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外国人の子どもを対象とした貧困研究の成果と教育実践上の課題

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外国人の子どもを対象とした貧困研究の成果と

教育実践上の課題

新 藤   慶

群馬大学教育実践研究 別刷

第38号 287~296頁 2021

群馬大学共同教育学部 附属教育実践センター

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群馬大学教育実践研究 第38号 287~296頁 2021

外国人の子どもを対象とした貧困研究の成果と

教育実践上の課題

新 藤   慶

群馬大学共同教育学部学校教育講座 外国人の子どもを対象とした貧困研究の成果と教育実践上の課題 新藤 慶

The Poverty of Foreign Children and the Agendas in Education Practice

Kei SHINDO

Department of Education, Cooperative Faculty of Education, Gunma University キーワード:外国人の子どもの貧困、エスニシティ、子ども家庭福祉 Keywords : poverty of foreign children, ethnicity, child and family welfare

(2020年10月30日受理) 1 問題の所在 1.1 外国人の子どもの存在感の高まり  グローバリゼーションの進展に伴い、ヒト・モノ・ カネ・情報が国境を超えて行き来する状況が、ますま す進んでいる。2020年に限定していえば、新型コロナ ウイルス(COVID-19)の世界的流行により、これら の移動は例年に比べれば落ち込んでいるが、それまで の状況についていうと、たとえば日本に暮らす外国人 の数は増加を続けている。2019年末の法務省「在留 外国人統計」をみると、2,933,137人と約300万人に達 し、日本に暮らす人々の約2.3%を占めるまでになっ ている。  これに比べると、外国人の子どもの割合は低い。文 部科学省の「学校基本調査」によれば、全国の小学 校に通う外国人児童は2019年度で66,017人となってお り、これは小学生全体の1.04%にあたる。一方、全国 の中学校に通う外国人生徒の数は25,822人で、これは 中学生全体の0.80%となっている。ただし、これらの 割合は、学校基本調査で外国人児童生徒の数が公表さ れているなかでは、もっとも高くなっている。  もっとも、これらは小学校や中学校に通っている子 どもたちについての数字であり、学齢期であっても小 学校や中学校に通っていない場合もある。これは、文 部科学省が「普通教育を受けさせる義務は、我が国の 国籍を有する者に課されたものであり、外国人には課 せられないと解される」との見解を示していることに よる1)。そのため、学齢期であっても、学校に籍を持 たない不就学の外国人の子どももいる。  2019年5~6月に全国の市区町村教育委員会を対象 に行われた「外国人の子供の就学状況等調査」によ れば、このときに確認された不就学の子どもは全国 で630人であり、この調査の対象となった外国人の子 ども全体の0.6%となっている。ただし、「出国・転居 (予定を含む)」や所在が確認できなかった「就学状況 確認できず」という場合、さらに、この調査で対象と なった外国人の子どもと、住民基本台帳上の学齢期に ある外国人の子どもとの差(後者の方が1万人以上多 い)が生じており、これらの子どもたちが仮に全員就 学できていないとすると、最大で22,488人が不就学の 可能性を持つとされている2)  また、特定のエスニシティの子どもを対象とした 「外国人学校」に通う子どももいる。朝鮮学校やブラ ジル人学校などのこうした「外国人学校」に通う子

