難治性腹水に対してCART治療中に
肝性脳症を来した維持透析患者の1例
第53回 奄美ブロック研修医勉強会
2015/11/21(Sat)
沖永良部徳洲会病院 地域医療研修
千葉西総合病院 2年次初期研修医 田村 健
【はじめに】
• 沖永良部徳州会病院は千葉西総合病院の
地域医療研修(2ヶ月)として研修医2年目を
受け入れている
• 今回、3人目の担当医として受け持つことと
なった症例の報告を行う
• 今まで肝硬変患者、透析患者単独症例は
経験したことはあったが、ともに罹患した
症例は初めてであったため報告症例として
選択した
• また当該患者は現在も入院加療中である
症例:74歳女性
【主訴】
腎機能悪化のため近医より紹介受診
【現病歴】
(当院初診時 2015/6/6)
もともと腎機能障害で沖永良部島内 近医でフォローされてい
た。その後、患者希望から神奈川県の総合病院へ紹介受診と
なった。
入院精査で腎萎縮を認め、高血圧腎症、あるいは慢性糸球体
腎炎によるものが疑われた。しかし腎生検は施行せず、確定
には至らなかった。また、嘔気嘔吐症状の精査目的で上部消
化管内視検査が施行され、食道静脈瘤を認め特発性門脈圧
亢進症が疑われた。腎機能低下のため造影含めた精査は行
わず、定期的な内視鏡フォローの方針となっていた。入院中、
尿毒症症状もみられるも透析に拒否強く、どうにか保存的に
経過をみることができ退院となった。
帰島後、再度前医フォローとなっていたが、腎機能増悪を認め
当院紹介受診となった。
【既往歴】
#1
慢性腎臓病 G5A3;20代から蛋白尿指摘あり
#2
特発性門脈圧亢進症疑い
#3
食道静脈瘤、
#4
高血圧症、
#5
腎性貧血
#6
高尿酸血症、
#7
尿毒症
※妊娠・出産時特に異常なし、手術歴なし
【内服薬】
ロカルトロールカプセル、イルベサルタン
フェブリク、ランソプラゾール、炭酸水素ナトリウム
ホスレノール、クレメジン
【アレルギー】
特記事項なし
【家族歴】
特記事項なし
【社会歴】
夫婦でコンビニ経営、喫煙・飲酒なし
【入院時現症】
身長
147cm、
体重
37kg、BMI 21.7、
意識
:JCS-1
バイタルサイン
:カルテ記載なし
【身体所見】
全身倦怠感・食思不振などの尿毒症症状あり
ほか、カルテ記載なし
【初診時 各種検査所見】
[採血結果]
[心電図] 明らかな異常所見はなし
[心臓超音波検査] EF 72%, AR/TR I°
【画像検査】
心陰影の軽度拡大あるが
明らかな異常所見なし
[初診時胸部X線] [前医での単純腹部CT]※初診から約2ヶ月前肝臓辺縁鈍、腹水貯留、門脈拡張
両側腎臓萎縮・嚢胞形成
【Problem List】
#1 CKD G5A3
#2 肝不全;特発性門脈圧亢進症疑い
#3 食道静脈瘤
#4 腎性貧血
【治療】
腹水貯留・食道静脈瘤があることより腹膜透析は
見合わせ、腎移植は全身状態・年齢を考え困難と
判断。まず血液透析を行う方針となった。
【臨床経過】
06/14 左前腕内シャント造設術施行 その後、シャント閉塞・造設術繰り返し 06/26 初回血液透析(HD)施行 --- 08/04 腹水初穿刺;腹水3,100ml その後、シャント閉塞・造設術繰り返し 腹水濾過濃縮再静注法(CART)①施行;腹水3,000ml→200ml濃縮 08/21 シャント内血栓除去+再建術施行 08/26 CART②施行;腹水3,000ml→150ml (TP 12.3g/dl, Alb 5.1g/dl) 09/02 CART③施行;腹水5,000ml (TP 1.2g/dl, Alb 0.4g/dl) うち3,000ml→100ml (TP 6.8g/dl, Alb 2.8g/dl) --- 10/03 CART⑦施行 10/05 肝性脳症III度発症 10/08 肝性脳症I度へ改善 10/19 週2回であったHDを3回へ変更 11/02-07 アルブミン投与HD① ② ③ ※25%アルブミン 100ml(Alb 25g)【肝機能評価】
• 肝硬変重症度 Child分類 C
(現在 脳症1, 腹水3, Bil 1, Alb 3, PT 1; grade B)
• 肝硬変の原因は特発性門脈圧亢進症?
– 約70%がHCV感染
– 約20%がHBV感染
– アルコールが5%~10%
– その他;胆汁うっ滞(原発性胆汁性肝硬変、
原発性硬化性胆管炎、胆道閉鎖症)、
自己免疫性肝炎、ヘモクロマトーシス、Wilson病
、肝静脈・下大静脈閉塞によるBudd-Chiari症候群
などがある
1)【凝固能チェック】
• 凝固能検査 2015/10/14
– クリオグロブリン
陰性
– プロテインC活性
異常なし
– プロテインS活性
異常なし
– 抗カルジオリピン抗体
陰性
– von Willebrand Factor >200%
高値
• vWF異常高値はシャント閉塞や狭窄をきたす
要因に関連するものの一つである
2)
【治療方針】
• シャント閉塞なく、安定した透析を行いながら
肝不全をコントロール
• 具体的には、黄疸・腹水・肝性脳症・出血傾向
など多彩な臨床症状を生ずる状態である肝不
全患者に、前述した症状でQOLを落とさないこと
を目標とする
• 現在ある問題点「腹水貯留」
【腹水の治療
3)
】
1. 安静臥床・Na(水)の制限
•
塩分は1日5g前後に制限
•
低Na血症では水分は1日1,000ml以下に制限
2. 薬物療法
•
スピロノラクトン50~150mgの投与
•
フロセミド 20~80mgの併用
3. アルブミン製剤投与
•
低アルブミン血症が高度時(2.5g/dl以下)に
20~25%アルブミン 100ml/日div、3日間
以上のような治療を行っても
改善しない腹水を「難治性腹水」という
【難治性腹水の治療】
4. 腹水穿刺排液
•
大量腹水穿刺排液(~5L)+Alb製剤投与(50~100ml)
(利尿剤の減量または中止)
•
腹部膨満や呼吸困難の改善を目的とする時は、
1日1,000mlを限度に排液を行う
5. 腹水濃縮再静注法
Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy(CART)
6. 腹腔鎖骨下静脈シャント術
(Le Veen shunt,Denver shunt)
7. 経頸静脈肝内門脈大循環短絡術
Transjugular intrahepatic portosystemic shunt(TIPS)【CARTについて】
• 1977年に旭メディカルから現在の形の
CARTシステムが発売、1981年に保険認可
• 禁忌は高度の黄疸(T-Bil>5mg/dl)
• 肝硬変診療ガイドライン;2010年
レベルII grade B
• 関志らの報告
4)によると、2009年4月から2014年9月
までに難治性肝性腹水に対しCARTを導入した
肝硬変29例において進行HCC非合併例、Child−Pugh
score 10以下の症例において予後延長が期待される
と示唆されている
• 肝性脳症合併例でもCARTは禁忌ではないが、腹水
に含まれるアンモニア等が再静注されることにより、
肝性脳症に悪影響を及ぼす危険性がある
5)① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ①