世代間伝達理論による虐待事例の分析
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(2) 虐待を幼少期頃より両親から受けてきたことが. 伝達が起こり子どもへ影響したものと推察され. わかった。AとB本人のTEGの共通点は, AC. た。一方,CとDも,子どもに対する同様な虐. が一番高いことである。また,両親に対するイ. 待的行為がみられたが,相談面接を継続し自分. メージのTEGの共通点としては, CPが一番高. の親子関係を振り返り,我が子への接し方の問. く,NPが TEGエゴグラム・プロフィール. 題を検討していくことで,子どもの問題行動は. 20パ圧砕 ンタイル. 100. 95. ンタイル. 90. 18. 17. 17. 16. 13. P3. 12. 80 V0. 12 P1 P0. 19 18. 玉8. 11. 17. 17. 19. した理由として,母親イメージのTEGのNP. ・ll. 18. 18. 17. 17. 16. 16. 18. @16. 10. P6 P5. 16. P4. 15. @19. 18. 18. P論・皇捻ll畢9 98. が高いことが,関係していると推察された。C とDは,母親との基本的信頼関係が成立してい. 1茸・. たことが,子どもへの悪しき世代間伝達を比較. 87 76 6. K ・3. 77 66 5茸・:. U0 T0. Ellil・9. 88. 77. 66. 的容易に断つことのできた一要因であったと推. 5. P3. S0. @謬11. 1113・。8. 察された。. 9. @3020 10. 佐藤(1995)は,被虐待児症候群の特徴に一つ. ll. 7 8 U 7 64. 5. 出た。 P讐 2. 結果,C とDは父. 19. 19. 16 15 P5 14 14. 比較的速やかな改善をみた。この差異をもたら. 0−20 19. T. ビューの. 0一一20. 19. 17 1516 14. 以下と低 い結果が インタ. 0一一20. @18. A§8. 1パーセ. 20−20. 19. 99. と低い。. 特に,母 親のNPが. 〇一 q8. O. _』_0. 1. O−0. 5. 4. S. 3. R. 2. P1 0_0. 5 5 S. 4. に,「人間とこの世界に対する〈基本的信頼感. 21!. R 3. 〉の形成が損なわれてしまっていること」を述. Q 2 P. 1. 0_0. べている。基本的信頼感が形成不全に終わると, 0_0. 男女 男女 男女 男女 男女. CP NP 1. H. A. 皿. 子どもには,自分が悪い子どもだから,自分は. FC AC w V. 親から愛されたり,認められたりするに値しな いと思ってしまう。その結果,自己卑下してし. 図3 AのTEG. 親の母親. まいやすい。それから逃れる方法として,虐待. に対する攻撃的な態度を見て育ったことがわか. をしてきた強い親への同一化がはかられる。今. った。両親に対するイメージのTEGの共通点. までの低い自尊感を克服するために子どもを虐. としては,父親のCPが85パーセンタイル以. 待する(乱用する)するのである。ここに,虐待. 上と高く,母親のNPが70パーセンタイル以. の世代間伝達を断ち切ることの難しさがあると. 上という結果が出た。. 思われる。このことから,虐待をしてしまう母. 親へのアセスメントとして,TEGが利用でき るのではないかと考える。今後さらに臨床事例. 4.考察と今後の課題. の集積により検討を重ねていきたい。. 今回の研究で,筆者は,幼少期よりひどい虐 待を継続的に受けいてきた人の母親イメージの. TEGのNPが,著しく低いことに注目した。 A. 主任指導教官 夏野 良司. とBは,子どもに一生懸命関わるのだが,最終. 指導教官 夏野 良司. 的には親と同じように子どもを虐待してしまっ ていた。両親との基本的信頼感の欠如の世代間. 一2一.
(3) 学位論文. 世代間伝達理論による虐待事例の分析. 兵庫教育大学大学院 学校教育専攻 生徒指導コース M98158D. 小 齋 哲 也.
(4) はじめに. 筆者が,兵庫教育大学大学院で臨床を勉強しようと決意したきっかけになっ た出来事が三つある。. 一つ目がN男との出会いである。筆者が言語見直学級の担任をして1年目の ことだった。保育士からの依頼で,保育園年長のN男が母親とともに現れた。 N男は,テレビCMを何度も繰り返ししゃべるが,自分の言葉というものはな かった。N男は「そこへ入れ」「何やつてんだ,この」と,誰かに叱られてい るのかなと思わせる言葉を発しながら,その時の様子を何度も再現するような 遊びを繰り返していた。今にして思えば,N男は,ポストトラウマティック・ プレイをして自分の経験した心的外傷を克服しようとしていたのだなと推察で きる。その頃は,筆者は夢中でN男との追いかけっこの日々であったように思 われる。当初母親は「N男の年子の弟はかわいい。しかし,N男はかわいくな い」と筆者に訴えた。ある面接のとき,母親は「乳幼児の頃からずっと夫婦で N男に虐待行為を繰り返していた」と語った。筆者は納得がいくとともに,N 男をなんとか救ってあげたいという感情がわき起こった。その後も,N男は筆 者に対して,かんだり,つねったり,ビンタをしたり,唾を吐きかけたりを繰 り返しながら,何も反撃(虐待)してこないことを確かめた。そのうちN男は,. 筆者のあとを離れなくなって,「お父さん」と呼ぶようになった。筆者が「ち がうだろ」と言ってもきかなかった。その後母親は,筆者に自分の生育歴を振 り返ることで癒され,N男をかわいがれる自分へと変わっていった。 二つ目が筆者の母親との別れであった。余命幾ばくもなくベットで横たわっ ている母親を,看病していたときのことである。一人っ子である筆者にとって 母親は,かけがえのない存在であるのに看病に気持ちが入らないのである。む しろ避けてしまいたくなる自分に嫌気がさしていた。人工呼吸器をつけられ言 葉さえ奪われ,「早く死なせてくれ」と訴える母親を目の前にしながら,固ま って動けない自分がどうしょうもなかった。母親は,祖母からひどい虐待を受 けて育った。母親は,筆者に対しても厳しい教育方針であったと思われる。そ れに対して筆者は,すべて自分が「悪い子」だからと思い続けてきた。今にし て思えば,N男へ優しさは自分の姿をN男に投影していたのかもしれない。. 1.
(5) 三つ目はある母親からの電話である。ある夜,突然「先生に相談があるんで す」と電話がかかってきた。小6の息子が友達から数十万という現金を取った というのである。母親は子どもの教育に大変熱心で,6年の部会長をされてい た。どうしてこんなことになってしまったのか,気が動転しているのがありあ りと分かった。4人の子どものうち,長男次男を有名私立高校へ入学させるこ とに失敗し非行に走らせてしまった。小6の三男は母親にとって最後の希望の 星であったのである。母親は「入学時に,小学校は保育園とは違って勉強する ところだと言って,三男のおもちゃを全部捨ててしまって勉強道具をそろえさ せた。三男は期待通りに育っていったのに一・・それを狂わせたのは学校である」. との批判が強かった。数回の面接の最後に母親は「自分は高校へ進学したかっ たのに兄から『お前は高校に行くな』と説得され悲しかった。その私の悔しさ が無意識に子どもへ勉強を強要させる結果となった。高校進学へのこだわりは,. 私の執念となっていた」と語った。母親の未解決な問題が,子どもを利用して 解決しようと思ったための悲劇であったように推察された。 この三つの出来事は,親自身の育てられ方による歪みが世代を越えて,子ど もに問題として伝わったものと考えられる。これらは「世代間伝達」としてと らえられ,筆者自身の人生のテーマにもなったと思われる。この「世代間伝達」. に取り組むことが自分の生き方を問うことになった。. ■.
