動脈造影の有意狭窄検出の比較に関する報告440,441)では,
MSCT の無病正診率(陰性的中度)は97% と非常に高
く,CT による血管造影で正常と診断されれば冠動脈造 影でも有意狭窄は無いといえる.逆にCT 血管造影で異 常が見つかっても冠動脈造影上で有意狭窄は無い偽陽性 を経験することが多い.その原因として,1)冠動脈の 石灰化病変と造影された内腔の区別がつかないこと,冠 動 脈 石 灰 化 が あ る 部 位 は 前 述 の よ う に outward remodeling で内腔は維持されていることも多い.2)不 整脈や撮影中の心拍数の変動により画像の Z 方向(体 軸方向)連続性が途切れて狭窄にみえる技術的な原因.
これは16列まで多列化したことと画像再構成方法の改 善により大幅に改善している.3)現在のCT は従来の 軸位横断面のほかに,冠状面,矢状面,血管の長軸,短 軸等任意の断面で評価できる.しかし実際には軸位横断 面で観察することが多いが,冠動脈造影では観察不可能 な角度であるため,偏心性病変について冠動脈造影と異 なる所見の原因となるかもしれない.4)3 次元画像で 評価する際には表示設定によって正常冠動脈内腔でも狭 窄に見えることがある,などが挙げられる.EBT を用 いて定量的冠動脈造影所見との血管径の絶対値を比較し た論文もあるが3mm442)もしくは1.5mm ビーム幅443)を 用いた研究であるため臨床的には受け入れられるレベル ではない.スライス厚1mm 以下の最新式 MSCT での 評価が待たれる.
3)CT による冠動脈非石灰化プラークの検出
急性冠症候群は脂質に富んだ冠動脈の非石灰化プラー クを覆う線維性被膜がストレス等で破裂,中身が血管内 腔へ漏出することで血小板等の凝集が起こり血栓閉塞を 起こすことで生じるとされる431).急性冠症候群の発症直 前の冠動脈造影所見は50% 以下であることが多く,非 石灰化プラークが存在している場合outward remodeling が生じて内腔が維持されているほうが破裂のリスクが高 いとされている432,433).したがって冠動脈評価における MSCT は,冠動脈造影にかわる内腔評価の検査法ではな く,血管内超音波法の役割を非侵襲的に行う検査法とし てむしろ内腔が維持された非石灰化プラークを検出する ことにより急性冠症候群に対する新たな診断,治療戦略 を決定することが期待される.冠動脈造影の冠動脈内腔 評価における精度の検討では,カテーテルが行われた有 症状の患者で冠動脈造影上正常とされた884の部位に血 管内超音波法を行い,血管内超音波法で正常だったのは わずか 60部位(6.8 %)であったと報告している444). MSCT を用いた非石灰プラークの検出について,血管内
超音波法により観察されたソフトプラークと対応させた ところ非石灰化プラークの平均CT 値は純粋な脂肪成分 より高いと報告されている445).16列1mm 未満のスラ イス厚で検出された非石灰化プラークと血管内超音波法 所見との比較検討もなされている446).
4)CT による冠動脈ステント内開存度の評価
金属性ステントはアーチファクトを生じるため,初期
のEBT を用いた検討ではステントの局在を示すのみで
あったが,MSCT を用いた検討では1mm 未満のスライ ス厚で撮影することによりステント及びステント内の血 管の開存度も評価できる報告が続いている447−450).今後 は再狭窄率の低い薬剤溶出性ステントが主流となると思
われるが451,452),材質,金属製部分の厚みが開存度評価
に影響を与えるため,新ステントの登場で再度CT によ るステント内開存度の評価を行う必要がある.
5)CT による冠動脈バイパスグラフトの評価
冠動脈自体よりも動きの少ないバイパスグラフトは冠 動脈より評価は容易であり,吻合部以降の開存度の評価 も可能である453−456).静脈グラフトは血管径が太く上行 大動脈近位部より出て撮影範囲も短いため撮影は容易で ある.しかし低圧系である静脈グラフトは閉塞率も高い ため現在動脈グラフトに置き換わりつつある.動脈グラ フトには内胸動脈,橈骨動脈,胃大網動脈が用いられる ことが多く,その特徴は静脈グラフトと異なり血管径が 細いこと,撮像範囲が広くなることが挙げられる.4列 MSCT を用いた検討では,さまざまな動脈,静脈グラフ トの開存度が評価455,456)されている.現在は16列MSCT が主流であり,撮像速度,撮像範囲が改善し,さらに良 好な報告が期待できる.
6)CT による冠動脈壁の評価
2001年に心臓移植後の冠動脈壁の3次元画像が報告さ
れたが457),現在のCT の空間分解能では冠動脈壁の描出
は困難である.空間分解能は劣るが組織分解能に勝る磁 気共鳴画像法のほうが有望であると考える.