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どもは、同調査では5,023人となっており、この調査 の対象となった外国人の子ども全体の4.4%となって いる。そして、小学校や中学校などの「義務教育諸 学校」に通う子どもは96,370人であり、対象者全体の 84.8%となっている3)。この子どもたちが、冒頭の小 学生全体の1.04%、中学生全体の0.80%にあたる子ど もたちになる。  一方、法務省「在留外国人統計」で年齢別の在留外 国人数をみると、2019年12月末時点で、20歳未満の在 留外国人数は372,347人となっている。一方、住民基 本台帳人口をみると、2020年1月1日現在で、20歳未 満の人々は21,405,309人となっている。これを分母と して、在留外国人の数を分子とすると、日本に暮らす 20歳未満の外国人の割合は、20歳未満の人口全体の約 1.7%となっている。全世代でみた場合の外国人比率 が2.3%であることに比べればやはり割合は少し低い が、それでも外国人の子どもの存在感は大きくなって きているといえる。 1.2 外国人の子どもと子どもの貧困  一方、2013年に子どもの貧困対策法が成立して、子 どもの貧困対策が具体的に進められるようになった。 そのもっとも基本的な部分を示す国の「子供の貧困対 策に関する大綱~日本の将来を担う子供たちを誰一人 取り残すことがない社会に向けて~」(2019年11月) をみると、「特に配慮を要する子供への支援」として 「外国人児童生徒等への支援」という項目が立てられ ている。ただし、後述のように、外国人の子どもの対 策は、基本的には日本語指導の拡充という形で進めら れており、子どもの貧困との結びつきはまだそれほど 具体化していない。  しかし、外国人の子どもの状況をみれば、貧困の問 題が大きく関わっている状況もうかがえる。そこで本 稿では、外国人の子どもの貧困を扱った研究を検討す るなかで、外国人の子どもの貧困に関する実態と、外 国人の子どもの貧困に関わる問題を確認したうえで、 今後求められる教育実践上の課題を整理することを目 的とする。 2 外国人の子どもの貧困をめぐる研究の状況 2.1 「子どもの貧困」に「外国人」を加えた把握  「外国人の子どもの貧困」については、これを直接 的な主題とする研究は多いとはいえないが、一定の研 究の蓄積がみられる。ただし、これまでの「外国人の 子どもの貧困」をみると、「外国人の子どもの貧困」 をテーマに掲げながら、「外国人」「子ども」「貧困」 の3つの要素のうち2つを組み合わせた研究が大半で あったことがわかる(新藤 2019)。つまり、「外国人 の子ども」の研究か、「外国人の貧困」の研究、また は、「子どもの貧困」の研究のいずれかという形でし か展開しづらいということである。このことは、2つ の要素で進められる研究の領域に、残りの一つを加え ることで、「外国人の子どもの貧困」という独自の問 題領域が浮かび上がることを意味している。  たとえば、「子どもの貧困」の研究は近年急速に蓄 積がみられるが、そこに「外国人」の視点は十分に組 み込まれていなかった。これは日本以外の研究にも 共通する問題で、たとえばBorjas(2011:248)は、 「その国の子どもと移民の子どもの貧困の違いについ ては、ほとんど研究されてこなかった」と指摘してい る。しかし、後述のように、外国人の子どもがより貧 困の問題を抱えやすい状況が存在している。 2.2 「外国人の貧困」に「子ども」を加えた把握  「外国人の子どもの貧困」は、基本的に外国人世帯 が抱える貧困に起因しており、実態としては「外国人 の貧困」を追究することで明らかにされてきた。  たとえば、山野良一は、2007年に静岡県在住の外国 人を対象として行われた調査に基づき、税込の世帯年 収の中央値は300万円程度であること、相対的貧困率 が半数程度と推算できることを明らかにしている(山 野 2017)。また、宮島喬は、2009年に静岡県在住の外 国人を対象に実施された調査から、世帯年収の中央値 を270万円程度、相対的貧困率を35%程度と推計して いる(宮島 2013)。  また、1999~2007年にかけて行われた群馬県大泉 町、愛知県豊橋市、静岡県浜松市の公立小中学校に子 どもを通わせるブラジル籍・ペルー籍の保護者を対象 とした調査では、世帯年収の平均は約300万円であっ た(表1)。また、2016年に群馬県大泉町の公立小中

