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東京理科大学 薬学部*西川元也
*・吉岡志剛
*・長岡 誠
*・草森浩輔
*核酸医薬品開発における体内動態と DDS
Development of Oligonucleotide Therapeutics: Tissue Distribution and Drug Delivery Systems
There is an increasing trend in the number of approved oligonucleotide therapeutics in the world. Recently approved therapeutics include: gapmer-type antisense oligonucleotides, splice-switching antisense oligonucleotides, siRNA encapsulated in nanoparticles or conjugated with triantennary N-acetylgalactosamine (GalNAc), and CpG oligonucleotide. Except for the nanoparticle-formulated siRNA, all these therapeutics share the structural characteristics common to hydrophilic macromolecules, but differ in many aspects, including the location of the target molecule/target cells, administration route, and tissue distribution. Because only the fraction of the administered dose reaching the target exhibits therapeutic effects, the tissue distribution of oligonucleotide therapeutics is one of the most critical parameters that determines the success in the development. Protein binding is a most important characteristic for those administered subcutaneously or intravenously, but the binding characteristic has hardly been actively optimized. Protein binding is important not only for the tissue distribution but for the induction of adverse reactions. Ligand conjugation can increase the distribution of oligonucleotide therapeutics to target cells. GalNAc has been used as a ligand to deliver siRNA to hepatocytes that express GalNAc-recognizing asialoglycoprotein receptors. The cells that can be targeted with oligonucleotide therapeutics so far, however, are limited to hepatocytes and dystrophic muscle cells. In this article, the current status and perspectives of the delivery of oligonucleotide therapeutics are discussed, focusing on the possible role of drug delivery systems in widening their therapeutic application. 核酸医薬品の実用化が急速に進み、ギャップマー型アンチセンス核酸(ASO)、スプライシング制 御型 ASO、ナノ粒子化あるいは N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)結合 siRNA、CpG オリゴが 近年上市された。これらの核酸医薬品は、水溶性高分子という共通点のほかは、標的細胞や標的分子、 投与経路、体内動態などの点で異なる。標的部位に到達した核酸医薬品のみが薬効を発揮するため、 核酸医薬品の体内動態制御は最重要課題の1 つである。タンパク結合は、核酸医薬品の体内動態や毒 性発現に重要であるが、必ずしも最適化されていない。標的指向化にはリガンド修飾が有用であり、 GalNAc 修飾が肝細胞への siRNA の送達に実用化されている。本稿では、核酸医薬品開発の現状と 核酸医薬品の適応拡大に向けた DDS の可能性について論じる。
