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非侵襲的冠動脈評価B

十分なこと,近位部のみの評価に限られること,冠動脈 ステント内腔の評価が困難なことなど多くの課題があ る.ただしハードウェアやパルスシーケンスの改良が重 ねられており,冠動脈造影に代わる非侵襲的検査法とし ての役割を担うことが予想される.虚血性心疾患患者を 対象とした冠動脈MRA における冠動脈閉塞・狭窄検出 率には,以前よりさまざまな報告があり,40−90% と かなりのばらつきがある474−476,480−484).これには,各々撮 像装置や撮像方法,あるいは対象とする冠動脈のセグメ ントが異なることなどが関与していると推測される.最 近,同一機種と同一撮像法(呼吸同期を併用した3次元 高速グラディエントエコー法)を用いた欧米での多施設 共同研究が行われ,109例での結果が報告されている が488),50% 以上狭窄の有無について冠動脈造影と比較 した結果,全体の正確度が72% であった.このうち左 主幹部と3枝病変に対する結果は特に良好であり,臨床 応用が可能との結論が得られている.本邦からの最近の 報告477)では,呼吸同期併用3次元高速グラディエント エコー法を用いた検討で,50% 以上狭窄に対する診断 能は,感度80%,特異度85%,正確度84% であった.

また定常状態系列とパラレルイメージングを併用した呼 吸停止下3次元法では,50% 以上狭窄に対し感度75%,

特異度86%,正確度83% との成績が得られている478). 負荷心筋灌流MRI による冠動脈狭窄度を,冠動脈造 影を基準に評価した検討によると,MRI は優れた冠動 脈病変診断感度(89.6%)と特異度(85.2%)を示す469). 負荷心筋灌流MRI による冠動脈狭窄病変診断能は負荷

心筋SPECT より有意に高く,負荷心筋血流PET とほぼ

同等である470ことから,冠動脈 MRA を組み込むこと で,虚血性心疾患に必要な情報を一回の検査で得ること も可能となり,診断精度がさらに高まると期待される.

2)心エコー図法の利用

冠動脈病変を評価する上で心エコー図法を利用するに は,負荷心エコー図法,冠動脈血流エコーイメージング,

心筋コントラストエコー法がある.負荷心エコー図法に は薬剤負荷(ドブタミン,ジピリダモール,アデノシン,

ニトログリセリン)と運動負荷がある.薬剤負荷心エコ ー図法ではドブタミンがよく用いられる.

a)ドブタミン負荷心エコー図法

ドブタミンを5μg/kg/分から始めて点滴静注し,3−5 分ごとに 10,20,30,40μg/kg/分と段階的に増量し,

負荷前,低用量(10μg/kg/分まで),最高用量,負荷 終了後の心エコー図を多断面で記録し,これを分画表示

により負荷前の心エコー図と同時表示することにより壁 運動の変化を判定するものである.負荷終点は年齢に応 じた目標心拍数への到達と胸痛や不整脈の出現である.

ドブタミンを最高用量まで負荷しても目標心拍数に達し ない時は0.25mg のアトロピンを1分ごとに最高 1mg までボーラス静脈注入で追加する方法もある.一般に安 静時の壁運動と比較して最大負荷時に壁運動が低下した 場合を虚血陽性とする.冠動脈の有意狭窄の診断能は感 度72−89%,特異度 77−95% である618619.また,本 法と運動負荷心筋血流イメージングを比較した報告で は,負荷心エコー図法が感度76%,特異度81% と,心 筋血流イメージングの感度85%,特異度71% に比べ特 異度の高いことが特徴である620.ドブタミン負荷心エコ ー図法はコストが低く,病室で検査が可能,放射線被曝 がないことが利点であるが,検者の技術的訓練が必要,

体格等により画像が不良な例があることが欠点である.

検査の禁忌としては急性心筋梗塞(≦4−10 日),不安 定狭心症,左主幹部病変のある例,明らかな心不全,重 症の頻拍性不整脈,重症弁狭窄,肥大型閉塞性心筋症,

急性心膜・心筋炎,心内膜炎,大動脈解離,急性肺塞栓 症である.

b)運動負荷心エコー図法

運動負荷法としてエルゴメータを使用するには,負荷 中と負荷後の心エコー図を記録する.トレッドミルを使 用する場合には,運動終了後ただちに患者を左側臥位と し,心エコー図を記録する.記録された心エコー図は比 較し易いように,心時相を一致させ,負荷前,負荷中,

負荷後を同一画面中に並列表示し,局所的な壁運動の低 下を検出する.運動負荷心エコー図法の診断能は感度 71−97%,特異度64−100% である621,622).本法と運動負 荷血流イメージングを比較した報告では,運動負荷心エ コー図法の場合感度80%,特異度91% で,運動負荷血流 イメージングの場合感度84%,特異度83% となり,運 動負荷心エコー図法は特異度が高かった620).なお,本法 の適応,合併症,禁忌は通常の運動負荷心電図に準ずる.

c)冠動脈血流カラーおよびパルスドプラ法

カラードプラ法およびパルスドプラ法による冠動脈血 流測定は経胸壁的にも経食道的にも行われる.経胸壁法 による初期の研究では測定部位は左前下行枝近位部に限 られ,その描出率も65% と低かったが623),装置の進歩 により最近では描出率や描出範囲も向上している624).冠 動脈狭窄例では,正常にみられる流速の拡張期優位性は 失われ,心周期全体を通じて低速血流が持続する特有な

波形をとる.

