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プロスポーツチームが行う地域貢献活動の消費者に与える影響:

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プロスポーツチームが行う地域貢献活動の消費者に与える影響:

大学生のチーム・アイデンティフィケーションと観戦意図の変化に注目して The effect of community outreach by professional sport team on team identification and the intention to attend future games

大西孝之 1),原田宗彦 2)

Takayuki Ohnishi1), Munehiko Harada2)

1)早稲田大学大学院スポーツ科学研究科

2)早稲田大学スポーツ科学学術院

1)Graduate School of Sport Sciences, Waseda University

2)Faculty of Sport Sciences, Waseda University

キーワード: 地域貢献活動,チーム・アイデンティフィケーション,観戦意図 Key words: community outreach, team identification, intention to attend future games

抄 録

近年,スポーツ組織の経 営における地域貢献活 動の重要性 が,多くの文 献によって指摘されている.

しかしながら,スポーツ組 織 が地 域 貢 献 活 動 を行 うことによる,消 費 者 への影 響 についての研 究 は十 分 になされていないのが現状である.

そこで本研究は,プロスポーツチームが行う地域貢献活動の情報が消費者のチーム・アイデンティフィ ケーションと観 戦 意 図 へ及 ぼす影響を明 らかにすることを目的 とする.呈示 刺 激 として,J リーグクラブが 行 う地 域 貢 献 活 動 の情 報 について,ポジティブな情 報 ,ネガティブな情 報 ,コントロールの情 報 (情 報 は 与えられない)の,3 つの水準を用意し,被験者にこの 3 つの条件の内の 1 つの情報を与えた.そして,

水準間で消費者のチーム・アイデンティフィケーションと観戦意図の差を検証した.分析の結果,地域 貢 献活動の情報はチーム・アイデンティフィケーションに影響を及ぼすが,観戦意図には影響を及ぼさない ことが明らかになった.

チーム・アイデンティフィケーションの観 戦 意 図 への強 い影 響 は,多 くの研 究 で報 告 されている.それ ゆえ,スポーツ組 織 は地 域 貢 献 活 動 を行 うことにより,チーム・アイデンティフィケーションを通 して,間 接 的に観戦意図に影響することが考えられる.

スポーツ科 学 研 究 , 5, 253-268, 2008年 , 受 付 日 :2008年 10月 3日 , 受 理 日 :2008年 12月 24日 連 絡 先 :大 西 孝 之 〒202-0021 東 京 都 西 東 京 市 東 伏 見 2-7-5 早 稲 田 大 学 75-2 体 育 教 室 棟 305

Email: takayuki0024@fuji.waseda.jp

(2)

Ⅰ.研究の背景と目的

地域密着型の経営を志向した J リーグクラブの 成 功 以 来 ,プロ野 球 の球 団 をはじめ多 くのスポー ツ組織が「地域」に焦点を当てた経営に努力を傾 注 してきた.そのような中 でトップレベルのスポー ツ組 織 の経 営 における地 域 貢 献 活 動 ・事 業 の重 要性 に関 心 が集 まり,文 部科 学省スポーツ・青少 年 局 競 技 スポーツ課 (2003)の報 告 書 のほか,数 多 く の 文 献 が こ の 問 題 に 言 及 し 始 め た ( 三 崎 , 2001;中 西 ,2005).しかしながら,スポーツ組 織 が行 う地 域 貢 献 活 動 が,経 営 体 としてのスポーツ 組 織 の経 営 にどのような影 響 を及 ぼすかについ ては,実証 的な研究が不足している.その理 由 の 一 つとして三浦 (2004)が指 摘 するように,経 営 体 としての組 織 目 標 を達 成 することと,経 営 外 活 動 とみなされがちな社 会 への貢 献 活 動 は矛 盾 する 関 係 にある ため,地 域 貢 献 活 動 か らスポーツ組 織 が便 益 を得 るとは考 えられなかったことが原 因 になっている可能性がある.

一 般 に,地 域 貢 献 活 動 は企 業 の社 会 的 責 任

(Corporate Social Responsibility:以下「CSR」と 略す)の文脈の中に包含される(Lewin & Savater, 1996).また,CSR の説明の際に頻繁に用いられ る Carroll (1991)が提示したモデルに従うと,CSR は企 業 が引 き受 けるステイクホルダーに対 する経 済 的 ,法 的 ,倫 理 的 ,社 会 貢 献 的 責 任 と定 義 さ れる(Maignan et al, 1999).つまり,地域貢献活 動は CSR の中でも社会貢献的責任の範疇に含 まれると考 えられる.しかし,武 藤 (2007)が指 摘 するように,我 が国 においては,CSR がブームに なったことにより,従 来 用 いられてきたフィランソロ ピー(社会貢献活動)から CSR へと語の言い換え が行 われた.このような現 象 は諸 外 国 においても 同 様 であり,CSR には経 済 的 責 任 や法 的 責 任 も 含 まれるにも関 わらず,倫 理 的 責 任 や社 会 貢 献 的責任のみに焦点を当て,それを CSR とすること が多 い.本 来 ならば,CSR と社 会 貢 献 活 動 を区

別 し議 論 すべきところではあるが,社 会 貢 献 活 動 に関する多くの研究が CSR の文脈においてなさ れていることから,以下では主に CSR 研究の流れ に沿って議 論を進める.なお,以下 で記述する先 行研究において,特定の CSR 活動が設定されて いる場合には,その内容についても記述する.