MakiyaNishikawa*,YukitakeYoshioka*,MakotoNagaoka*,KosukeKusamori* Keywords: Oligonucleotide therapeutics, tissue distribution, protein binding, receptor-mediated uptake, ligand conjugation
*FacultyofPharmaceuticalSciences,TokyoUniversityofScience 科学技術が拓く DDS 1.はじめに 核酸医薬品は、リボヌクレオシドまたはデオキシ リボヌクレオシドにリン酸が結合したリボヌクレオ チド、デオキシリボヌクレオチドが、一部の例外を 除き、20個程度あるいはそれ以上直鎖状に結合し たものである。実用化された核酸医薬品には、天然 の核酸(RNA、DNA)だけでなく、さまざまな化学 修飾を施した核酸誘導体や核酸類似体が用いられる 場合が多い。また、遺伝子医薬品やメッセンジャー RNA(mRNA)などの遺伝子発現を介して作用する 医薬品とは異なり、低分子医薬品同様、活性本体と して化学合成により製造される。したがって、核酸
医薬品は、「核酸または核酸誘導体、核酸類似体な どが十~数十塩基連結したオリゴ核酸で構成され、 遺伝子発現を介さずに直接生体に作用するもので、 化学合成により製造される医薬品」と定義される1)。 化学合成により製造可能であることから品質管理が 容易な低分子化合物と同様の利点を有すること、塩 基配列を適宜設計することで抗体医薬品と同等の高 い有効性と特異性をもたせることが可能なこと、さ らには RNA を標的とすることで非常に幅広い分子 を創薬ターゲットとできるなど、核酸医薬は「次な る創薬モダリティの本命」として大きな注目を集め ている。 表1 に示すように、核酸医薬品の実用化は1998年 に承認された fomivirsen に始まり、2020年11月の 時点で合計13品目が上市されている。Ionis社など の核酸医薬品開発を先導する企業の新薬開発パイプ ラインを見ると、品目数は今後ますます加速的に増 えることが予想される。これは、構造的な特徴を大 きく変えずに、塩基配列を変えることで別の標的分 子に特異的な核酸医薬品を設計できるという、核酸 医薬品に固有の特徴に負うところが大きい。しかし ながら、核酸医薬品が有効な対象疾患・標的組織は 限られているのが現状である。その最大の原因は核 酸医薬品の体内動態にある。核酸医薬品は高分子化 合物であることから、膜透過を含むさまざまな体内 動態過程において挙動が制限される。これまでに開 表1 上市された核酸医薬品 商品名(一般名) 分類 塩基長 分子量 化学修飾 DDS 投与部位 標的細胞 標的分子 Fomivirsen(Vitravene®) アンチセンス 21(ss) 7,120 PS - 硝子体内 網膜色素 上皮細胞 CMV IE2mRNA Pegaptanib(Macugen®) アプタマー 28(ss) 49,000 2'-F
2'-OMe PEG 硝子体内 網膜色素上皮細胞 VEGF Mipomersen(Kynamro®) アンチセンス
(ギャップマー)20(ss) 7,590 2'-MOEPS - 皮下 肝細胞 ApoB-100mRNA Eteplirsen(Exondys 51®) アンチセンス
(SSO) 30(ss) 10,300 MPO - 静脈内 筋細胞 Dystrophinpre-mRNA Nusinersen(Spinraza®) アンチセンス
(SSO) 18(ss) 7,500 2'-MOEPS - 髄腔内 神経細胞 pre-mRNASMN2 CpG1018(HEPLISAV-B®) CpGオリゴ 22(ss) 7,150 PS - 筋肉内 樹状細胞 TLR9
Inotersen(Tegsedi®) アンチセンス
(ギャップマー)20(ss) 7,180 2'-MOEPS - 皮下 肝細胞 mRNATTR Patisiran(Onpattro®) siRNA 21(ds) 14,300 2'-OMe LNP 静脈内 肝細胞 TTR
mRNA Volanesorsen(Waylivra®) アンチセンス
(ギャップマー)20(ss) 7,580 2'-MOEPS - 皮下 肝細胞 ApoCIII mRNA Givosiran(Givlaari®) siRNA 23(ds) 16,300 2'-OMePS
2'-F GalNAc 皮下 肝細胞
ALAS1 mRNA Golodirsen(Vyondys 53®)アンチセンス
(SSO) 25(ss) 8,650 MPO - 静脈内 筋細胞 Dystrophinpre-mRNA Viltolarsen(Viltepso®) アンチセンス
(SSO) 21(ss) 6,920 MPO - 静脈内 筋細胞 Dystrophinpre-mRNA Lumasiran(Oxlumo®) siRNA 23(ds) 17,300 2'-OMePS
