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足関節背屈制限が生じている血友病患者の靴およびインソールの補正が歩行に与える影響

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Academic year: 2021

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足関節背屈制限が生じている血友病患者の靴およびインソールの補正が歩行に与える影響 211

1.はじめに

血友病は、血液凝固第Ⅷ因子あるいは第Ⅸ因子の欠乏 または異常に基づく遺伝性疾患で、主な出血症状として 関節、筋肉内などの深部出血を特徴とする。また、繰り 返す関節内出血により次第に関節の可動域制限、拘縮な どの血友病性関節症をきたす1)。この症状は血友病患者 の約 80%にみられ、足関節、膝関節、肘関節など負荷 のかかりやすい関節に好発する2)。足関節の背屈可動域 に制限が生じると、足底圧の圧力分布異常や最大圧力の 増加が指摘されている3)。Rodriguez ら4)は、血友病性 関節症においてインソールを使用することで、足底圧力 の分散および局所の除圧、衝撃の吸収により歩行の快適 性が向上すると述べている。また、Lobet ら5)は、血友 病性足関節症患者の痛みの緩和と歩行の快適性の向上 に、インソールおよび靴型装具は有効であると報告して いる。 インソールや靴型装具の適合は多くの場合、医師や義 肢装具士による歩容の評価および対象者の快適性の主観 評価で判断されている。客観的評価の手法として三次元 動作解析装置があるが、機器が高価などの問題がある。 松村6)は、簡易的な歩行の評価法として、重心動揺計を 用いることが可能と述べている。今回は、歩きやすさの 主観評価、歩行速度に加えて、重心動揺計を用いて靴お よびインソールの補正の効果を検討したので報告する。

2.目的

足関節に背屈可動域制限がある血友病患者に対し、靴 およびインソールへの補正の効果を検証することを目的 とし、歩行速度、歩幅、重心移動距離の歩行パラメー ターを用いて評価と分析をした。

3.方法

3-1.研究デザイン 靴およびインソールの補正を実施する前の状態(以 下;pre)と補正を実施した後の状態(以下;post)の歩 容の変化を分析した。 3-2.対象者 2019 年に実施された血友病リハビリ検診会に参加し た足関節に背屈可動域制限がある血友病患者で、靴およ びインソールの補正を希望した参加者 4 名を対象に評価 を行った。なお、血友病リハビリ検診会は血友病患者会

【症例報告】

足関節背屈制限が生じている血友病患者の靴

およびインソールの補正が歩行に与える影響

吉田 渡

1,2)

  小町 利治

1)

  本間 義規

1)

唐木 瞳

1)

  藤谷 順子

1) 抄録:足関節背屈制限が生じている血友病患者の靴およびインソールに補正を加えたときの歩行への影 響を、歩きやすさの主観評価と歩行速度、歩幅、重心移動距離を用いて評価した。2019 年に実施された 血友病リハビリ検診会の参加者で、靴およびインソールの補正を希望した 4 名を対象とした。補正後の 歩きやすさの主観評価は、対象者 4 名すべてが歩きやすさを自覚した。補正前後で 10 m 歩行を比較した 結果、歩行速度、歩幅の改善は認められなかった。重心移動距離は第 2 仙椎レベルでの左右移動量の増 加が認められた。靴およびインソールに補正を加えることで、足関節の背屈可動域制限により荷重が十 分に行えていなかった状態が改善される結果が示された。 Key words: 血友病、靴およびインソールの補正、重心移動距離 1) 国立国際医療研究センター病院 リハビリテーション科 Wataru YOSHIDA (PO), Toshiharu KOMACHI (PT), Yoshinori HONMA (PT), Hitomi KARAKI (OT), Junko FUJITANI (MD)

2) 人間総合科学大学 保健医療学部 リハビリテーション学科 Wataru YOSHIDA (PO)

(2)

