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COVID-19 と循環器疾患

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日大医誌 80 (1): 3–5 (2021) 3

は じ め に

新型コロナウイルス (Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2: SARS-CoV2) 感染は全世界において今な お,流行,拡大を続けている.数多くの報告から, COVID-19 は心疾患などの既往がある高リスク患者では 致死的な疾患になりうることは広く知られるようになっ ている.COVID-19 の重症化の原因はウイルス感染やサ イトカインストームによる肺疾患だけでなく,SARS- CoV2 の 受 容 体 で あ る ア ン ギ オ テ ン シ ン 変 換 酵 素 2 (Angiotensin converting enzyme 2: ACE2) を介した心筋障 害,血管内皮障害と血栓形成も重要なファクターとされ ており,COVID-19 と循環器疾患には深い相関がある. 本稿ではCOVID-19 における心血管疾患発症の機序,血 栓症,心筋症,不整脈との関係性,また循環器疾患患者 におけるCOVID-19 感染について概説する. COVID-19 における心血管疾患発症の機序 SARS-CoV2 は各臓器の細胞表面の ACE2 受容体に結 合して細胞内に侵入することが広く知られている1) ACE2 は体内のほとんど全ての組織に発現しているが, 特に呼吸器,心臓・血管,消化管,泌尿排泄系,生殖系 にて高い発現率が報告されている.この中でも心筋や 血管内皮細胞に発現しているACE2 に SARS-CoV2 が感 染,侵入することが,COVID-19 による種々の心血管疾 患を引き起こす主因と考えられている.実際COVID-19 感染患者の剖検所見からSARS-CoV-2 が血管内皮細胞に 感染していたことが証明されている2).またACE2 はア ンギオテンシン2 を分解する作用を持ち合わせている が,SARS-CoV2 感染により ACE2 が減少し,それに伴 いアンギオテンシン2 が体内に増加するによって,レニ ンアンギオテンシン系の賦活化,炎症を引き起こすこと もCOVID-19 における心血管疾患発症に寄与していると 推定される. COVID-19 と血栓症について COVID-19 と血栓症,凝固線溶異常の関連性に関して は昨年の流行拡大初期から様々な報告がなされてきた. 特に発症急性期に血中D-dimer の上昇をしばしば認め ることは広く知られている3).凝固線線溶マーカーであ るD-dimer の上昇と予後との関連を論じた報告は多く, COVID-19 入院中の D-dimer 上昇は急性期の血栓症,死 亡の独立した危険因子であり4, 5),後述するような種々 の血栓症を併発した患者は血栓症を併発しなかった患者 と比較して2 倍以上の院内死亡率が報告されている6) COVID-19 によって種々の臓器に血栓ができる要因と しては前述した血管内皮細胞に発現しているACE2 への SARS-CoV2 の感染,その後引き起こされる血管内皮細 胞の障害,サイトカインストームと考えられている2) 強い血栓傾向を背景にCOVID-19 では動脈血栓症も静脈 血栓症も発症することが報告されており,動脈血栓症と しては脳梗塞,心筋梗塞,下肢末梢動脈塞栓症など,静 脈血栓症としては深部静脈血栓症 (Deep vein thrombosis: DVT),肺血栓塞栓症 (Pulmonary embolism: PE) などが

報告されている.ニューヨークの4 病院に入院した

COVID-19 患者約 3000 名の報告では ICU 入室患者の約 3 割,ICU 非入室患者の約 1 割に何らかの血栓症を併発

していた6).COVID-19 における血栓症への加療方針に

関しては様々な報告がされているが,国際血栓止血学会 (International Society on Thrombosis and Haemostasis: ISTH)

が管理治療指針を提供しており7) (Fig. 1),D-dimer,そ の他の凝固関連マーカーを測定し,異常(D-dimer 値が 正常上限の3 ∼ 4 倍,血小板値・フィブリノゲン値から DIC が否定的)のみられる際には,積極的な低分子量ヘ パリンを用いた予防的抗凝固療法を実施することが推奨 されている.本邦では低分子ヘパリンが保険未承認であ り未分画ヘパリンによって代用されることが多い. 実際COVID-19 において,入院中に抗凝固療法が行 われていた場合と行われていない場合の予後への影響 をretrospective に比較したいくつかの報告においても, 抗凝固療法が施行されていた患者群では人工呼吸器導入 率が低く,特に重症患者においては院内死亡率も低かっ たことが報告されている8, 9).今後COVID-19 の流行が さらに拡大,患者数増加が予想されるため,内服によ る抗血栓療法が可能な直接経口抗凝固薬 (Direct oral anti-coagulant: DOAC) の汎用性,有効性について期待されて

 

COVID-19 と循環器疾患

村田 伸弘  奥村 恭男

日本大学医学部内科学系循環器内科学分野

(J. Nihon Univ. Med. Ass., 2021; 80 (1): 3–5)

(2)