(6) 目次 はじめに. i. 第1章問題の所在と研究目的. 1. 第1節 子どもの虐待の実態と背景………・…・……・………・……. 1. 1虐待に関する相談処理件数の推移・…・……………・…・・……・……. 1. 2 虐待の内容別相談件数…・・………・…・・……………………………1. 2. 3 主たる虐待者・………・………・・…・……………一・…・……………・…・. 4. 4 被虐待児童の年齢構成・・………………・…・…………・…・………・…. 5. 第2節 世代間伝達の先行研究・………・………・………・……・・・…. 7. 1 乳幼児心理療法と愛着研究からの世代間伝…・……・……・………・・. 7. 2 子ども虐待の立場からの世代間伝達………・……・…・……・・………. 11. 3 家族のライフサイクルからの世代間伝達・………・・…・…………・……. 12. 第3節 交流分析とエゴグラム____.._...._.__..__..._. 14. 1 交流分析 ………・………・・………………………・・…・・……………. 14. 2 東大式エゴグラムの有効性…・…・・……・・…・…・…・・……・・…………. 15. 第4節 研究の目的……・・……・…………・…・………・・……・………. 17. 1 本研究の2つの目的…・……・………・……・………・…・・……・・……・. 17. 2 研究の仮説と方法 ………・・………・…・・…………・……・……・……. 18. 第2章 世代間伝達からみた虐待事例の分析. 19. 第1節 4つの事例の概要・…………・……・…・……・………・・…… 1g. 第2節 Aの事例……・…………・・………………・・…………………. 22. 1 Aの生育歴【両親(第1世代)から母親A(第2世代)への世代間伝達…. 22. 2 エゴグラムからみた世代間伝達・・……・………・……・……………・…・. 23. 一血.
(7) 3 T男の生育歴【母親A(第2世代)からT男(第3世代)への世代間伝達】・27. 4Aの事例にみる世代間伝達に関する考察…・一・……・・…・………… 28. 第3節 Bの事例…………一・…・一・……・一一・…・一……一… 30 1 Bの生育歴【両親(第1世代)から母親B(第2世代)への世代間伝達】… 30 2 エゴグラムからみた世代間伝達………・・………・…・………・……・・… 32. 3 H男の生育歴【母親A(第2世代)からH男(第3世代)への世代間伝達】35. 4 Bの事例にみる世代間伝達に関する考察一……一一・・……・…… 36 第4節 Cの事例・…一………_..…・・_…・・__・…_……・…・…・37 1 Cの生育歴【両親(第1世代)から母親C(第2世代)への世代間伝達】… 37 2 エゴグラムからみた世代間伝達・・………………・………・……・…・・…3g. 3 M子の生育歴【母親A(第2世代)からM子(第3世代)への世代間伝達】 42. 4 Cの事例にみる世代間伝達に関する考察・・……一一…・一………43. 第5節 Dの事例・一・…・一・…・・………一一・・一………一…45 1 Dの生育歴【両親(第1世代)から母親D(第2世代)への世代間伝達】・・45 2 エゴグラムからみた世代間伝達・……………・…・…………・…・…・…46 3 Y子の生育歴【母親A(第2世代)からY子(第3世代)への世代間伝達】 49. 4 Dの事例にみる世代間伝達に関する考察……………一・……一…50. 第3章 虐待の世代間伝達の鎖を断ち切るには 51 第1節 Cの事例における世代間伝達の解決過程……・・………. 51. 1 Cの事例の面接過程・・・・………・……・・…・…・・…・……・…・……・・・…. 51. 2 Cの事例の考察……・………………・…・…・…_.…・_____.... 55. 第2節 Dの事例における世代間伝達の解決過程…・……・……. 58. 1 Dの事例の面接過程・……………・…・…………・……・・…………・…. 58. 2 Dの事例の考察…・…・・……・………………………………………・・. 70. 鋭.
(8) 第4章 総合考察と今後の課題. 72. 第1節 総合考察…・……………・…………………・…・………・……72 第2節 今後の課題…………・・……・………・………・・……………・・74 おわりに. 75. 要約. 76. 引用文献・参考文献一覧. 78. Appendix. 86. V.
(9) 第1章 問題の所在と研究目的 親が子どもへ虐待した結果,死亡させたしまったという事件が,最近マスコ ミでも大きく取り上げられるようになってきた。1970年代にコインロッカー事 件があって以来,「母性の喪失だ。親が自分の子どもを虐待するなんてあり得. ない」と言われてきた。不登校が何処の家庭で起こりうると変化してきたよう に,この虐待の問題も,何処の家庭でも起きてもおかしくない状況になりつつ ある。本章では,このような状況下での子どもの虐待の実態と背景を述べると ともに,先行研究の課題と本研究の目的を明らかにする。. 第1節 子どもの虐待の実態と背景 1 虐待に関する相談処理件数の推移 平成11年11月17日の厚生省児童家庭局企画課が報道向けに出した報告承1に よると,虐待に関する相談処理件数の推移は図1−1に示す通りである。 7,000 U,000 T,000 S,000 R,000 Q,000 ミ蕪. P,000. @ 0 團系列1. 平成 平成. 平成. 平成. 平成. 平成. ス成 平成. 平成. Q年 1101. R年. S年 T年 1372 1611. U年置7年. 1171. 1961 2722. W年 X年 10年 4102 5352 6932. 図1−1虐待に関する相談処理件数の推移(厚生省報告). 統計をとりはじめた平成2年から比べると6.3倍,ここ2,3年の伸び率は 著しい。この原因をどのように考えたらいいのだろうか。小児科医のケンプ. *1厚生省(1999)平成10年度児童相談所における児童虐待相談の処理状況報告. 平成ll年11,月17日報道. 一1一.
(10) (Kempe, C.H.et.,1962)が被殴打児症候群の論文を発表ηしてから,アメリカで. は虐待への関心が高まった。虐待報告義務法(Child Abuse Reporting Law)がアメ. リカ各州で,1963∼1967年に制定された。それ以降の報告件数は, アメリカ 日 本. 1974年約100万件→ 1994年 3倍以上の320万件 1988年約 2千件→ 1996年 約 4千件. 報告義務化とともに爆発的に増加していることがわかる。それに対して日本の 報告件数の低さは,通告義務があるのをしらないことに起因すると思われる。 このことについて,山下(1999)が通告義務を知っている教師の割合が,38.8%. と述べている糟ことかも推察される。学校現場では,教師が子どもの虐待がわ かったとしても,家庭のプライバシーまでは介入はできないとの考え方が根強 いのも現実である。NHKの虐待の報道番組でも,児童相談所が児童福祉法第28 条により,家庭に介入の権限を有していても踏み込めない現実があるとしてい る。ましてや学校としてはなおさらであろう。このことからも,平成10年度 の6,932件という数字は氷山の一角であると思われる。. 2 虐待の内容別相談件数 「虐待」の英語“abuse”とは,ラテン語の接頭辞で“ab”は「離れた」「隔 たった」“use”は「使用(する)」で,「離れた使用」「隔たった用い方」,つま. り「乱用」という言葉にあたる。 “alcohol abuse”が「アルコール乱用」“drug abuse”が「薬物乱用」“child abuse. ”は「子ども乱用」であり,子どもの存在あるいは子どもとの関係を,親が子 どものためでなく自分のために利用することの意味している。 現在,虐待を4つのタイプに分類している。①身体的虐待,②ネグレクト, ③性的虐待,④心理的虐待である。西澤(1994)は次のようにまとめている粗。. *2Kempe, C.H., Silve㎜an,F.N.,Steele,B.F., DroegmulleちW,,&Silver,HK(1962)The Battered child syndrome.」∂〃rηα1げ’加オ駕θアたαηλ売砒α1オ∬oc∫α”oη,181,17−24,. *3山下満枝(1999)性的虐待予防プログラムの開発的基礎研究 兵庫教育大学修 士論文 *4西澤 哲(1997)子どものトラウマ 講談社現代新書. 一2一.