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289 外国人の子どもを対象とした貧困研究の成果と教育実践上の課題 学校に子どもを通わせるブラジル籍の保護者を対象と した調査でも、平均世帯年収は税込346.2万円となっ ている(新藤 2019:109)。調査年次や対象地域によっ て多少の差異はあるが、ブラジル籍を中心とする在留 外国人家庭に暮らす子どもの経済的環境は、決して安 定的なものではないことがわかる。  これらは「外国人の貧困」を示すデータであるが、 こうした状況のなかで多くの外国人の子どもが生活し ていることに着目していく必要がある。そのことの重 要性を、次節でさらに展開したい。 3 「外国人の子ども」に「貧困」を加えた把握 3.1 外国人の子どもと言語・文化の問題  「外国人の子ども」の研究は数えきれないほど手が けられているが、そこで多かれ少なかれ触れられるの は「言葉」の問題である。日本に暮らす外国人の子ど もであれば、日本語能力の不足の問題は避けて通れな い。ニューカマーの子どもの問題は、1990年の出入国 管理法改正により、「定住者」資格が創設され、日系 3世までに在留資格が付与されることで、ブラジルや ペルーなど、南米を中心に日系人の子どもたちが数多 く来日することによって研究が進められるようになっ た。そのなかでは、いかにニューカマーの子どもが言 葉の問題で苦労しているかや、この課題に現場の教師 たちがどのように対応しようとしているかなどが明ら かにされてきた。  初期のころは、対応は現場任せであったが、そのな かから「取り出し指導」や「入り込み指導」といった 指導の形態が確立していった。国語や社会など、日本 語が十分に理解できていないと習得が難しい時間に在 籍学級から取り出されて、「日本語学級」や「国際学 級」などで日本語指導を受ける「取り出し指導」や、 在籍学級の時間に担当以外の教師が教室に入り込み、 外国人の子どもの横について個別にフォローする「入 り込み指導」が行われてきた。  国レベルでも遅れて対応が進み始め、2005年には、 日本語を第二言語とする子ども向けのJSLカリキュラ ム(JSL=Japanese as a Second Language)がまと められ、公表されるようになった。また、2014年に は、学校教育法施行規則の一部改正により、それまで 障害を抱える児童生徒向けに適用されていた「特別の 教育課程」を、日本語指導が必要な児童生徒にも適用 することが可能となった。この背景には、全国の小学 校・中学校・義務教育学校・高等学校・中等教育学 校・特別支援学校に在籍する日本語指導が必要な外国 籍児童生徒が2007(平成19)年度には25,411人であっ たところ、2018(平成30)年度には40,755人へと約1.6 倍増加していることがある(図1)。  しかし、このことに加えて、日本語指導が必要な日 本国籍の児童生徒の数も、2007(平成19)年度には 4,383人であったものが、2014(平成26)年度時点で 7,897人、2018(平成30)年度には10,371人と、2007 年度と2018年度を比較すれば約2.4倍に増加している ことがある(図2)。日本国籍で日本語指導が必要な 児童生徒は、(1)いわゆる「帰国生」という形で、 両親が日本国籍でも外国で生まれたり、日本生まれで も幼いころに外国に渡ったりするなどして、日本語の 習得が十分でないケース、(2)両親が日本国籍と外 国籍の国際結婚をしていて、日本以外の地域での生活 が長いなど日本語を十分に身につけられていないケー ス、(3)日系人などのなかで、日本国籍を保持しつ つ、外国での生活が基本でその国の国籍も持つという 重国籍の状態にあり、日本語を学ぶ機会が乏しかった ケース、などが含まれている。  こうした日本語指導が必要な児童生徒のなかに日本 国籍の者が多く含まれるようになると、「日本語指導」 という、通常の教育課程に含まれない教育活動が学 p=.805 注:1)不明・無回答を除く。 2)単位=%。      出所:新藤・菅原(2009)をもとにした新藤(2019:109)より引用。 表1 公立ブラジル人児童生徒の保護者の世帯年収

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校で行われることになり、問題が生じる。その観点か らも、「特別の教育課程」を編成することは合理的で あったと捉えられる。

 また、特別の教育課程を編成する際、その子どもの 日本語能力を適切に把握する必要がある。この点につ

いても、『Dialogic Language Assessment for Japanese as a Second Language 外国人児童生徒のためのJSL 対話型アセスメント』(東京外国語大学留学生日本語 教育センター編 2014)がまとめられ、子どもの日本 語習得の状況を見極めながら、特別の教育課程が編成 図2 日本語児童が必要な日本国籍の児童生徒数の推移 出所:文部科学省総合教育政策局男女共同参画共生社会学習・安全課(2020)より引用。 図1 日本語児童が必要な外国籍の児童生徒数の推移 出所:文部科学省総合教育政策局男女共同参画共生社会学習・安全課(2020)より引用。

