• 検索結果がありません。

立法裁量論に関する一考察

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "立法裁量論に関する一考察"

Copied!
52
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)立法裁量論に関する一考察. 一. 立法裁量又は立法裁量論の類型化. 立法裁量と立法裁量論. はじめに. 二. 三 立法裁量論と立法の諸要素 おわりに. 四 立法裁量論と憲法訴訟における諸問題. はじめに. 木. 原. 正. 雄. 現代国家は︑国民生活のあらゆる場面において︑政治的︑経済的及び社会的状況に対応して︑複雑多様な目的と内. 容を実現するために︑様々な手段又は手法を用いて︑統治作用を行い︑国家が社会における種々の矛盾や弊害などを. 除去するために積極的な役割を担い︑個人の尊厳︑人間としてふさわしい生存の保障を図っている︵積極国家・福祉. 二一二. 国家化︶︒しかし︑このような福祉国家が登場したことにより︑行政権の肥大化と︑それに伴う議会の地位の相対的 立法裁量論に関する︸考察︵木原︶.

(2) ︵1︶. 早稲田法学会 誌 第 四 十 二 巻 ︵ 一 九 九 二 ︶. 低下が指摘され︑新たな問題も生じてきていることも忘れてはならない︒ ︵2︶. 一三二. 近代憲法の下では︑議会は︑政治的統治作用を行う国家機関として設置され︑行政は︑議会が制定した法律の忠実. な執行にあたるものとされていた︒そして近代国家における法律は︑議会における審議を通じて形成されて国民的合 ︵3︶. 意が体現されているから︑法律を語る際には︑そこには﹁なんらかの意味において公益を追求するもの︑相対立する. 私的諸利益に対して中立・公平な立場に立つもの﹂としての︑抽象的レベルでの公共性があることを先験的に前提と することが可能であり︑かつ︑このように論じるだけで十分であった︒. しかし︑近代国家においては︑主として︑議会が行っていた政策立案などの政治過程での統治作用について︑現代. では︑多くの専門技術的知識が必要となり︑立案された政策の迅速かつ能率的な実施が要請されるに至ったことで︑ ︵4︶. 法律の規範性が希薄化し︑法律の内容が概括的・多義的になるなど︑国民︑議会︑行政府の実質的関係に変化が生じ. ている︒また︑それゆえに︑ここでの法律の実質的性質も近代憲法の下でのそれとは異なっており︑法律が関係する ︵5︶. 権利・利益を実体的にも手続的にも全て十分に調整した上で制定されているか︑また︑憲法価値を具体的内容として. 実現するものとして﹁市民的生存権的公共性﹂を前提として論じられるものかなどについては︑検討すべき問題点を 多くはらんでいる︒. そこで︑本稿では︑法律は﹁市民的生存権的公共性﹂を前提に論じられる条件は何か︑そのための統制手法は何か. という問題意識に基づき︑特に︑現代においては︑違憲審査権を有する裁判所が︑どのような機能を果たし得るか又 ︵6︶ は果たすべきかという観点から︑立法裁量及び立法裁量論について︑若干の考察を試みる︒そして︑その準備作業と. して︑まず︑次節では︑立法裁量及び立法裁量論の概念︑存在根拠︑機能等を整理した上で︑検討を進めることにす る︒.

(3) ︵1︶. 議会の権限は︑量的には︑拡大している︒例えば︑わが国では︑国会が﹁唯一の立法機関﹂として立法権を独占し︑憲法改正の発議・提案権︑. いる︒芦部信喜﹁現代における立法﹂︵芦部信喜編﹃講座現代法3現代の立法﹄︵一九六五年︶六頁以下等参照︒なお︑政治学の立場から︑必ず. 条約締結の承認権︑財政に関する統制権︑その他の各種の広範な権能を有し︑徹底した議院内閣制の下で﹁国権の最高機関﹂たる地位を占めて. 例えば︑米国においては︑﹁トランスミッション・ベルトモデル︵嘗習ω邑鐘9σ簿ヨ&色﹂として定式化された︒このモデルによれば︑行. しも現代の議会が衰退しているとは言えないと論じているものとして︑岩井奉信﹃現代政治学叢書12立法過程﹄︵一九八八年︶等がある︒. 政は議会が行う政策判断の伝達ベルトであり︑議会は広範な裁量権を行政に授権することが許されず︑行政の判断は厳格な司法的統制に服すべ. ︵2︶. きことになるQの3妻簿鼻↓竃寄8ヨ魯O旨亀︾幕旨き>O§ヨωq魯お霊ヨQooo出貰く甲r短<﹂885譲ー罵9︵這誤︶あ︑9卑2震勲即ω︑ω$. 片岡開長谷川. 藤田随渡辺編﹃マルクス主義法学講座⑥現代日本法分析﹄︵一九七六年︶︶二一. ︒鼻︶︑古城誠﹁規制緩和理論とアメリカ行政法ー規制の失敗と裁判所の役割﹂ 語拝>αヨ5糞声穿①匿≦帥且即濃巳警︒昌評一ξるo︒18︵N区&60 室井力﹁現代日本の行政機関とその作用﹂︵天野. ︵アメリカ法ロOQ︒OI巴︶二七六頁以下等参照︒ ︵3︶. に考えられる︒. 七頁︒なお︑室井教授は︑当該箇所では行政の公共性についての文脈で論じているが︑この指摘は︑法律における公共性の問題においても同様. ︵4︶ 例えば︑米国においては︑行政過程を錯綜した各種の権利・利益の調整の場であり︑本質的には政治過程であると捉える﹁利益代表モデル. ㎝O㎝︑. ︵巨︒おωπΦ冥のω9舜一8馨量︶﹂として定式化された︒ここでは︑法規範として︑行政機関の定立する規則︵護包が重要な役割を果たす︒の$. 類貰けω唇養88N讐一①刈O︑一刈㎝①1一刈①N卑塁霞卿の8譲曽旨の信冥曽89N9=oogO曽二弩9uRΦ讐一葺δ昌曽呂一¢野9巴園Φ≦Φ瀬Ooo頃畦<︒罫国Φ<. 室井力﹁国 家 の 公 共 性 と そ の 法 的 基 準 ﹂ ︵ 室 井 陪 原 野. 福家H浜川編﹃現代国家の公共性分析﹄︵一九九〇年︶︶一四頁以下参照︒室井教授は︑. ︒9︑古城・前註︵2︶二七八頁以下︑木原正雄﹁米国における原告適格の法理・序説﹂︵早稲田法学会誌四一巻︶一七五頁以下等参照︒ ㎝お︵るo. ここで︑﹁市民的生存権的公共性﹂と﹁超市民的特権的公共性﹂を対置し︑後者の虚偽性を認識・暴露しつつ︑前者の真実性を深化・実現する必. ︵5︶. 要性を説いている︒. ︵6︶ 立法裁量又は立法裁量論に関する研究として︑横田喜三郎﹁立法府の裁量事項﹂︵﹃違憲審査﹄︵一九六八年︶︑覚道豊治﹁憲法における自由. メリカにおける社会福祉訴訟をめぐって﹂︵成城法学一号︶︑戸松秀典﹁立法裁量論﹂︵現代憲法研究会編﹃小林直樹先生還暦記念ら現代国家と. 裁量の概念﹂︵阪大法学四〇・四︷号︶︑覚道豊治﹁立法裁量と行政裁量﹂︵公法研究四一号︶︑戸松秀典﹁憲法訴訟と﹃立法府の裁量﹄の理論ーア. ︵新正幸ー鈴木法日児編﹃憲法制定と変動の法理﹄︵一九九一年︶︶等がある︒. 一三三. 憲法の原理﹄︵一九八三年︶︶︑野中俊彦﹁立法裁量論﹂︵芦部信喜編﹃講座憲法訴訟第2巻﹄︵一九八七年︶︶︑大貫裕之﹁﹃立法裁量﹄の一考察﹂. 立法裁量論に関する一考察︵木原︶.