(11) ①身体的虐待 身体的虐待は親などの保護者から加えられる身体的暴力によって,子どもが 何らかの身体的な傷を負ったものをいう。よく「どの程度の暴力であれば虐待 とみなしてよいのか」とか,「どの程度の傷なら虐待と判断してよいか」とい った質問を受けることがあるが,本来,この定義にをみれば,そういった傷や 暴力の程度が虐待か否かの判断の基準になっていないことがわかる。どのよう な程度のものであれ,子どもの身体を傷つけるような行為を親が故意にとるこ とは,すべてが虐待とみなされるのである。 ②ネグレクト ネグレクトといっても,親子関係においてはさまざまなかたちをとってあら われる。たとえば,食事の世話をしなかったり,子どもの身体や衣服が汚れて いてもそのままにしておくなど,子どもの生活全般に関する一般的ネグレクト, 子どもが病気で,ちゃんとした医療が必要と判断されるような場合でも,病院 に連れて行かずに放っておく医療的ネグレクト,子どもに適切な教育の機会を 与えなかったり,子どもが学校に行かなくても無関心でそのまま放置するとい ったなどがみられる。. ③性的虐待 性的虐待が,欧米より少ない理由として,日本の厚生省の定義「親による近 親相姦,親に代わる養育者による性的暴行」となっており,性交に限っている。 現在では,近親姦(インセスト)になっている。欧米では,性交をふくむさまざ まな性的接触を性的虐待としている。. ④心理的虐待 体の傷や成長障害といった目に見える跡は残さないものの,子どもに与える 心理的なダメージはとても大きく,場合によっては,生きていくためのエネル ギーを子どもから奪いとってしまう。 心理的虐待 登校禁止. ネ撒ト 図1−2虐待の内容別相談件数(厚生省平成10年度報告). 図1−2虐待の内容下相談件数からみると,身体的虐待53.0%,ネグレクト30.4. %で8割以上を占めていることがわかる。全米調査(1986)の比較からすると,. 身体的虐待25%,ネグレクト55%,心理的虐待11%,性的虐待13%となつ. 一3一.
(12) ている。日本では目に見える身体的虐待に対して反応が高い。それに比べてア メリカがネグレクトが高いのは,通告義務があり義務違反の罰則規定があるた めであろうと推測される。日本人旅行者がアメリカ滞在中に,子どもを車の中 で待たせておいて虐待の通報をされた例を聞くことがある。それほどに通告義 務が徹底しているとの裏付けにもなるであろう。. 3 主たる虐待者. 実母以外 その他 2.8%. 実父. 6.3%. 27.6%. 父以外 実母. 8.2%. 55.1%. 図1−3主たる虐待者(厚生省平成10年度報告) (その他は,祖父母,兄弟姉妹,叔父叔母など). 図1−3の主たる虐待者をみると,6,932件の虐待報告件数の55.1%が実母か. らの虐待であった。実父から比べると2倍の数に上る。母親は子どもとの関わ る時間が長いだけに,子どもを育てることに対するストレスは大きいものと推 察される。. 大日向(1999)は,育児雑誌三二協力を得て,全国約六千名の読者の母親を対. 象とした調査を実施した。その結果,「子育てを辛く思うことがある」と母親 の9割が,「子どもを可愛く思えないことがある」と母親の8割が回答した*5。 この調査は虐待をしてきた母親を抽出したわけでもなく,今現在育児に取り組 んでいる母親の生の声である。このようなことを,大日向が講演で話をすると, 男性からの反応は「数値が間違っているのではないか」と言われると述べてい る。. *5大日向雅美(1999)子育てに出会うとき 日本放送出版協会. 一4..
(13) 全国的に組織されている「子どもの虐待ホットライゾ6」での,97年度の相 談件i数総計は2,698件で,そのうちの92.1%が女性からの相談である。この ように母親が,育児のなかで追いつめられている状況が見えてくるようである。. 4 被虐待児童の年齢構成. 3,000 Q,500 Q,000 P,500 P,000. T00. @ 0. 0∼3未. 3∼学. @満. 賰O児. 翻系列1. 1,235. 小学生. 中学生. 2,537. 930. 1,867. 高校生・. サの他 363. 図1−4被虐待児童の年齢構成(厚生省H10年度報告) 図1−4の被虐待児童の年齢構成より,小学生虐待の相談件i数が全体の36.6%,. 中学生虐待の相談件数が13.4%で両方で50%に達しているのがわかる。. 表1−5虐待の経路別相談件数(厚生省平成10年度報告) 総数 家族 親戚. 近隣. 児童. 福祉 児童 保健 医療 児童 警察 学校. m人. {人. 末ア マ員. @関. その他. 沁メ @等 F施設. 9年 10年. (100). (29%). (3%). (8%). (2%). (15%). (3%). (3%). (5%). (5%). (6%). (13%). 8%). T,352. P557. P86. S37. P03. V83. P40. P83. Q50. Q84. R11. U87. S31. (100). (27%). (3%). (9%). (2%). (14%). (2%). (4%). (6%). (5%). (6%). (13%). 9%). U,932. P861. Q24. U16. P59. X39. P42. Q92. R95. R24. S15. W95. U70. (その他:救急関係など). *6子どもの虐待ホットライン統計(1998)児童虐待防止協会. 一5一.
(14) それに対して,表1−5虐待の経路別相談件数の学校は13%と低い。子どもへ の虐待を知りながらも3分の1は報告をしていない。このことからも山下の調 査を裏付ける結果となっている。教員の中でさらに学習しようと大学院を目指 した集団の中での調査で4割なので,実際学校現場で調査した場合,さらに低 い結果になると予想される。. 日本子ども虐待防止研究会主催で,第5回学術大会が開かれた。参加者の多 くが,医療機関,児童相談所,保健婦,大学関係者,司法関係の虐待への取り 組みに対する研究であった。小学生,中学生で50%に達している実態を学校は どのように考えればいいのだろうか。 義務教育学校では一つだけ,吉村(1999)が,小学校の養護教諭として,「『学. 校と地域ネットワーク』教育現場での虐待発見から介入へのつなぎ方のむずか しさη」というテーマで,シンポジウムが開催された。それだけに虐待に対す る学校現場での関心の低さが目立つ学術集会であった。学校現場では,学級崩 壊,不登校,いじめ等の問題に関心が高いのは当然ではあるが,子どもの気持 ちに一歩踏み込むと虐待の問題も見えてくるのではないだろうか。 2002年からスタートする「新学習指導要領」では,総合的な学習が年数十時 間設定されて,環境教育や体験学習が重視されるようになる。この機会をとら えて現在の忙しい学校の実態から脱却し,子どもの視点で教育を考えることが ひいては虐待の問題に焦点をあてるのことになると考える。 筆者は,小学校で言語通級教室担任として,言葉の障害に苦しむ子どもたち の教育の他にも様々な相談に応じてきた。相談内容の言葉の遅れや,集団不適 応,チック,不登校の原因の一つに,親からの虐待受けたことによると思われ る節が見え隠れしていた。そこで,子どもをとりまく親自身の問題にも目を向 けていくことも必要であると考える。. *7吉村奏恵(1999)学校と地域ネットワーク 日本子ども虐待防止研究会プログ ラム・抄録集 p99−100. 一6一.
