na 補充と 補液にて改善し,X-1 月 29 日に退院した.退院後も めまい,嘔気,倦怠感が残存し,X 月 15 日に救急受 診し,精査加療目的で入院した.  一般身体所見:BT 36.0°C, PR 80 bpm・整,BP 163/85 mmHg, RR 16/分.舌の乾燥やツルゴール低下なし.項 部硬直なし.  神経学的所見:倦怠的だが意識清明.瞳孔異常や麻 痺,感覚障害なし.  血液検査(Table 1):低 Na 血症,低尿酸血症あり. 血清浸透圧は低値であり,血清浸透圧に比して尿浸透 圧は高値.血清 ADH は低値だが測定感度以上.  腹部エコー:下大静脈径 6~10 mm  入院後経過:受傷から 1 カ月以上経過しているが, 中枢性塩類喪失症候群の遷延と判断し Na 補充,脱水 補正を行った.低 Na 血症改善に伴い倦怠感は改善し たが,補液中止後も再度 Na 低下と倦怠感増悪を認 め,X+1 月の時点でも近医で Na 補充が必要な状態で ある.

考  察

 上記 3 例はそれぞれ,症例 1, 2:原因不明の意識障 害と水頭症の精査,症例 3:外傷後に遷延するめまい と嘔気にて受診したが,いずれも病歴(外傷歴)と検査 所見(循環血漿量減少所見)から中枢性塩類喪失症候群 の関与が判明した.  中枢性塩類喪失症候群は頭蓋内疾患を原因とし,腎 からの Na 漏出により低 Na 血症,脱水を来す疾患で あり,1950 年に Peters らにより報告された1).頭部外 傷後の 0.8~34.6%程度に認め2),発症時期は外傷後 1 週間以内~2 週間程度が多いが3),2 週間~2 カ月の間 に増悪する例もあり4),症例 3 の経過とも矛盾しない.  Na 漏出の機序は不明な点が多いが,頭部外傷に伴 う脳損傷により Na 利尿ペプチドが上昇し,近位尿細 管での Na,尿酸,水の再吸収が抑制され Na 漏出を来 す説が支持されている5).Na 利尿ペプチド(心房性 Na

利尿ペプチド,atrial natriuretic peptide: ANP や脳性 Na

利尿ペプチド,brain natriuretic peptide: BNP)上昇の理 由として,頭蓋内圧の上昇に対して視床下部から ANP や BNP の放出が亢進する機序6),くも膜下出血などに よる局所の脳浮腫との関連5),その他,くも膜下出血 急性期の心筋ダメージや,交感神経活動の上昇による 静脈還流量増加が ANP に影響している可能性7)などが 指摘されている. また,脳損傷に伴う下垂体からの成 長ホルモン(growth hormone: GH)分泌低下によりレニ ン-アンジオテンシン系が抑制され,Na 漏出を来す機 序も考えられている8)

結  語

 今回の 3 例は,いずれも脱水状態だったが血清尿酸 値は低値だった.通常の循環血漿量減少状態では血清 尿酸値上昇が予想されるため,Na 利尿ペプチドによ る尿酸再吸収抑制の関与が支持される所見である.と くに,意識障害が改善し Na 補充も不要となった症例 1では血清尿酸値(day 60)も改善しており,病勢との 関連も疑われる.Na 利尿ペプチド(ANP/BNP)の血中 濃度については,今回十分な検討が行えておらず,尿 酸値と併せて今後の検討が必要である.  本論文の発表に関して,開示すべき COI はない. 文  献

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1922–1928, 2009

8) Papadimitriou DT, Spiteri A, Pagnier A, Bayle M, Mischalowski MB, Bourdat G, Passagia JG, Plantaz D, Bost M, Garnier PE: Mineralocorticoid deficiency in post-operative cerebral salt wasting. J Pediatr Endocrinol Metab 20: 1145–1150, 2007

Abstract

Three cases of cerebral salt wasting syndrome after head injury

Hidetada Yamada, Tomoya Mukai, Rina Tanahashi, Mutsuko Araki, Hiromitsu Naka,

and Hiroshi Tokinobu

Department of Neurology, Hiroshima Prefectural Hospital, Hiroshima, Japan

Cerebral salt wasting syndrome (CSWS) is a group of diseases that causes hyponatremia and

dehydration following conditions including head trauma and subarachnoid hemorrhage. We experienced

three cases with different chief complaints and consultation processes. An 86-year-old woman (Case 1)

and an 83-year-old man (Case 2) were consulted for consciousness disturbance and hydrocephalus. Both

cases had hyponatremia, hypouricemia, and obstructive hydrocephalus after trauma. A 51-year-old

woman (Case 3) visited with dizziness and nausea. She had hyponatremia and hypouricemia after

trauma. We diagnosed them with CSWS because of trauma history and examination findings. Although

the mechanism of CSWS is unknown, it is pointed out to be related to suppression of reabsorption of

sodium, uric acid and water in the proximal renal tubule by the natriuretic peptide. In cases with

hyponatremia which progresses after head injury, we need to verify if hypouricemia is present so that

CSWS is to be diagnosed, and if so, hyponatremia and dehydration should be corrected.

参照

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