論 文
底泥腐植物質の腐植化度と分子量分画
風間ふたば 加藤健司
(平成3年8月31日受理)
Humification and Molecular Weight Fractionation of Humic
Substances in Bottom Sediments
FutabaKAZAMA KenjiKATO Abstract Humic substances, i.e. humic and fulvic acids, were isolated from the bottom sediments in Fuji River, Yamanaka Lake and Tagonoura Harbor by Schnitzer&Skinner’s method9). Also, the humic substances in paddy soil at Nirazaki city were isolated in similar manner for comparing with the sedimentary humic substances. Prior to the practical isolation of humic substances, abundance of humic acid(PQ value)was preliminarily measured of each sample. Of these isolated humic substances, such optical measures as△10g K and RF value, which were proposed by Kumada8), were estimated for checking the progressive degree of humifica− tion owing to the variations of origin and sedimentary environment. Judging from the checking of humification, all of the isolated humic acids would be classified into Rp−type humic acid. Humification degree might be in order as follows:paddy field≧Yamanaka Lake>Tagoura Harbor>Fuji River. Of fulvic acids, similar order was also observed after the checking. Molecular weight fractionations of the fulvic acids isolated were carried out by Sephadex G−25gel filtration. Of each fraction, TOC, absorbance(220 nm), contents of carbohydrate and amino compounds were determined. Characteristic peaks of TOC were observed at two major fractions, i.e. approximately 2,000 and 1,000 in molecular weight in these respective chromato− grams. Then, following with the related progress of humification, their higher molecular weight fractions increased remarkably, while the decreases were observed of the lower molecular weight fractions.
1.はじめに