2'-F GalNAc 皮下 肝細胞 HAO1 mRNA 〔分類〕SSO:スプライシング制御オリゴヌクレオチド。 〔塩基長〕括弧内の ss は一本鎖、ds は二本鎖を表す。 〔化学修飾〕PS:ホスホロチオエート、2'―F:2'―fluoro、2'―OMe:2'―O―methyl、2'―MOE:2'―O―methoxyethyl、MPO:モルフォリノ核酸。 〔DDS〕PEG:ポリエチレングリコール、LNP:脂質ナノ粒子、GalNAc:N―アセチルガラクトサミン。 〔標的分子〕CMVIE2:サイトメガロウイルス前初期抗原2、mRNA:メッセンジャー RNA、VEGF:血管内皮増殖因子、ApoB―100:アポリポタンパク 質B-100、pre-mRNA:mRNA前駆体、TLR9:Toll様レセプター9、TTR:トランスサイレチン、ApoCIII:アポリポタンパク質CIII、ALAS1:δアミノ レブリン酸合成酵素1、HAO1:ヒドロキシ酸オキシダーゼ1。
発された核酸医薬品は、標的細胞近傍に局所投与さ れるもの、あるいは肝細胞や膜透過性が亢進した筋 細胞など、標的分子に到達するまでの移行障壁が低 い対象に限られている。したがって、対象疾患を拡 大するためには、核酸医薬品の体内動態を制御する DDS の開発が必須と考えられる。そこで本稿では、 核酸医薬品の体内動態を規定する因子に加えて、核 酸医薬品の体内動態制御に利用可能な DDS につい て整理する。 2.実用化された核酸医薬品の分類 核酸医薬品は作用機序から、アンチセンス核酸 (ASO)、siRNA、miRNA、アプタマー、CpG オ リゴなどに分類され、ASO、siRNA、アプタマー、 CpG オリゴについては承認された核酸医薬品が存 在する(表1)。この中で、最も多くの品目が承認さ れているのが ASO である。ASO は治療標的とな る RNA に対して相補的な配列を有する一本鎖核酸 から構成される核酸医薬品であり、作用機序の違い からギャップマー型ASO とスプライシング制御型 ASO(splice-switchingoligonucleotide:SSO)に分 類される。ギャップマー型ASO が標的RNA と結 合することで DNA/RNA二重鎖が形成され、これ が RNA分解酵素である RNaseH により切断され ることで標的遺伝子の発現が抑制される。多くの場 合、ASO の両末端(ウイング領域)は生体内安定性 を向上させ、相補鎖との結合性が高い化学修飾が施 されており、中央部分(ギャップ領域)は RNaseH によって切断されやすいように未修飾核酸が用いら れる。表1に示すように、mipomersen、inotersen、 volanesorsen がギャップマー型ASO である。 SSO は、pre―mRNA に存在するスプライシング 因子が結合する配列に対する相補鎖であり、スプ ライシング因子の結合を競合阻害する。これによ り、その近傍にあるエクソンの成熟mRNA への組 み込みを促進(スプライスイン)あるいは抑制(スプ ライスアウト)する2)。ギャップマー型とは異なり、 SSO は RNaseH による分解を避けるために、核酸 構造全体に対して生体内の安定性を向上させ、相 補鎖との結合性が高い化学修飾核酸が用いられる。 これまでに、eteprilsen、nusinersen、golodirsen、 viltolarsen の4品目が SSO として実用化されてい る(表1)。Nusinersen では、RNaseH による分解 抑制を目的に配列全体にわたり2'―メトキシエチル (MOE)修飾が施されている。現時点では、実用化 された唯一のエクソンをスプライスインするタイプ の SSO である。一方、nusinersen以外の SSO はす べて、筋ジストロフィーに対して目的のエクソンを スキップすることでスプライスアウトする ASO で ある。これら3品目では、核酸の糖部をモルフォリ ノ環に置換した核酸類縁体であるモルフォリノ核酸 が用いられている。
実用化された siRNA には patisiran と givosiran の2品目がある。どちらも核酸単独ではなく DDS を組み合わせた核酸医薬品である。Patisiran は脂 質ナノ粒子製剤であり、givosiran はセンス鎖の 3' 末端に N―アセチルガラクトサミン(GalNAc)を 3分子有する糖鎖を結合したコンジュゲート型の siRNA である。核酸医薬開発の初期に世界で2番目 の核酸医薬品として開発された pegaptanib は、現 時点までに実用化された唯一のアプタマー製剤で ある。Pegaptanib は2'―F や2'―OMe修飾核酸で構 成された一本鎖核酸であり、5' 末端に平均分子量約 40,000の分岐型のポリエチレングリコールが修飾 されている。B型肝炎ワクチン HEPLISAV―B には、 自然免疫を賦活化する CpG オリゴの CpG1018が含 まれている。この CpG1018には、生体内での安定 性の向上を目的として、他のいくつかの核酸医薬品 でも用いられているホスホロチオエート(PS)修飾 が施されている。 3.核酸医薬品の体内動態を規定する因子 核酸医薬品には、標的細胞の近傍に局所投与され るものと全身投与されるものがある(図1)。局所投 与された核酸医薬品は、投与部位で組織中タンパク 質と相互作用しつつ、標的細胞に取り込まれるとと もに、分解や全身循環系への移行により投与部位か ら徐々に消失する。全身投与される場合の投与経路 には、静脈内注射と皮下注射がある。皮下注射され た核酸医薬品の場合は、投与部位でのタンパク結合、