近 年 ,諸 外 国 においては,企 業 の社 会 貢 献 活 動ならびに CSR を果たすための活動について,

企業の CEO や担当者は,それらを戦略的に行う よ う に な っ て き て い る と 回 答 し ( File & Prince, 1998;Saiia et al., 2003),マーケティングのため の ツ ー ル と し て 用 い ら れ る 機 会 も 増 え て い る

(Bennett, 1997, 1998).また学術的研究におい ても,Robin & Reidenbach (1987)と Varadarajan &

Menon (1988)の研 究 を嚆 矢 とし,マーケティング ツールとしての CSR にも焦 点 が当 てられ始 めた

(Maignan, 2001).

プロ野球の球団や J リーグクラブといった多くの スポーツの事 業 体 経 営 において,スタジアムを観 客 で満 杯 にすることは最 重 要 課 題 であり,そのこ とがあらゆる収 益 獲 得 の手 段 に大 きな影 響 を与 える(佐 野 ,1999).すなわち観 客 動 員 数 の増 大 は,収 入の 4 本柱といわれる入場 料収 入,放 映 権 料 収 入 ,広 告 料 収 入 ,そしてマーチャンダイジ ング収入の増大に密接に関係している.それゆえ,

ファンのチームへの一 体 感 ,つまり「チーム・アイ デンティフィケーション」(Team Identification:以 下 「T.I.」と略す)を高 め,スタンドに頻繁 に足 を運 ぶ熱 心 なファンを獲 得 することが,プロスポーツチ ームの経営においては必要不可欠である.

日 本 でも,最 近 になってスポーツ組 織 の経 営 における地 域 貢 献 活 動 の重 要 性 が喧 伝 されるよ うになったが,それが経 営 にどのような影 響 を及 ぼすかについて明 らかにした実 証 的 研 究 は不 足 している.そこで本 研 究は,プロスポーツチームが 行う地域貢献活動が T.I.と観戦意図に及ぼす影 響 について,実 証 的 に明 らかにすることを目 的 と

(3)

する.

Ⅱ.先行研究と仮説の設定 1.地域貢献活動と T.I.

T.I.は ,ファ ンがスポ ー ツチーム に 対 して持 つ 心 理 的 な 愛 着 の 程 度 と 定 義 さ れ ( Wann &

Branscombe, 1993),ファンの行 動 的 ,感 情 的 , そして認 知 的 な反 応 に関 する重 要 な調 整 変 数 で ある(Wann & Branscombe, 1995).T.I.がよりどこ ろとする「社 会 的 同 一 性 理 論 」によれば,人 々は 自分自身が誰であるかという感覚を高め,維持 す るために,様々な社 会 的 カテゴリーの成 員 となり,

それらのカテゴリーに適 した行 動 をする(Ashforth

& Mael, 1989).実際,T.I.が高いファンであるほ ど,応 援 するチームの成 功 をより期 待 したり,スタ ジアムでの観 戦 回 数 が多 かったり,ライセンス商 品 の 購 買 量 が 多 か っ た り ( Fisher & Wakefield, 1998;Wann & Branscombe, 1993)するなど,T.I.

とファン行動についての様々な関係が報告されて いる.

スポーツチームが行 う地 域 貢 献 活 動 の T.I.へ の影響については,Sutton et al. (1997)が T.I.を 高 める方 法 の一 つとして地 域 貢 献 活 動 に言 及 し ている.彼らは,地域貢献活動はその地域におけ るチームの地 位 を高 め,肯 定 的 なつながりを通 じ てチームにファンをもたらすと述 べている.その他 , T.I.と類 似 した概 念 であるチーム・ロイヤルティに 関して,Lachowetz & Gladden (2003)はスポーツ 組織が行うチャリティや公益活動がロイヤルティを 高めると指摘した.しかし,これらの主張は実証的 には検証されていない.

一 般 の CSR 研 究 では,Sen & Bhattacharya (2001)が学生を対象とした質問紙実験において,

労働のダイバーシティや労働搾取への取り組みと いった CSR 活動がアイデンティフィケーションと類 似 し た 概 念 で あ る 「 消 費 者 と 企 業 の 一 致 」

ぼすことを明らかにした.また Lichtenstein et al.

(2004) は , 寄 付 行 為 や , Sen & Bhattacharya (2001)が導 いた結 果 と同 様 ,労 働 問 題 への対 処 という CSR 活動が「消費者と企業の一致」に影響 を及ぼすことを明らかにした.これら CSR 活動 が

「消 費 者 と企 業 の一 致 」に影 響 を及 ぼす理 論 的 背 景 としては,社 会 的 同 一 性 理 論 がある.つまり,

企業が CSR 活動を行うことにより,企業と消費者 の公 共 心 や思 いやりの心 といった自 己 概 念 が重 なり,消 費 者 は企 業 に一 体 感 を持 つようになるの である.

以 上 のことから,プロスポーツチームが地 域 貢 献 活 動 を行 うことにより,チームと地 域 住 民 の自 己概念が重なり,その結果,地域住民が T.I.を持 つようになると考 えられる.そこで本 研 究 では,ま ず次の仮説を設定した.