土壌の有機成分は土壌中の微生物や動植物などの生 物遺体とその分解物,腐植化の進行過程を異にする全 ての有機物質を包含するが,その大部分を占めるのは 「腐植」(Humus)と称せられる物質群である。この腐 植は植物養分の保持,供給,土壌構造の維持などに重 要な役割を果たしているので,永年にわたり主として 土壌学者の間で研究が行われてきた。ところが,1960 年代に水道水の消毒剤として使用されている塩素と水 中の微量な腐植物質とが反応して発ガソ性の疑いのあ るトリハロメタンを生成すること1)2)が報告された。ま た,腐植物質の中でも親水性の強いフルポ酸が水中の 重金属と錯体を形成して,重金属の環境中での挙動や 水中での毒性の発現に影響を与えることや,重金属以 外にも腐植物質は農薬などの微量な有機汚染物質をとりこんで環境中に広く分散させていることも指摘され るようになり3),地球化学者,分析化学者及び衛生工学 者の間でも腐植物質への関心が高まって来た。 しかしながら,腐植物質の起源が異なればトリハロ メタンの生成能に差があることが認められているよう に4)5),腐植物質が関与した環境化学的な現象を研究す る場合にはその実験に用いた腐植物質の特性の把握が 重要であるにかかわらず,水圏中の腐植物質について の知見はそれほど多くないように思われる。とりわけ, 腐植酸よりも腐植化の程度の低い腐植物質であるフル ポ酸は,分子量が小さく,より親水性が強いので水中 に最も多く存在する腐植物質であるといわれなが ら6),その分離精製が容易でないことなどから研究対 象となることは少なかった。 本研究においては,まず起源を異にする水成堆積物 として,河川や湖沼などの陸水性底泥と海湾の海洋性 底泥とを試料としてとりあげ,更にその対照として水 田土壌を加え,それら起源の相違による腐植物質の特 性を明らかにすることを目的とした。また従来,比較 的研究報告の少ないフルポ酸については,光学的特性 に関連したRF値などをしらべて,その腐植化度の進 行状況をチェックし,さらに分子量分画や化学組成の 検討を試み,その化学的形態についても考察を行った。 2.実 験 方 法 2.1 底泥および水田土壌からの腐植物質の抽出 分離 (1)試料の採取と前処理 3種の底泥と水田土壌を試料とした。すなわち沿岸 海洋性底泥として田子の浦港底泥,比較的汚染の進ん でいない湖沼底泥として山中湖底泥,河川底泥として 富士川底泥とを選び,また対照の土壌としては甲府盆 地韮崎市より採取した水田土壌を用いた。田子の浦港 では護岸付近の底泥を,また山中湖では湖心の底泥を それぞれエクマンバージ採泥器を用いて採取した。ま た富士川底泥は流れの穏やかな川底を選びスコップを 用いて表層より採取した。水田土壌もその表層を試料 とした。これらの試料の採取地点を図一一1に示した。 採取した底泥および土壌はバットに広げ,よく風乾 した後,0.25mm目(60メッシュ)のふるいを通過し たものを腐植物質の抽出に供した。富士川底泥は白色 の砂質で,4種の試料のうち一番粗い粒子で構成され ていた。田子の浦港の底泥も砂質で粒経はかなり粗い が,黒色を呈していた。山中湖底泥と水田土壌はいず れもかなり細かい粒子で構成され,淡い茶色を呈して いた。これらの風乾試料は腐植物質の抽出に先立ち, 水分含量,強熱減量を測定し,またCNコーダー(柳 本製作所,MT500)により炭素および窒素の含有率を 測定した。 また,試料に含まれる腐植物質の構成の概要を知る ため弘法・大羽法7)に従って0.1N NaOH溶液で腐植 物質を抽出した液(以下,腐植溶液と称する)と,こ れをpH1.5にして腐植酸を凝析分離した濾液とにつ いて,その0.IN KMnO4溶液消費量を測定し,これら よりPQ値を算出して腐植酸の溶離に関する知見を得 た。 (2)腐植物質の抽出分離 従来,広く常用されている腐植物質の抽出分離法8) はフルポ酸の分離精製において必ずしも適当とは思わ れない。そこで今回は,SchnitzerとSkinnerの方法9) にWeberとWilsonが多少の改良を加えた方法1°)に 従い,腐植酸とフルポ酸の分離にイオン交換樹脂を用 いて底泥や土壌中から腐植酸ならびにフルポ酸粉末を 得た。まず,窒素ガスを吹き込んで溶存酸素濃度を1 mg/1以下とした蒸留水2.81を31の共栓付き三角フ ラスコにとり,これに500gの風乾試料と50%NaOH 溶液を注入してNaOH濃度を0.5Nとした。ときどき 振とうしながら20℃の水浴中に一昼夜放置し,得られ 一127一 X水田土壌 韮崎市
P
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x士吉田市寧
山申湖底泥−
O lO 20Xm 図一1 試料の採取地点た腐植物質のアルカリ抽出液を,まず10,000rpmで30 分間の遠心分離を行い,さらにグラスフィルター GA100で吸引濾過した。濾液を,あらかじめH型に調 整したAmberlite IR−120B (Rohm&Hass)陽イオ ソ交換樹脂カラム(直径4.5cm,高さ65cm)に通すと (流速3.Oml/min),腐植酸は樹脂に吸着固定されるが フルポ酸は通過した。カラム通過液のpHが4以上に なったら濾液の通過をやめ,次にこの樹脂カラムに0.5
NNaOH溶液約81を通して吸着固定された腐植酸