図1 核酸医薬品の投与部位と標的細胞への移行に関わる体内動態過程 硝子体内投与 組織タンパク結合 細胞取り込み 髄腔内投与 組織タンパク結合 細胞取り込み 皮下投与→肝細胞 投与部位 組織タンパク結合 組織内拡散 血管系への吸収 全身循環移行後 血漿タンパク結合 細胞取り込み 静脈内投与→筋細胞 血漿タンパク結合 細胞取り込み 局所投与 全身投与 組織内拡散、血管内移行の過程を経ることで循環血 液中に移行する。 循環血液中の核酸医薬品を含む高分子の体内動態 は、分子量に依存した血管壁透過と細胞による取り 込みにより決定される。血管壁透過に関しては、腎 臓の糸球体ろ過が核酸医薬品の体内動態を大きく左 右する過程である3)。糸球体ろ過は分子サイズと電 荷に依存したろ過であり、ろ過される物質のサイズ の閾値は分子量30,000程度である。PEG修飾され た pegaptanib を除くと、実用化された核酸医薬品 の分子量は6,900から16,000であるため、血清タン パク質と結合していないフリーの核酸医薬品は糸球 体ろ過を速やかに受ける。一方で、この閾値よりも 大きい血清アルブミンなどの血清タンパク質はほと んど糸球体ろ過を受けないため、血清タンパク質と 結合した核酸医薬品は糸球体ではろ過されない。 循環血液中の核酸医薬品は血液を介して全身に分 布する。ここで核酸医薬品の組織分布は、血流によ る組織への輸送、血管内から組織間隙への移行、細 胞取り込みにより決定される。これらの過程は直列 の関係にあるため、最も効率的でない過程が律速と なる。したがって、標的細胞に非常に効率よく取り 込まれる医薬品候補化合物であっても、血流に乏し い臓器・組織への送達効率は低くなる。血管壁透過 性が亢進していることで、核酸医薬品を含む高分子 やナノ粒子を利用したデリバリーが期待される固形 腫瘍への送達は、腫瘍組織への乏しい血流が効率的 な医薬品デリバリーを阻む要因となる場合が多い。 肝臓と腎臓は血流が豊富であり、毛細血管の血管壁 透過性も高いことから、循環血液中の核酸医薬品は 主にこの2つの臓器に分布する。 筋ジストロフィーに対する SSO の場合は筋細胞 が標的細胞である。通常の筋肉の毛細血管は連続内 皮型であることから、分子量5,000を超える高分子 の血管壁透過は大きく制限されている。しかしなが ら、SSO投与の対象となる筋ジストロフィー患者で は、筋肉組織の壊死再生が繰り返されることで血管 壁透過性が亢進しており、SSO が治療標的である 筋細胞に直接アクセスできる状況となっている。筋 肉は体重に占める割合が大きいため、血管壁透過性 が亢進している場合には組織全体として核酸医薬品 を含む高分子の分布する割合は高いものの、組織あ たりの血流速度は小さいことから、筋細胞への効率 的なデリバリーを実現するためには肝臓による取
り込みや腎臓から排泄を抑制することが望ましい。 図2 に、核酸を含む高分子の肝臓取り込みクリアラ ンスと尿中排泄クリアランスを整理する。肝臓によ る取り込みには、全身投与型の核酸医薬品の多くで 標的とされる肝細胞による取り込みと、標的ではな い Kupffer細胞や類洞内皮細胞による取り込みが含 まれることに注意が必要である。 4.タンパク結合 天然型の核酸と比較して、PS修飾核酸はタン パク結合性が高い。Mipomersen をはじめとする ギャップマー型ASO での報告では、塩基配列にも 若干依存するが多くの場合で90%以上が血漿タン パク質と結合した状態として存在することが示され ている。また、血清アルブミンのほかにも多くの種 類のタンパク質が結合に関与することが報告されて いる(表2)。主に血漿中に最も豊富に含まれる血清 アルブミンと結合している核酸医薬が多いと考えら れているが、結合親和性はあまり高くないことも示 されている。血中濃度は低いものの核酸医薬品との 結合親和性が高いタンパク質として histidine-rich glycoprotein やα―2―macroglobulin などが報告され ている。α―2―macroglobulin は主に肝臓で生成・分 泌されるタンパク質であり、ASO と複合体を形成 することで速やかな血中からの消失に関与すると考 図2 核酸を含む高分子の肝取り込みクリアランスと尿中排泄クリアランス マウス尾静脈内投与後の肝取り込みおよび尿中排泄クリアランス。括弧内は分子量を示す。黒色は強い負電荷、灰色は弱い負電荷、白色は非荷電高分子を 表す。□:DNA、○:タンパク質、△:多糖。 