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2004 XV XVI XVII XVIII XIX XX IVUS FFR I II III IV V VI VII X CT MRI MRA

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(1)

班 長 横 山 光 宏 神戸大学大学院医学系研究科循環呼吸器病態学 班 員 岸 田   浩 日本医科大学第一内科 久保田   功 山形大学循環・呼吸・腎臓内科学 桑 原 洋 一 千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学 児 玉 和 久 大阪警察病院 玉 木 長 良 北海道大学大学院医学研究科核医学 中 嶋 憲 一 金沢大学医学部付属病院核医学診療科 中 野   赳 三重大学大学院医学系研究科循環器内科学 似 鳥 俊 明 杏林大学放射線医学 野 原 隆 司 田附興風会医学研究所北野病院循環器内科 延 吉 正 清 小倉記念病院 山 口   巖 筑波大学大学院人間総合科学研究科循環器内科 吉 川 純 一 大阪市立大学大学院医学研究科循環器病態内科学 協力員 井 阪 直 樹 三重大学大学院医学系研究科循環器内科学 石 光 敏 行 筑波大学大学院人間総合科学研究科循環器内科 稲 田 秀 郎 国立病院機構京都医療センター循環器科 協力員 岡 本 隆 二 三重大学大学院医学系研究科循環器内科学 川 合 宏 哉 神戸大学大学院医学系研究科循環呼吸器病態学 木 村   剛 京都大学大学院医学研究科循環器内科学 草 間 芳 樹 日本医科大学付属多摩永山病院内科・循環器内科 滝   淳 一 金沢大学大学院医学系研究科バイオトレーサ診療学 竹 石 恭 知 山形大学循環・呼吸・腎臓内科学 平 山 篤 志 大阪警察病院循環器科 船 橋 伸 禎 千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学 古 川   裕 京都大学大学院医学研究科循環器内科学 穂 積 健 之 大阪市立大学大学院医学研究科循環器病態内科学 森 田 浩 一 北海道大学大学院医学研究科核医学 山 辺   裕 市立加西病院 横 山 健 一 杏林大学放射線医学 渡 辺 重 行 筑波大学大学院人間総合科学研究科循環器内科 合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本心臓病学会,日本心電学会,日本冠疾患学会,日本心血管インターベン ション学会,日本医学放射線学会 改訂にあたって 「慢性虚血性心疾患の診断における各種検査法の意義」 I 運動負荷心電図 II ホルター心電図 III 体表面電位図・心磁図 IV 心筋血流イメージング V RI アンジオグラフィ VI 心筋交感神経イメージング VII 心筋脂肪酸イメージング VIII PET IX 安静心エコー図法 X 負荷心エコー図法 XI 心筋コントラストエコー法 XII X 線 CT XIII MRI XIV MRA

外部評価委員 神 原 啓 文 静岡県立総合病院 土 居 義 典 高知大学老年病科・循環器科 野 々 木 宏 国立循環器病センター内科心臓血管 吉 田   清 川崎医科大学循環器内科

慢性虚血性心疾患の診断と病態把握のための検査法の

選択基準に関するガイドライン

(2005年改訂版)

慢性虚血性心疾患の診断における各種検査法の意義 慢性虚血性心疾患の病態と診断目的に基づいた検査計画法

Guidelines for Diagnostic Evaluation of Patients with Chronic Ischemic Heart Disease

(JCS 2005)

(2)

XV 冠動脈造影 XVI 冠動脈攣縮誘発試験 XVII 血管内超音波法(IVUS) XVIII 血管内視鏡検査 XIX 冠動脈内圧測定と FFR XX 冠動脈血流速計測 「慢性虚血性心疾患の病態と診断目的に基づいた検査計画法」 I 心筋虚血の診断 II 冠動脈病変の評価 III 心筋バイアビリティの診断 IV 心機能の評価 V 予後の予測 VI 治療指針の決定 VII 治療効果の評価 (無断転載を禁ずる) 循環器疾患の診断と病態評価のための検査法の進歩は めざましく,目を見張らせるものがある.本ガイドライ ンは 1998 年から 1999 年にかけて虚血性心疾患の多種多 様な検査法を概括し,その時点での各検査法の位置付け を行う目的で作成されたものであるが,2004 年度にそ の後の新たな検査法の進歩を取り入れて部分改訂するこ とにした. 改訂版の構成は初版と同様に 2 つに分けて,第一部を 「慢性虚血性心疾患の診断における各種検査法の意義」 とし,各々の検査法についてその特質と技術的側面およ び有用性を活かせる各種病態を解説した.次に第二部を 「虚血性心疾患の病態と診断目的に基づいた検査計画法」 として,各種病態や予後,治療の評価を行う上で各種検 査法をどのように選択し利用するかを解説した.新たに 項目の追加がなされたり,大幅に書き改められた箇所は 第一部の心磁図,冠動脈血流計測,X 線 CT,MRI, MRA 等であり,第二部の内容も新しい知見に基づいて 修正加筆が行われた.ガイドライン作成の基礎となる発

改訂にあたって

表論文は 1999 年以降のものが追加されたが,代表的な 外国文献とともにできるだけ本邦で検討されたデータを 使用し,本ガイドラインの対象疾患は慢性の虚血性心疾 患に限定し,急性心筋梗塞と不安定狭心症については別 個にガイドラインが作成されているので今回のガイドラ インからは一部を除いて除外した. 本ガイドラインは循環器医を中心とする臨床医が慢性 虚血性心疾患の存在を診断し,その病態評価を行い,治 療方針を立て,治療効果を判定し,患者を管理していく 上で役に立つように作成した.とくに多種多様な検査法 の中からどのように必要な検査を選択するかについて は,各論の中で,各検査法の特質,診断性能,どのよう な診断目的や病態解析に有効か,どのようなピットホー ルがあるか,を解説した.個々の患者についていくつか の検査法を組み合わせて必要な情報を得るためにどのよ うに検査法を選択すればよいかをサポートするものとな っている.しかし,画像の実際の表示やその所見の解説 までは踏み込んでいない.この点,実例が豊富に示され た専門の解説書を参考にして頂ければ幸いである. このガイドラインが病棟,外来,検査室での備え付け の小冊子として活用いただければ幸いである.

(3)

運動負荷心電図は慢性虚血性心疾患において,狭心症 の診断,冠攣縮の誘発,心筋梗塞後の心筋虚血の診断, 重症度の評価・予後の予測,治療効果の判定などに広く 利用される.本法の問題は,診断感度(68 %)と特異 度(77 %)が特に高いとはいえない点にある.診断基 準として,狭心症では 0.1 mV 以上の水平型ないし下降 傾斜型の ST 下降(安静時 ST 下降のある場合,附加的 な 0.2 mV 以上の下降),冠攣縮の誘発では 0.1 mV 以上 の ST 上昇,梗塞後心筋虚血では異常 Q 波誘導の ST 上 昇を伴わない 0.1 mV 以上の ST 下降が妥当である.陰 性 U 波,R 波の増高,脚ブロックや高度の不整脈の発 生は心電図診断の感度を高めて,次の検査に進むための 意義はあるが特異的ではない.ST/HR スロープや ST・ T 波の時間経過は偽陽性を判別するのに役立つ.自覚症 状,運動耐容能,血圧反応も予後の予測に価値をもつ. 運動負荷心電図は,狭心症の診断のみならず,梗塞後 虚血の診断,重症度の評価や予後の予測,経皮的冠動脈 インターベンションの適応決定,治療効果の判定などに 広く利用される.ST 偏位が虚血診断に利用されるが, ST 以外の指標や,自覚症状,運動耐容能,血圧反応も 価値をもつ. 運動負荷心電図の問題点は,診断感度(冠動脈病変を もつ患者のうち何 % が負荷心電図陽性となるか)と診 断特異度(冠動脈病変をもたない者のうち何 % が負荷 心 電 図 陰 性 と な る か ) が 十 分 高 く な い こ と で あ る . ACC/AHA Task Force のガイドライン1−4)は運動負荷心 電図の意義を疾患別にまとめており参考となる.我が国 の心電学会の委員会報告5−9)は,診断基準ではないが運 動負荷にかかわる問題を扱っている.本報告ではこれら を踏まえて,慢性虚血性心疾患に限定し,できる限り我 が国の研究に基礎をおいたガイドラインの作成を行った. 運動負荷心電図による虚血性心疾患の診断原理は,心 筋酸素消費量を増加させ,狭窄病変下の心筋に虚血を誘 発し,惹き起こされる膜電位の変化を ST 変化として捉 えることにある.したがって運動負荷心電図の解釈には 負荷量が心筋虚血の誘発に十分だったか(狭心症症状が 出たか,心拍数が十分増加したか),心電図変化に影響 する因子(性別,血清電解質,安静時心電図異常,服用 薬物,左室肥大,他疾患の合併など)が無いか,を確認 する.表1 に偽陽性と偽陰性の要因をまとめた1,10) 偽陽性,偽陰性の出現に関して検査前確率(pretest probability)が重要である.検査前確率とは,検査対象 中の有病者の頻度である.虚血性心疾患の頻度が高い集

