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対面式タンデムとEタンデムを用いた実践活動の考察―日本語学習者と中国語学習者のケース・スタディ―

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対面式タンデムとEタンデムを用いた実践活動の考察

―日本語学習者と中国語学習者のケース・スタディ―

楊   旗 キーワード 対面式タンデム,Eタンデム,日本語学習者,中国語学習者,SCAT分析 はじめに  教育のグローバル化が推進され,高等教育機関に在籍する学生の国境を越えた移動も大幅に 増加している(青木2016)。グローバル化の影響で,日本へ留学する者が増えている。しかし, 留学生と日本人が会話する機会が少ないことが問題になっている。佐藤ら(2011)は「留学生は しばしば留学生だけでかたまっているので,日本人が話しかける機会も少ないし,また緊張し たり,恥ずかしかったりして話しかける勇気がもてなかったりする(p.149)」という日本人大 学生のコメントを紹介している。留学生と日本人とのコミュニケーションの機会が増えない一 因は,留学生が異文化コミュニケーション力を十分に身につけていないからだと推測される。 せっかく留学しても,実際に日本人と日本語で接する機会が少ないと,コミュニケーション能 力がほとんど身につかないという残念な結果となることも多いようである。  一方,日本国内の大学で外国語を学習している日本人学生には,外国語に慣れ親しむ環境が 少ない。楊・李(2012)によると,日本で中国語を学習する場では,「実践できるリアルな言語環 境が欠けている(p.83)」という。周りに留学生がいる国際化が進んだ大学では,留学生の母国 語を生かし,日本人外国語学習者とお互いに学びあう言語環境を活用できることが望ましい。 大学内において留学生と外国語を学習している日本人が異文化交流できる機会を作り出すこと が求められるのである。このニーズへの回答として,本研究では第二言語の実際使用場面を増 やすタンデム学習を提案する。  本研究の目的は,対面式タンデムとEタンデムを併用した学習活動(ワークショップ)の分 析と考察である。研究課題は,1)参加者はどのような学びを得たか,2)参加者は活動に対し どのような評価をしたか,3)対面式タンデムとEタンデムの改善点は何か,の三点である。参 加者は,対面式タンデムとEタンデムに参加した日本語学習者3名と中国語学習者3名のペアで ある。 1.先行研究 1.1 タンデム学習の定義  タンデム学習の定義に関する研究としては,山本(2013),脇坂(2013)などがあり,それぞれ

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以下のように述べている。 タンデム(Tandem)とは二人乗りの自転車を意味するが,言語教育・学習の分野においては, 母語や熟達言語の異なる2人が,ペアで互いの言語学習を手助けするシステムを言う(山 本2013:54)。 Eタンデム(eTandem)とは,母語の異なる2人がペアになり,インターネットを介して,互 いの言語や文化を学び合うという学習形態のことである(脇坂2013:1)。 1.2 タンデム学習の現状  小林(2016)は日本国内におけるタンデム学習の現状を概観し,インターネット検索エンジ ンであるヤフーと,国立情報学研究所の学習情報検索データベース・サービスCiNiiを利用して, 日本国内におけるタンデム学習の現状を,言語交換・交換レッスンと対比的に紹介した。一般 的なインターネット検索エンジンでは,「言語交換」と「交換レッスン」を検索すると,見つか るのは交換レッスン参加者を募集するサイトがほとんどであるのに対して,「タンデム学習」の 場合,大学で実施されているプロジェクトやその実践報告が現れたという。また,小林(2016) は「タンデム学習という用語は,アカデミックな世界で出現するのに対し,言語交換・交換レッ スンという言葉は,一般的な世界でよく使われることがわかった(p.137)」と指摘している。さ らに,学術的なCiNiiでは,「タンデム」を検索するとわずかに5件しか出てこなかったほか,「言 語交換」2件,「交換レッスン」では皆無という結果になったことが分かった。 1.3 タンデム学習を用いた実践研究  対面式タンデム学習の実践では,大河内(2011),脇坂(2012),山本(2013)などが挙げられる。  大河内(2011)は,ドイツの大学と三重大学とのタンデム・プロジェクトの過去5年間の実践 結果に基づいて,夏季タンデムコースがドイツ語学習者にもたらした効果について報告した。 その結果から,異文化交流の楽しさがタンデムコースに対する高い満足感をもたらし,ドイツ 語学習を継続する動機付けとして機能して,次年度のタンデムコースへの参加や春季海外語学 研修への参加,さらに1年間の短期留学へとつながっていると結論付けた。  脇坂(2012)は,対面式タンデム学習を行った日本語学習者Melさんと英語学習者Junさんの ケース・スタディを取り上げ,外国人と日本人の言語学習場面において互恵性がどのように学 習に影響を与えるかを論じた。そして,現在の日本では,タンデム学習の認知度は依然として 低く,実践もほとんどされていないことを指摘している。  山本(2013)は,山口大学多言語化プロジェクトの一環である≪Tandem≫のシステムと参加 者について詳述している。活動評価アンケートの結果から,参加者の多くが≪Tandem≫に満足 していることが明らかになったが,更に人的リソースを活かしていくこと,学内に多言語を学 ぶ「意識」を形成していくことが今後の課題であると述べている。