を溶離した。溶離液に濃硫酸を加えてpH1.5とする と,再び腐植酸が沈澱するので,これを数回の遠心洗 浄を繰り返し精製した後に凍結乾燥した。イオン交換 樹脂カラムを通過したフルポ酸溶液約1.71は,ロタ リーエ・ミポレターで40℃にて約500m1にまで濃縮し た。この濃縮液を別の小型のH型陽イオン交換樹脂カ ラムに数回通してNaイオンを除いた後,腐植酸と同 様に凍結乾燥した。このようにして得られた腐植酸お よびフルポ酸の粉末試料は強熱減量,CNコーダーに よる炭素ならびに窒素含量を測定し,デシケーター中 に保存した。 2.2 腐植質の光学的特性値の測定 腐植物質の腐植化度の指標となる光学的特性を把握 するため,抽出分離によって得られた腐植酸ならびに フルポ酸粉末を0.1N NaOH溶液に溶解したのち,こ の溶液のTOCを全有機炭素計(島津製作所TOC 10 B)で測定するとともに,190nmから700nmにおける 吸収スペクトルを測定した。これより,600nmと400 nmにおける10mg−C/ml当りの吸光係数K4。。とK6。。 を求め,それぞれの対数値の差より△logKを得た。ま た腐植物質単位濃度当りの色の濃さを表すRF値は, 600nmにおける吸光係数を比色液30ml当りの0.1N KMnO、溶液消費量で除し8),これに係数1,000をかけ て求めた。また,ここでは,0.1N KMnO4の1ml= 0.45mg−Cii)として計算した。 本中の乾燥試料を蒸留水4mlに再溶解させて炭水化 物とアミノ態窒素化合物(ペプチドやタンパク質)の 測定に供した。炭水化物は再溶解液1mlをとり,フェ ノール硫酸法12)により測定した。グルコースを用いて 作成しておいた検量線よりグルコース濃度を求め,こ れを炭水化物濃度とした。またアミノ態窒素化合物の 測定にあたっては,まず再溶解液1mlを5m1容量の アンプルにとり濃塩酸1mlを加え,窒素ガスを満た してからアンプルを閉じて100℃で24時間の加水分解を行った。12N NaOH溶液1m1を加えて中和した
後,その1m1を用いニンヒドリン法13)によりアミノ 酸濃度をグリシン濃度として求めた。以下,本報では このようにして求めたグリシン濃度をアミノ化合物濃 度と称する。 3.実 験 結 果 2.3 フルポ酸の分子量分画フルポ酸粉末4mgを少量の0.1N NaOH溶液に
溶解した後蒸留水を加えて10m1とした。この5mlを Sephadex G25 Mediumカラム(内径2.5cm高さ65 cm)に吸着させてから, pH7.0のリン酸塩緩衝溶液(イ オソ強度0.02)を1.Om1/minで通し展開させた。展開 液はカラム出口に取り付けたフローセルにより,220 nmにおける吸光度を測定した後,5mlつつをフラク ションコレクターで分取した。これら各分画液のTOC を測定した後,全ての分画液を凍結乾燥し,分画液4 3.1 底泥と水田土壌の腐植組成 表一1には試料として用いた底泥や水田土壌の化学 的諸性質を表す項目と,これらより得られた腐植溶液 のPQ値を測定した結果を示した。試料の強熱減量は 富士川底泥が2.62%で他の試料に比べて著しく小さ く,山中湖底泥は水田土壌と同程度で12%前後であっ た。また山中湖底泥と水田土壌ではそのC/Nも10.0 と12.4と近似し,他の試料のC/Nが20前後の高い値 を示しているのに比べて小さかった。これらの底泥や 土壌から得られた腐植溶液中の腐植酸の割合を示す PQ値は,水田土壌の場合に60%程度を占めていたの に対し,底泥の場合はいずれも50%以下である。とく に富士川底泥では20%にも満たない結果となり,この 底泥から抽出された腐植物質の大部分がフルポ酸など であったことを示している。 3.2 腐植物質の光学的特性値ならびに元素組成 (1)腐植酸の吸収スペクトル 表一1 底泥と水田土壌の強熱減量,元素組成と腐植溶液のPQ値__塵泥鎚圭璽__」富撞盗液_
試料 強熱減量 C N C/N PQ
底泥富士川
2.62 0.390.0219.5山中湖
12.7 6.630.6610.0 田子の浦港 7.66 3.060.1520.4 18.2 42.5 46.1一ztSEgl;VllLl5170046124−581