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291 外国人の子どもを対象とした貧困研究の成果と教育実践上の課題 できるようになった。加えて、2019年には日本語教育 推進法が施行され、幼児期・学齢期を含め、外国人に 対する日本語教育推進の理念や方針の法的根拠が示さ れることとなった。このように、外国人の子どもの対 応は、日本語教育を中心に進められてきた。  一方、オールドカマーについては、さらに膨大な研 究の蓄積があるが、戦後、在日韓国・朝鮮人を中心と したオールドカマーの間では、朝鮮語や朝鮮文化の教 育が行われ、民族講師による放課後の講習や朝鮮学校 の創設へとつながっている(呉 2019など)。こうした 母語・母文化の重要性はニューカマー研究にも引き継 がれ、この領域ではもはや「古典」といっていいが、 ニューカマーの子どもを扱った初期の体系的な研究で ある太田(2000)や志水・清水編(2001)などでも、 ニューカマーの母語保障の重要性が挙げられている。  さらに、文化のことに関しては、日本語力と日本文 化の理解力とは異なることが、主に心理学の領域から 指摘されている。日本人の側からしてみると、日本語 ができれば、そこに込められている文化的な意味合い も同時に理解していると思い込んでしまうことがあ る。そうしたことが、「日本語はわかっているはずな のに、決められたルールを守らない」といって外国人 の子どもが排除されたり、「母語に翻訳した文書を用 意しているのに、保護者が必要なものを用意してくれ ない」といわれたりしてしまう状況が生み出される。 しかし、日本語だけでなく、日本の学校文化を理解し ていないと、うまく対処することが困難になりうる。 こうした状況は、「文化の聴解力」(森田 2007)、「ス キーマ」(西田編 2011)、「文化文法」(戸塚 2018)な どといった概念を使って説明されている。  こうした形で、外国人の子どもについては、言語や 文化の問題がクローズアップされている。それだけ外 国人の子どもにとっては大きな問題であり、当然のこ とではある。しかし、外国人の子どもが抱えるのは言 語や文化の問題だけではなく、貧困の問題も含まれう ることは、冒頭のデータでも示した通りである。 3.2 エスニシティによる子どもの貧困の差異  このことは、外国人の子どもの学習権を損なうこと にもつながる可能性がある。たとえば、自身も在日外 国人の子どもとして育ってきたオチャンテ・村井・ロ サ・メルセデスは、外国人の子どもの貧困について、 「保護者の突然の解雇、低賃金のため学校を転校、経 済的な理由で高等学校を中途退学するケースや進学を あきらめる若者もいる。またキャリアについての情報 提供がないまま保護者と同じ非正規の道を選択する若 者も少なくない。このような現状から、貧困の連鎖が 生まれていると思われる」(オチャンテ 2020:33)と 指摘する。  ただし、こうした外国人の子どもの貧困は、エスニ シティの違いによって異なった様相を示す。たとえ ば、樋口直人・稲葉奈々子は、2010年の国勢調査デー タを用いて、在留外国人の学歴や階層を国籍別に明ら かにしている。これを整理し直したものが、表2で ある。これをみると、19~21歳の大学生の世代で大学 に在学している割合は、「韓国・朝鮮」で47.0%、「中 国」で44.5%とかなり高くなっている。「日本」国籍 の者で45.2%であるので、日本人と同等か、むしろ日 本人よりも高い水準となっている。  これに対し、「ブラジル」では11.8%、「ペルー」で は11.3%、「フィリピン」では9.7%にとどまってい る。韓国・朝鮮籍や中国籍の若者に比べ、4年制大学 に進学する割合は4分の1程度の水準にとどまってい る。  また、親世代についてみると、親世代にあたる40~ 49歳の年齢層で、「中国」では大卒割合が26.1%、「韓 国・朝鮮」では20.8%と2割を超えている。「日本」 でも22.1%であるから、やはり日本人と同等か、むし ろ高学歴である状況がわかる。  一方、「フィリピン」では17.0%、「ペルー」では 表2 在留外国人の階層再生産構造 日本 中国 韓国・朝鮮 ブラジル フィリピン ペルー 40~49歳の大卒割合 22.1 26.1 20.8 11.0 17.0 16.0 40~49歳の「専門・管理・事務・販売」割合 42.6 20.6 30.0 6.8 5.5 4.2 19~21歳の大学在学割合 45.2 44.5 47.0 11.8 9.7 11.3 注:単位:%。 出所:樋口・稲葉(2018)をもとに作成。