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 Eタンデム学習の実践についての研究には脇坂(2013),林・杉原(2013)などがある。  脇坂(2013)は,ドイツと日本でのインターネットを介した遠隔のタンデム学習(Eタンデム) を試みた。Eタンデム学習を続けたドイツ人日本語学習者の動機変化の要因を検討し,Eタン デム・プロジェクトとは直接関係のない要因からのストレスやプロジェクトの内容(活動やタ スク)の負担(学習日記を書くことなど)によって動機が低下したと述べている。  林・杉原(2013)は,スカイプを利用した日本語・ドイツ語遠隔タンデム授業の実践を試み, タンデム実施における問題点および工夫点を明らかにした。これは本研究も含む今後のEタン デム学習にとって参考になるだろう。  以上の先行研究から,タンデムを用いた実践研究はEタンデム学習あるいは対面式タンデム 学習のどちらかの方法で実践されていることが明らかになった。すなわち,本論文執筆時の 2017年現在,対面式タンデムとEタンデムを併用した学習活動についての分析・考察はほとん どないのが現状である。そこで,本研究では,中国人日本語学習者と日本人中国語学習者を対 象に,対面式タンデムとEタンデムを併用した学習活動(ワークショップ)を行うことにする。 この試みを通して,参加者が協働的に何を学び合っているのか,活動についてどのような評価 をしているのか,また対面式タンデムとEタンデムを併用した活動の改善点は何かなどについ て分析と考察を行うことを目的とする。 2.調査概要と分析方法 2.1 調査概要  予備調査(1)を踏まえ,2016年10月∼ 2017年1月の3ヶ月間に実践タンデム学習活動(本調査) を実施した。参加者は,日本のA大学に在籍する学生6名で,日本人中国語学習者(Japanese learners of Chinese)3名と中国人日本語学習者(Chinese learners of Japanese)3名である。母語の 異なる2人が,1組のペアとなり,合計で3組のペアを形成した。稿者はコーディネーターとして, 学習活動を参与観察した。6人のプロフィールをペアごとに,以下の表1に示す。   タンデム活動は8回あり,対面式タンデムは1回目から4回目まで各回1時間程度,引き続きE タンデムは5回目から8回目まで各回30分程度行った。学習内容は主に自分の学習ニーズに基 づいて行った。本研究では,脇坂(2012,2013)の「振り返り」,「公平な学習活動」,「計画」とい う3段階の枠組みを採用し,対面式タンデムとEタンデムを併用した学習活動について調査・分 析を行った。調査方法は2回のアンケート調査と実践活動後の1回のインタビュー調査である。 2.2 分析方法  本研究では,アンケート(部分)の分析は単純集計を用いた。アンケート用紙の質問の回答ご とにその数(度数)を集計し,構成比を求めてグラフを作成した。半構造化インタビューデータ 及びアンケートの自由記述欄は,大谷(2008,2011)のSCAT(Steps for Coding and Theorization) 分析手法を採用した。

