電磁界シミュレータ利用の勘所
——
境界条件と励振モデル
——
平野
拓一
†a)Tips about Using Electromagnetic Simulators ——Boundary Condition and
Excitation Modeling——
Takuichi HIRANO
†a)あらまし 本論文では電磁界シミュレータを適切に使いこなすための基礎知識を整理して説明する.必要な基 礎知識として,時間領域/周波数領域の分類,周波数領域解析における励振問題/非励振問題(導波路,共振器) の分類,励振問題における波源モデルの種類(集中ポート/導波路ポート/平面波入射)について説明する.シ ミュレーションのモデル化において,境界条件と励振モデルが特に重要である.例として円形パッチアンテナの 解析を例にモデル化の要点について説明する.また,他の各種解析に対する参考文献を紹介する. キーワード 電磁界解析,シミュレーション,モデル化,境界条件,励振,波源モデル
1.
ま え が き
ハードウェアの発展とともに力学,熱,流体,回路, 音波,電磁界,物性,量子論などの各分野でシミュレー ション技術が発達している.電磁界シミュレータも実 用的になり,教育,研究,製品開発などに幅広く使わ れるようになった[1]∼[3].電磁界シミュレータは広く 普及したが,まだ多くの専門知識と熟練技術が必要な のが現状である.その理由として,シミュレーション では現実の構造をシミュレータ内部でどう表現するか という「モデル化(あるいはモデリング)」が重要で ある[4]が,モデル化に多くの自由度があることが大 きいと考えらえる.現実のモデルをシミュレータでモ デル化する際には有限な空間で打ち切って表現しなけ ればならない.そのためには境界条件と励振モデルを いかに適切に設定できるかが重要である.本論文では, 境界条件と励振モデルのモデル化に絞って,電磁界シ ミュレータを適切に使うための勘所について説明する. 2.ではシミュレーションの前準備として,電磁界シ ミュレータの目的と解析の種類及び励振/非励振問題の 種類について説明する.3.では電磁界シミュレーショ †東京都市大学知識工学部情報通信工学科,東京都Department of Information and Communication Engineer-ing, Faculty of Knowledge EngineerEngineer-ing, Tokyo City Univer-sity, 1–28–1 Tamazutsumi, Setagaya-ku, Tokyo, 158–8557 Japan a) E-mail: [email protected] ンの流れについて説明する.4.では円形パッチアンテ ナの解析例を取り上げてモデル化の注意点について説 明する.5.では他のモデルの電磁界シミュレーション の例について文献を紹介する.
2.
シミュレーションの前準備
2. 1 マクスウェルの方程式の数値計算 電磁界シミュレータの目的はマクスウェルの方程式 を数値的に解くことである.マクスウェルの方程式は 図1に示すように,ファラデーの法則と(変位電流が 導入されて拡張された)アンペアの法則から成り,電 界Eと磁界Hの連立方程式になっている.E, H及 び電流密度iは空間座標(x, y, z)及び時間tの4変数 の関数となっているが,時間変化は角周波数ωで調和 図 1 時間領域と周波数領域のマクスウェルの方程式 Fig. 1 Maxwell’s equation in time and frequency図 2 マクスウェルの方程式に対する時間変化項の近似 Fig. 2 Approximation of time dependence in Maxwell’s
equation.
振動をしていると仮定すると,時間変化項はexp(jωt)
で表され(フーリエ変換では∂/∂t = jω),電気回路の 交流回路の解析と同様に周波数領域の解析となる.時 間領域の解析法にはFDTD (Finite Difference Time Domain)法[5],TLM (Transmission Line Matrix)
法[5],FIT (Finite Integration Technique)法などが ある.周波数領域の解析法にはモーメント法(MoM; Method of Moments) [6]や有限要素法(FEM; Finite Element Method) [7]などがある. また,図2に示すように,時間変化の度合いに応じ て幾つかの近似がある.時間変化が非常にゆっくりで, 時間変化項が0であると近似(∂/∂t = 0)できるとき, ファラデーの法則とアンペアの法則はそれぞれ切り離 されて独立になり,静電界/静磁界の問題となる.時 間変化はゆっくりであるが,透磁率μの大きな媒質が 使われていて逆起電力の項が無視できない場合には準 静磁界となる.準静磁界はコイルやモータなどの解析 に使われる.時間変化はゆっくりであるが,誘電率ε の大きな媒質が使われていて変位電流の項が無視でき ない場合には準静電界となる.準静電界はキャパシタ や強誘電体などの解析に使われる.これら三つの近似 を用いると数値計算の負荷は軽減されるので,それら に特化した電磁界シミュレータも存在し,目的に応じ た近似を選ぶ必要がある. 2. 2 励振/非励振問題の種類(励振問題/導波路 モード解析/共振器モード解析) 電磁界シミュレーションをする前に,更に必要な知 識として,図3に励振/非励振問題の種類について留 意する必要がある.波源がある励振問題(E, Hにつ いて方程式を解く問題となり,解は一意に決定される) 図 3 励振/非励振問題の種類(励振問題/導波路モード解 析/共振器モード解析)
Fig. 3 Types of excitation/non-excitation problems (excitation problem/waveguide mode analy-sis/resonator mode analysis).