可視部から紫外部における光学的な特性を比較する ために,図一一 2に20mg−C/1に調整した各腐植酸溶液 の吸収スペクトルを示した。いずれも270nm∼280nm にリグニン起源と考えられる8)肩状吸収をもってい た。リグニン起源の有機物の存在は陸成腐植物質の一 つの大きな特徴であることから,今回採取した田子の 浦港の底泥もその起源は主として陸成であり,本質的 には他の底泥試料と大きな違いはないと考えられる。 (2)腐植物質の光学的特性値 土壌腐植の研究においては,腐植酸がその主な研究 対象で,暗色有機物の暗色の増大が腐植化の程度を表 しうるとの概念にたち,吸光度の測定をもとに得られ た△logKとRF値を腐植化の程度を表す指標として 使用している。△10gKは小さい程, RF値は大きいほど 腐植酸の暗色有機物量が多いことを示し,それによっ て腐植化の度合の大きさを判断している。表一2につ いて,底泥や水田土壌から得られた腐植酸の△10gKと RF値を比較すると,△logKは山中湖底泥から抽出さ れたものの値が最も小さく,次いで水田土壌,田子の 浦港底泥,富士川底泥の順であったが,RF値は富士川 底泥が著しく小さく,山中湖底泥と水田土壌とでは同 じ大きな値を示した。また,フルポ酸についても,こ れらの値を求め腐植酸のそれと比較してみると,腐植 酸の△logKは0.73∼1.05, RF値は9.76∼39であった のに,フルポ酸では前者が1.35∼1.75,後者は 2,0 ポ 1.0 0 200 一一一 x士川底泥 一一一一一一 R中湖底泥 一・一 c子の浦港底泥 0.51∼1.60の範囲にあり,フルポ酸の腐植化度の低さ が定量的に表される結果となった。また,各フルポ酸 の△logKやRF値から腐植酸と同様にフルポ酸の腐 植化度を比較してみると,△10gKでは腐植酸の場合と 同じ序列となったが,RF値では水田土壌のフルポ酸 が他に比べて特に腐植化度が大きいことを示してい た。 (3)腐植物質の元素組成 水田土壌と底泥から得られた腐植物質の化学組成の 相違を,表一2の元素分析の結果からみてまとめてみ る。底泥と水田土壌とでは,前述のように腐植酸につ いてもフルポ酸についても,その腐植化度は確然とし た相違が認められた。化学組成についても,水田土壌 では両者ともC/Nが12∼13であるのに,底泥の場合 は両者の値に開きがある。腐植酸では6.2∼8.7と小さ いが,フルポ酸については10∼15.5である。それは主 に窒素含量によって支配されているものと考えられ る。 3.3 フルポ酸の分子量分画 図一3∼6には各底泥や土壌から抽出分離されたフ ルポ酸の分子量分画の結果を示した。TOCの分布をみ ると,いずれの場合もKd=0付近の高分子量画分(1) とKd=0.8付近を中心とした低分子量画分(II)とに別 れ,それぞれ明かなピークが認められた。また炭水化 物(グルコースとして)やアミノ化合物(グリシンと して)もほとんどの場合TOCの分布にほぼ対応して, 高分子量画分と低分子量画分とに一つずつの同様な ピークが認められたが,水田土壌では高分子量画分の ピークに相当する画分でむしろアミノ化合物量が減少 しているのが注目される。一方,220nmにおける吸光
度は高分子量画分のTOCピークにはよく対応した
が,低分子量画分については,富士川底泥のフルポ酸 の場合を除き,TOCのピークに対応するような吸光度 表一2 抽出分離した腐植物質の光学的特性と元素組成___」劃甑L__一
試料 ∠10gKRF値 C’ N’C!N∠10gKRF値 C’ N’C!N 700 底泥 富士川 1.059.76 48.57.82 6.2 1.750.51 37.23.4210.9 山中湖 0.7239.0 39.55.10 7.7 1.350.64 38.73.2212.0 田子の浦港 0.9020.2 57.26.54 8.7 1.570.61 38.42.48 15.5 波長 (nn) 図一2 腐植酸の吸収スペクトル 土 0.84 39.0 55.1 4.56 12.1 1舎45 1.60 39.4 3.04 13.0 * 有機物申の組成 一129一X4
8 ← 盲 § 讃o・1 吸光度 E=:コ炭水化物 匠乙コ アミノ化合物 差 審 蔓 》 〉 罷 葉 題 図一3 富士川底泥より抽出されたフルポ酸のゲルクロマトグラム のピークは認められなかった。 ここで,Kd=0からKd=0.35までを画群1,Kd= 0.35からKd・1までを画群IIとして,全溶出量に対す る各画群が占めるTOC,炭水化物,アミノ化合物の割 合を表一3に示した。各画群のおよその分子量は画群 1が2,000以上,画群II bS2,000以下に相当する。山中 湖底泥や田子の浦港底泥より抽出されたフルポ酸では TOCの分布は画群1でほぼ47%であった。水田土壌よ り得られたフルポ酸では画群1に64%,これに対して 富士川底泥より得られたフルポ酸では画群IIに70%と画群1の2倍以上のTOCが存在した。