(15) 第2節 世代間伝達の先行研究 新版精神医学事典(1993)で,世代間伝達(intergenerational transmission). を引くと次のようにある総。「祖父から親へ,親からその子どもへのというぐあ. いに,各世代は,その家族が抱く子どもイメージや子どもへの期待,子どもに 対する愛と憎しみの葛藤などを世代から世代へと伝達していく。これを世代間 伝達という」とある。「世代間連鎖」とか「世代間伝播」という言葉の方が辞書. では一般的であるが,筆者が,虐待の問題を考えるときに「世代間伝達」の理論 にしたことをこの節では述べる。. 1 乳幼児心理療法と愛着研究からの世代間伝達 世代間伝達は,親一乳幼児心理療法の最も重要な基本概念の一つである。乳 幼児精神医学は,1970年代に誕生した比較的新しい領域である。乳幼児の精 神分析の第一人者で,フランスの精神分析学者であるS・レボビッシは,世界 乳幼児精神保健学会の代表的な指導者の一人で世代間伝達理論を述べた⑩。 「乳幼児期からの愛着と世代間伝達」. の講演であった。渡辺(1999)は,愛着. マクロ. と関係性の3つのレベルを,右のよう な図で説明をしている*10。. ①画一乳児:ミクロレベルの生理・心 理的関係性 ②家族一乳児:ミニレベルの心理・社 会的関係性 ③社会一乳児:マクロレベルの社会歴 史的関係性. ミニ. ミクロ. 図1−6 関係性レベル. ①世一乳児のミクロレベルでは,乳. 児の発達研究の分野では,81年から. 囎加藤正明編(1993)新版精神医学事典,弘文堂 *9Lebovici S (1988)Fantasmatic interaction and intergenerational transmission.融η’ 2レ12刀’α1.旋α1〃3」∼)z♂rη011 9:10−19. *10渡辺久子,古澤頼雄,野田幸江,小倉清(1995)乳幼児:ダイナミックな世 界と発達,安田生命社会事業二. 一7一.
(16) 90年にかけて,乳幼児の気質・母子相互作用・アタッチメントの縦断研究が なされてきた。その結果,スターンのいう情動調律(af琵ct at枕mement D.stern 1985). の重要性がわかってきた。乳幼児の問題の多くは,母子の対とその養育環境と の関係性障害だと考えられるようになってきた。乳児の仕草に母親は刺激され て,あやしたり抱いたりする。. 虐待をされた子どもが母親になった場合,現実の乳児(目の前の赤ん坊)を見 ているはずが,幻想的乳児(赤ん坊だった時の無意識的記憶)が,乳児を抱くこ. とによってフラッシュバック的に呼び出されて,自分は母から愛情をもらえな かったのにとの違和感を無意識的に感じてしまうことがある。乳児の手が母親 の顔に触れたことを,母親は暴力を振るったと感じてしまい,空想的乳児(小 さいときから空想してきた赤ん坊)とのギャップに苦しむこととなる。 ②家族一乳児のミニレベルでは,家族の風土,慣習,生活環境全般が代々の 世代を越えて,母子を含めて乳児に影響を与えていく。夫が妻(母親)の支えに なってくれればよいが,そうでない場合,姑と嫁との間でのギャップが子ども に影響を与えている事例が多い。虐待をされて育った母親が,自分の親と同居 した場合,支配一服従関係がすでにできているので,虐待をしてきた親に叱ら れないように,子どもの情緒・発達を無視した養育態度が見られる。夫との軋 礫起こしても親への気遣いを優先させるため,妻はだんだん家庭の中で孤立し ていく傾向がある。このことは,母親の未解決な問題が,世代を越えて世代間 伝達していく構図となり,子どもを精神的に心理的に虐待へと加速度的に進ん でいく結果となる。. ②社会一乳児のマクロレベルでは,家族をとりまく社会環境の影響が大きい と思われる。例えば,結婚で生活が変わったときに起こる心理的ストレスは, 住み慣れた環境との別れ,職を離れる,親・友人との別れ,新たな人との出会 い等々いろんなストレスが複雑に絡み合っていくために,そこで起きる対象喪 失感は極めて大きいと思われる。その上,移転した土地でのしきたり・習わし ・行事に従っていかねばならない。. さらに,日本の社会全体の風潮として「日本の家庭の教育力を落ちた」と言 われることが多いが,それに対して広田(1999)は,昔は地域とか家族の多さで 教育が行われていた。今は,決して教育力としてのしつけは低下していない。 「すなわち,童心主義・厳格主義・学歴主義の三つの目標をすべてわが子に実 現しようとして,努力と注意を惜しまず払ってきた。それは,望ましい子ども 像をあれもこれも取り込んだ,いわば『完壁な子ども=パーフェクトチャイル. 一8一.
(17) ド』を作ろうとするものであっだ’1」と述べている。少子化の社会のなかで,. 一人や二人の子どもの子育てに完壁を求める母親はかなり増えてきている。 そんな社会の背景のなかで,虐待をされて育った母親は,さらにいい子育て をしょうと思えば思うほど,愛情という支えができていないだけに,一歩足を 踏みは外したときの代償は極めて大きくならざるを得ない。 さらに,田中(1997)は,子どもの症状を親子間の関係性の障害ととらえ,乳. 幼児一親心理療法を親子同席治療で,2年9カ月間40回の面接をして,子ど もの症状が消失した事例を報告している*12。子どもは,頭を打ちつける,引き. つけのように力む,抜毛,チックのように首をつねったり肩をゆする等の症状 がでていた。それはあたかも両親の不仲を修復するために,子どもが問題行動 を起こしているように感じられたと述べている。母親は,今までに人との暖か い関係を求めながらも挫折を繰り返すという経験をしている。父親が不安にな ったり,母親が父親の影響を受けて不安になったときに,子どもの気持ちを抱 えることができなくなっている。この事例では,家族全体の関係性の調整に重 点を置いたので,両親の個々の内面的な問題,すなわち祖父母(第1世代)との 関係である世代間伝達についてはあまりふれられていない。 愛着研究の枠内において,世代間伝達の研究が盛んになってきたのは,Main et al.(1985)が,アダルト・アタッチメント・インタビュー〈Adult Attac㎞ent. Interview>(以下AAIと表記)と呼ばれる,半構造化した面接の方式が考え出 されてきてからのことである*13。. 日本では,北村・繁多(1993)が,2歳から4歳までの幼児をもつ母親に対し て,AAI(幼児における愛着経験と,現在の愛着機能において愛着経験がいか に影響しているかについて評価に関する十分なstoryを引き出すための意図さ れた質問調査)を実施している。さらに,母親とその子どもたちとの愛着関係 を,Qソート法という方法でとらえている。 Qソート法というのは,「お母さ んの膝の上でくつろぐのが好きである」「お母さんが物をもってきてくれるよ うに言うと従う」「お母さんの注意を独り占めにしたがる」といった子どもの. *11広田照幸(1999)目本人のしつけは衰退したか 講談社 *12田中千穂子(1997)「乳幼児一親心理i療法」の一例,心理臨床学研究15−5: 449−460. *13 Main,M.&. Goldwyn,R.(1985)in press. Interview−based adult attachment. classification: Related to infant−mother and infant−father attachment. Dθvθ1gρ吻θ刀如1. P理。加10gy. 一9..