(4) 立法裁量と立法裁量論. 早稲田法学会誌第四十二巻︵︸九九二︶. ︵1︶︵2︶. 一三四. 立法裁量とは︑立法機関が︑立法に関して︑憲法によって与えられた︑憲法の範囲内での判断又は意思決定の自由. を意味する︒憲法は最高法規であり︑国内法の体系として︑憲法を具体化し︑国民を規律する下位規範たる法律の存. 在を当然に予定しているから︑法律を制定するに際して︑一般的・抽象的意味での立法裁量は︑常に︑あらゆる場面 で問題にすることができる︒ ︵3︶. これに対し︑立法裁量論とは︑裁判所が︑立法機関の立法に関する判断又は意思決定に拘束され︑若しくは敬譲を. 示すべきだという理論を意味する︒即ち︑これは︑立法裁量の存在を前提にして︑立法裁量を司法的に統制する際の. 密度に関する理論である︒そして︑具体的に法律の違憲性が問われるときに司法審査の場面でのみ問題となり︑裁判. 所が個別具体的な法律を合憲と判断するために用いられる点で︑立法裁量それ自体とは異なる︒ ︵4︶. 右で述べた立法裁量の概念と立法裁量論の概念の相違は︑判例上でも意識されている︒. 例えば︑昭和五一年の衆議院議員定数配分規定違憲判決において︑最高裁は︑立法裁量について︑﹁代表民主制の. 下における選挙制度は︑選挙された代表者を通じて︑国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映される. ことを目標とし︑他方︑政治における安定の要請をも考慮しながら︑それぞれの国において︑その国の事情に即して. 具体的に決定されるべきものであり︑そこに論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけのものではない︒わ. が憲法もまた︑右の理由から︑国会両議院の議員の選挙については︑議員の定数︑選挙区︑投票の方法その他選挙に. 関する事項は法律で定めるべきものとし︑両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量. にゆだねている﹂と論じ︑立法裁量論について︑﹁衆議院議員の選挙における選挙区割と議員定数の配分の決定には︑.

(5) 極めて多種多様で︑複雑微妙な政策的及び技術的考慮要素のそれぞれをどの程度考慮し︑これを具体的決定にどこま. で反映させることができるかについては︑もとより厳密に一定された客観的基準が存在するわけのものではないから︑. 結局は︑国会の具体的に決定したところがその裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決するほか. はなく︑しかも事の性質上︑その判断にあたっては特に慎重であることを要し︑限られた資料に基づき︑限られた観 点からたやすくその決定の適否を判断すべきものではない﹂と論じている︒ ︵5︶. このように︑立法裁量の概念と立法裁量論の概念は相違するから︑各々の存在根拠及び機能は各別に理解すべきこ とになる︒ ︵6︶. ︵7︶. 立法裁量の存在根拠は︑立法権に内在している︒立法権は︑主権者の意思としての一般的・抽象的法規範を定立す. る議会の権能であり︑その意思の具体化にあたっては︑一定の裁量の存在が必要不可欠となるからである︒ ︵8︶︵9︶. とりわけ︑民主主義国家においては︑立法裁量は︑民主主義の原理と権力分立の原理を基盤とし︑これらの原理を. 有効に機能させる役割を果たす︒即ち︑民主主義の原理からすれば︑抽象的には︑国民を規律する法の定立は国民自. らが自らのためにのみ行うことができることになるが︑具体的な制度として間接民主制を採用している憲法の下では︑. 国民の代表者から構成されている国会がこれを行うことになり︑また︑権力分立の原理からすれば︑国会だけが﹁唯. 一の立法機関﹂としてこれを行うことができることになる︒そこで︑国会は︑立法にあたり︑国民の意思に応え︑国 ︵10︶. ︵11︶. 民的合意を形成し︑それを法規範として定立する際に︑その判断及び意思決定にあたって広範な裁量を行使する必要. があることになる︒更に︑憲法が詳細な規定を設けていないため︑憲法を具体化するために立法裁量の行使が必要と. される場合が多いのは︑実際上又は技術上の困難もさることながら︑一つには︑逆に︑国会が立法裁量を行使するこ. 二一一五. とにより︑政治的︑経済的又は社会的状況に応じた法律を制定すべしとする︑いわば憲法の国会に対する期待を示し 立法裁量論に関する一考察︵木原︶.

(6) 早稲田法学会誌第四十二巻︵一九九二︶. 一三六. ていると言うこともできる︒この意味で︑立法裁量は︑実際上又は技術上の困難が克服される限りでは︑狭く限定さ れる方がよいと理解されるべきものではない︒. なお︑わが国では︑立法裁量に対して︑国民が選挙を通じて行う統制と裁判所が違憲審査権を行使して行う統制が ︵12︶. あるが︑立法裁量は︑民主主義の原理を基盤とし︑これを有効に機能させる役割を果たすから︑前者が主要な統制と. なる︒そこで︑裁判所が立法機関の判断に拘束され︑若しくは敬譲を示すべき︑即ち立法裁量論が適用される場合が 生じる︒. これに対して︑立法裁量論の存在根拠は︑司法権に内在している︒司法権は︑具体的な争訟事件に法を適用し宣言 ︵13︶. することによりこれを解決する権能であり︑権力分立の原理からすれば︑裁判所が司法権を行使し得る間題は法的問. 題に限られ︑政治的問題に司法権は及ばないことになるからである︒また︑立法の本質は政治的判断及び意思決定で. あり︑民主主義の原理からすれば︑これらを行うことは国会の立法権の範疇に属し︑国民の代表者から構成されてお ︵14︶. らず︑これらを行うことについての権限を欠く裁判所の司法権の及ぶところではなく︑かつ︑裁判所にはこれらに関 する判断能力もないことになるからである︒. しかし︑国会の立法権といえども憲法に基づき︑憲法によって与えられた権能で︑立法裁量も憲法の範囲内でのみ. 許容される一方︑裁判所には憲法によって違憲審査権が与えられている︒そして︑法的問題と政治的問題は裁然と区. 別し得るものではなく︑憲法解釈自体が当然に政治的判断及び意思決定を含むものであるから︑裁判所は︑憲法判断 ︵15︶ をせまられている間題について︑違憲審査権を行使して違憲判断を下すことができるはずである︒. そこで︑立法裁量論は︑憲法訴訟をめぐって生じ得る国会と裁判所の対立を緩和する一種の調整機能を果たし︑そ ︵16︶ のため︑司法の自己抑制に関わり︑これを導くためにも適用され得る理論と考えることができる︒そして︑立法裁量.

(7) ︵17︶. 論が具体的に適用された事案では︑裁判所は司法消極主義を採用し︑国会に敬譲を示したと理解される場合もある︒. 従って︑立法裁量論の適用には︑常に慎重でなければならない︒立法裁量論が過度に適用されれば︑人権を侵害し ︵18︶. 又は侵害するおそれのある法律でも立法裁量の名の下に合憲とされることになり︑裁判所に違憲審査権を与えて人権. 保障の実現を企図している憲法の趣旨に反するからである︒とりわけ︑立法裁量論が司法の自己抑制・司法消極主義. と結びついて適用される場合には︑それが裁判所の国会に対する過度の敬譲に該たらないかについて批判的に検討す る必要がある︒即ち︑立法裁量論は可能な限り狭く理解すべきである︒. ところで︑わが国の立法裁量又は立法裁量論について︑学説は︑従来︑これらの考察にあたり︑様々な視点と基準. を示しつつ︑それを類型化してきた︒では︑現在︑このような類型化によるアプローチは︑どの場面で︑どの程度の. 有用性を持ち得るであろうか︒そこで︑次節では︑従来行われた類型化についての整理と若干の検討を試みる︒. へー︶ 野中俊彦﹁立法裁量論﹂︵芦部信喜編﹃講座憲法訴訟第2巻﹄︵一九八七年︶︶九三頁︑阿部泰隆﹃行政裁量と行政救済﹄︵一九八七年︶二頁︑. て与えられている基準の適用にあたって何等かの自由な判断余地を持っていること⁝裁量A﹂﹁裁量を行使する者が︑その裁量の行使について終. 杉村・天野編﹃新法学辞典﹄︵一九九一年︶一〇九四頁参照︒なお︑大貫助教授は︑裁量の概念を﹁裁量を行使する者が︑その裁量の行使に関し. 局的な決定権を持っていること⁝裁量B﹂に区別して論じているが︑裁量Aが本稿での立法裁量に該たる︒大貫裕之﹁﹃立法裁量﹄の一考察﹂. 立法裁量は立法政策という言葉で表現される場合がある︒横田喜三郎﹁立法府の裁量事項﹂︵﹃違憲審査﹄︵一九六八年︶︶三六二頁以下︑野中・. ︵新正幸睦鈴木法日児編﹃憲法制定と変動の法理ー菅野八郎教授還暦記念﹄︵一九九一年︶︶四九四頁参照︒ ︵2︶. にあり合憲と判断されることとほぼ同義として扱ってよい場合がある︒しかし︑立法政策とは︑一定の法目的を実現するための政治的方策を意. 前註︵1︶九三頁参照︒確かに︑当該法律について争われているのは立法政策の問題であると言われることは︑具体的な法律が立法裁量の範囲内. 味し︑立法の要素の一つであるが︑立法裁量は立法の各要素毎に考察されるべきものであり︑両者は厳密には異なる︒竹内・松尾・塩野編﹃新法 天野・前註︵1︶九八八頁参照︒この点については︑本稿三で詳細に論考する︒. 一三七. 律学辞典第三版﹄︵一九八九年︶一四三九頁以下︑田島信威編著﹃立法技術入門講座2法令の仕組みと作り方﹄︵一九八八年︶六六頁以下︑杉村腺. 立法裁量論に関する︸考察︵木原︶.