仮説 1:プロスポーツチームが行 う地域 貢 献活 動は T.I.に正の影響を及ぼす

2.地域貢献活動と観戦意図

スポーツチームが地 域 貢 献 活 動 を行 うことによ る観 戦 意 図 への影 響 については,原 田 ら(1998)

と Roy & Graeff (2003)が検証を試みた.なお,意 図 は行 動 を予 測 する主 要 因 であり,スポーツやレ ジャー,レクリエーションの分 野 の研 究 でも,その 重 要 性 が 報 告 さ れ て い る ( Ajzen & Driver, 1992).

原 田 ら(1998)は,チームの地 元 地 域 への貢 献 を期 待 している人 ほど観 戦 意 図 が高 い値 を示 し ていることを明 らかにし,そのため地 域 貢 献 活 動 に関 する情 報 の提 供 により集 客 が期 待 できるとし た.一方,Roy & Graeff (2003)は,地元チームに よ る 地 域 貢 献 活 動 に 対 す る 地 元 住 民 の 期 待 は 高 いが,それを行 うことによる購 買 への影 響 は一 般 のビジネスよりも低 いことを明 らかにした.それ ゆえ,スポーツ組 織 が行 うチャリティや公 益 活 動

(4)

与えることはないとした.以上の 2 つの研究は,チ ームの地 域 貢 献 活 動 に対 する地 元 住 民 の期 待 の高 さについては共 通 した結 果 を示 しているが,

地 域 貢 献 活 動 が観 戦 意 図 にまで影 響 するかどう かについては矛盾した見解を示している.

一般の CSR 研究においても,CSR 活動と購買 の関 係 について検 証 した研 究 は多 く見 受 けられ るが,CSR 活動が購買に直接結び付くかどうかに ついては,研 究 により結 果 が様 々である.例 えば,

先 に も 示 し た Sen & Bhattacharya (2001) と Lichtenstein et al. (2004)の研究においても,Sen

& Bhattacharya (2001)の研究では CSR 活動によ る 購 買 意 図 へ の 影 響 は 認 め ら れ な か っ た が , Lichtenstein et al. (2004)の研究では,購買意図 への影響が明らかとなった.

Cone Corporate Citizenship Study (2004)によ ると,もし価 格 や品 質 が同 等 であるならば,回 答 者の 86%が,公益活動と強く結びついているブラ

ンドへ乗り換えると答えた.人々は CSR 活動を行 っている企 業を高く評 価し,その評 価は企業の製 品やサービスの購買によって具体 化するのである

(Salmones et al, 2005).

前述の通り,CSR 活動が及ぼす購買意図への 影 響 については,一 貫 した研 究 成 果 は報 告 され ていないが,本 研 究 では,スポーツ組 織 が行 う地 域貢献 活動 が,観 戦意 図に影 響を及ぼすと想 定 する.そこで以下の仮説を設定した.

仮説 2:プロスポーツチームが行 う地域 貢 献活 動は観戦意図に正の影響を及ぼす

以上の 2 つの仮説を概念図にすると図 1のよう になる.T.I.から観戦 意 図への影 響 については本 研 究 では検 証 しないが,これらの強 い関 係 は多 く の 研 究 に よ っ て 報 告 さ れ て い る ( Fisher &

Wakefield, 1998;Matsuoka et al., 2003;Murrell

& Dietz, 1992;Wakefield, 1995).

図 1 本 研 究 における概 念 図

Ⅲ.研究方法 1.実験計画

本研究では質問紙内の呈示刺激により,J リー グに所属するあるクラブ(以下「J クラブ」と略す)が 行 う地 域 貢 献 活 動注 1 )の情 報 に関 して,ポジティ

ブ群,ネガティブ群,コントロール群の 3 条件を設 定した.つまり,ポジティブ群には実在の J クラブ が 行 う 地 域 貢 献 活 動 に つ い て , Sen &

Bhattacharya (2001)を参考 に作 成 した高い評 価 を示す架空の記事を呈示し,ネガティブ群には低 地域貢献活動の情報

T.I.

観戦意図 仮説 1

仮説 2

多くの研究で 強い影響が 証明されている

(5)

い評 価 の記 事 を質 問 紙 内 に呈 示 した.コントロー ル群には地 域貢 献活 動 に関 する記 事を呈 示しな かった.よって,被験者は 3 種類の質問紙のいず

れかを回 答 することになる.被 験 者 に呈 示 した架 空の記事は表 1の通りである.

表 1 本 研 究 で用 いた呈 示 刺 激

【ポジティブ群】

【ネガティブ群】

J リ ー グ に 所 属 す る 各 ク ラ ブ は 、 ス ポ ー ツ が 健 康 な 体 づ く り や 、 人 々 に 夢 や 活 力 を与えるものであり、また青少年の健全な育成に寄与するものとなるために、「J リ ー グ 百 年 構 想 」 の ス ロ ー ガ ン の も と 、 ホ ー ム タ ウ ン を 中 心 に さ ま ざ ま な ス ポ ー ツ 振 興活動を行っている。そこで、J リーグでは、今後のスポーツ振興活動のさらなる 推 進のために、各クラブのスポーツ振興活動に対する取り組みの評価を行った。

(中略)