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表1 参加者プロフィール ペア 仮名 性別 専攻 母語 目標言語 CEFRえた到達レベル(2)に置き換 参加理由 A 賈珊 女 経営学 中国語 日本語 B1~B2 日本人と話したい タカ 男 中国語会話 日本語 中国語 A1 中国の方と話した事がなかったので,興味があっ た B 妍 女 RJ (3) 中国語 日本語 B1 日 本 人 と1対1で 話 し た かった もも 女 リベラルアーツ 日本語 中国語 A1 (中国語を)学びたかった C ミッチー 女木子 女 リベラルRJ 中国語 日本語 B1 日本語を伸ばしたい アーツ 日本語 中国語 B1 リアルな中国語を学習したかった 3.分析結果と考察 3.1 参加者の学び (1)言語的学び  参加者の言語的な学びは,自分が学びたい目標言語に関する知識,生活用語,学校の宿題の 補完や手伝い,文法,慣用表現,ネイティブが使っている自然な若者の話し言葉,タンデムで提 供した話題などであった。これらの学びにより,会話力,読み力,語彙力,聴く力や口頭表現が 向上したことが判明した。本研究で得られた言語的な学びはこれまでの先行研究の結果(宮下, 2016)と類似しており,特に,学習内容(宿題の相互補助,日常の会話)はほぼ同様である。こ れは参加者のオートノミー性(何を学びたいか)の類似によるものと考えられる。 (2)タンデム学習方法の学び  3ヶ月を経て,参加者はタンデム学習方法を学んだ。タンデム学習方法とは外国人を対象に 母語を教える方法と,外国人から知識を主動的に獲得する方法である。つまり,互恵性があり, 互いから学び合う学習方法である。学習者は,教室で教師から教わる方法や自習方法以外にも, 有効な学習方法があることを学んだと言えるだろう。 (3)学習ストラテジーの学び  本研究では,大谷(2008,2011)のSCAT法を用い,オックスフォード(1994)の学習ストラ テジーの概念を適用して分析を行った。分析の結果から,タンデム学習では記憶ストラテジー, 認知ストラテジー,補償ストラテジー,メタ認知ストラテジー,情意ストラテジー,社会的スト ラテジーの6つのストラテジーが用いられることが示された。参加者は上述したストラテジー を使用し,タンデム学習を行った。つまり,学習ストラテジーを実践的に学べることが示唆さ れた。

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(4)社会的な学び  参加者がタンデムで学んだ社会的な学びは,以下のようにまとめられる。  1)【両国に関する理解】目標言語の国に関することや文化への深い理解,自分の国の文化に 対する考え方の転換ができた。2)【自己認識と他者認識】自己認識の変化があり,自分に不足 する点や学習中の注意すべき点がわかった。責任感が増し,正しい言語を教えたいと思った。 また,パートナーの考え方やレベルの判定ができるようになった。3)【対人の配慮意識】教え る時,パートナーに配慮する意識が持てた。 3.2 活動評価 (1)有用性,満足度  活動の評価アンケートの結果,タンデム学習には有用性(4)があり,高い満足度が得られてい ることが分かった。また,(1)対面式タンデムの方がEタンデムより有用性が高いこと,(2)対 面式タンデムはEタンデムより高い満足度が得られていることが分かった。すなわち,対面式 タンデムのほうが評価されていると言える。これはEタンデムが通信環境に左右され,通信状 態,音質,可視性において弱点があるためであると推測される。 (2)学習時間,頻度  対面式タンデムの学習時間は1時間程度であったが,学習時間が不足していると感じる参加 者が6人中2人いた。また,週1回の学習頻度がちょうどいいとした参加者が6人中2人いた。週 2回を提案する人が6人中2人いた。Eタンデムの学習時間は30分程度であったが,学習時間不 足を感じた参加者が6人中5人であった。週1回の学習頻度がちょうどいいとした人が6人中4 人いた。週2回を提案した人が6人2人いた。学習時間,頻度に多様な評価が出たのは,参加者 間の相性が希望する時間,頻度に影響することが一因であると考えられる。学習時間,頻度の 評価は,以下の表2に示す。 (3)コーディネーター  タンデム学習活動をスムーズに進めるために,コーディネーター 1名を設置した。コーディ ネーターは活動管理,ガイド,参与観察をした。全員(6人)がコーディネーターの役割にいい 評価をしたことが分かった。しかし,インタビュー調査の結果,参加者はコーディネーターに 依存する心理があるという可能性が見られた。どうして参加者はコーディネーターに依存する 心理があったのだろうか。それはコーディネーターの役割が関わっていると思われる。つまり, 参加者には,話題を見つけられない時にはコーディネーターが話題を提供してくれるからとい う考えがあり,コーディネーターに依存する心理があったのである。 (4)タンデム学習の利点と弱点  タンデム学習の利点と弱点について,SCAT分析法を用い,学習評価アンケートの分析結果

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表2 学習時間,頻度の評価 5 習中の注意すべき点がわかった。責任感が増し,正しい言語を教えたいと思った。また,パートナー の考え方やレベルの判定ができるようになった。3)【対人の配慮意識】教える時,パートナーに配慮す る意識が持てた。 3.2 活動評価 (1)有用性,満足度 活動の評価アンケートの結果,タンデム学習には有用性(4)があり,高い満足度が得られていること が分かった。また,(1)対面式タンデムの方が E タンデムより有用性が高いこと,(2)対面式タンデム はE タンデムより高い満足度が得られていることが分かった。すなわち,対面式タンデムのほうが評価 されていると言える。これはE タンデムが通信環境に左右され,通信状態,音質,可視性において弱 点があるためであると推測される。 (2)学習時間,頻度 対面式タンデムの学習時間は1時間程度であったが,学習時間が不足していると感じる参加者が 6 人中 2 人いた。また,週 1 回の学習頻度がちょうどいいとした参加者が 6 人中 2 人いた。週 2 回を 提案する人が6 人中 2 人いた。E タンデムの学習時間は 30 分程度であったが,学習時間不足を感 じた参加者が6 人中 5 人であった。週 1 回の学習頻度がちょうどいいとした人が 6 人中 4 人いた。週 2 回を提案した人が 6 人 2 人いた。学習時間,頻度に多様な評価が出たのは,参加者間の相性が希 望する時間,頻度に影響することが一因であると考えられる。学習時間,頻度の評価は,以下の表2 に示す。 表2 学習時間,頻度の評価 (3)コーディネーター タンデム学習活動をスムーズに進めるために,コーディネーター1 名を設置した。コーディネー ターは活動管理,ガイド,参与観察をした。全員(6人)がコーディネーターの役割にいい評価をしたこ とが分かった。しかし,インタビュー調査の結果,参加者はコーディネーターに依存する心理があると いう可能性が見られた。どうして参加者はコーディネーターに依存する心理があったのだろうか。それ はコーディネーターの役割が関わっていると思われる。つまり,参加者には,話題を見つけられない 時にはコーディネーターが話題を提供してくれるからという考えがあり,コーディネーターに依存する 心理があったのである。 0 2 4 6 学習時間不足を感じる 週1回を提案 週2回を提案 対面式タンデム Eタンデム である「理論記述」の内容にまとめた。下記にSCATの分析結果の1例を挙げた。  タンデム学習評価アンケートの中の「Eタンデム学習は,自分自身の言語学習のために,どの ような点で,役に立っている,或は役に立っていないと思いますか。」についての6人の回答例 は,次のとおりである。 質問: 「Eタンデム学習は,自分自身の言語学習のために,どのような点で,役に立っている, 或は役に立っていないと思いますか。」 回答例 ・いい動機付けになったと思います。 ・知らない知識を学ぶことができ,役に立つと思う。 ・授業でのテストやスピーチ。 ・役に立っている:話す力+聴く力。 役に立っていない:文法,作文など。 ・ 役に立っている:ネイティブに近い表現が身につく。 役に立っていない:特になし。 ・ 役に立っている:語彙。 役に立っていない:文法。パートナーが文法ミスをあまり 指摘してくれなかった。  ここから生成されるストーリーライン,理論記述,さらに追究すべき点・課題は,次のような ものである。

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ストーリーライン  Eタンデムで役に立っている点は次の通りである。1)参加者の意欲を喚起することができ るし,モチベーションを向上させ,いい動機付けになった。2)言語コースの正式な指導の補 完として,授業でのテストやスピーチの学習を補助的に支援できた。3)ネイティブに近い 表現が身につき,語彙力,話す力,聴く力の向上や知識の習得ができた。Eタンデムで役に立っ ていない点は,文法と作文であった。 理論記述 ・ モチベーションの向上,知識の学び,授業の補完,口頭表現,聴く力,語彙力に役に立って いる。 ・文法,作文に役には立っていない。 さらに追究すべき点・課題 ・ なぜ文法,作文には役に立たないのか? 自分の母語は無意識に習得しているので,母語 の文法を意識化して,理論的に相手に教えることが難しいからだと推測できる。  各質問に対する分析結果が大量に得られたが,すべてを記載するのは困難であるため,ここ では「理論記述」に関してまとめ,タンデム学習の利点と弱点を以下に整理した。  利点: 1)モチベーションの向上,知識の学び,授業の補完,口頭表現,聴く力,語彙力の向 上に役に立っている。2)学校の学習と違い,一対一の学習形態,平等な学習関係でお互いの言 語や文化を学び合うことができる。3)効率がよく,即時性があり,すぐにわからないところが わかり,学習ニーズが満たされる。4)活動に参加することによる言語の社会化の促進ができる。 5)「正確な」言語の学習より「適切な」言語の使用が優先できる。  弱点:1)文法,作文に役にたっていない。2)タンデム学習の適用範囲には限界がある。人 に対する興味がなかったり,話すのが好きでないと活用できない。3)ペア間の人間関係が不確 定要素であり,相手が必ずしも自分に合うかどうかが分からない。4)視覚情報,画像がないE タンデムは,相手の表情が見えず,具体的な問題に対するコミュニケーションがとりにくい。 また,Eタンデムは通信の繋がり,音質に問題がある。5)教室内学習に見られる体系的な学習 や正しさを目指す言語学習ではないので,教師が行うような誤りの訂正,評価は行われない。 3.3 対面式タンデムとEタンデム学習について  本節では,対面式タンデムとEタンデムの改善点は何かを検討し,提案をする。本研究からは, 「時間設定」「素材」「Eタンデムの種類変更」「フィードバック」という4つ改善点が挙がった。  まず,「時間設定」については,適切な学習時間の設定が必要である。前節で参加者間の相性 が希望する時間,頻度に影響することが分かった。そこで,学習初期の段階で参加者の相談に 乗り,相性が良いグループには学習時間を延長する一方,相性が良くないグループには学習時 間の調整を提案してはどうかと考える。また,「素材」については,参加者がパートナーに合う