POアカデミージャーナル Vol. 28, No. 4, 2021 212 地から足底接地までのタイミングを調整するために、2 mmから 5 mm の範囲での踵の補高を実施した。併せて、 内外側への不安定性が認められる場合には、内側または 外側縦アーチパッドを付加した。各対象者の身体機能情 報と補正の状況を表 2 に示す。 4-2.歩きやすさの主観的評価 補正実施時の歩きやすさの主観評価について、5.「とて も歩きやすい」と回答したのが 3 名、4.「まあ歩きやすい」 と回答したのが 1 名であった。いずれの対象者も、補正 による歩きやすさの変化を実感している結果となった。 4-3.歩行速度および歩幅 10 m 普通歩行の速度(m/min)の平均および SD は、 preが 96.9 ± 14.6 で あ っ た。Post は、83.0 ± 1.0 と な り、pre と比較して post で低下した。10 m 普通歩行の 歩幅(cm)の平均および SD は、pre が 68.2 ± 5.4、post は 66.0 ± 6.4 であった。 4-4.重心移動距離 第 6 胸椎レベルでの振幅距離(mm)の平均および SDは、pre で左右振幅が 33.0 ± 22.1、上下振幅が 41.3 ± 5.1、前後振幅が 15.0 ± 17.5 であった。Post は、左右 振幅で 32.5 ± 20.9、上下振幅が 43.5 ± 5.4、前後振幅が 17.5 ± 5.3 となった(図 2)。補正前後での第 6 胸椎レベ ルでの振幅距離に変化は認められなかった。 第 2 仙椎レベルでの振幅距離(mm)の平均および SDは、pre が左右振幅で 29.0 ± 14.2、上下振幅が 39.0 ± 5.7、前後振幅が 31.3 ± 11.7 であった。Post には、左 右振幅で 40.0 ± 18.0、上下振幅が 42.0 ± 6.9、前後振幅 が 33.5 ± 10.1 となった(図 3)。補正前後での有意な振 幅の変化はいずれの方向でも認められなかったが、左右 方向への振幅で、post に増加する傾向がみられた。

5.考察

Lobetら5)は、2008 年 3 月から 2010 年 12 月の間に両 側血友病性足関節症の診断でインソールが処方された との共催事業であり、そこでの回答について研究として 発表することは、別途倫理委員会の審査を受け(承認番 号:NCGM-G-002232-00)、個々の患者に対して当日に 説明し、書面での同意を得ている。 3-3.計測項目 靴およびインソールの補正の効果を判断するため、補 正後に 3 m から 5 m 程度の距離での自由歩行を一往復 するよう依頼し、歩きやすさの主観的評価を行った。併 せて、10 m 普通歩行を 3 回行うよう依頼した。歩容の 変化を判断する評価指標として、10 m 普通歩行に要し た時間、歩数、重心移動距離を計測した。 3-4.歩きやすさの主観評価 靴およびインソール補正後の歩きやすさの主観評価は 質問紙で回答を求めた。歩きやすさの質問に対して、「と ても歩きやすい」から「とても歩きづらい」の 5 段階と した(表 1)。 3-5.使用機器 重心移動距離は、体幹 2 点歩行動揺計 THE WALKING (マイクロストーン株式会社)の 8 チャンネル小型無線モー ションレコーダ(MVP-RF8-HC)を、第 6 胸椎レベルおよ び第 2 仙椎レベルの高さに設定して記録した(図 1)。

4.結果

4-1.参加者の基本情報 対 象 者 4 名 の 平 均 年 齢 お よ び 標 準 偏 差(standard deviation;以下、SD)は 42.0 ± 3.9 歳であった。足関節 背屈の可動域は、4 名とも 0°または 5°であり、いずれ の対象者も足関節に背屈可動域制限が生じていた。歩行 時の足関節の痛みの有無については、出血が起こった 時、運動強度を上げた時に痛みを自覚するが、通常の歩 行動作であれば痛みを生じないレベルであった。下肢の 徒手筋力テスト(Manual Muscle Testing;以下、MMT) の 結 果 は、 い ず れ の 対 象 者 も 4(Normal) ま た は 5 (Good)であった。靴およびインソールの補正は、踵接 図 1 ‌‌3 軸加速度センサ(8 チャンネル小型無線 モーションレコーダ) 表 1 歩きやすさの主観評価の質問項目 質問項目:「歩きやすさは如何ですか」 5. とても歩きやすい 4. まあ歩きやすい 5. 変化を感じない 2. 少し歩きづらい 1. とても歩きづらい