(チーム名)【評価1点

も っ と も 低 い 評 価 と な っ た の が ( チ ー ム 名 ) で あ る 。 J リ ー グ ク ラ ブ の 中 で は 、 スポーツ振興活動のおくれた存在である。他のクラブよりも、(チーム名)はスポ ー ツ 振 興 活 動 に 消 極 的 で あ り 、 た と え ば 、 サ ッ カ ー 教 室 や サ ッ カ ー 、 フ ッ ト サ ル の 大 会 、 指 導 者 講 習 会 な ど の 開 催 や 、 小 ・ 中 学 校 の 体 育 の 授 業 に コ ー チ や 選 手 を 派 遣 し た り 、 ま た 、 サ ッ カ ー 以 外 の 他 の 競 技 団 体 と 連 携 し て 、 大 会 や ク リ ニ ッ ク 、 指 導 者 研修会などを開催することはほとんどなかった。(チーム名)がホームタウンのス ポ ーツ振興に果たした貢献はほとんどないと言わざるを得ない。(チーム名)は他の ク ラブを見習って、スポーツ振興活動に積極的に取り組んでいってもらいたい。

※10 点満点での評価の結果

J リ ー グ に 所 属 す る 各 ク ラ ブ は 、 ス ポ ー ツ が 健 康 な 体 づ く り や 、 人 々 に 夢 や 活 力 を与えるものであり、また青少年の健全な育成に寄与するものとなるために、「J リ ー グ 百 年 構 想 」 の ス ロ ー ガ ン の も と 、 ホ ー ム タ ウ ン を 中 心 に さ ま ざ ま な ス ポ ー ツ 振 興活動を行っている。そこで、J リーグでは、今後のスポーツ振興活動のさらなる 推 進のために、各クラブのスポーツ振興活動に対する取り組みの評価を行った。

(中略)

(チーム名)【評価10点

も っ と も 高 い 評 価 と な っ た の が ( チ ー ム 名 ) で あ る 。 J リ ー グ ク ラ ブ の 中 で は 、 スポーツ振興活動の先進的な存在である。他のクラブよりも、(チーム名)はスポ ー ツ 振 興 活 動 に 積 極 的 で あ り 、 た と え ば 、 サ ッ カ ー 教 室 や サ ッ カ ー 、 フ ッ ト サ ル の 大 会 、 指 導 者 講 習 会 な ど を 開 催 し た り す る ほ か 、 小 ・ 中 学 校 の 体 育 の 授 業 に コ ー チ や 選 手 を 派 遣 し た り 、 ま た 、 サ ッ カ ー 以 外 の 他 の 競 技 団 体 と 連 携 し て 、 大 会 や ク リ ニ ック、指導者研修会などの開催も頻繁に行っている。(チーム名)がホームタウン の ス ポ ー ツ 振 興 に 果 た し た 貢 献 は 非 常 に 大 き い だ ろ う 。 他 の ク ラ ブ は ( チ ー ム 名 ) を 見習って、スポーツ振興活動に積極的に取り組んでいってもらいたい。

※10 点満点での評価の結果

(6)

被験者は,呈示刺激に示した J クラブのホーム タウンがある都市周辺の大学生である.質問紙実 験は 3 大学(体育学部,人間科学部,法学部)で 行い,計 519 名の学生を対象に実施した.実験 を実 施 するに当 たっては講 義 担 当 教 員 の協 力 を 得 て,講 義 実 施 前 もしくは講 義 終 了 後 に質 問 紙 を配布し回収した.計 519 サンプルの内,すべて の項 目 に答 えていないなどの無 効 サンプルを除 いた結 果 ,429 の有 効 回 答 を得 た(有 効 回 答 率 82.65%).

実 験 の手 続 きは以 下 の通 りである.まず,導 入 として J リーグに所属する各クラブは「J リーグ百年 構 想 」のもと様 々な地 域 貢 献 活 動 を行 っているこ とを伝えた.次に,研究の目的は J クラブが行う地 域 貢 献 活 動 について大 学 生 の意 見 を調 べること であると伝 えた.また被 験 者 により,配 布 される質 問 紙 の内 容 が異 なるので,他 人 の質 問 紙 の内 容 や回 答 の様 子 から各 被 験 者 が影 響 を受 けなくす るため隣 の席 に誰 もいないように着 席 するよう指

示 し,他 人 と情 報 交 換 せず自 分 の回 答 に集 中 す るよう促 した.そして,被 験 者 によって異 なる質 問 紙 がランダムに配 布 されることを保 証するため,あ らかじめ 3 種類の質問紙をランダムな順番に重ね,

それを被験者に配布した.

質 問 紙 では,まず性 別 ,年 齢 ,J リーグへの関 心の有無について尋ねた.続いて,Trail & James (2001)の T.I.尺度と Wakefield & Sloan (1995)の スタジアムにおける観 戦 意 図 に関 する回 答 を求 めた.次に,ポジティブ群とネガティブ群の質問紙 には呈示刺 激としての地 域貢献 活動 の評価 の記 事 があり,操 作 チェック項目 として J クラブが行 う 地域貢献活動に対する態度と J クラブに対する全 体 的 な評 価 について尋 ねた.一 方 ,コントロール 群の質問紙には,呈示刺激と操作チェックのため の 質 問 項 目 は 含 ま れ て い な い . 最 後 に , 再 び Swanson et al. (2003)の T.I.尺度と Roy & Graeff (2003)のチケットの購入意図について回答を求め た.