慢性虚血性心疾患の診断における各種検査法の意義

運動負荷心電図

I

要 旨

はじめに

1

1

運動負荷心電図の特質と技術的側面

2

2

原理と偽陽性,偽陰性

(表 1)

表1 負荷心電図の偽陽性,偽陰性の要因 偽陽性の要因 心電図基線の動揺 薬物の服用(ジギタリス,キニジン,抗うつ剤) 電解質異常(低カリウム) 安静時心電図 ST 異常 動揺性の非特異的 ST・T 変化 運動中の心房性 T 波の増大 女性 神経循環無力症 左室肥大 僧帽弁逸脱症 完全左脚ブロック WPW 症候群 偽陰性の要因 運動負荷量の不足 抗狭心症薬の服用 1 枝冠動脈疾患 冠攣縮狭心症 R 波の低電位

検査前確率(pretest probability)

(4)

団,例えば冠危険因子が複数あり典型的な狭心痛を有す る高齢男性では,負荷心電図が陽性なら虚血性心疾患 (真陽性 true positive)である確率は極めて高く,たとえ 陰性であっても偽陰性(false negative)の可能性が残る. 逆に,一般の若・中年を対象としたスクリーニングテス トでは,負荷心電図が陽性であっても正常冠動脈例(偽 陽性 false positive)が多く含まれる11).被検者の集団の 特性が変ると検査結果の意義が異なる,前述のような現 象を Bayes の定理という12).臨床医は,負荷心電図の陽 性か陰性の判定とともに,総合的な判断で次の診断ステ ップを決定しなくてはならない. 運動負荷心電図では,心電図解析装置,負荷装置,負 荷プロトコール,負荷終点の決定,診断指標が診断能に 関係する.トレッドミル法ではフィルタや平均化により 波形を再構成する自動解析装置が用いられるので,オリ ジナル波形も記録し,参考にする1,13) 運動負荷試験を行うには,第一にリスクの高い禁忌例 を除外する.表 2 に運動負荷心電図の絶対禁忌と相対 禁忌をまとめた.WPW 症候群,左脚ブロックのように 安静時心電図が異常であるために,負荷心電図が虚血性 心疾患の診断に無意味な場合がある.その際には運動負 荷に心エコー図や核医学などのイメージング検査を併用 する. 負荷量は,マスター法では通常ダブルが用いられる.

約 6 METs(21 ml/min/kg 相当,1 MET = 3.5 ml/min/kg として計算)の亜最大運動量だが,疾患例では過負荷と なる場合もある.トレッドミル法ではブルース法,エル ゴメータ法では 25 ワット毎増量法が用いられる.運動 能の高い例では,初期のステージを短縮・省略して運動 時間が長くなり過ぎることを避ける.十分な負荷と,過 負荷の回避を計るよう負荷終点は症候限界性とする.表 3 に運動中止徴候を挙げる13,14)

技術的側面と負荷のかけ方

(表 2,表 3)

表2 運動負荷の禁忌 絶対禁忌 1) 急性心筋梗塞発症早期,不安定狭心症 2) コントロ−ル不良の不整脈 3) 症候性高度大動脈弁狭窄 4) 急性あるいは重症心不全 5) 急性肺塞栓または肺梗塞 6) 急性心筋炎または心膜炎 7) 解離性大動脈瘤などの重篤な血管病変 相対禁忌 1) 左冠動脈主幹部の狭窄 2) 中等度の狭窄性弁膜症 3) 高度の電解質異常 4) 重症高血圧 5) 頻脈性不整脈または徐脈性不整脈症例 6) 閉塞性肥大型心筋症などの流出路狭窄 7) 運動負荷が十分行えない精神的,身体的障害例 8) 高度房室ブロック 表3 運動中止徴候 (アメリカスポーツ協会ガイドブックを斎藤の注釈[13]により改変) 自覚症状 患者の中止要請 ST 下降を伴う軽度の胸痛 ST 下降を伴わない中等度の胸痛 強い呼吸困難・疲労(ボルグ指数 17 相当) 他覚症状 ふらつき ろうばい 運動失調 蒼白 チアノーゼ 嘔気 欠伸その他の末梢循環不全症状 ST 変化 診断可能な ST 下降(水平型・下降傾斜型で 0.2 mV 以上) ST 上昇(0.1 mV 以上) 不整脈 心室頻拍 R on T 現象 連続する心室性二段脈,三段脈 30 % 以上の心室性期外収縮 持続する上室性頻拍や心房細動の出現 2 度,3 度の房室ブロック 脚ブロックの出現 血圧反応 血圧の過度の上昇(収縮期 250 mmHg 以上・拡張期 120 mmHg 以上) 血圧の低下(運動中 10 mmHg 以上の低下・運動を続 けても血圧が上昇しない) 心拍反応 予測最大心拍数の 90 % 異常な徐脈 その他 心電図モニターや血圧モニターが正常に作動しない時

(5)

虚血性心疾患の診断における運動負荷心電図指標とし て,ST 下降が最もよく用いられる1).我が国では ST 指 標以外に幾つかの指標が利用されている.また,心電図 以外の指標も診断,病態の評価,予後の予測,治療効果 の判定などの目的で用いられる.表 4 に虚血性心疾患 の診断において参考となる指標をまとめた. 運動負荷心電図は労作狭心症,冠攣縮狭心症,無症候 性心筋虚血,陳旧性心筋梗塞などを対象として,冠動脈 病変の有無の診断,冠攣縮の診断,心筋梗塞後の心筋虚 血の診断,重症度の評価,予後の予測,治療効果の判定 を目的として行う. 運動負荷試験の安全性は,我が国では 264,000 検査に 1 回の死亡,43,000 検査に 1 回の緊急入院,とおおむね 安全に行われている5).一方,米国では 2500 検査に 1 回 の心筋梗塞ないし死亡という高頻度の報告がある15).患 者への説明と同意書をとることが望ましい. 運動負荷心電図は胸痛患者の最も一般的な検査法だ が,最大の問題は診断の感度と特異度が必ずしも高くな いことである.0.1 mV の ST 下降を指標とした冠動脈疾 患の診断能はメタアナリシスで,感度 68 %,特異度 77 %(24,074 例)である1).我が国の報告16−19)でも感度 73 %,特異度 74 %(1,055 例)と同等であった.負荷心電 図が陰性の高危険因子例や,陽性の低危険因子例では, その他の情報を加味した判断が必要である.