表2 ASO と相互作用する血漿タンパク質 血漿タンパク質 血漿中濃度 (mM) PS修飾ASOとの 結合定数(mM) Serum albumin 600.0 12.7 IgG 75.0 1.6 Apolipoprotein A-I 40.0 5.3 Apolipoprotein A-II 24.0 >500 Complement factor C3 20.0 0.5 Transferrin 12.0 7.0 Fibrinogen 9.0 0.87 ssDNA (3,300) 肝血流速度 dsDNA (4,000,000) 糸球体ろ過速度糸球体ろ過速度 Dextran sulfate (8,000) Dextran sulfate (8,000) Dextran (10,000) Dextran (70,000) Immunoglobulin G (150,000) Immunoglobulin G (150,000) Serum albumin (67,000) Serum albumin (67,000) Inulin (3,000)Inulin (3,000) apo-neocarzinostatin (10,000) apo-neocarzinostatin (10,000) 液相エンドサイトーシス速度 液相エンドサイトーシス速度 Dextran, carboxymethylated (70,000) Dextran, carboxymethylated (70,000) 尿中排泄クリアランス(mL/h) 肝取り込みクリアランス ( mL/h ) 0.01 0.1 1 10 100 100 10 1 0.1 0.01 血漿タンパク質 血漿中濃度 (mM) PS修飾ASOとの 結合定数(mM) α-2-Macroglobin 6.0 0.05 Histidine-rich glycoprotein 1.3 0.01 Plasminogen 1.2 2.1 Apolipoprotein B-100 0.7 >10 Apolipoprotein E 0.5 0.03 (文献8をもとに改変) 表2 ASO と相互作用する血漿タンパク質
えられている。α―2―macroglobulin をノックアウト したマウスでは、ASO の標的への到達効率が上昇 し、野生型マウスと比較して高いアンチセンス効果 が得られることが示されている4)。したがって、薬 理活性や毒性の観点からは、核酸医薬品の微量タン パク質との相互作用も重要である5)。 PS修飾ASO は、血中だけでなく細胞内でも広範 なタンパク質と相互作用することが報告されてい る。なかでも、細胞質中に存在するパラスペックル タンパク質である P54nrb や PSF と結合し、細胞 内で共局在する様子が観察されている。このパラス ペックルタンパク質との結合体は、RNaseH に結 合した ASO とは異なる細胞内挙動を示し、核小体 ストレスやアポトーシス誘導などの ASO毒性の原 因になると考えられている6~8)(図3)。 5.タンパク結合の制御 上述のように、タンパク結合は核酸医薬品の体内 動態を決定する重要な因子であることから、核酸医 薬品のタンパク結合の制御が試みられている。ここ では、代表的な3種類の方法を取り上げる。 5―1.立体異性の制御 PS修飾は不斉リン原子を有する化学修飾法であ り、臨床で用いられている PS修飾を施した核酸医 薬品は、理論上は膨大な数の光学異性体の混合物で ある。近年、立体選択的に PS修飾する合成法が開 発され、光学活性を制御した核酸分子が合成できる ようになった(図4)。その結果、薬理活性や毒性が 光学異性体間で異なることが見出されている。例え ば、PS修飾ASO の PS結合をすべて S体にした場 図3 核酸医薬品と各種タンパク質の相互作用 血管 細胞質 遺伝子発現抑制 細胞毒性 核 Albumin ASO GalNAc リポタン パク質 脂質 Stabilin
-1/2 EGFR MRC1 DEC-205 MAC-1 MSR1 RAGE ASGPR LDLR
RNase H RNase H パラスペックル タンパク質 RNase H 核小体 初期エンドソーム 後期エンドソーム リソソーム
合、酸素原子と比較して疎水性が高い硫黄原子が核 酸の主溝の外側に位置する。これにより、核酸分子 の安定化に寄与する水分子との水素結合が形成され なくなるため、R体にしたものより熱力学的安定性 が低いことが示されている。また、活性発現に重要 な RNaseH は核酸の主溝の酸素原子を認識するこ とから、これが硫黄原子に置換されている S体では RNaseH による認識が低下し、R体よりも活性が低 い。その一方で、タンパク結合に関しては、S体で は硫黄が外側に位置していることで疎水性相互作用 が増加し、タンパク質との結合性が向上すると予想 される9, 10)。また、R体と S体が混在するものにつ いても評価されているが、治療効果を最大化するた めの最適な配置については検討の余地がある。 近年、光学異性体が SSR の順で並んだ ASO が、 RNaseH と高い結合親和性を示し、高いアンチセ ンス活性を発揮することが報告された。しかしなが ら、非特異的なタンパク質との相互作用も上昇する ためか、アンチセンス活性とともに毒性も上昇する ことから、治療係数は従来のステレオランダムなも のと同程度であることが報告されている10, 11)。こう した光学異性体の制御は、アプタマーやデコイ核酸 への応用に向いている可能性がある12)。 5―2.電荷の制御 負電荷を有するリン酸結合部分を中性の電荷とな るような構造に置換する方法が考案されている。筋 ジストロフィーに対する SSO として実用化された、 リン酸結合をホスホロジアミデート結合に置換した モルフォリノ核酸のほかに、メチルホスホネート (MP)やメトキシプロピルホスホネート(MOP)など のアルキルホスホネート結合に置換したものがあげ られる(図4)。これらの核酸誘導体は、天然型核酸 のホスホジエステル結合や PS結合とは異なり電気 的に中性である。