表 2 質 問 項 目

スタジアムでの観戦意図

「あなたは(チーム名)の試合をスタジアムで観戦したいと思いますか」

チケット購入意図

「あなたは(チーム名)の試合のチケットを購入したいと思いますか」

Trail et al.の T.I.尺度

「私は私自身を(チーム名)の“本当の”ファンであると思っている」

「もし(チーム名)のファンであることをやめなければならないなら,私は喪失感を感じる」

「(チーム名)ファンであることは私にとって非常に重要である」

Swanson et al.の T.I.尺度(日本の文脈にそぐわない 1 項目を省いた)

「だれかが(チーム名)を批判すると,自分への侮辱のように感じる」

「私は他の人が(チーム名)についてどのように思っているかとても関心がある」

「(チーム名)の成功は私の成功である」

「だれかが(チーム名)を賞賛するとき,自分への賛辞のように感じる」

「メディアが(チーム名)を批判していると,私はきまり悪く感じる」

(7)

質 問 紙 を回 収 後 ,ディブリーフィングとして,研 究 の真 の目 的 を伝 え,質 問 紙 に記 した地 域 貢 献 活 動 に関 する記 事 は架 空 の記 事 であり,その内 容 は真 実 でないことを伝 えた.そして,被 験 者 か ら質問や意見を述べる機会を用意した.

測 定 尺 度 に 関 し て , Trail & James (2001) と Swanson et al. (2003) の T.I. 尺 度 な ら び に Wakefield & Sloan (1995)と Roy & Graeff (2003) の観戦意図に関する項目を英語から日本語に翻 訳 したが,直 訳 では理 解 が困 難 な表 現 があるた め,原 文 のニュアンスを維 持 することを最 大 限 に 努 めて意 訳 を行 った.それぞれの質 問 項 目 は表 2の通りである.また,Swanson et al. (2003)の T.I.

尺 度 における「私 はチームについて話 す時 ,“彼 ら”というより“我々”とよく言う」という 1 項目は日本 の文 脈 にそぐわないと判 断 したため質 問 項 目 に は含 めなかった.それぞれ「1.まったくそう思 わな い」から「7.非常にそう思う」までの 7 段階評定尺 度を用いた.Trail & James (2001)と Swanson et al. (2003)の T.I.尺度は,それぞれ複数の項目か ら構 成 されており,分 析 には各 項 目 の得 点 の平 均値を用いた.

2.分析方法

呈 示 刺 激 により分 類 された各 群 の T.I.と観 戦 意 図 の平 均 値 の差 を検 定 するために,共 分 散 分 析 を用 いた.T.I.に関 しては,刺 激 呈 示 前 に尋 ね た Trail & James (2001)の T.I.尺度を共変量とし て,刺 激呈 示後に回答 を求めた Swanson et al.

(2003)の T.I.尺 度 を変 量 として水 準 間 の差 の検 定 を行 った.観 戦 意 図 に関 しては,刺 激 呈 示 前 に回 答 を求 めた「スタジアムでの観 戦 意 図 」を共 変 量 として用 い,刺 激 呈 示 後 に尋 ねた「チケット の購 入 意 図 」を変 量 として水 準 間 の差 の検 定 を 行った.

Ⅳ.結 果 1.各群の属性と操作チェック

各群の属性を表 3 に示した.性別と J リーグへ の関心の有無についてカイ 2 乗検定を,年齢に ついて一 元配 置 分 散 分 析 を行 った結 果 ,各 群 に 有意な差は認められなかった.結果,3 種類の質 問紙がランダムに配布されたことが確認された.

表 3 サンプルの属 性

ポジティブ群

(n=147)

コントロール群

(n=141)

ネガティブ群

(n=141)

性別(%) 男性 42.86 女性 57.14

男性 37.59 女性 62.41

男性 38.30 女性 61.70

χ2= .99 n.s.

平均年齢

(歳)

平均 20.25 標準偏差 1.32

平均 20.23 標準偏差 1.13

平均 20.12 標準偏差 1.15

F(2, 426)= .46 n.s.

J リーグへの 関 心 の 有 無

(%)

あり 40.82 なし 59.18

あり 39.72 なし 60.28

あり 39.72 なし 60.28

χ2= .05 n.s.

(8)

また,呈 示 刺 激 による操 作 の効 果 を確 認 する ために,ポジティブ群 とネガティブ群 に操 作 チェッ ク 項 目 を 設 定 し た . Ajzen & Driver (1992) と Mummery & Wankel (1999)を参考に,呈示刺激 の記事を読み,J クラブが行う地域貢献活動に対 して,どのようなイメージや感 情 を持 つかについて の態度尺度 9 項目を,7 段階の SD 法により回答 を求めた.肯定的形容詞に 7 を,否定的形容詞 に 1 を配し,被験者に回答を求めた.また,J クラ

ブへの全 体 的 な評 価 を「1.まったく評 価 しない」

から「7.非常に評価する」までの 7 段階評定尺度 にて尋ねた.T 検定を用い,ポジティブ群とネガテ ィブ群 の平 均 値 の差 の検 定 を行 ったところ,すべ ての項 目 においてネガティブ群 よりポジティブ群 が高い値を示し,それぞれ 0.1%水準で統計的に 有 意 な差 が認 められた(表 4).以 上 のことから,

呈示刺激による情報操作は成功したと考える.