1)虚血性心疾患の診断

(表 5) 運動負荷心電図による虚血性心疾患の診断について, 表 5 に指標をまとめた.以下,マスター二階段法とトレ ッドミル法による虚血性心疾患の診断法について述べる. a)マスター二階段法 マスター二階段法の施行には,まず負荷禁忌例を除外 する.標準 12 誘導の心電図を負荷前,直後,3 分後,5 分後,7 分後に記録し,もし異常が生じれば回復まで記 録する.血圧測定は,少なくとも負荷前に行い,管理さ れていない高血圧の有無をチェックする. マスター二階段法の Master 自身による判定基準20) そのまま用いている施設は我が国では少ない5).診断精 度は,ダブル負荷で 75 % 以上の冠動脈狭窄に対し, 0.05 mV の下降が感度 86 %・特異度 73 %,0.1 mV の下 降が感度 77 %・特異度 83 % と報告される21).我が国5)

虚血性心疾患の診断における運動負荷心電図指標

(表4)

表4 運動負荷試験における虚血性心疾患評価のための指標 狭心症症状の出現 低運動耐容能 虚血徴候出現の閾値が低い 血圧増加反応の不良 心拍数上昇不良 心電図 ST 下降 ST 上昇 ST 変化の誘導数 U 波の陰転 V5 誘導の Q 波の減高ないし不変 V5 誘導の R 波の増大ないし不変 反時計回りの HR-ST ループ ST/HR スロープの傾き増大 ST 下降の時間経過

慢性虚血性心疾患の診断に

おける運動負荷心電図の意義

3

3

診断目的と安全性

診断目的に対する運動負荷心電図の問題点

検査により得られる結果とその診断的意義

表5 運動負荷心電図の虚血判定基準 確定基準 ST 下降 水平型ないし下降傾斜型で 0.1 mV 以上 J 点から 0.06 秒後ないし 0.08 秒後で測定 ST 上昇 0.1 mV 以上 安静時 ST 下降がある場合 水平型ないし下降傾斜型で附加的な 0.2 mV 以上の ST 下降 参考所見 上行傾斜型 ST 下降 ST 部の傾きが小さく(1 mV/秒以下)0.1 mV 以上 陽性 U 波の陰転化 偽陽性を示唆する所見 HR-ST ループが反時計方向回転 運動中の上行傾斜型 ST 下降が運動後徐々に水平型・下 降傾斜型に変り,長く続く場合

(6)

では,陽性基準として 0.1 mV 以上の水平型ないし下降 傾斜型の ST 下降をとることが最も多く,ST 上昇,陽 性 U 波の陰転化,脚ブロックや高度の不整脈の発生も 基準として用いられる.しかし,脚ブロックの出現や高 度の不整脈は各種の疾患でみられ,特異的ではない.U 波の陰転化は,左前下行枝攣縮を除くと,労作狭心症で は頻度が低い22),とされている. マスター二階段法の判定基準として 0.1 mV 以上の水 平型ないし下降傾斜型の ST 下降と 0.1 mV 以上の ST 上 昇を陽性とするのが妥当と考えられる(表 5). b)トレッドミル負荷試験 トレッドミル負荷試験の施行においては,まず負荷禁 忌例を除外する.負荷プロトコールはブルース法が標準 である.試験前の問診で,日常中の運動能が高い被験者 は第 1 ないし第 1・2 ステージの時間を短縮してもよい. 逆に,運動能の低い被験者,狭心痛閾値の低い患者,高 齢者は初段階負荷量の小さい修正ブルース法を用いる. 運動中止基準(表 3)を設けた症候限界性負荷で行なう. 心電図は標準 12 誘導を装着し,検査中は自動解析装置 のモニターと患者の状態を監視する.試験中は血圧を 1 分毎に測定する. トレッドミル負荷心電図の心筋虚血の判定基準とし て,最も一般的に用いられる心筋虚血の判定基準は ST 下降である.J 点から 0.06 秒ないし 0.08 秒後の ST 部分 を基線(PQ 接合部)からの下降度で測定する.0.1 mV 以上かつ ST 部分の傾きが水平型ないし下降型を陽性と する1) 上行傾斜型の ST 下降については,傾きが大きい場合 は深さに関係なく陰性とするが,水平型に近い上行傾斜 型の ST 下降(傾きが 1 mV/秒以下)は陽性に含める方 が感度が高くなる23).一方,特異度は低下する.ACC/ AHA のガイドライン1)では上行傾斜型の ST 下降は全て 陰性としている.運動中に上行傾斜型の ST 下降があり 運動終了後徐々に水平型ないし下降傾斜型に変わり T 波逆転を伴って長く持続するものは偽陽性を示唆すると される24) 運動中の心拍数の変化と ST 下降の関係から HR-ST ループ25)や ST/HR スロープ26)が解析される.ST/HR ス ロープは,運動中の心拍数(横軸)と ST 下降(縦軸) をプロットして直線回帰した傾きである.ST 下降が有 意でもこの傾きが小さいと偽陽性の確率が高い27) .HR-ST ループは,心拍数を横軸に ST 下降を縦軸下向きに プロットして運動中から回復期にかけて描かれるループ の回転方向である.ST 下降が有意であっても,ループ の回転が反時計方向なら偽陽性の確率が高い26) 脚ブロックの出現と高度不整脈5)については虚血性心 疾患に特異的といえない.U 波陰転化は労作狭心症では 出現頻度が 20−63 % と低く22,28,29),特異度も必ずしも 高くない22) R 波指標30)(表 4)は,運動中の R 波高の増減が負荷 量に依存する31)ので,適切な基準とはいえない32).Q 波 指標33)(表 4)は,左前下行枝病変の場合に意味を持つ とされるが,診断特異度は低い32) 安静時心電図に ST 下降が存在する場合,安静時の ST レベルから附加的な 0.2 mV 以上の下降が用いられ る34).非特異的 ST 下降や左室肥大に ST 下降を伴う場 合,特異度が下るが感度は変わらない. 左脚ブロック,WPW 症候群,ジギタリス服用例にお ける ST 下降は虚血性心疾患の判定基準とはなりえな い1).右脚ブロックでは V5・V6 の左胸部誘導と II・ aVF の下壁誘導の ST 下降は基準となりうる35).右脚ブ ロックの場合,ST 測定を右脚ブロック波形の J 点から 0.08 秒後の部分とすると T 波部分に位置するので 0.04 秒ないし 0.06 秒後の部分とする. 以上より,トレッドミル負荷心電図による心筋虚血の 判定基準として,0.1 mV 以上の水平型ないし下降傾斜 型の ST 下降と,0.1 mV 以上の ST 上昇(非 Q 波誘導) が妥当である.安静時に ST 下降がある場合,附加的な 0.2 mV 以上の下降である.ST 偏位以外の指標は診断感 度を高めて次の検査に進むための,また HR-ST ループ や ST・T の時間経過は偽陽性を判別するための付加的 な意義がある(表 5).

2)冠攣縮狭心症

(表 6) 運動負荷心電図で Q 波の無い誘導に ST 上昇が出現す る場合,冠攣縮狭心症と診断する.ST 上昇の基準とし て J 点で 0.1 mV 以上の上昇が多く用いられる28,36).運 動負荷での ST 上昇の頻度は 29 % と必ずしも高くな い37).運動負荷誘発の ST 上昇は,発作頻度が高い時期, また午前中の検査で生じ易い38).また,カルシウム拮抗 薬中止の日数も誘発率に影響する.ST 下降と ST 上昇 表6 冠攣縮狭心症の負荷心電図の判定基準 確定基準 0.1 mV 以上の ST 上昇 参考所見 U 波の陰転化 心拍数の増加不十分 繰り返す検査で虚血が出現したりしなかったりする

(7)

が交代する現象も冠攣縮狭心症を示す. 陰性 U 波の出現28,36),心拍数の増加不十分39),虚血閾 値の変動や虚血再現性の無さ,なども冠攣縮を診断する 参考となる.陰性 U 波は左前下行枝の攣縮に多い.表 6 に冠攣縮狭心症診断の基準を示す. 冠攣縮の誘発試験には,運動負荷以外に,過換気負荷, 寒冷負荷,ハンドグリップ負荷がある.過換気負荷がも っとも陽性率が高く,誘発率は 43−69 % と報告され る38).寒冷負荷による ST 上昇は 9 % と低率である37)