を解くのか,または波源がない共振モードの解析(固 有値問題となる)を解くのか,解析の種類を選ぶ必要 がある.一般的には励振問題を扱う場合が多いが,ど ちらの解析もサポートしているシミュレータもある. 図3では説明の都合上,マクスウェルの方程式のE, HからHを消去したEに対するヘルムホルツの波 動方程式から説明している.図3 (a)の励振問題は励 振波源を与えて,空間の電磁界分布を求める問題であ る.図3 (b), (c)は波源がない場合の解析であり,数値 計算では行列の固有値問題に帰着される.図3 (b)の 導波路解析は,同軸線路,導波管,マイクロストリッ プ線路などの進行方向に沿って一様な構造の導波路の モード解析を行うものである.図3 (c)の問題は共振 器の共振モードの解析を行うものである. 図3 (a)の励振問題で用いる励振波源のモデルとし ては,図4に示すような電圧源,電流源などの集中 定数素子の電源としての集中ポート(図4 (a)),同軸 線路,導波管,マイクロストリップ線路などの導波路 モードを直接入力する導波路ポート(図4 (b)),散乱 断面積(RCS; Radar Cross Section)などを計算する 場合に用いられる平面波入射(図4 (c))などが用いら れる. 解析空間の電力の入出力部はポートと呼ばれる. 図4 (a)の集中ポートは波長に比して小さいという近 似が成り立ち,電位差を定義する経路ΓV に沿った 電界の接線線積分からV0 = − ΓV E · dlで電圧が 計算できる.電流を知りたい線路が貫く任意の面を
図 4 図 3 (a) の問題の励振方法(集中ポート/導波路ポー ト/平面波入射)
Fig. 4 Types of excitation for problems in Fig. 3 (a) (lumped port/waveguide port/plane wave in-cidence). 考え,その面の周囲経路CIに沿った接線線積分から I0= CIH·dlで電流が計算できる.Z0= V0/I0は集 中ポートの内部インピーダンスであり,解析に先立っ て設定する.Z0はSパラメータ計算の際の基準イン ピーダンスとなる.集中ポートは電圧を印加する電圧 源または電流を印加する電流源と考えることができる. 集中ポートはチップ部品やICなどのポートによく用 いられる.また,アンテナ励振部を簡略化して給電線 をモデル化しない場合にも用いられる(4.参照). 図4 (b)の導波路モードを直接入力する導波路ポー トの解析の際には,図3 (b)の線路のモード解析を事 前に行い,その結果を線路端部からの励振波源として 用いる.導波路モードの特性として,図3 (b)の解析 からモードの伝搬定数及び電磁界分布が求まる.伝 搬モードとカットオフモードを含め,一般には無数の モードが存在するが,通常の導波路は単一モードで用 いるので,多くの場合は一つの主モードのみ考慮する. 解析空間内にポートを複数設定した場合には,ポート 数の次元のS行列が得られる.S行列とZ行列(Y行 列)は基準インピーダンスを決めれば変換することが できる.ただし,線路の損失が非常に大きいときは, 基準インピーダンスが複素数になる[8].複素基準イン ピーダンスをサポートしていないシミュレータも多い ので注意をする必要がある. 平面波入射の問題はステルス戦闘機などのRCS解析 に用いられることが多く,解析空間は開放領域を扱う ことが多い.有限要素法やFDTD法で開放空間を模擬
するには吸収境界条件(ABC; Absorbing Boundary