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16.0%、「ブラジル」で11.0%となっており、相対的 に低学歴である。しかし、親世代の全体的な大卒者割 合の低さもあるが、その水準は、韓国・朝鮮籍、中国 籍と比べてもせいぜい2分の1の水準であり、4倍の 開きがあった子世代よりは幅が狭い。つまり、親から 子への世代交代のなかで、学歴水準の格差がむしろ広 がったと捉えられる。  その理由の一つが、在留外国人家庭の階層である。 親世代(40~49歳)の専門職・管理職・事務職・販売 職といったいわゆるホワイトカラー層の割合をみる と、「韓国・朝鮮」で30.0%、「中国」では20.6%と2 ~3割となっている。「日本」は42.6%であり、この 面では日本人と外国人の差は大きいが、韓国・朝鮮 籍、中国籍の人々も相対的にホワイトカラーの割合が 高いといえる。  対して、「ブラジル」では6.8%、「フィリピン」で は5.5%、「ペルー」では4.2%と、いずれも1割にと どかない。つまり、親世代がホワイトカラー層である か否かが、子世代の大学進学率の高低と結びついてい ることがわかる。ここには、「親世代の学歴→親世代 の階層→子世代の学歴」という学歴・階層をめぐる親 子間の再生産構造が見出され、それぞれ高位で推移す る韓国・朝鮮籍、中国籍の人々と、それぞれが低位で 推移するブラジル籍、フィリピン籍、ペルー籍の人々 が存在することがわかる。  特に、親世代と子世代では、教育達成の水準の格 差が拡大していることが注目される。Takenoshita (2006)は、神奈川県在住の外国人について、出身 国での職と日本での職の関連をまとめているが、こ れをみると、日本では「ブルーカラー職」の割合が 高い「ラテンアメリカ」(83.2%)や「東南アジア」 (69.7%)の人々でも、出身国で「ブルーカラー職」 に就いていた人々は1割程度かそれより低い水準であ ることを示している(表3)。  この点からは、エスニシティごとに、労働市場が異 なって形成されていることがうかがえる。すなわち、 韓国・朝鮮籍や中国籍では、留学を機に来日し、その まま日本で専門職に就くというパターンが比較的多い のに対し、ブラジル籍、フィリピン籍、ペルー籍で は、母国での学歴や職歴は考慮されず、ブルーカラー 職に携わるというケースが多いことがうかがえる。移 民についてはネットワークを介した連鎖移民の形態が とられることが知られており、同じ国籍で先行して移 民している者を頼って移民する状況が比較的多い。そ のため、先行して移民している同国出身者と同じよう な就労状況になりやすい。  ブラジル籍、ペルー籍では先述のように1990年の出 入国管理法改正による「定住者」資格を利用した来 日が多いが、これは、当時のバブル景気のなかでの 買い手の労働市場下にあって、「きつい」「汚い」「危 険」の頭文字をとった「3K労働」と呼ばれるブルー カラー職の人手不足を補うために導入された側面も強 表3 神奈川県在住移民における出身国での職と日本での職の関連 出所:Takenoshita(2006)をもとに作成した永吉(2020:99)より引用。