3)心筋梗塞後心筋虚血

(表 7) 心筋梗塞後の心筋虚血は梗塞部位と非梗塞部位のいず れにも生じうる.いずれの場合も非 Q 波誘導における ST 下降が判定の基準となる.ST 下降基準は狭心症の場合 と同じく水平型および下降傾斜型 0.1 mV の下降である. 陳旧性心筋梗塞では異常 Q 波誘導に ST 上昇が生じ る.Q 波誘導の ST 上昇は梗塞部心筋の虚血,対側の心 筋虚血のレシプロカル変化,高度な左室壁運動異常が機 序となる.虚血と壁運動異常を鑑別することは難しく, Q 波誘導の ST 上昇を虚血とするのは適切でない.Q 波 誘導に ST 上昇があり対側誘導に ST 下降が生じた場合, ST 下降が虚血を表すかレシプロカル変化かの鑑別も困 難である.負荷心筋血流イメージングや負荷心エコー図 法が鑑別に有用である. 陰性 U 波は前壁心筋梗塞後の虚血でみられるが,高 度の壁運動異常とも関連しており29),陽性率も 20 % と 低く,基準として十分でない.冠性 T 波の運動時の陽 転化は,心筋梗塞後はむしろ一般的にみられるので虚血 の診断には有用でない. 表 7 に心筋梗塞後の運動負荷心電図の陽性基準を示す.

4)特殊な集団に対する虚血性心疾患の診断

a)女 性 女性を対象とした運動負荷試験の解釈は容易ではな い.閉経前女性における冠動脈疾患の有病率が低く,女 性全体における運動負荷心電図の診断感度と特異度が低 いことによる.一般に,無症状の女性のトレッドミル運 動負荷試験における ST 下降の診断特異度は高くない. 女性には非虚血性 ST 下降が多く,下壁誘導部位で最大 ST 下降が出現する場合は偽陰性の徴候である40) b)高齢者 高齢者では筋力低下・筋萎縮により運動負荷試験の実 施が難しく,代替として薬物負荷試験を選択することが 多い.運動負荷試験の解釈では,冠動脈疾患の有病率・ 重症度が高いため診断感度は高いが特異度は低くなり, 偽陰性が多い41).このように高齢者における運動負荷試 験は実施と解釈のどちらも難しいが,虚血性心疾患の診 断と予後における重要性は若年者の場合と変わらない42)

5)虚血重症度の判定および予後の予測

(表 8) 運動負荷試験は重症度の診断に役立ち,ひいては予後 の推定に役立つ.冠動脈狭窄枝が多いほど ST 下降は高 率で,1 枝 63 %,2 枝 75 %,3 枝 88 % である19).予後 不良の指標として,胸痛の有無にかかわらず ST 下降43) 2.0 mV 以上の ST 下降44),低運動量での ST 下降45,46) 血圧の上昇不良47,48),低運動能46,47,49)がある.Duke 大 学方式の予後指標として,トレッドミルスコア=(運動 時間)− 5×(最大 ST 下降 mm)− 4×(胸痛指標:胸痛な ければ 0 点,胸痛あれば 1 点,胸痛が運動中止理由なら 2 点)があり,予後の推定に有用である50).この値が − 11 以下なら高リスク,+5 以上なら低リスクである8) 表 8 に重症例と予後不良の指標をあげる.

6)治療効果の判定

(表 9) 日本心電学会から狭心症の薬物治療における運動負荷 心電図の効果判定の基準9)が出され,次いで「トレッドミ ル負荷試験による抗狭心症薬薬効判定に関する研究」1) 表7 心筋梗塞後の運動負荷心電図の心筋虚血の判定基準 確定基準 ST 下降 水平型ないし下降傾斜型で 0.1 mV 以上 参考所見 異常 Q 波誘導の ST 上昇は虚血と断定できない 異常 Q 波誘導の ST 上昇を伴って対側誘導に出現する ST 下降は虚血と断定できない 陰性 T 波の陽転は虚血と関係なくほとんどの症例で おこる 表8 運動負荷試験結果の重症例,予後不良の徴候 運動能が低い 血圧上昇の異常(運動中 10 mmHg 以上の低下,運動を続 けても血圧が上昇しない) 狭心痛や ST 下降の始まる負荷量が小さい 最大 ST 下降が深く下降傾斜型 ST 下降を示す ST 下降の誘導数が多い ST 下降度が深い(≧0.2 mV) 運動終了後虚血性 ST 下降が長く続く

(8)

で幾つかの修正点が出された.これらをまとめるとトレ ッドミル運動負荷心電図による治療効果の判定として, 表 9 が挙げられる. 運動負荷心電図は極めて広範に臨床応用されている検 査手段であるが,我が国においては予後予測の指標とし ての評価や経皮的冠動脈インターベンションなど治療適 応への位置付けなどの研究成果が乏しい.慢性虚血性心 疾患の治療法の発展と相まって,上記の大規模研究が行 われることが今後の重要な課題である. ホルター心電図法は患者への負担が少なく日常生活中 の心筋虚血の診断ができる.慢性虚血性心疾患において, 本法が役立つ疾患や病態には,異型狭心症,労作狭心症, 陳旧性心筋梗塞ならびに無症候性心筋虚血がある.ホル ター心電図による心筋虚血の診断基準,適応や性能の信 頼性に関しての基準は未だ統一されていないが,ST 下 降の陽性基準としてコントロール時の基線に比し,0.1 mV 以上の水平または下降傾斜型の ST 下降を示し,最 大 ST 下降に到達するまで 1 分を要し,0.1 mV 以上の ST 下降が 1 分以上持続する場合が推奨される.虚血回 数の計測には,虚血エピソードの間隔が 1 分以上あいて いるものを数える.ST 上昇の陽性基準は Q 波の無い誘 導で 0.1 mV 以上の ST 上昇が 30−60 秒以上持続する場 合である.いずれの ST 変化においても体位変換に伴う 非虚血性 ST 変化との鑑別のため,あらかじめ仰臥位, 側臥位,立位,あるいは過換気時の心電図を記録し判読 の参考にする. ホルター心電図法とは携帯型心電計を用いて日常生活 時の行動中に長時間連続記録ができ,アナライザにて高 速解析する検査法である.ホルター心電図は心筋虚血の 診断方法として冠動脈造影,核医学検査,運動負荷心電 図などとともに使用されるが,他の諸検査法に比し患者 に負担を与えることなく日常生活中の心筋虚血の診断や 病態生理の解明に有用である.しかし,ホルター心電図 装置の精度における信頼性や,ホルター心電図による心 筋虚血の診断基準,あるいはその適応について推奨でき る基準が極めて少なく,多くの混乱がある.本指針は, ホルター心電図の使用対象症例が多い慢性虚血性心疾患 において,日常診療上,ホルター心電図が役立つと考え られる疾患,病態,適応範囲,ならびにホルター心電図の 有用性と問題点に関する本邦の現状からみた基準である. ホルター心電図の特徴として,心電図を長時間記録で きる(24−48 時間),被検者の自由度が大きく日常生活 中に記録できる一方で,記録終了後に解析するため危険 な心電図変化が出現していても緊急対応性はない,通常 誘導数が 2 ないし 3 チャネルのため情報量に限界があ る,などがあげられる. 電極は電気的,機械的に長時間安定させる必要があり, 現在,ディスポーザブル電極が使用され,ほぼ技術的に は満足できる.記録器は携帯に適した小型軽量化し,か つ堅牢で電気的,機械的に長時間安定化が計られている. その記録媒体として主流であった磁気テープは,振幅特 性,位相特性に問題があり,最近はそれを解決すべくデ 表9 トレッドミル負荷試験による抗狭心症薬治療効果の判定 (日本心電学会「抗狭心症薬判定小委員会報告」[9]を同「トレッドミ ル負荷試験による抗狭心症薬薬効判定に関する研究」[8]により改変) 評価の対象はトレッドミル負荷試験(ブルース法)で運 動誘発胸痛,0.2 mV 以上の ST 下降,運動耐容時間 6 分 前後の条件をそろえた患者であること 著明改善 0.2 mV 以上・3 分以上の改善 治療期に ST 下降が消失する 改善 0.1 mV 以上・1.5 分以上の改善 やや改善 0.05 mV 以上・0.5 分以上の改善 不変 0.05 mV 未満・0.5 分未満の改善ないし悪化 悪化 0.05 mV 以上・0.5 分以上の悪化