(8) 3︶. 早稲田法学会誌第四十二巻︵一九九二︶. 一三八. 戸松秀典﹁憲法訴訟と﹃立法府の裁旦昌の理論ーアメリカにおける社会福祉訴訟をめぐって﹂︵成城法学一号︶二四一頁以下︑戸松秀典﹁立法. 野・前註︵1︶一〇九四頁参照︒なお︑大貫助教授の整理によれば︑本稿での立法裁量論は裁量Bに該たる︒前註︵1︶参照︒この整理は正しいが︑. 裁量論﹂︵現代憲法学研究会編﹃小林直樹先生還暦記念・現代国家と憲法の原理﹄︵一九八三年︶一八八頁︑野中・前註︵1︶九四頁参照︒杉村H天. 同じ﹁立法裁量﹂という語を用いると混乱を招くおそれがある︒そこで︑本稿では︑大貫助教授の指摘に留意しつつ︑﹁立法裁量論﹂という語を 最大判昭和五一年四月一四日民集三〇巻三号二一⁝頁︒. 用いる︒. 4︶. 5︶ 覚道教授は︑立法裁量に積極的な要素と消極的な要素として︑立法権の本質に関わるものと︑立法権と司法権との関係に関わるものを並列. 四﹃号︶. 一七三頁以下︒. 的に扱っているが︑これは各別に理解すべき立法裁量と立法裁量論を混同しているように思われる︒覚道豊治﹁立法裁量と行政裁量﹂︵公法研究. ここでは︑主権者の如何︑人権保障の如何を問わず︑およそ立法一般を観念している︒また︑本稿では︑以下︑国会の定立する形式的意味での. 6︶ 現代における実質的意味の立法については︑国民の権利・義務に関する一般的・抽象的規範の定立を意味するとする見解が有力であるが︑. 従って︑立法裁量は︑主権者の如何を問わず︑例えば︑︑君主主権国家にも存在する︒しかし︑裁量である以上︑憲法などの一定の枠組の存. 法律に関する立法裁量を扱う︒. 7︶. は恣意であり︑本稿で扱う立法裁量とは区別して理解すべきである︒. 在を前提とするから︑例えば︑絶対主義国家においては︑立法裁量を問題とすることはできない︒このような国家における立法者の自由な判断. 藤井俊夫﹁権力分立制と司法権の限界﹂︵い箋の98一四一号︶三二頁以下︑藤井俊夫﹃憲法訴訟と違憲審査基準﹄︵一九八五年︶一七頁以下参照︒. 8︶ 横田・前註︵2︶三三九頁︑覚道豊治﹁憲法における自由裁量の概念﹂︵阪大法学四一・四二号︶九〇頁以下︑覚道・前註︵5︶一七三頁以下︑. 制と均衡の関係があるとしても︑立法権はその性質上︑統治機構の中で︑法律の制定を通じて行政権や司法権に多かれ少なから優位する立場に. 9︶ ただ︑民主主義国家における立法裁量の基盤は︑まず︑民主主義の原理に求められ︑権力分立の原理は副次的な基盤である︒三権の問に抑. 現代の統治機構には︑政策決定の迅速性・効率性を意味する﹁実効性﹂と︑国民的合意の形成・獲得を意味する﹁応答性﹂が要求されるが︑. 国憲法中巻﹄︵一九四九年︶三頁以下︑覚道・前註︵5︶一七三頁以下︑樋口日佐藤隔中村H浦部﹃注釈日本国憲法下巻﹄︵一九八八年︶八二〇頁以下. あるから︑立法権は︑民主主義の原理からすれば︑国民の代表者で構成される国会が行使すべきことになるからである︒法学協会編﹃註解日本. ︶. 参照︒. 国会を政府の﹁採決マシーン﹂に堕落させないために︑国会には︑﹁実効性﹂を犠牲にしても︑﹁応答性﹂が要求される︒岩井奉信﹃現代政治学. 10. 叢書1 2立法過程﹄︵一九八八年︶二頁以下参照︒この意味で︑現代では︑立法裁量の役割とこれに対する期待がより大きくなっていると言える︒.

(9) ︵11︶. 憲法が詳細な規定を設けていない場合が多いのは︑憲法典は新しい政治秩序の形成・確立のために急いで制定される場合が多く︑またその. いため︑あまり厳密な規定を設けると国政の運営に支障を生じるおそれがあるからである︒佐藤幸治編著﹃憲法−総論・統治機構﹄︵一九八九年︶. 際に相対立する政治的立場の妥協を図らなければならないからである︒また︑憲法典には通例最も高い形式的効力が与えられ︑改正が容易でな. 米国やわが国のように︑違憲審査権が通常の司法裁判所に与えられ︑付随的違憲審査制度が採用されている国と︑例えば︑仏国のように︑. 二五頁以下参照︒. 違憲審査権が特別の国家機関に与えられ︑抽象的違憲審査制度が採用されている国では︑立法裁量の統制についての思想が異なる︒特に︑立法. ︵12︶. 日の機会に譲る︒. 裁量論の適用については別異の論考が必要となるが︑本稿では︑以下︑わが国の立法裁量及び立法裁量論に問題を限定し︑比較法的な検討は他. 四頁参照︒. ︵13︶ 横田・前註︵2︶一〇頁以下︑覚道・前註︵8︶一七三頁以下︑戸松﹁立法裁量論﹂・前註︵3︶一八八頁以下︑二〇三頁以下︑野中・前註︵1︶九. ︵14︶横田﹁違憲審査﹂︵前註︵2︶ら違憲審査﹄︶一二頁以下︑覚道・前註︵8と七三頁以下参照︒これに対し︑組織・機構が表面上犀王的でない. する見解からは︑民主主義の原理は︑立法裁量論の存在根拠とはならないことになろう︒戸松秀典﹁違憲立法審査制度﹂︵杉原泰雄編﹃講座・憲. ことがその機能にまでそのまま現れるものではなく︑違憲審査の小数者の権利保護に果たす役割が民主主義の原理にとって重要な意義をもつと. 法裁量論の存在根拠としてあげている︒戸松﹁立法裁量論﹂・前註︵3と九〇頁︑野中・前註︵1︶九四頁参照︒また︑藤井教授は︑立法裁量論に. 法学の基礎−憲法学の基礎概念1﹄︵一九八三年︶二〇五頁以下参照︒なお︑戸松教授︑野中教授は︑権力分立の原理の他︑司法の自己抑制を立. ついて︑権力分立制に基づく狭義の立法裁量論と司法消極主義と結びついた立法裁量論に分けて論じている︒藤井﹁権力分立制と司法権の限界﹂・. 但し︑統治行為論を肯定すれば︑高度の政治性を有している問題については︑憲法判断は可能であっても︑裁判所は違憲審査権を行使しな. 前註︵8︶三二頁以下︑藤井﹃憲法訴訟と違憲審査基準﹄・前註︵8と七頁以下参照︒. い又はすべきでないことになる︒統治行為論については︑既に多くの業績があるため︑本稿ではこれ以上の論考は避けるが︑例えば︑小林節﹃政. ︵15︶. 治問題の法理﹄︵一九八八年︶及び同書七頁註︵3︶参照︒. 戸松﹁立法裁量論﹂・前註︵3︶一九〇頁︒なお︑司法消極主義は多義的用語であるが︑ここでは︑裁判所が立法部又は行政部の判断を最大限. ︵16︶ 戸松﹁立法裁量論﹂・前註︵3と九〇頁︑二〇三頁以下︑野中・前註︵1︶九四頁参照︒. に尊重し︑自らの判断を加えることを控えることを慧味する︒従って︑裁判所がある憲法問題につき合憲と判断しても︑その判断が自ら入念に. ︵17︶. 一三九. 芦部教授は︑判例が︑全体として立法裁量を広く認め過ぎる傾向にあるとして︑特に︑選挙運動の自由︑議員定数不均衡︑生存権に関する. 審査し下したものであれば︑裁判所は司法積極主義を採用したことになる︒戸松・前註︵M︶二一五頁以下参照︒. ︵18︶. 立法裁量論に関する一考察︵木原︶.