4.考 察 土壌学においても「腐植」の定義やその区分につい き 8 H 菖 § 0.1 O,2 ≡←一…一一 z光度 〔::コ炭水化物 [zmz]アミノ化合物 ± 蔓 蔓 》 〉 品 壁 曼 図一4 山中湖底泥より抽出されたフルポ酸のゲルクロマトグラム 6 ミき4
9
2 0 盲 § o,1 顧4
0.2TOC
『一一一… z光度 E::コ炭水化物 [ZZZZ]アミノ化合物 』群 4 2 0 菱 § 倉 ≧ ノlノ2
品 誉 ミo
16 14 12§10
§ 8 6 4 2 0 盲 Ol§ 顧 蓄 O,2 ’一…一吸光度 @ 〔==コ炭水化物 @ [ZZZZコアミノ化合物TOC
@ { ’ 一 ’、.’ , ” ・鋼1.0 Kd ’ ■1‘画群 〆ノ1 皿 ノ P/ _! 6 璽4曇
き 2 0 2 ノノノ 〉 品 誉 題 図一6 水田土壌より抽出されたフルポ酸のゲルクロマトグラム 図一5 田子の浦港底泥より抽出されたフルポ酸のゲルクロマトグラム; 100
幽
50_一一.__一斗ヂ
10 5.0 1.0 O,5。㌣Y
●Tl
0.1 2ρ 1.5 1.0 0L5 ● 腐植酸∠logK
O フルポ酸 0 F:富士川底泥,Y:山中湖底泥, T:田子の浦港底泥, S:水田土壌 図一7 分離した腐植酸とフルポ酸の腐植化度の検定 表一3 フルポ酸の分子量分画による各画群の有機物組成 富士川底泥 山中湖底泥 田子の浦港底泥 水田土填 1 9 1 皿 1 皿 1 皿 植物質については,土壌を強アルカリ溶液で処理した 際に溶出した液を酸性にした時に不溶化して析出する ものを腐植酸とし,析出されずに液中にとどまってい るものをフルポ酸とする分類が一般化しており,強ア ルカリ溶液に溶解しないものをヒューミンと呼んでい る。 試料 TOC ($) 29.9 70.1 48.8 51.2 46.0 54.0 63.9 36.1 炭水化物 (幻 47.152.9 50.949.1 40.060.0 49.6 50.4 アミノ ム 43.856.2 44. 55.1 47.152.9 40.659.4 *画群 1:>2,000,皿:<2,000 ては未だ多様な意見があって統一されてはおらず,土 壌中の有機物質を包括的に非腐植物質と腐植物質とに 物質的に区分している。熊田によれば8),腐植物質とは 暗色無定形の高分子酸であり,リグニンや微生物の代 謝産物に由来するフェノール性及びキノン性物質がそ れ自体で,またはそれとアミノ化合物とが結合するこ とによって生成されたものとされている。それに対し て,非腐植物質とは,暗色を呈しない有機物の総称で あるとしながらも,その実体については不明な点が多 く,微生物細胞膜の解裂物,微生物起源の多糖類やタ ンパク質を主成分とするらしいと考ている。しかしな がら,これも飽くまでも概念的な区分であり,実際に は両者を確然と分別することは困難である。また,腐 4.1 光学的特性による底泥腐植の評価 上述のように,腐植物質が暗色無定形な高分子酸と すれぽ,それを統一包括的に理解するために有機物の 暗色化に関連した光学的特性に基づいた分類や腐植化 度の評価が当然考えられる。熊田8)は波長の異なる吸 光係数の差より求めた△10gKと,腐植酸の単位濃度当 りの暗色度を表すRF値とをとりあげた腐植酸の分類 方法を提案し,それによって腐植酸を大きく4つのタ イプに分類している。そこで,この熊田の提案に基づ き,今回抽出分離した腐植酸の実験結果より算出した△logKとRF値とを両軸にとりプロットしたのが図
一7である。また,フルポ酸についても同様に取り扱っ たものについても併せてプロットしてみた。 熊田の分類によれぽ,△10gKが0.7以上, RF値が40 以下の腐植酸はいずれもRp型腐植酸としているの で,今回抽出分離された腐植酸はいずれもこのRp型 に属することは明かである。このRp型腐植酸は腐植 化度が低く,泥炭,水田土壌,赤黄土などの主要な腐 植酸であり,その原料となった有機物または非腐植物 質の特性を多少ならず反映するとされている。また図 一7において,右上方に位置する程,腐植化度が進捗 したものと判断してよい。従って水田土壌と山中湖底 泥の腐植酸は最も腐植化度の高いもので,田子の浦港 底泥がこれに次ぎ,富士川底泥のものは最も腐植化度 の遅れたものである。また,この図よりみて,今回分 離した腐植酸が当然フルポ酸に比べて腐植化度の高い ものであることも判然としてくる。従って腐植酸につ いても,フルポ酸についても,その腐植化度は水田土 壌≧山中湖底泥〉田子の浦港底泥〉富士川底泥の順序 となり,その起源と環境による影響はきわめて興味が ある。 