(3)

足関節背屈制限が生じている血友病患者の靴およびインソールの補正が歩行に与える影響 213 が良好になれば歩行速度も向上すると考えていたが、結 果は反対のものとなった。歩行速度の低下がみられた原 因として、補正から計測までの期間(時間)が短かった ことが考えられる。春名ら7)は、片麻痺者を対象とし た研究で、これまでと異なった機能を有する短下肢装具 に適応するのに 3 週間程度の期間が必要であるとの見解 を述べている。靴およびインソールに補正を行ったこと で、これまでに学習してきた歩行パターンと異なる不慣 れな歩行により、速度が低下したと考えられる。 Preでの第 2 仙椎レベルの左右振幅の平均は 29 mm で、 postの平均は 40 mm と約 10 mm 程度の増加が確認され た。成人の正常歩行での重心位置の移動は、上下で 45 mm、左右で 60 mm 程度である8)。望月9)は、歩行能力 と重心移動域の関連について、歩行能力レベルの向上に 伴い重心移動域は拡大すると述べている。post での左右 振幅は正常歩行の 60 mm には達してはいないが、pre と 16 名の男性患者を対象に、歩行の快適性の主観評価と 三次元動作解析装置による歩容の評価を実施した。イン ソールを使用して 40 週間が経過したときの血友病患者 の歩行に及ぼす影響について、患者の半数以上に大幅な 痛みの軽減がみられた一方、歩行パターンへの影響は限 定的であったと報告している。疼痛スケール、満足度ア ンケートなどの自己評価スケールはインソールの効果を 判別するための有用な手段であるが、インソールが足の 痛みにどのように影響し、快適さを改善するのかについ て明確な根拠は得られていないと述べている5)。本研究 においても、歩行速度、歩幅の歩行パターンの変化は認 められなかったが、患者自身の歩きやすさの主観評価は 良好であった。 対象者 4 名の 10 m 普通歩行の速度(m/min)の平均 および SD は、pre が 96.9 ± 14.6 で、post は 83.0 ± 1.0 と post で低下した。補正により歩きやすさの主観評価 表 2 対象者の身体機能情報 対象者 A 47 歳 対象者 B43 歳 対象者 C38 歳 対象者 D40 歳 右 左 右 左 右 左 右 左 股関節 ROM 屈曲 95 100 120 125 125 125 115 110 ( ° ) 伸展 5 5 15 25 20 20 20 20 膝関節 ROM 屈曲 110 140 160 160 140 145 135 125 ( ° ) 伸展 -20 0 0 0 0 -5 0 -5 足関節 ROM 背屈 5 5 20 0 0 0 5 5 ( ° ) 底屈 20 15 45 40 40 45 45 45 股関節 MMT 屈曲 5 5 5 5 5 5 5 5 伸展 4 4 5 5 5 5 5 5 膝関節 MMT 屈曲 5 5 5 5 5 5 5 5 伸展 5 5 5 5 5 5 5 5 足関節 MMT 背屈 4 4 5 5 5 5 5 5 底屈 5 5 5 5 5 5 5 5 関節痛の状況 高活動時に痛み 痛みなし 痛みなし 痛みなし 補正の状況 内側アーチパッド(右) 踵補高 5 mm(右) 外側アーチパッド(左)踵補高 2 mm(左) 靴踵補高 2 mm(右)靴踵補高 4 mm(左) 内側アーチパッド(両)靴踵補高 3 mm(両) 図 2 第 6 胸椎レベルでの振幅距離の変化 図 3 第 2 仙椎レベルでの振幅距離の変化 振幅距離 (mm) 左右振幅 上下振幅 前後振幅 n=4 pre post 60 40 20 0 振幅距離 (mm) 左右振幅 上下振幅 前後振幅 n=4 pre post 60 40 20 0