今後の課題

3

4

ホルター心電図

II

要 旨

はじめに

1

1

ホルター心電図の特質と技術的側面

2

2

特 質

技術的側面

(9)

化の頻度,その出現時間帯,ST 下降度,心拍数との関 連,あるいは,いかなる状況において出現したか,など を知ることが可能である63).しかし,ホルター心電図の 制約上,虚血部位や虚血の重症度判定について評価する ことは困難である.一方,冠動脈造影などで狭窄の程度 が明らかな症例においては日常生活中の行動と一過性心 筋虚血との関連性,あるいは抗狭心症薬の薬効評価を検 討する場合には有用であろう64)

3)冠攣縮狭心症

本疾患は基本的には不安定狭心症であり,その評価は 速やかに行われなければならない.多くはその発作出現 状況の詳細な病歴聴取により診断は可能であるが,発作 時心電図による確定診断にはホルター心電図が有用であ る.さらに,診断後の治療評価にも用いられる.本疾患 における一過性心筋虚血のほとんどは深夜から早朝にか けて発現し,その心電図変化を捉えるにはホルター心電 図がもっとも有力な方法であり,ホルター心電図適応の 最たる疾患と考えられる.また,発作出現の活動期にお いては,入院後,抗狭心症薬の治療効果判定のために月 2 回以上ホルター心電図を記録しなければならないこと もしばしばあるが,現在の保険診療上のホルター心電図 記録が月 1 回しか認められていないという制約があるこ とを考慮する.

4)陳旧性心筋梗塞

急性心筋梗塞後の回復期の経過観察,あるいは外来通 院時期の日常生活における一過性心筋虚血出現の有無を 判定するためにホルター心電図が使用される65−67).ホル ター心電図により日常労作における心拍数と ST 変化の 関係が捉えられ,それにより症例毎に日常労作の許容範 囲を決定することが可能である.さらに,定期的なホル ター心電図記録により冠動脈血行再建術を施行した症例 における再狭窄出現を検出することも可能である68).し かし,ホルター心電図においては,2 ないし 3 誘導の記 録であるため ST 変化を捉えることが出来ないこともあ る.さらには,心筋梗塞症例においては梗塞誘導部位に 一致して ST 上昇が出現することが多く,虚血性変化と の判別困難な事が多い.そのために他の画像診断などを 併用することが必要である.

5)虚血性心筋症

本疾患は冠動脈の狭窄あるいは完全閉塞に基づく重症 な虚血状態の持続の結果,冬眠心筋(ハイバネーション) や心筋の瘢痕化によって生じる広範な心筋の線維化に起 ジタルカード式や IC メモリタイプの記録器へ移行しつ つある.このうち IC メモリタイプがもっとも小型軽量 である.アナライザも最近の目覚ましいコンピュータの 発達によりその解析速度,解析精度が改善されているが, 各メーカーによりその時間軸の精度,解析された波形の 偽陽性率,偽陰性率,あるいはその再現性にバラツキが ある. 本指針で取り扱う対象疾患は以下の慢性虚血性心疾患 であるが,ホルター心電図により得られた ST 変化の意 義は,それぞれの疾患により異なり,さらに ST 偏位判読 に支障をきたす脚ブロック,WPW 症候群,心肥大やジ ギタリス服用を伴う症例などではその意義は低い51−54)

1)無症候性冠動脈疾患

健常成人を対象とした一過性無症候性 ST 変化のスク リーニングとしてホルター心電図法を用いる場合,その ST 偏位検出能の精度や信頼性はきわめて低いと考えら れる.すなわち,Cohn55)の無症候性心筋虚血分類Ⅰ型 に相当する,見かけ上の健常成人における一過性心筋虚 血出現頻度は運動負荷試験では欧米で 1.2−6 % である のに対し56,57),健常人を対象としたホルター心電図記録 による虚血性 ST 下降を示す偽陽性の頻度は 2−30 %, 平均 10.3 % である58,59).したがって,見かけ上の健常 人のホルター心電図法による一過性無症候性虚血性 ST 変化を鑑別することは極めて困難である. 一方,Cohn 分類Ⅱ,Ⅲ型におけるホルター心電図で の無症候性虚血出現頻度は欧米で22−59 %,平均 35 % である60).本邦においてもほぼ同頻度であり61,62),これ らの群に対するホルター心電図の有用性は CohnⅠ型に 比し高い.さらに,狭心症の発作様式別では,冠トーヌ スが関連する狭心症ほどその頻度は増加する.しかし, これらの所見が真の一過性心筋虚血であるか否か慎重に 評価しなくてはならない.すなわち陳旧性心筋梗塞症例 においては冠性 T 波の存在によりその鑑別は複雑であ り,一過性心筋虚血とするには他の画像診断にて確認す る必要があろう.

2)労作狭心症

本疾患が既知の場合,日常生活における一過性 ST 変

慢性虚血性心疾患の診断に

おけるホルター心電図の意義

3

3

ホルター心電図の対象疾患

(10)

虚血が生じていることが予想される場合にはホルター心 電図の適応はあろう.本疾患例の標準 12 誘導心電図に おいて ST-T 変化を認めることが多く,たとえ ST 変化 因する病態をいう.本疾患はうっ血性心不全の症状が多 いが,その原因検索や病態生理の評価のためにホルター 心電図を記録することは少ない.ただし,一過性に心筋 表10 アメリカ心臓病学会ガイドラインによるホルター心電図検査の適応(虚血関連のみ抜粋) リズム不整に関する自覚症状 クラスⅠ 1.原因不明の失神・前失神状態,発作性めまいのある患者 2.原因不明で再発性の動悸がある患者 クラスⅡb 1.発作的息切れ,胸痛,疲労(不整脈由来の)のある患者 2.発作性心房粗・細動が疑われる神経学的症状のある患者 3.失神,発作性めまい,動悸などがあり,不整脈以外の原因が特定されたが,この原因の治療にも かかわらず,症状が持続する患者 クラスⅢ 1.失神,発作性めまい,動悸などの症状があり,検査によって不整脈以外の原因が特定された患者 2.脳血管発作がみられ,不整脈の証拠のない患者 不整脈による症状がない患者における,将来の心イベントのリスク評価を目的とした不整脈検出の適応 クラスⅠ  なし クラスⅡb 1.左室機能低下がみられる(駆出率 40 % 以下)心筋梗塞患者 2.うっ血性心不全患者 3.特発性肥大型心筋症患者 クラスⅢ 1.心筋挫傷患者 2.左室肥大を伴う高血圧患者 3.左室機能の正常な心筋梗塞患者 4.非心臓手術における術前不整脈評価 5.睡眠時無呼吸患者 6.弁膜症患者 不整脈による症状がない患者における将来の心イベントのリスク評価を目的とした心拍変動解析の適応 クラスⅠ  なし クラスⅡb 1.左室機能低下がみられる心筋梗塞患者 2.うっ血性心不全患者 3.特発性肥大型心筋症患者 クラスⅢ 1.左室機能低下がみられる心筋梗塞患者 2.糖尿病患者における糖尿病性神経障害の評価 3.心拍変動解析が不可能となる不整脈を有する患者 心筋虚血に対する適応 クラスⅠ  なし クラスⅡa 1.異型狭心症の疑いのある患者 クラスⅡb 1.運動ができない胸痛患者の評価 2.運動ができない血管手術患者の術前評価 3.冠動脈疾患を有するが非典型的胸痛症候群の患者 クラスⅢ 1.運動ができる胸痛患者の初期評価 2.無症状患者におけるルーチン検査 classⅠ ホルター心電図の有用性が確立され,一般的な合意を得ているもの classⅡa 意見の一致を見ていないが,ホルター心電図が有用と考えられるもの Ⅱb 意見の一致を見ていないが,ホルター心電図の有用性がクラスⅡa ほど確立されていないもの classⅢ ホルター心電図の有用性がみられないもの