Condition)という電磁波を吸収する境界条件が用いら れる(モーメント法は自由空間として定式化している ので必要ない).この名称はシミュレータによって様々 なので,各シミュレータのマニュアルを参照されたい. ABCの実現にも斜め入射を含めた平面波を吸収する ように定式化したMur (ムーアと読む)の吸収境界条 件,シミュレーションでは実現可能な磁気導電率を導 入して定式化した(任意の入射角で平面波の反射がな い)PML (Perfectly Matched Layer;完全整合層)な どの幾つかのアルゴリズムがある.Murの吸収境界条 件など,境界に対して垂直入射に近いときは性能が良 いが,斜入射の場合には性能が劣化するABCでは, 図4 (c)の解析を行う際には境界上でも斜入射平面波 があり都合が悪い.そこで,解くべき電界を散乱体か らの散乱波のみとする散乱界表示が用いられる.全電 界Eは既知の入射波Eincと未知の散乱波Esの和で ある.有限要素法の定式化ではE = Einc+Esをヘ ルムホルツの方程式に代入する.線形性からEincの 項は等価的な波源として寄与し,真空の自由空間中で は波源なしで0となる.真空でない媒質中ではEinc はヘルムホルツの方程式において,散乱波を発生させ る波源として寄与することになる.すなわち,解くべ き未知のEsはEincによって散乱体内に誘起された等 価波源からの放射となる.
3.
電磁界シミュレーションの流れ
本章では,電磁界シミュレーションの流れについて 説明する.問題の種類を絞らないと説明が難しいため, ここでは励振問題解析(図3 (a))について説明する. 図5に電磁界シミュレーションの流れを示す.(1)∼(4) はユーザが行うモデル化である.(1)では電磁界シミュ レータ付属のCADツールを用いて,直方体・円柱・ 球などの基本図形と図形の論理演算によって解析モデ ルを作成する.ここで,アンテナの解析などのように 広い開放空間を打ち切る際は,どの程度の大きさまで モデル化するかが重要である(詳細は次章で述べる). (2)では,描いたモデルの各部分に対して,実際の(実 験)モデルに合うように空気,ガラス,銅などの電気 材料定数(誘電率ε,透磁率μ,導電率σ)を設定する. この値も実物と一致していなければ当然ながらシミュ レーション結果と一致する値は得られない.それゆえ, 材料定数の測定も非常に重要であり,ミリ波帯などの 高周波では特に分散性などもあって難しい問題となっている.もし,正しい材料定数がわかり,モデルの寸 法も正確にわかっていると仮定すると,この部分の入 力は誰が行っても同じである.次に,(3)の境界条件 の設定と(4)の励振のモデル化である.FDTD法や有 限要素法ではアンテナなどの解析を行う際に開放空間 を有限の空間に打ち切るので,この部分を現実の実験 モデルと合うように適切にモデル化できるかどうかが ユーザの知識,技能に大きく左右される.本論文の説 明の目的はこの部分にあり,詳細は次章で説明する. ここまで設定できればユーザの入力は完了となり,後 はシミュレータが自動で解析を行う.シミュレータは (5)でメッシュ分割を行い,(6)で実際に行列方程式を 解いて解析を行う.そして,(7)でユーザが解析前あ るいは解析後に要求した特性情報を出力する. シミュレータによっては(5)のメッシュ分割に,必 要な部分を細かくするアダプティブ・アルゴリズムを 組み込んでいるものもある.この場合,初期メッシュ でまず解析した後,再度メッシュを細かくして解析し, 前回の特性よりも変化が許容できる程度に小さくなっ たら解は収束したとみなして終了,そうでなければ, エネルギーの高い部分のメッシュを細かく切って再度 解析する.また,初期メッシュのサイズをマニュアル で設定できるものもある.あらかじめ細かくしなけれ ばならないとわかっている部分をマニュアルで細かく しておくと高精度な解が得られる.アダプティブ・メッ シュ・アルゴリズムと併用すると,収束が速くなる. 図5では図3 (a)の励振問題について説明したが, 図3 (b), (c)の非励振問題については(4)の励振波源 設定のステップがなくなり,(6)の解析においてソル 図 5 電磁界シミュレーションの流れ(図 3 (a) の問題の 場合)
Fig. 5 Flow chart of EM simulation (for the problem in Fig. 3 (a)). バは行列方程式を解く問題が固有値問題に変わるのみ である.