核酸とタンパク質との相互作用に は、主に水素結合とイオン結合が関与し、負電荷の 核酸の場合はタンパク質中のカチオン性アミノ酸と 相互作用することが報告されている。電気的に中性 のモルフォリノ核酸や MP置換体では、イオン結合 性が弱く、そのためにタンパク質との結合性が低い と考えられている13, 14)。このため、非特異的なタン パク結合性が低下し、毒性が低減されることが報告 されている15)。 5―3.修飾位置の選択 ギャップマー型ASO に関する近年の研究におい て、ギャップ領域の5'側から2, 3位のヌクレオチ ドがタンパク質との相互作用において重要であるこ とが見出された16)。そこで、この位置のヌクレオチ ドをタンパク結合性の低い2'―OMe や MOP とする ことで、アンチセンス活性を維持しつつ毒性を低減 できることが示された。また、RNaseH は切断部 位の DNA鎖の3, 4, 5位のリン酸基と静電的相互 作用および水素結合を形成することが結晶構造解 析から見出されている。そこで、これらの位置に RNaseH と相互作用しない MOP修飾を導入するこ とで RNaseH による切断が抑制できることが報告 されている17)。以上のように、修飾位置に応じてタ 図4 核酸医薬品に用いられる核酸誘導体および核酸類似体 Phosphorodiamidate morpholino oligonucleotide (PMO) Methoxypropyl-Phosphonate (MOP) Methylphosphonate (MP) Phosphorothioate
(PS, Rp isomer) Phosphorothioate(PS, Sp isomer) Phosphodiester (PO) O O Base O P O S -O O O Base O P O Me O O O Base N N P O Me Me O O O Base O P O Me O O Base O P O O -O O O Base O P O S -O
ンパク質との相互作用を変化させ、アンチセンス活 性や毒性を調節可能と考えられる。 6.細胞取り込み 表3 に、これまでに報告されている核酸を認識 するレセプターを整理した。これらの多くは負電 荷高分子を認識するスカベンジャーレセプター である。クラス A スカベンジャーレセプターで ある macrophagescavengerreceptor1(MSR1: SR―A1)に関しては、MSR1発現HEK―Blue細胞で の検討から、天然型DNA の取り込みに関与するこ と、その認識が DNA の構造の複雑さに依存するこ とが示されている18)。また、このレセプターは、マ クロファージや樹状細胞などの免疫細胞表面に発現 することに加えて、筋細胞によるモルフォリノ核酸 の細胞取り込みにも関与することが報告されてい る19)。 PS修飾核酸は、脾臓、肝臓、リンパ節および 骨髄で高発現するクラス H スカベンジャーレセ プターである stabilin との相互作用が報告され ている20, 21)。Stabilin―2を遺伝子導入することで、 HEK293細胞による PS修飾ASO の取り込みは3~ 5倍に増強され、アンチセンス効果が10~20倍向 上したことが示されている。また、Stabilin―2ノッ クアウトマウスでの PS修飾ASO の組織分布では、 野生型マウスと比較して脾臓や肝臓への集積の減少 が示されている。 7.リガンド修飾による標的指向化・体内動態制御 核酸医薬品の体内動態を制御し、標的指向化を実 現することを目的としてさまざまな DDS が開発さ れている。主に検討されている DDS は、脂質ナノ 粒子や高分子ミセルなどへの核酸医薬品の内包と、 核酸医薬品に直接リガンドを結合するリガンドコン ジュゲートに大別される。核酸医薬品に関する実質 的な世界初の DDS製剤は siRNA の脂質ナノ粒子製 剤の patisiran である。最近は、品質管理や投与に おける利便性の観点で脂質ナノ粒子製剤に対して優 位性のあるリガンドコンジュゲートの開発が加速し ている。ここでは、今後の拡大が期待されるリガン ド修飾による核酸医薬品の標的指向化について整理 する。 7―1.標的指向化に利用可能なレセプター これまでに、核酸医薬品の標的指向化への応用が 報告されているレセプターとリガンドとの組み合わ せを表4に整理する。この中で最も研究が進み、承 認された核酸医薬品(givosiran、lumasiran)がある のが、肝細胞に特異的に発現するアシアロ糖タンパ ク質レセプター(ASGPR)と、その高親和性リガン ドの GalNAc の組み合わせである。siRNA のほか に ASO についても GalNAc修飾体の開発が進めら れている。 肝臓は、血流が豊富で血管壁透過性が高いことか ら、循環血液中の物質は容易に肝細胞表面に到達し、 表3 核酸を認識するレセプター/膜タンパク質 レセプター/膜タンパク質 主な発現細胞 評価に用いられた核酸
Macrophage scavenger receptor 1