(18) 行動を書いたカードを自分で評定して分類していくという方法である。この結 果から,親から安定した関係を受けて育ったであろう,自我同一性を確立した 母親が,安定性が高いことを表していて,平均値が高いほど子どもに対して, 安定した愛着関係を形成していると考えられる零14。. 高橋(1993)は,将来母親になるであろう女子大生を対象にAAIの質問紙版 AAD(Adult Attac㎞ent Description)によって調査し, SSP(Strange Situation Picture)(Ainsworth et al,1978)の関係性を研究した。それにより,出生前に子ども. の養育パターンが識別できるということを示唆した。以上の愛着に関する世代. 間伝達の研究は,初めに,親と女子大生に対して,AAIやAADでのデータを とって,次に,子どもの行動パターンをQソートや女子大生が将来予想してい る子ども対人パターンをSSPでとった。その結果, AAIとSSPの関連性を世代 間伝達という視点で述べている。そして,親が不安定な家族構造の中で生育し て母親となった場合,子どもへの愛着パターンが不安定になる確立が高いと報 告している。しかし,逆に考えると不安定な環境で育てられても,子どもに対 して安定した愛着表象をできる母親もいるわけである*15。. これについて遠藤(1992)は,「愛着の世代間伝達を扱っている研究の多くが,. 想起される自らの被養育経験の質が否定的なものであるにも関わらず,現在安 定した内的作業モデルを有し,子どもに対して感受性豊かな対応ができる親の 存在に特別の関心を払っているということである掌16」と述べている。このこと は,成育過程において,どこかで悪い世代間伝達の鎖を解きほどいた経験があ ったことが推察される。. *14北村美花,繁多進(1993)母親自身が経験した愛着と育児行動,目今発達心. 理学会第4回大会発表論文集 *15高橋博子(1993)母性愛着表象に関する基礎的研究 一母子関係の世代間伝 達…現象一教育学科研究年報19;47−59. *16遠藤i利彦(1992)内的作業モデルと愛着の世代間伝達,東京大学教育学部紀 要,32; 203−220. 一10一.
(19) 2 子ども虐待の立場からの世代間伝達 楢木野,林(1997)は,児童虐待における家族の抱える問題分析を,被虐待児 と虐待者である母親の事例から被虐待児のとる行動の意味を解釈し,家族の抱 える問題を,特に母親の生育歴を中心に分析している*17。. 棚瀬(1996)は,被虐待体験が母親にあったとしても,以下の4つの条件,① 母親自身の乳幼児期における被虐待体験あるいは何らかの被剥奪体験,②子ど もに対する母親の認知的歪曲,③限界を越えた危機状況の存在,④社会的援助 の欠如の4条件が揃う必要がある。それが揃わないときには虐待の世代間伝達 は起こらないと言えると,6事例の分析をして述べている雅18。 前田(1993)は,被虐待児と虐待する母親の並行面i接をとおして,面接過程を. 分析している。①被虐待児とのプレイセラピーのなかでセラピストに起きたネ ガティブな感情(陰性逆転移)を理解していくこと,②母親からの依存的な恋愛 性転移をセラピスト自身が理解することで,母子の心的状況が実感できたと報 告している。「子どもを虐待する親が,自分の被養育体験をどのように認知し ているかが,わが子への拒否感や虐待行為の程度に深く関係していること,虐 待をしている親の治療においては,自己の拒否あるいは虐待された認知をどの ように修正していくかが重要である*19」と述べている。. 康(1997)は,母性剥奪と被虐待により著しい行動障害を示した3歳女児の治 療過程を報告している。女児は極小未熟児で生まれ保育器で半年間母子分離状 態であったために,母親は自分の子どもであるとの意識の乏しさに身体的心理 的虐待をしてきた。子どもはプレイセラピーの中で,虐待場面をセラピストと の間で表現(ポストトラウマティック・プレイ)するようになった。子どもは,. セラピストへの攻撃性と愛着を交互に示しながら,行動障害が少なくなってい った。その背景には,母親自身の,母親との未解決な問題が残されていたと述. *17楢木野裕美,林恭子(1997)児童虐待における家族の抱える問題分析聖和大 学論集25;P209−219. *18棚瀬一代目1996)実母による乳幼児虐待の発生機序について心理臨床学研究 13−4’P427−435 ,. *19前田研史(1993)被虐待児と虐待する親の病理と治療心理臨床学研究10−3; P40−52. .11一.
(20) べている*20。. 西澤(1994)は,「虐待の世代間伝達とは,虐待を受けて育った親が,成長後 に自分の子どもを虐待するようになるという現象をいうものである堕1」と述べ た。虐待やネグレクトが,世代を越えて伝えられるという認識は,虐待の治療 介入が始まった頃からいわれていた。 Steele&Pollock(1974)の報告した,虐待をする傾向のある親は例外なく子ど. もの頃に虐待を受けて育ったという考えは,その後の臨床経験からすべてでは ないとわかってきた。楢木野(1998)も,被虐待経験のあるものが,成長し後に 自分の子どもを虐待する割合は39%と報告している槻。 棚瀬の研究は,親に被虐待体験があるか』ら,子どもを虐待するであろうとい. うように世代間伝達のメカニズムと結びつけてしまうことへの警告に思われ た。また,それを裏付けるような調査報告が,楢木野からなされたとも考えら れる。筆者は,虐待の世代間伝達を研究する場合の判断を,より慎重に考えて いかなければならないことに気づかされた。. 3 家族のライフサイクルからの世代間伝達 精神分析的心理臨床に取り組んできた筆者は,子どもの不登校の問題をアセ スメントするとき,母親と子どもの関係性を考える。その親子の対人関係パタ ーンをどこで学習してきたのかを,母親の生育史も聞くこともアセスメントを する上での重要な資料となる。その他(服装,姿勢,顔つき,歩き方,声の調 子など)の情報も,その人を形成してきたもである。また,母親の夫との関係, 家族との関係,友人との関係も子どもとの問題を理解する上での情報となる。 鐘(1990)は,「世代の循環としての危機」の中で,「個人の発達的危機とは,. 相互に絡み合った,力動的関係をもっており,それ自体もまた一つの家族のラ イフサイクルの発達的危機を形成しているのである。つまり,家族の中心とな っている親のライフサイクルの危機がどのような様態を示しているかによっ て,この家族の子どもとしてのライフサイクルの危機が決定的な影響をうける. *20康 智善(1997)母性剥奪と被虐待による著しい行動障害を示した3歳女児 の治療過程心理臨床学研究15−2;P159−170 *21西澤 哲(1994)子どもの虐待,誠信書房 *22楢木野裕美(1998)母親の生育歴の問題,大阪児童虐待研究会,1998,3;170−180. 一12一.