4.
モデル化の注意点:円形パッチアンテナ
の解析例
本章では,電磁界シミュレーションのモデル化の注 意点について説明する.図6に電磁界解析空間を示す. 空間内部をV,周囲境界をSとする. 4. 1 境界条件について V 内で構造及び材料定数を与えてモデル化するの は当前であるが,S上全ての場所で境界条件を設定し なければならないことも重要である.シミュレータに よっては,何も境界条件を指定しない場合は初期値と して,電気壁(PEC; Perfect Electric Conductor)と しているものもあり,設定を忘れて気づかずに電気壁 に設定されたままであることもよくある. ABCのアルゴリズムにはMur,PMLなどの幾つ かのアルゴリズムがあり,ユーザが選択できるシミュ レータが多い.しかし,自由度が高い場合にはどれを 選べばよいか迷うことになるであろう.非常に高い精 度を求めない場合には,図4 (c)にも示しているが,解 析空間V 内の物体からABCまでの距離の目安とし て,1/2波長程度以上の距離を確保しておくとよい. その理由として,物体で散乱され,再放射された電磁 波は球状に広がり,少し離れると等位相面の曲率半径 は大きくなる.そして,Murの吸収境界条件は一般的 に垂直平面波入射に対する精度は高いので,計算負荷 が高いPMLを使わなくとも十分良い吸収性能を実現 できるからである.アンテナ等の放射問題で利得や指 向性を計算するときは,ABCから外部空間に放射さ れる電磁波の計算が必要になる.ABCから外部空間 に放射される電磁波は界等価定理に従って,ABC境 界面上の電磁界を放射積分することで計算できる. 図 6 解析空間と境界条件図 7 円形パッチアンテナの構造 Fig. 7 Circular patch antenna configuration.
図 8 円形パッチアンテナの試作モデルの写真 Fig. 8 Photograph of a fabricated circular patch
an-tenna.
図 9 円形パッチアンテナのモデル化 Fig. 9 Modeling of a circular patch antenna.
例として,図7に示す円形パッチアンテナ(中心周 波数2.45 GHz) [9]を取り上げる.試作モデルの写真 とシミュレーションモデルをそれぞれ図8,図9に示 す.周囲境界をABCとした有限の領域で打ち切られ ている.また,構造は円柱,直方体を組み合わせてモ デル化されている.実際の反射係数の測定は図10 (a) のようにネットワークアナライザを用いて行われ,遠 方界指向性の測定は図10 (b)のように電波暗室内で行 図 10 実 験 環 境
Fig. 10 Environment of measurement.
図 11 吸収境界条件の面とアンテナとの距離の反射係数 への影響
Fig. 11 Influence of distance between ABC and the antenna. われる.これらの環境と図9のシミュレーションモデ ルは異なるが,解析したい特性に影響を与えないよう に,また計算負荷が大きくなりすぎないようにトレー ドオフを考えながらモデル化している.図11にABC の境界面とアンテナとの距離の反射係数への影響を示 す.周波数2.45 GHzにおける解析なので,30 mmで 約1/4波長,60 mmで約1/2波長である.約1/2波 長以上離せば,ABCからの反射波の影響はなくなり, 反射係数は十分収束していることがわかる.ABCが うまく動作しているかどうかを直感的に確認するには, 図12のように電界強度の瞬時値のアニメーションを 表示して,ABCに電磁波が吸い込まれているかどう か確認するのも一つの手段である.また,励振ポート から進行波が入射していることなども確認すべき項目 である. 4. 2 励振モデル化について 図4 (a)-(c)の励振モデルから,できるだけ現実のモ デルに合ったものを選んでモデル化する必要がある. 線路で給電する場合は,図4 (a)または(b)を用いる ことになるが,ここでも自由度があって迷うこともあ
図 12 電界強度の瞬時値
Fig. 12 Snapshot of electric field intensity.
