実験家兎「クロム酸カリ」腎炎に対する コンドロイチン硫酸製剤の効果について
金沢大学医学部第二病理学教室(主任 石川大刀雄教授)
川 野 武 彦 赤 水 亮 介
日本ブラッドバンク研究部(部長 渡辺良三)
永 井 純 次 小 浜 行 雄
(昭和36年12月15日受付)
コンドイチン硫酸は従来より慢性腎炎,ネフローゼ に対して用されているが1)2),筆者等も先にコンドロ イチン硫酸を主体として,それにアルギニンおよ一びコーー バク酸を配合した製剤を実験家兎クロム酸カリ腎炎に 使用して,その効果を検討した予備実験の結果を報告 している3).本報では更に多数の家兎を使用し,コン ドロイチン硫酸,アルギニン,コハク酸各単独および 組合せの効果を検討し,対照として取りあげたオロチ
ン酸クロロキンの効果との比較を行った結果を報告す
る.
実験方法と実験材料 1.実験動物
あらかじめ固鎚飼料をもつて飼育し,1週聞の観察 期間中に体重滅罪を認めない体重約2.5kgの家兎を
用いた.
2.実験的ネフローゼの催起方法
黒川4)の方法により,クロム酸カリ(試薬特級)を 滅菌生理食塩水に溶かし500mg/dlとし,20mg/kg または15mg/kgずつを皮下注射した.
3.試料投与法
クロム酸カリ投与の日を第1日とし,その第3日よ り第16日までの14日閥, 1日1回の試料投与を行っ
た.
A.コンドロイチン硫酸・アルギニン・コハク酸ナ トリウム混合投与.
コンドロイチン硫酸・アルギニン・コハク酸配合製
剤(ネフラージン・日本ブラッドバンク製)を0・4m
/kg耳静脈に注射した.これは組成別にみると,コン ドロイチン硫酸2.4mg/kg・L一アルギニン (モノ塩 酸)1.2mg/kg・コハク酸ナトリウム3・Omg/kgに当
る.以下この家兎群を「CAS」群と称する.
B.コンドロイチン硫酸・アルギニン混合投与 上述群の試料中コハク酸ナトリウムを除いた液を 0.4ml/kg耳静脈注射した.コンドロイチン硫酸2・4 mg/kg. L一アルギニン(モノ塩酸)1・2mg/kgにな る,以下この家兎群を「CA」群と称する.なお後記 の「C」群・「A」群の試料と共に「CA」群の試料は ソルビトール(試薬特級,和光純薬)を5%加えるこ とによって等張化してある.
C.コンドロイチン硫酸投与
コンドロイチン硫酸単独溶液0.4m1/kg耳静脈注 射した.コンドロイチン硫酸2.4mg/kg.以下この家 兎の1群を「C」群と称する.
D.アルギニン投与
アルギニン単独溶液0.4m1/kg. L一アルギニン(モ ノ塩酸)1。2mg/kg.以下この家兎の1群を「A」群
と称する.
E.オロチン酸クロロキン投与
オロチン酸クロロキンを6.Omg/kg経口投与した.
以下この家兎の1群を「0」群と称す.以上のA,B,
C,D, Eに対し,非治療家兎の1群を対照とした.対 照群のうちクロム酸カリ投与15mg/kgの家兎に対し ては5%ソルビトール液を0.4mg/kg耳静脈注射し On the畷ects of the Mixture of Chondroitin Sulfuric Acid, Arginine and Sodium Succinate upon the Rabbits Bearing Experimental Nephrosis Induced with Potassium Cbromate. Takehiko Kawano&Ryosuke Akamizu, Department of Pathology(Director:Prof. T. Ishikawa),
School of Medicine, University of Kanazawa. Junji INagai&Yukio:Kohama, Instituteρf the Blood Plasma Corporation of Japan(Director l R. Watanabe).
た.
4.検査方法
1)生存率:クロム酸カリ投与の日を第1日とし,
17日目まで生存した家兎数を調べた.
2)体重:毎日一定時に体重を測定した.
3)血清蛋白量:蛋白屈折計(日立)使用.
4)A/G比・濾紙電気泳動による分画をBPB染色 後直接定量法5)によって測定.