(11)

の検出やその増強が捉えられても,その解釈にはしばし ば困難が伴う.それ故,本疾患における心筋虚血の検出 においては,ホルター心電図の有用性は低いと考えられ, 他の画像診断による心筋虚血の検出法が望ましい. 以上の慢性虚血性心疾患におけるホルター心電図検査 の目的に適した疾患ならびに病態は,異型狭心症,冠動 脈有意狭窄の判明している労作狭心症や無症候性心筋虚 血例である.本邦においては虚血性心疾患に対するホル ター心電図検査の適応を示した指針は示されていない が,American Heart Association による提言(表 10)を 参照するとよい69)

虚血性心疾患の診断のためには適切な心電図記録が必 要である.日常活動中の安定した心電図記録を得るため に,電極,誘導コード,ペースト,誘導法に注意を要す る.誘導法は多誘導が望ましいが,通常,2 誘導法が使 用される.American Heart Association による指針70)では, 2 誘導を用いる場合は V1 と V5 誘導近似の誘導法が推 奨されている.とくに,V5 誘導近似の誘導法の有用性 は高い71,72).また,異型狭心症における ST 上昇を捉え るためには,上下方向の誘導(Ⅱ,Ⅲ,aVF)と V2 あ るいは V3 誘導近似の誘導法が高い診断率を示す. ST 下降の陽性基準はコントロール時の基線に比し,1) 0.1 mV 以上の水平または下降傾斜型の ST 下降を示し, 2)最大 ST 下降に到達するまで 1 分を要する,3)0.1 mV 以上の ST 下降が 1 分以上持続する,場合であるが 72−74),持続時間を 30 秒とすることもできる.虚血回数 を数える場合には,各虚血間隔が少なくとも 1 分以上と する定義が使われる(1×1×1 ルール)75) 一方,ST 上昇の陽性基準は Q 波の無い誘導で 0.1 mV 以上の ST 上昇が 30−60 秒以上持続する場合である. しかし,いずれの ST 変化においても体位変換に伴う非 虚血性 ST 変化との鑑別が重要であるため73,74),あらか じめ仰臥位,側臥位,立位,あるいは過換気時の心電図 を記録し判読の参考にするとよい.ホルター心電図にて 心筋虚血を診断する際の偽陽性および偽陰性に関する原 因を列記する76)(表 11). ホルター心電図法は日常生活中における虚血性心疾患 の診断,および治療には欠かせない検査法であるが,前 述のように心電図を日常生活中に長時間記録できるとい う大きな利点がある反面,記録終了後に解析するために, 危険な心電図変化が出現していても緊急対応性はないと いう欠点がある.このような問題を解決するために,患 者携帯心電図にて記録された発作時の心電図を電話伝送 する方式がある.電話で患者が心電図を送信した直後に, 結果を直接患者に知らせることができ,緊急の対応に適 した方法であり,この検査法は保険診療で認められてい る.一方患者の発作頻度が少ない場合,その診断のため に数日間心電計を携行させる必要性がある.この記録方 式はイベント・スイッチ式で,発作時に患者がスイッチ を押すことによって記録でき,数日から最大数か月間の 携行が可能である77,78).また海外では植え込み式ループ 心電計が市販されており,生命を脅かすような失神発作 の診断の有用性が報告されている79).さらに虚血性 ST 偏位の診断においては以下の問題点がある.

1)記録誘導数の制約による有意 ST 偏位の見落とし

a)誘導数と誘導部位による ST 偏位検出の限界 ホルター心電図における記録誘導数の制約は冠動脈疾 患の ST 偏位診断の際に問題となる.一過性虚血性変化 をできる限り見落とさないように多誘導を用いたホルタ ー心電図記録法の有用性が報告されているが71,80),技術 的,あるいはそのコストの面から普及していないのが現 状である.通常は V5 誘導近似の誘導法,V1 誘導近似 の誘導法を組み合わせて記録されることが多いが,一過 性 ST 偏位の診断率向上のためには上下方向の誘導を用 いた 3 誘導法が望ましい. b)双極誘導法による ST,T の変形,偏位度の増減 双極誘導によって生じる ST 偏位の歪み,すなわち, 不関電極の位置による関電極の電位への影響に対して単

判定基準

表11 ホルター心電図による心筋虚血の偽陽性・偽陰性の原因 1.ST 偏位におよぼす体位変化 2.過換気 3.突然過度の運動誘発 ST 偏位 4.バルサルバ誘発 ST 偏位 5.心室内伝導障害 6.診断されていない左室肥大 7.頻脈性不整脈による二次的な ST 変化 8.心房細動,粗動による偽陽性変化 9.電解質異常や薬剤による二次性 ST 変化 10.誘導部位の不適正 11.不正確な較正 12.記録の精密性の欠如 13.記録された信号処理過程での ST 特性への影響

ホルター心電図の診断目的による利点と欠点

(12)

極誘導等価双極誘導法などもあるが81),普及していない のが実状である.

2)工学的原因に基づく ST 間部の歪み

ホルター心電図による虚血性 ST 偏位を評価するに は,その偏位は標準 12 誘導心電図と同様に変化するこ とが望ましいが72,80),磁気テープを用いたホルター心電 計では,振幅,位相特性による ST,T 波の歪みは避け がたく,さらには,誘導によりその程度も異なる74,82,83) この歪みに対し,工学の立場から改良が行われている. 現在,上市されているホルター記録器は JIS 規格を満た し,日常臨床における使用には耐えられるようになって いる.しかし,各メーカーの記録器を他社のアナライザ にて解析すると,その波形の歪みにより,ST-T 変化の 読みとりに支障をきたすことがある.今後,振幅,位相 特性のさらなる向上と,他社製の記録器,あるいはアナ ライザを使用しても,その波形の歪みの程度に関する許 容範囲を規格として検討する必要があろう.一方,最近 のフラッシュメモリなどの記憶素子の小型化,大容量化 に伴い 24 時間の全波形を記録できるソリッドタイプの 記録器の改良,発達,低価格化が進み,今後はソリッド タイプの記録器が主流になりつつある.それに伴い,位 相,周波数特性の改善が計られ,今後はソリッドタイプ 記録器における基準が必要であろう.特に低周波数領域 のカットオフレンジのメーカー互換性が必要であり,今 後の検討課題であろう.