図 13 ポートの励振電界分布とメッシュ Fig. 13 Electric field distribution of the port and
meshes. る.円形パッチアンテナについては,図9 (a), (b)の ようにそれぞれ導波路ポート,集中ポートでモデル化 する方法がある.図9 (a)は素直にSMAコネクタの 端子までモデル化したものである.また,同軸線路か らパッチアンテナへの変換部分は波長に比して小さく, また,図9 (b)のように集中ポートで励振する電界分 布は図9 (a)の同軸線路から広がる分布に類似してい るため,図9 (a)を図9 (b)で近似することが可能であ る.ただし,反射係数も一致させるためには図9 (b) では集中ポートの内部インピーダンスは同軸線路と同 じ50 Ωとする必要がある.反射係数の振幅は図9 (a), (b)のモデルでよく一致するが,位相はSMAコネク タの同軸部分によるずれがあるので,それを考慮すれ ば一致する[9].図9 (a),図9 (b)の給電に対するポー トの励振電界分布を図13に示す.図13 (a)では同軸 モードが確認でき,図13 (b)では基板グランドから上 部パッチに向かって一様な電界分布になっているのが わかる. 4. 3 解 析 図5の電磁界シミュレーションの流れのステップ (5)∼(7)について具体例を示す.ステップ(5)のメッ シュ分割では,図9 (a)のモデルを元に,図14 (a)の 図 14 メッシュ(物体表面のみ表示) Fig. 14 Meshes (Display only on surfaces).
図 15 円形パッチアンテナの反射係数の周波数特性 Fig. 15 Frequency characteristic of a circular patch
antenna. ように初期メッシュが切られる.そして,アダプティ ブ・メッシュ・アルゴリズムを適用した場合,繰り返し 解析すると図14 (b)のように細かいメッシュが出来上 がっていく.アダプティブ・メッシュ・アルゴリズムが 使われる場合でも収束させるために,細かいメッシュ が必要だとあらかじめわかっている場所は,ダミーの オブジェクトを配置してその領域だけ手動で細かい初 期メッシュを切るテクニックは有効である.近傍電界 は図12のように描くことができる.また,周波数ス イープ解析を行うと,図15のように反射係数の周波
図 16 円形パッチアンテナの遠方界指向性 (2.45 GHz) Fig. 16 Far field radiation pattern of a circular patch
antenna (2.45 GHz). 数特性が得られる.実験ともよく一致しており,適切 にモデル化を行えばFDTD法に基づくシミュレータ でもよく一致した結果が得られることがわかる.図16 に2.45 GHzにおける遠方界指向性を示す.E面(x-z 面),H面(y-z面)ともにアンテナの裏側(±180◦方 向)以外ではFEMの計算値との良好な一致が確認で きる.アンテナ裏側は回折波のみで電磁界強度が弱 く,かつ実験ではケーブルとコネクタがあるためシ ミュレーションと一致した結果を得るのはかなり難し い(モデル化,実験両方の問題がある).
5.
その他の問題の解析例
図17に各励振方法の電磁界解析規範問題の例を示 す.これらを含む規範問題の解析結果のデータは電子 情報通信学会エレクトロニクスシミュレーション研究 会のホームページ[10]に掲載されているので,解析の 練習及び確認のために活用されたい. 図18に近年ミリ波帯RFICの開発で需要が高まって いる高周波プローブ測定の様子の写真を示す.CMOS チップのパッドにプローブで給電する場合の励振モデ ル化は文献[11]に書かれているように,集中ポートで モデル化する幾つかの方法がある.また,化合物半導 体のMMICなどでよく用いられるが,パッドを用い ずに線路の開放端にプローブを当てる測定においては 導波路ポートでモデル化してもよく合うことが確認さ れている[12]. 図19にCMOSチップのダミーメタルの写真を示 す.製造プロセス上の問題から,一定割合細かなダ ミーメタル(金属片)を入れなければならない.これ は波長に比して微細で,そのままモデル化してシミュ レーションすることは困難である.そこで,図3 (c)の 図 17 各励振方法の電磁界解析規範問題の例 Fig. 17 Example of EM canonical problems for eachexcitation type.
図 18 高周波プローブ測定
Fig. 18 Probe measurement in high frequency.
図 19 CMOSチップのダミーメタル Fig. 19 Dummy metal fills in a CMOS chip.
固有モード解析を用いて等価材料定数を算出する方法 が提案されている[13].この手法はメタマテリアルの 解析やハニカム構造の宇宙用アンテナの解析[14]にも 応用できる.
6.