7)CT による冠動脈 outward remodeling の評価
冠動脈造影と異なりCT は血管壁も評価できるため,
血管内腔に加えて血管外径の測定も可能であり,石灰化 プラークがあった部位の血管外径が近位部の正常部位よ り大きくなっているoutward remodeling の画像化も可能 であると報告されている458).
8)陳旧性心筋梗塞の梗塞心筋や心内血栓の検出
心電図同期撮影により明瞭な左室心筋の画像を得るこ とができる.梗塞心筋は微小循環が欠如しているための 早期造影不良,壁厚の菲薄化459),そして線維化組織への 晩期異常集積と定義される.また左室内血栓も明瞭に観 察できる460).
1)CT 検査による冠動脈石灰化の定量評価
時間分解能に優れるEBT による石灰化スコアがゴー ルドスタンダードといわれている.時間分解能がEBT より劣るが,普及が著しい MSCT による石灰化プラー クの検出能はIVUS と比較した場合,感度94%,特異 度94% となっている446).またEBT とMSCT の石灰化 スコアを比較した報告では両者は良好な相関があり,特 に小さなプラークのスコアの再現性は MSCT が優れて いるとされている461).またEBT の冠動脈石灰化スコア
はMSCT より高い傾向にあり,石灰化スコアが11以上
では EBT,MSCT 両者の冠動脈疾患への危険予測の評
価は同等であるとの報告もある462).
2)CT による冠動脈内腔狭窄の評価
冠 動 脈 内 腔 の 有 意 狭 窄 を 評 価 す る 目 的 に お い て ,
MSCT による血管造影法は冠動脈造影を比較対照とす
ると,感度92−95%,特異度86−93% と報告されてい る440,441).
3)CT による冠動脈非石灰化プラークの評価
16列 1mm 未満のスライス厚で撮影されたMSCT の 報告では,非石灰化プラークの検出を血管内超音波法と 比較すると感度78%,特異度87% であり,石灰化の全 くない非石灰化のみのプラークの検出感度はわずか 53
% であったが,近位部に限ると感度91%,特異度89%
とMSCT による非石灰化プラークの検出能は良好であ
った446).
4)CT による冠動脈ステント内開存度の評価
16列MSCT を用いた冠動脈ステント内開存度の評価
の報告450)はあるが,ステントの材質,金属製部分の厚 みが開存度評価に影響を与えるため,今後主流となる薬 剤溶出性ステントを用いた評価の報告が望まれる.
5)CT による冠動脈バイパスグラフトの評価
4列MSCT を用いた検討では,さまざまな動脈,静脈
グラフトの開存度が評価455,456)され,評価する心位相を 工夫することで94−95% の精度が得られている.現在
は16列MSCT が主流であり,撮像速度,撮像範囲が改
善し容易に撮影が可能であり,さらに良好な報告が期待 できる.
6)陳旧性心筋梗塞の梗塞心筋の検出
左室カテーテル所見との比較により,MSCT を用いた 梗塞心筋の検出は感度85%,特異度91% と報告されて いる459).
前述したように,冠動脈非石灰化プラークの検出にお
いてMSCT やEBT は臨床上有用と考えられるが,エビ
デンスとして認められるには,内腔が維持された非石灰 化プラークを有する患者群が対照群に比し,急性冠症候 群を高率に発生することを確認する臨床研究が必要と考 えられる.しかし現時点では多くの施設でCT において 非石灰化プラークが確認されれば,冠危険因子の補正,
スタチンの投与,抗血小板薬の投与を行っていると思わ れる.胸痛があった症例で MSCT 上非石灰化プラーク があり血管内超音波法を施行し,内腔は維持されていた がソフトプラークが検出されたためステント埋込み治療 を行った報告があったが463),このように内腔が維持され た非石灰化プラークを発見された段階で再狭窄率の少な い薬剤溶出性ステントを積極的に埋め込む時代が近い将 来に訪れるかもしれない.
MSCT,EBT による血管造影がカテーテルを用いた冠
動脈造影に置き換わるかどうかに関しては,前述のよう に動きの激しい冠動脈そのものよりバイパスグラフトの 評価が容易なため,バイパスグラフトの開存評価が先行 すると考える.バイパス術後評価においては,内胸動脈 グラフトが主流のため撮像範囲の広い32−64列MSCT
がEBT より主役になると思われる.冠動脈については
解決すべき点があるが,スキャナーや再構成法の進歩,
β遮断薬等の薬剤により適切な心拍数にコントロールす ることでより石灰化病変や金属性ステント内部の評価の 精度が高まると考える.
立体CT が市場に登場しているが,プロトタイプ立体
CT428−430)を使用した経験から感想を述べる.これは一回
転で心臓を撮像することができ,まったく同じ時間の容