4.2 フルポ酸の分子量分布と有機成分から見た 腐植化度 つぎに,抽出分離されたフルポ酸のゲルクロマトグ ラフィーによる分子量分画の結果と,それらの画分に ついての炭水化物やアミノ化合物の分布より,各フル ポ酸の化学形態と腐植化度との関係について考察して みる。 一131一図一3∼6からも明かなように,高分子画分におい ては,TOCと暗色度に関連した紫外部吸収とはいずれ も類似の傾向を示し,腐植化度の最も進行している水 田土壌の高分子画分において高い値を示していること が注目される。これらは明らかに有機物の酸化や重縮 合による高分子化と,それに関連した暗色化の進捗を 示唆するものであろう。また,それに関連して脱アミ ノ反応も進行したことを示唆するアミノ化合物の明か な減少が,高分子量画分に認められた。そのことは, 図一7において水田土壌のフルポ酸のスポットが他の底 泥のものに比べて高い位置にあることや,その腐植化 度が他のものよりも明らかに進捗していることとも合 致する。 4.3 腐植物質の起源と腐植化度 最後に,今回分離した腐植物質の腐植化度を,その 起源と環境との関係から考察してみる。 水成堆積物である底泥の場合には,山中湖底泥にみ られたようにその有機物含量(強熱減量)が水田土壌 よりむしろ幾分多いにも拘らず,PQ値は42.5%と水 田土壌の58.1%に比べてかなり低く,腐植酸以外の腐 植物質などが60%近くであった。これは底泥中の有機 物の腐植化の速度が水田土壌に比べて著しく遅いこと を示している。また,腐植酸のC/Nについてみると, 常に水環境下にある底泥では,大気に露出することの ある水田土壌にくらべて窒素化合物の分解による無機 化が遅く,そのためC/Nが水田土壌のそれにくらべ て小さい値を示すなど,環境による腐植化の様相の相 違が明かとなった。 しかしながら一方,腐植化度に関連する腐植酸の RF値についてみると,水環境下の堆積時間の長い山 中湖底泥は39.0と水田土壌と同じような値を示してい るのに対して,堆積時間の著しく短い富士川底泥の腐 植酸のRF値は10以下と小さく,腐植化の進行が著し く停滞していることが判る。このことは,その水環境 下での堆積時間により腐植化の進行が大きく支配され ることを示唆している。またこれをフルポ酸について みても,底泥のフルポ酸のRF値は0.6程度で,水田土 壌の1.6に比べて明らかに小さく,その腐植化度は低 い。また,田子の浦港底泥と山中湖底泥とではPQ値が 近いことや,フルポ酸の分子量分布が良く類似してい ることから,フルポ酸の腐植化の進行は陸水中でも海 水中でも堆積時間が長い場合には水環境の相違に関係 ないとも考えられる。しかしながら,このような類似 性は,既述のように田子の浦港底泥の腐植酸の吸収ス ペクトル(図一2)にリグニンによると思われる肩状 吸収が認められたことから,腐植物質の主体をなすも のが河川などで運ぼれた土壌に起因するためとも考え ることも出来よう。 5.要 約 水成堆積物として,富士川底泥,山中湖底泥,田子 の浦港底泥を,またこれら水成堆積物の対照として陸 成堆積物である水田土壌を選び,腐植酸とフルポ酸と を抽出分離し,土壌学において用いられている腐植物 質に関連する指標を用いてその特性をしらべ,起源や 堆積環境との関係について考察を試みた。とくに,フ ルポ酸については分子量分画を行って,分子量分布の 態様を把握するとともに,それらの画分での炭水化物 とアミノ化合物の分布をしらべ,腐植化度との関連性 についても検討を行った。それらの結果を次に要約す る。 1)腐植物質中の腐植酸の割合(PQ値)は,水田土壌 が60%近くであるのに対して,底泥では46%以下と 小さくなり,とくに富士川底泥では20%にも達しな かった。
2)腐植物質の暗色化と関連した△logKやRF値の
ような光学的特性を指標にして,分離した腐植酸の 腐植化度を比較すると,水田土壌≧山中湖底泥〉田 子の浦港底泥〉富士川底泥の順になり,いずれも腐 植化度の低い腐植であるRp型に属した。 3)フルポ酸についても,同様な検討を行ったところ, 腐植酸にくらべて腐植化度は低く,またいずれの底 泥も水田土壌の場合にくらべて腐植化度は劣ってい た。水成堆積物では腐植化の速度が緩漫であり,そ の堆積環境の影響を反映していた。 4)フルポ酸の分子量分画の結果,いずれのフルポ酸 も高分子量画分と低分子量画分とにそれぞれピーク をもつ二つの集団が存在し,腐植化度の進捗にとも ない高分子量画分は増大するが,腐植化の進捗して いる水田土壌ではアミノ化合物はむしろ減少してい た。 終わりに本研究にあたり終始協力を惜しまなかった 小林英夫氏に謝意を表します。参考文献
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