表 4 操 作 チェック項 目

ポジティブ群 ネガティブ群

項目

平均 標準偏差 平均 標準偏差 t 値

興味深い-つまらない 5.07 1.27 3.32 1.56 10.38***

有益-無益 5.12 1.30 3.33 1.56 10.50***

役に立つ-役に立たない 5.25 1.28 3.36 1.56 11.17***

面白い-面白くない 5.17 1.26 3.21 1.60 11.51***

楽しい-楽しくない 5.00 1.24 3.03 1.48 12.29***

賢明である-ばかげた 5.53 1.24 3.58 1.48 12.10***

良い-悪い 5.84 1.24 3.33 1.71 14.23***

満足できる-満足できない 4.97 1.28 2.89 1.32 13.53***

重要である-重要でない 5.57 1.37 3.80 1.74 9.58***

クラブの全体的な評価 5.17 1.03 3.18 1.31 14.27***

*** p < .001 2.T.I.への影響

尺 度 の 信 頼 性 を 測 定 す る と , Trail & James (2001) の T.I. 尺 度 は α = .90 , Swanson et al.

(2003)の T.I.尺度はα = .92 であった.ともに高 い信頼性を有している結果となった.

共変量である Trail & James (2001)の T.I.尺度 を X 軸,変量である Swanson et al. (2003)の T.I.

尺度を Y 軸とした時,ポジティブ群の回帰式は Y

= .93X + .62 , コ ン ト ロ ー ル 群 の 回 帰 式 は Y

= .91X + .21,そしてネガティブ群 が Y = .76X + .29 となった.続いて共分散分析の手続きにより,

各 群 の回 帰 式 の平 行 性 の検 定 を行 った.「各 群 における回 帰 式 の傾 きは互 いに等 しい」という帰 無仮説は F(2, 428) = 4.45 となり,5%水準で棄却 されたため,3 群の回帰式の平行性は仮定できな かった.そこで,Huitema (1980)により呈 示 された 方 法 に従 い,各 群 の組 み合 わせごとに平 行 性 の 検定を行い,共分散分析を実施した.

1)ポジティブ群―コントロール群

ポジティブ群とコントロール群の 2 群間で平行 性の検定を行うと,F(1,287) = .03 となり帰無仮説

(9)

は棄却 されず,ポジティブ群とコントロール群 の回 帰 式 の平 行 性 を仮 定 できた.つまり,回 帰 式 はポ ジティブ群が Y = .92X + .34,コントロール群が Y

= .92X + .20 と仮定された.続いて,回帰の有意 性の検定を行うため「共通な傾きは 0 である」とい う帰無仮説を設定し分析を行うとβ = .92 となり,

0.1%水準で帰無仮説は棄却された.つまり 2 群 の回帰式の傾きは 0 でないことが認められた.

最後に,調整された Trail & James (2001)の T.I.

尺 度 の平 均 値 X = 1.34 の時 ,Swanson et al.

(2003)の T.I.尺度はポジティブ群では Y = 1.57,

コントロール群では Y = 1.43 となった.水準間の 差 の検 定 を行 うと,「2 群 に差 はない」という帰 無 仮説は F(1, 287) = 4.87 となり,5%水準で帰無仮 説が棄却された(図 2).つまり,呈示刺激により,

ポジティブ群 とコントロール群 の Swanson et al.

(2003)の T.I.尺度には統計的に有意な差が認め られた.

図 2 T.I.への影 響 の結 果 (ポジティブ群 ―コントロール群 )

2)ポジティブ群―ネガティブ群

ポジティブ群とネガティブ群の 2 群間で平行性 の検定を行うと,F(1,287) = 5.47 となり 5%水準で 帰無仮説は棄却された.つまり,この 2 群間の回 帰式の平行性は仮定できなかった.

そこでジョンソン・ネイマン法注 2)を用 い,ポジテ ィブ群とネガティブ群の 2 群間で Swanson et al.

(2003)の T.I.尺度が 5%水準で有意差が認めら

れる 2 点を求めた.結果,XL1 = -9.31,XL2 = .78 となり,ポジティブ群とネガティブ群では-9.31 < X

< .78 の区間では有意差は認められず,それ以外 の区間では 5%水準で統計的に有意な差が認め られた(図 3).分析における X の範囲は 1 ≦ X

≦7 であることから,ポジティブ群の Swanson et al.

(2003)の T.I.尺度はネガティブ群より有意に高い ことが認められた.

ポジティブ群 コントロール群

1 2 3 4 5 6 7

X Trail et al.の T.I.尺度

1 2 3 4 5 6 7 Y

Swanson et al.のT.I.尺度

*

* p < .05

(10)

図 3 T.I.への影 響 の結 果 (ポジティブ群 ―ネガティブ群 )

3)コントロール群―ネガティブ群

コントロール群とネガティブ群の 2 群間で平行 性の検定を行うと,帰無仮説は F(1, 281) = 7.67 となり 1%水 準 で棄 却 された.つまり,ポジティブ 群とネガティブ群の回帰 式と同様に,コントロール 群 とネガティブ群 の回 帰 式 の平 行 性 は仮 定 でき なかった.

ジョンソン・ネイマン法 により 5%水 準 で変 量 の 有意な差が認められる 2 点を求めた結果,XL1 = -2.05,XL2 = 1.21 となった.つまり,コントロール 群 と ネ ガ テ ィ ブ 群 に お い て は , -2.05 ≦ X ≦ 1.21 の区間では Swanson et al. (2003)の T.I.尺 度 に 5%水 準 で有 意 な差 は認 められず,それ以

外 の区 間 において有 意 差 が認 められた(図 4).