(21) のである*23」. と述べている。子どもの問題は, 子どもだけの問題であるとは言 えなくて, いろいろな世代を越えた問題が横たわっていると思われる。 家族療法の研修に出たときに, その場で模擬家族をつくることになった。子. どもの問題は「閉じこもりと強迫神経症」であった。筆者は,. そんな子どもを 育てた母親の父親(祖父)役であった。祖父(海軍士官)は, 戦争へ行って戦果を あげたのが自慢の頑固一徹な警察官であった。祖父は母親の気持ちを考えるこ となく. 「お前の教育がなっていない」. と責め立てた。母親は,. 父親に逆らえな くっておろおろしている状態であった。夫はその父親の部下であったので, 自 分の気持ちを出すことは出来ない状態であった。家庭の中でも上司部下関係が 保たれていた。筆者は,祖父役で強いカを家族に行使しながらも, 一抹の淋し さを感じていた。家族に対して強 く出ていないと不安な気持ちにだ んだんなっていった。娘(母親)の. 自信のない子どもへの態度を見る につけ, 苛立ちとともに叱りつけ る祖父になっていった。. この家族. の危機状態を察知した子どもが, 自分が閉じこもることで,. 家族に. サインを送っているようにも感じ ることができた。. その背景には,. 祖父の生きた時代背景も大きく影 響していると思われた。 図3−1は,. 亀口(1998)が3世代. 家族関係と父子関係を表しだ24の を,筆者が一部変えたものである。. 祖父祖母世代(第1世代)の背景に ある儒教文化, 父母世代(第2世. 図1−73世代家族関係と母予関係(亀口のを一部改変). 代)の背景にある戦後に伝わったきた欧米文化, 子ども世代(第3世代)の背景 にある, 家庭用テレビゲーム,パソコン, 携帯電話にみる電子文化が様々に組 み合わさってくるだろうと予想される。. *23鎗幹八郎他(1990)臨床心理学大系第3巻ライフサイクル, *24野口憲治,. 金子書房. 堀田香織(1998)学校と家族の連携を促進するスクール・カウン. セリングの開発1,東京大学大学院教育学研究紀要第38巻別冊,451−465. 一13一.
(22) 第3節 交流分析とエゴグラム 1 交流分析 交流分析(Transactional Analysis)は,アメリカの精神分析医エリック・バーン. が,1950年代後半から提唱し始めたものである。交流分析は,精神内界のし くみを記号や図式を使って簡潔明瞭に説明しているため,精神分析の口語版と もいわれている。日本では,九州大学の池見,杉田らによって医学界に導入さ れ,心身症,神経症の治療に大きな効果を挙げてきた栃。 エリック・バーンは,図1−8のように,親(Parent),大人(Adult),子ども(Child). の3つの自我状態をさらに. 詳しく5つに分けること で,心の有様を分析した。 和田ら(1995)は5っの自. CP NP. P Parent. Critical Parent. Nurturing Parent. 我状態を次のようにまとめ ている。% ①批判的なP(Critical Parent,. Adult. Adult. 以下CPと略記)は,理想,. 良心,責任,批判などの価 値判断や倫理観などの父親. 的な厳しい部分を主とす. AC FC Child. Adapted Child. Free Chi蓋d. る。命令口調で「∼すべき である」「∼するのは当然 図1−8自我状態 である」などの強い言葉を はく。決められたことをきちんと守り,仕事などもまじめにきちんとこなすの で頼りになる存在である。 ②養育的なP(Nurturing Parent,以下NPと略記)は,共感,思いやり,保護,受. 容などの子どもの成長を促進するような母親的な部分をいう。「よかったね」. 「えらかったね」などのほめ言葉が多く,同情的で愛情が深い。しかし,NP. *25東京大学医学部心療内科(1995)新版エゴグラム・パターTEG(東大式エゴグ. ラム)第2版による性格分析 金子書房 *26和田三子,野村忍(1995)新版エゴグラム・パターTEG(東大式エゴグラム). 第2版による性格分析 金子書房. 一14一.
(23) の度が過ぎると親切の押し売りやおせっかいとなり,相手の自立や独立心を抑 制してしまう可能性がある。. ③大人の自我状態(Adult,以下Aと略記)は,事実に基づいて物事を判断しよ うとする部分である。「いっ,どこで,誰が,どのように」と具体的な内容を 聞いたり,数量的な結果を参考にする思考態度が強い。A的な思考態度は日常 生活では非常に必要なことであるが,過度になると,情緒欠如,無味乾燥なコ ンピュータ人間になりかねない。 ④自由なC(Free Child,以下FCと略記)は,親の影響をまったく受けていない,. 生まれながらの部分である。直感的な感覚や創造性の源で,豊かな表現力は周 囲に温かさ,明るさを与える。「ワーかっこいい!」「ウッソー!」「うれしい!」. などと感嘆詞を多く発し,よく笑ったり,泣いたりして大騒ぎをする人はFC が高い。あまりにFCが強いと自己中心的でわがままになり,周囲との’協調性 に欠けてトラブルを起こしやすくなる。 ⑤順応したC(Adapted Child,以下ACと略記)は,親たちの期待にそうように,. 常に周囲に気兼ねをし自由な感情を抑える「イイ子」である。ACは主体性欠 如のまま周囲に迎合するもので,本来の自分がまったく生かされていない。そ のため常に不本意で欲求不満が生じ,劣等感を抱いたり,gen現実を回避した りする。「∼してよろしいでしょうか」「どうしたらいいかわかりません」「ど. うせ私なんか……」などの言葉を吐いて周囲からの同情を得ようとしたり,お どおどした話し方ではっきりものを言わなかったりする。AC的な人は自分自 身の感情を抑圧する傾向が強いので,ホンネに気づかずタテマエの行動が多い。 その結果,身体症状や精神症状として現れることさえある。. 2 東大式エゴグラムの有効性 筆者は,交流分析をワークショップで研修をし大変興味を抱いてきた。次に 述べる東大式エゴグラム(以下TEGと略記)を,母親面接に取り入れてきた。 また,構成的エンカウンターでのワークショップの一つにTEGを組み込んで, 自己理解のための援助として利用してきた。筆者自身定期的に自己診断するた めの材料としても利用しているものである。交流分析を研修した当初筆者は,. Aが一番高く,FCよりもACもかなり高い傾向があった。そのため生き方と して大変苦しい状態が続いていたと思われる。このパターンは,筆者が家族内 の人間関係の中で自然と自分の中に取り入れていったものである。このことか らも,筆者は世代を越えて身につけてきた性格傾向を分析するのに,TEGは. 一15一.
(24) 有効な手段だと考えた。. TEG初版検査用紙は,石川中教授を中心に1984年に開発された枷。筆者も, 初版の検査用紙を利用してきたが,質問項目の中に5つの自我状態の中のどれ ともとれるものがあると著者に問い合わせたことがあった。1995年に改訂さ れた第2版のTEGは,初版の質問が改訂されていた。 俵(1995)は,TEGの有効性を4つあげている瑠。. ①TEGによって,自分の自我状態の中でどのような部分を使いやすいか,ま たはどのような部分を使っていないかを知ることができる。. ②TEGパターンの特徴を知ることで,自分の性格特性,行動パターンの特徴 を理解することができる。. ③人間関係でどのような交流パターンを取りやすいか理解できる。. ④TEGよって気づきがあれば,自分の行動パターンを変えることも,変えず にいることも,自分の特徴をより生かすことも,自分で選択できるようになる。. このTEGを利用して研究をした三上(1992)は,母子関係の悪化に対する予 防的アプローチとして,母親に対して東大式エゴグラムの実施が,養育態度や 人間関係の在り方をチェックすることが有効である報告している*29。子どもの. 描く統合型HTP(描画診断)法と母親のTEGに相互関係性がみられたと述べて いる。. 高校の教員である水谷(1990)は,保護者や地域の方のために「教養学校」を. 開設し,そこで親と子のふれあいを求めるための方法どしてTEGを利用した 研究をしてきたり。。. 筆者は,このTEGを子どもを虐待する親に対して,①自分の父親をどのよ うにみていたかというTEG,②自分の母親をどのようにみていたかという TEG,③自分のTEGの3回の質問紙を実施してもらった。第1世代(祖父母) と第2世代(母親)関係性が,どのように第3世代(子ども)に世代間伝達してい. くかを分析するためにTEGの利用を試みた。. *27末松弘行,和田迫子,野村忍,俵里英子(1989)エゴグラム・パターン東 大式エゴグラムによる性格分析 金子書房 *28西里英子(1995)新版エゴグラム・パターTEG(東大式エゴグラム)第2版に よる性格分析 金子書房 *29三上直子(1992)母子関係の悪化に対する予防的アプローチ,心理臨床学研 究10−1;P76−83. *30水谷大二郎(1990)親と子の交流分析 法政大学出版局. 一16一.