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293 外国人の子どもを対象とした貧困研究の成果と教育実践上の課題 かった。そこで、ブラジル籍、ペルー籍の場合は、最 初の世代がブルーカラー職に就いたため、後続の世代 も同様にブルーカラー職に就きやすい状況があったも のと捉えられる。フィリピン籍については、興行ビザ での来日、農村花嫁としての来日など複数のパターン があって一つの傾向を示しにくいが、戦前にフィリピ ンに渡った日本人の子・孫世代である日系人も少なか らずおり、ブラジル籍やペルー籍の場合と共通する事 情もあったものと思われる。  こうしたことをふまえると、とりわけブラジル、ペ ルー、フィリピンからの子どもたちを受け入れている 地域の学校は、「言葉や文化が異なる子どもたちを受 け入れているという問題」だけでなく、「社会経済的 に厳しい家庭状況にある子どもを受け入れているとい う問題」も同時に抱えていることになる。「外国人の 子ども」の論点に「貧困」を加えることは、こうした 問題を可視化することにつながる。 4 外国人の子どもの貧困への対処 4.1 家庭も含めた対処  こうした外国人の子どもの貧困について、どのよう に対処していくことが求められるのだろうか。この点 を先行研究から探ると、まず山野上麻衣は、外国籍の 子どもの不就学を「教育権や教育達成をめぐる枠組み や問いのみにとどまるべきではなく、子どもの貧困概 念に即した議論を展開していく必要」(山野上 2020: 99)を提起している。ここでいう「子どもの貧困概念 に即した議論」とは、子どもの貧困が、子どもの権利 条約に規定される「生きる権利」「育つ権利」「守られ る権利」「参加する権利」を侵害する(湯澤 2013)こ とをふまえた、子どもの人権侵害につながる問題とし て把握するということである。このような視点を持つ ことで、単に学校に通う/通えないという次元だけで はなく、「(就学を不安定化させるほどの)家族の困難 や不利」(山野上 2020:97)を問題の射程に置くこと ができる。この点は、外国人の子どもの貧困問題を子 ども家庭福祉の観点から把握することにもつながる。  外国籍の子どもの貧困と子ども家庭福祉の接点でい えば、ニューカマー集住地域の学校の日本語学級で、 母語を交えて日本語指導や学習指導の補助を担う母語 支援者(「日本語指導助手」などと呼ばれる)の役割 が重要である。母語支援者は、単に外国籍で、日本語 指導が必要な子どもの日本語や学習の支援を行うだけ でなく、学校からの各種文書のプリントなどの翻訳を 担う。また、学級担任などが外国籍保護者に連絡を取 る際の通訳を担ったりもする。ただし、これらは単に 母語と日本語との翻訳・通訳だけを担っているわけで はない。そこで伝達される日本の学校文化に根差した 指導の意味を伝えるという「文化の通訳」も担うこと になっている。こうした言語だけでなく、文化面での 通訳を担うことを通じて、母語支援者は外国籍家庭の 福祉向上にも貢献しているのである。こうした母語 支援者は日本語教育充実の文脈で位置づけられている が、こうした子ども家庭福祉の文脈からも位置づけ、 この文脈からも政策的に拡充を図ることが望まれる (新藤 2020)。  さらに、通訳が外国籍家庭からの全般的な相談や、 行政手続きへの橋渡しの役割を担っていることは、公 立保育所に配置されている通訳を対象とした研究でも 明らかになっている(品川 2011)。「文化の通訳」を 通じた外国籍家庭支援の重要性を適切に認識すること が求められる。 4.2 外国人の子どもの貧困家庭を対象とした政策  一方、アメリカの研究では、人種・民族別の子ども の貧困率を計測するためのデータがそろっており、そ のための技法の開発も進んでいる。たとえば、Nolan et al.(2016)は、税の再配分や、貧困世帯向けのプ ログラムによる支援を調整したうえで、図3のような 人種・民族別に子どもの貧困率の推移をまとめてい る。全体的に子どもの貧困率は低下してきているが、 非ヒスパニックの白人の子どもで、もっとも貧困率が 低い。一方、非ヒスパニックの黒人やラテン系では 依然として貧困率は高く、2014年には白人の子ども の貧困率が9.6%であるところ、黒人やラテン系では 28.2%と3倍近い開きがある。  このような状況のなか、Murdock et al.(2010) は、エスニック・マイノリティの子どもでは、貧困率 が髙く、親の学歴が低く、病気が放置されることが多 いといった形で、貧困・教育・健康の面での不利益が 生じていることを明らかにしている。特に、ヒスパ ニック系の子どもでその傾向が強くみられるとしてい る。また、Borjas(2011)は、親の国籍別の子どもの

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貧困率を1994~1996年の5~15歳の時点と2007~2009 年の18~28歳の時点の2時点で調べている(図4)。 これをみると、5~15歳のときに貧困率が高かった国 籍の子どもほど、18~28歳になっても貧困率が高い状 況が示されており、幼少期の貧困が成人してからも解 消しない実態が浮かび上がる。  それでも、先のNolan et al.(2016)は、黒人やラ テン系の子どもの貧困率は低下してきており、税の再 配分や、フードスタンプなど食料や栄養の補助プログ ラム、住宅費の補助などの施策によって、黒人やラテ ン系の子どもの貧困率が改善されてきていることが指 摘されている。  一方、Lichter et al.(2005)は、アメリカにおけ る人種別の子どもの貧困状況を、母親の就業状況に着 図4 親の出身国別にみたアメリカに暮らす外国人の子どもの貧困率の時点間比較 出所:Borjas(2011)をもとにした新藤(2019:117)より引用。 図3 アメリカにおける人種・民族別にみた子どもの貧困率の推移 出所:Nolan et al.(2016:11)より引用。