3)自動診断

アナライザによる自動診断においてはデータレコーダ ーによる記録,A/D 変換,区分認識,基線補正,パタ ーン認識など様々な要素が混在し,さらに 24 時間とい う記録には,データとしての波形数が膨大であり,かつ ノイズが多く ST 部分の正確な認識は容易でない.その 対策も研究されているが,未だ十分な方法は確立されて いない84) 現在使用されている患者携帯用心電計には長時間連続 記録のホルター心電計がもっとも使用されているが,記 録方法として磁気記録式に代わってデジタルカード式や メモリ内臓式へ移行しつつある.磁気テープによる回転 むらなどのノイズがなく小型軽量化が実現した.これら の装置は自動的に長時間連続記録する方式であり,虚血 性心疾患におけるホルター心電図の役割として一過性 ST 偏位の評価のほかに,時間生物学的見地による急性 心筋梗塞,狭心症,心臓死の好発時間帯の検討85),また, 心拍変動解析による自律神経活動の評価と予後推定など 有用性が明らかにされた86−88) 一方,頻度の少ない発作を捉えるため数日間携帯する ことを考慮したイベント・スイッチ方式の装置や緊急対 応型として心電図の電送方式による装置も使用されてい る.今後,それぞれの心臓発作の状況や目的に応じた携 帯型心電計の使い分けが必要であり,医療効率の面から の検討も重要である. 体表面電位図は胸壁周囲から多数の単極誘導心電図を 記録し,体表面上の電位分布の心周期に伴う変化を詳細 に解析する方法である.心筋起電力の空間分解能に優れ, 生理的あるいは病的な起電力変化に関してその部位や程 度を詳しく特定できるという利点を有する.虚血性心疾 患の診断においては心筋虚血や梗塞の部位や程度の診 断,重症心室性不整脈の発生し易さの診断に有用である. 一方,心磁図は心臓が発している磁場を無侵襲に計測す る体表面マッピングである.心臓の発する磁場は地磁気 の 100 万分の 1 という微弱なものでありその計測は困 難であったが,高感度のセンサが開発され研究が一気に 進展,2003 年,本邦製の心磁計測システムが世界に先 がけて薬事承認を得た.これを契機に,心磁図による心 疾患診断が一気に加速するものと思われる. 体表面電位図とは胸壁上で心臓を囲むようにして多数 (数十∼数百)の誘導点を設け,心臓の電気的興奮に伴 って胸壁上に発生した電位を瞬時毎に等電位線を用いて 地図状に表現したものである.体表面電位図の最初の報 告は 1882 年に Waller89)によりなされた.その後,1963 年に Taccardi90)が本法の有用性を詳細に報告してから臨 床応用が進んだ.わが国では春見らの 128 誘導点法91)

今後の課題

4

4

体表面電位図・心磁図

III

要 旨

はじめに

1

1

III-1

体表面電位図

(13)

山田らの 87 誘導点法92)が開発されたが,現在では山田 法による体表面電位図作成装置が市販され基準的なシス テムとなっている.さらに等電位図表示のみでなく, 様々のデータ表示法が考案され目的に応じて使用されて いる.わが国における体表面電位図の臨床研究は日本循 環器学会において過去に行われた 3 つの小委員会,すな わち学術研究委員会「体表面電位図の診断基準作成」 (1988.4∼1991.3,班長安井昭二),診療基準委員会「体 表面心電情報による心疾患診断に関する研究」(1991.4 ∼1994.3,班長安井昭二)ならびに診療基準委員会「時 空間心電情報の定量化とその診断応用」(1994.4∼1998.3, 班長外山淳治)の活動により発展してきた.その研究成 果はそれぞれ単行本として出版されているので参照され たい93−95) 体表面電位図法は体表面上で得られるすべての心電情 報を収集する手法であり,心臓の電気現象から心臓病を 診断する非侵襲的検査法として優れた診断能を有する方 法である.右前胸部や背部を含めた胸壁上に多数の誘導 点を有することに加え,誘導部位直下の心起電力を強く 反映する単極誘導心電図から構成されるため,心臓のそ れぞれの部位における心起電力の評価に威力を発揮す る.これが,心起電力を固定した単一の双極子と仮定す るベクトル心電図や誘導部位が少なく双極誘導も混在す る標準 12 誘導心電図との本質的な違いである.そのた め体表面電位図は心筋梗塞や心筋虚血の部位および大き さに関するより詳細な電気的診断が可能である. 本邦の基準システムともなっているフクダ電子社製の 体表面電位図作成装置では前胸部で密,背部で粗に 87 誘導を配置し,Wilson の中心電極を不関電極とした電 位を記録する.誘導点の位置は胸壁を一周する A∼M の 13 列とそれぞれ同じ高さにある 1∼7 の 7 行により決 定される.A,E,I 列を,それぞれ右腋窩中線,胸骨正 中線,左腋窩中線上に配置し,A 列と E 列を 4 等分す るように B,C,D 列を置く.同様に,E 列と I 列を 4 等分するように F,G,H 列を置く.J 列は,I 列と J 列 の間隔が H 列と I 列の間隔と等しくなるように配置す る.同様に M 列は,M 列と A 列の間隔が A 列と B 列 の間隔と等しくなるように配置する.行に関しては,6 行と 4 行が胸骨正中線上で,それぞれ第 2 肋間と第 5 肋 間の高さとなるように決定し,5 行を 6 行と 4 行の中間 の高さに置く.各行間の間隔が等しくなるように 7,3, 2,1 行を決定する.両腋窩部の A,I 列には,6,7 行 はない. 体表面電位図はその診断用途に応じて種々のデータ表 示法が使用されている.それぞれのデータ表示法を紹介 するとともにそれらを用いた虚血性心疾患診断の実際に ついて概説する. すべての誘導の心電図波形を描かせる方法で,標準 12 誘導心電図の V1∼V6 に相当する単極誘導心電図が 胸壁全体から記録されたものと考えてよく,直感的に理 解しやすい表示法である.ST 下降の広がりと下降の最 大電位は虚血の重症度を反映し,標準 12 誘導心電図の 同様な指標と比べて診断精度が格段に向上する96,97) 等電位図(isopotential map)は,従来からもっとも頻 繁に用いられてきた表示法である.各誘導点の同時刻に おける電位を基にして,等しい電位の点を結び,等電位 線を引き,電位分布を表現する.QRS 群と ST-T 部の等 電位図においては,正電位領域は脱分極波が進んでくる 部位か再分極波を見送っている部位であり,負電位領域 は脱分極波を見送っているか再分極波が進んでいく部位 である. 心筋梗塞では,心筋壊死に伴う起電力の低下や消失を 反映し梗塞領域に興奮波が到達する時期に一致して,梗 塞領域に対応する胸壁上の領域に陽性電位の減弱や消失 が認められる98).標準 12 誘導心電図では診断が不可能な 心筋梗塞も,本法により診断が可能である99).左室壁運 動異常部位の詳細な同定や下壁梗塞に合併する右室梗塞 の診断も可能である100−102).運動負荷後の ST 下降領域か ら虚血部を診断することは困難であるが,ST-T 部103,104) や U 波105)の電位図を用いれば虚血部診断精度を高める ことができる. 等積分値図(isointegral map)とは,ある一定区間内 における電位の時間積分値の体表面分布を等積分値線に

体表面電位図の特質と技術的側面

2

2

特 質

技術的側面(誘導法)

慢性虚血性心疾患の診断に

おける体表面電位図の意義

3

3

全波形表示

等電位図

等積分値図

(14)

より表現したものであり,電位の増高や減少の総合的評 価が可能である. QRS 等積分値図の depature map は心筋梗塞に起因す る心起電力の低下を異常 Q 波と R 波の減高の双方から 総合的に捉える事ができるため梗塞巣の定量診断に役立 つ106,107).ST-T 等積分値図により心筋虚血部位の推定が 可能である108).QRST 等積分値図は ventricular gradient を表現するものであり,興奮伝播過程が変化しても QRST 積分値は大きな影響を受けない.そのため,脚ブ ロック109)や WPW 症候群110)に合併した心筋梗塞の診断 に有用である.またリエントリーによる不整脈の基質と なる活動電位持続時間の不均一性を反映するため重症心 室性不整脈の発生し易さの評価に用いることができ る111−113)