(10) 早稲田法学会誌第四十二巻︵一九九二︶ 立法裁量論を批判している︒芦部信喜﹁憲法判例理論の変遷と問題点﹂ ︵公法研究四八号︶三五頁以下︒. 二 立法裁量又は立法裁量論の類型化. 一四〇. 従来の学説は︑立法裁量論が適用され得る局面を論じるにあたって︑立法裁量又は立法裁量論を考察し︑それらの. 類型化を行うアプローチを試みてきた︒立法裁量又は立法裁量論の類型化を行い︑立法裁量論の適用に一定の判断枠. 組を与えることで︑立法裁量論の無制限な適用が防止されると共に︑立法裁量論が適用される場合に関する具体的な. 予測可能性が与えられることになり︑これによって︑憲法で認められている違憲審査権を意味あるものとし︑人権保 ︵1︶ 障の実効性を確保することができると考えられたからである︒但し︑各論者により︑類型化の対象︑観点及び基準に 関する見解は多様である︒ ︵2︶︵3︶. まず︑立法裁量を実体的に把握する観点から憲法の規定の仕方及び国会の行為︑即ち法律の性質により類型化する 見解がある︒. この見解は︑憲法の規定の仕方から︑①拷問︑検閲等︑立法裁量がかなり明確な概念を用いている場合︑これらに. 関する立法裁量は極めて狭少である︑②公共の福祉︑地方自治の本旨等︑憲法がいわゆる不確定概念を用いている場. 合︑これらに関する立法裁量は比較的広範である︑③国籍要件︑婚姻に関する事項等︑憲法が法律により︑一定の事. 項を定める旨を明確に規定し︑法律に委任又は留保している場合︑適切な法律を制定すること自体は国会の憲法上の. 義務であるが︑当該法律の内容に関しては立法裁量は比較的広範である︑④憲法が当該事項の具体化と規制の方法に. ついて何ら明確にしていない場合︑これらに関する立法裁量は比較的広範であるが︑本来制約し得ない自然権的基本. 権の制約については︑立法裁量は極めて狭少である︑とする︒また︑法律の性質から︑⑤二重の基準論を参照し︑一.

(11) 般的傾向として︑精神的自由権の規制に関する立法裁量は極めて狭少であるが︑経済的自由権の規制に関する立法裁. 量は比較的広範であると言えるものの︑⑥憲法上︑人権は形式的には全て同列に保障され︑最大限の尊重を必要とす. るから︑何れの人権に関しても制約は最小限であるべきことを念頭に置いて︑立法裁量の範囲を論ずべきである︑と する︒. この見解によれば︑憲法規範の解釈を通じて立法裁量の範囲の広狭の程度を検討した上で︑具体的な法律の違憲性 ︵4︶ が争われる司法審査において︑当該法律に関する立法裁量に鍮越・濫用等がなければ︑立法裁量論が適用されること ︵5V になる︒即ち︑立法裁量の限界と立法裁量論の適用の限界は等しい︑又は等しくあるべきだということになる︒. このように︑立法裁量を実体的把握する観点それ自体は︑裁判所に対し︑安易に司法消極主義に逃避することなく︑. 立法裁量に鍮越・濫用等があり︑当該法律が実体的に違憲であれば︑明確に違憲判断を下すべきことを命じ︑立法裁. 量論の無制限な適用の防止を企図している点では確かに意味があり︑一定の有用性が認められる︒. しかし︑立法裁量と立法裁量論は︑前節で述べたように︑各々の存在根拠及び機能を異にするから︑両者の限界を. 先験的に等しいと理解していることには問題がある︒立法裁量論は具体的な訴訟において適用される理論であるが︑. この見解は︑憲法訴訟上の裁判法理の観点︑特に︑わが国では付随的違憲審査制が採用されていることを看過してい. るからである︒即ち︑法律の違憲性は︑原則として︑主観訴訟の枠内で争われること︑当該法律の違憲性については︑. 誰が︑何について︑どの程度の立証を要するかが問題となること︑憲法判断の方法として︑まず︑当該法律について. 合憲限定解釈を行うことを前提にして︑次に︑これが困難な場合でも適用違憲・運用違憲の手法により判決を下すべ ︵6︶. きこと︑違憲判決は個別的効力を有するに止まることなどを考慮しなければ︑具体的な訴訟に適用される立法裁量論. 一四一. を把握することができない︒従って︑立法裁量論を論じるに際し︑立法裁量を実体的に把握する観点それ自体は重要 立法裁量論に関する一考察︵木原︶.

(12) 早稲田法学 会 誌 第 四 十 二 巻 ︵ 一 九 九 二 ︶. であるが︑人権保障の実効性を現実に確保する立法裁量論を提示するためには不十分である︒. 一四二. また︑論者も指摘しているように︑憲法の規定の仕方と法律の性質を基準として︑立法裁量の範囲の広狭の程度に ︵7︶. 関する結論を一般的・抽象的に導くことは非常に困難である︒そのため︑立法裁量の範囲は︑結局は︑憲法の各条文. の解釈により決せられることになるから︑この類型化は︑一種の循環論法に陥っており︑現実に行使されている立法 ︵8︶ 裁量はもとより︑判例上現れている立法裁量論の分析にとって︑十分な有用性を持ち得ない︒. 更に︑公共の福祉に関する立法裁量を比較的広範に認めていることも問題である︒公共の福祉とは︑人権を実現す. るための実体的・価値的な概念であり︑これを人権と切り離された抽象的な概念と理解し︑公共の福祉の内容につい. ︵9︶. て広範な立法裁量を認めることは︑ひいては︑部分的利益を公益と偽装しつつ実現することを許す結果となるからで ある︒. ︵10︶. 次に︑立法裁量論を司法審査の基準又はこれと密接に関連するものとして︑手続的に把握する観点ないし裁判法理. という観点から︑類型化する諸見解がある︒そして︑類型化の基準としては︑以下が代表的な見解である︒. 第一に︑判例上の立法裁量論の適用例を分析し︑①公務員の争議権に関する事例等︑高度の政治的意味での立法政 ︵11︶. 策的判断に関わる場合︑②営業に対する経済的規制の事例等︑行政政策的な裁量に関わる場合︑③議員定数不均衡に 関する事例等︑極めて技術的な裁量に関わる場合︑に類型化する見解がある︒. この見解は︑判例傾向の整理を通して︑立法裁量論が適用される場合についてのある程度の予測可能性を示すこと ︵蔦︶. ができる点で︑一定の有用性が認められる︒しかし︑各々の類型が極めて相対的であり︑複数の類型にまたがる事例. もあり得る︒また︑②における消極的な警察目的による規制の事例と積極的な経済・社会政策の実現を目的とする規. 制の事例のように︑この見解によれば同一の類型に属する事例の中でも︑立法裁量論の適用の広狭の程度が異なる場.

(13) 合がある︒. ︵13︶ 例えば︑最高裁は︑小売商業特別措置法に基づく小売市場の許可制に関する事件判決において︑﹁国は︑積極的に︑. 国民経済の健全な発達と国民生活の安定を期し︑もって社会経済全体の塊衡のとれた調和的発展を図るために︑立法. により︑個人の経済生活に対し︑一定の規制措置を講ずることも︑それが右目的達成のために必要かつ合理的な範囲. にとどまる限り許されるべき﹂であると論じているのに対し︑旧薬事法に基づく薬局等の適正配置規制に関する事件 ︵14︶. 判決では︑コ般に許可制は︑単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて︑狭義における職業選択の自由. に対する強力な制限であるから︑その合憲性を肯定しうるためには︑原則として︑重要な公共の利益のために必要か. つ合理的な措置であることを要し︑また︑それが社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置ではなく︑. 自由な職業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するための消極的︑警察的措置である場合には許可制に比べ. て職業の自由に対するよりゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によっては右の目的を十分に 達成することができないと認められることを要する﹂と論じている︒. 更に︑この見解は︑研究会形式での問題提起に止まっていることからみても︑必ずしも十分に体系化されていると. は言えないが︑ここで提起されている各類型と人権保障について発展してきた審査基準との関係が不明確であり︑か. ︵15︶. つ︑立法裁量論の適用については現状肯定から出発しているため︑具体的な裁判例に対する十分な批判的機能を持ち 得ない︒. 第二に︑二重の基準論を基礎にして︑立法裁量論が広範に適用される順に︑①弾劾︑議会の自律権等︑憲法上︑国. 会の判断に専権的に委ねられ︑司法判断のあり得ない場合︑②租税︑刑罰等︑裁判所が全く判断し得ないわけではな. 一四三. いが︑法律の具体的内容がおよそ立法政策に委ねられている場合︑③経済的基本権等︑明白性の原則等により︑裁判 立法裁量論に関する一考察︵木原︶.