(MSR1;class A scavenger receptor) マクロファージ、樹状細胞、筋細胞 PO/PS DNA (30 mer) Stabilin-1/2 (Class H scavenger receptor) マクロファージ、内皮細胞 PS DNA (20 mer) Asialoglycoprotein receptor
(ASGPR;class E scavenger receptor) 肝細胞 PS DNA (20 mer) Epidermal growth factor receptor がん細胞 PS DNA (16~20 mer) Mannose receptor C type 1 (MRC1) マクロファージ、樹状細胞 PS DNA (20~22 mer) Lymphocyte antigen 27(DEC-205) 胸腺上皮細胞、樹状細胞 PS DNA (20~24 mer) Integrin CD11b/CD1 (Mac-1) 多形核白血球、マクロファージ、NK細胞 PS DNA (15~28 mer) Receptor for advanced glycation end product (RAGE) マクロファージ、内皮細胞 PO/PS DNA (20~24 mer) Membrane-associated nucleic acid-binding protein (MNAB) マクロファージ、B細胞 牛胸腺DNA
GalNAc やガラクトースで修飾された高分子やナ ノ粒子は ASGPR に認識される。ASGPR は、エン ドサイトーシスレセプターであり、carbohydrate-recognitiondomain(CRD)を介してリガンドを認識 し、これを細胞内にエンドサイトーシスにより取り 込む。ASGPR の1ユニットあたり3個の CRD が存 在し、それぞれがリガンドを認識することから、リ ガンドの価数が1から3になるにつれて結合親和性 が飛躍的に上昇する。また、ASGPR は発現量が多 く、肝細胞あたり約106レセプターが発現していて、 そのうちの5~10% が細胞膜表面に存在している。 ASGPR リガンドが結合すると内在化され、エンド ソームへ移行したリガンド-ASGPR複合体は、エ ンドソームの低pH環境において解離し、ASGPR は約15分後には細胞表面にリサイクルされる22)。 一方、アシアロ糖タンパク質などの内因性リガンド については、エンドソームからリソソームへ輸送さ れ、そこで分解される。エンドソーム内に移行した GalNAc修飾核酸医薬品のその後の挙動については 依然として不明な点が多い。GalNAc やガラクトー スなどの ASGPR リガンドで修飾された高分子やナ ノ粒子の肝細胞による取り込みは非常に効率的であ り、マウスにおける肝取り込みは肝血流律速、すな わち肝臓を1回通過する間に血液中に含まれるすべ ての ASGPR リガンドが肝細胞に取り込まれること が示されている23)。したがって、肝臓以外への消失 が遅い ASGPR リガンドの場合には、投与量の90% 以上が肝臓に移行することが報告されている。 標的指向化への利用が検討されている ASGPR以 外のレセプターには、膵β細胞に発現するグルカゴ ン様ペプチド―1(GLP―1)レセプター、骨格筋細胞や 心筋細胞表面に豊富に発現するトランスフェリンレ セプター1(TfR1)、肺、卵巣、腎臓などの上皮がん 細胞に発現している葉酸レセプター、B細胞表面に 発現している CD22、マクロファージや樹状細胞表 面に発現しているマンノースレセプター(MRC1) などがあげられる。しかしながら、血流速度や血管 壁透過性などの生理学的要因により、レセプター発 現細胞近傍へのデリバリー効率が高くないことが問 題となる場合が多く、現時点では、これらの組み合 わせは実用化には至っていない。 7―2.GalNAc 修飾 GalNAc修 飾 核 酸 医 薬 品 と し て、givosiran と lumasiran の2品目がすでに実用化されている。ど ちらも Alnylam社が開発した siRNA製剤であり、 塩基配列以外はすべて共通の構造的特徴を有する。 GalNAc は、siRNA センス鎖の3'末端に修飾され ている。センス鎖とアンチセンス鎖の糖部分には 2'―OMe、2'―F修飾が、また両末端には PS修飾が 施されており24)、長期的なサイレンシング効果が得 られることが非臨床研究で示されている25)。これら は皮下注射製剤であり、血管系に移行後、標的分子 が発現する肝細胞に到達した分子が薬効を発現す る。したがって、GalNAc修飾を利用したデリバリー においては、投与部位から全身循環系への移行、血 中でのタンパク結合、肝細胞による取り込み、細胞 内での安定性、細胞質への移行、細胞内タンパク結 合などが、最終的な薬効に影響すると考えられる。 ASO に関しても、Ionis社が中心となって GalNAc 修飾ASO の臨床試験が進められており、2020年3 月の時点で30品目近い GalNAc修飾型核酸医薬品 の臨床試験が実施されている26)。非臨床研究にお いて、マウスに未修飾の ASO または GalNAc修飾 表4 核酸医薬品の細胞選択的デリバリーに利用されるレセプター レセプター 主な発現細胞 リガンド/抗体 適用された核酸 Asialoglycoprotein receptor