(4)

POアカデミージャーナル Vol. 28, No. 4, 2021 214 謝辞 本研究をまとめるにあたり、血友病リハビリ検診 会の開催にご尽力なさっている、はばたき福祉事業団の 皆様、国立国際医療研究センター病院エイズ治療・研究 開発センタースタッフの皆様、リハビリテーション科ス タッフの皆様に深謝いたします。 文  献 1) 日 笠  聡: 血 友 病, 月 刊 薬 事,50(13),2055-2060, 2008. 2) 寺田秀夫:血友病 今昔,日本臨牀,66(3),591-599, 2008. 3) 河辺信秀ほか:健常者における足関節背屈制限が歩行 時足底圧へ与える影響―糖尿病足病変の危険因子に関 する検討―,糖尿病,51(9),879-886,2008.

4) H. Rodriguez et al.: The current role of orthoses in treating haemophilic arthropathy.Haemophilia, 21, 723-730, 2015. 5) S. Lobet et al.: Functional impact of custom-made foot

orthoses in patientswith haemophilic ankle arthropathy, Haemophilia, 18(3), 227-235, 2012. 6) 松村剛志:3 軸加速度センサを用いた歩行時における 上部と下部の体幹動揺の測定 : 反復測定結果の信頼性 と体幹動揺特性の検討,常葉大学保健医療学部紀要, 8(1),29-36,2017. 7) 春名弘一ほか:底屈制動機能を有する短下肢装具を使 用した装具療法に関する研究,北海道科学大学研究紀 要,41,147-154,2016. 8) 山本澄子ほか:下肢装具のバイオメカニクス―片麻痺 歩行と装具の基礎力学―,医歯薬出版,東京,pp2-12,1996. 9) 望月 久:脳卒中片麻痺患者の歩行能力と重心動揺, 重心移動域との関連性 . 理学療法科学,3(1),7-10, 1998. 比べて移動距離は長くなっているため、補正により歩行 能力が向上したと考えられる。 対象者の第 2 仙椎レベルでの左右振幅が増加したのに 対し、第 6 胸椎レベルでの左右振幅の平均値に変化はみ られなかった。体幹上部での左右移動距離が保たれたう えで、体重心に相当する第 2 仙椎レベルでの左右振幅が 増加した現象は、補正の影響で左右方向への不安定性が 生じたのではなく、補正により足底に荷重をしやすく なったことで正常歩行に近い重心移動が可能になったと 考えられる。 靴およびインソールの補正の効果を評価するための指 標として、歩きやすさの主観評価、歩幅、歩行速度、重 心移動距離を分析した。歩行速度と歩幅に増加がみられ なかったが、歩きやすさの主観評価は良好であったこと から、歩きやすさの判断基準は歩行速度以外の要因に依 存すると考えられる。重心移動距離の改善が歩きやすさ の主観評価に影響する可能性があることから、重心移動 距離に加えて左右の足底の荷重量などの評価を加えた検 討が必要であると考える。

6.おわりに

本研究は、足関節に可動域制限を生じている血友病患 者の靴およびインソールに補正を加えたときの変化を、 患者自身の歩きやすさの主観評価と歩行速度、歩幅、重 心移動距離の歩行パラメーターを用いて評価することを 目的とした。Pre と post で比較した結果、歩行速度の上 昇、歩幅の増加については確認されなかったが、歩きや すさの主観評価の向上と第 2 仙椎レベルでの左右移動量 の増加が認められた。靴およびインソールに補正を加え ることで、足関節の背屈可動域制限により荷重が十分に 行えていなかった状態が改善されたと考えられる。

参照

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