(14) 早稲田法学会誌第四十二巻︵一九九二︶. 一四四. 所の審査に服するが︑合憲性の推定を受け︑国会の判断が裁判所の判断に優先する場合︑④思想・良心の自由等︑裁 ︵16︶ 判所の厳格な審査基準に服し︑裁判所の判断が③の場合より強く認められている場合︑に類型化する見解がある︒. この見解は︑立法裁量論の類型化に際し︑人権論とこれに関わる審査基準を取り入れている点で︑人権保障の実効 ︵17︶. 性を確保するために立法裁量論を類型化するという当初の趣旨に合致する︒しかし︑この見解に対しては︑二重の基 準論の間題点がそのまま妥当する︒. まず︑二重の基準論は︑第一次大戦以後に生じた自由主義的な憲法秩序の変動に伴い︑社会立法や言論統制立法が. 登場したことにより︑精神的自由権を規制する法律と経済的自由権を規制する法律を共通の基準で審査することが許 ︵18︶ されるかという問題意識から生じた理論であり︑本来︑自由権とその規制を射程としていたものであるから︑精神的 ︵19︶. 自由権と経済的自由権の何れにも属さない権利に関わる場合︑この類型化から︑直接︑立法裁量論の適用の広狭の結. 論を導くことはできない︒また︑経済的自由権に関わる法律に限っても︑前述のように︑当該法律の規制の目的が消. 極的か積極的かにより︑立法裁量論の適用の広狭が異なる場合もあり得る︒更に︑現代社会においては︑人権の実質. ︵21︶. 的価値内容が多様かつ豊富となり︑経済的自由権でも幸福追求権と結びついて重要な価値を有する人権となっている ︵20︶ ものも多く︑精神的自由権と経済的自由権の峻別が困難となってきている︒. なお︑二重の基準論を修正しつつ︑それを立法裁量論の類型化の基準としたとしても︑違憲審査基準の類型を言い 換えているに過ぎないことになり︑立法裁量論は固有の意義を失う︒. 従って︑結局のところ︑この見解は重要な視点を提供するが︑二重の基準論だけでは十分な類型化の基準とはなり 得ない︒. 第三に︑判例上の立法裁量論の適用例の分析を通じて︑①条約の審査︑租税に関する事例等︑広い立法裁量論が適.

(15) 用される領域︑②議院定数不均衝︑薬局の開設に対する規制︑年金・社会保障給付の併給禁止に関する事例等︑狭い. 立法裁量論が適用される領域︑③公務員の政治活動の自由︑表現の自由を制限する事例等︑立法裁量論の適用が排除. される領域︑に類型化し︑司法審査において︑①の領域には単なる合理性の基準が︑②の領域には厳格な合理性の基 ︵22︶ 準が︑③の領域には厳格な審査基準が適用される︑とする見解がある︒. この見解は︑立法裁量論を︑憲法規範に生じる原理と法律で示された原理との対立に序列化を求められた裁判所が︑ ︵23︶. 国会の決定を尊重した序列化の判断を行う方法として把握している︒そして︑一方では︑現実に集積されている諸判. 決を右の三類型に分類しながら︑他方では︑立法裁量論の限界を設定するために︑人権の価値序列の確立を図り︑立. 法事実論を展開し︑更に違憲審査の基準を確立し︑それを精密化することにより︑個別具体的な判例で用いられた立. 法裁量論を批判的に検討し︑判例における憲法判断の発展を期待することができるようになる︑と論じている︒. この見解は︑判例傾向の整理を通して︑立法裁量論が適用される場合についてのある程度の予測可能性を示すこと. ができると共に︑人権の価値の明確化と人権に関わる審査基準を要素に取り込んでいる点で︑前二者の欠陥を補って おり︑一種の認識モデルとしては︑比較的有用性が高い類型化を行っている︒. しかし︑この見解では︑立法裁量論が︑合憲性に関する結論的判断︑又はこの判断と直結し︑違憲審査基準から導. ︵25︶. かれる中問命題として提示されている点で十分ではない︒即ち︑このような結論的判断又は中問命題を導くためには︑ ︵24︶ 経済政策︑社会政策等の種々の考慮要素とそれらに関する判断過程の検討が必要であるが︑この見解は︑これらを立. 法裁量論の適用に際して決定的なものではないとして排斥しているため︑立法裁量論が︑非常に抽象化され︑いわば. 一四五. 平面的に類型化されるに止まる︒また︑この見解によっても︑前述の見解と同様に︑立法裁量論が違憲審査基準の言 ︵26︶ い換えに過ぎないことになり︑立法裁量論から固有の意義を引き出すことができない︒ 立法裁量論に関する一考察︵木原︶.

(16) 早稲田法学会誌第四十二巻︵一九九二︶. 一四六. 更に︑この見解では︑立法裁量を実体的に把握する観点から類型化する見解とは逆に︑立法機関の判断が︑どのよ. うな場合に立法裁量の鍮越・濫用に該たり︑違憲となるかについて︑訴訟の場で十分に明らかにできない︒. このように︑立法裁量又は立法裁量論の類型化は︑人権保障の実効性の確保を目的として︑様々な観点と基準から 行われてきたが︑必ずしも十分に成功してきたとは言えない︒. ︵27︶. そこで︑立法裁量及び立法裁量論をより精密に把握するためには︑二つのアプローチが考えられる︒即ち︑一方は. 別の観点と基準から新たに類型化を行うものであり︑他方はさしあたり類型化を放棄するものである︒. まず︑新たに類型化を行うアプローチは︑可能ではあろうが︑有益ではなかろう︒従来の見解に対する批判を全て. 受け入れた類型化を行おうとすれば︑かなり複雑かつ多面的な観点と基準を設定することになり︑立法裁量又は立法 ︵28︶ 裁量論について︑具体的予測可能性をある程度示し得るように︑単純化して把握することができなくなるからである︒. そこで︑本稿では︑立法裁量又は立法裁量論について︑ひとまず︑従来の各見解と同じ意味での類型化を行うこと. なく︑憲法価値︑特に人権保障の実効性の確保のために立法に対する憲法判断の実体的側面として︑立法裁量に鍮越・. 濫用等があり︑当該法律に違憲性を生じるのは如何なる場合か︑次に︑訴訟法的側面として︑裁判所はその場合に如. 何なる判断を下し得るか又は下すべきかを分析することにより︑立法裁量論の限界を考察するアプローチをとる︒そ. こで︑次節では︑前者について分析し︑国会の立法裁量の行使に対する裁判所の実体的な判断枠組の設定を試みる︒. 大野閥香城廿杉原u園部﹁憲法判例の三〇年ー学説と実務の関連において﹂︵ジュリスト酌六三八︶四七九頁︑ 戸松秀典﹁立法裁量論﹂. これは︑違憲判断を下す前提問題であり︑主として立法事実論に関わる︒. 芦部. ︵現代憲法学研究会編﹃小林直樹先生還暦記念・現代国家と憲法の原理﹄︵一九八三年︶︶一九三頁以下参照︒. ︵1︶.

(17) 覚道豊治﹁憲法における立法裁量の概念﹂︵阪大法学四〇・四一号︶九一頁以下︑覚道豊治﹁立法裁量と行政裁量﹂︵公法研究四一号︶一七. 六頁以下︒. ︵2︶. ︵3︶ この他︑この観︑息から立法裁目亘を論じているものに︑長尾一紘﹁立法府の立法裁量とその限果−選挙制度改正の限界の問題を中心として﹂. ︵い署曽ぎ︒一二五号︶二八頁︑藤井俊夫﹁権力分立制と司法権の限界﹂︵い彗ω魯8一四一号︶二八頁以下︑藤井俊夫﹃憲法訴訟と違憲審査基準﹄ ︵一九八五年︶等がある︒. ︵4︶通常は︑﹁立法裁量の逸脱﹂と表現されることが多い︒しかし︑立法裁量の行使が︑たとえ形式的には裁量の範囲内にあっても︑著しく合理. が妥当である︒なお︑覚道﹁憲法における自由裁量の概念﹂・前註︵2︶九四頁︑長屋・前註︵3︶二九頁︑藤井﹁権力分立制と司法権の限界﹂・前. 性を欠いた場合は︑国民的合意の形成.獲得という立法裁量の本質的機能に反するから︑違憲と判断されるべきであり︑﹁鍮越・濫用﹂との表現. 長尾.前註︵3︶二九頁︑藤井﹁権力分立制と司法権の限界﹂・前註︵3︶三二頁以下参照︒. 註︵3︶三三頁参照︒. ︵5︶. 戸松.前註︵1︶一九二頁註︵1︶︑野中俊彦﹁立法裁量論﹂︵芦部信喜編﹃講座憲法訴訟第2巻﹄︵一九八七年︶︶︸一〇頁参照︒これは︑この. 覚道﹁立法裁量と行政裁量﹂・前註︵2と七八頁︒. ︵6︶ これらの諸点は︑本稿四で論考する︒. ︵7︶. 見解が︑立法裁量と立法裁量論を混同していることに起因するものと思われる︒本稿一註︵5︶参照︒. ︵8︶. 共性の法的内容を明らかにしようとする分析がなされている︒例えば︑小林直樹﹁現代公共性の考察﹂︵公法研究五一号︶︑室井・原野 福家脾浜川. ︵9︶ 公共の福祉については︑従来は人権を制約する原理としてのそれを極力限定する方向で論じられてきたが︑近年︑人権を実現するための公. 室井力﹁国家の公共性とその法的基準﹂︵室井他編・前掲書所収︶㎜四頁以下︑森英樹﹁憲法学と公共性論﹂︵室井他編・前掲書所収︶三一五頁. 編﹃現代国家の公共性分析﹄︵一九九〇年︶等参照︒なお︑特に﹁公共性﹂のイデオロギー性を︸般的に指摘したものに︑小林前掲書二九頁以下︑ 等参照︒. に類型化する見解がある︒野中・前註︵8︶一⁝八頁以下︒しかし︑これだけでは立法裁量論の適用に関する具体的な予測可能性が与えられない. ︵ 01︶後述するものの他︑①特定の憲法規範の解釈の上で立法裁量が認められる場合と②憲法上いわば一般的に存在する立法裁量が語られる場合. 類型化の基準が相対的なため︑論理矛盾が生じる場合がある︒論者は︑議員定数不均衝の事例を︑極めて技術的な裁量の問題としながら︑. 芦部他.前註︵1︶四七八頁以下︒なお︑小林武﹁行政事件と最高裁判所﹂︵ジュリスト酌六五七︶二七頁参照︒. ため︑他の見解と同じ次元での立法裁量の類型化とは言い難い︒ ︵11︶. 四七. 政治的に利用される危険性があり︑ある意味では最も立法裁量を働くとする︵芦部他・前註︵1︶四七八頁以下︶が︑技術的な裁量であるとすれば︑. ︵12︶. 立法裁量論に関する一考察︵木原︶.