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学習素材の選定ができるかどうかが問題になる。そこで,学習内容はそれぞれの参加者が自分 の教材を1つ用意するほうがいいと考える。学習内容を固定化し,教材をはじめから使う方が, その都度に決める方式より効果が高いと考えるからである。学習時に用意する話題の数も増や したほうが時間が有効に使えると考える。Youtube上の映画,CM,アニメなどの話題も柔軟に 取り入れるとよいだろう。さらに,「Eタンデムの種類変更」については,視覚情報,画像がない Eタンデムは,相手の表情が見えず,具体的な問題に対するコミュニケーションがとりにくい。 そのため,画像ありインターネット電話に変えたほうがいいというEタンデム学習の種類変更 の提案があった。状況の許す限り,よりよい学習環境の下でEタンデム学習を行うことを提案 する。最後に,「フィードバック」については,参加者から,間違ったところのフィードバック がほしい,言い間違いをすべて直してほしいという希望があった。だが,教師ではない学習者 に言い間違いをすべて直すことは可能だろうか。それには,参加者が母語についての体系的で 正しい知識を持つことが必要になると思われる。 ≪提案≫  本研究では,最初の4回は対面式タンデムを,残った4回はEタンデムを行った。提案として, 対面式タンデムとEタンデムを交互に行うことを挙げたい。1回目は対面式タンデム,2回目は Eタンデム,3回目は対面式タンデムのようにすることである。理由はEタンデムで指導しても らえなかった発音や書き方を,次週の対面の時に直してもらえる利点があるからである。しか し,今まで,交互のタンデム学習についての研究はほとんど行われていないので,実施の可能 性については不明である。また,参加者からの改善点の希望に答え,「フィードバック」を「計画」 段階の直前に入れ,参加者が互いに間違ったところのフィードバックをすることを提案する。 また,技術の進歩や通信状況の改善を踏まえて,画像ありインターネット電話によるEタンデ ム学習を提案する。 4.総合的考察  本節では,「タンデム学習の位置づけ」「母語の使用」「オートノミー」の3つに分けて総合的 に考察する。 (1)タンデム学習の位置づけ  2013年に増補改された『ロングマン言語教育・応用言語学用語辞書』によると,タンデム学 習は言語コースの正式な指導の補完となるものである。つまり,伝統的な教室内学習と教室外 の交流学習(タンデム)の二つの学習形態は補完関係となる。では,二つの学習形態の相違点は 何だろうか。二つの学習形態を比較すると表3のようになる。

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表3 二つの学習形態の比較 伝統的な教室内学習 教室外の交流学習(タンデム) 学習の位置づけ 正規学科 体系的な学習 交流活動非体系的な学習 状態 教師監督下 教師監督なし 対等な学習関係 コーディネーターの管理やガイド 学習形態 1対多 1対1 1対1+コーディネーター 内容 教師がシラバスを予め決めた 内容 自由に内容も変化しながら学習オートノミー性あり教室で体系的に 学習したことを実践し,パートナー との意味の交渉などを通して,L2を 自分のものとしていくプロセス 聴く力 ◎ ◎ 話す力 ○ ◎ 文法 ◎ ○ 作文 ◎ △ 利益 教師から学生への一方的な恩恵供与 互恵性 訂正の有無と学 習が目指すもの「正確な」言語教師による訂正 「正しさ」優先 パートナーによる訂正 「適切な」言語 「内容,楽しさ」優先 評価システム あり なし 参加者の 心理状態 体系的シラバスに沿った教師監督により,プレッシャーを感じる学習の 可能性 リラックスして,自由な学習 関係 補完関係(宿題の手伝い,学校の補習) ◎は「とても役に立つ」,○は「役に立つ」,△は「あまり役に立たない」とする。   上の比較の表で明らかなように,伝統的な教室内学習の長所は体系的な学習,正確な言語規 則の学習(教師による訂正)であるが,弱点は学生が学習した内容を実践できるリアルな言語 環境を教師が提供することが容易ではないことである。一方,タンデム学習の長所は,タンデ ム学習の参加者の自由裁量に任せることで,楽しくリラックスした雰囲気の中で,内容重視の 実際使用活動を促すことができる点である。しかし,タンデム学習では教師による体系的な指 導や訂正がなされないという問題点もある。つまり,教室内学習とタンデム学習は,第二言語 の体系的な学習(正確さを優先)と実際使用場面からの実践学習(内容重視,適切さを優先)を 相互的に補完し合うので,両者の併用は学習者のニーズと教師のニーズの両方に応えることが できるということがわかる。この点が第二言語学習における,タンデム学習の意義および貢献 と言えるだろう。