アデノシン負荷による冠血流予備能の測定では,冠動 脈の狭窄度が 50 % 程度の軽度例の診断にも有用であ る.また冠動脈病変の検出のみならず心筋微小循環障害 の診断にも有用である.経食道エコー法を使用すると左 冠動脈主幹部から左前下行枝近位部,時に回旋枝や右冠 動脈近位部の血流を描出でき,経胸壁法と同様に冠動脈 病変の検出に役立つ.

d)心筋コントラストエコー法

経静脈性心筋コントラストエコー法は経静脈性超音波 造影剤ならびにハーモニックイメージを基礎とした様々 なイメージング法を使用することにより,経胸壁から心 筋微小循環を評価し様々な病態診断を目的にした方法で ある.虚血の評価には,薬剤負荷または運動負荷を必要 とするもののシンチグラムとほぼ同等の虚血評価ができ ると報告されている421422.運動負荷心エコー図法の施 行時には心筋コントラストエコー法を併用することで発 生する壁運動異常の評価と心筋灌流の低下を同時に観察 することが可能であり,より確実に虚血部位の診断が可 能であるとする報告もある423.さらには虚血によって生 じる心内膜下の心筋灌流異常の評価が可能であるとする 報告もされている424)

3)X 線 CT

a)電子ビーム CT

超高速スキャン(50−100 msec)の電子ビーム CT

(EBT)による冠動脈石灰化の定量化に関する研究は多 い.総石灰化指数の高い症例の冠動脈有意狭窄の検出率 は高いが426),限局した粥腫内の石灰化と内腔の狭窄の関 係は不明確である.剖検による部位ごとの比較では,石 灰化の量と粥腫の面積に相関はあるが625),血管リモデリ ングの影響で石灰化の量と内腔面積は相関しないとされ る436).老年者では虚血の原因となる冠動脈病変に関連が

少ないMonckeberg 型中膜石灰化が共存することもある

ので,両者の形態的鑑別診断が望まれる626)

EBT を用いた冠動脈狭窄度の評価は,CT 値の設定に

より過大評価や過小評価が生じる.3次元技術の一つで あるvolume rendering 法は各CT 値の不透明度をカラー 表示する技術である.EBT との併用により,造影剤の 血管内腔イメージとは異なる動脈壁,粥状硬化の石灰化,

脂質コア,線維性被膜などの3次元画像表示ができる.

不安定プラークの非侵襲的な定性的検出に役立つと考え

られる627,628)

b)マルチスライス CT

マルチスライス CT(MSCT)により冠動脈内腔狭窄 評価,冠動脈ステント内開存度の評価,冠動脈バイパス グラフトおよび吻合部以降の開存度評価が可能となった だけでなく,冠動脈非石灰化プラークの検出や冠動脈 outward remodeling の評価など冠動脈病変の評価も可能 になった.しかし,放射線被爆のため病変の評価として のスクリーニング検査には問題がある.また心房細動な どの不整脈がある場合,石灰化の高度な病変の評価には 用いることができないなどの限界はあるものの,今後は 冠動脈造影に代わりうる可能性がある.冠動脈内腔の有 意狭窄を評価する目的において,MSCT による血管造影 法は冠動脈造影を比較対照とすると,感度92−95%,特 異度86−93% と報告されている440,441).16列MSCT を 用いた冠動脈ステント内開存度の評価の報告450)はある が,正確な評価はできない.4列MSCT を用いた検討で は,さまざまな動脈,静脈グラフトの開存度が評価455456 され,評価する心位相を工夫することで 94−95% の精 度が得られている.現在は16列MSCT が主流であり,

撮像速度,撮像範囲が改善し容易に撮影が可能であり,

無病正診率(陰性的中度)は95% 以上であるとの報告 もされている.冠動脈非石灰化プラークについては,16 列1mm 未満のスライス厚で撮影されたMSCT の報告 では,非石灰化プラークの検出を血管内超音波法と比較 すると感度78%,特異度87% であり,石灰化の全くな い非石灰化のみのプラークの検出感度はわずか53% で あったが,近位部に限ると感度 91%,特異度89% と

MSCT による非石灰化プラークの検出能は良好であっ

446.また,冠動脈造影と異なりCT は血管壁も評価で きるため,血管内腔に加えて血管外径の測定も可能であ り,石灰化プラークがあった部位の血管外径が近位部の 正常部位より大きくなっている outward remodeling の画 像化も可能である458.またoutward remodeling だけでな くnegative remodeling に関しても,血管内超音波法の remodeling index との高い相関がある629).画像の関心領

域のCT 値をカラーマップで色分けしてプラークの性状

診断を行うプラークマップという方法で同定された冠動 脈インターベンション後の急性冠症候群患者のソフトプ ラーク,インターメディエイトプラーク,石灰化プラー クの血管内超音波法に対する感度がそれぞれ 92%,87

%,89% であり,ソフトプラークの血管内視鏡検査の 黄色プラークに対する感度が80%,87% であったと報 告されている630).急性冠症候群におけるソフトプラーク の臨床例についての報告もあり631),MSCT の臨床例での 適応拡大が期待される.

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