(18) 早稲田法学会誌第四十二巻︵﹇九九二︶. 最大判昭和四七年一一月二二日刑集二六巻九号五八六頁︒. 裁量の範囲は狭少になるはずである︒戸松・前註︵1と九五頁参照︒. 一四八. この見解をとる論者は︑公務員の争議権に関する事例を高度の政治的な意味での立法政策的判断が介在するとするが︑このような事例に関. 最大判昭和五〇年四月三〇日民集二九巻四号五七二頁︒. ︵13︶. 4︶. ︵1. して広範な立法裁量を認めることには批判が多い︒今村成和﹃人権叢説﹄︵一九八○年︶七三頁以下︑芦部信喜﹁公務員の政治活動の自由と﹂R. ︵15︶. ︵﹃憲法訴訟の現代的展開﹄︵一九八一年︶︶等参照︒. A基準i猿払事件上告審における論議を中心として﹂︑﹁公務員の政治活動の自由と規制と﹃合理的関連性﹄基準−猿払事件最高裁判決の問題点﹂. 二重の基準論の問題点の分析については︑例えば︑芦部信喜﹁憲法訴訟と﹃二重の基準﹄の理論﹂︵前註︵15︶・﹃憲法訴訟の現代的展開﹄︶︑. ︵16︶ シンポジウム﹁第﹃部会﹃憲法訴訟﹄討論要旨﹂︵公法研究三七号﹀七六頁以下︒. 浦部法穂﹁合憲性審査の基準﹂︵揮≦oっ38二蓋号︶四頁︑戸松秀典﹁厳格な合理性の基準﹂︵前註︵1︶・﹃現代国家と憲法の原理﹄︶︑香城敏麿﹁憲. ︵17︶. 覚道・前註︵2︶﹁立法裁量と行政裁量﹂一七八頁︑戸松・前註︵1︶一九四頁︑野中俊彦﹁立法裁量論﹂︵芦部信喜編﹃講座憲法訴訟第2巻﹄. 芦部・前註︵17︶六八頁以下︑江橋・前註︵17︶二一三頁以下参照︒. 部信喜編﹃講座憲法訴訟第2巻﹄︵一九八七年︶︶等参照︒. 法判例の三〇年−学説と実務との関連において﹂︵ジュリスト臨増・日本国憲法ー三〇年の軌跡と展望︶四五二頁︑江橋崇﹁二重の基準論﹂︵芦. ︵18︶. ︵19︶. この点は︑既に多数の論者によって指摘されているが︑例えば︑鵜飼信成﹁﹃法の支配﹄の原則と現代行政の課題﹂︵公法研究四一号︶一三. ︵一九八七年︶︶一一一頁参照︒. ︵20︶. 例えば︑芦部教授は︑法の下の平等に関する審査︑生存権に関する審査については厳格な合理性の基準が︑労働基本権に関する規制の審査. 頁以下参照︒. についてはLRA基準が妥当するとして︑いわば三重の基準を提言している︒芦部信喜﹁人権の司法的救済﹂︵﹃司法のあり方と人権﹄︵一九八三. ︵21︶. 戸松・前註 へ ー と 九 五 頁 以 下 ︒. 年︶︶一一〇頁参照︒ ︵22︶. た原理に対立が生じる場合には︑前者が後者に優先することが当然であり︑この旨を述べる論者も指摘するように︑誤解を招くおそれのある表. ︵23︶ 香城敏麿﹁憲法解釈と裁量﹂︵ジュリスト恥六三八︶二〇七頁︑戸松・前註︵1︶一九二頁︑二〇六頁︒憲法規範に生じる原理と法律で示され. 現である︒戸松・前註︵1︶二一〇頁註︵10︶参照︒これを善解すれば︑具体的な法律の目的と基本的内容が抽象的な憲法の原理の範囲内にあるか 否かの判断を意味すると考えられる︒.

(19) ︶. 戸松教授は︑経済政策︑社会政策等の種々の考慮要素が裁判所の判断能力を超える場合には︑裁判所がこれを根拠に立法裁量論を適用する. ︶ 芦部目川添 香城ー時国 戸松u山川﹁憲法判断の基準と方法﹂︵ジュリスト恥七八九︶三三頁以下参照︒ 24. ことがあるが︑人権とこれらの価値序列が問題となるべきであるから︑これらの諸要素は立法裁量論の決定的根拠にならないとする︒戸松・前. 25 註︵1︶二〇四頁以下参照︒. ︶. 例えば︑石村教授は︑類型化のアプローチには言及せず︑立法裁量が認められる構造を示すことで立法裁量論を論じている︒この見解は︑. ︶ 戸波江二﹁生存権訴訟における判例と学説﹂︵公法研究四八号︶七八頁註︵6︶参照︒ 26 27 題点﹂︵﹃基本論点憲法﹄︵一九八八年︶︶二五九頁以下参照︒. 立法裁量論の実体的側面については︑本稿のとるアプローチと問題意識を共通にしている点があると考えられる︒石村修﹁立法裁量論とその問. 立法裁量論と立法の諸要素. 4︶三四頁参照︒ ︶ 戸松教授は︑立法裁量論の類型化にあたり︑この点を意識して︑自説の利点を強調している︒芦部他・前註︵2 28. 三. 立法機関は︑法律を制定するために︑一般的・抽象的には︑立法事実を認識し︑それに対応する立法政策を選択す. ることにより︑個別具体的な法律を憲法︑法律又は規則に定められた手続で審議し︑議決を行う︒そして︑立法裁量. は︑立法機関が立法作用を行う際に生じる諸問題に関し︑様々な立法の要素について行使され︑そこに立法裁量の喩 越・濫用があれば︑当該法律は違憲となる︒. 他方︑わが国では︑違憲立法審査権を有する裁判所が︑憲法判断を下す前提として︑国会の立法裁量に鍮越・濫用. がないかを審査し︑それがない場合には立法裁量論を適用して︑当該法律を合憲と判断する︒その際に︑裁判所は︑. 主として︑ω立法政策に関する問題︑吻法律の具体的内容に関する間題︑㈹法律の議決に関する問題について︑各々. 一四九. の諸要素を考慮しなければならない︒従って︑国会は︑このような考慮を怠れば︑いわば裁判所に法律を違憲と判断 される危険を負担することになる︒ 立法裁量論に関する一考察︵木原︶.