5)血清コレステロールの定量・Kiliani反応によ
る6).
6)血清塩素の定量:Schales&Schales氏水銀内
法.による7).
7)血清残余窒素の定量:Rappaport氏法による8).
実 験 結 果 1.延命効果
17日の実験期間中,対照群の生存家兎は6.3%であ るのに対して,治療剤投与群は豆7%以上,特に「CAS」
投与群は50%の高率を示した.また(「C」・「A」)群 く「CAj群く「CAS」群の順で,成分増加とともに生 存率も上昇した(図1).なおクロム酸カリ投与量別に よる各物質投与効果は表1のようである(表1).
なお以下の諸検査では各群の生存日数の長いものか ら順に原則として5匹ずつ抽出し,検査結果を図示す ることとした.
2.体 重
対照群に進行的な体重減少の結果死亡する例の多い のに対して,「CAS」群は一時的な軽い体重低下の後 恢復が認められる.「0」群の生存家兎にもこの特徴 がある.「CA」群,「C」群,「A」群はほぼ「CAS」
群がら対照群への移行段階を示しているように思われ る.なお対照群の「△」印家兎は,各測一図において 対照六六独自の行動を示し,クロム酸カリに対し耐性 を有していたものと考えられる(図2).
3.血清蛋白量
対照群では減少→増加の型が著明なのに対して,他 の実験群では一般に著明な変化はない(図3).
4.A/G比
対照群では低下傾向が認められる.「CAS」群では変 動があるけれども恢復し,「0」群ではほとんど変動 がない(図4),
5.血清コレステロール量
対照群の増加は著明である.他の実験群も一般に変 動が認められるが,「CAS」群は一旦上昇後,16日目 にはほぼ完全な恢復がみられる(図5).
6.血清塩素量
対照群が軽度増加後,減少するのに対して,他の実 タ験群も初期にその傾向をみるものもあるが,後期には
%oo生惇率
図1 延命効果
ユる ユら ミ ヨ ロ
倉 ↑↑1冒↑↑↑↑↑↑↑↑↑
倉・・燃力㈱ 一r・A・・群 へじ ム 金試親投与 ・・一・一rC」群 一一一一下A」群 一・・一「0」群 一・一対 照 群
(表 1)
CAS群
CA群
C i群 A 群 0 群
対照群
試 料 mg!kg
コンドロイチン硫酸 2.4 L一アルギニン(モノ塩酸)1.2
『コハク酸ナトリウム 3.0 コンドロイチン硫酸 2.4 アルギニン(モノ塩酸) 1.2
コンドロイチン硫酸 2.4 レアルギニン(モノ塩酸)1.2
野羊チン酸クロロキン 6.0 酸与㎏ム投9ーロリmクカ量 0匠り∩4ーユ 0=り041﹂
OKU
∩41﹂OKU
O4ーユOEO
Ω41瓜 0儒UO41
使用家兎
(匹)
EりKUKりnOEOぼり因り4078
1
屡り1
1
生存家兎
(匹)
0召00−Φ召09召10召
01
生 存 率
儀畿訓総計
40.0 60.0 20.0 66.7 20,0 20,0 0 50.0 10.0 28.6
1 0QU
50.0
37.5
20.0
22.2
17.6
6.3
︑
95 k軌0
十 お。.
脚
0 ■り
一十 さ 0航 一 0 51 0 一十
0
5 0 乱し 一繍
「CAS」群
1357{∫1113
「CA」群
†
図2体重の増減
+鵡 rA」群
__@
__@ 0 _ 一一一一一一一一__一__
ゆ・5 ゼ
一1、0
6
15 17日
十〇、5・
o
−0.5
−1.0
十〇,5
0
−0,5
−1.0
1 3 5 7
「0」群
† 日
7 1
一
璽1
5
一3 1 1 1 i
「
1
†
\
1357911131517日
「C」群
欄一一@『 一 一 → 一 一 一
〇 †
†
†且 3 5
対照群
7 9 11 13 15 17日
†
†††
1357911互315玉7日 13
図3血清蛋白量
rCAS」群
% %
7 6 十 t 5
%765
†5 10 15日
rCA」群
579111含1517日
rA」群
†
%765
曜
5 10
5
†
互0 15日
「0」群
ヤ
%765
十一十115日
rC」群 %
み
PO 10 15日
対照群
5 置① 15日 5 五〇 15日
︑
恢復している(図6).