つまり,共変量が 1.21 を上回る被験者において は,コントロール群 とネガティブ群 の変 量 で統 計 的に有意な差が認められた.

以上の T.I.尺度に関する 3 つの分析結果より,

ポジティブ群 とコントロール群 ,そしてポジティブ 群 とネガティブ群 には呈 示 刺 激 により有 意 な差 が 認 められた.またコントロール群 とネガティブ群 に おいても,共変量が 1.21 以下の一部の被験者を 除 き,呈 示 刺 激 により有 意 な差 が認 められた.こ のことから,仮説 1 は,コントロール群とネガティブ 群の共変量が 1.21 以下の被験者を除き,支持さ れた.

ポジティブ群 ネガティブ群

1 2 3 4 5 6 7

Trail et al.の T.I.尺度 X 1

2 3 4 5 6 7 Y

Swanson et al.のT.I.尺度

有意差

な し の 区間

有意差ありの区間

XL2

(11)

図 4 T.I.への影 響 の結 果 (コントロール群 ―ネガティブ群 )

3.観戦意図への影響

共変量であるスタジアムでの観戦意図を X 軸,

変量であるチケット購入意図を Y 軸とした回帰式 は,ポジティブ群の回帰式が Y = .65X + .71,コン トロール群の回帰式は Y = .67X + .44,そしてネ ガティブ群が Y = .73X + .33 となった.続いて共 分 散 分 析 の手 続 きにより,各 群 の回 帰 式 の平 行 性の検定を行った結果,F(2, 428) = .68 となり帰 無 仮 説 は棄却 されなかった.つまり,この 3 群 の 回 帰 式 の傾 きは互 いに等 しいと仮 定 できた.つま り 各 群 の 回 帰 式 は , ポ ジ テ ィ ブ 群 が Y = .68X + .62,コントロール群の回帰式は Y = .68X + .48,

そしてネガティブ群が Y = .68X + .39 であると仮 定された.続いて,回帰の有意性を検定した結果,

β = .68 となり 0.1%水準で帰無仮説が棄却され た.つまり,3 群の回帰式の傾きは 0 でないことが 認められた.

調 整 されたスタジアムでの観 戦 意 図 の平 均 値 X = 3.15 で,ポジティブ群のチケット購入意図が Y

= 2.76,コントロール群が Y = 2.63,ネガティブ群 が Y = 2.53 となった.水準間の差の検定を行うと,

F(2, 428) = 1.68 となり帰無仮説は棄却されなか った.つまり,チケット購入意図では 3 群間に有意 な差 が認められなかった(図 5).以上 の結 果 より,

仮説 2 は支持されなかった.

コントロール群 ネガティブ群

1 2 3 4 5 6 7

X Trail et al.の T.I.尺度

1 2 3 4 5 6 7 Y

Swanson et al.のT.I.尺度

XL2 有意差

な し の 区間

有意差ありの区間

(12)

図 5 観 戦 意 図 への影 響 の結 果

Ⅴ.考 察

本 研 究 の目 的 はプロスポーツチームが行 う地 域 貢 献 活 動 がファンの T.I.と観 戦 意 図 に及 ぼす 影 響 について実 証 的 に明 らかにすることであった.

そこで,質問紙実験を計画し,J クラブが実施する 地 域 貢 献 活 動 の異 なる評 価 の情 報 を与 えること により,被験者の T.I.と観戦意図の変化を観察し た.

T.I.に関 して,コントロール群 に対 してポジティ ブ群 が有 意 に高 い値 を示 したことから,地 域 貢 献 活動の高い評価は T.I.を有意に高めることが示さ れた.また,一 部 を除 き,コントロール群 に対 して ネガティブ群 が有 意 に低 い値 を示 したことから,

地域貢献活動の低い評価は T.I.を有意に低める ことが示 された.これらの結 果 は,スポーツチーム が地域貢献活動を行うことによりファンの T.I.に影 響するという Sutton et al. (1997)や Lachowetz &

Gladden (2003)の主 張 を裏 付 けるものである.ま

た,本研究における結果は,一般の CSR 研究に お け る Lichtenstein et al. (2004) や Sen &

Bhattacharya (2001)の研 究 と同 様 の結 果 であっ た.地 域 住 民 がスポーツチームの地 域 貢 献 活 動 について知 覚 した時 に,そのスポーツチームとそ の活 動 に関 わる住 民 の自 己 概 念 が重 なったり離 れたりすることで,地域住民の T.I.が刺激される.

それゆえ,Sutton et al. (1997)が述べるように,ス ポーツ組 織 は実 施 している地 域 貢 献 活 動 につい て地域住民に知らしめる努力をする必要がある.

本 研 究 では地 域 貢 献 活 動 の情 報 による観 戦 意図の有意 な差は認められなかったので,スポー ツチームが 実 施 する地 域 貢 献 活 動 は観 戦 意 図 には影響しないかもしれない.この結 果は Roy &

Graeff (2003)の研究と同様である.先述の通り一 般の CSR 研究においても,CSR の購買意図への 影 響 に関 しては一 貫 した研 究 結 果 が示 されてい ないが,Valor (2005)は消 費 者 が購 買 の意 志 決

1 2 3 4 5 6 7

X スタジアムでの観戦意図

ポジティブ群 コントロール群 ネガティブ群

n.s.