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(2)母語の使用  本研究では,参加者が自分の発言の意味が理解できないでいるパートナーを長い時間待たせ ないように,頻繁に母語にコードスイッチする現象があった。どうしてその現象があったのだ ろうか。それは第二言語学習を考える上で,学習者の母語は無視できない要素だからだと考え られる。西野(2005)によると,母語は必ずしも学習者の能力不足を補うためだけに使われてい るわけではないという。また,西野(2005)では,媒介道具としての母語使用があることが示さ れた。本研究では,参加者はパートナーを長い時間待たせないように,母語を媒介道具として 使用したのだと考えられる。 (3)オートノミー  脇坂(2016)によると,「タンデム学習では一対一で学習を進めるため,コーディネーターが 参加者の学習に直接関与することはできない(p.95)」という。脇坂(前掲書)のコーディネーター の役割についての言及は,タンデム学習の原則を明確に示している。本研究でも,この原則に 則り,コーディネーターは次の二つの役割を明確に使い分けていた。  1)【活動設計・運営者としての役割】 学習者のニーズに根差した活動を設計し,円滑な運営に 努めた。活動中は参与観察をし,活動管理(時間及び内容など)を綿密に行い,調整やモニター を行った。  2)【学習者オートノミーを見守る役割】 タンデム学習自体はオートノミーの原則に基づいて 行われたので,活動内容(話題の内容など)については,コーディネーターは指示を出すような ことは控えた。すなわち,コーディネーターは学習者のオートノミーを見守りながらサポート するという役割を担っていた。 おわりに  本研究では,アンケート,インタビューを通して対面式タンデムとEタンデムを併用した学 習活動の過程と成果を考察した。その結果,参加者は「言語的学び」「タンデム学習方法の学び」 「学習ストラテジーの学び」「社会的な学び」という4種の学びを得たことがわかった。参加者の 評価から,1)タンデム学習には有用性があり,高い満足度が得られていること,2)学習時間 および頻度に多様な評価が出たこと,3)全員(6人)がコーディネーターの役割を高く評価し たこと,4)タンデム学習の利点と弱点が明らかになった。また,本研究の考察結果から,「時間 設定」「素材」「Eタンデムの種類変更」「フィードバック」という4つの改善点を挙げ,具体的な 提案をした。また,対面式タンデム学習とEタンデムを併用した学習活動が可能であることを 明らかにした。片方だけを行う場合と比べて,参加者が二種類のタンデム学習を体験すること ができるメリットがあると思われる。  今後,タンデム学習は第二言語や外国語の教育により多く利用されるようになると予想され る。タンデム活動に積極的に参加することで,言語の社会化が促されるという点でも有意義な ものであると言えるが,Eタンデムについては通信状況の改善が急務だとも言える。本研究は

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タンデム学習と教室内の学習において学習者の心理状態の違いについては解明することができ なかった。タンデム学習に参加した学習者の教室内心理状態の調査を今後の実践研究の課題と したい。 付記  本論文は,筆者が2017年度に桜美林大学大学院言語教育研究科・日本語教育専攻に提出した 修士論文に基づき,執筆したものである。 注 (1) 予備調査として,稿者は2016年6月∼ 10月の4ヶ月間日本人のナナとタンデム学習を行った。事 前にタンデム学習の綿密な計画を立てなかったため,学習活動の中で話題が途切れるという不 手際が起きた。予備調査の不備な点を改善し,本調査にあたっては,タンデム学習の周到な計画 の作成,学習活動を促進する話題の吟味と提供などを行った。  