7.血清残余窒素量
対照群は増加傾向を示している.他の実験群も一般 に変動が大であるが,生存家兎は恢復を示している
図4 A/G比
AIG
1.0
0.5
・ 「CAS」群
(図7).
総 括
クロム酸カリ投与による実験家兎腎炎に対するコン ドロイチン硫酸・アルギニン・コハク酸混合製剤(ネ フラージン),オロチン酸クロロキンの投与は,生存 日数,体重,血清の蛋白:量,A/G比,コレステロー ル量,:塩素量,残余窒素量に関して無処置群と差異を 生ぜしめた.混合製剤投与による結果は,オロチン酸 図6 血清塩素量
「CAS」群mg/dl 400
G︒0〃−
0,5
AIG
1.0
1 3 6 9 12
0.5
16日
1 3 6
††
9
寸
12 16日
蚊照群
300
mg/d星
獅
1 3 6 9 12 16日
「0」群 1
鋤
1 3 6
†
1ngノω
伽
9 12 16日
対 照 群
300
1 3 6
4十暑
1 3
mg/dI 200 100
6
000 2
「CAsj群
9 12 16日
図 5 血清コレステロール量 「A 」群
蹴9/d1
200 100 015日
200
9
5
rCA」.群
i2 16目
100
0
10
100
5
「C 」群
10 015日
5
「0」群 † 10
†
200・
15日
100
0
200
100
5 ユ。
5 対 照 群 ††∠1
†
10 15815日 0
5 10 15日
鵬9/d1
75
5①
25
0
「CAS」群
図 7 血清残余窒素量
=ng/d墓 rCA」群
75
50
mg/dl
75
5①
25
0
5
「0」群
10 15日
0
mg/d直
75
50
5 10 15目
†
1寵9/d1
75
50
25層
0
5 対 照 群
十LI十1 †
10 玉5日
0
mg/d雇
75
50
25
0
5 10
10 15臼
15日
5 5 10 158
クロロキン或いはコンドロイチン硫酸・アルギニン,
コンドロイチン硫酸単独,アルギニン単独の各結果と 次のような点で差異を示した.
1.延命効果において他の試料の約2倍の生存率を
示した.
2.対照群の測定値のうち,特に明瞭に現われる一 方的な減少または増加を示す体重,血清コレステロー ル量,血清残余窒素量を十分に恢復せしめた.他の試 料は一般に一旦現われた減少または増加傾向を復帰さ せる力がより弱い.
3.その組成の一部を試料とする各実験群は3物質 混合群と対照群との中間的な特徴を示す.延命効果の 点で,3物質混合投与の効果はコンドロイチン硫酸,
アルギニン,コハク酸ナトリウムいずれの単独効果と も異なり,その総合効果であるらしい.
丈 献
1)米倉秀雄・石守金良:新薬と臨床,5,4(19・
56). 2)井村棲薯・岡 和雄・白井 沈:
新薬と臨床,6,11(1957). 3)赤水高介・
荒川 彌:内科宝函,8,10(1961). 4)
黒川 巖3 日本内科学会雑誌,10,363,507,
1921. 5)森 五彦・小林茂三郎3濾紙電 気泳動法の実際,118,南江堂,東京,1956.
6)Zak, B. Dickenman, Rl. C. White, E. G.
Burnett, H.&Cherney, P.」,3Am. J. Cli11.
Path.,24, ユ307 (1957). 7) Schales,0.
& Schales, S. S.: J. Bio1. Chem,140,879
(1941). 8)Rappaport, F.&Eichhorn,
F.3J. Lab. Clin. Med.32,1034(1947).
Abstract
Administration of chondroitin sulfuric acid, arginine and sodium succinate to the rabbits bearing experimental nephrosis induced with pDtassium chromate had good effects on the survival period, body weight, A/G ratio of serum protein and quantities of protein, chole−
sterol, chlorine and resトN in sefum. ・