等時線図(isochrone map)は,activation time(QRS 群の dV/dt が最小となる時刻)や recovery time(T 波の dV/dt が最大となる時刻)の体表面分布を表現したもの である.運動負荷後に虚血領域に対応する体表面上で activation time が延長することが報告されている114) 体表面電位図は保険適応(1,500点)が認められてい るものの,現在のところ主に研究目的に一部の循環器専 門施設で施行されているに過ぎない.これは標準 12 誘 導に比較して記録や解析が煩雑なことも挙げられるが, 心エコー図法や心臓核医学などの心臓の形態と機能を直 接的に評価し得る検査法が発達したことが大きい.心筋 梗塞の部位や大きさや虚血の定量評価を心臓電気現象か ら評価しようとする試みの意義は従来に比べ少なくなっ たといえよう.しかしながら,虚血性心疾患の死因とし て重要な位置を占める重症心室性不整脈の診断に関して は心電現象を用いる方法がより直接的である.その中で も体表面電位図法は非侵襲的な方法ながら極めて多くの 心電情報を有している.今後は致死性心室性不整脈の診 断法(発生機序,発生源あるいは発生し易さなど)に体 表面電位図の寄与が期待される. 物質に電流が流れると右ねじの法則にしたがってその 周りに磁場が発生する.同様の現象が心臓にも生じ,心 筋興奮による活動電流に伴い磁場が発生する.心磁図 (magnetocardiogram,MCG)は心筋活動電位に起因する 磁場,すなわち心磁場を計測・解析することにより心臓 の電気生理学的現象を診断する体表面マッピングであ る.心臓磁場を体の外部から計測する装置を心磁計と呼 び,得られた心磁情報を心磁図と言う. 心臓磁場の計測は 1963 年に米国の Baule と McFee115) によって数百万回も巻いた誘導コイルを用いて計測され たのがはじまりであるが,心臓磁場は地磁気の約 100 万 分の 1(約 10−10T[テスラ])以下という極めて微弱な 信号であるため,彼らの計測は心臓から磁場が発生して いることを確認する程度のものであった.その後の 1970 年に精度の高い心臓磁場計測が Cohen や Zimmerman ら116)によって報告された.彼らが用いた磁気センサは 超 伝 導 量 子 干 渉 素 子 ( superconducting quantum interference device,SQUID)と呼ばれる超電導デバイス を用いた高感度な磁気センサであり,このセンサの出現 によって本格的な生体磁場計測が行われるようになっ た.日本では 1980 年代から心磁計測が始められ117),そ の後も研究報告がなされている118,119).1990 年半ばから 日立製作所が開発した 64 チャンネル装置の MC-6400 型 心臓磁気計測システムが医療機器として世界に先駆け薬 事承認を取得し,2003 年 3 月より発売が開始された. 磁場計測と電位計測は,その測定対象が心臓の電気生 理学的活動であるという点で共通であり,心磁計で検出 される心磁波形も心電波形と同様に,P,QRS,ST-T な どをみることができる.しかし,心電図は心臓から生じ た電流(primary current)が生体内を流れて(volume current)体表面の 2 点間に生じさせた電位差を測定して いるため,伝導率が異なる各組織により心臓電位が大き く歪んで記録され,位置分解能が低く電流源の推定は困 難であるのに対し,心磁図は volume current による影響

等時線図

今後の課題

4

4

はじめに

1

1

III-2

心 磁 図

心磁図の特質と技術的側面

2

2

特 質

(15)

が少なく,主に primary current に起因する磁場を測定, かつ磁場の組織透磁率がほぼ一定であるため心磁情報に ゆがみがほとんど発生しないという利点を有する.すな わち心磁図は心臓の電流が作る磁場を直接計測するもの であり,センサ直下の心筋電流を反映する情報を取り出 すことができ,電流源の推定が容易である.さらに心磁 図は体表面電極を必要としないため信号の直流成分のフ ィルタ除去が不要で,ST 部分の絶対値としての偏位評 価が可能である.体表面電極が不要であることは検査の 簡便性を向上させるとともに雑音混入の機会を減少さ せ,この点においても微小電位由来の心磁情報の計測を 可能としている.以上のごとく,心磁図は心電図に比し 理論的に ST-T 部分をはじめとする微小な電位変化に感 度が高い. SQUID は極低温(液体ヘリウム温度)で生ずる超伝 導現象を利用し微弱な磁場を計測するもので,システム として冷却システムと外部磁気除去技術が重要である. SQUID の磁場感度は現在 10−14T 付近にあり,地磁気 (10−5T),心磁(10−11T),胎児心磁(10−12T),脳磁 (10−13T)に比し十分低値である.SQUID チャンネル数 も従来少数チャンネルで計測面をずらしながら分割計測 していたが,心臓全体を一度に計測できるマルチチャン ネル化が急速に進んでいる.マルチチャンネル化により センサ間の空間的位置精度や再現性の問題が解決され, 心磁図は完全に無侵襲な上に着衣のまま非接触計測可能 な検査となった.磁気雑音除去も磁気シールドの簡易化 や微分型の磁気検出コイルによる外部磁場除去等により 装置の小型化が進んでいる.1 回の計測は着衣のまま数 10 秒から 10 分以内で終了するので,マススクリーニン グおよび臨床経過追跡にも適している. 日立ハイテクノロジーズ製 MC-6400 において SQUID 磁気センサは,デュワーと呼ばれる断熱低温容器のなか に液体ヘリウムとともに格納されている.SQUID は 175 mm×175 mm の正方形の範囲に 8 行 8 列の等間隔で 64 本配列されており,一度の計測で心臓全体の磁場計 測を可能にしている.デュワーは真空層構造をもった高 断熱容器で,内層は液体ヘリウムにより約 4K(−269℃) 以下に冷却されているが,外層および装置表面は室温で ある.デュワーは支柱(ガントリー)に支えられており, デュワー,ガントリー,ベッドなどは非磁性材で作られ ている.被験者はベッドに横たわり,デュワー底面を胸 部に近づけて計測をうける.測定装置は外部環境ノイズ の影響を除くため磁気シールドルームのなかに設置され る.SQUID によって検出された心臓磁場信号は,計測 制御回路部に伝えられる.計測制御回路部は,信号を増 幅するアンプ回路や電源ノイズ,電磁ノイズを除去する フィルタ回路などを有し,心磁データは PC(データ処 理部)によりさまざまな解析が行われる. 心磁図の解析法と虚血性心疾患の診断について概説す る. 磁界強度を心電図と同様に波形として表示するもので ある.心電図は皮膚と電極との接触抵抗の影響を防ぐた め,2 秒程度の時定数をもつ増幅器を用いて直流成分を 除き記録の安定化を図っており,ST 部分などの偏位が 真の偏位かあるいは基線の偏位による相対的な変化かの 鑑別が不能であるが,心磁図は直流成分の評価が可能で ある.Cohen ら120)は犬の冠動脈を結紮した際の ST 偏位 が,基線の偏位によりもたらされることを心磁図により 示した.また運動負荷時の ST 下降は基線の上昇(約 70 %)と真の ST 下降(約 30 %)の両者からなることが示 された121).また,早期再分極症候群および脚ブロック例 の ST 偏位は真の ST 偏位のみによることが示されてい る122).また,64 チャンネルの時間波形を表示したもの (グリッドマップ表示)および複数チャンネルの時間波 形を同一時間軸に重ね合わせて表示するものなどの解析 法がある.

心磁図を加算平均し late ventricular field など微弱な信 号を検出する.Weismuller123)は,心室頻拍症例の late ventricular field を検出し心筋内の緩徐伝導の部位を推 定,それが梗塞巣と正常心筋との境界部位にあることを 示した. 各時相の等磁界を結んだもので,右ねじの法則を用い れば起電力の推定が容易である.心磁図では複数の起電 力を推定しやすく,心電図では診断困難な梗塞ベクトル, 心筋虚血に起因する再分極異常を検出可能と考えられ る124,125)

SQUID

MC-

6400

慢性虚血性心疾患の診断に

おける心磁図の意義

3

3

時間波形図

心磁図の加算平均

磁界(分布)図(isomagnetic map)

表 19 冠動脈造影の適応 ACC/AHA/ACP-ASIM Chronic Stable Angina Guidelines ClassⅠ: 1) 心臓突然死(心停止,重症不整脈など)から蘇生された狭心症患者または狭心症が疑われる患者 ClassⅡa: 1) 非侵襲的検査にて診断が確定しない患者で,冠動脈造影による冠動脈疾患の診断の確定が検査に伴うリスクおよびコスト を勝る場合. 2) 非侵襲的検査を施行できない患者(例えば慢性閉塞性肺疾患など) 3) 職業の特性により冠動脈疾患の診断が必要な場合(パイロ

参照

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