む す び
本論文では電磁界シミュレータを適切に使いこなす ための基礎知識を整理して説明した.また,モデル化 において,境界条件と励振モデルが特に重要であるこ とを強調して説明した.円形パッチアンテナの解析を 例にモデル化の要点について説明し,他の各種解析 に対する参考文献を紹介した.本論文が電磁界シミュ レータ活用の一助となれば幸いである. 謝辞 本研究の一部は半導体理工学研究センター (STARC),科研費,日本医療研究開発機構(AMED) の助成を受けたものである.測定は東京工業大学安 藤・広川研究室及び松澤・岡田研究室で行われた.ま た,活動の機会をいただいた電子情報通信学会エレク トロニクスシミュレーション研究専門委員会,MWE 関係,シミュレータベンダー各社の皆様に深謝する. 文 献 [1] 平野拓一,“電磁界シミュレータ利用の勘所,” 信学誌, vol.100, no.5, pp.342–348, May 2017.[2] 田口光雄,“電子情報通信学会誌 電磁波工学教育にお けるシミュレータ利用の可能性,”信学誌,vol.96, no.1, pp.41–45, Jan. 2013.
[3] 平野拓一,平田晃正,“マイクロ波・ミリ波分野における 実測困難な問題へのシミュレーション技術の応用,”信学 誌,vol.96, no.6, pp.401–405, June 2013.
[4] 田中正隆,“場の数値シミュレーション〔I〕—現象の数理 モデルと数値シミュレーション技法—,”信学誌,vol.79, no.9, pp.936–942, Sept. 1996.
[5] 吉田則信,“電磁界解析の基礎とアンテナ工学への応用 〔II〕—時間領域における電磁界解析法入門,” 信学誌,
vol.80, no.1, pp.75–82, Jan. 1997.
[6] 中野久松,“電磁界解析の基礎とアンテナ工学への応用 〔I〕—モーメント法によるアンテナ解析入門—,”信学誌,
vol.79, no.12, pp.1236–1241, Dec. 1996.
[7] 田中正隆,“場の数値シミュレーション〔III〕—有限要 素法入門,”信学誌,vol.79, no.12, pp.1229–1235, Dec. 1996.
[8] T. Hirano, “Review and another derivation of the power wave,” Microwave and Optical Technology Letters (MOP), vol.57, no.1, pp.26–28, Jan. 2015. [9] T. Hirano, J. Hirokawa, and M. Ando, “Influence of
the SMA connector and its modeling on electromag-netic simulation,” Microwave and Optical Technol-ogy Letters (MOP), vol.57, no.9, pp.2168–2171, Sept. 2015.
[10] 電子情報通信学会エレクトロニクスシミュレーション研究
会,http://www.ieice.org/es/est/activities/ canonical problems/
[11] T. Hirano, K. Okada, J. Hirokawa, and M. Ando, “Accuracy investigation of de-embedding techniques based on electromagnetic simulation for on-wafer RF measurements,” InTech Open Access Book, Numer-ical Simulation - From Theory to Industry, Chapter 11, pp.233–258, Sept. 2012.
[12] T. Hirano, H. Nakano, Y. Hirachi, J. Hirokawa, and M. Ando, “De-embedding method using an elec-tromagnetic simulator for characterization of tran-sistors in the millimeter-wave band,” IEEE Trans. Microw. Theory Tech., vol.58, no.10, pp.2663–2672, Oct. 2010.
[13] T. Hirano, N. Li, and K. Okada, “Analysis of effec-tive material properties of metal dummy fills in a CMOS chip,” IEICE Trans. Commun., vol.E100-B, no.5, pp.793–798, May 2017.
[14] R. Jayawardene, T. Nguyen, Y. Takano, K. Sakurai, T. Hirano, J. Hirokawa, M. Ando, O. Amano, S. Koreeda, and T. Matsuzaki, “Estimation and mea-surement of cylindrical wave propagation in paral-lel plate with honeycomb spacer for the use in mm-wave RLSA,” Proc. Asia-Pacific Micromm-wave Confer-ence (APMC), 3A4-03, pp.415–417, Dec. 2012. (平成 29 年 12 月 19 日受付,30 年 5 月 10 日再受付, 9月 11 日公開) 平野 拓一 (正員:シニア会員) 1998名工大・工・電気情報卒.2000 東工 大・電気電子・修士課程了.2002/2-2007/3 東工大・助手.2007/4-2018/3 東工大・助 教.2018 現在,東京都市大知識工学部・准 教授.2008 博士(工学).電磁界解析,ミ リ波測定技術及びオンチップアンテナ等の 研究に従事.著書(共著)「電磁気学」など.