(25) 第4節 研究の目的 1 本研究の2つの目的 本研究の主な目的は,①虐待の世代間伝達がどのように世代を越えて伝わっ. ていくのかを事例を通して分析する,②クライエントの虐待の程度をTEGを 使うことによって,心理的アセスメントとして利用できないかを検討をする, ということである。. 現在の虐待の状況は,第1節でも指摘したように,右肩上がりの急上昇を示 しており,学校教育現場でも取り組んでいかなければならない問題となると思 われる。児童相談所に持ち込まれる被虐待者の50%は,小中学生である。こ こに通告された事例のほとんどが重症であると思われるが,どこの学校現場に も虐待の問題で困っている,子ども,親の存在があると推測される。しかしな がら,教師の6割以上が,虐待の通告義務さえ知らない状況では,「虐待」と はどういうことをいうのかも知っていないのではないかと思われる。 第2節でもふれたように,虐待の問題は,親子の二者関係から,家族の関係, 社会との背景まで大きく関わってくる問題でもある。1900年代が始まった, ヨーロッパの産業革命のおりには,子どもが産業の担い手として利用されてき た。日本でも,国民学校には,小学生までがお国のために戦争に利用されてい った時代があった。何かの目的のために「乱用する」(abuse)のが,虐待の意 味である。フランスの乳幼児精神分析者のレボビッシからの「世代間伝達」の 流れが,乳幼児の研究で盛んになりつつある。また,アルコール中毒患者から の流れの,AC(アダルトチルドレン)の広まりが「世代間伝達」を世間に広め つつある。さらに,最近の子どもの死にいたるような虐待の問題が,テレビで 報道されるにつれて,虐待の世代間伝達が大きく取り上げられるようになって きた。今までの先行研究をみても,学校現場からの臨床事例を取り扱ったもの はない。臨床家,研究者からの臨床研究がほとんどである。. 以上のことをふまえて,本研究では事例を通して母親の生育史のインタビュ. ー,母親のTEG,母親からみた父親像TEG,母親からみた母親像TEGを分析 することで,虐待の世代間伝達の鎖をいかにして解いていったらいいかを考察 することを目的とする。. あわせて,虐待の事例の心理的アセスメントとしての,TEGの有効性につ いても検討を加えたい。それによって学校現場での虐待への対応の提言が出来 るものと考える。. 一17一.
(26) 2 研究の仮説と方法 「親自身(第2世代)が成長していく過程で,両親(第1世代)から受けたイメー. ジや思い込みが,意識するしないに拘わらず子ども(第3世代)に伝わっていくこ とを世代間伝達という」の定義を基に考える。 研究方法としては,親自身(第2世代)が,両親(第1世代)から受けたイメー. ジを,東大式エゴグラムを使って調査をする。母親に①自分のTEG,②子ど も時代に自分から見た父親のイメージのTEG,③子ども時代に自分から見た 母親のTEGの3種類を,インタビューの前に調査する。母親のエゴグラムが 両親のエゴグラムの影響を受けているものと予想される。母親から子どもの影 響については,今までの煽惑時の子どもの行動観察,絵,母親へのインタビュ ーで分析を実施した。 インタビューの内容については,(George et al,1985)*31の,アダルト・アタ. ッチメント・インタビューを参考とさせてもらっだ32。. 本研究では筆者がこれまでに担当してきた事例の中に,虐待の4事例があっ た。そこで,虐待事例の分析をすることによって以下の仮説を検証することと した。. 仮説①「子ども(第3世代)の出している問題行動は,母親(第2世代)の未解 決な問題である被虐待,つまり両親(第1世代)からの虐待の影響であること」 を世代間伝達の理論から分析する。. 仮説②「東大式エゴグラム(TEG)を,クライエントに3種類検査することに よって,面接をする上での心理的アセスメントとしての利用価値があるのでは ないか」を検証していく。. 学校で子どもの問題行動がなくなっても,真の意味での解決にはならなくて,. 違う形で表現されることが多い。教師が,世代間伝達の概念をもって,子ども に対応することは,家庭をも援助することになり,真の意味での解決に繋がる と考える。本研究に目的を達成することで,虐待の悪しき世代間伝達を断ち切 る示唆が得られると考える。. *31George,C.,Kaplan,N.&Main,M.(1985)An Adult a血。㎞ent intewiew Interview protocol. Unpublished manuscript.乙伽vθπ5’リノqプCα1荻)7η∫α.βα7ん1のろ D{ψαγ吻θη’qズ P8γ凶0109ソ.. *32田中千穂子(1997)乳幼児心理臨床の世界,山王出版. 一18一.
(27) 第2章 世代間伝達からみた虐待事例の分析 筆者は,小学校現場で言語通級教室という特殊な立場で,臨床に携わってきた。その中. で,子どもを虐待した経験のある母親との面接をやってきた。面接終了後ある程度経過 したこともあり,母親が子どもを虐待に至った経緯について,世代間伝達とTEGの観点か ら再検討することが,本章の目的である。. 第1節4つの事例の概要 【事例情報の要約】. ここに報告する4事例はすべて,修士論文の目的のためにインタビュー及び 調査をすることに同意を得ている。来談できる母親は,筆者の勤務校の相談室 及び言語通級教室でTEGとインタビューを実施した。来談できない母親は, 筆者が家庭及び病院を訪問し,TEGとインタビューを実施した。 ①家族状況:父親,母親,同胞,祖父母等 ②主訴:当時の子どもの問題行動 ③来談経路:相談室を訪れるまでの経路 ④援助経緯:援助方法と相談機関 ⑤現在の状況:本人及び母親の現在の様子 ⑥親からの虐待状況. A事例 ①家族状況:父親,母親(Aさん),T君(小1,6歳),妹(保育園,4歳),祖 父,祖母 ②主訴:子どもが集団に適応できない。. ③来談経路:保育園の園長からの依頼 ④援助経緯:保育園の年長(5歳)から,言語通級教室に毎週一回遊戯療法をし た。その言語通級教室に三級して筆者が担当する。 ⑤現在の状況:小3で情緒学級に在籍。社会,理科,音楽,体育の交流学習で 集団にも参加できるようになる。公文にも通い,現在箱庭療法にも毎週参加。. ⑥Aの親からの虐待状況 母親はAを連れて再婚。義父との間に妹が生まれる。Aは母親から,櫛を背 中に投げつけられたり階段から突き落とされたりした。父親も,夫婦喧嘩の腹. 一19一.