(2) ヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Languages)をここで はCEFRと略す。

(3) RJ(The Reconnaissance Japan)。毎年多くの外国人留学生を受け入れているA大学では,各国から の交換留学生が参加するRJと考察日本プログラムを実施している。このプログラムでは,英語 と中国語によって日本の社会,文化,政治,経済,環境などについて学ぶ授業を開講しており, 主に英語圏と中国語圏の留学生が履修している。 (4) 山本(2013)によると,有用性とは自身の言語学習に対して有用かどうかという点と,パートナー の言語学習に対して有用だと思われるかどうかという2点である。 引用文献 青木直子(2016)「21世紀の言語教育:拡大する地平,ぼやける境界,新たな可能性」『カナダ日本語 教育振興会』17, 1-22. 大河内朋子(2011)「タンデムプロジェクトの実践報告‐コース設計とその成果」『大学教育研究‐三 重大学授業研究交流誌』19, 1-6. 大谷尚(2008)「4ステップコーディングによる質的データ分析手法SCATの提案−着手しやすく小規 模データにも適用可能な理論化の手続き−」『名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要(教育 科学)』54(2), 27-44.

大谷尚(2011)「SCAT:Steps for Coding and Theorization−明示的手続きで着手しやすく小規模データ

に適用可能な質的データ分析手法−」『感性工学』10(3),155-160. オックスフォード, レベッカ,L.著/宍戸通庸,伴紀子訳(1994)『言語学習ストラテジー:外国語教師 が知っておかなければならないこと』凡人社. 小林浩明(2016)「タンデム学習の意義と可能性」 『北九州市立大学国際論集』14号,pp.135-145. 佐藤勢紀子・末松和子・曽根原理・桐原健真・上原聡・福島悦子・虫明美喜・押谷祐子(2011)「共通教 育課程における「国際共修ゼミ」の開設−留学生クラスと合同による多文化理解教育の試み−」 『東北大学高等教育開発推進センター紀要』6, 143-156. ジャック・C・リチャーズ,リチャード・シュミット(2013)(編)高橋貞雄・ 山崎真稔・小田眞幸・松 本博文(訳)『ロングマン言語教育・応用言語学用語辞書.増補改訂』南雲堂,470. 西野藍(2005)「教室での学習者の母語使用を理解する」『文化と歴史の中の学習と学習者』西口光一

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(編)凡人社,102-120. 林良子・杉原早紀 (2013)「スカイプを利用した日本語・ドイツ語遠隔タンデム授業の実践」 『国際文 化学研究:神戸大学大学院国際文化学研究科紀要』41, 44-54. 宮下博幸(2016)「<共同研究論文>ドイツ語と日本語のタンデム学習の試み−成果と今後の課題−」 『言語教育研究センター研究年報』19, 141-150. 山本冴里(2013)「山口大学多言語化プロジェクトの現状と課題−Language Exchange プログラム≪ Tandem≫を中心に」『大学教育』10, 56-66. 楊光俊・李貞愛(2012)「中国語」『OBIRIN TODAY −教育の現場から−』12, 79-84. 脇坂真彩子(2012)「対面式ダンデム学習の互恵性が学習者オートノミーを高めるプロセス:日本語 学習者と英語学習者のケース・スタディ」『阪大日本語研究』24, 75-101. 脇坂真彩子(2013)「Eタンデムにおいてドイツ人日本語学習者の動機を変化させた要因」 『阪大日本 語研究』25, 105-135. 脇坂真彩子(2016)「日本とドイツの大学生によるEタンデム−インターネットを介した学習者同士 の学び合い−」『ことばと文字:国際化時代の日本語と文字を考える』6, 88-97.

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