(20) 早稲田法学会 誌 第 四 十 二 巻 ︵ ︻ 九 九 二 ︶. ︵1︶. ︸五〇. そこで︑以下︑これら諸問題毎に︑立法の諸要素を提示しつつ︑裁判所の側からみた立法裁量論の適用に関する実. 体的な判断枠組の設定を試みる︒但し︑検討の対象とすべき立法の諸要素は極めて多岐にわたるため︑本節では︑こ. 立法政策に関する問題 ︵2︶. の枠組は︑︸つの素描に止まらざるを得ないことをあらかじめお断りしておく︒. ω. 立法政策とは︑一般に︑一定の法目的を実現するための政治的方策を意味するが︑これは︑立法に関する政治的判. 断又は政治的意思決定そのもの若しくはその核心部分をなすものであり︑立法政策を立案する権限は国民的合意の形. 成し獲得すべき﹁唯一の立法機関﹂である国会に専属し︑他の国家機関の介入を受けるべきではない︒即ち︑国会に. は︑政治的︑経済的︑社会的状況に適合した合理的な立法政策の選択が期待されているから︑この期待に応じた国会. の極めて広範な立法裁量が認められる︒従って︑裁判所は︑立法政策そのものについては︑立法裁量論を広く適用す ︵3︶. ることが許され︑また広く適用すべきことになる︒. 例えば︑郵便貯金目減り訴訟最高裁判決では︑﹁︵﹇論者註﹈物価の安定︑完全雇用の維持︑国際的収支の均衡及び. 適度な経済成長の維持の︶各目標を調和的に実現するために政府においてその時々における内外の情勢のもとで具体. 的にいかなる措置をとるべきかは︑事の性質上専ら政府の裁量的な政策判断に委ねられている事柄とみるべきもので. あって︑仮に政府においてその判断を誤り︑ないしはその措置に適切を欠いたため右目標を達成することができず︑. 又はこれに反する結果を招いたとしても︑これについて政府の政治的責任が間われることがあるのは格別︑法律上の. 義務違反ないし違法行為として国家賠償法上の損害賠償責任の問題を生ずるものとすることはできない﹂と論じられ. ている︒本件では︑政府の政策立案に関する裁量が問題になっているが︑立法政策についても同様である︒.

(21) 図. 法律の具体的内容に関する問題. 法律は︑立法事実に基づいていなければならない︒ここで立法事実とは︑法律を制定する場合の基礎を形成し︑か ︵4︶ つ︑その合理性を支える政治的︑経済的︑社会的又は科学的事実を意味する︒そして︑国会は︑立法に際して︑錯綜. した多様な事実からこれらの事実を認定し︑考慮しなければならない︒これに対し︑裁判所は︑当該法律を審査する. 際に︑法律により保護される権利・利益の性質と程度及び立法目的実現の可能性などの立法のメリットに関する事実︑. 法律により制約を受ける権利・利益の性質と程度及び規制の実現可能性などの立法のデメリットに関する事実︑保護. される権利・利益と制約を受ける権利・利益の比較衡量及び立法目的達成手段の選択などの立法のメリットとデメ ︵5︶ リットのバランスに関する事実をすべて考慮し︑客観的に認定した上で︑合憲性を判断する必要がある︒そこで︑法. 律の具体的内容に関する問題については︑立法裁量論の適用にあたって︑①立法の要因となるべき事実︑②立法目的︑ ︵6︶ ③法律に関連する人権︑④法律で用いられている手段などが主な要素となる︒更に︑法律に関連する人権については︑. ︵i︶人権享有主体の性質︑︵h︶人権そのものの性質︑︵血︶人権享有主体が法律のシステムに登場する態様に分けて考 察することができる︒. ①立法の要因となるべき事実. これは︑立法事実のうち︑現在生じている政治的︑経済的又は社会的矛盾・弊害の存在とその程度及びそれらを除. 去する必要性に関わるものであり︑立法のメリットに関する事実に含まれるものである︒法律の客観的合理性を担保. するためには︑この事実の認定及び評価について︑恣意性が極力排除されなければならない︒ ︵7︶. 一五一. 例えば︑旧薬事法に基づく薬局等の適正配置規制に関する事件判決において︑最高裁は︑﹁競争の激化ー経営の不 立法裁量論に関する一考察︵木原︶.

(22) 早稲田法学会 誌 第 四 十 二 巻 ︵ 一 九 九 二 ︶. 一五二. 安定ー法規違反という因果関係に立つ不良医薬品の供給の危険が︑薬局等の段階において︑相当規模で発生する可能. 性があるとすることは︑単なる観念上の想定にすぎず︑確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたい﹂と論じて いる︒. 立法の要因となるべき事実は︑過去又は現在とその評価に関わるものであるから︑その認定と評価は立法裁量の働. くものではなく︑これを誤れば法律はその前提を欠くから︑違憲となる︒従って︑裁判所は︑立法の要因となるべき 事実の在否について立法裁量論を適用する余地はない︒. ②立法目的. 国会は︑立法の要因となるべき事実の認定と立法政策の選択に応じて︑個別具体的な法律の立法目的を設定するが︑. 立法目的は︑合理的であると共に︑当該法律案が位置づけられる法体系とも整合していなければならない︒. ところで︑立法目的は︑消極的な警察目的と積極的な経済・社会政策を実現する目的に類型化することが可能で ︵8︶. ︵9︶. あり︑消極目的が︑人権をやむを得ず制約し︑人権の無制限の行使により発生する社会的弊害を除去するために設定 ︵10︶. されるのに対して︑積極目的は︑人権相互間の調整を図りつつ︑その結果を政治的︑経済的︑社会的状況に適合させ︑ 憲法の要請である国民全体の福祉を増進するために設定される︒. そこで︑消極目的にかかる法律は︑憲法が人権の最大限の尊重を要求していることに鑑み︑一般に︑立法目的が単. に合理的であるのみならず︑立法の要因となるべき事実に照らして強度の必要性が存在することを要するから︑裁判. 所の立法裁量論の適用範囲は狭少になる︒これに対し︑積極目的にかかる法律は︑一般に︑立法目的が合理的である ︵11︶. ことで足り︑このような法律について︑裁判所には比較的広範な立法裁量論の適用が許されるべきであり︑逆に︑国 会には合理的な立法裁量の行使が期待されている︒.

(23) ︵12︶. 但し︑現代においては︑消極目的と積極目的という類型は︑立法目的の傾向を示す認識モデルであり︑本質的なも. のではない︒即ち︑国会が消極目的又は積極目的を設定する際に行使すべき立法裁量の相違は︑具体的な法律を念頭. に置けば相対的であり︑程度の差に過ぎない︒従って︑立法目的と立法裁量論の適用の範囲についての問題は︑法律. が個別・具体的な立法目的に応じて如何なる手段又は方法を用いているかにかかっている︒. ③法律に関連する人権 立法事実論の中で最も重要な要素が︑当該法律に関連する人権である︒ ︵i︶人権享有主体の性質. まず︑人権享有主体の性質が問題になるのは︑現代においては︑人権享有主体問の実質的地位に非常に大きな格差. が生じているからである︒この格差は︑特に︑個人と巨大企業の間において著しいものがある︒. 自由放任主義に基づいた国家観が支配的であった時代では︑人権享有主体は同等であると措定して︑入格を捨象し︑. これを抽象的に把握すれば足りるとしても問題はなかったが︑巨大企業の出現とそれによる個人の人権に対する侵害. ︵13︶. が顕著な社会問題となっている現代では︑人権享有主体の実質的な地位を考慮しなければ︑もはや︑個人の尊厳を実 ︵14︶. 現することは極めて困難である︒そこで︑﹁法人の人権﹂を否定しようとする見解もあるが︑たとえこの見解が行き. 過ぎたとしても︑裁判所は︑立法事実の評価に際し︑個人の人権を法人の権利・利益に優越するものとして比較衡量. を行わなければならない︒即ち︑法人の権利・利益を保護・助成する法律については︑裁判所の立法裁量論の適用範. ︵15︶. 囲は狭少であり︑それによる個人の人権の制約が︑最小限かつ個人の尊厳・生存を脅かすものでないことを必要と. 一五三. する︒なお︑この意味で︑人権の享有主体という要素は︑主として︑立法のメリットとデメリットのバランスに関わ る立法事実である︒ 立法裁量論に関する一考察︵木原︶.