(ASGPR;class E scavenger receptor) 肝細胞 GalNAc ASO、siRNA Glucagon-like peptide-1 (GLP1) receptor 膵β細胞 GLP1ペプチド ASO Transferrin receptor (TfR) 1 筋細胞 Anti-TfR Fab siRNA
Folate receptor がん細胞 葉酸 miRNA
CD22 (Siglec-2) B細胞 Anti-CD22抗体 ASO Mannose receptor C type 1 (MRC1) マクロファージ、樹状細胞 マンノース CpGオリゴ
を抗原提示細胞に効率よく取り込まれる多足型の DNA ナノ構造体骨格に複数搭載することで、マン ノースレセプターを発現する細胞への効率的なデリ バリーが可能であり、CpG オリゴによるサイトカ イン産生を有意に上昇できることを明らかにしてい る(図5)28)。 7―4.脂質修飾 前述のように、核酸医薬品の体内動態はタンパク 結合によって大きく変動する。そこで、核酸医薬品 のタンパク結合性を変化させる修飾として、脂質分 子による修飾が検討されている。具体的には、ミリ スチン酸やドコサヘキサエン酸といった脂肪酸やコ レステロール、α―トコフェロール(ビタミン E)が 用いられることが多い29, 30)。脂質分子を結合するこ とで核酸医薬品の疎水性が上昇し、その結果として、 タンパク結合性の向上に伴い血中滞留性が上昇す る。コレステロール修飾を施した PS修飾ASO では、 静脈内投与後の消失半減期が約2倍上昇することが 報告されている31)。 結合タンパク質に関して、PS修飾核酸はそのほ とんどが血清アルブミンと結合するのに対し、コレ ステロール修飾体はリポタンパク質とも結合するこ とが報告されている。通常、血中に存在するコレス ASO を単回皮下投与したところ、未修飾の ASO で は投与量のうち約30%肝実質細胞に移行したのに 対し、GalNAc修飾ASO では80%以上肝実質細胞 へ移行したことが示されている27)。 7―3.マンノース修飾 ASGPR と は 別 の 糖 レ セ プ タ ー で、 こ れ ま で に DDS に汎用されてきたものにマンノースレセ プターがある。マンノースレセプターは、肝臓の Kupffer細胞や脾臓マクロファージ、腹腔マクロ ファージなどの各種マクロファージや、肝類洞内皮 細胞、樹状細胞などに発現している。静脈内投与さ れたマンノース修飾高分子は、ガラクトース修飾高 分子同様、肝臓に集積するが、その移行先は主に肝 類洞内皮細胞と Kupffer細胞である。樹状細胞など の抗原提示細胞にも発現することから、マンノース 修飾による抗原提示細胞への標的化が可能である。 B型肝炎ワクチンの HEPLISAV―B には CpG オ リゴである CpG1018が含まれる。CpG オリゴの標 的細胞である抗原提示細胞による取り込みを促進す る方法には、ナノ粒子化やナノ構造化に加えて、マ ンノース修飾の利用が考えられる。筆者らは、天 然型CpG オリゴの5'末端をマンノースで修飾した マンノース修飾CpG オリゴを新たに合成し、これ 図5 CpG オリゴ添加によるマウス腹腔マクロファージからの腫瘍壊死因子αの放出 (文献28のデータをもとに改変) Man-CpG/ hexapodna CpG/ hexapodna Hexapodna Man Man-CpG CpG Medium 120 100 80 60 40 20 0 TNF-α ( pg/mL ) P<0.05 P
テロールは、超低密度リポタンパク質(VLDL)と結 合した後、低密度リポタンパク質(LDL)へ変換さ れ、LDL レセプター(LDLR)を介して種々の細胞に 取り込まれる。さらにコレステロールが過剰に存在 する場合は、VLDL/LDL に加えて高密度リポタン パク質とも結合し、SR―B1レセプターを介して主 に肝細胞に取り込まれる32, 33)。したがって、コレス テロールやα―トコフェロールで修飾した核酸はリ ポタンパク質の循環経路に従って大部分が肝臓へ移 行するため、肝臓を標的とした疾患治療への応用が 期待されている34)。しかしながら、コレステロール 修飾核酸では Kupffer細胞などの肝非実質細胞への 分布割合が高く、肝細胞への効率的なデリバリーを 目的としてコレステロールを効率よく切り離す試み が検討されている31, 35)。 8.おわりに 実用化された核酸医薬品は、標的細胞内で標的分 子と相互作用し、薬効を発現することが実証されて いることから臨床で疾患治療に用いられている。し かしながら、その体内動態は必ずしも最適化されて いるとはいえない。核酸医薬品の構造的特徴を最適 化することで、血中や組織中でのタンパク質をはじ めとする生体成分との相互作用を精密に制御し、標 的部位へのデリバリー効率を上昇させることが、核 酸医薬品のさらなる発展につながると考えられる。 核酸医薬品の開発に DDS が貢献できる余地は依然 として大きい。 文献 1)井上貴雄 ,実験医学 ,37,2-7(2019) 2)Crooke,S.T.,etal.,CellMetab. ,27,714-739(2018) 3)西川元也 ,実験医学 ,37,34-39(2019)
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