博士論文審査結果の要旨
学位申請者
中 河 秀 生
主論文 1 編Androgen suppresses testicular cancer cell growth in vitro and in vivo. Oncotarget 7; 35224-35232, 2016
審 査 結 果 の 要 旨
アンドロゲンはアンドロゲン受容体(AR)を介して多くの組織で種々の生物学的な作用を発揮する. アンドロゲン/AR シグナルは男性生殖器の発達や維持に重要な役割を果たし,その機能破綻が様々 な臓器における疾患の原因となることが報告されている.一方,疫学的な報告から,精巣腫瘍の一 組織型であるセミノーマ(SE)発生とアンドロゲン/AR シグナルとの関連性が示唆されているが,これ までその関連性を分子生物学的解析により証明した報告はない. 申請者は,精巣腫瘍細胞増殖に対するアンドロゲン/AR シグナルの効果を検証し,その分子メカ ニズムの解明を試みた.まず,SE 細胞株(TCam-2 細胞)でノンセミノーマ細胞株(NEC8,NEC14,NCCIT 細胞)に比べて AR の発現が mRNA レベル,蛋白レベルで高いことを示し,AR は TCam-2 細胞にお いて何らかの機能を果たしていると考えた.次に,TCam-2 細胞に DHT を投与すると細胞増殖が抑制されること,TCam-2 細胞皮下移植マウス において去勢(アンドロゲン除去)が腫瘍増殖を促進することを示し,アンドロゲン/AR シグナルが TCam-2 細胞の増殖を負に制御することを解明した.
さらにそのメカニズムの解明を目的に,SE 患者から摘出した精巣の腫瘍組織と正常組織から採取 した RNA と,DHT 添加・非添加の TCam-2 細胞から採取した RNA を用いてマイクロアレイ解析を 行った.その結果,腫瘍組織で 2 倍以上に発現が亢進,かつ DHT を添加した TCam-2 細胞で 2 倍以 下に発現が低下していた 19 個の遺伝子のうち,セロトニン代謝に関与する TPH1 という遺伝子に着 目した.DHT による TPH1 発現抑制効果が,AR ノックダウンにて消失したことから,アンドロゲ ン/AR シグナルの抑制を介した TPH1 の発現亢進が SE 細胞の増殖に関与することが示唆された. 次に,TPH1 ノックダウンや DHT 投与で,TCam-2 細胞からのセロトニン分泌が抑制されたこと から,SE 細胞の増殖に TPH1 はセロトニン合成酵素として機能していると考え,セロトニンシグナ ルについて解析した.TPH1 ノックダウンや DHT 投与で TCam-2 細胞におけるセロトニン受容体 (5-HT)の発現が抑制されること, DHT あるいは 5-HT 阻害剤投与で TCam-2 細胞におけるセロトニ ンシグナル下流の TH 遺伝子及び c-fos 遺伝子の発現が抑制されることが判明し,アンドロゲン/AR シグナルの活性化が SE 細胞におけるセロトニンシグナルを抑制することを解明した. これらの結果からアンドロゲン/AR シグナル及びセロトニンシグナルが SE の治療標的となる可能 性が示唆された. 以上が本論文の要旨であるが,アンドロゲン/AR シグナルが SE 細胞の増殖を負に制御することを 示した点,また,アンドロゲンが TPH1 を含むセロトニンシグナルの抑制を介して細胞増殖を抑制 するメカニズムの一端を明らかにした点で,医学上価値ある研究と認める. 平成 28 年 9 月 15 日 審査委員 教授