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295 外国人の子どもを対象とした貧困研究の成果と教育実践上の課題 目して分析している。そこからは、一般的な子どもの 貧困と同様に、母子世帯での貧困率が高いこと、そし て、母親の就業が安定的なものになれば、子どもの貧 困率も下がり得ることが示されている。  このように、アメリカでは、外国人の子どもの貧困 を把握するデータが整っており、それらを駆使して、 具体的な政策提言やその効果の検証が進んでいる。 5 まとめ——今度の教育実践に向けて  以上、限られた範囲ではあるが、国内外で行われた 外国人の子どもの貧困をめぐる研究を概観し、その知 見を確認してきた。ここから明らかになったことを整 理すると、以下の通りとなる。  第1に、外国人の子どもの貧困は、問題として確実 に存在しているということである。日本では、外国人 の子どもの貧困を把握するデータが限られているが、 そのなかでも、外国人の子どもの貧困状況が明らかに されている。エスニシティによる差異も大きく、日本 の場合、特にブラジル籍、フィリピン籍、ペルー籍に ついては、家庭の社会経済的地位の相対的な低さと、 子どもたちの低学歴が結びつくという再生産構造の存 在をうかがわせる状況となっている。このことをふま えれば、外国人の子どもの貧困をより大きく政策課題 として位置づけ、まずは外国人の子どもの貧困につい て、全体状況を把握するデータを整備することが求め られる。  第2に、外国人の子どもの貧困は、子どものみでは なく、家庭を含めた福祉的な対応が求められるという ことである。結局のところ、外国人の子どもの貧困 は、生まれ育った家庭の貧困によるものであり、この 家庭の貧困が解消されなければ問題の克服にはつなが らない。そのため、アメリカでみられているような家 庭に対する経済的な給付や親の就労支援などが求めら れる。日本でも対策が進んでいないわけではないが、 外国人の親の場合、個人的なネットワークで就労先を 探すことも多く、日本人家庭に比べて就労に伴う困難 が大きいことが予想される。そうした外国人ならでは の問題も含み込んだ形での支援が展開されることが求 められる。また、個別具体的なやりとりでは、言語だ けでなく、文化的な意味合いを丁寧に伝えていく配慮 も重要となる。こうしたマクロ・ミクロの両面から、 外国人家庭を対象とした対策が求められる。  一方、第3に、教育実践の面からの対策については 十分な研究が進んでいない。本編では触れられなかっ たが、近年の状況に関していえば、教育機会確保法に 基づく夜間中学の整備が、学齢期に教育を受ける機会 を持てなかった外国人にとっても大きな意味を持つこ とが指摘されている(関本 2019;大多和 2020)。こ うした形で教育の機会が保障されることは、貧困状況 にある外国人の子どもが貧困から抜け出すうえで大き な効果を持つものと考えられる。また、制度的なこと でいえば、現在日本語指導の拡充中心に進んでいる外 国人児童生徒の集住地域の学校への支援は、貧困対策 の観点からも進められることが望まれる。  これに対し、日々の教育実践で何が求められるのか については、まだ十分にまとめられなかった。ただ し、ここで触れたような外国人の子どもの貧困に関 わる背景を土台に、外国人の子どもの「生活」や「文 脈」を把握していくことが重要となろう4)。そのう えで、「すべての子どもを特別扱いする」(志水 2009) という姿勢での個に応じた対応が重要となると考えら れる。  このような教育実践が十全に進められるような環境 をつくるための制度的・政策的な整備が進むよう、実 証的な知見を積み重ねることを今後の課題としたい。 注 1)文部科学省「外国人の子どもに対する就学支援について」 (https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/042/ houkoku/08070301/004.htm,2020年10月30日閲覧)。 2)文部科学省総合教育政策局男女共同参画共生社会学習・安全課 「外国人の子供の就学状況等調査結果(確定値)概要」(https:// www.mext.go.jp/content/20200326-mxt_kyousei01-000006114_01. pdf,2020年10月30日閲覧)。 3)同上。 4) こ こ で の「 生 活 」「 文 脈 」 の 使 い 方 に つ い て は、 宮 内 (2008)に多くを拠っている。 付記  本稿は、2016~2020年度日本学術振興会科学研究費基盤研究 (C)(研究課題「ブラジル人の子どもの教育を支える保護者― 教師・学校関係についての実践的研究」、課題番号16K04600、 研究代表者・新藤慶)に基づく研究成果の一部である。

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参考文献

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