第4章 総合考察と今後の課題
第2節 今後の課題
事例研究は,目の前のクライエントを対象とするので,自分の研究テーマに 添ったケースがいつも現れるとはかぎらない。また,長い面接過程を検討しな
ければならない場合がむしろ多い。その意味では,たった4事例をもって,虐 待の世代間伝達が証明されたということは到底言えないであろう。
また,TEGの虐待事例への活用についても,あまりにも少ない4事例では,
たまたまそうなったのではないかと言われるのも仕方のないところであろう。
虐待の事例は,カウンセラーとクライエントのラポートをとることが難しい。
クライエントによってカウンセラーの無力感を思い知らされることも多々ある と謡曲される。また,カウンセラー自身の問題が呼び起こされることも大いに あることである。それらを踏まえながら今後の課題として,
①虐待の事例に分析をし続けることが必要である。
②TEGの活用が,カウンセラーとクライエントの関係性に左右されるので はないかとの疑問が残った。
4事例は,カウンセラーとクライエントの関係性ができていたので,TEG
の結果がうまく出たが,被虐待者は自分の両親を理想化する傾向が強いので,逆の結果が出る可能性があるとも考えられる。
おわりに
筆者が臨床の勉強に興味を抱いたのは,自分の今までかかえてきた生き難さ であったであろう。大学院で「虐待」に拘ったのも,そこに自分自身のテーマ があったからである。世代間伝達理論は,虐待の連鎖を解く一つのキーワード であることは,事例の分析からも少なくとも見えてきたように思われる。
子ども虐待の問題がマスコミでクローズアップされてきたこととも相まっ て,これからの家庭教育,学校教育でも問題となっていくだろうことは,第1 章で示したデータでも明らかである。マスコミからの情報は,子どもの命に関 わるような虐待問題だけに焦点が当たっているため,児童相談所の取り組みが 表面に出てきていることの方が多い。
子どもの虐待は,家庭教育の目に見ない死角の部分で起こっている。そして,
虐待をしてしまう親自身も苦しんでいることが予想される。親子共にケアして いけるようなシステムが,全国的に必要となってくる時代が到来するであろう。
今の現状は,医療,福祉,司法,忍言関係とのネットワークはできつつある が,肝心の教育関係者のネットワークへの参加が遅れているのが実態ではない
だろうか。
これからの学校現場では,不登校,いじめ,校内暴力,非行の背景に,親か らの虐待があったのではないかと,グローバルに見ていくことが,問題解決へ 向けての一視点を与えると考える。その意味で,世代間伝達理論による虐待事 例の分析は,一石を投じることになったものと思われる。
今後さらに,教育現場での臨床に携わっていくことで,事例分析を重ねてい きたいと思う。
〈論文要約〉
世代間伝達理論による虐待事例の分析
専 攻 学校教育研究科 コース 生徒指導コース 氏 名 M98158D 小誌 哲也
1.研究の目的
筆者は,学校現場の言語通級教室において種々のケースを担当してきた。そ の中で,親からの虐待であると思われるケースを4事例扱った。その事例を分 析することによって,世代間伝達理論のいうところの虐待の世代間伝達が,祖 父母から親,そして子どもへと伝わっていく虐待のメカニズムに検討を加えた い。子どもの問題行動がなくなっても,真の意味での解決にはならなくて,違 う形で表現されることが多い。世代間伝達の視点に立つ問題理解は,子どもを 支えていくと同時に親をも支えていくこととなり,世代間伝達の鎖を断つこと のヒントになると考える。
研究の目的は,①虐待の世代間伝達がどのように世代を越えて伝わっていく かを事例を通して分析する。②クライエントの虐待の程度を東大式エゴクラム を使うことによって,心理的アセスメンとして利用できるないかを検討する,
ということである。
2.研究の方法
面接を終了した虐待事例に対してインタビューを実施した。親自身(第2世 代)が,両親(第1世代)から受けたイメージを,東大式エゴグラムを使って調 査をする。母親に①自分のエゴグラム,②子ども時代に自分から見た父親のイ メージのエゴグラム,③子ども時代に自分から見た母親のエゴグラムの3種類 を,インタビューの前に調査した。母親のエゴグラムが両親のエゴグラムの影 響を受けているものと予想された。母親から子どもの影響については,今まで の通級時の子どもの行動観察,絵,母親へのインタビューで分析を行った。研 究では虐待の4事例に絞って,「子ども(第3世代)の出している問題行動は,
母親(第2世代)の未解決な問題である被虐待,つまり両親(第1世代)からの虐 待からの影響である」ことを世代間伝達の理論から分析した。
3.結 果
インタビューの結果,AとBはひどい身体的虐待を幼少主面より両親から受 けてきたことがわかった。AとB本人のTEGの共通点は, ACが一番高いこと である。また,両親に対するイメージのTEGの共通点としては, CPが一番高
く,NPが20パーセンタイルと低い。特に,母親のNPが1パーセンタイル以
下と低い結果が出た。インタビューの結果,CとDは父親の母親に対する攻撃 的な態度を見て育ったことがわかった。両親に対するイメージのTEGの共通点としては,父親のCPが85パーセンタイル以上と高く,母親のNPが70パ
ーセンタイル以上という結果が出た。
4.考察と今後の課題
今回の研究で,筆者は,幼少期よりひどい虐待を継続的に受けいてきた人の 母親イメージのTEGのNPが,著しく低いことに注目した。 AとBは,子ども に一生懸命関わるのだが,最終的には親と同じように子どもを虐待してしまっ ていた。両親との基本的信頼感の欠如の世代間伝達が起こり子どもへ影響した ものと推察された。一方,CとDも,子どもに対する同様な虐待的行為がみら れたが,相談面接を継続し自分の親子関係を振り返り,我が子への接し方の問 題を検討していくことで,子どもの問題行動は比較的速やかな改善をみた。こ の差異をもたらした理由として,母親イメージのTEGの:NPが高いことが,関 係していると推察された。CとDは,母親との基本的信頼関係が成立していた ことが,子どもへの悪しき世代間伝達を比較的容易に断つことのできた一要因 であったと推察された。
佐藤(1995)は,被虐待児症候群の特徴に一つに,「人間とこの世界に対する く基本的信頼感〉の形成が損なわれてしまっていること」を述べている。基本 的信頼感が形成不全に終わると,子どもには,自分が悪い子どもだから,自分 は親から愛されたり,認められたりするに値しないと思ってしまう。その結果,
自己卑下してしまいやすい。それから逃れる方法として,虐待をしてきた強い 親への同一化がはかられる。今までの低い自尊感を克服するために子どもを虐 待する(乱用する)するのである。ここに,虐待の世代間伝達を断ち切ることの 難しさがあると思われる。このことから,虐待をしてしまう母親へのアセスメ
ントとして,TEGが利用できるのではないかと考える。今後さらに臨床事例 の集積により検討を重ねていきたい。
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