(28) いせにAを殴りつけた。Aは「妹はかわいがられるのに,自分はいつも叩か れていたので,自分はドジで悪い子どもであると思っていた」と語った。小学 校の低学年の時,夜トイレに行こうと思って,間違えて父親の足を踏んでしま った。Aは「私がいくら父親に謝っても許してくれなくて,父親は自分の気が 済むまで,身体がぼこぼこになるほど殴った」と冷静に語った。その時にAは 「本当にこれからは気をつけなくちゃと思った」と言う。両親は妹はかわいが るが,Aには高校卒業まで身体的・心理的虐待をし続けた。母親は手料理をし たことがなく,いつも出来合いの物が食卓に並べられていた。 B:事例. ①家族状況:父親,母親(Bさん),H君(中2,14歳),叔母 ②主訴:不登校,チック,対人恐怖 ③来談経路:講演会の時に知人からの紹介。. ④援助経緯:隔週で母親面接を1年間,小学校の面接室で実施。H君に箱庭療 法を紹介し,リファー。. ⑤現在の状況:中学校を不登校のまま卒業。不登校を受け入れる専門の高校に 入学。欠席が多いながらも何とか卒業,専門学校に通学中(19歳)。母親は2 年前に直腸ガンのため入院手術をし,その後入退院を繰り返しながら現在に至 る。現在も随時面接中。. ⑥Bの親からの虐待状況 Bが5歳の時に,母親は3帯下の弟を連れて精神的な病気で入院してしまっ た。Bは母親に「連れて行って」と言っても置いて行かれたことをよく覚えて いる。母親は弟にはいつまでもおっぱいを吸わせていた。Bは「母親からかわ いがってもらった記憶がない」と言う。「しっかりしてるからと言われて何で も自分一人でやってきた。」「母親は家にはほとんどいなかったので,授業参 観にも一度も来てもらったことがなかった」と語った。Bにとって父親は怖い 人で,幼稚園から中学まで叩かれた。幼稚園の頃,Bは父親に叩かれると思っ て逃げたけれども,父親はどこまでも追いかけてきて殴られ,土に顔を押しつ けられた。父親から「謝れ」と言われても反抗的な態度をとると,雪の中に放 り出されたこともあった。ある時Bは「父親から竹刀で叩かれて,息ができな いくらい辛くて布団の中で痛みをこらえて泣いた」と言う。. C事例 ①家族状況:父親,母親(Cさん),M子(小2,8歳),妹(保育園,3歳), 弟(0歳). 一20一.
(29) ②主訴:不登校 ③来談経路:知人からの紹介. ④援助経路:毎週一回の母子並行面接を実施。M子には箱庭と遊戯療法を実 施。筆者が母親の面接担当。. ⑤現在の状況:小3からは不登校は改善された。現在中3に在籍。. ⑥Cの親からの虐待状況 Cは「家は代々飲む家系で,毎日祖父と父が,飲んで喧嘩しているのを聞い ているのが苦痛であった」と言う。Cは二階に上がって耳をふさいでじっと耐 えているが,すごい大きな声で怒鳴り合う声が響いていた。母親は,それで悩 んで出て行ったこともあった。Cは「私は,不安で不安でしょうがなくて追っ かけていった。どっか行っちゃうんじゃないかと思って,辛かった。夜になる と嫌だなと思った。お酒なんかこの世からなくなればいいと思った」と語った。. Cは「飲まない昼間は,父親に厳しく監視されているようであった」と言う。 父親はCの失敗を許さなくって,Cは「いつも自信のない子どもだった」と語 った。しかし,母親は優しくしてくれた。Cは「母親に怒られた記憶がない」 と語った。. D事例 ①家族状況:父親,母親(Dさん),姉(小3),Y子(小1,6歳),妹(保育園, 3歳), 祖父,祖母. ②主訴:家庭での不適応行動,反抗 ③来談経路:A事例の母親からの紹介 ④援助経緯:小学校の面接室で隔週で10回の母親面接を実施。 ⑤現在の状況:母親から見たY子の不適応行動は改善された。母親もY子を叩 くのが少なくなってきたと報告してくれた。現在小3在籍。. ⑥Dの親からの虐待状況 父親は,口うるさく自分の考え方をDに押しつけてきた。父親は,Dがテレ ビを見てみても「勉強したのか」と怒って消してしまった。しかし,父親から 身体的に叩かれたことはなかった。Dは「母親はかまわない人であまり面倒を 見てもらった記憶がない」と語った。しかし,叔母(父親の姉(心臓が悪い))が. 一緒に住んでおり,Dが成人するまで優しくしてくれた。小さい頃からDは, 叔母と一緒に寝ていた。Dは「父親と叔母との喧嘩が激しかった」と語った。 Dは「父親似で肌が黒いことがずっと気になって,すごいコンプレックスを抱 いてきていた」と語った。そのことでDは,高校時代にすごく太ったことを語 った。. 一21一.
(30) 第2節 Aの事例 □:男性. ○:女性. ■:男性(死亡) ●:女性(死亡) ・一・隠一 @ 離女昏. 結女昏. A:33歳既婚女性◎. ロー. □. ○. ロ斗. 占. 9… T男. 卜2−2−1 Aの家族樹形図 1 Aの生育歴 【両親(第1世代)から母親A(第2世代)への世代間伝達】 Aが保育園の年中(4歳)の時に,母親が再婚をした。5歳離れて妹が生まれ た。Aは母親から,櫛を背中に投げつけられたり階段から突き落とされたりし た。父親も,夫婦喧嘩の腹いせにAを殴りつけた。妹はかわいがられるのに, Aはいつも叩かれて育ってきた。そのため,自分はドジで悪い子どもであると 思ってきた。小学校の低学年の時,夜トイレに行こうと思って,間違えて父親 の足を踏んでしまった。父親は,Aがいくら謝っても許してくれず,気の済む までぼこぼこになるほど殴った。その時にAは「本当にこれからは気をつけな くちゃと思った」と言う。小学生の頃に近所の子どもから「お前親は,本当の 親じゃないんだ」とからかわれたときも,そんなのどうだっていいというよう. 一22一.
(31) な無気力の状態であった。ただ学校で,家のことを書かなくてはいけない作文 のときとかに混乱した。母親は自分には高価な物をよく買うのに,私には何も 買ってくれなかった。Aが,親戚からお金をもらっても,母親に全部取り上げ られてしまって,「お前にはお金がかかるんだから」と言われた。そのため小 学生の頃,Aはお金を自分で使ったことがなかった。母親は,一時期酒を飲む ようになって,なくなるとAにビールを買いに行かせた。買ってこないと叱ら れた。5年生の時,熱を出して早引きをして,友だちが家まで送って来てくれ て水枕をしてもらった。母親にもしてもらったことがないので感激した。遠足 の時の私の弁当は,梅干しのおにぎり二つと決まっていた。 母親は料理を作ってくれたことはなく,いつも買ってきた出来合いの物が食 卓に並べられていた。中学生の時に,母親がトンカツを作ってくれたときに, 「トンカツってこんなにおいしんだ」と涙が出てきたことを,その時映ってい たテレビマンガとともに鮮明に覚えている。中学2年生の時に,子犬が家に来 た。母親が感情的に爆発したときに,子犬を洗濯機に入れようとしたので,A は殺されると思った。「こんな思いは私だけで十分だ」と思った。私といると みんな不幸になってしまうと感じた。このような身体的,心理的虐待はAが高 校卒業まで続いた。Aは,かわいがられた妹に対して,大きな期待をもってい るのとは反対に,自分に対して極めて深い罪悪感と孤独感をもってきた。 社会人になって,Aは,ホテルのフロント係になって,大変頑張るのでみん なに認められた。しかし,有能な新人が入ってくると,何故だが今までできて いたことができなくなって,自分をどん底にたたき落としてしまうのだと語っ た。. 2 エゴグラムからみた世代間伝達 【両親(第1世代) → 母親A(第2世代)への世代間伝達】. 今回は,筆者は東京大学医学部心療内科・編,東大式エゴグラムTEG第2 版をA(母親)に実施した。最初に自分のTEGを,次に父親をイメージしてTEG を,最後に母親をイメージしてTEGを続けて実施した。. ※性格特徴 の表示例. 【A B C B C】. A<75∼100ハ。一センタイル>. ↓ ↓ ↓ ↓ ↓. B<25∼74ハ.一国ンタイル>. CPNP A FCAC. C〈0∼24ハ。一センタイル〉. 一23一.
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