4 村田 伸弘・他1 名 日大医誌 いるが現時点では有効な無作為比較試験の報告はない. ただし,70 歳以上の高齢者で,心疾患のためにすでに DOAC を内服していたかどうかで,COVID-19 発症後の 予後を検討した報告があり,少数例ではあるがDOAC 内 服症例で,有意に生命予後がよかったとされている10) COVID-19 治癒後も血栓傾向は続くとされており外来で の使用汎用性の高いDOAC の COVID-19 への有効性の Evidence が今後期待される. COVID-19 と心筋障害について COVID-19 患者では,前述したように SARS-CoV2 が 心筋細胞内のACE2 受容体に感染することによって心 筋トロポニンやCK-MB 上昇で定義される心筋傷害が COVID-19 急性期に約 2 割の頻度で認められることが報 告され,さらに心筋障害を併発した群では有意に院内死 亡率が高いことが報告されている11).またCOVID-19 患 者において回復期に心臓造影MRI 検査を施行した報告 では,約70%の患者で心膜,心筋の障害が画像として 確認されており,約60%は活動性の炎症所見を認めて いた12).このような心臓造影MRI で認められるような 心筋障害はCOVID-19 軽症群でも報告されており,無症 状から比較的軽症なCOVID-19 から回復した学生アス リートに施行された同様の試験でも約3 割の学生に心 膜,心筋の障害が確認された13).つまりSARS-CoV2 は 肺だけでなく,心筋に対してもかなり高い確率で障害を 来していることが示唆される.実際,SARS-CoV2 感染 によって心筋障害を来した症例の一部は,心電図変化や 心臓超音波検査での収縮能低下・心嚢液貯留などを認め るような急性心筋炎を発症し,著明な心機能低下や心原 性ショックを呈し劇症型心筋炎となる症例も報告されて いる.現在COVID-19 による心筋障害に対する加療方針 については明確なEvidence がないのが実情ではあるが, 一般的なウイルス性心筋炎に準じてステロイド,免疫グ ロブリンの使用が検討され,循環不全に対しては強心剤 や機械的補助循環装置の使用が検討される. COVID-19 と不整脈について COVID-19 と不整脈発症との強い相関性は現段階では 報告されていないが,前述した血栓症・心筋障害に伴っ て,またCOVID-19 治療薬としてのヒドロキシクロロキ ン,アジスロマイシン使用に伴う不整脈関連の報告がさ れている.特に欧米からの報告として多いのがヒドロキ シクロロキンもしくはヒドロキシクロロキン,アジスロ マイシン併用に関連したQT 延長と Torsade de points で ある14, 15).本邦では欧米と異なりヒドロキシクロロキン の使用が限定的であることから前述のような不整脈発症 報告は少ないが,COVID-19 治療中は QT 間隔を確認し, 電解質補正,解熱などによって催不整脈性を低下させる ことが肝要である. 循環器疾患患者における COVID-19 について 心不全,冠動脈疾患,心筋症などの循環器疾患に罹患 している患者ではCOVID-19 感染時の重症化リスクが約 3.4 倍高まるとされており16)COVID-19 の高リスクファ クターである.さらに循環器疾患患者では年齢,喫煙, 肥満,高血圧,糖尿病,慢性腎臓病などの要素が加わる ことでリスクは複合的に高まっていくため,COVID-19 感染時の重症化,死亡リスクは非常に高いと考えられて

Fig. 1 ISTH interim guidance on recognition and management of coagulopathy in COVID-19. (ISTH 暫定 COVID-19 凝固管理ガイダンス)

(3)

80 (1) 2021 COVID-19 と循環器疾患 5 いる.また低左機能の慢性心不全患者,高度狭窄の残存 する虚血性心疾患患者では,COVID-19 感染を契機とし て心不全の急性増悪や急性冠症候群を認める場合もあ る.高血圧,陳旧性心筋梗塞既往,低左心機能の患者は 一般的にアンギオテンシン変換酵素阻害薬 (Angiotensin converting enzyme inhibitor: ACEI) やアンギオテンシン 受容体拮抗薬 (Angiotensin receptor blocker: ARB) の内服

をしている患者が多い.前述のようにACE2 は

SARS-CoV2 の受容体であり流行初期に ACEI,ARB 内服患者

におけるCOVID-19 感染のリスクについて議論となっ

たが,Mancia らは COVID-19 患者における ACEI,ARB

の内服継続がCOVID-19 そのものの重症化,死亡リス クとの関連性がなかったことを報告している17).現状 ACEI や ARB 内服患者においては薬剤中断による心不 全増悪などのイベントも懸念されることから,これらの 薬剤は中断せず継続すべきであるとされている. ま と め 以上のように,数多くの報告からCOVID-19 と循環器 疾患は密接な関連があり,COVID-19 関連循環器疾患は 重症化リスクのマーカーであるともいえる.しかしなが ら,その予防や治療に関しては,いまだ未解決の喫緊の 課題であり,今後のエビデンスの集積に期待したい. 本論文に関する申告すべきCOI はありません. 文  献

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