(24) 早稲田法学 会 誌 第 四 十 二 巻 ︵ ﹃ 九 九 二 ︶. ︵き人権そのものの性質. ︵16︶. ︸五四. 次に︑人権の性質が問題となるのは︑各々の人権の価値序列が異なり︑また︑人権の性質に応じて国家対国民の. 関係が異なることで法律によって人権を実現する方法も相違し︑国家が立法に際して憲法に覇束される程度に差異が ︵η︶. 生じるためである︒従って︑裁判所の違憲審査基準も人権の性質に応じて異なる︒そこで︑立法裁量論を分析するた. めには︑国家対国民という観点からの人権の類型化が有益であり︑本稿では︑試論的に︑︵ア︶精神的自由権︑経済的. 自由権等︑国家からの干渉を受けないことにより実現される人権︵消極的権利︶︑︵イ︶生存権︑教育を受ける権利等︑. 国家の積極的な作為により具体的内容が実現される人権︵積極的権利︶︑︵ウ︶参政権等︑国家により国民が国家に能. 動的に働きかける枠組が設定される人権︵能動的権利︶︑︵エ︶幸福追求権︑平等権等︑︵ア︶から︵ウ︶の諸権利に関連. し又はそれを基礎づける権利︵包括的権利︶︑︵オ︶納税の義務等︑人権を確保し又は実現するために国民が国家から. 課される義務︵国民の義務︶に類型化して検討する︒但し︑︵エ︶包括的権利と︵オ︶国民の義務は︑他と並列に検討し ︵18︶. この権利は︑法律が不存在の状態で既に実現されており︑法律による制約を受けることによっ. 得ない特殊な性質を有すること︑また︑この類型化も相対的であることに注意しなければならない︒ ︵ア︶消極的権利. て︑保障される内容と程度が縮小する権利である︒従って︑裁判所は︑消極的権利を制約する法律については︑その. 内容が人権の制約を最小限に止めているかを審査することになり︑裁判所の立法裁量論の適用範囲は狭少であるべき ことになる︒. しかし︑消極的権利と言っても︑その実質的・具体的な価値内容は多様であり︑前述の二重の基準論も︑このよう ︵19︶. な多様性を意識して生まれた理論であった︒現代では︑二重の基準論は︑前述のように︑問題点が多く︑そのまま維. 持することはできないが︑少なくとも︑精神的自由権は個人の人格に直接に関わるため︑一般論としては︑経済的自.

(25) 由権に比べて価値序列が高い︒そこで︑裁判所は︑精神的自由権を制約する法律については︑当該制約が憲法上十分. な正当性を有することを審査し︑﹁明白かつ現在の危険﹂テスト等の厳格な審査基準を適用しなければならない︒こ. ︵20︶. れに対し︑経済的自由権を制約する法律について︑特に積極的目的で経済的自由権を制約する法律については︑当該 制約の客観的合理性を審査すれば足りることになる︒. 以上のことは︑例えば︑いわゆる﹁悪徳の栄え﹂事件最高裁判決における田中裁判官の反対意見では︑﹁憲法一二. 条の保障する言論出版その他一切の表現の自由や︑憲法二一二条の保障する学間の自由は︑憲法の保障する他の多くの. 基本的人権とは異なり︑まさしく民主主義の基礎をなし︑これを成り立たしめている︑きわめて重要なものであって︑. 単に形式的に言葉のうえだけでなく︑実質的に保障されるべきものであり︑﹃公共の福祉﹄の要請という名目のもとに︑. 立法政策的な配慮によって︑自由にこれを制限するがごときことは許されないものであるという意味において︑絶対. 的な自由とも称し得べきものであり︑公共の福祉の要請に基づき法律によって制限されることの予想されている職業 ︵21︶. 選択の自由や居住移転の自由などとは︑その性質を異にするものと考えられる﹂と論じられている︒また︑猿払事件. 最高裁判決における大隈︑関根︑小川︑坂本裁判官の反対意見では︑﹁およそ国民の政治活動の自由は自由民主主義. 国家において︑統治権力及びその発動を正当づける最も重要な根拠をなすものとして︑国民の個人的人権の中で最も. 高い価値を有する基本的権利である︒﹂コ般的︑抽象的に公務員の個人的基本権としての政治活動の自由を行政の中. 立性の要請に従属させ︑その目的のために必要と認められるかぎり︑右政治活動の自由に対していかなる制限を課し. ても憲法上是認されるとの結論を導き出すことはできない︒⁝⁝以上に述べたことは︑ひとり国会の専権に属する立. 一五五. これは︑法律が具体的内容を定めることにより実現される権利であるから︑国会には︑合理的. 法政策上の問題であるにとどまらず︑また︑憲法の要求するところでもある﹂と論じられている︒ ︵イ︶積極的権利. 立法裁量論に関する一考察︵木原︶.

(26) ︵22︶. 早稲田法学会誌第四十二巻︵一九九二︶. 一五六. 内容をもった立法をなすべき義務がある︒しかし︑何を︑どの様に︑どの程度実現するかについては︑憲法の規定が. 抽象的・多義的であり︑立法のメリットに関わる立法事実によって決まる間題であるから︑法律の具体的内容それ自. 体は︑一般論としては︑国会の判断又は意思決定に委ねられており︑裁判所は法律の内容の合理性を審査するに止ま ︵23︶. り︑裁判所が立法裁量論を広範に適用するのもやむを得ないことになる︒. 例えば︑堀木訴訟最高裁判決においても︑﹁憲法二五条の規定は︑国権の作用に対し︑一定の目的を設定しその実. 現のための積極的な発動を期待するという性質のものである︒しかも︑右規定にいう﹃健康で文化的な最低限度の生. 活﹄なるものは︑きわめて抽象的・相対的な概念であって︑その具体的内容は︑その時々における文化の発達の程度︑. 経済的・社会的条件︑一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに︑右. 規定を現実の立法として具体化するに当たっては︑国の財政事情を無視することができず︑また︑多方面にわたる複. 雑多様な︑しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである︒したがって︑憲法. 二五条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は︑立法府の広い裁量にゆだねら. れており︑それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き︑裁判所が審査 判断するのに適しない事柄である﹂と論じられている︒. しかし︑積極的権利であっても︑その内容が既に法律で具体化されている場合には︑国民が当該法律の範囲で︑具. 体的権利を享受しているのであり︑右で述べた一般論はそのまま妥当しない︒この場合には︑当該法律を改正若しく. は廃止し又は他の法律によりこの権利を制約するにあたり︑そのデメリットに関わる立法事実の考慮も必要であり︑. 4︶. 裁判所は︑その厳格な合理性を審査しなければならないから︑その立法裁量論の適用範囲は狭少になる︒この意味で︑ ︵2 堀木訴訟最高裁判決が︑一般論をそのまま適用して︑広範な立法裁量論を適用したことは極めて不当である︒.

(27) ︵ウ︶能動的権利. これは︑法律により国民が権利を行使する枠組が設定される権利であるから︑国会には︑国民. がこの権利を行使する場合における合理的な枠組を設定すべき義務がある︒そして︑これは︑民主主義の実現の根幹. をなす権利であり︑現代では立法裁量そのものを有効に機能させるのは民主主義に他ならないから︑立法裁量若しく. は立法政策の名の下に︑この権利が実質的に歪められ又は適切に行使されないことになれば︑立法裁量の基盤自体が. ゆらぐことになる︒更に︑この権利の内容もある程度客観的に明確に定めることができるから︑裁判所は︑当該法律 が厳格な合理性を有するかを審査し︑立法裁量論を広範に適用すべきではない︒. 例えば︑衆議院議員の選挙区割と定数配分に関する考慮事項については︑最高裁は︑﹁各選挙区の選挙人数又は人. 口数と⁝⁝配分議員定数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準とされるべきことは当然であるとしても︑⁝:. 都道府県は︑それが従来わが国の政治及び行政の実際において果たしてきた役割や︑国民生活及び国民感情の上にお. けるその比重にかんがみ︑選挙区割の基礎をなすものとして無視することのできない要素であり︑また︑これらの都. 道府県を更に細分するにあたっては︑従来の選挙の実績や︑選挙区としてのまとまり具合︑市町村その他の行政区画︑. 面積の大小︑人口密度︑住民構成︑交通事情︑地理的状況等諸般の要素を考慮し︑配分されるべき議員数との関連を. 勘案しつつ︑具体的な決定がされるものと考えられる︒更にまた︑社会の急激な変化や︑その一つのあらわれとして ︵25︶. の人口の都市集中化の現象などが生じた場合︑これをどのように評価し︑⁝⁝政治における安定の要請をも考慮しな. がら︑これを選挙区割や議員定数配分にどのように反映させるか﹂を挙げ︑参議院議員のそれらについて︑﹁衆議院. 議員とはその選出方法を異ならせることによってその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする. 意図の下に︑⁝⁝参議院議員を全国選出議員と地方選出議員とに分かち︑前者については︑全国を一選挙区として選. 一五七. 挙させ特別の職能的知識経験を有する者の選出を容易にすることによって︑事実上ある程度職能代表的な色彩が反映 立法裁量論に関する一考察︵木原︶.

参照

関連したドキュメント

約二〇年前︑私はオランダのハーグで開かれた国際刑法会議に裁判所の代表として出席したあと︑約八○日間︑皆

 処分の違法を主張したとしても、処分の効力あるいは法効果を争うことに

について最高裁として初めての判断を示した。事案の特殊性から射程範囲は狭い、と考えられる。三「運行」に関する学説・判例

 条約292条を使って救済を得る場合に ITLOS

[r]

注)○のあるものを使用すること。

備考 1.「処方」欄には、薬名、分量、用法及び用量を記載すること。

計量法第 173 条では、定期検査の規定(計量法第 19 条)に違反した者は、 「50 万 円以下の罰金に処する」と定められています。また、法第 172