1 2 3 4 5 6 7 Y

チケット購入意図

(13)

定をする時には価格や品質が CSR より重要であ ることを明 らかにした.つまり,スポーツ組 織 が地 域 貢 献 活 動 を行 っているかどうかはチケットを購 入する直 接 的な要 因にはならないのかもしれない.

しかしながら,観戦意図や実際の観戦行動が T.I.

に強く影響されることは多くの研究から明らかにな っている(Fisher & Wakefield, 1998;Matsuoka et al., 2003 ; Murrell & Dietz, 1992 ; Wakefield, 1995).それゆえ,Lichtenstein et al. (2004)の研 究 結 果 と同 様 ,スポーツチームが地 域 貢 献 活 動 を行うことにより T.I.が高まり,T.I.が高まることによ り観 戦 意 図 が高 まることが考 えられる.つまり,ス ポーツチームが行 う地 域 貢 献 活 動 は,T.I.を通 じ て間 接 的 に観 戦 意 図 へ影 響 を及 ぼす可 能 性 が 考えられる.

Ⅵ.インプリケーションと研究の限界 マーケティングの観 点 からは,スポーツ組 織 が 地 域 貢 献 活 動 を行 う際 ,その活 動 に関 わる人 々 がすぐに観 戦 に来 ると思 わない方 が良 いかもしれ ない.また,地 域 貢 献 活 動 の場 でのチケットの販 売 はあまり効 果 がないかもしれない.販 売 するに しても,Sutton et al. (1997)が指摘する,選手や チームとの触 れ合 いの場 を増 やすといった地 域 貢献活動以外の T.I.を高める戦略を組み合わせ,

より T.I.を高 めることが必 要 であろう.さらには,

Pracejus & Olsen (2004)が CSR の価値は長期的 な便 益 として考 えるべきであると指 摘 したように,

スポーツ組 織 の地 域 貢 献 活 動 も長 期 的 に行 うこ とでより大きな便益が得られるのかもしれない.

さらに,本研究より明らかになったことは,何より も地 域 貢 献 活 動 の情 報 を消 費 者 に提 供 すること の重 要 性 である.どのような方 法 でプロモーション をするのが良 いかについては本 研 究 の範 疇 を超 えるが,情報が与えられて初めて T.I.の変化が生 じる.日本の社会には,表面に出ない徳ほど価値

想 があり,企 業 の地 域 ・社 会 貢 献 活 動 も陰 徳 の 美 と す る べ き と い う 考 え 方 が 存 在 す る ( 水 尾 , 2000).しかしながら,持 続 可 能 な社 会 の実 現 の ためにも,戦 略 的 に地 域 貢 献 活 動 を行 い,積 極 的 にその情 報 を広 く知 らしめ,地 域 とプロスポー ツチームの相互に利益となる関係を築いていかな ければならないだろう.

本 研 究 における限 界 として次 のことが挙 げられ る.本研究 は大学生を対象に実験 を行った.この ような非 確 率 標 本 のデータ収 集 では,代 表 性 の 問題が生じる.結果をどの程度一般 化できるかに ついては慎 重 な判 断 が必 要 である.また本 研 究 では地 域 貢 献 活 動 としてスポーツ振 興 活 動 を設 定したが,地 域貢献 活動 としては選 手 による学校 訪 問 など様 々な種 類 のものが考 えられる.また,

その活 動の種類により,関わった人 々の反応も異 なるかもしれない.今後の研究においては,より代 表 性 を担 保 できるサンプルで様 々な地 域 貢 献 活 動に対する反応を明らかにする必要がある.

また,T.I.はチームと消 費 者 との関 係 が続 く中 で , 変 化 し て い く も の で あ る ( Mahony at el., 1999;Wakefield & Sloan, 1995).本研究では,そ の中 の一 点 における反 応 を観 測 したにすぎない が,より包 括 的 な観 測 をすることにより,T.I.の醸 成 において地 域 貢 献 活 動 がどの程 度 重 要 である かといった示 唆 が得 られる.スポーツ組 織 と地 域 貢 献 活 動 に関 する研 究 はようやく萌 芽 を迎 えた ばかりである.より深 い洞 察 を得 るためにも,今 後 の研究が期待される.

注 1)本研究では,J クラブが行う地域貢献活動と してスポーツ振 興 活 動 を設 定 した.J リーグ規 約 の第 21 条第 2 項に「J クラブはホームタウンにお いて,地域 社会と一 体 となったクラブ作り(社 会 貢 献 活 動 を含 む)を行 い,サッカーをはじめとするス ポーツの普 及 および振 興 に努 めなければならな

(14)

様 々な地 域 貢 献 活 動 が考 えられるが,呈 示 刺 激 を作成する際に参考にした Sen & Bhattacharya (2001)の研 究 において,労 働 差 別 への取 組 のみ を CSR 活動として設定していたため,本研究でも スポーツ振興活動のみを地域貢献活動とした.

注 2)ジョンソン・ネイマン法は共分散分析におい て回帰式の傾きが等しいという帰無仮説が棄却さ れた場合に用いる分析法の一つであり,2 群にお ける予測値の差異が有意となる共変量の値 XL1と XL2を求めるものである.つまり XL1―XL2間におい ては,水 準 間 で有 意 な差 はないということになる

(渡部 ,1988).ジョンソン・ネイマン法 の計 算式 に 関しては Huitema(1980)などを参照されたい.

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